説明

光ディスク装置及びチルト調整の制御方法

【課題】温度上昇に伴うディスク反りの発生を抑え、これを要因とする記録再生性能の劣化を防止すること。
【解決手段】光ピックアップ3内のアクチュエータ14は、光ディスク1に対して対物レンズ13の傾斜角(チルト量)を調整する。コントローラ5は温度計8により光ディスク1近傍の温度変化を監視し、前回チルト調整を行った時の温度に対し温度変化量が所定値を超えた場合、再度チルト調整を行わせる。さらにコントローラ5は、チルト調整後のチルト量が許容範囲を超えた場合にはスピンドルモータ2の回転速度を下げて記録再生動作を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスクにレーザ光を照射して情報を記録再生する光ディスク装置及びチルト調整の制御方法に係り、特に光ディスクの反りに対して安定した記録再生性能を確保する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクに反り(傾き)が発生すると、ピックアップから照射した光ビームの光ディスクからの戻り光が減少し記録再生性能が劣化する。よって、ピックアップ内の対物レンズを光ディスクの傾きに合わせて傾ける調整(チルト調整)を行うことで記録再生性能の劣化を防止している。
【0003】
これに関連し例えば特許文献1には、光ビーム照射位置におけるチルト検出精度の向上と、起動時の熱衝撃を避ける技術が提案されている。これによれば、コマ収差補正と球面収差補正と組み合わせることでチルトマージンを確保することや、起動時にディスクと装置内部との温度差によって発生する熱衝撃チルトに対し、熱衝撃チルトが収まるまで待つ構成が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/009227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ディスクの反り発生段階として、ディスクの製造時に生じたもの、ディスクのチャッキング時に生じたもの、ディスク回転動作中(記録再生動作中)に生じたもの、などがある。前者2つについてはチルトの初期調整で対応可能であるが、後者の回転動作中については一度の調整で済むとは限らず、また記録再生動作を中断せねばならない。通常のチルトの検出では専用のチルトセンサではなく光ピックアップでの戻り光を利用し、トラッキングサーボをOFF状態とするからである。記録再生動作の中断はできるだけ避けたいので、従来は相当の時間間隔をおいてチルト調整を行うようにしており、きめ細かな調整は困難であった。
【0006】
一方光ディスク反り発生の要因として温度変化によるものがある。これはディスクを構成する材料の熱膨張係数の差に基づくもので、特にディスク表面にインク等により画像や文字を印刷可能なプリンタブルディスクでは反り量が大きくなる。この場合の温度変化は記録再生動作中の装置内部の温度変化による場合が多く、例えば回転速度増加に伴い装置内部が高温になりディスクの反りが大きくなってしまう。このような動作中の温度変化が原因の場合、従来の所定の時間間隔ごとのチルト調整ではきめ細かな調整は困難であり、最適チルト状態から逸脱して記録再生性能の劣化を招くことになる。
【0007】
なお、特許文献1では起動時の熱衝撃チルトを対象にしているだけで、記録再生動作中の温度変化については配慮されていない。
【0008】
本発明は、温度上昇に伴うディスク反りの発生を抑え、これを要因とする記録再生性能の劣化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による光ディスク装置は、光ディスクを回転させるスピンドルモータと、光ディスクにレーザ光を照射し、光ディスクからの戻り光を検出する光ピックアップと、光ディスクに対して光ピックアップ内の対物レンズの傾斜角(チルト量)を調整するチルト調整手段と、光ディスク装置内の光ディスク近傍の温度を測定する温度計と、光ディスクへの記録または再生動作の経過時間を計測するタイマーと、光ディスク装置全体の動作を制御するコントローラを備える。コントローラは温度計により光ディスク近傍の温度変化を監視し、チルト調整手段により前回チルト調整を行った時の温度に対し温度変化量が所定値を超えた場合、チルト調整手段に対し再度チルト調整を行わせる。またコントローラは、タイマーにより記録再生動作時間を計測し、記録再生動作時間が所定時間を経過する毎にチルト調整手段に対しチルト調整を行わせる。
【0010】
さらにコントローラは、チルト調整手段によりチルト調整を行ったとき、調整後のチルト量が許容範囲を超えた場合にはスピンドルモータの回転速度を下げて記録再生動作を行わせる。あるいは、スピンドルモータの回転速度を現在の速度を最高速度として速度制限し記録再生動作を行わせる。
【0011】
