光デバイス
【課題】光の挿入損失について改善された光デバイスを提供する。
【解決手段】基板と、基板に形成された光を導波するための光導波路と、光導波路の両側に基板の一部が掘り下げられて形成された所定深さの凹部が形成されてリッジ部を成す光デバイスにおいて、凹部の所定深さが、当該凹部の端に向かって徐々に浅くなって形成され、光が当該凹部の端の方向に導波するにしたがって導波する光のスポットサイズが徐々に大きくなる。これにより、リッジ部と当該リッジ部と連続して形成されるプレーナ部との境界部における光の結合損失を低減する。
【解決手段】基板と、基板に形成された光を導波するための光導波路と、光導波路の両側に基板の一部が掘り下げられて形成された所定深さの凹部が形成されてリッジ部を成す光デバイスにおいて、凹部の所定深さが、当該凹部の端に向かって徐々に浅くなって形成され、光が当該凹部の端の方向に導波するにしたがって導波する光のスポットサイズが徐々に大きくなる。これにより、リッジ部と当該リッジ部と連続して形成されるプレーナ部との境界部における光の結合損失を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製作性が良くかつ挿入損失が小さな光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むために求められている高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器を光デバイスの例として説明する。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
特許文献1に開示された、z−カットLN基板を用いて構成した、いわゆるリッジ型LN光変調器を第1の従来技術の光デバイスとして図10にその概略斜視図を示す。ここで、図11は図10の概略上面図であり、図12は図11のA−A´線とB−B´線における概略断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1上に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。したがって、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路3a、3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に導電層5を介して進行波電極4が形成されている。導電層5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するための導電層であり、通常はSi導電層を用いる。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4は貴金属材料であるAuにより形成されている。中心導体4aは各種の値をとるが、多くの場合7μm程度であり、また、中心導体4aと接地導体4b、4cの間のギャップも各種の値をとるが、15μm程度であることが多い。なお、説明を簡単にするために、図10では図示した温度ドリフト抑圧のためのSi導電層5を図11や図12においては省略している。また、以下においてもSi導電層5は省略して議論する。6は高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の給電線であり、高周波コネクタやマイクロ波線路である。7は高周波電気信号の出力線路であり、通常電気的終端が使われるが、高周波コネクタやマイクロ波線路でも良い。
【0008】
また、図11のIとして示された領域では、中心導体4aと接地導体4b、4cとを伝搬する高周波電気信号と2本の相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが相互作用するので、高周波電気信号用相互作用部と呼ばれる。
【0009】
この第1の従来技術では、z−カットLN基板1をエッチングなどで掘り込むことにより、凹部9a、9b、及び9c(あるいは、リッジ部8a、8bとも言える)を形成している。ここで、12はリッジ部(ここでは8a)の側壁である。
【0010】
このリッジ構造を採ることにより、高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の実効屈折率(あるいは、マイクロ波実効屈折率)、特性インピーダンス、変調帯域、駆動電圧などにおいて優れた特性を実現することができる。なお、図12では凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)Hを強調して描いているが、実際には数μm程度の深さであり、中心導体4aや接地導体4b、4cの厚み数十μmに比較するとその値は小さい。なお、凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)Hは各部においてほぼ一定の値を有している。
【0011】
次に、この第1の従来技術からなるLN光変調器の動作について説明する。このLN光変調器を動作させるには、中心導体4aと接地導体4b、4c間にDCバイアス電圧と高周波電気信号とを印加する必要がある。
【0012】
図13に示す電圧−光出力特性はLN光変調器の電圧−光出力特性であり、Vbはその際のDCバイアス電圧である。この図13に示すように、通常、DCバイアス電圧Vbは光出力特性の山と底の中点に設定される。この第1の従来技術では高周波電気信号と光とが相互作用する相互作用部IにDCバイアス電圧も印加するので、高周波電気信号の出力部に設ける不図示の電気的終端にコンデンサーを具備させることによりバイアスTの機能を持たせる必要がある。
【0013】
図14は図11において中心導体4aや接地導体4b、4c、SiO2バッファ層2、及び導電層5を省略した図である。図14のA−A´線、B−B´線における断面の、光導波路3bの近傍における断面図を、それぞれ図15(a)、(b)に示す。図15(a)のように相互作用部Iではリッジ部8aの頂部13の幅がW1であり、光導波路(ここでは3b)のエッジとリッジ部の側壁12との距離が有限の値のUとなっている。またB−B´線断面である図15(b)はリッジ構造を有しないプレーナ構造となっている。
【0014】
図16(a)、(b)は、図15(a)、(b)に光導波路3bを伝搬する光の電界分布14、15を追記したものである。図16(a)からわかるように光導波路3bを伝搬する光14にはリッジ部の側壁12の影響があり、水平方向により強く閉じこめられる。そのため、そのモードフィールド径(スポットサイズの2倍)WRxはプレーナ構造である図16(b)の光導波路3bを伝搬する光15のモードフィールド径WPxよりも小さい。その結果、図14に示すリッジ構造とプレーナ構造との境界部Cにおいて、スポットサイズの違いに起因する挿入損失の増加が生じる。そしてこのCのような接続の境界部は光の伝搬方向に数箇所存在するので、挿入損失の増加は数dBにも上ることがある。
