説明

光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置

【課題】 伝搬される光の損失が小さい光ファイバ素線の製造を実現できる光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 光ファイバ素線10の製造方法は、光ファイバ母材1から溶融ガラス11を線引きする線引工程と、冷却装置30により、溶融ガラス11を冷却固化することで光ファイバ12とする冷却工程と、被覆装置40により、光ファイバ12に樹脂を塗布し、塗布した樹脂を硬化することで、光ファイバ12を樹脂層により被覆して光ファイバ素線10とする被覆工程と、を備える光ファイバの製造方法であって、線引工程における溶融ガラス11、及び、被覆工程における光ファイバ12の振動周波数が10Hz以上200Hz以下とされていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、表面の傷つき等を防止するために樹脂層により被覆され光ファイバ素線として使用される場合がある。このような光ファイバ素線の製造においては、線引タワーの上部に設けられた紡糸炉において、光ファイバ母材が溶融されて溶融ガラスが糸状に線引きされ、線引きされた糸状の溶融ガラスが冷却固化されて光ファイバとされる。その後、光ファイバが樹脂層で被覆されて光ファイバ素線とされることで、光ファイバ素線が製造される。
【0003】
このような光ファイバ素線は、光ファイバの径や、樹脂層の層厚が一定となっていない場合、光ファイバ素線により伝搬される光の損失が大きくなるという問題がある。このような光ファイバの径や樹脂層の層厚が一定とならない原因の一つとして、光ファイバ素線の製造過程において、線引きされた溶融ガラスや光ファイバが振動してしまうことが知られている。このため、光ファイバを製造する場合、光ファイバに与えられる振動を抑制して、光ファイバ径、及び樹脂層の層厚等を一定にする試みがなされている。
【0004】
下記特許文献1には、線引タワーの振動を抑制することで、光ファイバの品質低下を防止する光ファイバ線引装置が記載されており、下記特許文献2には、光ファイバ母材の振動を抑制することで、光ファイバの品質低下を防止する光ファイバ線引装置が記載されている。
【特許文献1】特開平10−1324号公報
【特許文献2】特開2004-161499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、上記特許文献1に記載の光ファイバ線引装置により線引タワーの防振を行ったり、上記特許文献2に記載の光ファイバ線引装置により、光ファイバ母材の防振を行ったりしても、未だ光ファイバ、及び、光ファイバ母材から線引きされる溶融ガラスが振動する場合がある。これは、上記特許文献1及び2に記載の光ファイバ線引装置は、非常に低い振動周波数(例えば、数Hz程度)の振動を抑制するのに効果があるが、溶融ガラスを冷却する冷却装置に用いられるガスの流れや、樹脂層で光ファイバを被覆するときに樹脂を硬化する硬化装置に用いられるガスの流れ等による高い振動周波数(例えば、100〜500百Hz)の振動には効果があまりないためである。
【0006】
このため、上記特許文献1、2に記載の光ファイバ線引装置により、光ファイバ素線を製造しても、光ファイバの径の変動が大きい場合や、樹脂層の層厚の変動が大きい場合があるため、伝搬される光の損失が大きくなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、伝搬される光の損失が小さい光ファイバ素線の製造を実現できる光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、光ファイバ母材から線引きされるガラス、及び、線引きされるガラスが固化した光ファイバが振動する周波数が全周波数に渡って抑制されている必要はなく、周波数が一定の範囲となっていれば、光ファイバの径の変動、及び、光ファイバを被覆する樹脂層の層厚の変動が抑制されることを見出し、本発明をするに至った。
【0009】
すなわち本発明の光ファイバ素線の製造方法は、光ファイバ母材から溶融ガラスを線引きする線引工程と、前記溶融ガラスを冷却固化することで光ファイバとし、前記光ファイバを冷却装置により冷却する冷却工程と、被覆装置により、前記光ファイバに樹脂を塗布し、塗布した樹脂を硬化することで、前記光ファイバを樹脂層により被覆して光ファイバ素線とする被覆工程と、を備える光ファイバの製造方法であって、前記線引工程における溶融ガラス、及び、前記被覆工程における光ファイバの振動周波数が10Hz以上200Hz以下とされていることを特徴とするものである。
