説明

光ファイバケーブル

【課題】マルチコア光ファイバの複数のコア間におけるクロストークを低減させた光ファイバケーブル構造。
【解決手段】複数のコアとそれらに共通のクラッド領域とを備えたマルチコアファイバ100Aを内蔵する光ファイバケーブル300であって、マルチコアファイバ100Aを、複数のコア間のクロストークを低減させるために一定の曲率半径以下の曲げが付与された状態となるように、所定のピッチで撚り合わせて、押え巻き250により保持して、外被200で覆っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定軸に沿ってそれぞれ伸びた複数のコアを有するマルチコアファイバが内臓された光ファイバケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光伝送における大容量化を実現するため、複数のコアをクラッド領域により一体的に取り囲むよう構成されたマルチコアファイバが知られている。
【0003】
例えば非特許文献1に記載されたマルチコアファイバでは、コアの中心間間隔が30μmの場合、隣接するコア間の電力移行率は、クラッドに対するコアの比屈折率差Δ(以下、コアΔという)の隣接コア間での差をごく僅かに(例えば0.005%)変えれば、十分低くなるので、低いクロストークを実現できる。これにより、クラッド径が125μmであり、コアΔが異なる3種類のコアを有するマルチコアファイバが実現可能であるとしている。ただし、ファイバの曲げについての考慮はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Masanori KOSHIBA, et al., “Heterogeneous Multi-core fibers: proposaland design principle”, IEICEElectronics Express, Vol.6, No.2, pp98-103, 2009
【非特許文献2】藪哲郎「光導波路解析入門」、pp.58-63,森北出版、2007
【非特許文献3】森口繁一、他「岩波数学公式III」、p.154,岩波書店(1987)
【非特許文献4】森口繁一、他「岩波数学公式II」、p.72,岩波書店(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、従来のマルチコアファイバについて検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、上記非特許文献1では、上述のようにマルチコアファイバを曲げた状態が想定されていない。そのため、隣接コア間のコアΔの差が0.005%程度では、当該マルチコアファイバの曲げ状態次第で大きなクロストークが起こってしまう。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、内臓されるマルチコアファイバにおけるコア間クロストークを低く抑えるための構造を備えた光ファイバケーブルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明に係る光ファイバケーブルは、マルチコアファイバと、マルチコアファイバを所定の曲率半径以下に曲げた状態に維持する曲げ付与構造を備える。マルチコアファイバは、所定軸に沿ってそれぞれ伸びた複数のコアと、これら複数のコアを一体的に取り囲んだクラッド領域とを備える。
【0008】
具体的に曲げ付与構造は、マルチコアファイバにおけるコアnとコアmの中心間距離をDnm、当該光ファイバケーブルが敷設される際の中継再生器間の長さに相当するマルチコアファイバのファイバ長をL、第1波長における各コアの伝搬定数をβ、第1波長における隣接コア間の結合係数をκ、第1波長の光がファイバ長Lだけ伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値をXTとするとき、以下の式(1a)与えられる曲率半径Rthのうち最も小さな値の曲げをマルチコアファイバに付加する。又は、曲げ付与構造は、マルチコアファイバにおける隣接コア同士の中心間距離をΛ、当該光ファイバケーブルが敷設される際の中継再生器間の長さに相当するマルチコアファイバのファイバ長をL、第1波長における各コアの伝搬定数をβ、第1波長における隣接コア間の結合係数をκ、第1波長の光がファイバ長Lだけ伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値をXTとするとき、以下の式(1b)で与えられる曲率半径Rの曲げをマルチコアファイバに付加してもよい。
【数1】

【0009】
また、曲げ付与構造は、マルチコアファイバを当該光ファイバケーブルに螺旋状に内蔵することにより、該マルチコアファイバに一定の曲率半径以下の曲げを付与する。このような曲げ付与状態において、螺旋の半径をr、前記螺旋のピッチをL、前記マルチコアファイバにおける最も小さなrをrhminとするとき、以下の式(2a)が満たされるのが好ましい。又は、螺旋の半径をr、螺旋のピッチをL、マルチコアファイバにおける最も小さなrをrhminとするとき、以下の式(2b)が満たされるのが好ましい。
【数2】

【0010】
本発明に係る光ファイバケーブルにおいて、第1波長の光がファイバ長L=100km以上伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値XTは、0.001であるのが好ましい。なお、使用波長において最大値XTが0.001であればよいが、波長多重伝送を考慮すれば、第1波長(使用波長)として、少なくとも1565nm、1625nmを想定しておくのが好ましい。また、伝送距離についても、ファイバ長L=100kmには限られず、例えば1000km、10000kmでもよい。
【0011】
すなわち、波長1565nmの光がファイバ長L=1000km伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値XTは、0.001であるのが好ましい。また、波長1565nmの光がファイバ長L=10000km伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値XTは、0.001であるのが好ましい。波長1625nmの光がファイバ長L=100km伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値XTは、0.001であるのが好ましい。波長1625nmの光がファイバ長L=1000km伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値XTは、0.001であるのが好ましい。波長1625nmの光がファイバ長L=10000km伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値XTは、0.001であるのが好ましい。
【0012】
また、曲げ付与構造がマルチコアファイバを当該光ファイバケーブル中に螺旋状に内蔵することにより、該マルチコアファイバに一定の曲率半径以下の曲げを付与する状況において、螺旋の半径をr、螺旋のピッチをL、マルチコアファイバにおける最も大きなrをrhmax、スパン長をLspan(km)、また、第2波長におけるマルチコアファイバの各コアの伝送ロスの最大値をαkm(dB/km)、マルチコアファイバを当該光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値をα(dB/span)とするとき、以下の式(3)が満たされるのが好ましい。
【数3】

【0013】
なお、本明細書では送信器、受信器、又は光増幅器で挟まれたケーブルの1区間をスパンと呼び、その一区間の長さをスパン長Lspan(km)と定義する。また、上記第1波長と上記第2波長は必ずしも一致している必要はない。第1波長はコア間クロストークを規定するための基準波長を意味し、第2波長は伝送ロスを規定するための基準波長を意味するからである。
【0014】
また、本発明に係る光ファイバケーブルにおいて、マルチコアファイバを当該光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値αは、0.5dB/span以下であるのが好ましい。また、波長1550nmにおいて、マルチコアファイバを当該光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値αは、0.3dB/span以下であるのが好ましい。波長1550nmにおいて、マルチコアファイバを当該光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値αは、0.1dB/span以下であるのが好ましい。
【0015】
さらに、波長1550nmにおいて、マルチコアファイバの各コアの伝送ロスの最大値をαkmとスパン長Lspanの積(αkm・Lspan)の値は、15.2以下であるのが好ましく、より詳細には、積(αkm・Lspan)の値は、14.4以下、13.6以下、12.8以下、さらには12.0以下であってもよく、必要に応じて適宜設定されればよい。具体的には、上記式(3)は波長1550nmの条件下で以下の式(4)〜(8)ように規定される。
【0016】
すなわち、積(αkm・Lspan)の値が15.2以下の場合、当該光ファイバケーブルは、波長1550nmにおいて以下の式(4)を満たすことになる。
【数4】

【0017】
積(αkm・Lspan)の値が14.4以下の場合、当該光ファイバケーブルは、波長1550nmにおいて以下の式(5)を満たす。
【数5】

【0018】
積(αkm・Lspan)の値が13.6以下の場合、当該光ファイバケーブルは、波長1550nmにおいて以下の式(6)を満たす。
【数6】

【0019】
積(αkm・Lspan)の値が12.8以下の場合、当該光ファイバケーブルは、波長1550nmにおいて以下の式(7)を満たす。
【数7】

【0020】
積(αkm・Lspan)の値が12.0以下の場合、当該光ファイバケーブルは、波長1550nmにおいて以下の式(8)を満たす。
【数8】

【0021】
より具体的には、本発明に係る光ファイバケーブルにおいて、曲げ付与構造は、マルチコアファイバにおけるコアnとコアmの中心間距離(以下、コア間隔という)をDn,m、コアmの伝搬定数をβ、コアnからコアmへの結合係数をκnm、当該光ファイバケーブルが敷設される長さに相当する前記マルチコアファイバのファイバ長をLとしたとき、マルチコアファイバの複数のコアから選択される2つのコアの全組み合わせについて、ファイバ長Lを伝搬した後のクロストークが−30dB以下になる確率が99.99%になる曲率半径として、式(9)で与えられる曲率半径Rthのうち最も小さな値の曲げをマルチコアファイバに付加してもよい。
【数9】