【0015】
(第2の従来技術)
図17は第2の従来技術の光デバイスとしての光変調器であり、この構造は高周波電気信号が相互作用光導波路3a、3bと相互作用する高周波電気信号用相互作用部IIIと、DCバイアス電圧が相互作用光導波路3a、3bに印加されるDCバイアス用相互作用部IVを具備しており、バイアス分離型構造と呼ばれる。この構造は第1の従来技術において必要であったバイアスTを無くすために、高周波電気信号用相互作用部IIIには不図示の電気的終端を抵抗のみ備える構成とし、DCバイアスを新たに設けたDCバイアス用相互作用部IVに印加する構造となっている。その一例が特許文献2に開示されている。
【0016】
図17のD−D´線とE−E´線における断面図を各々図18(a)と(b)に示す。ここで、前述のように4aは中心導体、4bと4cは接地導体である。9a、9b、及び9cはDCバイアス用相互作用部の凹部であり、リッジ部8a、8bを形成している。11aと11bはDCバイアス電極である。また、前述のように12は高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用相互作用部Iにおけるリッジ部8aの側壁である。
【0017】
図19は図17において中心導体4aや接地導体4b、4c、SiO2バッファ層2、及び導電層5を省略した図である。図19におけるD−D´線、E−E´線における断面構造は、図15(a)、(b)に示した第1の従来技術のA−A´線断面、B−B´線断面と同じになっている。また、図19に示すリッジ構造とプレーナ構造の境界部Fにおいて、スポットサイズの違いに起因する挿入損失の増加が生じることも、第1の従来技術と同じである。
【0018】
(第3の従来技術)
以上において説明した第1の従来技術と第2の従来技術の問題点を解決する構成として、特許文献3に開示された第3の従来技術の光デバイスとしての接続型光導波路構造体を示す。この第3の従来技術の斜視図と上面図を各々図20と図21に示す。この光導波路構造は、第1、2、3の光導波路111、112、113で構成されている。101は第1の光導波路である埋め込み光導波路111のコアで102はそのクラッド、104はInP基板、105は第2の光導波路112のコア、103はコア101、105の上下に設けたクラッド、106は第2の光導波路112の左右に設けた低屈折率媒質材料からなるクラッドであり、ここでは空気としている。
【0019】
図21において120は第1の光導波路である埋め込み光導波路111を伝搬する光であり、そのスポットサイズは例えば4μmと比較的大きい。一方、122は第2の光導波路112を伝搬する光であり、第2の光導波路112はハイメサ光導波路構造を有し、そのスポットサイズはハイメサ構造の幅により規定されるので、例えば0.75μm、あるいは1μmと小さい。
【0020】
そのため、第1の光導波路111と第2の光導波路を直接接合(Buttjoint)したのでは光の結合損失が大きくなってしまう。そこでこの第3の従来技術では、スポット変換を行う構成としている。107は第3の光導波路113に設けた左右のクラッドであり、クラッド107の幅を変化させることにより第1の光導波路のスポットサイズを第2の光導波路のスポットサイズに整合させるスポット変換光導波路の役割をしている。第3の光導波路を伝搬する光のモードフィールド径が変化する様子が伝搬する光121からわかる。
【0021】
この第3の従来技術は、リッジ部における横方向のクラッドの幅を光の伝搬方向について異ならしめる構造となっている。これにより、第1および第2の従来技術で問題となっていた光の挿入損失を低減することができる。しかし、本構造はリッジ部を広く形成する必要があるので、例えば光導波路のY分岐の合波点(あるいは分岐点)の内側近傍など面積的に狭い領域や、DQPSKやDP−QPSKのように近接して形成されたアレー状の光導波路にリッジ部を形成する場合には、面積的に充分な横方向のクラッド(リッジ部の頂部)を確保することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【特許文献2】特開2008−122786号公報
【特許文献3】特許第3877973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従来技術ではリッジ部とプレーナ部を有する光デバイスにおいて、リッジ部がほぼ一定の断面構造を有しており、リッジ部の光導波路を伝搬する光とプレーナ部の光導波路を伝搬する光のモードフィールド径が大きく異なっていたので、リッジ部とプレーナ部の境界部において光の結合損失が生じていた。
【0024】
また、リッジ部における横方向のクラッドの幅を光の伝搬方向について異ならしめる構造においては、光の挿入損失は低減できるものの、例えば光導波路のY分岐の合波点(あるいは分岐点)の内側近傍など面積的に狭い領域や、特に単電極構成のDQPSKやDP−QPSKのように近接して形成されたアレー状の光導波路にリッジ部を形成する場合には面積的に充分な横方向のクラッド(リッジ部の頂部)を確保することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光デバイスは、基板と、前記基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記光導波路の両側に前記基板の一部が掘り下げられて形成された所定深さの凹部が形成されてリッジ部を成す光デバイスにおいて、前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端に向かって徐々に浅くなって形成され、前記光が当該凹部の端の方向に導波するにしたがって当該導波する光のスポットサイズが徐々に大きくなることを特徴としている。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の光デバイスは、請求項1に記載の光デバイスにおいて、前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端において零であることを特徴としている。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の光デバイスは、請求項1に記載の光デバイスにおいて、前記凹部の端は、前記基板の端に達するとともに、所定深さを有して形成されることを特徴としている。