説明

光信号選択スイッチ

【課題】出力ポート間に生じるクロストークを抑制した光信号選択スイッチを提供すること。
【解決手段】本発明に係る光信号選択スイッチは、少なくとも1つの入力ポートと、複数の出力ポートと、前記少なくとも1つの入力ポートから出射される光信号を集光する集光レンズと、前記集光レンズにより集光された光信号に位相シフトを与える偏向手段であって、当該位相シフトが与えられた光信号が前記集光レンズを介して前記出力ポートに結合するように該光信号を反射する偏向手段とを備える。前記偏向手段によるある出力ポートにおける位相シフト波形の周期は、前記偏向手段による他の出力ポートにおける位相シフト波形の周期の1/i倍(iはゼロ以外の整数)と相違することを特徴とする。
前記特徴により、ある出力ポートにおいて他の出力ポートの2次以上の高次回折光が結合されることがないため、ポート間クロストークを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号選択スイッチに関する。具体的には、所望の出力ポート以外の出力ポートに高次回折光が入射しないような光信号選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の光入出力ポートを有し、波長分割多重された光信号(WDM:Wavelength Division Multiple)を光のまま選択的に操作することができるデバイスが求められている。このようなデバイスの一つとして波長選択スイッチ(WSS:Wavelength Selective Switch)がある。波長選択スイッチは、入力されたWDM光を波長ごとに異なる出力に選択的に振り分けることができるデバイスである。
【0003】
一般的な波長選択スイッチは、合波素子、分波素子、および、偏向素子を用いた空間光学系の光通信用デバイスである。合波されて入射された光を、回折格子などの分波素子を介して波長ごとに位置に依存した光に分波し、MEMSミラーなどの偏向素子によって出力ポートを選択することで、波長ごとのスイッチングを実現している。
【0004】
図1に、従来の波長選択スイッチの一例を示す(例えば、特許文献1を参照)。図1は、従来の波長選択スイッチの構成を示す概略図である。図1に示すように座標軸を設定する。具体的には、光導波路基板210における信号光の入出射端面と水平かつ光導波路基板210における光波の進行方向(すなわち光軸)と垂直な方向をXとし、光導波路基板210に垂直な方向をYとし、光導波路基板210における光波の進行方向(すなわち光軸)をZとする。図1はX軸方向から観た側面図である。
【0005】
波長選択スイッチ200は、光導波路基板210と、シリンドリカルレンズ220と、偏波分離部230と、ビームサイズ変換部240と、分光部250と、集光レンズ260と、光偏向部270とを備える。
【0006】
図1には図示されていないが、光導波路基板210上には、入出力導波路と、入出力導波路に接続されたスラブ導波路と、スラブ導波路に接続されたアレイ導波路とが作製されている。
【0007】
図1には図示されていないが、入出力導波路は、合計で21本あり、中心にある1本の導波路を入力ポートとし、入力ポートの両側に10本ずつ作製された導波路を出力ポートとする。ここで、入力ポートの両側に作製された導波路を入力ポートに近い順に出力ポート#1,2,・・・,10および#−1,−2,・・・,−10と呼ぶ。
【0008】
スラブ導波路は、入力導波路の入力ポートから入力された光を分配してアレイ導波路に結合するように作用する。また、反射の場合は、スラブ導波路は、アレイ導波路から入力された光を、各アレイ導波路を伝搬する光波間の位相関係に応じて、入出力導波路の出力ポートの何れかに結合するように作用する。
【0009】
アレイ導波路は、光路長差が0の複数の導波路の列である。アレイ導波路は、スラブ導波路からの光をシリンドルカルレンズ220へ入射し、シリンドリカルレンズ220からの光をスラブ導波路へ結合する。
【0010】
シリンドリカルレンズ220は、アレイ導波路から出射された光を、Y軸方向に拡がることなく、ビームサイズ変換部240へ入射するように作用する。
【0011】
偏波分離部230は、シリンドリカルレンズ220から入射した光を直交する2つの偏波成分(水平成分、垂直成分)に分離する。偏波分離部230は、偏波分離した2つの光をそれぞれY軸方向における異なる部分から出射する。偏波分離部230から出射した光はビームサイズ変換部240へ入射する。
【0012】
ビームサイズ変換部240は、偏波分離部230から入射した光をY軸方向へ広げるように作用する。図1は、2つのシリンドリカルレンズ242および244を、X軸を含む面に平行に配置してビームサイズ変換部240を構成する例を示す。