【0022】
また、本発明に係る光ファイバケーブルにおいて、マルチコアファイバにおける複数のコアそれぞれは、所定軸に直交する断面上において、同一構造の屈折率プロファイルを有するのが好ましい。
【0023】
さらに、上記半径以下の曲げでも低い曲げ損失を実現するため、所定軸に直交する断面上において、マルチコアファイバにおけるコア間隔が40μm以上であり、クラッド領域に対する各コアの比屈折率差Δは0.37%以上であるのが好ましい。
【0024】
マルチコアファイバにおける複数のコアの各配置は、弾性的な捻回(光ファイバのガラス部分が固化した状態で光ファイバに付与された捻回)あるいは塑性的な捻回(光ファイバのガラス部分が軟化している状態で光ファイバに付与された捻回)により、マルチコアファイバに付与された曲げの曲げ径方向を基準としてその長手方向に沿って変化してもよい。この構成は、低クロストーク実現に有効な捻れを意図的に付与する構成を意味する。具体的な捻れ量としては、長手方向に沿って2π(rad/m)以上の捻れがマルチコアファイバに付与されればよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、複数のコアを有するマルチコアファイバに適切な曲率半径の曲げを付与した状態を、マルチコアファイバを覆う外被等により保持させる構造を有するので、当該光ファイバケーブルが敷設される中継器間、局間、あるいは端末−局間を信号光が伝搬した場合でも、コア間のクロストークを低く抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る光ファイバケーブルの一実施形態の構成を示す断面図及び斜視図である。
【図2】本実施形態に係る光ファイバケーブルに適用可能なマルチコアファイバの一構造例を示す斜視図である。
【図3】図2に示されたマルチコアファイバのI−I線に沿った断面構造を示す図及び各コア近傍の屈折率プロファイルである。
【図4】曲げに関するパラメータr、Rが変化したときの、実際の屈折率と等価屈折率との比屈折率差である等価比屈折率差Δeqを示す表である。
【図5】図4(b)に示された表におけるパラメータrと比屈折率差Δeqとの関係、及びパラメータ(1/R)と等価比屈折率差Δeqとの関係を示す図である。
【図6】曲げが加えられたときのマルチコアファイバにおける各コアの実効屈折率と実効屈折率の等価屈折率を示す図である。
【図7】2つのコアを有するマルチコアファイバの長手方向に沿った、コア間クロストークの変動を示すグラフである。
【図8】クロストーク量χと最初の零点でのクロストーク変動量との関係を示すグラフである。
【図9】7つのコアを有するマルチコアファイバの断面構造を示す図である。
【図10】螺旋半径r及び螺旋ピッチLを説明するための図である。
【図11】螺旋半径rの異なる複数種類のサンプルについて、曲率半径Rと螺旋ピッチLとの関係を示すグラフである。
【図12】図2のマルチコアファイバに付与される捻れを説明するための図である。
【図13】コアΔに対するκ、Rth、曲げ損失、コア径それぞれの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る光ファイバケーブルの各実施形態を、図1〜図13を参照しながら詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0028】
まず、図1は、本発明に係る光ファイバケーブルの一実施形態の構造を示し、特に、図1(a)は当該光ファイバケーブルの断面図、図1(b)は当該光ファイバケーブルの斜視図である。図2は、本実施形態に係る光ファイバケーブル(図1(a)及び図1(b)参照)に適用可能なマルコアファイバの一構造例を示す斜視図であり、図3は、図2に示されたマルチコアファイバのI−I線に沿った断面構造を示す図及び各コア近傍の屈折率プロファイルである。
【0029】
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施形態に係る光ファイバケーブル300は、中心部材310と、中心部材310に所定ピッチで巻きつけられた複数の光ファイバ100と、その巻きつけられた状態を保持するように複数の光ファイバ上に巻きつけられた押え巻き250と、押え巻き250の周りを覆う外被200を備える。光ファイバ100は、マルチコアファイバ100Aと、マルチコアファイバ100Aを全体的に覆った樹脂被覆130からなる。複数の光ファイバ100それぞれは、その長手方向に沿って所定のピッチで中心部材310に巻きつけられることにより、一定の曲率半径の曲げが付与される。外被200は、光ファイバ100を外力から保護するように、押え巻き250の全体を覆っている。中心部材310は、抗張力線のような金属材料であっても、外被200の収縮に抵抗する抗収縮材であってもよい。なお、図1(b)において、光ファイバ100は、記載簡略のため、1芯のみ記載しているが、実際には当該光ファイバケーブル300に含まれる全光ファイバ100が中心部材310に巻かれている。なお、本発明の光ファイバケーブルは上記構造に限定されるものではなく、例えば、円柱状の部材表面に螺旋状にスロット(溝)を形成し、そのスロットにマルチコアファイバを内蔵したテープ心線を這わせ、スロットにテープ心線を内蔵した円柱状の部材表面を更に押え巻きや外被で覆うスロットケーブルでも、また、スロットの螺旋のピッチを調整することでもファイバに一定以下の曲率半径の曲げを付与することができる。
【0030】
光ファイバケーブル300に適用可能なマルチコアファイバ100Aは、図2及び図3(a)に示すように、所定軸AXに沿ってそれぞれ伸びた複数のコア110A1、100B1〜110B3、110C1〜110C3(図2及び図3(a)に示す例では7本のコア)と、これら7本のコアを一体的に取り囲んだクラッド領域120を備える。図2及び図3(a)に示すマルチコアファイバ100Aにおいて、コア配置は、断面(所定軸AXに直交する面)の中心にコア110A1が配置され、このコア110A1を中心にして、コア110B1〜110B3とコア110C1〜110C3が、中心間距離(コア間隔)がDになるように配置されている。
【0031】
なお、コア110A1、110B1〜110B3、110C1〜110C3それぞれは、同一構造の屈折率プロファイルを有するのが好ましい。具体的には、図3(a)中の各コアの屈折率プロファイルの概略の一例を図3(b)に示す。図3(b)に示す例では、コア110A1、110B1〜110B3、110C1〜110C3それぞれの近傍における屈折率プロファイルは、ステップインデックス型の屈折率プロファイル(クラッド領域120に対する各コアの比屈折率差Δ)である。
【0032】
次に、マルチコアファイバ100Aにおける各コアの実効屈折率の設定方法について説明する。
【0033】
2つのコア間の電力移行率Fは、以下の式(10)で表される。
【数10】


ただし、κはコア間の結合係数で、βnはコアnの伝搬定数である。
【0034】
また、結合長L(1つのコアnに入射したときに他方のコアmのパワーが最大になる距離)は、以下の式(11)で表される。
【数11】