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の光デバイスは、請求項1または2に記載の光デバイスにおいて、前記光導波路がマッハツェンダ光導波路であり、Y分岐導波路の分岐点または合波点に向かって前記凹部が前記徐々に浅くなって形成されていることを特徴としている。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の請求項5に記載の光デバイスは、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る光デバイスではリッジ部の凹部の深さ(あるいはリッジ部の高さ)をリッジ部では深く(リッジ部の高さを高く)、プレーナ部に近づくにつれて浅く(リッジ部の高さを低く)することにより、リッジ部における横方向の小さなスポットサイズを徐々に大きくすることができるので、リッジ部とプレーナ部の境界部における光の結合損失を大幅に低減することが可能となる。本発明ではリッジ部の頂部の幅を広くする必要がなく、単にリッジ部の凹部の深さ(あるいはリッジ部の高さ)を位置的に異ならしめるだけで良いので、Y分岐部(合波部)の付け根やアレー状光導波路のような面積的に狭い領域においても適用可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係わる光デバイスの概略構成を示す上面図
【図2】(a)図1のJ−J´線における断面図、(b)図1のK−K´線における断面図
【図3】本発明の実施形態の製造工程を説明する図
【図4】本発明の実施形態の製造工程を説明する図
【図5】本発明の原理を説明する図
【図6】本発明の原理を説明する図
【図7】本発明の原理を説明する図
【図8】本発明の実施形態に係る光デバイスの変形例
【図9】本発明の実施形態に係る光デバイスの別の実施形態
【図10】第1の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す斜視図
【図11】第1の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す上面図
【図12】(a)図11のA−A´における断面図、(b)図11のB−B´における断面図
【図13】光変調器の動作原理を説明する図
【図14】第1の従来技術の光デバイスの光導波路についての概略構成を示す上面図
【図15】(a)第1の従来技術の光デバイスのリッジ構造部についての断面図の拡大図、(b)第1の従来技術の光デバイスのプレーナ構造部についての断面図の拡大図
【図16】(a)第1の従来技術の光デバイスのリッジ部構造についての断面図の拡大図と光導波路を伝搬する光の界分布、(b)第1の従来技術の光デバイスのプレーナ構造部についての断面図の拡大図と光導波路を伝搬する光の界分布
【図17】第2の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す上面図
【図18】(a)図17のD−D´における断面図、(b)図17のE−E´における断面図
【図19】第2の従来技術の光デバイスの光導波路についての概略構成を示す上面図
【図20】第3の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す斜視図
【図21】第3の従来技術の光デバイスの光導波路についての概略構成を示す上面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図10から図21に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0033】
(実施形態)
図1に本発明の実施形態の光デバイスとしての光変調器の概略上面図を示す。なお、本発明の目的は光結合に起因する挿入損失の増加を抑えることであり、以下においては中心導体4aや接地導体4b、4c、SiO2バッファ層2、及び導電層5を省略して議論する。また、図2(a)、(b)は図1のJ−J´線、K−K´線における断面図である。
【0034】
本実施形態は、第1及び第2の従来の技術と同様の凹部を備えたリッジ構造の光デバイス50である。所定深さの凹部9a〜9cに加え、さらにY分岐の合波点(分岐点)に向かってその深さが徐々に浅くなる凹部9a´〜9c´を備えている。ここで、凹部9a´〜9c´の領域をスポット変換領域Vと、スポット変換領域Vの端から基板端までの領域をプレーナ領域VIと定義する。
【0035】
ここで、G1、G2、G3、G1´、G2´、G3´はリッジ部のギャップであり、H1、H2、H3、H1´、H2´、H3´は凹部の深さ(リッジ部の高さ)である。なお、図2(a)、(b)各々においては、3箇所のリッジ部のギャップGと凹部の深さHを等しく図示しているが、もちろん互いに異なっていても良い。
【0036】
本発明の重要な点は、図2(a)と(b)において凹部の深さH1〜H3とH1´〜H3´とが互いに異なっている点(リッジ部8a、8bの高さとリッジ部8a´、8b´の高さが互いに異なっている点)である。つまり、図1のJ−J´線に対応する図2(a)では凹部の深さが深いが、K−K´線に対応する図2(b)では凹部の深さが浅くなり、プレーナ型に近い構造となっている。
【0037】
次に、本発明の製造方法と動作原理について図3〜7に基づいて説明する。図3(a)と(b)は各々図2(a)と(b)(つまり、各々図1内のJ−J´線とK−K´線での断面図)に対応した断面である。
【0038】
LN基板1上に、リッジ部を形成するためのドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dを形成する。ドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dは、所定位置に向かって隣り合うマスク間におけるギャップを徐々に狭めて形成する。J−J´線断面におけるマスクギャップGM1、GM2、GM3に対し、K−K´線断面におけるマスクギャップGM1´、GM2´、GM3´が狭くなっている。この実施形態においては、Y分岐部の合波点3c(分岐点3d)近傍でマスクギャップは零もしくは充分小さくなるようにしている。この状態の基板にドライエッチングを行う。
【0039】
