説明

光モジュール

【課題】制振部材や緩衝部材を用いることなく、光コネクタ挿着時に生ずる衝撃により、電子冷却器が損傷を受け難いような耐性を備えた光モジュールを提供する。
【解決手段】光モジュール1は、半導体レーザ素子8が電子冷却器10で温度調整可能に搭載されたセラミックパッケージ本体部2と、光コネクタのフェルールが挿入されるスリーブ部4と、を備える。光モジュールは、セラミックパッケージ本体部2のベース6上に電子冷却器10の放熱板が接するように実装され、電子冷却器10の吸熱板にキャリア部材9を介して半導体レーザ素子8が搭載され、スリーブ部4の光コネクタ挿抜の方向が、電子冷却器10の放熱板および吸熱板の面と直交するように組み付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子が搭載されたパッケージ本体部と光コネクタのフェルールが挿入されるスリーブ部とを備えた光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる光モジュールで、送信用の光モジュールは、図4(A)に一例として示すように、信号光を発する半導体レーザ素子(LD)103を搭載した箱型のパッケージ本体部101と、光ファイバケーブルの光コネクタと光結合するためのスリーブ部102とを備えている。
パッケージ本体部101には、LD103の他に、モニタ用のフォトダイオード(PD)や、キャリア部材、集光レンズ、ミラー等が搭載されている。また、発熱源となるLD103の放熱とその出力特性を安定させるペルチェ素子等を用いた電子冷却器104が実装され、温度調節を行うことが知られている。
【0003】
スリーブ部102には、光コネクタが着脱可能に接続されるが、光コネクタ105は、図4(B)に示されるように、フェルール106をコネクタ筐体107内にバネ部材108により軸方向に可動で弾性的に保持されている。そして、フェルール106が光モジュール100のスリーブ部102内に挿入されたとき、フェルール106は、その端面がファイバスタブ102aの端面に対してバネ部材108によって押圧されながら接触する。
しかし、フェルール106とスリーブ部102の軸ずれや挿入角度の変化等で挿入に引っ掛かりが生じることがあり、フェルール106がファイバスタブ102aに接触する位置まで挿入される前に、バネ部材108が圧縮される。この引っ掛かり状態が解放されると、圧縮状態にあるバネ部材108により、フェルール106は勢い良く軸方向に飛び出し、スリーブ部102内のファイバスタブ102aに衝突する。
【0004】
フェルール106とファイバスタブ102aの衝突により生じた衝撃波は、スリーブ部102を伝搬してパッケージ本体部101の筐体等を励振させ、内部の実装部品にダメージを与える場合がある。この対策として、例えば特許文献1には、スリーブ部102の外周に接して筒状の制振部材を配することが開示されている。また、特許文献2には、ファイバスタブ102aのフェルールとの接合面に衝撃を緩和する緩衝部材を配することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−128077号公報
【特許文献2】特開2010−191319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように制振部材を用いることにより、衝撃波を抑制することは可能であるが、衝撃波の波長、光モジュールの構造に最適な制振部材の材料や大きさ、取付けの密着性等、制振のための種々の条件を満たす必要がある。また、特許文献2のように、衝撃を緩和する緩衝部材を用いることにより、フェルールの衝突を緩和し衝撃波の発生を抑制することは可能であるが、ファイバスタブとフェルールとが緩衝部材を介して接触させるため、光結合が十分得られない場合もあり、接続損失が増加する虞がある。
【0007】
特に、図4(A)に示したように、箱型のパッケージ本体部101を用いて電子冷却器104によるLD103の温度調整を行う構成の光モジュール100では、通常、電子冷却器104の吸熱板(上部絶縁板)および放熱板(下部絶縁板)の面が、スリーブ部102への光コネクタ105の挿抜の方向に沿った方向で配置される。吸熱板(上部放熱板)上に、電子部品や光学部品などが搭載されて慣性が大きい状態で、パッケージ本体部に固定された放熱板(下部絶縁板)に横方向からの衝撃が加わると、放熱板(上部絶縁板)と吸熱板(下部絶縁板)の間に柱状に立てて配置されている冷却素子の接合箇所に横方向からの力が加わり破壊されたり、実装ずれ等の損傷(ダメージ)を受けやすい。
【0008】
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、制振部材や緩衝部材を用いることなく、光コネクタ挿着時に生ずる衝撃により、電子冷却器が損傷を受け難いような耐性を備えた光モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による光モジュールは、半導体レーザ素子が電子冷却器で温度調整可能に搭載されたセラミックパッケージ本体部と、光コネクタのフェルールが挿入されるスリーブ部と、を備えた光モジュールである。光モジュールは、セラミックパッケージ本体部のベース上に電子冷却器の放熱板が接するように実装され、電子冷却器の吸熱板にキャリア部材を介して半導体レーザ素子が搭載され、スリーブ部の光コネクタ挿抜の方向が、電子冷却器の放熱板および吸熱板の面と直交するように組み付けられていることを特徴とする。
