説明

光全周エンコーダ及びモータシステム

【課題】製造を容易にしつつ小型化することが可能な、光全周エンコーダ及びモータシステムを提供すること。
【解決手段】この光全周エンコーダは、回転トラックにおいて回転軸AXを中心とした放射状に等ピッチで形成され、光を透過する複数の回転スリットS2と、周方向で2以上に分割された領域XA〜XD内で等ピッチに放射状に形成され、光を透過する複数の固定スリットS1A〜S1Dと、回転軸近傍に配置され、導光部120により導かれた光を、2以上の領域毎にそれぞれ受光する2以上の受光部112A〜112Dと、を有し、一の領域内の複数の固定スリットと、該一の領域に隣接する他の領域内の複数の固定スリットとは、2以上の受光部による受光信号間に回転方向が判別可能な位相差が生じるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光全周エンコーダ及びモータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の位置や速度等の物理量を測定するために、エンコーダが使用される。
このエンコーダは、移動体の移動方向に応じて、主に回転型(以下「ロータリ」ともいう。)と直線型(以下「リニア」ともいう。)に大別される。
【0003】
ロータリエンコーダ(以下単に「エンコーダ」ともいう。)を使用するロータリモータ(以下単に「モータ」ともいう。)は、エンコーダにより検出された回転位置等に基づいて位置制御されることが多い。このような位置制御の精度等は、エンコーダの精度により大きく左右される。従って、精密化する機器等においては、高精度な位置制御のために、高精度なエンコーダの開発が進められている。
【0004】
ところで、検出原理により様々な種類に大別されるエンコーダのうち、特に光学式エンコーダは、例えば磁気式などの他の検出原理を利用したエンコーダに比べて、高精度な位置検出を実現することが可能である。主な光学式エンコーダは、回転体(移動体の一例)に接続されたディスクに形成されたスリットに光を照射し、そのスリットからの反射光又は透過光を受光する。その結果、光学式エンコーダは、ディスクの回転に応じて繰り返される反射光又は透過光に基づいて、位置を検出する。従って、この光学式エンコーダでは、スリットを形成する精度に応じて非常に高い位置検出精度を実現することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−515426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような光学式エンコーダでは、ディスクの回転に対応した反射光又は透過光を発生させるために、ディスクに形成された回転スリットに対応した固定スリットが使用されることが多い。つまり、この光学式エンコーダでは、ディスクの回転に応じて回転スリットが固定スリットに対して所定の位置に到達した場合に、受光素子に反射光又は透過光が到達するように構成される。従って、受光素子は、ディスクの回転に応じた信号を受光して、当該受光信号により位置情報を生成する。従って、光学式エンコーダでは、高精度な位置検出を行うためには、回転スリットと固定スリットとの位置関係を高精度に調整する必要がある。なぜならば、固定スリットと回転スリットとの位置関係に誤差がある場合、その誤差の分、設計上望まない反射光及び透過光が受光素子に受光されるなどにより、ノイズが増加してしまうからである。
【0007】
このようなノイズを低減するために、光全周補正タイプのロータリエンコーダ(以下「光全周エンコーダ」ともいう。)が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。この光全周エンコーダは、ディスクの全周に形成された複数のスリットほぼ全てに対して光を照射し、その反射光又は透過光を受光する。従って、例えばディスクが偏心して取り付けられた場合などのように、固定ディスクと回転ディスクとの位置関係に誤差が生じた場合であっても、全周から得られる反射光又は透過光を使用することで、誤差を相殺させることが可能である。従って、このように誤差に対する耐久性が高まる結果、光全周エンコーダは、製造を容易化することが可能である。
【0008】
一方、光学式エンコーダに限らず、ディスクの回転方向を検出するためには、電気角で例えば90°位相が異なる周期的な2以上の受光信号を取得する必要がある。このように位相が相異なる2の受光信号を、それぞれA相信号及びB相信号ともいう。
【0009】