ドライエッチングではイオンビームが完全に垂直にはドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dとLN基板1に当たるわけではないので、エッチングの結果形成されるリッジ部の側壁(例えば12)は傾斜する。図5に示すように(図5では例としてリッジ部8aについてのみ図示している)、リッジ部8aの角度は90度ではなくその傾きθ(通常、60〜75度)を持つ。したがって、マスクギャップが狭ければ凹部の深さは浅く、マスクギャップが広ければ凹部の深さは深くなる。図6にマスクギャップGMと凹部の深さH(H´)との関係を示す。
【0040】
エッチング後の態様は図4(a)、(b)のようになる。図4(b)に示すようにギャップGM´(ここで、GM1´、GM2´、GM3´は互いに等しいとし、GM´とした)が狭いと、凹部の深さH´(ここで、H1´、H2´、H3´は互いに等しいとし、H´とした)は浅くなる。一方、図4(a)に示すようにギャップGMが広いと、凹部の深さHは深くなる。
【0041】
この図4(a)、(b)の態様からドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dを除去すると、図2(a)、(b)に示す凹部の深さが互いに異なるリッジ部を持つ光デバイスとすることができる。なお、マスクギャップGM1〜GM3、GM1´〜GM3´とリッジ部のギャップG1〜G3、G1´〜G3´とは、各々略等しくなる場合が多い。
【0042】
そして、図7に凹部の深さとモードフィールド径との関係図を示す。凹部の深さHが浅い(マスクギャップGMが狭い)とスポットサイズは大きくなり、凹部の深さHが零(マスクギャップGMが零)の場合には光導波路(3a、3b)を伝搬する光のスポットサイズはプレーナの値と同じとなる。一方、凹部の深さHが深い(マスクギャップGMが広い)場合には、光導波路を伝搬する光の横方向のスポットサイズはリッジ部の側壁により閉じ込められるので、小さくなる。
【0043】
つまり、本発明は(図2(a)に示すような)所定深さを持ったリッジ構造部からプレーナ領域VIへ導波する光を結合損失が少なく伝搬できるよう、凹部の端近傍においてその深さが徐々に浅くなるスポット変換領域Vを設けたものである。
【0044】
このように、本発明では従来技術のようにリッジ部の頂部の幅を広くする必要がなく、単にリッジ部の凹部の深さ(リッジ部の高さ)を場所によって異ならしめるだけで良いので、光導波路のY分岐部(合波部)の分岐点3c(合波点3d)やアレー状光導波路のような面積的に狭い領域においても適用可能であるという利点がある。
【0045】
なお、スポット変換領域Vは上記で説明した位置に限定されることはなく、例えば図8の光デバイス51に示すように入出力光導波路の一部にまで適用してもよい。
【0046】
(各実施形態)
本発明は面積的に狭い領域でもリッジ構造部とプレーナ構造部との間の効率的な光のスポットサイズ変換を可能とする特徴がある。本発明の思想は、リッジ構造部とプレーナ構造部との境界において、凹部の深さが徐々に浅くなるスポット変換領域を有するものである。したがって、例えば全ての光導波路がリッジ構造であっても、一部の凹部の深さが浅く、当該浅い領域のスポットサイズが完全なリッジ構造部のスポットサイズよりも大きい場合には、本発明の思想に属することになる。
【0047】
また、本発明はマッハツェンダ光導波路型の光デバイスのみでなく、1本の光導波路の光デバイスにも適用可能であることはいうまでもない。図9は本発明を適用した光デバイス60の上面図である。光デバイス60は、光導波路3が形成された基板1´上に所定深さの凹部9d、9eを備え、上記実施形態同様、9dと9eに延びて徐々に浅くなった凹部9d´と9e´からなるスポット変換領域Vを備えている。
【0048】
また、本発明はバイアス分離型の光変調器にも適用可能である。また本発明は電極構造に依存せず、CPW構造や非対称コプレーナストリップ(ACPS)構造、あるいは対称コプレーナストリップ(CPS)構造など、各種の電極構造について成り立つことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1、1´:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
3c、3d:Y分岐の合波点、分岐点
4:進行波電極
4a:中心導体
4b、4c:接地導体
5:Si導電層
6:高周波電気信号給電線
7:高周波電気信号出力線
8a、8b:高周波電気信号用相互作用部Iにおけるリッジ部
8a´、8b´:スポット変換領域Vにおけるリッジ部
9a、9b、9c:高周波電気信号用相互作用部Iにおける凹部
9d、9e:凹部
9a´、9b´、9c´、9d´、9e´:スポット変換領域Vにおける凹部
11a、11b:DCバイアス電極
12:リッジ部の側壁
13:リッジ部の頂部
14、15:光の電界分布
20a、20b、20c、20d:ドライエッチングマスク
50、51、60:光デバイス
101:第1の光導波路のコア
102:第1の光導波路のクラッド
103:上下のクラッッド
104:InP基板
105:第2の光導波路のコア
106:第2の光導波路の左右のクラッド
107:第3の光導波路の左右のクラッド
111:第1の光導波路
112:第2の光導波路
113:第3の光導波路
120、121、122:光の界分布
I、III:高周波電気信号用相互作用部
IV:DCバイアス用相互作用部
V:スポット変換領域
VI:プレーナ領域
C、F:リッジ構造部とプレーナ構造部との境界部
G1、G2、G3:リッジ部のギャップ
G1´、G2´、G3´:スポット変換領域Vのリッジ部のギャップ
GM1、GM2、GM3:マスクギャップ
GM1´、GM2´、GM3´:スポット変換領域Vのマスクギャップ
H1、H2、H3:リッジ構造部の凹部の深さ(リッジ部の高さ)
H1´、H2´、H3´:スポット変換領域Vの凹部の深さ(リッジ部の高さ)
U:相互作用光導波路とリッジ部側壁との距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、製作性が良くかつ挿入損失が小さな光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むために求められている高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器を光デバイスの例として説明する。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
