説明

光ピックアップ

【課題】温度変化時の波長変化によりトラッキングエラーを生成する3ビームの位置ズレが発生していた。
【解決手段】光源の半導体レーザーと、記録媒体に集光する対物レンズと、光軸の方向を垂直に変換する立上ミラーと、前記半導体レーザーと前記立上ミラーの間に配置する折り曲げミラーと、前記折り曲げミラーを固定する固定部材と、前記折り曲げミラーを前記固定部に固定するための折り曲げミラー用接着剤を備え、前記折り曲げミラー用接着剤は水平方向に厚みが異なるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体にレーザー光などの光ビームを照射して情報記録媒体の信号面の記録再生を行う光学式ディスク記録再生装置に用いる光ピックアップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
青色レーザーと称される短波長の光ビームで記録及び/または再生(以下、録再と称す)する光ディスク(以下、BDと称す)、大凡0.6mmの基板を貼り合わせた光ディスク(以下、DVDと称す)、及びコンパクトディスク等と称される光ディスク(以下、CDと称す)など厚みが異なった基材の光ディスクは、オーディオ/ビデオ機器、パーソナルコンピュータのストレージメディア、ナビゲーションや音楽再生等の車載と用途が拡大している。このため、市場により必要とされる使用環境も年々厳しくなり、使用環境の多様性により温度変化に対する性能劣化の問題がしばしば発生している。
【0003】
このような光ディスクを録再する光ピックアップに使用される各種構成部品は、使用環境温度が変化すると、半導体レーザーの波長変化、接着剤の膨張・収縮、接着剤により固定された光学部品の歪みやずれが発生するため、使用温度範囲内での光軸や収差変化を抑制する設計と、温度変化を考慮した常温での光軸・収差を高精度に調整したものづくりが求められている。
【0004】
この高精度に光軸を補正するための一手段は特許文献1で提案されている。すなわち特許文献1では、立上ミラーと半導体レーザーとの間に折り返しミラーを設け、この折り返しミラーを保持するホルダを取付板に対して回転調整可能とし、この機構によって振れ角度の調整を行うと共に、取付板のたわみ変形を利用して光軸のアオリ調整を行うことにより、対物レンズへ入射する光が光ディスクの信号面に対して垂直になるよう高精度に調整できる構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−004814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の光ピックアップは、光軸を調整する機構を有しているため、高精度に光軸を調整後接着固定することができるが、温度変化時の特性変化を抑制する機構に関しては記載されていない。例えば、波長の長いCD用半導体レーザーは温度変化10℃に対し約3nm波長が変化し、回折格子にて回折されるサブビームのピッチが変化して記録媒体の信号面上でのサブビーム位置が変化するが、これを補正する機構を備えていないため、温度変化分だけCD再生時にサブビームによって生成されるトラッキングエラーが減少してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、使用環境において広範囲な温度変化があった場合であっても、信号劣化を軽減できる光ピックアップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光ピックアップは、光源の半導体レーザーと、記録媒体に集光する対物レンズと、光軸の方向を垂直に変換する立上ミラーと、前記半導体レーザーと前記立上ミラーとの間に配置する折り曲げミラーと、前記折り曲げミラーを固定する固定部材と、前記折り曲げミラーを前記固定部に固定するための折り曲げミラー用接着剤とを備え、前記折り曲げミラー用接着剤は当該折り曲げミラーの光反射方向に厚みが異なる構成としている。
【0009】
上記光ピックアップにおいて、前記折り曲げミラーは前記固定部材に水平方向の端部を当接させ、他端に厚みを持つ接着剤により固定されている構成が好ましい。
【0010】
上記光ピックアップにおいて、前記折り曲げミラーは前記固定部材に水平方向の端部を当接させ、他端に厚みを持つ接着剤により固定されている構成が好ましい。
