説明

光ファイバテープ心線及び光ファイバテープ心線の通線方法

【課題】光ファイバテープ心線の剛性を高めて配管内に押し込みにより通線することのできる光ファイバテープ心線を提供する。
【解決手段】本発明の光ファイバテープ心線1は、光ファイバ素線4を樹脂で被覆した被覆層5を持つ被覆光ファイバ素線2を、一列に2〜4本並べて樹脂でその全体を被覆してテープ化したテープ層3を備えた構造である。そして、本発明では、被覆層5の直径を750〜900μmとし、テープ層3の厚みTを20〜40μm、ヤング率を200〜1500MPaとし、被覆光ファイバ素線2の本数をN(本)、被覆層5の外径をRc(mm)、被覆層5のヤング率をY(MPa)とした場合に、270≦N×Rc×Y≦3600を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバテープ心線及び光ファイバテープ心線の通線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、集合住宅(マンション等)やビル等の屋内配線では、配線経路に電線管を配置し、その電線管内にケーブルを通す工法が取られている。従来では、電線管に牽引用の紐をあらかじめ通しておき、その紐にケーブルの先端を取り付けた後、該紐を引っ張ってケーブルを通線させていた(これを、引き込み工法という)。
【0003】
しかしながら、近年においては、ケーブル表面の摩擦係数を低くし、既設電線管の隙間に対してケーブルを手押しで押し込んで通線させる(これを、押し込み工法という)ことができるケーブルが登場している(例えば、特許文献1、2等)。特許文献1に記載のケーブルは、シース外表面の動摩擦係数を0.09以上0.12以下としてケーブルの電線管への押し込みを可能としている。また、特許文献2に記載のケーブルでは、シース表面の摩擦係数を0.34以下として同様にケーブルの電線管への押し込みを実現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−183477号公報
【特許文献2】特開2008−180827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載のケーブルは、何れもドロップケーブルであり、抗張力体を備えていることから剛性が高い。そのため、ドロップケーブルを電線管へ手で押し込むことは可能である。しかしながら、同一の電線管に複数本のドロップケーブルを通線する必要があるような場合は、如何にシース表面を低摩擦係数としても通線できる本数が限られる。また、内径の小さな電線管にドロップケーブルを押し込む場合は、尚更通線本数が減る。
【0006】
この一方、ケーブルにはドロップケーブルの他、光ファイバコードや直径0.9mmの光ファイバ素線(通称、09心線という)或いは光ファイバテープ心線のようなドロップケーブルに比べて線径が小さく且つ剛性の低いケーブルもある。これら剛性の低いケーブルを細い電線管に押し込みで通線させると、剛性が弱いために通線が難しい。
【0007】
また、屋内配線においては、光ファイバ素線同士を成端箱内で接続する作業を行うことが多いが、特許文献1及び2に記載のケーブルでは、一般的にφ250μmの着色光ファイバ素線を使用しているため、視認性も悪く取り扱い難いという欠点をもつ。一方で、接続作業性を向上させるためケーブル内において、φ250μm光ファイバ素線の代わりにφ500〜900μmの太い光ファイバ心線を実装したものもあるが、この場合はケーブル全体が太くなるため、これらを実装したケーブルは細い電線配管に対しては通線させることが不可能となってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、φ750〜900μmの太い光ファイバ心線を光ファイバテープ心線とし剛性を高めて配管内に押し込みにより通線することのできる光ファイバテープ心線及び光ファイバテープ心線の通線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、光ファイバ素線を樹脂で被覆した被覆層を持つ被覆光ファイバ素線を、一列に2〜4本並べて樹脂でその全体を被覆してテープ化したテープ層を備えた光ファイバテープ心線であって、前記被覆層の直径を750〜900μmとし、前記テープ層の厚みを20〜40μm、ヤング率を200〜1500MPaとし、前記被覆光ファイバ素線の本数をN(本)、前記被覆層の外径をRc(mm)、前記被覆層のヤング率をY(MPa)とした場合に、270≦N×Rc×Y≦3600を満たすことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光ファイバテープ心線であって、前記光ファイバ素線は着色されており、且つ、前記光ファイバ素線を被覆した被覆層は日本工業規格JISK7105で測定したときのヘーズが25%以下であることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の光ファイバテープ心線であって、前記テープ層の表面動摩擦係数は、日本工業規格JISK7125で測定したときの値として0.10〜0.55を満たすことを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の光ファイバテープ心線を円筒形状の配管内に手で押し込んで通す光ファイバテープ心線の通線方法であって、前記光ファイバテープ心線を長方形としたときの対角線を直径とする径を該光ファイバテープ心線の外接円とした場合において、その外接円半径をRt(mm)としたときに、前記配管の内径を2×Rt+0.4mm以上として、光ファイバテープ心線を配管内に押し込んで通線させることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の光ファイバテープ心線の通線方法であって、前記光ファイバテープ心線を同一配管内に複数本押し込んで通線させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光ファイバテープ心線によれば、テープ心線自体が適度な剛性が確保されることになるため、曲がった配線管内への押し込みが可能となると共に単心分離も容易に行えるようになる。具体的には、押し込み通線可能な剛性を得るためには、光ファイバ素線を被覆した被覆層の直径を750〜900μmとした被覆光ファイバ素線を2本以上並べた光ファイバテープ心線にする必要がある。一方で、被覆光ファイバ素線の外径が太くなったり、素線数が5本以上になるとテープ心線の剛性が大きくなりすぎて曲がり難くなり、配管が曲がっていたりすると押し込みによる通線ができなくなる。
【0015】
また、被覆層の直径を750〜900μmと太くすることで、細径であった光ファイバ素線の視認性及び取扱い性を向上させることができ、また、その太くなった被覆層により対外傷性も高まる。また、この光ファイバテープ心線は、270≦N×Rc×Y≦3600を満たすことで、押し込みに適した剛性になる。また、テープ層の厚みとヤング率を20〜40μm、200〜1500MPaとすることで、配管内への押し込みが可能となると共に単心分離にも適した剛性を持つ光ファイバテープ心線となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明を適用した光ファイバテープ心線を示し、(A)はその横断面図、(B)は被覆光ファイバ素線の拡大断面図である。
【図2】図2(A)は配線実験に使用した配管の模式図、(B)は光ファイバテープ心線を配管内に挿入した時の断面図である。
【図3】図3はリール巻き振動試験に使用したリールに光ファイバテープ心線を巻回させた状態を示す図である。
【図4】図4はリール巻き振動試験に使用した振動試験機の上に光ファイバテープ心線を巻回したリールを載せ振動を加えて巻き崩れを測定する時の状態図である。
【図5】図5(A)は巻き崩れがない状態のリール、(B)は巻き崩れが生じた状態のリールの図である。
【図6】図6は光ファイバテープ心線が配管に何本目で通線できなくなるかを調べる配線実験に使用した配管の図である。
【図7】図7は2つの光ファイバテープ心線を重ねて配管に挿入した場合の外接円の大きさを示す図である。
【図8】図8(A)は6つの光ファイバテープ心線を縦に重ねて配管に挿入した場合の外接円の大きさを示す図、(B)は6つの光ファイバテープ心線のうち1つを縦向きにして配管に挿入することで外接円を小さくした図である。
【図9】図9(A)は比較例として使用したインドアケーブルの断面図、(B)は内径3.0mmの配管に1つのインドアケーブルを押し込んだ状態の断面図、(C)は内径4.0mmの配管に2つのインドアケーブルを押し込んだ状態の断面図である。
【図10】図10は耐外傷性を評価するための装置構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
[実施形態1]
先ず、本発明を提供した光ファイバテープ心線について説明する。図1は光ファイバテープ心線を示し、(A)はその横断面図、(B)は被覆光ファイバ素線の拡大断面図である。
【0019】