【0013】
分光部250は、ビームサイズ変換部240から入射する光を回折させ、波長分離されるように作用する。図1は、透過型のバルク回折格子252を用いて分光部250を構成する例を示す。分光部250による回折の結果、波長分離された各光信号が、光偏向部270の対応する位相格子上に干渉縞を形成する。
【0014】
集光レンズ260は分光部250を透過した光を光偏向部270に集光するように作用する。図1は、集光レンズ260としてシリンドリカルレンズを用いる例を示す。
【0015】
光偏向部270は、波長分離された各光信号にそれぞれ対応する位相格子により、入射光を偏向しつつ反射し、集光レンズ260を介してバルク回折格子252へ結合する位相制御素子を備える。光偏向部270は、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)と呼ばれる空間位相変調器を用いて構成することができる。LCOSは、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)の表面に液晶素子(ピクセル)を配列した反射型のデバイスである。液晶素子は、位相制御素子として入射した光信号に位相差を与え、位相格子を構成し、光路を反転するように作用する。
【0016】
図2は、図1に示した波長選択スイッチの光偏向部270における光の入射面の概略を示す図である。図2に示すように、光偏向部(LCOS)270における光の入射面(X−Z平面)には複数のピクセル272が格子上に配列されている。各ピクセルは独立して制御することが可能であり、各ピクセルにおいて光に付与する位相量を制御することができる。分光部250において波長分離された各光信号は、集光レンズ260によって、Z軸上の対応するピクセル群にそれぞれ集光される。つまり、入出力導波路の入力ポートから入射した光は、光偏向部270においてZ軸方向に波長分離される。
【0017】
図3は、光偏向部270のZ軸方向のあるピクセルの配列によって、ある波長λの光に位相シフトを付与する様子を示す図である。図3において、1つ位相格子のピッチをd、各ピクセルの一辺の長さをpとすると、d=n×p(nは整数であり、1つの位相格子を構成するピクセル数)である。この場合、位相格子における光の偏向角θdは、sinθd=λ/dと表すことができる。位相格子のピッチdが大きくなると(すなわちnが大きくなると)偏向角度の画素分割数依存性が線形となるが、偏向角が小さくなる。反対に、位相格子のピッチdが小さくなると偏向角度は大きくなるが、偏向角度の画素分割数依存性が非線形となる。
【0018】
図3に示すように、LCOSを用いた波長選択スイッチにおいては、LCOSにより入力光に対し空間的に鋸歯状の位相変調(セロダイン変調)が加えられる。
【0019】
ここで、ある波長の光が入射する位相格子を構成する各ピクセル(すなわち、X軸方向に配列されたピクセル)の位相設定について、隣り合うピクセルに設定される位相設定量の差をε(図3)とすると、所望の偏向角θdと位相設定量差εとの関係は、各種レンズ、光導波路基板210の配置などを考慮して、既知の計算式を用いて予め算出しておくことが可能である(非特許文献1参照)。図3では、3つのピクセルが、光偏向部270が光を偏向する方向に周期構造を有する位相格子を構成する場合を例示しているが、3つ以上のピクセルで周期構造を有する位相格子を構成してもよい。
【0020】
図1に示した波長選択スイッチ200において、複数の波長の光信号が多重されたWDM光信号が入力ポートから入射すると、WDM光信号はスラブ導波路を導波して、各々がアレイ導波路を構成する導波路に結合される。
【0021】
アレイ導波路から出射されたWDM光信号は、シリンドリカルレンズ220を介してコリメート光に変換された後、偏波分離部230へ入射して水平偏波成分と垂直偏波成分に分離された後、同一の偏波成分の2つのWDM光信号として出力される。
【0022】
偏波分離部230から出射された2つのWDM光信号は各々、分光部250において波長分離される。
【0023】
分光部250において波長分離された各光信号は集光レンズ260により光偏向部270の対応する位相格子に集光する。図1においてZ軸が波長軸となるように光信号は位相格子に入射する。偏波分離部230から分光部250へ入射した2つのWDM光信号から波長分離された同一波長の光信号は、同一の位相格子に集光する。
【0024】
光偏向部270の各位相格子において、光信号は波長ごとに独立に偏向されて、焦点レンズ260を介して分光部250へ入射するように反射される。波長ごとの光信号の偏向角は、位相格子の周期および位相シフト量に応じて決まる。換言すると、各WDM信号に対応する位相格子の周期および位相シフト量を制御することで、偏向角を波長ごとに独立に制御することができる。