【0011】
上記光ピックアップにおいて、前記半導体レーザーと前記折り曲げミラー間に記録媒体の接線方向に対し角度θだけ傾いて配置された記録媒体上のメインビームとの距離がBであるサブビームを生成する回折格子を備え、温度変化時の波長変化のよるサブビームの記録媒体半径方向への移動方向と前記折り曲げミラー用接着剤変化のよる光軸の変化する方向が同一とした構成が好ましい。
【0012】
上記光ピックアップにおいて、前記折り曲げミラーの当接される端部と接着剤塗布部の他端間距離をL、前記他端の接着厚みt、前記接着剤の熱膨張係数α、前記半導体レーザーの常温での波長λ、温度変化ΔTに対する波長変化Δλとすると、温度変化ΔTに対する3ビームの接線方向に対する角度変化Δλ/λ×θと前記折り曲げミラー用接着剤変化による光軸変化2×α×t×ΔT/Lが略略同じである構成が好ましい。
【0013】
本発明の光ピックアップは、光を照射する半導体レーザーと、前記半導体レーザーからの光をメインビームとサブビームに分割する回折格子と、前記回折格子を介したメインビームとサブビームを光ディスクに集光する対物レンズと、前記半導体レーザーから前記対物レンズに導かれる光の光路に設けられる光学部材と、前記光学部材が固定される固定部材と、前記光学部材を前記固定部材に接着して固定する接着剤と、を備え、前記光学部材と前記固定部材を間に設けられる前記接着剤の厚みが異なる。
【発明の効果】
【0014】
すなわち、本発明は、光学部材と固定部材の接着剤の厚みを異ならすことができるので、使用環境に広範囲な温度変化がある場合であっても、信号劣化を軽減できる。
【0015】
例えば、折り曲げミラーの水平方向に対する接着厚みを変化させているため、温度変化時に接着剤の膨張・収縮により折り曲げミラーの傾きを変化させることができ、半導体レーザーの波長変化により発生するサブビームの位置変化によるディスク記録面からの位相ずれを補正することができる。また、この波長変化によるサブビームの位置ズレによる位相ずれ分と折り曲げミラー角度変化によるサブビームの位相ずれ量を略略同じになるよう設定すると、波長変化による位相ずれをほぼ完全に補正することができる。このような補正機構を具備することにより、広い温度範囲に対してサブビームの変化を抑え、信号変化の極めて小さい、信頼性の高い高品位な光ピックアップを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例における光ピックアップの光学構成図
【図2】同実施例における記録媒体面上のメインビーム、サブビーム位置関係の説明図
【図3】同実施例における温度変化時のスポット位置を補正するための構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施の形態の光ピックアップについて、図1から図3を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、同実施の形態における光ピックアップの光学構成図を示したものである。図1において、1はCD用の例えば780nmの光源を有する半導体レーザー、2は半導体レーザー1から出射された光をトラッキングエラー用のサブビームを生成する回折格子、3は角度を持って入射された光を反射して光軸を変換する折り曲げミラーで、固定部材4に接着剤5により固定される。折り曲げミラー3で反射した光は立上ミラー6で垂直方向に立ち上がり、対物レンズ7に垂直に入射、記録媒体(本実施の形態ではCDディスク)8に集光される。
【0019】
記録媒体8の信号面にはメインビーム11と2個のサブビーム(先行サブビーム12aと後行サブビーム12b)とが結像される。光ピックアップの対物レンズ11は記録媒体面に対して垂直方向と半径方向との変位に追従できるように、2軸方向に可動できる構成となっており、このうち半径方向のディスク変位を検出するトラッキングエラー信号は、2個のサブビームより生成される信号の差分により算出される。記録媒体面でのメインビーム11とサブビーム12の位置関係に関しては図2を用いて説明する。
【0020】
図2は同実施の形態における記録媒体面上のメインビーム、サブビーム位置関係の説明図を示したものである。13a、13bはピッチPの間隔の記録媒体上のピット列であり、この線上に記録媒体の情報を含んだピット、スペースが交互に並んでいる。ピット列のうち13aは光ピックアップが読み取りをしているピット列であり、13bは隣接したピット列である。なお、ピット列13a,13bは円周に沿って連続した螺旋状になっているが、図では短い範囲であるため直線列で記載する。記録媒体の接線方向をTAN、半径方向をRADとする。