光ファイバテープ心線1は、図1(A)に示すように、複数本の被覆光ファイバ素線2(2A〜2D)を一列に並べて配列し、その配列した被覆光ファイバ素線2全体を樹脂で被覆してテープ化したテープ層3を備えた構造とされている。
【0020】
前記被覆光ファイバ素線2は、図1(B)に示すように、光ファイバ素線4を樹脂で被覆した被覆層5を持った構造となっている。光ファイバ素線4は、中心に設けられた石英ガラスファイバ6と、この石英ガラスファイバ6の周囲に紫外線硬化型樹脂を被覆して形成された樹脂層7とからなる。かかる光ファイバ素線4は、規格上、石英ガラスファイバ6の外径(直径Ra)を125μm、全体の外径(樹脂層7の直径Rb)を250μmとしている。前記樹脂層7は、ケーブルを識別するために着色(無色も含む)されている。
【0021】
前記被覆層5は、光ファイバ素線4の周囲を覆うようにして形成されている。押し込み通線を行うには、光ファイバ素線4に押し込み通線可能な剛性を持たせる必要がある。そこで本発明では、光ファイバ素線4を被覆する被覆層5を設けて、光ファイバ素線4自体の剛性を高めている。被覆層5は、例えばその直径Rcが750〜900μmとなるように紫外線硬化樹脂で形成される。また、紫外線硬化樹脂には、屈曲した配管部でも通線できるように適度な柔軟性も必要とされるため、150〜1200MPaのヤング率を有したものが使用される。
【0022】
前記被覆層5で光ファイバ素線4を被覆した被覆光ファイバ素線2は、押し込み通線を実現するために、その本数をN(本)、前記被覆層5の外径をRc(mm)、前記被覆層5のヤング率をY(MPa)とした場合に、270≦N×Rc×Y≦3600を満たす必要がある。押し込み通線を行うためには、ある程度元の被覆光ファイバ素線2の材料の弾性率、素線の本数により、押し込み通線に適した剛性を得ることが必要であり、前記関係式がその条件になる。
【0023】
前記被覆層5を持つことで剛性を高めた被覆光ファイバ素線2は、互いが接触するように一列に配列される。配列する被覆光ファイバ素線2の数は、2本〜4本とされる。被覆光ファイバ素線2の数が2本未満であると、剛性が足りず通線途中で折れてしまい、それ以上通線することができなくなる。この一方、被覆光ファイバ素線2の数が6本以上となると、剛性が高くなりすぎて曲り難くなるため、配管の屈曲部を通線することができなくなる。
【0024】
2〜4本並べられた被覆光ファイバ素線2の全体を被覆してテープ化するテープ層3は、厚みTを20〜40μm、ヤング率を200〜1500MPaとされる。これは、押し込み通線を行うためには、テープ層3にもある程度の剛性が必要であるが、厚みTが厚いと細い配管に通線できなくなり、剛性も高くなりすぎて配管の曲がった部位で引っ掛かる。また、テープ層3の厚みTが厚くヤング率が高いと、厚く硬くなりすぎて光ファイバテープ心線1を単心分離することが困難となり、配線後に単心での配線接続が不可能となる。
【0025】
ここで実際に、以下の条件で光ファイバテープ心線1を製造し、得られた光ファイバテープ心線1を図2に示す配管8に押し込みにより通線する実験を行った。直径Ra125μmの石英ガラスファイバ6を樹脂層7で被覆することで全体の外径(樹脂層7の直径Rb)を250μmとした光ファイバ素線4を製造し、この光ファイバ素線4にヤング率150〜1200MPaの4種類の紫外線硬化樹脂を被覆して直径Rc500〜1200μmの被覆層5を持つ被覆光ファイバ素線2を製造した。
【0026】
そして、この被覆光ファイバ素線2を1〜4本使用して一列に並べて配列(1本のものはそままの状態と)した後、ヤング率(Y)600MPaの紫外線硬化樹脂をその厚さTが30μmとなるように被覆光ファイバ素線2全体を被覆してテープ層3を形成した光ファイバテープ心線1を製造した。
【0027】
配管8は、図2(A)に示すように、全長5mのナイロン製の円筒配管を、90度の曲り角部8a〜8iが9箇所できるように、直角に折り曲げられた板9上に設けた。前記配管8の曲り角部8a〜8iは、半径40mmのR形状とした。また、配管8の曲り角部8a〜8i間の直線距離Lは50cmとした。配管8の内径Rdは、図2(B)に示すように、製造した光ファイバテープ心線1を長方形としたときの対角線を直径とする径を該光ファイバテープ心線1の外接円10とした場合、その外接円10の直径Reよりも0.5〜2.0mm大きくした。
【0028】