本発明によるチルト調整の制御方法は、光ディスクに情報を記録または再生する前に初期のチルト調整を行い、記録再生開始後には光ディスク近傍の温度変化を監視し、前回チルト調整を行った時の温度に対し温度変化量が所定値を超えた場合再度チルト調整を行うように制御する。
【0012】
そして、記録再生開始後にチルト調整を行ったとき、調整後のチルト量が許容範囲を超えた場合には光ディスクの回転速度を下げて記録再生動作を行わせる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度上昇に伴うディスク反りの発生を抑え、安定した記録再生性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による光ディスク装置の一実施例を示す構成図。
【図2】チルト補正量とトラッキングエラー信号振幅との関係を示す図。
【図3】周囲温度と最適チルト量の関係の測定例を示す図。
【図4】ディスク回転速度と装置内部の温度上昇の関係の測定例。
【図5】本発明によるチルト制御方法の一実施例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明による光ディスク装置の一実施例を示す構成図である。なお図1では、本発明に特に関連する要素のみを示している。
光ディスク装置は、光ディスク1を回転させるスピンドルモータ2と、光ディスク1にレーザ光を照射し、光ディスク1からの戻り光を検出する光ピックアップ3と、光ピックアップ3の検出信号を処理する信号処理回路4と、装置全体の動作を制御するマイコンを含むコントローラ5を備える。図示しないが、光ピックアップ3はステッピングモータによりディスク半径方向に駆動される。光ピックアップ3は、レーザ光を発生するレーザ光源11、レーザ光源11からの光ビームを光ディスク1方向に反射し、光ディスク1からの戻り光を透過するビームスプリッタ12、光ディスク1の記録面に光ビームを収束させて照射する対物レンズ13、対物レンズ13の傾斜角(チルト量θ)とトラッキングとフォーカスを調整するアクチュエータ14、ビームスプリッタ12を透過した戻り光を検出して電気信号に変換する光検出器15、レーザ光源11に発光用駆動電流を供給するレーザドライバ16を有する。
【0016】
コントローラ5からの制御により、モータ駆動回路6はスピンドルモータ2を所定の速度で回転させ、対物レンズ駆動回路7は光ピックアップ3内のアクチュエータ14に駆動電流を供給する。情報記録時にはコントローラ5はレーザドライバ16に対し記録信号を送り、情報再生時には信号処理回路4は光検出器15からの検出信号を受けて等化、増幅などの処理を行い再生信号(RF信号)を生成する。また信号処理回路4は記録時・再生時のサーボ制御のため、光検出器15からの検出信号を演算してトラッキングエラー信号(TE信号)やフォーカスエラー信号(FE信号)などのサーボ信号を生成する。コントローラ5はTE信号やFE信号をもとに、対物レンズ駆動回路7とアクチュエータ14を介してトラッキング制御とフォーカス制御を行うとともに、TE信号の振幅をもとにチルト調整を実行する。
【0017】
本実施例では、コントローラ5には温度計8とタイマー9が接続される。温度計8は装置内部の光ディスク1近傍の温度を測定し、タイマー9は光ディスク1への記録再生動作の経過時間を計測する。コントローラ5はそれらの測定結果に応じて、対物レンズ駆動回路7に対してチルト調整の実行を指示するとともにモータ駆動回路6に対してディスク回転速度の切り換えを指示する。
【0018】
次にチルト調整方法について説明する。本実施例では、信号処理回路4で生成されたトラッキングエラー信号(TE信号)の振幅を測定し、振幅が最大となるチルト補正量を最適チルト量として設定する。ここにトラッキングエラー信号は、例えば一般的に用いられる3ビームスポットを用いた差動プッシュプル(DPP)法により、トラックを挟んだ戻り光の左右のレベルの差から算出される。
【0019】
図2は、チルト補正量とトラッキングエラー信号振幅との関係を示す図である。横軸はディスク半径方向(ラジアル方向)のチルト補正量θ、縦軸はトラッキングエラー信号(TE信号)の振幅値である。
【0020】
トラッキングサーボをOFF状態にしてディスクを回転させると、光ピックアップ3はディスクの持つ偏心のために複数のトラックを周期的に横切ることになり、偏心量に応じてゼロクロスするTE信号が得られる。そしてディスクに対する対物レンズ13の半径方向の傾斜角を変化させると、ディスクからの戻り光の強度が変化して、TE信号の振幅は図2に示すように変化する。この現象を利用して、チルト補正量θを変化させながらTE信号振幅を測定し、振幅が最大となるチルト補正量を最適チルト量θoとして設定する。最適チルト量に設定することでTE信号の振幅が大きくなり、記録再生時のトラッキングサーボが安定する。なお、チルト調整方法はTE信号振幅を利用する方法に限定するものではなく、前記特許文献1に記載されるようにディスクの各半径位置におけるフォーカス駆動値からチルト量を検出する方法でも良い。