【0025】
分光部250へ再び入射した各波長の光信号は合波され、再びビームサイズ変換部240、偏波分離部230、およびシリンドリカルレンズ220を介してアレイ導波路へ結合される。
【0026】
アレイ導波路を導波した光信号は、スラブ導波路を導波して出力導波路のいずれかに結合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2009−258438号公報
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】ヘクト著、ヘクト光学II,2004年9月,p88,p247
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
従来の波長選択スイッチの構成では、以下のような問題があった。図4は、従来技術に係る波長選択スイッチの課題を説明するための概念図である。図4(a)に示すように、光偏向部を構成するLCOSに入射する入射光は、偏向され反射される。ここで、出力ポートを#1に設定するときのセロダイン波形の周期をNとする。図4(a)では、0次、±1次、±2次の回折光の発生が例示されている。
【0030】
ここで、出力ポートを#2に設定するときのセロダイン波形の周期がN/2となるように出力ポートが配置されたとする。図4(b)に示すセロダイン波形の周期は、図4(a)に示すセロダイン波形の周期の半分である。図4(b)では、0次、±1次の回折光の発生が例示されている。
【0031】
図4(a),図4(b)に示すように、セロダイン波形の周期がNのときの2次回折光の回折角は、セロダイン波形の周期がN/2のときの1次回折光の回折角と等しい。従って、セロダイン波形の周期がNのときの2次回折光は、セロダイン波形の周期がN/2のときの1次回折光と重なり、ポート間のクロストークが劣化する。
【0032】
このように、理想的なセロダイン波形であっても、高次回折光が発生し、所望の出力ポート以外の出力ポートに信号光が偏向・反射されるためポート間クロストークの劣化を引き起こすという課題があった。
【0033】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、所望の出力ポート以外のポートに高次回折光が入射しないような光信号選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は、少なくとも1つの入力ポートと、複数の出力ポートと、少なくとも1つの入力ポートから出射される光信号を集光する集光レンズと、集光レンズにより集光された光信号に位相シフトを与える偏向手段であって、位相シフトが与えられた光信号が集光レンズを介して出力ポートに結合するように光信号を反射する偏向手段とを備えた非波長選択スイッチであって、偏向手段による任意の出力ポートにおける位相シフト波形の周期は、偏向手段による他の出力ポートにおける位相シフト波形の周期の1/i倍(iはゼロ以外の整数)と異なることを特徴とする。
【0035】
本発明の一実施形態に係る非波長選択スイッチおいて、偏向手段は、LCOS素子又はMEMS素子であることを特徴とする。
【0036】
本発明は、少なくとも1つの入力ポートと、複数の出力ポートと、入力ポートから出射される波長多重光信号を波長分離する分光手段と、分光手段で波長分離された光信号を集光する集光レンズと、集光レンズにより集光された光信号に位相シフトを与える偏向手段であって、位相シフトが与えられた光信号が集光レンズ、分光手段を介して出力ポートに結合するように光信号を反射する偏向手段とを備えた波長選択スイッチであって、偏向手段によるある出力ポートにおける位相シフト波形の周期は、偏向手段による他の出力ポートにおける位相シフト波形の周期の1/i倍(iはゼロ以外の整数)と異なることを特徴とする。
【0037】
本発明の一実施形態に係る波長選択スイッチおいて、偏向手段は、LCOS素子又はMEMS素子であることを特徴とする。
【0038】
本発明の一実施形態に係る波長選択スイッチおいて、偏向手段によるある出力ポートに対応する反射光の高次光の成分と、偏向手段による他の出力ポートにおける反射光の主信号とのなす角に対して、高次光の成分と、主信号との間の光結合が十分無視できるほど小さくなるように、偏向手段におけるビームサイズを大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、所望の出力ポート以外のポートに高次回折光が入射しないような光信号選択スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来技術に係る波長選択スイッチの構成を示す概略図である。