この実験では、1本の光ファイバテープ心線1を配管8に手で押し込んで通線した時に、通線出来たか否かを判断した。その結果を表1−A及び表1−Bに示す。これら表1−A、1−Bに記載される押し込み通線性は、光ファイバテープ心線1を配管8の入口から手で押し込んで出口から出た場合を通線可能として○、出口から光ファイバテープ心線1が出なかった場合を通線不可として×で評価した。
【0029】
また、表1−A、1−Bの心数Nは被覆光ファイバ素線2の数、心線外径Rcは被覆光ファイバ素線2の外径(被覆層5の直径Rc)、被覆層ヤング率Yは被覆層5のヤング率をそれぞれ表す。
【表1−A】

【表1−B】

【0030】
その結果、これらの表1−A、1−Bから明らかなように、心線外径(被覆層5の直径Rc)が750〜900μmの場合にのみ、押し込みで通線となった。心線外径が500μmの場合は、被覆光ファイバ素線2自体の剛性が足らず、押し込み量が増えるにつれて心線と配管8の摩擦に対して心線の剛性が負けてしまい、途中で押し込むことが不可能な状態となった。また、心線外径が1200μmの場合は、テープ心線の剛性が強くなりすぎて、配管8の曲り角部8a〜8iにおいて押し込むことが不可能となってしまった。
【0031】
また、心数N(被覆光ファイバ素線2の数)が1本および4本の場合では、心線外径Rc(被覆層5の直径Rc)が750〜900μmであっても、通線は不可能であった。これも、前述と同様の理由であるが、被覆光ファイバ素線2が1本であると心線の剛性が足らず、途中で押し込むことが不可能になる。また、被覆光ファイバ素線2が5本になると、剛性が強くなりすぎて、配管8の曲り角部8a〜8iにおいて押し込むことが不可能になってしまうためであると考えられる。
【0032】
心線外径Rc(被覆層5の直径Rc)が750〜900μmの場合において、被覆光ファイバ素線2の心数をN(本)、被覆層5の外径をRc(mm)、被覆層5のヤング率をY(MPa)とした場合に、270≦N×Rc×Y≦3600を満たす場合において、通線は可能であった。これも前述までの理由と同様であるが、N×Rc×Yの値は、心線全体の剛性とおおよそ等しく、この値が270に満たない場合は、被覆光ファイバ素線2全体の剛性が弱いため、また、この値が3600を超えると剛性が強くなりすぎるため、通線できなくなると考えられる。
【0033】
また、テープ層3の厚みTとヤング率を、表2に示すように変化させた時の押し込み通線性と単心分離性並びに総合評価を調べた。ここでは、先に製造した光ファイバテープ心線1に対して、被覆層5のヤング率Yを300MPa及び900MPaの2種類に限定して直径900μmの被覆光ファイバ素線2とした点が異なる。また、テープ層3の厚みTを10〜80μm、そのヤング率を50〜2000MPaの間で変えた点が異なる。
【表2】

【0034】
表2に示した通り、テープ層3のヤング率が200MPa未満の場合は、テープ層3を厚くしても通線に必要な剛性が得られず、押し込み通線ができない結果となった。一方、テープ層3のヤング率が2000MPaの場合でも、テープ層3の剛性が強くなりすぎ、管路3の曲り角部8a〜8iにおいて押し込むことが不可能な結果となった。また、テープ層3のヤング率が800〜1500MPaの場合でも、テープ層3の厚さが80μmの場合は、テープ層3が固く、厚くなりすぎて、単心に分離できない状態となった。結果として、今回の光ファイバテープ心線1に使用するテープ層3の層の厚さが20〜40μm且つヤング率が200〜1500MPaの場合において、押し込み通線が可能で且つ単心分離が可能な光ファイバテープ心線1を得ることができた。
【0035】
[実施形態2]
実施形態2では、実施形態1の光ファイバテープ心線1の構成に加えて、前記被覆層5を、日本工業規格JISK7105で測定したときのヘーズが25%以下としている。その他の構成は、実施形態1と同様であり、断面形状も図1と同じであるので実施形態2では図示を省略する。
【0036】
ヘーズは、プラスチックの光学的特性試験方法(日本工業規格JISK7105)に基づく値で、透明材料のにごり具合を判断する数値である。このヘーズの数値が多きなる程、濁りが強くなり、数値が小さくなる程、濁りが薄くなる。実施形態2では、前記被覆層5のヘーズを25%以下としているので、濁りが少なく着色された光ファイバ素線4が何色であるかを判別することが可能となっている。
【0037】
従って、着色された光ファイバ素線4をヘーズが25%以下の被覆層5で被覆していても、この被覆層5の上から光ファイバ素線4の着色を目視によって識別することができる。これにより、複数本並べて配列した被覆光ファイバ素線2を見分けることが容易になる。
【0038】
