説明

光ファイバケーブル

【課題】光ファイバ心線の取り出し性を維持しつつ、外被の側面に視認性の良好なマーキングを形成することができる光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバケーブル10a,10bは、光ファイバ心線3,3’の両側にテンションメンバ4を配し、外被5で一括被覆した構成を有する。そして外被5の両側面の少なくとも一方に、外被5を切り裂くための切り込み11がケーブル長手方向に沿って形成され、切り込み11が形成された面にマーキング12が形成されている。切り込み11を形成することにより、光ファイバ心線の取り出し性を維持しつつ、マーキング12の形成面に凹凸が生じないようにすることで、視認性のよいマーキング12の形成を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線の両側にテンションメンバ配されて外被により一体に被覆されてなる光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等の情報通信等の普及により通信の高速化、情報量の増大に加え、双方向通信と大容量通信に対応するために光ネットワークの構築が進展している。この光ネットワークでは、通信事業者と各家庭を直接光ファイバで結び、高速通信サービスを提供するFTTH(Fiber To The Home)サービスが開始されている。このため、光ケーブルの宅内への引き込みに用いられるドロップ光ケーブルの需要が増えている。
【0003】
ドロップ光ケーブルは、図6(A)、図6(B)に示すように、本体部であるエレメント1と支持線部2とを細幅の首部8で連結した自己支持形の光ファイバケーブル10a,10bとして構成されることが一般的である。光ファイバケーブル101a,101bのエレメント1は、光ファイバ心線3,3’の両側に、テンションメンバ4(抗張力体ともいう)を配し、押し出し成型による外被5により一括被覆して構成される。ここで図6(A)の光ファイバ心線3は、単体の光ファイバ心線であり、図6(B)の光ファイバ心線3’は、複数本の光ファイバを並列させて一括被覆した所謂光ファイバテープ心線である。
【0004】
このような光ファイバケーブル101a,101bは、外被5の両側面に、外被切裂き用のV字状のノッチ6を設けて、外被5を2つに切裂いて内部の光ファイバ心線3(3’)を取出せるようにした端末形成等がしやすい構造とされている。なお、支持線部2は、鋼線7を外被5で被覆してなり、エレメント1からは切り離し可能な首部8を介して連結される。
【0005】
また、図7に示すように、例えば、図6(A)のエレメント1にそれぞれ相当する2つのエレメント1a,1bを2つ連結してなる光ファイバケーブル101cも知られている。エレメント1a,1bは、外被5によって一括して成形され、細幅の連結部9によって互いに連結されている。連結部9は、エレメント1a,1bを分割できるように引き裂き可能な肉厚で形成される。このように2つのエレメント1a,1bを連結して一体化しているため、複数のエレメントを一度に牽引することができ、牽引回数を軽減することができる等の利点がある。エレメント1a,1bを分割しても、それぞれに設けられたノッチ6によってそれぞれのエレメント1a,1bからの光ファイバ心線3の取り出しが容易になっている。
【0006】
光ファイバ心線取り出し用のノッチに関して、光ファイバケーブルの矩形状断面の2つの角部に対向するようにノッチを配置した構成例のものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−237631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した光ファイバケーブルには、その品名や製造会社名等を表示するマーキングが形成される。この場合、マーキングは、インクジェットなどの手法によってエレメント1,1a,1bの側面に形成される。この場合、インクジェットのターゲットとなる側面中央部にはノッチ6が設けられている。従ってノッチ6を跨ぐようにマーキングが形成されることになり、ノッチ6による凹凸によってマーキングが不明瞭となり視認しにくくなる。
【0009】
この場合、マーキングの視認性を高めるために支持線部2の外周面にマーキングを形成することも考えられるが、マーキングのターゲットとなる支持線部2の高さは、例えば約2mm程度しかなく、精度よく安定してマーキングを施すことが難しい。また、マーキングできたとしても、支持線部2の外周面は、例えば2mm程度の径の円周面であるため良好な視認性を得ることは難しい。
【0010】