【0035】
ここで、上記非特許文献1によれば、Fを小さくする、又は、Lを大きくすることでクロストークが小さくできるが、クラッド径を125μmとし、コアΔが0.4%である一般的なコアが採用されたマルチコアファイバでは、Fを大きいままにLだけを十分長くし、多数のコアをクラッド内に納めることは難しい。
【0036】
そこで、Fを小さくする必要がある。Fを小さくためにはψを大きくすること、つまりコア間の伝搬定数差、言い換えればコア間の実効屈折率の差を大きくすることが必要となる。上記非特許文献1では、これについてシミュレーションを交えて考察している。それによれば、隣接するコア同士のコア間隔Dが30μm以上であり、かつ、この隣接するコア間においてコアΔが0.005%違っていれば十分クロストーク低減できるとしている。そのため、上記非特許文献1は、コアΔが、それぞれ0.38%、0.39%、0.40%の3種類のいずれかに属し、かつ、隣接するコア同士のコア間隔Dが40μmになるよう配置された7本のマルチコアファイバを提案している。
【0037】
しかしながら、上記非特許文献1の考察は、マルチコアファイバの曲げを考慮していない。そのため、マルチコアファイバの曲げ状態によって実際にはクロストークが非常に大きくなってしまう場合もかなり含まれている。
【0038】
マルチコアファイバを曲げると、当該マルチコアファイバ内の位置によって各コアの曲げ径が極僅かに異なる。そのため、各コアの光路差も異なってくる。このように曲げられたマルチコアファイバを直線導波路として扱う場合、光路長差に基づく屈折率として、等価屈折率を用いる必要がある。等価屈折率は、上記非特許文献2に記載されたように、実際の屈折率に、(1+r/R)を掛けることで求められる。ただし、Rは基準とするコア(基準コア)の曲率半径、rは曲げ径方向の基準コアからのずれ量である(図4(a)参照)。どのコアを基準としてもよい。曲がったマルチコアファイバの実際の屈折率をn(r)、直線導波路換算の等価屈折率をn(r)とするとき、実際の屈折率と等価屈折率との比屈折率差である等価比屈折率差Δeqは、パラメータrとパラメータRを用いて、以下の式(12)で表される。
【数12】

【0039】
図4(b)は、曲げに関するパラメータr、パラメータRを変更したときに上記式(12)から導かれる等価比屈折率差Δeqを示す表である。なお、以下の説明では、特に言及がない場合、図1及び図2に示す中心コア110A1を基準コアとして考える。また、図5(a)は、図4(b)の表におけるパラメータrと等価比屈折率差Δeqとの関係を示し、図5(b)は、パラメータ(1/R)と等価比屈折率差Δeqとの関係を示す。
【0040】
なお、図5(a)において、グラフG511はR=140mmにおけるパラメータrとΔeqとの関係、グラフG512はR=60mmにおけるパラメータrとΔeqとの関係、グラフG513はR=30mmにおけるパラメータrとΔeqとの関係、グラフG514はR=10mmにおけるパラメータrとΔeqとの関係を示す。また、図5(b)において、グラフG521はパラメータr=40μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG522はパラメータr=30μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG523はパラメータr=20μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG524はパラメータr=10μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG525はパラメータr=0μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG526はパラメータr=−10μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG527はパラメータr=−20μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG528はパラメータr=−30μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係、グラフG529はパラメータr=−40μmにおけるパラメータ(1/R)とΔeqとの関係を示す。
【0041】
ここで、パラメータr=40μmだと、パラメータR=140mmでも、Δeqは、±0.02%を超える。なお、上記非特許文献1で提案されている比屈折率差Δが0.38%、0.39%、0.40%の3種類のコアで構成され、隣接するコア同士のコア間隔Dが40μmになるよう配置された7本のコアを含むマルチコアファイバでは、異なる種類のコア同士におけるコアΔの差は0.01%であるから、実効屈折率同士の比屈折率差Δeffは、0.01%以下である。このことから、上記非特許文献1のマルチコアファイバでは、パラメータR=140mmの曲げを加えただけで、Δeqが、Δeffと逆転してしまうことが分かる。すなわち、上記非特許文献1のマルチコアファイバでは、僅かな曲げでも、異なる種類のコア同士における実効屈折率の等価屈折率間の比屈折率差の絶対値が非常に小さくなることが生じるため、各コア間のクロストークが大きくなり得ることが分かる。
【0042】
マルチコアファイバをボビンに巻きつける場合を考えても、当該マルチコアファイバは製造時のバラツキや巻き取り時のバラツキによってどうしても回転してしまうので、長手にコア配置が回転してしまう。このとき基準コアから各コアへのコア間隔Dは長手方向に一定でも当該マルチコアファイバの長手方向に沿った位置によって上記パラメータrがコア間隔Dの範囲で変動し、異なる種類のコア同士における実効屈折率間の等価比屈折率の差が小さくなる箇所が当該マルチコアファイバの長手方向に沿って分布してしまう。このような状態を図6に示す。ただし、図6(b)は、長手方向に一様に曲げられた状態で、かつ、光ファイバ内でコアの位置が光ファイバ断面内で円周方向に等間隔に配列された状態で、円周方向のコア位置が長手方向に一定周期で回転している設定での等価屈折率の変動を示している。
【0043】
図6は、曲げが加えられたときのマルチコアファイバにおける各コアの実効屈折率と実効屈折率の等価屈折率を示す図であり、ボビンに巻かれた状態と同じようにマルチコアファイバが曲げられている場合の等価屈折率換算した実効屈折率の一例である。特に、図6では、図1及び図2に示すマルチコアファイバ100Aにおける各コアの実効屈折率と実効屈折率の等価屈折率を示す。図6(a)は、マルチコアファイバの長手位置と各コアの実効屈折率の関係を示し、グラフG611は、当該マルチコアファイバ100Aの光軸AX上に位置する中心コア(基準コア)110A1の実効屈折率、グラフG612は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110B1〜110B3の実効屈折率、グラフG613は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110C1〜110C3の実効屈折率を、それぞれ示す。また、図6(b)は、マルチコアファイバの長手位置と各コアにおける実効屈折率の等価屈折率を示し、グラフG621は、基準コア110A1の実効屈折率の等価屈折率、グラフG622は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110B1の実効屈折率の等価屈折率、グラフG623は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110B2の実効屈折率の等価屈折率、グラフG624は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110B3の実効屈折率の等価屈折率、グラフG625は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110C1の実効屈折率の等価屈折率、グラフG626は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110C2の実効屈折率の等価屈折率、グラフG627は、基準コア110A1の周辺に位置するコア110C3の実効屈折率の等価屈折率を、それぞれ示す。
【0044】
上述の考察に基づいて、曲げに起因した基準コアからのずれ量rを、中心コアを基準コアとし、中心コアから各コアへのずれ量rと考えていたものを、異なる種類のコア間に置き換えて考える。この場合、マルチコアファイバの断面において異なる種類のコア同士のコア間隔をD、クロストーク上の許容される曲率半径をRとするとき、異なる種類のコア同士の全ての対について、一の種類のコアにおける実際の実効屈折率(等価屈折率換算していない実際の実効屈折率)と別の種類のコアにおける実際の実効屈折率との比屈折率差Δeffが、少なくとも以下の式(13)の条件を満たす必要がある。
【数13】


ただし、上記式(13)中のαは、曲げを考慮せずに設計された当該マルチコアファイバにより十分低いクロストークが実現できる場合の、異なる種類のコア(屈折率が異なる)同士における実効屈折率間の比屈折率差である。また、上記式(13)は、Δeff>0となるように低い実効屈折率に対する高い実効屈折率の比屈折率差を取っており、Δeq>0となるように基準コアをとっている。
【0045】
なお、上記非特許文献1によれば、隣接するコア同士のコア間隔D=30μmであればコアΔの差は0.005%で十分であることから、上記パラメータαも、0.005%で十分であり、比屈折率差Δeffは、百分率表示で、以下の式(14)を満たせばよい。これにより、曲率半径R以上の曲げが加えられてもコア間のクロストークを低く抑えることができる。
【数14】

【0046】
また、複数のコアで構成されるマルチコアファイバでは、異なる種類のコアが複数本ずつ存在する場合がある。このようなマルチコアファイバでは、同じ種類のコア同士は、クロストークが低くなるように十分なコア間隔Dが確保された状態で配置されている。したがって、同じ種類のコア同士の最短コア間隔をDminとすると、異なる種類のコア同士のコア間隔DがDminを超えているとき、これらコア同士における実効屈折率間の比屈折率差は考慮する必要がない(実効屈折率の等しい同じ種類コアでもクロストーク十分低いため)。ただし、コア間隔DがDmin未満となる異なる種類のコア同士の全組み合わせについては、少なくとも、以下の式(15)を満たす必要がある。これは、コア間隔DがDminより短い異なる種類のコア同士の組み合わせにおいて、実効屈折率の等価屈折率換算が等しくならないためである。これにより、曲率半径R以上の曲げが加えられてもコア間のクロストークを低く抑えることができる。
【数15】

