説明

光ファイバ保護用パイプ及び光ファイバケーブル

【課題】台湾リスなどのげっ歯類から光ファイバケーブルを保護することのできる光ファイバ保護用パイプ及び光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】光ケーブル又は光ファイバ心線を挿通するための光ファイバ保護用パイプであって、内層5を高密度ポリエチレンにより構成し、外層7をポリアミドにより構成して少なくとも2層構造としてあり、内層5の高密度ポリエチレンの厚さは0.5mm〜2.0mmであり、外層7のポリアミドの厚さは0.75mm〜2.0mmである。そして、内層5と外層7との合計の厚さは1.5mm〜2.75mmであり、内層5の内周面の摩擦係数を0.3以下にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空配線、電柱上の配線或いは架空クロージャから住宅、ビル等の建物に引き込む光ファイバケーブルを保護するための光ファイバ保護用パイプ及び同パイプを使用した光ファイバケーブルに係り、さらに詳細には、例えば台湾リスなどから光ファイバを保護するための保護用パイプ及び同パイプを使用した光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば架空クロージャから加入者宅へ光ファイバケーブルを引き込む構成において、地域によっては、クマゼミが小枝等と誤って産卵管を光ファイバケーブルに刺すことにより光ファイバ心線が断線されることがある。また、台湾リスなどのげっ歯類が光ファイバケーブルの外被をかじることがある。さらには、コウモリ蛾の幼虫が光ファイバケーブルの外被をかじり外被を穿孔したり、カラスが細径の光ファイバケーブルを食いかじるなど、小動物等による被害が発生している。
【0003】
そこで、小動物や鳥虫害対策として、光ファイバケーブルの外装として、波付き加工を施したステンレステープを光ファイバケーブルに縦添えし、フォーシング(丸め)した構造のものもある。この種の光ファイバケーブルにおいては、端末の口出し作業(光ファイバ心線を出す作業)に手間が掛かると共に、ケーブルを小径に曲げるとステンレステープが座屈するため、ケーブルを小径に曲げることが難しいという問題がある。
【0004】
また、従来の光ファイバケーブルとして、光ファイバケーブル上にステンレス線の編組を施したステンレス編組外装の構造のものもある。この構造においては、口出し作業時に、編組を構成するステンレス線をニッパ等の切断工具によって切断する必要があり、口出し作業に時間を要するという問題がある。
【0005】
さらに、メッシュ状のステンレス線を貼り付けた防リス用の融着テープを光ファイバケーブルの外被に巻き付けて使用する構成もある。この構成は、既設の光ファイバケーブルに対しても簡便に対策可能であるという利点がある。しかし、細径の光ファイバケーブルには巻き難いという問題があると共に、長い光ファイバケーブルに対して広範囲に巻き付けるには作業上の手間が掛かるという問題がある。
【0006】
そして、前述の従来のいずれの構成においても、ステンレスなどの金属によって外装を構成するものであるから、電力ケーブルに近接する環境においては誘導対策が必要であるなどの問題がある。
【0007】
なお、本発明に関係すると思われる先行技術文献として例えば特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4215260号公報
【特許文献2】特開2008−61385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明は、セミの産卵管が刺された場合であっても、ドロップケーブルに備えた光ファイバ心線に前記産卵管が到達しないように、プラスチック又は金属からなる防護壁を予めドロップケーブルに一体的に備えた構成である。この構成においては、セミの産卵管が刺された場合には対応し得るとしても、かじり力が強力なリス等の小動物対策としては問題がある。
【0010】
前記特許文献2に記載の発明は、外周面に動物忌避剤を設けた筒状の内管の外周面に、厚いテープ状の素材を螺旋状に巻き付けて、外周面に溶着固定した構成である。この構成においては、カッタや鋏によって長手方向の切り込みを入れ、この切り込みの部分を拡開してケーブルを内装するものである。したがって、前記切り込みが残ることとなり、場合によっては切り込みが開かないとも限らず、また、切込みを介してケーブルがリス等によってかじられないとも限らず、確実性に問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述のごとき従来の問題に鑑みてなされたもので、光ケーブル又は光ファイバ心線を挿通するための光ファイバ保護用パイプであって、内層を高密度ポリエチレンにより構成し、外層をポリアミドにより構成して少なくとも2層構造としてあることを特徴とするものである。
【0012】
また、前記光ファイバ保護用パイプにおいて、内層の高密度ポリエチレンの厚さは0.5mm〜2.0mmであり、外層のポリアミドの厚さは0.75mm〜2.0mmであることを特徴とするものである。
【0013】
また、前記光ファイバ保護用パイプにおいて、内層と外層との合計の厚さは1.5mm〜2.75mmであることを特徴とするものである。
【0014】
また、前記光ファイバ保護用パイプにおいて、内層の内周面の摩擦係数を0.3以下にしてあることを特徴とするものである。
【0015】