【0010】
このような光ファイバ素線の製造方法によれば、線引工程において溶融ガラスが引き出される。この際、溶融ガラスの振動周波数が10Hz以上であるため、溶融ガラスが冷却固化した光ファイバは径の変動が抑制される。この理由は定かではないが、本発明者らは、溶融ガラスの振動周波数が、10Hz以上であるため、光ファイバ母材から溶融ガラスが引き出された直後のネックダウン形状が、溶融ガラスの緩やかな振動によって、紡糸炉の中心軸から溶融ガラスの軸がずれたときに生じる、パスライン中の光ファイバの周期的な変動が抑制され、安定しているためと考えている。
【0011】
さらに、冷却固化した光ファイバの振動周波数は、被覆工程において、200Hz以下とされるため、光ファイバを被覆する樹脂層の層厚の変動が抑制される。本発明者らは、この理由を光ファイバに樹脂が塗布され、塗布された樹脂が硬化するとき、光ファイバの軸が、安定するためであると考えている。つまり、振動周波数の高い光ファイバにより、光ファイバと光ファイバを被覆する樹脂との界面における表面張力が安定せずに樹脂層の層厚に乱れが生じることが抑制されるためであると考えている。
【0012】
このような製造方法で製造される光ファイバ素線は、光ファイバの径の変動と、光ファイバを被覆する樹脂層の層厚の変動とが抑制されるため、伝搬される光の損失を小さくすることができる。
【0013】
また、上記光ファイバ素線の製造方法において、前記溶融ガラス及び前記光ファイバは、前記冷却装置及び前記被覆装置と非接触であり、前記光ファイバ素線と接触する方向変換装置により前記光ファイバ素線の方向を変換する方向変換工程を前記被覆工程の後に更に備え、前記方向変換装置により前記溶融ガラス及び前記光ファイバの前記振動周波数が制御されていれば好適である。このような構成によれば、光ファイバ素線が方向変換装置と接触をして方向を変換されるとき、方向変換装置により光ファイバ素線の振動が制御される。そして、光ファイバ母材から溶融ガラスが線引きされてから光ファイバ素線とされるまで、溶融ガラス及び光ファイバは、冷却装置及び被覆装置と非接触であるので、光ファイバ素線の制御が、光ファイバ及び溶融ガラスに伝わる。従って、溶融ガラス及び光ファイバの振動を光ファイバ素線を介して制御することができる。従って、より高い精度で製造過程における光ファイバの振動周波数の制御をすることができる。よって、光ファイバの径の変動や樹脂層の層厚の変動をより抑制することができる。
【0014】
また、本発明の光ファイバ素線製造装置は、光ファイバ母材を加熱溶融する紡糸炉と、前記光ファイバ母材から線引きされる溶融ガラスが冷却固化された光ファイバを冷却する冷却装置と、前記光ファイバに樹脂を塗布し、塗布した樹脂を硬化することで、前記光ファイバを樹脂層により被覆して光ファイバ素線とする被覆装置と、前記光ファイバ素線の方向を変換する方向変換装置とを備え、前記冷却装置及び前記被覆装置は、前記溶融ガラス及び前記光ファイバと非接触であり、前記方向変換装置は、前記光ファイバ素線が架けられるターンプーリーと、前記溶融ガラス及び前記光ファイバの振動周波数を10Hz以上、200Hz以下とするように前記ターンプーリーを制御する振動制御部を有していることを特徴とするものである。
【0015】
このような光ファイバ素線製造装置によれば、光ファイバの径の変動が抑制されると共に、光ファイバを被覆する樹脂層の層厚の変動が抑制される。従って、このような製造装置により製造される光ファイバは、伝搬される光の損失を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置によれば、伝搬される光の損失が小さい光ファイバ素線の製造をすることが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態について図1〜図3を用いて詳細に説明する。
【0019】
(光ファイバ素線)
最初に本発明の光ファイバ素線の製造方法により製造される光ファイバ素線について説明する。図1は、本発明の光ファイバ素線の製造方法により製造される光ファイバ素線を示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、光ファイバ素線10は、光ファイバ12と、光ファイバ12を被覆する樹脂層13とを有している。
【0021】
光ファイバ12の直径は、特に制限されないが、例えば、125μmである。また、図示しないが、光ファイバ12は、コア部とクラッド部を有しており、コア部の屈折率は、クラッド部の屈折率より高くなっている。コア部及びクラッド部の材料は、例えば、シリカガラス(SiO)を主成分とし、これらコア部及びクラッド部の少なくとも一方には、屈折率調整用のドーパントが添加されている。例えば、コア部は、GeOが添加されたシリカガラスで構成され、クラッド部は、純シリカガラスあるいはFが添加されたシリカガラスで構成される。