【0047】
ところが、上述のような式(14)や式(15)を満たすマルチコアファイバがパラメータR=30mmを許容する場合、コア間隔D=30μmとすると比屈折率差Δeffは0.105%以上でなければならない(Δeff≧0.0105%)。これを実現するのは簡単ではない。すなわち、当該マルチコアファイバ100Aにおけるコア間でコアΔやコア径に大きな差を付けるか、異なる種類のコア間で周囲のクラッドの屈折率に差を持たせるなどの工夫が必要となるからである。
【0048】
コア間クロストークが大きくなるのは、コア間においてコアの実効屈折率の等価屈折率の差が非常に小さくなるからである。しかしながら、その差が一定以下に小さくなる箇所が、当該マルチコアファイバ100Aの長手方向に沿ってごく僅かであれば、コア間クロストークも小さくなると考えられる。そこで、以下、第1及び第2実施形態について順に説明する。
【0049】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態では、当該マルチコアファイバ100Aにおける複数のコアのうち、コアmの実効屈折率をneff−m、コアmを基準としたコアnの実効屈折率の等価屈折率をneqeff−nm、コアnとコアmのコア間隔(中心間距離)Dnm、直線mnと当該マルチコアファイバ100Aの曲げ径方向に一致する直線とのなす角度φnm(rad)とすると、以下の式(16)の関係が成り立つ。なお、直線mnは、所定軸AXに直交する当該マルチコアファイバ100Aの断面上において、コアmの中心とコアnの中心を結ぶ線を意味する。
【数16】

【0050】
上記式(16)を伝搬定数に置き換えて考えると、β=(2π/λ)neff(λは波長、neffは実効屈折率)なので、以下の式(17)が得られる。
【数17】


ただし、βはコアnの伝搬定数、βeq−nmはコアmを基準に等価屈折率を考慮したコアnの伝搬定数である。
【0051】
このとき、βeq−nmとβeq−nnとの差Δβnm(比屈折率差ではない)は、以下の式(18)となる。
【数18】

【0052】
マルチコアファイバの長手方向に沿ってΔβnmが0に近い値になる割合が少ないほど、コア間クロストークは小さくなると考えられる。ここで、パラメータR=30mmを許容する場合、コアnとコアmのコア間隔Dnm=30μmで、差Δβnmが常に0にならないようにするのは簡単ではない。すなわち、図3(b)に示すように、実効屈折率同士の比屈折率差Δeffが0.1%を超えるような伝搬定数βと伝搬定数βの差が必要となるからである。
【0053】
そこで、マルチコアファイバの長手方向に沿ってΔβnmの零点は存在するが、各零点でのΔβnmの傾きが急峻で、零点の出現頻度が低いことが望ましいと考えられる。特に、各零点でのΔβnmの傾きが急峻であることが重要である。
【0054】
図7は、2つのコアを有するマルチコアファイバ(以下、2コアファイバという)の長手方向に沿った、コア間クロストーク(図7では単に「クロストーク」と表記)の変動を示すグラフであり、具体的には、2つのコアの一方に光強度I=1の光を入射した際の他方のコアの光強度Iの、当該2コアファイバの長手方向に沿った変動である。また、コア間クロストークを(ある非入射コアの強度)/(全コアの強度の合計)と定義した場合、図7のグラフは、当該2コアファイバの長手方向に沿ったクロストークの変動のグラフと言える。この2コアファイバにおいて、全長に亘って一定の曲げが加えられている。また、当該2コアファイバの長手方向に沿って捻れ(当該2コアファイバの軸廻りの一方向回転)が付与されている。なお、この捻れは、当該2コアファイバを10mで1回転させる。つまり、当該2コアファイバの長手方向の位置をzとするとき、10mにつきΔβnm(z)の零点が2つ存在する。なお、図7において、等間隔で10mに2つの割合で存在するクロストークの急峻な変化は、Δβnm(z)の零点である。
【0055】
なお、上述のシミュレーションでは、コア間クロストークの変動を計算したが、より簡単にクロストークの挙動を表す数式を以下に組み立てていく。
【0056】
Δβnm(z)の任意零点zにおける、以下の式(19a)で与えられる傾きの逆数は、その零点zを通過する際に、どれだけの長さでΔβnm(z)が0近傍にあったかを表す指標とすることができる。そこで、上記任意零点でのコア間のクロストーク量χは、以下の式(19b)を指標として表され、このパラメータl(エル)の値が小さいほどコア間のクロストーク量χが小さくなると考えられる。
【数19】

【0057】
また、零点zの極近傍でのみ有意なコア間クロストークが発生していると考える。ここで、上記式(10)及び式(11)を考えた場合、以下の式(20a)の関係から、F=1、L=(π/2)・(1/κ)となる。2つコア同士の結合を考えた場合、F=1、L=(π/2)・(1/κ)の場合、一方のコア1に強度I=1の光が入射した場合、他方のコア2の当該2コアファイバの長手方向の位置zにおける強度Iは、以下の式(20b)となる。
【数20】

【0058】
ここで、更にI>>Iとした場合、Δβnm(z)の各零点近傍では、上記式(20b)中のzを0近傍と見なすことができる。そこで、強度Iは、以下の式(21)とすることができる。
【数21】

【0059】
さらに、Δβnm(z)の零点からずれると、F及びLそれぞれの値も徐々に変化することも含めて考えると、最終的にI>>Iの場合、Δβnm(z)の任意零点近傍でのコア間のクロストーク量χは、以下の式(22)で表せるものと考えられる。
【数22】


ただし、αは上記式(19b)と上記式(21)を結び付ける係数である。
【0060】
以下、幾つかのケースについて、コア間のクロストーク量χを求める。
【0061】
上記式(18)中のパラメータのうちzの関数となるのは、θnmであり、以下の式(23)に関係が成り立つ場合(ただし、γ≠0とする)について考える。
【数23】

【0062】
このとき、2コアファイバの長手方向の位置zが以下の式(24a)で与えられる場合、Δβnm(z)=0となり、どの点でも以下の式(24b)で表される関係が成り立ち、また、どの点でもコア間のクロストーク量χは、以下の式(24c)のようになる。
【数24】

【0063】
また、以下の式(25a)で表される関係の場合(ただし、γ≧π、γ>0とする)、Δβnm(z)=0となる、2コアファイバの長手方向の位置z(以下の式(25b))では、以下の式(25c)で表された関係が成り立ち、2コア間のクロストーク量χは、以下の式(25d)となる。
【数25】

【0064】
上記の考察から、2コアファイバにおけるコア間のクロストーク量χを小さくするには、2つのコアnとコアmのコア間隔Dnmを大きくする、パラメータR(2コアファイバへの曲率半径)を小さくする、又は、コアnの伝搬定数βとコアの伝搬定数βの差を小さくする(すなわち、neff−nとneff−mの差を小さくする)必要がある。特に、コアnとコアmのコア間隔Dnmを大きくすると、コア間の結合係数κも小さくできるので、コア間のクロストーク低減の効果が大きい。また、パラメータγやγを大きくすることでも、コア間のクロストーク量χを小さくすることができる。
【0065】
以上の説明からも分かるように、コア間のクロストーク量の観点からもneff−n=neff−mであることが望ましく、また、製造上も同一コア構造で製造できることから当該マルチコアファイバ100Aは容易に実現可能である。そこで、以後の説明では、neff−n=neff−mの場合について論ずる。
【0066】
eff−n=neff−mのときの上記式(24c)は、以下の式(26a)のように表せ、また、上記式(24d)は、以下の式(26b)のように表せる。
【数26】