また、前記光ファイバ保護用パイプを使用した光ファイバケーブルであって、前記光ファイバ保護用パイプ内に光ファイバ心線を挿通してあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高密度ポリエチレンの内層を被覆する外層としてポリアミドを備えた構成であるから、すなわち蟻、蛾等の昆虫による咬害に効果がある硬いポリアミドを外被として備えているので、例えば、クマゼミの産卵管から光ファイバ心線を保護することができると共に、台湾リス等の小動物がかじることによる被害を防止できるものである。また、例えばステンレス等の金属を使用していないので口出し作業が容易であり、かつ誘導対策も不要であり、前述したごとき従来の問題を解消し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る光ファイバ保護用パイプの断面説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光ファイバ保護用パイプを使用した光ファイバケーブルの断面説明図である。
【図3】リス耐性試験の説明図である。
【図4】模擬歯の説明図である。
【図5】リス耐性試験の結果を示した説明図である。
【図6】光ファイバケーブル挿通試験時の光ファイバ保護用パイプの形態を示す説明図である。
【図7】光ファイバケーブルの断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照するに、本発明の実施形態に係る光ファイバ保護用パイプ1は、図2に示すように、光ファイバケーブル3を挿通して使用するもので、断面形状は円形状に形成してある。前記光ファイバ保護用パイプ1は内層5と外層7を備えた2層構造に構成してある。
【0019】
前記内層5は、摩擦係数の低い材料である高密度ポリエチレンを用いて光ファイバケーブル3の挿通性を良好に保持している。また、脂肪酸アミドやシリコーンを含む添加剤を高密度ポリエチレンに添加することにより、さらに摩擦を低減することができ、挿通性のよい光ファイバ保護用パイプ1とすることができる。なお、内層5の摩擦係数は0.3以下に設定してある。
【0020】
前記外層7は、蟻、蛾等の昆虫による咬害に効果がある硬いポリアミドを用いている。外層7としてポリアミドの厚さを厚くすると、クマゼミの産卵管による刺し込みから光ファイバケーブル3を保護することができると共に、例えば台湾リスなどの小動物によるかじり被害からも保護することができるものである。
【0021】
架空光ファイバケーブルに加害する代表的なげっ歯類として台湾リスが知られている。そこで、かじり力測定センサが開発され、台湾リスのかじり力の測定が行われている。台湾リスのかじり力の最大値は約62Nであり、最低値は10N程度である。そして、かじり回数は、1秒間当たり約6〜7回の速度であることが知られている。
【0022】
そこで、前記構成の光ファイバ保護用パイプ1においてのリス耐性試験を行った。このリス耐性試験を行うに当たっては、図4に示すように、台湾リスの門歯に似た鋼製の模擬歯9を作成した。この模擬歯9の幅寸法は約3mmで厚さ寸法は約1.5mmであり、先端角度は約20°で鋭利に形成してある。そして、図3に示すように、光ファイバ保護用パイプ1内に偏平防止用の金属棒11を両端側から挿入し、この金属棒11の内端部の間隔寸法を約10mmに保持した。上記光ファイバ保護用パイプ1を、上面が平面である固定台13上に載置した後、前記模擬歯9を前記金属棒11間のほぼ中央部に突き刺し、そのときに光ファイバ保護用パイプ1内に貫通するのに要した荷重(貫通力)を、ロードセル15によって測定した。
【0023】
前述のごとく耐リス試験をしたときの内層5としての高密度ポリエチレン層の厚さ(mm)、外層7としてのポリアミド層の厚さ(mm)と貫通力(N)及び外被除去性との関係は、図5に示すとおりであった。ここで、耐リス性としては、貫通力が62N以上の場合に丸印とした。そして、外被除去性については、外被としての外層、内層の切り裂き性が比較的容易な場合には丸印とし、切り裂き性が多少悪くなった場合には三角印とした。
【0024】
前記試験結果から理解されるように、内層5のみであって、サンプル1〜4に示すように、高密度ポリエチレン厚の厚さが0.5mm〜2.0mmにおいては、外被除去性は良好であるものの、貫通力は57N以下であり、耐リス性においては問題があることが理解される。次に、サンプル5に示すように、内層5の厚さを0.5mmとし、ポリアミド層(外層7)の厚さを0.75mmとした場合には、耐リス性に問題がある。しかし、サンプル6に示すように、内層5及び外層7の厚さを共に0.75mmとした場合には、耐リス性及び外被除去性は良好であった。また、内層5を1.0mm、外層7を0.75mmとした場合も同様であった。
【0025】
そこで、次に、サンプル8に示すように、外層7のみの構成とし、1.0mmの厚さとした場合には、外被除去性は良好であっても耐リス性に問題がある。よって、外層7の厚さを1.0mmとして、サンプル9、10に示すように、内層5の厚さを0.5mm、0.75mmとした場合には、耐リス性及び外被除去性は良好であった。次に、外層7の厚さをさらに厚くし(2.0mm)、サンプル11に示すように、外層7のみの構成とした場合には、耐リス性は良好であるが、外被除去性が多少悪くなった。そこで、サンプル12に示すように、外層7の厚さを2.0mmに保持し、内層5を0.75mmとして見たところ、当然のこととして耐リス性は良好であるものの、外被除去性はより悪くなったが、除去不可能ではなかった。
【0026】