【図2】従来技術に係る波長選択スイッチの光偏向部におけるピクセルの配列を示す図である。
【図3】従来技術に係る波長選択スイッチの光偏向部においてピクセルの配列によってある波長λの光に位相シフトを付与する様子を説明するための図である。
【図4】従来技術に係る波長選択スイッチの課題を説明するための概念図である。
【図5】本発明に係る波長選択スイッチにおいて従来からの課題を解決するための手段を説明するための概念図である。
【図6】本発明の実施例に係る非波長選択スイッチにおいて、光偏向部にLCOS素子を用いた場合の、回折光の回折角(deg)と透過率(dB)との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例に係る非波長選択スイッチにおいて、光偏向部にLCOS素子を用いた場合の、ピクセルの配列によって光に位相シフトを付与する様子を説明するための図である。
【図8】クロストーク量の、LCOS上に入射するガウスビームのビーム半径依存性を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例に係る非波長選択スイッチの概略構成図である。
【図10】本発明の実施例に係る非波長選択スイッチを構成する光ファイバブロックの上面図である。
【図11】鋸波の周期がピクセル数−11のときのLCOSによる位相シフトを付与する様子を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例に係る非波長選択スイッチのスイッチング動作特性を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例に係る非波長選択スイッチにおいて、光偏向部にMEMS素子を用いた場合の、ピクセルの配列によって光に位相シフトを付与する様子を説明するための図である。
【図14】セロダイン周期がピクセル数の整数倍のときの鋸波の波形と、セロダイン周期がピクセル数の非整数倍のときの鋸波の波形とを示す。
【図15】本発明の実施例に係る波長選択スイッチの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を説明する。図5は、本発明に係る波長選択スイッチにおいて従来からの課題を解決する手段を説明するための概念図である。図5では、出力ポート数が2の場合を示している。図5(a)に示すように、光偏向部を構成するLCOSに入射する入射光は、偏向され反射される。ここで、出力ポートを#1に設定するときのセロダイン波形の周期をNとする。図5(a)では、0次、±1次、±2次の回折光の発生が例示されている。
【0042】
本発明の実施形態においては、図5(b)に示すように、出力ポートを#2に設定するときのセロダイン波形の周期が、N/2ではなく、N/3となるように出力ポートが配置される。図5(b)では、0次、±1次の回折光の発生が例示されている。
【0043】
図5(a),図5(b)に示すように、セロダイン波形の周期がNのときの2次回折光の回折角は、セロダイン波形の周期がNを非整数で割った値のときの1次回折光の回折角と相違する。従って、セロダイン波形の周期がNのときの2次回折光は、セロダイン波形の周期がN/2のときの1次回折光と重ならない。よって、ポート間のクロストークが劣化しない。
【0044】
より詳細に説明する。セロダイン波形の基本周期は、簡単のためLCOSのピクセルピッチの整数倍とする。ここで、iを回折光の次数とし(i=1の回折光は、所望の出力ポートへの出力を意図された回折光である)、j番目のポートに出力設定する場合のセロダイン周期をNjとする。このとき、出力ポートkに対応するセロダイン波形の周期Nkが、
【0045】
【数1】

【0046】
となるように出力ポートを配置する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0048】
(第1の実施例)
図6は、光偏向部としてピクセルピッチが20um、セロダイン波形の空間周期が380um(20um×19ピクセル)であるLCOSを用いた場合の、回折光の回折角(deg)とLCOSからの反射光の空間的強度分布(dB)との関係を示すグラフである。入力光の波長は1590nmとし、LCOS上に入射するガウスビームのビーム半径が4.2mmとなるようにした。
【0049】
本実施形態では、図6に示すような回折光が発生するが、これはセロダイン波形が理想的に2πで折り返されずにバックラッシュを持つことに起因する(図7を参照)。
【0050】