特許文献1に開示された、z−カットLN基板を用いて構成した、いわゆるリッジ型LN光変調器を第1の従来技術の光デバイスとして図10にその概略斜視図を示す。ここで、図11は図10の概略上面図であり、図12は図11のA−A´線とB−B´線における概略断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1上に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。したがって、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路3a、3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に導電層5を介して進行波電極4が形成されている。導電層5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するための導電層であり、通常はSi導電層を用いる。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4は貴金属材料であるAuにより形成されている。中心導体4aは各種の値をとるが、多くの場合7μm程度であり、また、中心導体4aと接地導体4b、4cの間のギャップも各種の値をとるが、15μm程度であることが多い。なお、説明を簡単にするために、図10では図示した温度ドリフト抑圧のためのSi導電層5を図11や図12においては省略している。また、以下においてもSi導電層5は省略して議論する。6は高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の給電線であり、高周波コネクタやマイクロ波線路である。7は高周波電気信号の出力線路であり、通常電気的終端が使われるが、高周波コネクタやマイクロ波線路でも良い。
【0008】
また、図11のIとして示された領域では、中心導体4aと接地導体4b、4cとを伝搬する高周波電気信号と2本の相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが相互作用するので、高周波電気信号用相互作用部と呼ばれる。
【0009】
この第1の従来技術では、z−カットLN基板1をエッチングなどで掘り込むことにより、凹部9a、9b、及び9c(あるいは、リッジ部8a、8bとも言える)を形成している。ここで、12はリッジ部(ここでは8a)の側壁である。
【0010】
このリッジ構造を採ることにより、高周波電気信号(あるいは、マイクロ波)の実効屈折率(あるいは、マイクロ波実効屈折率)、特性インピーダンス、変調帯域、駆動電圧などにおいて優れた特性を実現することができる。なお、図12では凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)Hを強調して描いているが、実際には数μm程度の深さであり、中心導体4aや接地導体4b、4cの厚み数十μmに比較するとその値は小さい。なお、凹部9a、9b、及び9cの深さ(あるいはリッジ部8a、8bの高さ)Hは各部においてほぼ一定の値を有している。
【0011】
次に、この第1の従来技術からなるLN光変調器の動作について説明する。このLN光変調器を動作させるには、中心導体4aと接地導体4b、4c間にDCバイアス電圧と高周波電気信号とを印加する必要がある。
【0012】
図13に示す電圧−光出力特性はLN光変調器の電圧−光出力特性であり、Vbはその際のDCバイアス電圧である。この図13に示すように、通常、DCバイアス電圧Vbは光出力特性の山と底の中点に設定される。この第1の従来技術では高周波電気信号と光とが相互作用する相互作用部IにDCバイアス電圧も印加するので、高周波電気信号の出力部に設ける不図示の電気的終端にコンデンサーを具備させることによりバイアスTの機能を持たせる必要がある。
【0013】
図14は図11において中心導体4aや接地導体4b、4c、SiO2バッファ層2、及び導電層5を省略した図である。図14のA−A´線、B−B´線における断面の、光導波路3bの近傍における断面図を、それぞれ図15(a)、(b)に示す。図15(a)のように相互作用部Iではリッジ部8aの頂部13の幅がW1であり、光導波路(ここでは3b)のエッジとリッジ部の側壁12との距離が有限の値のUとなっている。またB−B´線断面である図15(b)はリッジ構造を有しないプレーナ構造となっている。
【0014】
図16(a)、(b)は、図15(a)、(b)に光導波路3bを伝搬する光の電界分布14、15を追記したものである。図16(a)からわかるように光導波路3bを伝搬する光14にはリッジ部の側壁12の影響があり、水平方向により強く閉じこめられる。そのため、そのモードフィールド径(スポットサイズの2倍)WRxはプレーナ構造である図16(b)の光導波路3bを伝搬する光15のモードフィールド径WPxよりも小さい。その結果、図14に示すリッジ構造とプレーナ構造との境界部Cにおいて、スポットサイズの違いに起因する挿入損失の増加が生じる。そしてこのCのような接続の境界部は光の伝搬方向に数箇所存在するので、挿入損失の増加は数dBにも上ることがある。
【0015】
(第2の従来技術)
図17は第2の従来技術の光デバイスとしての光変調器であり、この構造は高周波電気信号が相互作用光導波路3a、3bと相互作用する高周波電気信号用相互作用部IIIと、DCバイアス電圧が相互作用光導波路3a、3bに印加されるDCバイアス用相互作用部IVを具備しており、バイアス分離型構造と呼ばれる。この構造は第1の従来技術において必要であったバイアスTを無くすために、高周波電気信号用相互作用部IIIには不図示の電気的終端を抵抗のみ備える構成とし、DCバイアスを新たに設けたDCバイアス用相互作用部IVに印加する構造となっている。その一例が特許文献2に開示されている。
【0016】
図17のD−D´線とE−E´線における断面図を各々図18(a)と(b)に示す。ここで、前述のように4aは中心導体、4bと4cは接地導体である。9a、9b、及び9cはDCバイアス用相互作用部の凹部であり、リッジ部8a、8bを形成している。11aと11bはDCバイアス電極である。また、前述のように12は高周波電気信号が伝搬する高周波電気信号用相互作用部Iにおけるリッジ部8aの側壁である。
【0017】
図19は図17において中心導体4aや接地導体4b、4c、SiO2バッファ層2、及び導電層5を省略した図である。図19におけるD−D´線、E−E´線における断面構造は、図15(a)、(b)に示した第1の従来技術のA−A´線断面、B−B´線断面と同じになっている。また、図19に示すリッジ構造とプレーナ構造の境界部Fにおいて、スポットサイズの違いに起因する挿入損失の増加が生じることも、第1の従来技術と同じである。
【0018】
(第3の従来技術)