なお、半導体レーザ素子とスリーブ部との間に、集光レンズと反射ミラーが配され、また、集光レンズと反射ミラーは、単一体のレンズミラーキャリア部材を介して電子冷却器の吸熱板上に実装するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光コネクタの挿着時に生じる衝撃波の伝搬方向が、電子冷却器の放熱板および吸熱板と直交する方向であるため、冷却素子の接合面に直交する方向からの衝撃となり、接合面と平行な横方向からの衝撃より、受けるダメージが軽減される。したがって、制振部材や緩衝部材を用いなくても、電子冷却器への損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による光モジュールの一例を説明する図である。
【図2】本発明による光モジュールのパッケージ本体部の詳細を説明する図である。
【図3】本発明による光モジュールの衝撃波を受ける形態を示す図である。
【図4】従来技術と解決すべき課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1により本発明の実施の形態を説明する。図において、1は光モジュール、2はパッケージ本体部、3はジョイントスリーブ(Jスリーブ)、4はスリーブ部、5はセラミック筐体、6はベース、7はリッド、8は半導体レーザ素子(LD)、9はキャリア部材、10は電子冷却器、11は集光レンズ、12は反射ミラーを示す。
【0013】
図1(A)に示すように、光モジュール1は、パッケージ本体部2とスリーブ部4とをジョイントスリーブ(Jスリーブ)3により結合して構成される。パッケージ本体部2は、詳細については後述するが、矩形枠状のセラミック筐体5の底部に、放熱性のよい金属からなるベース6が接合され、頂部にリッド7が接合されて成る。パッケージ本体部2内には、キャリア部材9(サブマウントとも言う)を介して半導体レーザ素子(LD)8が搭載され、またLD8の温度調節を行う電子冷却器10の放熱板が、ベース6の面に平行に接するように搭載される。この他、集光レンズ11および反射ミラー12等の光学系路を形成する部品等が実装されている。
【0014】
スリーブ部4は、光ファイバケーブルに取付けられた光コネクタ(図4参照)が着脱可能に嵌合される形状で、スリーブシェル4aとスタブホルダ4bからなる筒体で形成される。スタブホルダ4bは、ファイバスタブ4cを保持固定し、該ファイバスタブ4cの外周に嵌合するようにフェルール位置決めためのスリーブ4dを配して構成される。
【0015】
Jスリーブ3は、その嵌合部3aをリッド7のホルダ部7aに嵌合し、パッケージ本体部2内のLD8とスリーブ部4内のファイバスタブ4cのファイバ端との光軸方向の調心が行われた後、YAG溶接等により固定される。Jスリーブ3の接合部3bには、スリーブ部4のスタブホルダ4bの下端面が接合され、XY方向の調心が行われた後、YAG溶接等により固定される。
【0016】
なお、図1(A)においては、集光レンズ11をLD8と反射ミラー12との間に配置する構成のものである。このため、リッド7は光学窓をガラス板7bで塞ぐ形態となる。しかし、集光レンズ11は、これに限らず、図1(B)に示すように、反射ミラー12の後段に配置することもできる。この場合、集光レンズ11は、リッド7の光学窓を塞ぐように設けることで、図1(A)のガラス板7bに代えることができる。
【0017】
上記のように構成された光モジュール1は、LD8から出射された信号光は、実装面と平行な方向に出射された後、反射ミラー12により直交する方向に曲げられる。次いで、信号光は、リッド7の光学窓を通って、スリーブ部4内のファイバスタブ4cの端面に露出する光ファイバ端に入射され、光コネクタを経て外部に送信される。信号光の出射側と反対の背面側からはモニタ光が取り出され、モニタ用のフォトダイオード(図示省略)で受光される。
【0018】
パッケージ本体部2は、図2に示すように、セラミック筐体5と、該セラミック筐体5の底部に接合したベース6と、該セラミック筐体5の頂部に光学窓を有するリッド7を接合してなる。セラミック筐体5は、例えば、セラミック製で矩形枠状の複数のパッケージフレームを順次積層してなり、積層されるフレームにより形成された段部を利用して、各種の実装部品が搭載される。
【0019】
ベース6は、パッケージ本体部2の底壁を形成すると共に、パッケージ内に実装される電子部品の支持台および、電子冷却器10の放熱面としての機能を有している。このため、ベース6は、例えば、放熱性のよいCu−Mo(35−65)合金のような金属板が用いられる。
【0020】
リッド7は、金属製とすることができ、パッケージ本体部2の頂部を塞いでパッケージ内を封止すると共に、Jスリーブ3を介してスリーブ部4との結合を行う機能を有している。このため、セラミック筐体5の上部に、セラミックと膨張係数が近いコバール(Fe−Ni−Co合金)等の金属シールリング5aを用いて半田や溶接により接合され、また、光学窓にはガラス板7bで封止される。