【0021】
光ディスクは周囲温度の上昇に伴い、ディスクの変形(反り量)が大きくなることが予想される。よって最適チルト量θoは周囲温度によって変化する。
【0022】
図3は、周囲温度と最適チルト量の関係の測定例を示す図である。横軸は光ディスク装置の周囲温度で、縦軸はディスク外周位置での最適チルト量である。ディスクはチルト量の変化が大きかったプリンタブルディスクの例で、2台の装置を用いて回転速度2倍速で測定した。この結果から、周囲温度が高温になると最適チルト量が大きくなることが明らかである。そして最適チルト量が変化する要因は、温度上昇によるディスクの反り量の増加にあると推測される。
【0023】
図4は、ディスク回転速度と装置内部の温度上昇の関係の測定例を示す図である。ここでは、DVD−RDLディスク(2層ディスク)に2倍速(2x)と6倍速(6x)の回転速度でデータを記録した時の、装置内部の各部品単体の温度上昇(装置外の周囲温度との温度差)を測定したものである。これより、装置を高倍速で動作させると、スピンドルモータやその駆動回路基板からの発熱量が増加し装置内部が高温化することが分かる。実際の上昇値はディスク回転に伴う空気流の影響も受けるが、回転速度を下げることでディスク自身の温度上昇を抑え、ディスクの変形(反り量)が小さくなることが期待される。
【0024】
本実施例では、上記図3、図4に示した現象に基づきチルト調整の制御を行う。すなわち、記録再生動作中の装置内温度を監視し、所定値以上の温度上昇が検出されたらチルト調整を実施する。これにより、温度上昇に伴うディスク変形に応じたチルト調整を的確に行うことができる。また、調整後のチルト量が許容範囲を超えているときはディスクの反り量が過大であると判断し、ディスク回転速度を下げて記録再生動作を行う。これにより、温度上昇を抑えてディスク反り量を低減させ、チルト調整を許容範囲内で行わせることができる。
【0025】
図5は、本発明によるチルト制御方法の一実施例を示すフローチャートである。以下のフローはコントローラ5の制御により行われる。
【0026】
S101では、装着された光ディスクを回転起動させ、従来通りにチルト調整の初期調整を行う。S102では、光ディスクを指示された記録または再生の速度(倍速)で回転させ、トラッキングサーボをON状態として情報の記録/再生動作を開始する。
【0027】
S103では、タイマー9にて記録/再生動作の経過時間tの計測を開始する。なお、この経過時間tはその後のチルト調整を実行したときにリセットする。S104では、温度計8にて装置内の温度を測定し、記録/再生動作開始時の温度を基準温度T1とする。なお、この基準温度T1はその後のチルト調整を実行したときの温度で更新する。
【0028】
S105では、タイマー9の経過時間tが所定値t0以上となったかどうか判定する。所定値t0は任意に設定でき、あるいは代わりに記録/再生の処理データ量を当てることでもよい。経過時間tが所定値t0未満のときは次のS106へ進み、所定値t0以上のときはS108へ進む。
【0029】
S106では、温度計8にて現在の装置内温度Tを測定する。S107では、測定した温度Tと前回測定した基準温度T1の差を求め、変化量ΔT(=T−T1)が所定値ΔT0を超えているかどうか判定する。この所定値ΔT0は、ディスクの温度変化特性からチルト調整が必要とされる変化量で、例えば5℃とする。判定の結果、変化量ΔTが所定値ΔT0以下のときはS116へ進み、変化量ΔTが所定値ΔT0を超えているときは次のS108へ進む。
【0030】
S108では、チルト調整のため記録再生動作を中断させ、ディスク回転はそのままでトラッキングサーボをOFF状態とする。S109では、最適チルト調整を行う。チルト調整の方法は、図2に示したようにチルト補正量θを変化させながらトラッキングエラー信号(TE信号)の振幅を測定し、振幅が最大となる状態(最適チルト量θo)に設定する。
【0031】
S110では、設定した最適チルト量θoは許容範囲θmax内かどうか判定する。許容範囲θmaxは記録再生動作の動作マージンから決定されるもので、例えば±1degとする。最適チルト量θoが許容範囲θmaxを超えなければS113へ進み、最適チルト量θoが許容範囲θmaxを超えていれば次のS111へ進む。
【0032】
S111では、現在のディスク回転速度Vが当該ディスクの最低倍速Vminであるかどうか判定する。最低倍速Vminでなければ、S112にてモータ駆動回路6に制御信号を送りスピンドルモータ2の回転速度を一段低い倍速に下げる。あるいは、現在の速度Vを最高倍速Vmaxと設定し、これで速度制限することでも良い。現在の速度Vが最低倍速Vminであれば、現在速度Vを継続してS113へ進む。