【0022】
樹脂層13は、光ファイバ12を被覆する第1樹脂層13aと、第1樹脂層13aを被覆する第2樹脂層13bとから成る。第1樹脂層13aは、比較的柔らかい樹脂の層であり、第2樹脂層13bは比較的硬い樹脂の層である。第1樹脂層13a、第2樹脂層13bの厚さは、特に制限されないが、それぞれ25〜40μm、15〜35μmであればよい。さらに第1樹脂層13aの厚さと第2樹脂層13bの厚さを合わせた、樹脂層13厚さは、55〜65μmであればよい。第1樹脂層13a、第2樹脂層13bの樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリルレート系、エポキシ(メタ)アクリルレート系、ポリエステル(メタ)アクリルレート系の紫外線硬化樹脂組成物が挙げられる。
【0023】
(光ファイバ素線の製造方法)
次に本発明の光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置について説明する。図2は、光ファイバ素線10の製造方法を実施するための光ファイバ素線製造装置を示す図である。
【0024】
図2に示すように、光ファイバ素線製造装置100は、光ファイバ母材1を溶融する紡糸炉20と、溶融した光ファイバ母材1から線引きされる溶融ガラス11が冷却固化した光ファイバ12を冷却する冷却装置30と、光ファイバ12に樹脂層を被覆して光ファイバ素線10とする被覆装置40と、光ファイバ素線10の方向を変換する方向変換装置50とを主な構成要素として備える。
【0025】
(線引工程)
まず、光ファイバ素線製造装置100の紡糸炉20に石英ガラスから構成される光ファイバ母材1が設置される。そして、紡糸炉20の加熱部21が発熱して、光ファイバ母材1が加熱される。このとき光ファイバ母材1の下端は、例えば2000℃に加熱され溶融状態となる。そして、光ファイバ母材1から溶融ガラス11が線引きされる。このとき線引きされる溶融ガラス11は、線引きされる直後においてネックダウン形状となる。ネックダウン形状とは、光ファイバ母材1から引き出される溶融ガラス11の径が、光ファイバ母材1付近では大きく、光ファイバ母材1から離れるに従って小さくなる形状である。このためネックダウン形状は、側面がテーパ状となっている。このとき溶融ガラス11の振動周波数は、10Hz以上200Hz以下とされる。従って、ネックダウン形状が溶融ガラス11の軸方向に不均一となっておらず、形状が安定している。
【0026】
(冷却工程)
次に、線引きされた溶融ガラス11は、紡糸炉20から出ると紡糸炉20の外の気温により温度が下がり固化して、光ファイバ12となる。その後、光ファイバ12は、冷却装置30を通過して冷却される。冷却装置30に入る際、光ファイバ12の温度は1800℃程度であるが、冷却装置30を出る際には、光ファイバ12の温度は、40℃〜50℃となる。
【0027】
(被覆工程)
次に、光ファイバ12は、被覆装置40により、樹脂層13で被覆される。被覆装置40は、第1樹脂層13aとなる紫外線硬化型の樹脂が供給される第1コーティング装置41と、第1紫外線照射装置42と、第2樹脂層13bとなる紫外線硬化型の樹脂が供給される第2コーティング装置45と第2紫外線照射装置46とを有する。
【0028】
光ファイバ12は、まず、第1樹脂層13aとなる紫外線硬化型の樹脂が入った第1コーティング装置41を通過し、紫外線硬化型の樹脂で被覆される。更に第1紫外線照射装置42を通過し、紫外線が照射されることで、第1樹脂層13aが形成される。この際、光ファイバ12は、第1コーティング装置41及び第1紫外線照射装置42と非接触とされる。
【0029】
図3は、第1コーティング装置41の主要部を示す断面図である。第1コーティング装置41は、ニップル41aと、ダイス41bとを有する。ニップル41a及びダイス41bには、光ファイバ12が通過する貫通孔41hが設けられている。そして、ニップル41aとダイス41bとの間からは、第1樹脂層13aとなる紫外線硬化型の樹脂13rが供給され、樹脂13rは貫通孔41hに流れ出る。
【0030】
光ファイバ12は、貫通孔41hを通過する際、ニップル41aとダイス41bとの間から流れ出る樹脂13rで被覆される。このときの光ファイバ12の振動周波数は10Hz以上200Hz以下とされる。このため、光ファイバ12の軸は、安定している。つまり、振動周波数の高い光ファイバ12により、光ファイバ12と光ファイバ12を被覆する樹脂との界面における表面張力が安定せずに樹脂層の層厚に乱れが生じることが抑制されると考えられる。