特許文献1には、ノッチをエレメント(本体部)の矩形状断面の角部に配置することにより、マーキングの視認性を改善できることが記載されている。しかしながら、角部にノッチが設けられているため、ノッチからの引き裂き性は得られるものの、エレメントの側面中央部にノッチを設ける構成に比較して引き裂き性が劣り、光ファイバ心線の取り出し時の作業性を維持することができない。
【0011】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、光ファイバ心線の取り出し性を維持しつつ、外被の側面に視認性の良好なマーキングを形成することができる光ファイバケーブルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による光ファイバケーブルは、光ファイバ心線の両側にテンションメンバを配し、外被で一括被覆したエレメントを備える光ファイバケーブルであって、外被の両側面の少なくとも一方に、外被を切り裂くためのスリット形状の切り込みがエレメントの長手方向に沿って形成されている。そして、切り込みが形成された面には、マーキングが形成されていることを特徴とする。また、この光ファイバケーブルは、外被の一方の側面に切り込みが設けられ、他方の側面に、断面がV字形状のノッチがエレメントの長手方向に沿って形成されている。
【0013】
また、本発明による光ファイバケーブルは、上記のエレメントが、細幅の連結部を介して複数連結されていることを特徴とする。また、この光ファイバケーブルは、複数のエレメントの同じ側の側面に切り込みが設けられている。さらに、光ファイバケーブルの連結部は、切り込みが形成された面と同一となるように形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光ファイバ心線の取り出し性を維持しつつ、外被の側面に視認性の良好なマーキングを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による光ファイバケーブルの概略を説明する図である。
【図2】本発明による光ファイバケーブルに切り込みを形成するときの様子を説明する図である。
【図3】本発明による光ファイバケーブルの切り込み形成面にマーキングを形成した例を示す図である。
【図4】本発明による光ファイバケーブルの他の構成例を説明する図である。
【図5】本発明による光ファイバケーブルの切り込みの形成面にマーキングを形成した他の例を示す図である。
【図6】従来の光ファイバケーブルの一例を説明する図である。
【図7】従来の光ファイバケーブルの他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1(A)、図1(B)は、本発明による光ファイバケーブルの構成例を説明する図である。図中、10a,10bは光ファイバケーブル、1はエレメント、2は支持線部、3,3’は光ファイバ心線、4はテンションメンバ、5は外被、6はノッチ、7は鋼線、8は首部、11は切り込みを示す。
【0017】
光ファイバケーブル10a,10bは、エレメント1と支持線部2とが細幅の首部8を介して一体に形成されている。エレメント1は、例えば、光ファイバ心線3の両側にテンションメンバ4を配し、押し出し成型による外被5で一体に被覆してなる。支持線部2は、単心線または撚り線からなる鋼線7(例えば、外径1.2mm程度)が用いられ、エレメント1の外被5の成形時に、鋼線7を外被5と同じ樹脂材で一括被覆して形成される。この形態の光ファイバケーブルは、ドロップ光ケーブルとして使用されることが多い。
【0018】
光ファイバ心線3は、標準外径が125μmのガラスファイバを被覆外径が250μm前後で被覆した光ファイバ素線と称されているもの、また、その外側にさらに被覆を施し、あるいは着色被覆を施したもの全てを含むものとする。
図1(A)の構成は、1本の光ファイバ心線3を用いたものであり、図1(B)の構成は、光ファイバ心線3’として、光ファイバを複数本(例えば4本)並列させて一括被覆したテープ心線を用いたものを示している。本発明にはいずれの構成のものも適用することができる。
【0019】
テンションメンバ4には、引張り及び圧縮に対する耐力を有する線材を用いることができる。例えば、外径0.4mm〜0.7mmの鋼線あるいはガラス繊維強化プラスチック(G−FRP)、アラミド繊維強化プラスチック(K−FRP)などを用い、高温から低温の使用温度環境下で長期の使用に耐えるようにすることができる。
【0020】
外被5は、難燃材が添加された難燃特性を有するものを用いることが望ましく、例えば、難燃ポリエチレン樹脂が用いられる。また、近年問題になっている蝉の産卵を防ぐために、蝉の産卵管が突き刺しにくい硬い樹脂材料を押出し成形して形成することができる。なお、上記の光ファイバケーブル10aは、例えば、エレメント1の長辺側を3.1±0.2mm、短辺側を2.0±0.2mmとし、支持線部2の被覆外径を2.0mm程度とした外形寸法で形成される。