以上において説明した第1の従来技術と第2の従来技術の問題点を解決する構成として、特許文献3に開示された第3の従来技術の光デバイスとしての接続型光導波路構造体を示す。この第3の従来技術の斜視図と上面図を各々図20と図21に示す。この光導波路構造は、第1、2、3の光導波路111、112、113で構成されている。101は第1の光導波路である埋め込み光導波路111のコアで102はそのクラッド、104はInP基板、105は第2の光導波路112のコア、103はコア101、105の上下に設けたクラッド、106は第2の光導波路112の左右に設けた低屈折率媒質材料からなるクラッドであり、ここでは空気としている。
【0019】
図21において120は第1の光導波路である埋め込み光導波路111を伝搬する光であり、そのスポットサイズは例えば4μmと比較的大きい。一方、122は第2の光導波路112を伝搬する光であり、第2の光導波路112はハイメサ光導波路構造を有し、そのスポットサイズはハイメサ構造の幅により規定されるので、例えば0.75μm、あるいは1μmと小さい。
【0020】
そのため、第1の光導波路111と第2の光導波路を直接接合(Buttjoint)したのでは光の結合損失が大きくなってしまう。そこでこの第3の従来技術では、スポット変換を行う構成としている。107は第3の光導波路113に設けた左右のクラッドであり、クラッド107の幅を変化させることにより第1の光導波路のスポットサイズを第2の光導波路のスポットサイズに整合させるスポット変換光導波路の役割をしている。第3の光導波路を伝搬する光のモードフィールド径が変化する様子が伝搬する光121からわかる。
【0021】
この第3の従来技術は、リッジ部における横方向のクラッドの幅を光の伝搬方向について異ならしめる構造となっている。これにより、第1および第2の従来技術で問題となっていた光の挿入損失を低減することができる。しかし、本構造はリッジ部を広く形成する必要があるので、例えば光導波路のY分岐の合波点(あるいは分岐点)の内側近傍など面積的に狭い領域や、DQPSKやDP−QPSKのように近接して形成されたアレー状の光導波路にリッジ部を形成する場合には、面積的に充分な横方向のクラッド(リッジ部の頂部)を確保することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【特許文献2】特開2008−122786号公報
【特許文献3】特許第3877973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従来技術ではリッジ部とプレーナ部を有する光デバイスにおいて、リッジ部がほぼ一定の断面構造を有しており、リッジ部の光導波路を伝搬する光とプレーナ部の光導波路を伝搬する光のモードフィールド径が大きく異なっていたので、リッジ部とプレーナ部の境界部において光の結合損失が生じていた。
【0024】
また、リッジ部における横方向のクラッドの幅を光の伝搬方向について異ならしめる構造においては、光の挿入損失は低減できるものの、例えば光導波路のY分岐の合波点(あるいは分岐点)の内側近傍など面積的に狭い領域や、特に単電極構成のDQPSKやDP−QPSKのように近接して形成されたアレー状の光導波路にリッジ部を形成する場合には面積的に充分な横方向のクラッド(リッジ部の頂部)を確保することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の光デバイスは、基板と、前記基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記光導波路の両側に前記基板の一部が掘り下げられて形成された所定深さの凹部が形成されてリッジ部を成す光デバイスにおいて、前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端に向かって徐々に浅くなって形成され、前記光が当該凹部の端の方向に導波するにしたがって当該導波する光のスポットサイズが徐々に大きくなることを特徴としている。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の光デバイスは、請求項1に記載の光デバイスにおいて、前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端において零であることを特徴としている。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の光デバイスは、請求項1に記載の光デバイスにおいて、前記凹部の端は、前記基板の端に達するとともに、所定深さを有して形成されることを特徴としている。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の光デバイスは、請求項1または2に記載の光デバイスにおいて、前記光導波路がマッハツェンダ光導波路であり、Y分岐導波路の分岐点または合波点に向かって前記凹部が前記徐々に浅くなって形成されていることを特徴としている。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の請求項5に記載の光デバイスは、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光デバイスにおいて、前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る光デバイスではリッジ部の凹部の深さ(あるいはリッジ部の高さ)をリッジ部では深く(リッジ部の高さを高く)、プレーナ部に近づくにつれて浅く(リッジ部の高さを低く)することにより、リッジ部における横方向の小さなスポットサイズを徐々に大きくすることができるので、リッジ部とプレーナ部の境界部における光の結合損失を大幅に低減することが可能となる。本発明ではリッジ部の頂部の幅を広くする必要がなく、単にリッジ部の凹部の深さ(あるいはリッジ部の高さ)を位置的に異ならしめるだけで良いので、Y分岐部(合波部)の付け根やアレー状光導波路のような面積的に狭い領域においても適用可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係わる光デバイスの概略構成を示す上面図
【図2】(a)図1のJ−J´線における断面図、(b)図1のK−K´線における断面図
【図3】本発明の実施形態の製造工程を説明する図
【図4】本発明の実施形態の製造工程を説明する図
【図5】本発明の原理を説明する図
【図6】本発明の原理を説明する図
【図7】本発明の原理を説明する図
【図8】本発明の実施形態に係る光デバイスの変形例
【図9】本発明の実施形態に係る光デバイスの別の実施形態
【図10】第1の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す斜視図