【0021】
次に再生ビームの位置関係について説明する。メインビーム11、サブビーム12bの距離をD1、ピット列13aとなす角度をθとすると、ピット列13aとサブビーム12bとの半径RAD方向の距離D2=D1×θは、ピット列のピッチPの1/4倍となるようにθを調整する。2個の半径方向のサブビーム間距離2×D2=1/2×Pとなり、極性が反転するため、トラッキングエラーの振幅が最大となる。
【0022】
次に温度変化時のビーム変化について説明する。回折格子2での回折角度は波長に比例するため、常温Tでの波長λの半導体レーザー1が温度ΔTだけ上昇した場合の波長変化をΔλ、メインビーム11、サブビーム12bの距離の変化ΔD1、ピット列13aとサブビーム12bの半径方向の距離の変化ΔD2とすると、ΔD1=Δλ/λ×D1、ΔD2=Δλ/λ×D2となり、温度変化ΔTにより2個の半径方向のサブビーム間距離が常温時の1/2×Pから2×ΔD2=2×Δλ/λ×D2=1/2×P×Δλ/λだけ調整位置よりずれることになる。これはピット列13aの接線方向に対し、角度θだけ傾いて配置されたサブビーム12b,12cがθ×Δλ/λだけ角度が変化したことと等価になる。
【0023】
次に温度変化ΔTによる波長変化Δλにより発生するサブビーム位置ずれを補正する手段について図3を用いて説明する。
【0024】
図3は第1の実施の形態における温度変化時のスポット位置を補正するための構成を示した平面図であり、図1の本発明の第1の実施の形態の光ピックアップの光学構成図の折り曲げミラー3の周囲を示したものである。図3において折り曲げミラー3の端部は固定部材4と当節部9が当節しており、折り曲げミラー3は固定部4にこの当節部9からLだけ離れた箇所の厚みがtになるよう厚みを変えた熱膨張率αの接着剤5により固定される。
【0025】
温度変化ΔT(プラス変化)に対して、折り曲げミラー3用接着剤の厚みtはt×α×ΔTだけ変化し、ミラー3はt×α×ΔT/Lだけ角度が変化する。この角度変化をβとし、ΔTだけ変化後の折り曲げミラーを3’とする。常温での半導体レーザー1からの光の折り曲げミラー3に入射する光軸をR1、反射光をR2とすると、温度変化ΔTに対し、折り曲げミラー3はβだけ傾くので、折り曲げミラー3からの反射光はR2から2×βだけ変化したR2’に変化する。
【0026】
図2において温度変化ΔTに対し光軸が2×β変化すると、記録媒体8のピット列との角度も同じだけ変化するため、ピット列13aに対する3ビーム角度も2×βだけ変化する。これは温度変化ΔTに対する波長変化Δλにより発生するサブビーム距離変化と等価になる角度変化θ×Δλ/λと変化の方向が逆となり、波長変化による3ビーム位置ずれを補正する方向に作用する。また、温度変化ΔTに対する波長による3ビーム位置角度ずれと接着剤の膨張による3ビームの角度変化が等しいΔλ/λ×θ=2×β=2×α×t×ΔT/Lの式の時、折り曲げミラー3の接着剤により半導体レーザー1の波長変化により発生するサブビーム角度ズレを補正することができる。
【0027】
図2、図3では温度変化ΔTがプラスの時について説明したが、ΔTがマイナスの時には図2の波長により3ビーム位置ズレ、図3の接着剤変化による角度ズレはそれぞれ説明したものとは逆の変化となるので、ΔTがマイナスでもプラスの時と同様に波長による位置ずれを折り曲げミラー用接着剤の収縮による光軸変化により補正することができる。
【0028】
このように温度変化時に半導体レーザーの波長変化により発生する3ビーム位置変化を折り曲げミラー用接着剤の厚み変化により補正することができ、温度変化に対し特性変化の小さい高品質な光ピックアップを提供することができる。
【0029】
なお、半導体レーザーは、通常、温度が高くなると、照射する光の波長が長くなる一方、温度が低くなると、照射する光の波長が短くなる特性を持つ。また、接着剤は、通常、温度が高くなると、膨張する一方、温度が低くなると、収縮する特性を持つ。そのため、これらの特性を用いることで、上記のように、波長の変化による光ディスクに集光するサブビームのズレを、接着剤の膨張・収縮による光路(半導体レーザー〜対物レンズ)の変化によってキャンセルできるようにしている。