上記試験結果から明らかなように、内層5の厚さは0.5mm〜1.0mmの範囲で、外層7の厚さは0.75mm〜1.0mmの範囲であって、内層5と外層7との合計の厚さは1.5mm〜1.75mmの範囲であることが好ましい。しかし、サンプル4に示すように、内層5の厚さは2.0mmであっても外被除去性は良好である。そして、サンプル12に示すように、内層5の厚さを0.75mm、外層7の厚さを2.0mm、すなわち合計の厚さを2.75mmとした場合であっても、外被除去は可能であるから、サンプル6、7を参考にして、外層7の厚さを0.75mmとし、サンプル4を参考として内層5の厚さを2.0mmとすることも可能である。すなわち、内層5の厚さを0.5mm〜2.0mmの範囲とし、外層7の厚さを0.75mm〜2.0mmの範囲とし、合計したときの厚さを1.5mm〜2.75mmの範囲とすることも可能である。
【0027】
次に、前記構成の光ファイバ保護用パイプ1に対して光ファイバケーブルを挿通して使用することに問題がないか否かを調べるために、内層5の厚さ0.75mm、外層7の厚さ1.0mmとし、内径4.5mm、外形8.0mmの光ファイバ保護用パイプ1を5m使用し、図6に示すように、7箇所の曲りを形成して挿通性を確認した。すなわち、曲り部Aは右方向から後方向への曲りであり、曲り部Bは、前方向から下方向への曲りである。曲り部Cは上方向から前方向への曲りであり、曲り部Dは後方向から右方向への曲りである。そして、曲り部Eは左方向から下方向への曲りであり、曲り部Fは上方向から左方向への曲りである。曲り部Gは曲り部Aと同様に右方向から後方向への曲りである。なお、前記各曲り部A〜Gの半径Rは80mmであり、90°の曲りである。
【0028】
前記光ファイバ保護用パイプ1に挿通する光ファイバケーブル17の構成は図7に示すとおりである。すなわち、一対のアラミドFRP19の間に0.9mm光ファイバ心線21を2本並列し、かつ上記アラミドFRP19及び0.9mm光ファイバ心線21を黒色ポリエチレン23でもって被覆し、外形を4mmに形成した。そして、上記黒色ポリエチレン23に、引き裂き用のノッチ部25を備えた構成である。上記構成の光ファイバケーブル17の先端部を、長手方向に対して直交する方向に切断し、この光ファイバケーブル17を、図6に示す矢印方向から光ファイバ保護用パイプ1の一端側からパイプ内に挿通したところ、何等の問題を生じることなく、パイプの他端から光ファイバケーブル17の先端部が突出した。
【0029】
したがって、光ファイバ保護用パイプ1を予め敷設した後に、当該光ファイバ保護用パイプ1の一端側から光ファイバケーブル17を挿通することが可能である。また、光ファイバ保護用パイプ1内に予め光ファイバケーブル17(3)を備えた構成として、口出し作業を行うことも可能である。
【0030】
既に理解されるように、光ファイバ保護用パイプ1に後から光ファイバケーブルを挿通することや、光ファイバ保護用パイプ1内に予め光ファイバケーブルを備えた構成として口出し作業を行うことが可能である。そして、前記光ファイバ保護用パイプ1は、台湾リスなどのげっ歯類から光ファイバを保護することができる。また、例えばステンレスなどの金属を使用する必要がないので、切断、口出し作業が容易であると共に誘導対策が不要である。さらに、小径に曲げた場合であっても座屈を生じ難いので、ステンレスなどの金属を外装に使用した場合に比較して取り扱いが容易である。
【符号の説明】
【0031】
1 光ファイバ保護用パイプ
3,17 光ファイバケーブル
5 内層
7 外層
9 模擬歯
11 金属棒
13 固定台
15 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ケーブル又は光ファイバ心線を挿通するための光ファイバ保護用パイプであって、内層を高密度ポリエチレンにより構成し、外層をポリアミドにより構成して少なくとも2層構造としてあることを特徴とする光ファイバ保護用パイプ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバ保護用パイプにおいて、内層の高密度ポリエチレンの厚さは0.5mm〜2.0mmであり、外層のポリアミドの厚さは0.75mm〜2.0mmであることを特徴とする光ファイバ保護用パイプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光ファイバ保護用パイプにおいて、内層と外層との合計の厚さは1.5mm〜2.75mmであることを特徴とする光ファイバ保護用パイプ。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の光ファイバ保護用パイプにおいて、内層の内周面の摩擦係数を0.3以下にしてあることを特徴とする光ファイバ保護用パイプ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光ファイバ保護用パイプを使用した光ファイバケーブルであって、前記光ファイバ保護用パイプ内に光ファイバ心線を挿通してあることを特徴とする光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−242717(P2011−242717A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117079(P2010−117079)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】