【0031】
次に第1樹脂層13aで被覆された光ファイバ12は、第2樹脂層13bとなる紫外線硬化型の樹脂が入った第2コーティング装置45を通過し、この樹脂で被覆される。このとき、第1樹脂層13aで被覆された光ファイバ12の振動周波数は、10Hz以上200Hz以下とされる。このため、第1樹脂層13aで被覆された光ファイバ12の軸は安定する。次に第2紫外線照射装置46を通過し、紫外線が照射されることで、第2樹脂層13bが形成される。この際、第1樹脂層13aで被覆された光ファイバ12は、第2コーティング装置45及び第2紫外線照射装置46と非接触とされる。なお、第2コーティング装置45の構成は、第1コーティング装置41と同様である。
【0032】
こうして光ファイバ素線10が製造される。
【0033】
(方向変換工程)
次に、製造された光ファイバ素線10は、方向変換装置50により方向が変換される。
【0034】
方向変換装置50は、光ファイバ素線10が架けられる外周溝を有するターンプーリー51と、ターンプーリー51を回転可能に支えるアーム53と、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数を10Hz以上200Hz以下とするようにアーム53を介してターンプーリー51を制御する振動制御部52とを有している。
【0035】
ターンプーリー51に架けられる光ファイバ素線10は、ターンプーリー51の外周溝に沿って方向変換される。
【0036】
振動制御部52は、複数の異なる固有振動数を有する図示しないバネを有しており、このバネがアーム53を介して、ターンプーリー51から伝達される光ファイバ素線10の10Hzより低い振動周波数の振動と、200Hzより高い振動周波数の振動とを吸収する。このため、光ファイバ12の振動及び溶融ガラス11の振動の振動周波数が10Hz以上200Hz以下に制限される。
【0037】
方向変換装置50により、方向変換される光ファイバ素線10は、巻き取り機60により巻取られる。
【0038】
このような光ファイバ素線の製造方法及び光ファイバ素線製造装置によれば、溶融ガラス11の振動周波数は、10Hz以上200Hz以下とされる。従って、溶融ガラス11が固化することで得られる光ファイバ12は、径の変動が抑制される。この理由は定かではないが、本発明者らは、光ファイバ母材1から線引きされた直後の溶融ガラス11のネックダウン形状が安定するためであると考えている。
【0039】
また、被覆装置40を光ファイバ12が通過する際、光ファイバ12の振動周波数は10Hz以上200Hz以下とされている。従って、樹脂層の層厚の変動が抑制される。従って、光ファイバ素線10の径の変動が抑制される。
【0040】
このように、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数が10Hz以上200Hzとされることで、光ファイバ12の径の変動と樹脂層の層厚の変動とが抑制され、伝搬される光の損失が小さい光ファイバ素線が製造される。
【0041】
また、冷却工程及び被覆工程において、溶融ガラス11及び光ファイバ12は、冷却装置30及び被覆装置40と非接触とされ、さらに、光ファイバ素線は、方向変換装置のターンプーリーに架けられることで方向変換装置と接触して、方向が変換される。このとき、方向変換装置は、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数が、10Hz以上200Hz以下となる様に光ファイバ素線を制御する。このように冷却装置30及び被覆装置40が、溶融ガラス11及び光ファイバ12と非接触で、かつ、光ファイバ素線10と接触する方向変換装置により、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数が制御されるため、より高い精度で溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数の制御をすることができる。よって、光ファイバ12の径の変動や樹脂層の層厚の変動をより抑制することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図4を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。図4は、本発明の第2実施形態に係る光ファイバ素線製造装置を示す図である。
【0043】
図4に示すように、光ファイバ素線製造装置110は、溶融ガラス11が紡糸炉20から出た直後の振動を検出する第1検出部71と、第1コーティング装置41に入る光ファイバ12の振動を検出する第2検出部72とを備え、第1検出部71及び第2検出部72は、方向変換装置55の振動制御部56に接続される。