【図11】第1の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す上面図
【図12】(a)図11のA−A´における断面図、(b)図11のB−B´における断面図
【図13】光変調器の動作原理を説明する図
【図14】第1の従来技術の光デバイスの光導波路についての概略構成を示す上面図
【図15】(a)第1の従来技術の光デバイスのリッジ構造部についての断面図の拡大図、(b)第1の従来技術の光デバイスのプレーナ構造部についての断面図の拡大図
【図16】(a)第1の従来技術の光デバイスのリッジ部構造についての断面図の拡大図と光導波路を伝搬する光の界分布、(b)第1の従来技術の光デバイスのプレーナ構造部についての断面図の拡大図と光導波路を伝搬する光の界分布
【図17】第2の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す上面図
【図18】(a)図17のD−D´における断面図、(b)図17のE−E´における断面図
【図19】第2の従来技術の光デバイスの光導波路についての概略構成を示す上面図
【図20】第3の従来技術の光デバイスについての概略構成を示す斜視図
【図21】第3の従来技術の光デバイスの光導波路についての概略構成を示す上面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図10から図21に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0033】
(実施形態)
図1に本発明の実施形態の光デバイスとしての光変調器の概略上面図を示す。なお、本発明の目的は光結合に起因する挿入損失の増加を抑えることであり、以下においては中心導体4aや接地導体4b、4c、SiO2バッファ層2、及び導電層5を省略して議論する。また、図2(a)、(b)は図1のJ−J´線、K−K´線における断面図である。
【0034】
本実施形態は、第1及び第2の従来の技術と同様の凹部を備えたリッジ構造の光デバイス50である。所定深さの凹部9a〜9cに加え、さらにY分岐の合波点(分岐点)に向かってその深さが徐々に浅くなる凹部9a´〜9c´を備えている。ここで、凹部9a´〜9c´の領域をスポット変換領域Vと、スポット変換領域Vの端から基板端までの領域をプレーナ領域VIと定義する。
【0035】
ここで、G1、G2、G3、G1´、G2´、G3´はリッジ部のギャップであり、H1、H2、H3、H1´、H2´、H3´は凹部の深さ(リッジ部の高さ)である。なお、図2(a)、(b)各々においては、3箇所のリッジ部のギャップGと凹部の深さHを等しく図示しているが、もちろん互いに異なっていても良い。
【0036】
本発明の重要な点は、図2(a)と(b)において凹部の深さH1〜H3とH1´〜H3´とが互いに異なっている点(リッジ部8a、8bの高さとリッジ部8a´、8b´の高さが互いに異なっている点)である。つまり、図1のJ−J´線に対応する図2(a)では凹部の深さが深いが、K−K´線に対応する図2(b)では凹部の深さが浅くなり、プレーナ型に近い構造となっている。
【0037】
次に、本発明の製造方法と動作原理について図3〜7に基づいて説明する。図3(a)と(b)は各々図2(a)と(b)(つまり、各々図1内のJ−J´線とK−K´線での断面図)に対応した断面である。
【0038】
LN基板1上に、リッジ部を形成するためのドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dを形成する。ドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dは、所定位置に向かって隣り合うマスク間におけるギャップを徐々に狭めて形成する。J−J´線断面におけるマスクギャップGM1、GM2、GM3に対し、K−K´線断面におけるマスクギャップGM1´、GM2´、GM3´が狭くなっている。この実施形態においては、Y分岐部の合波点3c(分岐点3d)近傍でマスクギャップは零もしくは充分小さくなるようにしている。この状態の基板にドライエッチングを行う。
【0039】
ドライエッチングではイオンビームが完全に垂直にはドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dとLN基板1に当たるわけではないので、エッチングの結果形成されるリッジ部の側壁(例えば12)は傾斜する。図5に示すように(図5では例としてリッジ部8aについてのみ図示している)、リッジ部8aの角度は90度ではなくその傾きθ(通常、60〜75度)を持つ。したがって、マスクギャップが狭ければ凹部の深さは浅く、マスクギャップが広ければ凹部の深さは深くなる。図6にマスクギャップGMと凹部の深さH(H´)との関係を示す。
【0040】
エッチング後の態様は図4(a)、(b)のようになる。図4(b)に示すようにギャップGM´(ここで、GM1´、GM2´、GM3´は互いに等しいとし、GM´とした)が狭いと、凹部の深さH´(ここで、H1´、H2´、H3´は互いに等しいとし、H´とした)は浅くなる。一方、図4(a)に示すようにギャップGMが広いと、凹部の深さHは深くなる。
【0041】
この図4(a)、(b)の態様からドライエッチングマスク20a、20b、20c、20dを除去すると、図2(a)、(b)に示す凹部の深さが互いに異なるリッジ部を持つ光デバイスとすることができる。なお、マスクギャップGM1〜GM3、GM1´〜GM3´とリッジ部のギャップG1〜G3、G1´〜G3´とは、各々略等しくなる場合が多い。
【0042】
そして、図7に凹部の深さとモードフィールド径との関係図を示す。凹部の深さHが浅い(マスクギャップGMが狭い)とスポットサイズは大きくなり、凹部の深さHが零(マスクギャップGMが零)の場合には光導波路(3a、3b)を伝搬する光のスポットサイズはプレーナの値と同じとなる。一方、凹部の深さHが深い(マスクギャップGMが広い)場合には、光導波路を伝搬する光の横方向のスポットサイズはリッジ部の側壁により閉じ込められるので、小さくなる。
【0043】
つまり、本発明は(図2(a)に示すような)所定深さを持ったリッジ構造部からプレーナ領域VIへ導波する光を結合損失が少なく伝搬できるよう、凹部の端近傍においてその深さが徐々に浅くなるスポット変換領域Vを設けたものである。
【0044】
このように、本発明では従来技術のようにリッジ部の頂部の幅を広くする必要がなく、単にリッジ部の凹部の深さ(リッジ部の高さ)を場所によって異ならしめるだけで良いので、光導波路のY分岐部(合波部)の分岐点3c(合波点3d)やアレー状光導波路のような面積的に狭い領域においても適用可能であるという利点がある。