このようなA相信号及びB相信号を生成するために、上記光全周エンコーダでは、特許文献1に示すように、回転軸周りの全周に亘って形成する回転スリット及び固定スリットの少なくとも一方が、例えば90°位相が異なり径方向で並べられた二重のスリットで形成される。そして、2重化されたスリット毎に異なる信号が得られるように、光路等が径方向や高さ方向(スラスト方向)で二重化される。このように径方向や高さ方向で二重化された光路等は、装置全体を大型化する原因となっていた。
【0010】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、製造を容易にしつつ小型化することが可能な、光全周エンコーダ及びモータシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、回転軸周りに回転可能な回転体に追従して回転可能であり、かつ、上記回転軸を中心としてリング状に設定された回転トラックと、
上記回転トラックにおいて上記回転軸を中心とした放射状に等ピッチで形成され、光を透過する複数の回転スリットと、
上記回転トラックの一側において該回転トラックに対応してリング状に固定して設定され、かつ、周方向で2以上の領域に分割された固定トラックと、
上記固定トラックにおいて上記回転軸を中心とした放射状に上記領域内で等ピッチに形成され、光を透過する複数の固定スリットと、
上記複数の固定スリット及び上記複数の回転スリットを透過した光を、集光しつつ上記回転軸近傍に向けて導く導光部と、
上記回転軸近傍に配置され、上記導光部により導かれた光を、上記2以上の領域毎にそれぞれ受光する2以上の受光部と、
を有し、
上記固定トラックにおける、一の上記領域内の複数の固定スリットと、該一の領域に隣接する他の上記領域内の複数の固定スリットとは、上記2以上の受光部による受光信号間に回転方向が判別可能な位相差が生じるように形成される、光全周エンコーダが提供される。
【0012】
また、上記固定トラックは、4の整数倍の個数の上記領域に分割されてもよい。
【0013】
また、上記導光部は、上記2以上の領域の境界に対応した位置に、上記2以上の領域を跨ぐ光を遮蔽する複数の遮光部を有してもよい。
【0014】
また、上記固定トラックが有する2以上の領域は、上記回転軸周りに上記領域の数の回転対称に設定され、
上記回転軸周りに点対称の関係となる2の上記領域毎の上記複数の固定スリットは、2の上記受光部による受光信号間に電気角で0°又は180°の位相差が生じるように形成されてもよい。
【0015】
また、上記点対称の関係となる2の領域から得られた2の受光信号同士を加算又は減算した結果に基づいて、上記回転体の回転方向を含む位置データを生成する位置データ生成部を更に有してもよい。
【0016】
また、光を発する光源及び上記2以上の受光部が配置され、上記固定トラックにおける上記回転トラックと反対側に、上記光源が上記回転軸上に位置するように配置される基板と、
上記回転トラックの他側に配置され、上記複数の固定スリットを透過した後、上記複数の回転スリットを透過した光を、該複数の回転スリットに向けて反射する反射部と、
を更に有し、
上記導光部は、
上記固定トラックとの間に上記基板を挟んで該基板を覆うように、上記回転軸上から上記固定トラックに向けて延長形成され、
上記回転軸上に配置された光源から発せられた光を、上記固定トラックに照射し、
上記反射部で反射された後、上記複数の回転スリット及び上記複数の固定スリットを順次透過した光を、上記回転軸に向けて集光しつつ上記2以上の受光部に導いてもよい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、回転シャフトを回転させるモータ部と、
上記回転シャフトに連結されて上記回転シャフトの位置を測定する光全周エンコーダと、
上記光全周エンコーダが検出した位置に基づいて、上記モータ部の回転を制御する制御部と、
を備え、
上記光全周エンコーダは、
上記回転体に追従して回転可能であり、かつ、上記回転軸を中心としてリング状に設定された回転トラックと、
上記回転トラックにおいて上記回転軸を中心とした放射状に等ピッチで形成され、光を透過する複数の回転スリットと、
上記回転トラックの一側において該回転トラックに対応してリング状に固定して設定され、かつ、周方向で2以上の領域に分割された固定トラックと、
上記固定トラックにおいて上記回転軸を中心とした放射状に上記領域内で等ピッチに形成され、光を透過する複数の固定スリットと、
上記複数の固定スリット及び上記複数の回転スリットを透過した光を、集光しつつ上記回転軸近傍に向けて導く導光部と、