ここで実際に、被覆層5のヘーズを1〜98%の範囲内で任意の数値として直径Rc900μmの被覆光ファイバ素線2を形成し、その被覆光ファイバ素線2を4本並べて厚み30μmのテープ層3を形成してテープ化した光ファイバテープ心線1を製造した。使用した光ファイバ素線4は、一般的に使用される12色(青、黄、緑、赤、紫、白、茶、灰、桃、水、橙、黒)の中で見分け難いとされる4色(白、水、黄、灰)の着色光ファイバ素線4を用いて被覆光ファイバ素線2を作成した後、実施形態1と同様に厚さ30μmのテープ層3を施して光ファイバテープ心線1を作成した。同一テープ内において、ランダムに配置した4色の光ファイバ素線4が識別可能であったかどうかを試験した。その結果を表3に示す。
【表3】

【0039】
表3に示した通り、被覆層5のヘーズが25%以下であれば、目視により光ファイバ素線4の着色を識別することができた。ヘーズが38%及び85%では、被覆層5が濁って見難く光ファイバ素線4の着色を識別することができなかった。
【0040】
[実施形態3]
実施形態3では、実施形態1又は2の光ファイバテープ心線1の構成に加えて、前記テープ層3の表面動摩擦係数を、日本工業規格JISK7125で測定したときの値として0.10〜0.55としている。その他の構成は、実施形態1又は2と同様であり、断面形状も図1と同じであるので実施形態3では図示を省略する。
【0041】
光ファイバテープ心線1を配管8内に押し込んで通線するためには、テープ層3が配管8の内壁にくっつき難く滑り易いことが必要である。この一方で、テープ層3が配管8の内壁に対して滑りが良すぎても光ファイバテープ心線1をリール等に巻回して運搬した時に、運搬時の振動により巻き崩れが生じてはならない。これらの要求を満たす前記テープ層3の表面動摩擦係数の範囲が、0.10〜0.55である。
【0042】
ここで実際に、テープ層3の表面動摩擦係数を表4に示すように変化させて製造した光ファイバテープ心線1の押し込み通線性とリール巻き振動試験を評価した。光ファイバテープ心線1には、実施形態1又は2の被覆光ファイバ素線2を2〜4本並べてヤング率800MPaの表面性が異なる6種類の樹脂A、B、C、D、E、Fをその厚みが30μmとなるように被覆してテープ層3を形成したサンプルを用いた。そして、各サンプルの光ファイバテープ心線1を配管8に手で押し込んで通線させた。通線条件は、実施形態1と同じとした。
【0043】
表面動摩擦係数は、日本工業規格JISK7125に記載された方法で測定した。また、リール巻き振動試験は、図3に示すリール11に光ファイバテープ心線1を巻き付けた後、そのリール11を図4の振動試験機12の上に固定部材13にて固定して、振幅4mm、周波数30Hzにて10分間振動させた。リール11のサイズは、巻き付け部となる胴径Dを200mm、巻き幅Wを100mmとした。光ファイバテープ心線1は、全長200mとしてリール11に巻き付けた。図5(A)のように光ファイバテープ心線1が巻き崩れしない場合を○、図5(B)のように光ファイバテープ心線1が巻き崩れた場合を×として評価した。また、押し込み通線性とリール巻き振動試験の評価が何れも良い場合(○)を総合評価○とし、何れか一方がだめ(×)な場合を総合評価×として評価した。それらの結果を表4に示す。
【表4】

【0044】
表4に示した通り、表面動摩擦係数が0.55以下の場合においては、押し込み通線が可能であった。また、表面動摩擦係数が0.10未満の場合においては、リール巻き状態で振動を加えたところ、巻き崩れが発生してしまった。この結果から、押し込み通線可能であり且つリール巻き時の運搬に支障がない光ファイバテープ心線1を得るには表面動摩擦係数が0.10〜0.55の範囲になっている必要があることが判明した。
【0045】
[実施形態4]
実施形態4では、実施形態1〜3の構成に加えて、図2(B)で示すように、光ファイバテープ心線1を長方形としたときの対角線を直径とする径を該光ファイバテープ心線1の外接円10とした場合において、その外接円半径をRt(mm)としたときに、前記配管8の内径を2×Rt+0.4mm以上として、光ファイバテープ心線1を配管8内に押し込んで通線させる。前記関係式は、1本の光ファイバテープ心線1を配管8内に手押しにより通線させるための条件式であり、この条件を満たすことで光ファイバテープ心線1を通線させることが可能となる。
【0046】
光ファイバテープ心線1を配管8に対して押し込みにより通線するためには、配管8と光ファイバテープ心線1との間にある程度の隙間がないと、光ファイバテープ心線1と配管8の内壁面との摩擦が大きくなり通線できなくなる。そこで、光ファイバテープ心線1と配管8との間に0.4mm以上の隙間を設けることで、引っ掛かりなく光ファイバテープ心線1の通線を実現する。