【0067】
ここで、2コアファイバにおけるコア間のクロストーク量χについて別の方法で考えてみる。簡単の為に、上記式(26a)の場合について考える。
【0068】
緩慢変化包絡線近似による複素電界振幅をAとおくと、コアmからコアnへのモード結合方程式は、以下の式(27)で示される。
【数27】

【0069】
さらに、光ファイバの捩れをγc(rad/m)とすると、モード結合方程式は以下の式(28)で示される。
【数28】

【0070】
上記式(28)において、β、β、Dnm及びRは、コアnとコアmの等価実行屈折率がzの位置によっては等しくなり得る関係にあることとする。通常は、コアnからコアmへの結合もあるためにコアmの複素電界振幅Aが長手に変動する。そのため、コアnの複素電界振幅Aの解析解を求めることは難しいが、クロストークが十分小さい場合を考えると、Aは1に近似することができる。この時、以下の式(29)に示す積分が成立する。
【数29】

【0071】
なお、上記式(28)及びこの式(28)に含まれる各変数についての付帯条件から考えると、zが0からπ/γに変化する間に、コアn及びコアmの等価実行屈折率が等しくなる点が必ず1点は存在することになる。そこで、クロストーク量χは以下の式(30)で示すことができる。
【数30】

【0072】
上記式(30)をA(π/γ)について解いた結果を以下の式(31)に示す。
【数31】

【0073】
β=βの関係が成り立つとすると、上記式(31)は以下の式(32)のように書き換えることができる。
【数32】

【0074】
さらに、上記非特許文献3に記載された以下の式(33)の関係を用いると、上記式(32)は以下の式(34)に記載のように変形することができる。
【数33】


【数34】

【0075】
ここで、上記式(34)の右辺括弧内の虚数項(総和の項)について考えてみる。まず、上記式(34)の虚数項は以下の式(35)の関係を利用して変形することができる。
【数35】

【0076】
このとき、右辺の第1項はvに関して奇関数なので0となる。また、右辺第2項はvに関して偶関数なので、上記非特許文献4に記載された以下の式(36)を利用して整理していくと、以下の式(37)と示すことができる。
【数36】


【数37】

【0077】
上述のように得られた式(35)及び式(37)を利用すると、上記式(34)は、以下の式(38)のように整理することができる。
【数38】

【0078】
よって、上記式(30)からクロストーク量χは以下の式(39)のように求めることができる。
【数39】

【0079】
上記式(39)は、上記式(26a)に等しい。そのため、以下の式(40)の結果を導くことができる。
【数40】

【0080】
ここで、クロストーク量χについて、上記式(39)の解析解と、モード結合方程式に基づくシミュレーションで求めた値の関係を図8に示す。
【0081】
波長は1.55μmであり、コアΔは0.34%及び0.4%、Rは60mm、120mm、180mm、240mm及び300mm、Dnmは35μm及び40μmの全ての組み合わせについて計算した結果を示している。解析解とシミュレーション結果とは良く整合しており、解析解の正しさとシミュレーションの正しさが相互に確認できた。
【0082】
ところで、クロストーク量χはコア間の等価伝搬定数差の零点におけるクロストーク変動量であるので、複素電界振幅の変化で考えると、低クロストークという仮定の下では、以下の式(41)の関係が成り立つことが分かる。この式(41)におけるA(nzero)は、等価伝搬定数差の零点をnzero個通過した後のAである。φrandomは各零点に於けるarg(jA/A)だが、実際上はγやRなどのバラツキによって各零点でランダムな値をとるので以下のように表記している。
【数41】

【0083】
ここで、以下の式(42a)に示す2つの値は、σ=χ/2の確率分布に従うので、中心極限定理により、nzeroが十分大きければ、以下の式(42b)の2つの値は確率論的に独立で、かつ、等しい分散σ=(χ/2)×nzeroを持つ正規分布を確率分布として分布する。nzeroは本来整数ではあるが、上記式(25c)が成り立つ場合には、以下の式(42c)のように置き換えることができる。
【数42】

【0084】
この場合、σは以下の式(43)を満たす。なお、Lはファイバ長である。
【数43】

【0085】
なお、実際には2つの偏波モードを考慮しなければならないので、2つの偏波モードそれぞれの式(42b)の値が、以下の式(44)を満たす。
【数44】

【0086】
以下の式(45a)に示す値は、自由度4のカイ二乗分布である以下の式(45b)に従って分布し、更にその累積分布関数は、以下の式(45c)となり、分布の平均値XTμは、以下の式(45d)となる。
【数45】

【0087】
また、クロストーク分布の平均値XTμが許容値XT以下になるようにするためには、以下の式(46a)の関係から、以下の式(46b)〜(46d)の関係が得られる。
【数46】

【0088】
ここで、XT、Lを与えることで、各パラメータが満たすべき関係式が明らかになる。同一構造コアが複数設けられたマルチコア光ファイバで、結合係数がκnm−th以下で、コア間距離がDnm−th以上になる様にファイバを設計し、ファイバをRth以下の径で曲げれば、クロストークをXT以下に抑えることができる。
【0089】
続いて、図9のような7つのコア#1〜#7を有する光ファイバ(以下、「7コア光ファイバ」という)を考える。各コア間の結合係数はコア間隔に対して指数関数的に減少していくので、クロストークを考慮すべきなのは隣接コアだけと考えて良い。この場合、隣接コアの数が最も多いコア1は、周囲に設けられた6つのコアからのクロストークの影響を受ける。このときコアピッチをΛとすると、上記式(46a)〜(46d)は、それぞれ以下の式(47a)〜(47d)に書き換えることができる。なお、コア数が7以上の場合であっても六方格子状にコアが配置されている場合は、考慮すべき式は以下の式(47a)〜(47d)となる。
【数47】

【0090】
また、XTμは一般に、上記式(24c)、上記式(40)、σ=(χ/2)×nzeroの関係、上記式(42c)、及び、2つの偏波モードを考慮する必要から、コアnへのクロストークの分布の平気値XTμ,nは、以下の式(48)で表すことができる。
【数48】

【0091】
ここで、光ファイバの曲率半径Rが小さいほど、コアピッチΛも小さくでき、ファイバ断面の単位面積当たりのコア密度を高められる。光ファイバは通常ケーブル化された状態で使用されるので、例えば、光ファイバをケーブル断面上でケーブル中心から一定の距離になるようにケーブル内に収容し、且つ、ケーブル長手位置が変わるにつれて当該光ファイバのケーブル中心からの向きが変わる様に収容する。これにより、ケーブルが直線状態でも光ファイバは螺旋状になりほぼ一定の曲率半径を維持することができる。
【0092】
上述のように光ファイバが螺旋状にケーブル内に収容されることにより、ケーブル長に対してファイバ長が増加する。このとき、図10に示すように、螺旋の半径をr、ピッチをLとすると、螺旋の曲率半径Rは、以下の式(49)で表せる。なお、図10は、螺旋半径r及び螺旋ピッチLを説明するための図である。
【数49】

【0093】
また、ケーブル長に対するファイバ長の増加率Lは、以下の式(50)で表せる。
【数50】

【0094】
したがって、LとRの関係は、以下の式(51)で表せる。
【数51】

【0095】
よって、Lに起因する1スパン当たりのロスの増加αは、スパン長をLspan(km)、1km当たりの減衰係数をαkm(dB/km)とすると、以下の式(52)及び式(53)と表せる。
【数52】


【数53】

【0096】
現在存在する一般的なケーブルでは、rは12mm以下であり、Lは300mm以上である。このような状況下で、Lspanを80kmとし、αkmを0.185dB/kmとすると、αは最大でも0.305dB/spanである。
【0097】
伝送時のOSNRの劣化を考えるとαは許容値α以下であることが望ましい。よって、LとRが満たすべき条件は、上記式(52)、(53)、及び、α≦αの関係より、以下の式(54)及び式(55)のように求められる。なお、式(54)及び式(55)中のrのうち最も大きな値についてはrhmaxと表記するものとする。
【数54】