【0021】
本実施形態では、エレメント1の両側面のうち、1方の側面に従来のV字形状のノッチ6が形成され、他方の側面に、従来のノッチに代えてスリット形状の切り込み11が設けられる。切り込み11は、ノッチ6と同様にエレメント1の長手方向(つまりケーブル長手方向)に形成される。光ファイバ心線3と切り込み11の先端との距離は、例えば、0.4mm程度とされる。
【0022】
ケーブル内の光ファイバ心線3,3’を取り出す場合は、ノッチ6及び切り込み11のいずれの側からでも取り出し作業が可能である。取り出し作業に際しては、ニッパー等の工具を用いてノッチ6または切り込み11の部分に切裂き口を入れた後、ノッチ6または切り込み11に沿って手で外被5を引裂いて、光ファイバ心線3,3’を取り出す。ノッチ6形状の方がニッパーを用いて切り裂き口の形成が容易であるが、スリット状の切り込み11側に切り裂き口を形成する場合であっても、引き裂き作業性を大きく損なうことはない。
【0023】
図2は、光ファイバケーブルの本体部に切り込みを形成するときの様子を説明する図である。切り込み11は、押し出し成型により形成されたエレメント1の側面中央部に、カッター等の刃物20を所定の深さで当ててケーブル長手方向に移動させることで形成される。切り込み11は、鋭角な刃物20によりスリット状に形成され、その先端(底部)は鋭角になる。
【0024】
切り込み11を形成する面と反対側の面には、ノッチ6がエレメント1の長手方向に形成されている。ノッチ6は、外被5を形成する押出機のダイス形状によって押出被覆時に形成される。これに対して切り込み11は、外被5の成形後の後工程で刃物20によって形成することができる。なお、ここではノッチ6についても、切削等の後加工で形成するようにしてもよい。
【0025】
図3は、図1(A)の光ファイバケーブルの切り込み形成面にマーキングを形成した例を示す図で、図中、12はマーキングである。光ファイバケーブル10aに対して、その品名や製造会社名等を表示するマーキング12を形成する場合には、切り込み11を形成したエレメント1の側面をマーキング形成のターゲットとする。この場合、ターゲットとなる側面中央部には切り込み11が設けられ、切り込み11を跨ぐようにマーキング12が形成されることになる。しかしながら、従来例のノッチ6の場合と異なり、切り込み11は、エレメント1の側面の平面性を大きく損なうものではないので、マーキング12の視認性が悪化することがない。これは、図1(B)の構成例であっても同様である。
【0026】
このように、本発明の実施形態によれば、従来ノッチが形成されていたエレメント1の側面にノッチの代わりに切り込み11を形成し、その面にマーキング12を形成するようにすることで、光ファイバ心線3,3’の取り出し性を維持しつつ、外被5の側面に視認性の良好なマーキング12を施すことができるようになる。
【0027】
また、マーキング12は、通常エレメント1の片側側面に施すことで足りるが、エレメント1の両側側面にマーキング12を行う必要がある場合には、エレメント1の両側側面に切り込み11を形成するようにしてもよい。すなわち、本実施形態の光ファイバケーブルは、エレメント1の外被5の両側面の少なくとも一方に、外被5を切り裂くための切り込み11が設けられる。
【0028】
図4(A)、図4(B)は、本発明による光ファイバケーブルの他の構成例を説明する図である。図中、10c,10dは光ファイバケーブル、1a,1bはエレメントで、その他、図1と同じ機能を有する構成要素には、図1と同じ符号が付してある。
【0029】
図4(A)、図4(B)の構成例は、図1のエレメント1にそれぞれ相当する2つのエレメント1a,1bを2つ連結してなる光ファイバケーブルを示している。エレメント1a,1bは、それぞれ光ファイバ心線3,3’の両側にテンションメンバ4を配し、外被5によって一括して成形されたもので、細幅の連結部9によって互いに連結されている。連結部9は、エレメント1a,1bを分割できるように引き裂き可能な肉厚で形成される。
図4(A)の構成は、各エレメント1a,1bにおいて、1本の光ファイバ心線3を用いたものであり、図4(B)の構成は、各エレメント1a,1bにおいて、光ファイバを複数本(例えば4本)並列させて一括被覆したテープ心線を光ファイバ心線3’として用いたものを示している。
【0030】
各エレメント1a,1bは、その片側側面中央部にV字形状のノッチ6が設けられ、他方の側面中央部にスリット形状の切り込み11が設けられる。切り込み11は、図1の例と同様に、カッター等の刃物20を所定の深さで当ててケーブル長手方向に移動させることでスリット状に形成されたものである。各エレメント1a,1bは、ノッチ6または切り込み11に沿って外被15を引裂くことで、光ファイバ心線3,3’を取り出すことができる。