【0047】
ここで実際に、石英ガラスファイバ6の外径(直径Ra)を125μm、樹脂層7の直径Rbを250μmとした着色された光ファイバ素線4に、ヤング率900MPaの紫外線硬化樹脂を被覆して被覆層5を持つ被覆光ファイバ素線2を作製した。そして、この被覆光ファイバ素線2を2〜4本並べて実施形態3で使用した樹脂Dで被覆して厚み30μmのテープ層3を形成した光ファイバテープ心線1を製造した。製造した光ファイバテープ心線1を、図2に示す配管8に押し込んで押し込み通線性を評価した。この時、光ファイバテープ心線1と配管8の隙間(外径差)を表5のように変化させて、通線可能か否かを調べた。その結果を表5に示す。
【表5】

【0048】
表5に示す通り、作成した光ファイバテープ心線1において、この光ファイバテープ心線1の外接円10の径Reよりも配管8の内径Rdが0.4mm以上大きい場合(外径差が0.4mm以上の場合)において、押し込みによる通線が可能な結果となった。また、通線に使用する材質には依存せず、すべて同様の結果となった。したがって、今回作成した光ファイバテープ心線1を押し込み通線する場合においては、該光ファイバテープ心線1の外接円10よりも0.4mm以上大きい径を持つ配管8内であれば、通線が可能であると言える。また、本実験結果は、配管8の材質としてナイロン(登録商標)、ポリウレタン、シリコーン、アルミニウム、ステンレス鋼などで同様の結果を得ることができた。
【0049】
[実施形態5]
実施形態5では、実施形態1〜4の構成の光ファイバテープ心線1を同一配管8内に複数本押し込んで通線させる例である。配管8には、通常、複数本の光ファイバテープ心線1を通線するため、前記した本発明の光ファイバテープ心線1がどれだけ配管8内に通線することができるのかを実験して評価した。
【0050】
光ファイバテープ心線1には、実施形態4で製造したものを使用した。この実験では、図6に示した配管8に光ファイバテープ心線1を1本ずつ押し込んで行き、何本目で通線できなくなるかを確認した。その結果を表6に示す。また、表6には、通線可能だった光ファイバテープ心線1の本数分だけテープ心線を積層した時の外接円の径も併せて示した。表6に記載される2心テープは被覆光ファイバ素線2が2本である光ファイバテープ心線であり、3心テープは被覆光ファイバ素線2が3本である光ファイバテープ心線であり、4心テープは被覆光ファイバ素線2が4本である光ファイバテープ心線である。
【表6】

【0051】
図7は、2つの光ファイバテープ心線1を重ねて配管8に挿入した場合の外接円10の大きさを示す図である。図8(A)は6つの光ファイバテープ心線1を縦に重ねて配管8に挿入した場合の外接円10の大きさを示す図、(B)は6つの光ファイバテープ心線1のうち1つを縦向きにして配管8に挿入することで外接円10を小さくした図である。積層高さがテープ心線の幅を超えると(図8(A)の状態)、その超えた分に相当する光ファイバテープ心線1を積層せずに縦向きにした方が(図8(B)の状態)外接円10を小さくできる。このような場合は、最も外接円10が小さくなるように積層したときの外接円10の径を示した。
【0052】
表6に示したように、光ファイバテープ心線1の積層状態の外接円10よりも大きい配管8に対して、複数本押し込みにより通線できることが判った。
【0053】
比較例として、図9(A)に示すように、縦横それぞれ1.6mm、2.0mmの細径のインドアケーブル14を内径2.5mm〜4.0mmの配管8に押し込んで何本通線可能であったかを調べた。インドアケーブル14は、直径250μmの着色光ファイバ素線15の両側に抗張力体16を配置して紫外線硬化樹脂で被覆した被覆層17を持つ。図9(B)には内径3.0mmの配管8に1つのインドアケーブル14を押し込んだ状態を示し、図9(C)には内径4.0mmの配管8に2つのインドアケーブル14を押し込んだ状態を示す。
【0054】
表7の通り、実施形態5の光ファイバテープ心線1の方が、細径インドアケーブル14よりも敷設可能本数が多く、細径配管8に対する敷設条数の優位性が示されたといえる。また、この例で用いた光ファイバテープ心線1の光ファイバ素線4はテープ心線1本に対して2心あるので、敷設可能な心数はさらに多くなり、実施形態5のテープ心線はより優位であると考えられる。
【表7】

【0055】