【数55】

【0098】
上記式(54)及び式(55)の右辺は、rとαkmに対して単調増加である。そのため、rとαkmについては、ケーブル内での最大値を考慮すべきである。また、これにより、αkmが小さい方が、光ファイバの曲率半径Rの採り得る最小値も小さくすることができる。加えて、上記式(46a)〜(47d)などから、クロストークをより小さくなり、または、クロストークに関連するκやΛなどのパラメータに対する制限を緩和することができる。
【0099】
したがって、αkmは少なくとも0.19dB/km以下であることが望ましく、0.18dB/km以下であることが更に望ましく、0.17dB/km以下であることが更に望ましく、0.16dB/km以下であることが更に望ましく、0.15dB/km以下であることが更に望ましい。
【0100】
なお、Lspanを一般的な80kmとした場合、L及びRは、少なくとも、以下の式(56a)及び(56b)の関係を満たすのが望ましい。
【数56】

【0101】
span=80kmの条件下で、L及びRは、以下の式(57a)及び(57b)の関係を満たすのが更に望ましい。
【数57】

【0102】
span=80kmの条件下で、L及びRは、以下の式(58a)及び(58b)の関係を満たすのが更に望ましい。
【数58】

【0103】
span=80kmの条件下で、L及びRは、以下の式(59a)及び(59b)の関係を満たすのが更に望ましい。
【数59】

【0104】
span=80kmの条件下で、L及びRは、以下の式(60a)及び(60b)の関係を満たすのが更に望ましい。
【数60】

【0105】
ここで、αは、大きくても0.5dB/span以下であることが望ましく、0.3dB/span以下であることが更に望ましく、0.1dB/span以下であることが更に望ましい。
【0106】
また、上記式(49)から、螺旋のピッチLと曲率半径Rの関係を図11に示す。細いケーブルでは、ケーブル断面上でのケーブル中心から光ファイバまでの距離が2mmほどまで、短くなることもある。また、ケーブルの製造性から、ケーブル内に光ファイバを螺旋状に収容する際の螺旋のピッチLは、少なくとも200mm以上であることが望ましく、300mm以上であることが更に望ましい。なお、図11において、グラフG1101は螺旋半径が2mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1102は螺旋半径が3mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1103は螺旋半径が4mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1104は螺旋半径が5mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1105は螺旋半径が6mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1106は螺旋半径が7mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1107は螺旋半径が8mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1108は螺旋半径が9mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1109は螺旋半径が10mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1110は螺旋半径が11mmに設定されたときのLとRの関係、グラフG1111は螺旋半径が12mmに設定されたときのLとRの関係を、それぞれ示している。
【0107】
これらのことから、Rとrの単位をミリメートルとしたとき、ファイバの曲率半径Rとrの関係は、少なくとも以下の式(61)を満たすのが望ましい。
【数61】

【0108】
また、ファイバの曲率半径Rとrの関係は、少なくとも以下の式(62)を満たすのが更に望ましい。
【数62】

【0109】
また、クロストークの観点から、ファイバの曲率半径Rは上記式(47d)を満たす必要がある。そのため、上記式(46d)及び式(49)から、螺旋ピッチLは、以下の式(63a)を満たす必要がある。又は、上記式(47d)及び式(49)から、螺旋ピッチLは、以下の式(63b)を満たす必要がある。なお、式(63a)及び式(63b)中のrのうち最も小さな値についてはrhminと表記するものとする。
【数63】

【0110】
なお、ここまで、ファイバをケーブル中に螺旋状に内蔵する場合の、螺旋の回転の中心軸をケーブル断面の中心として説明してきたが、螺旋の回転の中心軸は、必ずしもケーブル断面の中心である必要はなく、また、1つのケーブル中に複数の異なる螺旋の回転の中心軸があっても良い。
【0111】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態においても、当該マルチコアファイバ100Aにおける複数のコアのうち、コアmの実効屈折率をneff−m、コアnを基準としたコアmの実効屈折率の等価屈折率をneqeff−n,m、コアnとコアmのコア間隔(中心間距離)Dnm、直線nmと当該マルチコアファイバ100Aの曲げ径方向に一致する直線とのなす角度φnm(rad)とすると、以下の式(64)の関係が成り立つ。なお、直線nmは、所定軸AXに直交する当該マルチコアファイバ100Aの断面上において、コアnの中心とコアmの中心を結ぶ線を意味する。
【数64】

【0112】
上記式(64)を伝搬定数に置き換えて考えると、β=(2π/λ)neff(λは波長、neffは実効屈折率)なので、以下の式(65)が得られる。
【数65】


ただし、βはコアmの伝搬定数、βeq−nmはコアnを基準に等価屈折率を考慮したコアmの伝搬定数である。
【0113】
このとき、βeq−nmとβeq−nnとの差Δβnm(比屈折率差ではない)は、以下の式(66)となる。
【数66】

【0114】
マルチコアファイバの長手方向に沿ってΔβnmが0に近い値になる割合が少ないほど、コア間クロストークは小さくなると考えられる。ここで、パラメータR=30mmを許容する場合、コアnとコアmのコア間隔Dnm=30μmで、差Δβnmが常に0にならないようにするのは簡単ではない。すなわち、図4(b)に示すように、実効屈折率同士の比屈折率差Δeffが0.1%を超えるような伝搬定数βと伝搬定数βの差が必要となるからである。
【0115】
そこで、マルチコアファイバの長手方向に沿ってΔβnmの零点は存在するが、各零点でのΔβnmの傾きが急峻で、零点の出現頻度が低いことが望ましいと考えられる。特に、各零点でのΔβnmの傾きが急峻であることが重要である。
【0116】
各零点でのΔβnmの傾きと零点の出現頻度を制御するため、光ファイバに適切に管理した弾性的な捻回あるいは塑性的な捻回を付与することが望ましい。ただし、意図して捻回を付与しなくとも、光ファイバは長手方向にランダムに弾性的あるいは塑性的に捻れている。
【0117】
上述の考察に関連したシミュレーション結果を以下に示す。
【0118】
図7は、2つのコアを有するマルチコアファイバ(以下、2コアファイバという)の長手方向に沿った、コア間クロストーク(図7では単に「クロストーク」と表記)の変動を示すグラフであり、具体的には、2つのコアの一方に光強度I=1の光を入射した際の他方のコアの光強度Iの、当該2コアファイバの長手方向に沿った変動である。また、コア間クロストークを(ある非入射コアの強度)/(全コアの強度の合計)と定義した場合、図7のグラフは、当該2コアファイバの長手方向に沿ったクロストークの変動のグラフと言える。この2コアファイバにおいて、2つのコアは同一構造の屈折率プロファイルを有するとともに、クラッド領域に対する各コアΔは0.34%、各コア径は9μm、コア間隔Dは40μmである。当該2コアファイバは、全長に亘って半径300mmの曲げが加えられている。また、当該2コアファイバの長手方向に沿って捻れ(当該2コアファイバの軸廻りの一方向回転)が付与されている。なお、この捻れは、当該2コアファイバを10mで1回転させる。つまり、当該2コアファイバの長手方向の位置をzとするとき、10mにつきΔβnm(z)の零点が2つ存在する。なお、図7において、等間隔で10mに2つの割合で存在するクロストークの急峻な変化は、Δβnm(z)の零点である。
【0119】
なお、上述のシミュレーションでは、コア間クロストークの変動を計算したが、より簡単にクロストークの挙動を表す数式を以下に組み立てていく。
【0120】
Δβnm(z)の任意零点zにおける、以下の式(67a)で与えられる傾きの逆数は、その零点zを通過する際に、どれだけの長さでΔβnm(z)が0近傍にあったかを表す指標とすることができる。そこで、上記任意零点でのコア間のクロストーク量χは、以下の式(67b)を指標として表され、このパラメータlの値が小さいほどコア間のクロストーク量χが小さくなると考えられる。
【数67】