【0045】
なお、スポット変換領域Vは上記で説明した位置に限定されることはなく、例えば図8の光デバイス51に示すように入出力光導波路の一部にまで適用してもよい。
【0046】
(各実施形態)
本発明は面積的に狭い領域でもリッジ構造部とプレーナ構造部との間の効率的な光のスポットサイズ変換を可能とする特徴がある。本発明の思想は、リッジ構造部とプレーナ構造部との境界において、凹部の深さが徐々に浅くなるスポット変換領域を有するものである。したがって、例えば全ての光導波路がリッジ構造であっても、一部の凹部の深さが浅く、当該浅い領域のスポットサイズが完全なリッジ構造部のスポットサイズよりも大きい場合には、本発明の思想に属することになる。
【0047】
また、本発明はマッハツェンダ光導波路型の光デバイスのみでなく、1本の光導波路の光デバイスにも適用可能であることはいうまでもない。図9は本発明を適用した光デバイス60の上面図である。光デバイス60は、光導波路3が形成された基板1´上に所定深さの凹部9d、9eを備え、上記実施形態同様、9dと9eに延びて徐々に浅くなった凹部9d´と9e´からなるスポット変換領域Vを備えている。
【0048】
また、本発明はバイアス分離型の光変調器にも適用可能である。また本発明は電極構造に依存せず、CPW構造や非対称コプレーナストリップ(ACPS)構造、あるいは対称コプレーナストリップ(CPS)構造など、各種の電極構造について成り立つことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1、1´:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
3c、3d:Y分岐の合波点、分岐点
4:進行波電極
4a:中心導体
4b、4c:接地導体
5:Si導電層
6:高周波電気信号給電線
7:高周波電気信号出力線
8a、8b:高周波電気信号用相互作用部Iにおけるリッジ部
8a´、8b´:スポット変換領域Vにおけるリッジ部
9a、9b、9c:高周波電気信号用相互作用部Iにおける凹部
9d、9e:凹部
9a´、9b´、9c´、9d´、9e´:スポット変換領域Vにおける凹部
11a、11b:DCバイアス電極
12:リッジ部の側壁
13:リッジ部の頂部
14、15:光の電界分布
20a、20b、20c、20d:ドライエッチングマスク
50、51、60:光デバイス
101:第1の光導波路のコア
102:第1の光導波路のクラッド
103:上下のクラッッド
104:InP基板
105:第2の光導波路のコア
106:第2の光導波路の左右のクラッド
107:第3の光導波路の左右のクラッド
111:第1の光導波路
112:第2の光導波路
113:第3の光導波路
120、121、122:光の界分布
I、III:高周波電気信号用相互作用部
IV:DCバイアス用相互作用部
V:スポット変換領域
VI:プレーナ領域
C、F:リッジ構造部とプレーナ構造部との境界部
G1、G2、G3:リッジ部のギャップ
G1´、G2´、G3´:スポット変換領域Vのリッジ部のギャップ
GM1、GM2、GM3:マスクギャップ
GM1´、GM2´、GM3´:スポット変換領域Vのマスクギャップ
H1、H2、H3:リッジ構造部の凹部の深さ(リッジ部の高さ)
H1´、H2´、H3´:スポット変換領域Vの凹部の深さ(リッジ部の高さ)
U:相互作用光導波路とリッジ部側壁との距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記光導波路の両側に前記基板の一部が掘り下げられて形成された所定深さの凹部が形成されてリッジ部を成す光デバイスにおいて、
前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端に向かって徐々に浅くなって形成され、前記光が当該凹部の端の方向に導波するにしたがって当該導波する光のスポットサイズが徐々に大きくなることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端において零であることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記凹部の端は、前記基板の端に達するとともに、所定深さを有して形成されることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記光導波路がマッハツェンダ光導波路であり、Y分岐導波路の分岐点または合波点に向かって前記凹部が前記徐々に浅くなって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光変調器。
【請求項1】
基板と、前記基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記光導波路の両側に前記基板の一部が掘り下げられて形成された所定深さの凹部が形成されてリッジ部を成す光デバイスにおいて、
前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端に向かって徐々に浅くなって形成され、前記光が当該凹部の端の方向に導波するにしたがって当該導波する光のスポットサイズが徐々に大きくなることを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記凹部の前記所定深さが、当該凹部の端において零であることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記凹部の端は、前記基板の端に達するとともに、所定深さを有して形成されることを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記光導波路がマッハツェンダ光導波路であり、Y分岐導波路の分岐点または合波点に向かって前記凹部が前記徐々に浅くなって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光変調器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−145696(P2012−145696A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3059(P2011−3059)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
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