【0044】
第1検出部71、第2検出部72は、例えば、レーザ式変位計測器や、フォトカプラにより構成される。そして、検出された溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数を示す信号が振動制御部56内に送られる。
【0045】
振動制御部56は、第1検出部71及び第2検出部72の信号を受けて、図示しないサーボにより、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数が10Hz以上200Hz以下となるようにアーム53を介してターンプーリー51を制御する。この制御されるターンプーリーの動作により、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動周波数が10Hz以上200Hz以下とされる。
【0046】
本実施形態の光ファイバ製造方法及び光ファイバ素線製造装置によれば、方向変換装置55は、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動が10Hz以上200Hz以下となるように、アクティブに制御を行う。従って、溶融ガラス11及び光ファイバ12の振動を、より精度よく制御することができる。
【0047】
以上、本発明について、第1、第2実施形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
例えば、第1実施形態において、振動制御部52が有する固有振動数が異なる複数のバネがアーム53を介して、ターンプーリー51から伝達される光ファイバ素線10の10Hzより低い振動周波数の振動と、200Hzより高い振動周波数の振動とを吸収するとした。しかし、本発明はこれに限らない。例えば、固有振動数の異なる複数のバネに変えて、10Hz以下の振動を吸収する防振ゴム及び200Hz以上の振動を吸収する防振ゴムを用いても良い。
【0049】
また、第2実施形態において、第2コーティング装置45に入る光ファイバ12の振動を検出する第3検出部を更に備えても良い。
【0050】
また、第1実施形態、第2実施形態において、光ファイバ素線10の樹脂層13は、第1樹脂層13aと第2樹脂層13bとから構成されるが、1層の樹脂層13a及び第2樹脂層13bのいずれか一方のみから構成されても良い。この場合、第2コーティング装置45及び第2紫外線照射装置46が不要となる。
【0051】
以下、実験例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実験例に限定されるものではない。
【0052】
(実験例1)
図2に示す光ファイバ素線製造装置において、光ファイバ母材を2000℃に加熱して、溶融ガラスの線引きを行った。このときの線引速度は、1000m/minとした。そして、冷却装置において溶融ガラスを冷却して、径が125μmの光ファイバを製造した。この光ファイバに、層厚が33μmとなる様に紫外線硬化型の樹脂を第1コーティング装置で塗布し、第1紫外線硬化装置で硬化させ第1樹脂層とした。さらに第2コーティング装置により、第1樹脂層上に層厚が30μmとなる様に紫外線硬化型の樹脂を第2コーティング装置で塗布し、第2紫外線硬化装置で硬化させ第2樹脂層とした。
【0053】
このとき振動制御部のバネを取りかえることにより、溶融ガラスの振動周波数を、それぞれ5Hz、10Hz、50Hz、100Hz、200Hz、300Hzと変化させた。そして、各周波数で製造された光ファイバの径の変動を測定した。その結果を図5に示す。図5に示すように、溶融ガラスの振動周波数が10Hz以上の場合には、光ファイバの径の変動は小さいが、溶融ガラスの振動周波数が10Hzより小さい場合、光ファイバの径の変動が0.5μm以上となり、顕著にファイバの径が大きくなるという結果が得られた。
【0054】
(実験例2〜4)
線引速度を、図6に示す値としたこと以外は、実験例1と同様にした。この結果を図6に示す。図6に示すように、線引速度が変化しても、溶融ガラスの振動周波数が10Hz以上の場合には、光ファイバの径の変動は小さいが、溶融ガラスの振動周波数が10Hzより小さい場合、光ファイバの径の変動が顕著に大きくなる結果が得られた。
【0055】
(実験例5)
振動制御部のバネを取りかえることにより、光ファイバの振動周波数を5Hz、10Hz、150Hz、180Hz、200Hz、210Hzと変化させたこと以外は、実験例1と同様に行い、光ファイバ素線の径の変動を測定した。この結果を図7に示す。図7に示すように、光ファイバの振動周波数が200Hz以下では、光ファイバ素線の径の変動は小さいが、光ファイバ素線の振動周波数が200Hzを超えると光ファイバ素線の径の変動が、0.6μm以上となり、光ファイバ素線の径の変動が顕著に大きくなる結果が得られた。