【0121】
また、零点zの極近傍でのみ有意なコア間クロストークが発生していると考える。ここで、上記式(10)及び式(11)を考えた場合、以下の式(68a)の関係から、F=1、L=(π/2)・(1/κ)となる。2つコア同士の結合を考えた場合、F=1、L=(π/2)・(1/κ)の場合、一方のコア1に強度I=1の光が入射した場合、他方のコア2の当該2コアファイバの長手方向の位置zにおける強度Iは、以下の式(68b)となる。
【数68】

【0122】
ここで、更にI>>Iとした場合、Δβnm(z)の各零点近傍では、上記式(68b)zを0近傍と見なすことができる。そこで、強度Iは、以下の式(69)とすることができる。
【数69】

【0123】
さらに、Δβnm(z)の零点からずれると、F及びLそれぞれの値も徐々に変化することも含めて考えると、最終的にI>>Iの場合、Δβnm(z)の任意零点近傍でのコア間のクロストーク量χは、以下の式(70)で表せるものと考えられる。
【数70】


ただし、αは上記式(67b)と上記式(69)を結び付ける係数である。
【0124】
以下、幾つかのケースについて、コア間のクロストーク量χを求める。
【0125】
上記式(66)中のパラメータのうちzの関数となるのは、φnmであり、以下の式(71)に関係が成り立つ場合(ただし、γc≠0とする)について考える。
【数71】

【0126】
このとき、2コアファイバの長手方向の位置zが以下の式(72a)で与えられる場合、Δβnm(z)=0となり、どの点でも以下の式(72b)で表される関係が成り立ち、また、どの点でもコア間のクロストーク量χは、以下の式(72c)のようになる。
【数72】

【0127】
また、以下の式(73a)で表される関係の場合(ただし、γ≧π、γ>0とする)、Δβnm(z)=0となる、2コアファイバの長手方向の位置z(以下の式(73b))では、以下の式(73c)で表された関係が成り立ち、2コア間のクロストーク量χは、以下の式(73d)となる。
【数73】

【0128】
上記の考察から、2コアファイバにおけるコア間のクロストーク量χを小さくするには、2つのコアnとコアmのコア間隔Dnmを大きくする、パラメータR(2コアファイバへの曲率半径)を小さくする、又は、コアnの伝搬定数βとコアmの伝搬定数βの差を小さくする(すなわち、neff−nとneff−mの差を小さくする)必要がある。特に、コアnとコアmのコア間隔Dnmを大きくすると、コア間の結合係数κも小さくできるので、コア間のクロストーク低減の効果が大きい。また、パラメータγやγを大きくすることでも、コア間のクロストーク量χを小さくすることができる。
【0129】
以上の説明からも分かるように、コア間のクロストーク量の観点からもneff−n=neff−mであることが望ましく、また、製造上も同一コア構造で製造できることから当該マルチコアファイバ100Aは容易に実現可能である。そこで、以後の説明では、neff−n=neff−mの場合について論ずる。
【0130】
eff−n=neff−mのときの上記式(72c)は、以下の式(74a)のように表せ、また、上記式(73d)は、以下の式(74b)のように表せる。
【数74】

【0131】
ここで、簡単のため、上記式(71)で表される関係が成り立つ場合、つまり、上記式(74a)の場合について考える。
【0132】
図7の結果を得たシミュレーションと同様のシミュレーションを行い、同一構造のコア1とコア2をもつ2コアファイバについて、α=1としたときのコア間のクロストーク量χとΔβ12(z)の1番目の零点と2番目の零点の間のクロストークの平均値の関係、すなわち、クロストーク量χとΔβ12(z)の最初の零点でのクロストーク変動量との関係を求めた。このとき、波長は1.55μmで、コアΔは0.34%と0.4%、パラメータRは60mm、120mm、180mm、240mm、300mm、コア1とコア2のコア間隔D12は35μm、40μmの全ての組み合わせについて計算した結果を図8に示す。この図8から分かるように、パラメータα=19.09373とすると、クロストーク量χがΔβ12(z)の最初の零点でのクロストーク変動量となる。
【0133】
ところで、最初の零点でのクロストーク変動量は、上述のように綺麗な法則性がある。しかしながら、2番目以降の零点でのクロストーク変動量は図7を見ると、あまり法則性があるようには見えない。これは、2コアファイバにおけるコア1からコア2へ、任意零点でクロストークした光の位相が、次の零点でのコア1からコア2へクロストークしてくる光の位相と合っていないためである。その結果、2番目の零点以降のクロストークはある一定の範囲で確率的に変動する。
【0134】
具体的には、強度ではなく電界の変動で考えると、2番目以降の零点において、θをコア1からコア2へクロストークした光とコア2の光の位相ずれとすると、該当する零点以前のコア1やコア2の振幅にもよるが、およそ以下の式(75a)で与えられる電界の変動が起こると考えられる。そのため、この2コアファイバの出射端における電界の振幅は、中心極限定理により、以下の式(75b)で与えられえるパラメータを平均値μとし、一定の分散σ2をもつ正規分布を確率分布とした、確率論的な値となると考えられる。位相ずれθが一様にランダムだとすると式(75a)の分散はχ/2なので、ファイバ全長の零点をnzeroとすると、上記分散σは(χ/2)nzeroとなり、以下の式(75c)が得られる。コア1とコア2が上記式(71)の関係を満たしている場合(式(71)中、n=1、m=2)、nzero=γ/πとなるので、σは以下の式(75d)となる。
【数75】

【0135】
つまり、コア1及びコア2が上記式(71)の関係を満たしている場合(式(71)中、n=1、m=2)、2コアファイバの入射端においてI=1、I=0とすると、この2コアファイバの出射端でのコア2の電解の振幅は、以下の式(76a)のようになり、以下の式(76b)で表される正規分布を確率分布とした確率論的な値となる。
【数76】

【0136】
ここで、上記2コアファイバの出射端におけるコア間クロストークがXT以下である確率をPXTとすると、確率PXTは以下の式(77)となる。
【数77】

【0137】
また、通常での使用を考えればLは少なくとも数〜数十km以上であるので、以下の式(78a)で表される条件を満たしていると考えられる。また、Lが比較的短い場合に式(78a)又は以下の式(78b)が成り立つためには、以下の式(78c)が成り立つ必要がある。Lが小さいほどγは大きい必要があるが、L=5000mではγ≧2π(rad/m)、L=1000mではγ≧10π(rad/m)であり、容易に実現可能である。
【数78】

【0138】
なお、所望の捻れ量γを当該マルチコアファイバ100Aに付与するためには、図12(a)に示すように、軸AXを中心に矢印S(軸廻りの方向)に沿ってマルチコアファイバ100Aを回転させる。この場合、当該マルチコアファイバ100Aに付与される捻れは弾性的あるいは塑性的な捻れでよく、また、この捻れは、当該マルチコアファイバ100Aに付与される曲率半径方向を基準としてその長手方向に沿って変化する。具体的には、当該マルチコアファイバ100Aの断面を規定するS−S座標は、図12(b)に示すように、マルチコアファイバ100Aの長手方向に沿って回転することとなり、これにより、マルチコアファイバ100Aに所定ピッチの捻れが付与される。
【0139】
上記式(78a)が成り立つとき、確率PXTは以下の式(79)の関係が成り立つと考えることができ、一定のクロストーク以下になる確率が大きくなる。
【数79】

【0140】
ここで、関数erf(x)は、単調増加の関数なので、PXT≧0.9999のとき、以下の式(80a)で表される関係を満たす必要がある。なお、式(80b)は、式(80a)中のパラメータRの満たすべき条件式になるよう、式(80a)を展開した式である。
【数80】

【0141】
上記式(80b)を以下の式(81)のようにパラメータRth(曲率半径)を規定すると、たとえば、コアΔが0.4%、コア径が9μm、コア間隔が40μmを有するとともに、L=100km、XT=0.001の2コアファイバの場合、Rthは以下の式(81)で表せ、波長1.55μmの光に対してRthは14.1mmとなる。この時100km伝搬後でも99.99%以上の確率でクロストークは−30dB以下になる。しかし、シミュレーションによると、10dB/km以上の曲げ損失が生じてしまうので、長距離伝送は実現不可能であることが分かる。
【数81】