【0030】
本発明は、上記実施の形態に限られず、様々な形態で実現可能である。以下、一例を説明する。
【0031】
なお、本実施例ではCD再生時の3ビーム方式について説明したが、その他のトラッキングエラー信号にサブビームを用いる方式にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明にかかる光ピックアップは情報記録媒体にレーザー光などの光ビームを照射して情報記録媒体の記録再生を行う光学式ディスク記録再生装置、もしくは光学式ディスク再生装置に用いる光ピックアップに適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 半導体レーザー
2 回折格子
3 折り曲げミラー
4 固定部材
5 接着剤
6 立上ミラー
7 対物レンズ
8 記録媒体
9 (折り曲げミラーの)当節部
11 メインビーム
12 サブビーム
13 ピット列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源の半導体レーザーと、記録媒体に集光する対物レンズと、光軸の方向を垂直に変換する立上ミラーと、前記半導体レーザーと前記立上ミラーの間に配置する折り曲げミラーと、前記折り曲げミラーを固定する固定部材と、前記折り曲げミラーを前記固定部に固定するための折り曲げミラー用接着剤を備え、前記折り曲げミラー用接着剤は水平方向に厚みが異なることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
前記折り曲げミラーは前記固定部材に水平方向の端部を当接させ、他端に厚みを持つ接着剤により固定されたことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記半導体レーザーと前記折り曲げミラー間に記録媒体の接線方向に対し角度θだけ傾いて配置された記録媒体上のメインビームとの距離がBであるサブビームを生成する回折格子を備え、温度変化時の波長変化のよるサブビームの記録媒体半径方向への移動方向と前記折り曲げミラー用接着剤変化のよる光軸の変化する方向が同一であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
前記折り曲げミラーの当接される端部と接着剤塗布部の他端間距離をL、前記他端の接着厚みt、前記接着剤の熱膨張係数α、前記半導体レーザーの常温での波長λ、温度変化Δtに対する波長変化Δλとすると、温度変化ΔTに対する3ビームの接線方向に対する角度変化Δλ/λ×θと前記折り曲げミラー用接着剤変化による光軸変化2×α×t×ΔT/Lが略略同じであることを特徴とする請求項3に記載の光ピックアップ。
【請求項5】
光を照射する半導体レーザーと、
前記半導体レーザーからの光をメインビームとサブビームに分割する回折格子と、
前記回折格子を介したメインビームとサブビームを光ディスクに集光する対物レンズと、
前記半導体レーザーから前記対物レンズに導かれる光の光路に設けられる光学部材と、
前記光学部材が固定される固定部材と、
前記光学部材を前記固定部材に接着して固定する接着剤と、
を備え、
前記光学部材と前記固定部材を間に設けられる前記接着剤の厚みが異なる、
光ピックアップ。
【請求項6】
前記固定部材に対する前記光学部材の配置を調整した場合において前記光ディスクに集光する前記サブビームが前記メインビームを中心にして回転するような方向で、前記接着剤の厚みが異なる、
請求項5に記載の光ピックアップ。
【請求項7】
前記固定部材に対する前記光学部材の配置を調整した場合に前記光ディスクに集光する前記サブビームが前記メインビームを中心にして前記対物レンズの接線方向に近づくように回転する方向に、前記接着剤の厚みが厚くなる、
請求項5に記載の光ピックアップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−113577(P2011−113577A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265961(P2009−265961)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】