【0056】
(実験例6〜8)
線引速度を図8に示す値としたこと以外は、実験例5と同様に行った。この結果を図8に示す。図8に示すように、線引速度が変化しても、光ファイバの振動周波数が200Hz以下では、光ファイバ素線の径の変動は小さいが、光ファイバの振動周波数が200Hzを超えると急に光ファイバ素線の径の変動が顕著に大きくなる結果が得られた。
【0057】
以上より、光ファイバ素線の製造方法において、溶融ガラス及び光ファイバの振動周波数を10Hz以上200Hz以下とすることで、伝搬される光の損失が小さい光ファイバ素線の製造をすることが実現できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の光ファイバ素線の製造方法により製造される光ファイバ素線を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る光ファイバ素線の製造方法を実施するための光ファイバ素線製造装置を示す図である。
【図3】図2の第1コーティング装置41の主要部を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る光ファイバ素線の製造方法を実施するための光ファイバ素線製造装置を示す図である。
【図5】実験例1の結果を示す図である。
【図6】実験例2〜4の結果を示す図である。
【図7】実験例5の結果を示す図である。
【図8】実験例6〜8の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1・・・光ファイバ母材
10・・・光ファイバ素線
11・・・溶融ガラス
12・・・光ファイバ
13・・・樹脂層
20・・・紡糸炉
21・・・加熱部
30・・・冷却装置
40・・・被覆装置
41・・・第1コーティング装置
42・・・第1紫外線照射装置
45・・・第2コーティング装置
46・・・第2紫外線照射装置
50、55・・・方向変換装置
51・・・ターンプーリー
52、56・・・振動制御部
53・・・アーム
60・・・巻き取り機
71・・・第1振動検出部
72・・・第2振動検出部
100、110・・・光ファイバ素線製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材から溶融ガラスを線引きする線引工程と、
前記溶融ガラスを冷却固化することで光ファイバとし、前記光ファイバを冷却装置により冷却する冷却工程と、
被覆装置により、前記光ファイバに樹脂を塗布し、塗布した樹脂を硬化することで、前記光ファイバを樹脂層により被覆して光ファイバ素線とする被覆工程と、
を備える光ファイバの製造方法であって、
前記線引工程における溶融ガラス、及び、前記被覆工程における光ファイバの振動周波数が、10Hz以上200Hz以下とされる
ことを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記溶融ガラス及び前記光ファイバは、前記冷却装置及び前記被覆装置と非接触であり、
前記光ファイバ素線と接触する方向変換装置により前記光ファイバ素線の方向を変換する方向変換工程を前記被覆工程の後に更に備え、
前記方向変換装置により前記溶融ガラス及び前記光ファイバの前記振動周波数が制御されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
光ファイバ母材を加熱溶融する紡糸炉と、
前記光ファイバ母材から線引きされる溶融ガラスが冷却固化された光ファイバを冷却する冷却装置と、
前記光ファイバに樹脂を塗布し、塗布した樹脂を硬化することで、前記光ファイバを樹脂層により被覆して光ファイバ素線とする被覆装置と、
前記光ファイバ素線の方向を変換する方向変換装置とを備え、
前記冷却装置及び前記被覆装置は、前記溶融ガラス及び前記光ファイバと非接触であり、
前記方向変換装置は、前記光ファイバ素線が架けられるターンプーリーと、前記溶融ガラス及び前記光ファイバの振動周波数を10Hz以上200Hz以下とするように前記ターンプーリーを制御する振動制御部を有している
ことを特徴とする光ファイバ素線製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−120811(P2010−120811A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295889(P2008−295889)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】