図7は、本実施の形態のLCOSに設定されるセロダイン波形の概略を示すものである。実際の位相設定では、位相が2π近傍となるピクセルと、位相がゼロ近傍となるピクセルが隣接する箇所が存在するが、その境界ではディジタル的に位相が不連続に変化することは無く、図7に示すように、急峻ではあるがセロダイン波形と逆のスロープをもって2π近傍からゼロまで変化する。この逆スロープの位相変化が高次回折光を発生する。
【0051】
本実施例では、セロダイン周期が互いに素となるように(即ち、(式1)を満たすように)、セロダイン周期をN=6,7,8,9,10,11,13,17,19の9個として選択し、出力ポートを配置した。夫々のセロダイン周期に対応する1次の回折光は以下の表1のi=1の列に示すとおりである。
【0052】
【表1】

【0053】
例として、N=19の場合を検討する。N=19のセロダイン波形が作る高次回折光の回折角は、2次回折光が0.48degであり、3次回折光が0.72degであり、4次回折光が0.96degであり、5次回折光が1.20degであり、6次回折光が1.44degであり、7次回折光が1.68degである。表1に示すように、これらの高次回折光は、他のセロダイン波形(即ち、N=6,7,8,9,10,11,13,17)の1次回折光の位置に存在しない。よって、クロストークの劣化は生じない。
【0054】
LCOS上に入射するガウスビームのビーム半径は、2次以上の高次回折光と、主信号(1次回折光)とが十分分離できる程度に広ければ良い。
【0055】
本実施例における高次回折光と主信号(1次回折光)とのなす角度のうち、最も小さいものは、N=10の主信号(1次回折光)とN=19の2次回折光との間に成立する0.02degである。
【0056】
この角度0.02degに対する、N=19のときの2次回折光がN=10のときの主信号(1次回折光)へ結合する結合率(dB)と、LCOS上に入射するガウスビームのビーム半径(um)との関係を、図8に示す。
【0057】
図8に示すように、クロストーク量は、LCOS上に入射するガウスビームのビーム半径に依存する。理想的なクロストーク量を−50dB以下とするとき、LCOS上に入射するガウスビームのビーム半径は、約5000um以上であれば良い。
【0058】
(第2の実施例)
図9に、本発明の実施例に係る1入力4出力の非波長選択スイッチを示す。図9は、本実施例に係る非波長選択スイッチの概略構成図である。非波長選択スイッチ900は、1本の入力光ファイバ(903)及び4本の出力光ファイバ(901,902,904,905)を配置するための光ファイバブロック(910)と、5個のマイクロレンズが配列されたマイクロレンズアレイ(912)と、集光レンズ(914)と、LCOS素子(916)とを備える。
【0059】
入力光ファイバ903から入射した光信号は、マイクロレンズを介して平行光に変換される。マイクロレンズを介して平行光に変換された光信号は、集光レンズ914によって集光される。集光レンズ914によって集光された光信号は、LCOS素子916によって偏向・反射される。集光レンズ914を介して集光された光信号のビームウェストの位置がLCOS素子上になるように、LCOS素子916の位置を設定する。LCOS素子916によって偏向・反射された光信号は、集光レンズ914、マイクロレンズを経由して、何れかの出力ファイバ(即ち、901,902,904,905の何れか)において結合される。
【0060】
光ファイバブロック910は、基板上に5本の光ファイバを保持するための5本のV溝を有する。V溝は、その伸長方向が光信号の進行方向に沿って形成される。
【0061】
図10は、光ファイバブロック910の上面図である。光ファイバ901と光ファイバ902との間隔が0.391mm、光ファイバ902と光ファイバ903との間隔が1.761mm、光ファイバ903と光ファイバ904との間隔が1.490mm、光ファイバ904と光ファイバ905との間隔が0.447mmとなるように、光ファイバブロック上のV溝を形成した。
【0062】
上記のようなV溝を形成することにより、LCOSの鋸波の周期が以下の表に示す関係を満たすようになる。
【0063】
【表2】

【0064】
表2は、LCOSの鋸波の周期を1周期辺りのピクセル数で表している。ここで、ピクセル数の符号は、正の場合は鋸波の傾きが左上がりであることを示し、負の場合は鋸波の傾きが右上がりであることを示す。
【0065】
入力光の波長を1.55um、LCOSのピクセルピッチを8umとし、レンズの焦点距離が100mmの集光レンズを使用した。
【0066】
LCOS上に入射する信号光のビーム半径は、各々の出力ポート間のクロストークが十分小さくなるように、大きくする必要がある。本実施例では、ビーム半径を3mmとした。
【0067】