【0021】
底部のベース6上は、電子冷却器10が搭載される。電子冷却器10は、ペルチェ素子等の電子冷却素子10aの上面側に吸熱板10bを有し、下面側に放熱板10cを有し、放熱板10cの面がベース6に接するようにして配設される。電子冷却器10の放熱板10cがパッケージ本体部2のベース6に接する形となるので、電子冷却器10の吸熱板10bおよび放熱板10cの面に対して、スリーブ部4の光コネクタ挿抜の方向(軸方向)が直交する形態となる。
【0022】
電子冷却器10は、電子冷却素子10aを挟む吸熱板10bと放熱板10cの板面に沿う横方向からの衝撃を受けると、損傷(冷却素子の接合剥がれ等)を受けやすくなるが、板面と直交する方向からの衝撃に対しては比較的に耐性を有している。したがって、光コネクタの挿抜される軸方向と、電子冷却器10の吸熱板10bおよび放熱板10cの面とが直交する関係にあれば、光コネクタの挿着時に生じる衝撃で、電子冷却器10が損傷され、ダメージを受けるのを抑制することが可能となる。
【0023】
LD8は、外部変調型のものあるいは直接変調型のものを用いることができ、熱伝導性のよいキャリア部材9を介して電子冷却器10の吸熱板10b上に実装される。なお、キャリア部材9上には、LD8の他に、LDの温度をモニタするためのサーミスタ(図示省略)も実装され、電子冷却器10の温度制御に用いられる。
【0024】
また、集光レンズ11と反射ミラー12の順序は逆であってもよく、反射ミラーに代えてプリズムあるいはレンズ付きのプリズムを用いることもできる。なお、集光レンズ11および反射ミラー12は、図2に示すように、単一のレンズミラーキャリア部材13上に組み付け、セラミック筐体5の内壁に形成された段部で支持させることもできるが、上述した電子冷却器10の吸熱板10b上に載置するようにしてもよい。この場合、電子冷却器10に搭載される重量が増加して、横方向からの衝撃に対してさらに損傷を受けやすくなるが、上記のように直交方向から衝撃を受ける形態とすることで耐性を改善することができる。
【0025】
図3は、本発明による光モジュール1に対する衝撃波の伝搬状態を示す図である。図4で説明したのと同様に、スリーブ部4に光コネクタを挿着するとき、フェルールの引っ掛かり等により、スリーブ部4内のファイバスタブ4cで衝突が生じたとする。この衝突により生じた衝撃波は、スリーブ部4、Jスリーブ3を伝搬してパッケージ本体部2の筐体等を励振させ、電子冷却器10にダメージを与えるように作用する。
【0026】
しかしながら、上述したように、本発明においては、電子冷却器10の電子冷却素子10aの電極が結合された吸熱板10bと放熱板10cの面の方向が、スリーブ部4の光コネクタが挿抜される軸方向と直交するように配置されている。このため、上述したように吸熱板10bと放熱板10cの面の方向から衝撃を受ける場合に比べて、衝撃に対する耐性を備えており、電子冷却器10が損傷されるのを抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1…光モジュール、2…パッケージ本体部、3…ジョイントスリーブ(Jスリーブ)、3a…嵌合部、3b…接合部、4…スリーブ部、4a…スリーブシェル、4b…スタブホルダ、4c…ファイバスタブ、4d…スリーブ、5…セラミック筐体、5a…金属シールリング、6…ベース、7…リッド、7a…ホルダ部、7b…ガラス板、8…半導体レーザ素子、9…キャリア部材、10…電子冷却器、10a…電子冷却素子、10b…吸熱板、10c…放熱板、11…集光レンズ、12…反射ミラー、13…レンズミラーキャリア部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子が電子冷却器で温度調整可能に搭載されたセラミックパッケージ本体部と、光コネクタのフェルールが挿入されるスリーブ部と、を備えた光モジュールであって、
前記セラミックパッケージ本体部のベース上に前記電子冷却器の放熱板が接するように実装され、前記電子冷却器の吸熱板にキャリア部材を介して前記半導体レーザ素子が搭載され、前記スリーブ部の光コネクタ挿抜の方向が、前記電子冷却器の放熱板および吸熱板の面と直交するように組み付けられていることを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記半導体レーザ素子と前記スリーブ部との間に、集光レンズと反射ミラーが配されていることを特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記集光レンズと反射ミラーは、単一体のレンズミラーキャリア部材を介して前記電子冷却器の吸熱板上に実装されていることを特徴とする請求項2に記載の光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−163902(P2012−163902A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26015(P2011−26015)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】