【0033】
S113では、タイマー9の経過時間tをリセットする(t=0)。S114では、温度計8にて装置内の温度を測定し、測定した温度で基準温度T1を更新する。
【0034】
S115では、トラッキングサーボをON状態として記録再生動作を再開する。S116では、記録/再生動作を終了したかどうか判定し、終了していなければS105へ戻り上記した処理を繰り返す。
【0035】
本実施例のフローによれば、最適チルトの調整を行うタイミングは記録再生動作開始後の所定時間t0間隔だけでなく、装置内温度が前回のチルト調整時と比較し所定値ΔT0を超えて変化したときに実行することができ、温度変化にも対応したきめ細かなチルト調整が可能になる。また、調整後のチルト補正量が許容範囲を超えているときは、回転速度を低い倍速に下げること、または現在の速度を最高倍速として速度制限することで、装置内の温度上昇とそれに伴うディスクの変形を抑えることができる。これより、光ディスク装置の安定した記録再生性能を確保することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…光ディスク、
2…スピンドルモータ、
3…光ピックアップ、
4…信号処理回路、
5…コントローラ、
6…モータ駆動回路、
7…対物レンズ駆動回路、
8…温度計、
9…タイマー、
11…レーザ光源、
13…対物レンズ、
14…アクチュエータ、
15…光検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクに対して情報を記録または再生する光ディスク装置において、
前記光ディスクを回転させるスピンドルモータと、
前記光ディスクにレーザ光を照射し、該光ディスクからの戻り光を検出する光ピックアップと、
前記光ディスクに対して前記光ピックアップ内の対物レンズの傾斜角(以下、チルト量)を調整するチルト調整手段と、
当該光ディスク装置内の前記光ディスク近傍の温度を測定する温度計と、
前記光ディスクへの記録または再生動作の経過時間を計測するタイマーと、
当該光ディスク装置全体の動作を制御するコントローラを備え、
該コントローラは前記温度計により前記光ディスク近傍の温度変化を監視し、前記チルト調整手段により前回チルト調整を行った時の温度に対し温度変化量が所定値を超えた場合、前記チルト調整手段に対し再度チルト調整を行わせることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ディスク装置において、
前記コントローラは前記タイマーにより記録再生動作時間を計測し、該記録再生動作時間が所定時間を経過する毎に前記チルト調整手段に対しチルト調整を行わせることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光ディスク装置において、
前記コントローラは前記チルト調整手段によりチルト調整を行ったとき、調整後のチルト量が許容範囲を超えた場合には前記スピンドルモータの回転速度を下げて記録再生動作を行わせることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光ディスク装置において、
前記コントローラは前記チルト調整手段によりチルト調整を行ったとき、調整後のチルト量が許容範囲を超えた場合には前記スピンドルモータの回転速度を現在の速度を最高速度として速度制限し記録再生動作を行わせることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項5】
光ディスクに対し光ピックアップ内の対物レンズのチルト量を調整するチルト調整の制御方法において、
前記光ディスクに情報を記録または再生する前に初期のチルト調整を行い、
記録再生開始後には前記光ディスク近傍の温度変化を監視し、前回チルト調整を行った時の温度に対し温度変化量が所定値を超えた場合再度チルト調整を行うことを特徴とするチルト調整の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載のチルト調整の制御方法において、
前記記録再生開始後にチルト調整を行ったとき、調整後のチルト量が許容範囲を超えた場合には前記光ディスクの回転速度を下げて記録再生動作を行わせることを特徴とするチルト調整の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−89196(P2012−89196A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234602(P2010−234602)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【Fターム(参考)】