また、図9(A)の細径インドアケーブル14に内蔵されている直径250μmの着色された光ファイバ素線15と、実施形態1の光ファイバテープ心線1に使用した直径750〜900μmの被覆光ファイバ素線2について、耐外傷性を評価した。試験方法は、図10に示すように、テープ巻き付け部に360番手(#360)のサンドペーパを装着したマンドレル18と表面に凹凸の無いマンドレル19を500mmの高低差Hを持って上下にそれぞれ配置し、それらマンドレル18、19に細径インドアケーブル14と実施形態1の被覆光ファイバ素線2を巻き付けた後、一方(上方)のマンドレル18を固定し、他方(下方)のマンドレル19を100mm/分の速度で図10中矢印で示すように下方へ引っ張り、それらケーブル及びテープ心線を破断させた。その試験結果を表8に示す。
【表8】

【0056】
表8は、サンプル数n=100の結果である。表8中、F50の強度は、全データの中央値を示す。実施形態1の被覆光ファイバ素線2は、φ250μmの着色された光ファイバ素線4の上層に厚い被覆層5からなる緩衝層があるため、マンドレル18にサンドペーパーを巻いた状態で引張り破断強度を測定した場合でも、通常(サンドペーパーなし)と同等の破断強度であることが分かった。これは、光ファイバケーブル同士の接続作業時に単心の素線(心線)の状態になったとき、誤って成端箱内に引っ掛けるなどをした場合でも、外傷を受け難くなる。したがって、接続作業時の耐外傷性についても、実施形態1の光ファイバテープ心線1の優位性が示されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、複数本の光ファイバ素線を一列に配列して樹脂で被覆してなる光ファイバテープ心線に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…光ファイバテープ心線
2(2A〜2D)…被覆光ファイバ素線
3…テープ層
4…光ファイバ素線
5…被覆層
6…石英ガラスファイバ
7…樹脂層
8…配管
8a〜8i…曲り角部
11…リール
12…振動試験機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ素線を樹脂で被覆した被覆層を持つ被覆光ファイバ素線を、一列に2〜4本並べて樹脂でその全体を被覆してテープ化したテープ層を備えた光ファイバテープ心線であって、
前記被覆層の直径を750〜900μmとし、
前記テープ層の厚みを20〜40μm、ヤング率を200〜1500MPaとし、
前記被覆光ファイバ素線の本数をN(本)、前記被覆層の外径をRc(mm)、前記被覆層のヤング率をY(MPa)とした場合に、270≦N×Rc×Y≦3600を満たす
ことを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバテープ心線であって、
前記光ファイバ素線は着色されており、且つ、前記光ファイバ素線を被覆した被覆層は日本工業規格JISK7105で測定したときのヘーズが25%以下である
ことを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光ファイバテープ心線であって、
前記テープ層の表面動摩擦係数は、日本工業規格JISK7125で測定したときの値として0.10〜0.55を満たす
ことを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の光ファイバテープ心線を円筒形状の配管内に手で押し込んで通す光ファイバテープ心線の通線方法であって、
前記光ファイバテープ心線を長方形としたときの対角線を直径とする径を該光ファイバテープ心線の外接円とした場合において、その外接円半径をRt(mm)としたときに、前記配管の内径を2×Rt+0.4mm以上として、光ファイバテープ心線を配管内に押し込んで通線させる
ことを特徴とする光ファイバテープ心線の通線方法。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバテープ心線の通線方法であって、
前記光ファイバテープ心線を同一配管内に複数本押し込んで通線させる
ことを特徴とする光ファイバテープ心線の通線方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−8475(P2012−8475A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146552(P2010−146552)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】