図11に、鋸波の周期がピクセル数−11のときのLCOSにおける位相設定の概略を示す。図11において、横軸はピクセル番号を示し、縦軸は付与される位相の値(rad)を示す。図11には、傾きが右上がりであり、セロダイン周期がピクセル数−11の鋸波を確認することができる。鋸波のセロダイン周期がピクセル数−11以外の場合も同様に設定することができる。
【0068】
図12に、本実施例に係る1入力4出力の非波長選択スイッチのスイッチング動作特性を示す。図12において、横軸は出力ポート番号を示し、縦軸は透過率(dB)を示す。
例として、出力ポートをポート1としたときの、各ポートへの光信号を光信号の透過率を検討すると、−50dB以上のポート間のクロストークが確保されていることがわかる。
【0069】
このように、鋸波の周期が互いに素となるように(即ち、(式1)を満たすように)、出力ポート間の間隔を設定することにより、鋸波の周期性に起因する高次回折光を抑圧することができる。
【0070】
鋸波の周期が互いに素となるような範囲は、出力ポートが存在する範囲に高次回折光が出現する領域まで検討すれば良い。すなわち、100次のような高次回折光は、出力ポートが存在する領域の範囲外にあるため考慮する必要はない。
【0071】
(MEMS素子を使用した非波長選択スイッチ)
本実施例では、偏向素子としてLCOS素子を使用したが、複数のMEMSミラーから構成されるMEMS素子を使用することができる。図9に示した非波長選択スイッチにおいて、LCOS素子7の位置にLCOS素子7の代わりにMEMS素子を設置する。
【0072】
図13は、MEMS素子のピクセルの配列によって、光に位相シフトを付与する様子を示す図である。図13に示すように、MEMS素子を用いて鋸波波形の位相シフトが付与される。図13(a)はセロダイン周期がピクセル数4のときの波形を示し、図13(b)はセロダイン周期がピクセル数3のときの波形を示す。最低段のMEMSミラーと最高段のMEMSミラーとの段差は、それらによって生じる光の位相差が2πとなるように設定する。
【0073】
MEMS素子を用いて、セロダイン周期が、ピクセル数3およびピクセル数4となる場合を示した。なお、先の例で示したセロダイン周期(すなわち、セロダイン周期がピクセル数−9,−10,11,13)についてもMEMS素子を用いて設定することができる。
【0074】
上述の例では、セロダイン周期がピクセル数の整数倍である場合を示したが、セロダイン周期はピクセル数の非整数倍であってもよい。
【0075】
図14に、セロダイン周期がピクセル数の整数倍のときの鋸波の波形と、セロダイン周期がピクセル数の非整数倍のときの鋸波の波形とを示す。実線はセロダイン周期がピクセル数の整数倍の鋸波を示し、破線はセロダイン周期がピクセル数の非整数倍の鋸波を示す。セロダイン周期がピクセル数の非整数倍の鋸波は、鋸の歯ごとにそれを構成するピクセル数は変化するが、入力光には等価的に鋸波の傾きの位相面の変化として見えるので、実用上問題はない。
【0076】
(ビーム半径に関する要請)
LCOS上に入射するビームのビーム半径が小さい場合、高次回折光は出力ポート以外のポートに対してクロストークを発生させる恐れがある。
【0077】
よって本実施例では、LCOS上に入射するビームのビーム半径をw、入力光の波長をλとしたとき、所望のクロストークXT(dB)に対して
【0078】
【数2】

【0079】
となるようにwを設定した。ここで、Δθはのこぎり波の位相設定によって、光信号が回折される際の1次回折光の回折角度(出力信号に対応する)とそれらの高次回折光の回折角度とのなす角のうち最小のものである。
【0080】
1次回折光の回折角度は、
【0081】
【数3】

【0082】
と表すことができる。NSawはのこぎり波の一つの波を構成するLCOS素子のピクセル数を表し(NSawは、整数または非整数でよい)、PitchはLCOS素子のピッチを表す。
【0083】
この場合、スイッチングに必要なNSawの集合をNPortとすると(上述の実施例においては、NPort={−9,10,−11,13}となる)
【0084】
【数4】

【0085】
である。kは高次回折光の次数(整数)である。kに関しては、高次回折光が出力ポートが存在する領域に出現するような範囲のkのみを考えればよい。
【0086】
本実施例の場合を検討する。各ポートに出力する光信号の回折角は
【0087】
【表3】

【0088】
である。この場合、最小角度差Δθは、ポート4へ出力される1次回折光の回折角とポート2へ出力される−1次回折光の回折角との間で成立し、0.018rad(=0.0194rad-0.0176rad)である。
【0089】