【0031】
光ファイバケーブル10c,10dは、2つのエレメント1a,1bを連結して一体化しているため、複数のエレメントを一度に牽引することができ、牽引回数を軽減することができる等の利点がある。エレメント1a,1bを分割しても、それぞれに設けられたノッチ6や切り込み11によってそれぞれのエレメント1a,1bからの光ファイバ心線の取り出しが容易になっている。
【0032】
また、光ファイバケーブル10c,10dを相互に連結する連結部9は、エレメント1a,1bの両側面のうち、切り込み11が設けられた側面側に設けられ、連結部9の外側側面がエレメント1a,1bの側面と同一面を形成している。つまり、連結部9は、切り込み11が形成された面と同一の面となるように形成されている。これにより切り込み11を設けた面が広い平面状をなすことになり、この面をマーキングのターゲットとすることで、広いエリアのターゲットに視認性のよいマーキングを形成することができるようになる。
【0033】
なお、連結部9を切り込み11の形成面に合わせて設けることは必須ではなく、従来のように、断面中心位置に連結部9を設けたものであってもよい。この場合には、ターゲットとなる平面の領域が狭くなるが、図1の例と同様に、個々のエレメント1a,1bに対して視認性を阻害することなくマーキングを形成することができる。
【0034】
図5は、図4(A)の光ファイバケーブルの切り込みの形成面にマーキングを形成した例を示す図である。上記のように光ファイバケーブル10cに対して、その品名や製造会社名等を表示するマーキング12を施す場合には、切り込み11を形成したエレメント1a,1bの側面をターゲットとする。図5の例では、2つのエレメント1a,1bが連結部9により連結され、各エレメント1a,1bにそれぞれマーキング12を形成することができる。この場合、ターゲットとなるエレメント1a,1bの側面中央部には切り込み11が設けられ、切り込み11を跨ぐようにマーキング12が施されることになる。しかしながら、従来例のノッチ6の場合と異なり、切り込み11は、エレメント1a,1bの側面の平面性を大きく損なうものではないので、マーキングの視認性が悪化することがない。これは、図4(B)の構成例であっても同様である。
【0035】
また、図5の例のように各エレメント1a,1bの側面と連結部の側面とが同一平面を形成している場合には、連結部9付近の中央部のケーブル長手方向にマーキング12を形成することもできる。
【符号の説明】
【0036】
1,1a,1b…エレメント、2…支持線部、3,3’…光ファイバ心線、4…テンションメンバ、5…外被、6…ノッチ、7…鋼線、8…首部、9…連結部、10a,10b,10c,10d…光ファイバケーブル、12…マーキング、20…刃物、101a,101b,101c…光ファイバケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線の両側にテンションメンバを配し、外被で一括被覆したエレメントを備えた光ファイバケーブルであって、前記外被の両側面の少なくとも一方に、前記外被を切り裂くためのスリット形状の切り込みが前記エレメントの長手方向に沿って形成され、前記切り込みが形成された面にマーキングが形成されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記外被の一方の側面に前記切り込みが設けられ、他方の側面に、断面がV字形状のノッチが前記エレメントの長手方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記エレメントが、細幅の連結部を介して複数連結されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記複数のエレメントの同じ側の側面に前記切り込みが形成されていることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバケーブル。
【請求項5】
前記連結部は、前記切り込みが形成された面と同一の面となるように形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−32683(P2012−32683A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173297(P2010−173297)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】