【0142】
そこで、図13に、コア間隔を40μm、ケーブルカットオフ波長が1.53μmになる場合のコア径に調整し、L=100km、XT=0.001、波長1.55μmの光を伝搬する条件下で、各コアΔに対するκ、Rth(mm)、曲率半径Rthでの曲げ損失(dB/km)、コア径(μm)を示す。なお、図13において、グラフG1110はκを示し、グラフG1120は曲率半径Rth(mm)を示し、グラフG1130は曲率半径Rthでの曲げ損失(dB/km)を示し、グラフG1140はコア径(μm)を示す。なお、図13において、コアΔが0.38%より大きい範囲の曲げ損失については、その値が非常に小さくなってしまうのでプロットしていない。
【0143】
この図13から分かるように、100km伝搬後の曲げによる損失増分を1dBに抑えるためには、曲げ損失が0.01dB/km以下になるコアΔを0.373%以上にする必要があり、また、100km伝搬後の曲げによる損失増分を0.1dB以下に抑えるためには、曲げ損失が0.001dB/km以下になるコアΔを0.378%以上にする必要がある。ケーブルカットオフ波長を1530nmより短くする場合は、更にコアΔを高くする必要がある。
【0144】
以上のように、ケーブルカットオフ波長が1530nmの場合、上記半径Rth以下の曲げでも低い曲げ損失を実現するため、所定軸に直交する断面上において、当該マルチコアファイバ100Aにおけるコア間隔Dが40μm以上であり、クラッド領域120に対するコア110A1、110B1〜B3、110C1〜110C3それぞれの比屈折率差Δは0.373%以上であるのが好ましい。
【符号の説明】
【0145】
100…光ファイバ、100A…マルチコアファイバ、110A1、110B1〜110B3、110C1〜110C3…コア、120…クラッド領域、130…樹脂被覆、200…外被、250…押え巻き、300…光ファイバケーブル、310…中心部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定軸に沿ってそれぞれ伸びた複数のコアと、前記複数のコアを一体的に取り囲んだクラッド領域とを備えたマルチコアファイバを内蔵する光ファイバケーブルであって、
前記マルチコアファイバにおけるコアnとコアmの中心間距離をDnm、当該光ファイバケーブルが敷設される際の中継再生器間の長さに相当する前記マルチコアファイバのファイバ長をL、第1波長における各コアの伝搬定数をβ、前記第1波長における隣接コア間の結合係数をκ、前記第1波長の光がファイバ長Lだけ伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値をXTとするとき、
【数1】


なる式で与えられる曲率半径Rthのうち最も小さな値の曲げを前記マルチコアファイバに付加する構造を備えた光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記曲げ付与構造は、前記マルチコアファイバを当該光ファイバケーブルに螺旋状に内蔵することにより、前記マルチコアファイバに一定の曲率半径以下の曲げを付与し、
前記螺旋の半径をr、前記螺旋のピッチをL、前記マルチコアファイバにおける最も小さなrをrhminとするとき、
【数2】


なる式を満たしていることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
所定軸に沿ってそれぞれ伸びた複数のコアと、前記複数のコアを一体的に取り囲んだクラッド領域とを備えたマルチコアファイバを内蔵する光ファイバケーブルであって、
前記マルチコアファイバにおける隣接コア同士の中心間距離をΛ、当該光ファイバケーブルが敷設される際の中継再生器間の長さに相当する前記マルチコアファイバのファイバ長をL、第1波長における各コアの伝搬定数をβ、前記第1波長における隣接コア間の結合係数をκ、前記第1波長の光がファイバ長Lだけ伝搬した後のクロストークの分布の平均値として許容される最大値をXTとするとき、
【数3】


なる式で与えられる曲率半径Rの曲げを前記マルチコアファイバに付加する曲げ付与構造を備えた光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記曲げ付与構造は、前記マルチコアファイバを当該光ファイバケーブルに螺旋状に内蔵することにより、前記マルチコアファイバに一定の曲率半径以下の曲げを付与し、
前記螺旋の半径をr、前記螺旋のピッチをL、前記マルチコアファイバにおける最も小さなrをrhminとするとき、
【数4】


なる式を満たしていることを特徴とする請求項3記載の光ファイバケーブル。
【請求項5】
前記第1波長の光がファイバ長L=100km以上伝搬した後の前記クロストークの分布の平均値として許容される最大値XTは、0.001であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の光ファイバケーブル。
【請求項6】
前記曲げ付与構造は、前記マルチコアファイバを当該光ファイバケーブル中に螺旋状に内蔵することにより、前記マルチコアファイバに一定の曲率半径以下の曲げを付与し、
前記螺旋の半径をr、前記螺旋のピッチをL、前記マルチコアファイバにおける最も大きなrをrhmax、スパン長をLspan(km)、第2波長における前記マルチコアファイバの各コアの伝送ロスの最大値をαkm(dB/km)、前記マルチコアファイバを前記光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値をα(dB/span)とするとき、
【数5】


なる式を満たすことを特徴とする請求項2又は4記載の光ファイバケーブル。
【請求項7】
前記マルチコアファイバを前記光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値αは、0.5dB/span以下であることを特徴とする請求項6記載の光ファイバケーブル。
【請求項8】
波長1550nmにおいて、前記マルチコアファイバを前記光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値αが、0.3dB/span以下であることを特徴とする請求項6記載の光ファイバケーブル。
【請求項9】
波長1550nmにおいて、前記マルチコアファイバを前記光ファイバケーブル内に螺旋状に内蔵することに起因するロス増であって1スパン当たりで許容可能な値αは、0.1dB/span以下であることを特徴とする請求項6記載の光ファイバケーブル。
【請求項10】
波長1550nmにおいて、前記マルチコアファイバの各コアの伝送ロスの最大値をαkmと前記スパン長Lspanの積(αkm・Lspankm)の値は、15.2以下であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項記載の光ファイバケーブル。
【請求項11】
所定軸に沿ってそれぞれ伸びた複数のコアと、前記複数のコアを一体的に取り囲んだクラッド領域とを備えたマルチコアファイバを内蔵する光ファイバケーブルであって、
前記マルチコアファイバにおけるコアnとコアmの中心間距離をDn,m、コアmの伝搬定数をβ、コアnからコアmへの結合係数をκnm、当該光ファイバケーブルが敷設される長さに相当する前記マルチコアファイバのファイバ長をLとしたとき、前記マルチコアファイバの前記複数のコアから選択される2つのコアの全組み合わせについて、ファイバ長Lを伝搬した後のクロストークが−30dB以下になる確率が99.99%になる曲率半径として、
【数6】


なる式で与えられる曲率半径Rthのうち最も小さな値の曲げを前記マルチコアファイバに付加する構造を備えた光ファイバケーブル。
【請求項12】
前記所定軸に直交する断面上において、前記マルチコアファイバにおける前記複数のコアそれぞれは、同一構造の屈折率プロファイルを有することを特徴とする請求項11記載の光ファイバケーブル。
【請求項13】
前記所定軸に直交する断面上において、前記マルチコアファイバにおけるコアの中心間距離が40μm以上であり、前記クラッド領域に対する各コアの比屈折率差Δは0.37%以上であることを特徴とする請求項12記載の光ファイバケーブル。
【請求項14】
前記マルチコアファイバにおける前記複数のコアの各配置は、弾性的な捻回あるいは塑性的な捻回が付与されることで、前記マルチコアファイバに付与された曲げの曲げ径方向を基準としてその長手方向に沿って変化していることを特徴とする請求項11〜13の何れか一項記載の光ファイバケーブル。
【請求項15】
前記マルチコアファイバには、2π(rad/m)以上の捻れが付与されていることを特徴とする請求項14記載の光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−197661(P2011−197661A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37198(P2011−37198)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】