入力光の波長λを1.55umとし、高次回折光の次数としてk=-1,2の場合を検討すると、(式2)より、50dBのクロストークを確保するためには、ビーム半径は950um以上であればよいことが導かれる。
【0090】
(第3の実施例)
図15に、本発明の一実施例に係る1入力4出力の波長選択スイッチ1500を示す。図15は、本実施例に係る波長選択スイッチ1500の概略構成図である。波長選択スイッチ1500は、1本の入力光ファイバ及び4本の出力光ファイバを配置するための光ファイバブロック1502と、回折格子1504と、集光レンズ1506と、LCOS素子1508とを備える。
【0091】
入力光ファイバから入射した光信号は、回折格子1504により波長ごとに分光される。回折格子1504により分光された光信号は、集光レンズ1506によって集光される。集光レンズ1506によって集光された光信号は、LCOS1508によって偏向・反射される。集光レンズ1506を介して集光された光信号のビームウェストの位置がLCOS上になるように、LCOS素子1508の位置を設定する。LCOS1508によって偏向・反射された光信号は、集光レンズ1506、回折格子1504を経由して、波長合波され、何れかの出力ファイバにおいて結合される。
【0092】
本実施例における各パラメータについては、回折格子に関するパラメータを除き第1の実施例と同様の設定とした。
【符号の説明】
【0093】
200 波長選択スイッチ
210 光導波路基板
220 シリンドリカルレンズ
230 偏波分離部
240 ビームサイズ変換部
242,244 シリンドリカルレンズ
250 分光部
252 バルク回折格子
260 集光レンズ
270 光偏向部,LCOS
272 ピクセル
901,902,903,904,905 出力光ファイバ
903 入力光ファイバ
910 光ファイバブロック
912 マイクロレンズアレイ
914 集光レンズ
916 LCOS素子
1500 波長選択スイッチ
1502 光ファイバブロック
1504 回折格子
1506 集光レンズ
1508 LCOS素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの入力ポートと、
複数の出力ポートと、
前記少なくとも1つの入力ポートから出射される光信号を集光する集光レンズと、
前記集光レンズにより集光された光信号に位相シフトを与える偏向手段であって、当該位相シフトが与えられた光信号が前記集光レンズを介して前記出力ポートに結合するように該光信号を反射する偏向手段と
を備えた非波長選択スイッチであって、
前記偏向手段によるある出力ポートにおける位相シフト波形の周期は、前記偏向手段による他の出力ポートにおける位相シフト波形の周期の1/i倍(iはゼロ以外の整数)と異なること
を特徴とする非波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記偏向手段は、LCOS素子又はMEMS素子であることを特徴とする請求項1に記載の非波長選択スイッチ。
【請求項3】
少なくとも1つの入力ポートと、
複数の出力ポートと、
前記入力ポートから出射される波長多重光信号を波長分離する分光手段と、
前記分光手段で波長分離された光信号を集光する集光レンズと、
前記集光レンズにより集光された光信号に位相シフトを与える偏向手段であって、当該位相シフトが与えられた光信号が前記集光レンズ、前記分光手段を介して前記出力ポートに結合するように該光信号を反射する偏向手段と
を備えた波長選択スイッチであって、
前記偏向手段によるある出力ポートにおける位相シフト波形の周期は、前記偏向手段による他の出力ポートにおける位相シフト波形の周期の1/i倍(iはゼロ以外の整数)と異なること
を特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記偏向手段は、LCOS素子又はMEMS素子であることを特徴とする請求項3に記載の波長選択スイッチ。
【請求項5】
前記偏向手段によるある出力ポートに対応する反射光の高次光の成分と、前記偏向手段による他の出力ポートにおける反射光の主信号とのなす角に対して、
前記高次光の成分と、前記主信号との間の光結合が十分無視できるほど小さくなるように、前記偏向手段におけるビームサイズを大きくすることを特徴とする請求項1乃至4に記載の波長選択スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−76891(P2013−76891A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217356(P2011−217356)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】