上記回転軸近傍に配置され、上記導光部により導かれた光を、上記2以上の領域毎にそれぞれ受光する2以上の受光部と、
を有し、
上記固定トラックにおける、一の上記領域内の複数の固定スリットと、該一の領域に隣接する他の上記領域内の複数の固定スリットとは、上記2以上の受光部による受光信号間に回転方向が判別可能な位相差が生じるように形成される、モータシステムが提供される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、製造を容易にしつつ小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係るモータシステムの構成について説明するための説明図である。
【図2】同実施形態に係るエンコーダの構成について説明するための説明図である。
【図3】同実施形態に係るエンコーダの構成について説明するための説明図である。
【図4】同実施形態に係る基板の構成について説明するための説明図である。
【図5】同実施形態に係る基板の構成について説明するための説明図である。
【図6】同実施形態に係る導光部の構成について説明するための説明図である。
【図7】同実施形態に係る導光部の構成について説明するための説明図である。
【図8】同実施形態に係る導光部の構成について説明するための説明図である。
【図9】同実施形態に係る導光部の構成について説明するための説明図である。
【図10】同実施形態に係る導光部の構成について説明するための説明図である。
【図11】同実施形態に係るマスクの構成について説明するための説明図である。
【図12】同実施形態に係るディスクの構成について説明するための説明図である。
【図13】同実施形態に係る信号処理部の構成について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素は、原則として同一の符号で表し、これらの構成要素についての重複説明は、適宜省略するものとする。
【0021】
以下で説明する本発明の各実施形態では、ロータリ型の光学式エンコーダを有するロータリモータシステムを例に挙げて説明する。つまり、各実施形態に係る光全周エンコーダは、ロータリモータシステム(以下「モータシステム」ともいう。)に適用され、モータシステムが有するモータのシャフト(回転体の一例)の回転角度(「位置」ともいう。)を含む位置データを測定する。しかしながら、ここで説明する各実施形態に係る光全周エンコーダは、例えば原動機やステアリング等のように一定の回転軸周りに回転する様々な回転体に対して適用可能であることは言うまでもない。
【0022】
なお、本発明の各実施形態について理解が容易になるように以下の順序で説明することとする。
<1.第1実施形態>
(1−1.第1実施形態に係るモータシステム)
(1−2.第1実施形態に係るエンコーダの構成)
(1−3.第1実施形態に係るエンコーダの動作)
(1−4.第1実施形態による効果の例)
【0023】
<1.第1実施形態>
(1−1.第1実施形態に係るロータリモータシステム)
まず、図1を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るモータシステムの構成について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るモータシステムの構成について説明するための説明図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係るモータシステム1は、モータ10と、制御部20とを有する。また、モータ10は、光学式の光全周エンコーダ(以下単に「エンコーダ」ともいう。)100と、モータ部200とを有する。
【0025】
モータ部200は、エンコーダ100を含まない動力発生源の一例である。このモータ部200を単にモータという場合もある。モータ部200は、少なくとも一側に回転シャフト201を有し、この回転シャフト201を回転軸AX周りに回転させることにより、回転力を出力する。
【0026】
なお、モータ部200は、位置データに基づいて制御されるサーボモータであれば特に限定されるものではない。また、モータ部200は、動力源として電気を使用する電動式モータ部である場合に限られるものではなく、例えば、油圧式モータ部、エア式モータ部、蒸気式モータ部等の他の動力源を使用したモータ部であってもよい。ただし、説明の便宜上、以下ではモータ部200が電動式モータ部である場合について説明する。
【0027】
エンコーダ100は、モータ部200の回転シャフト201とは逆側に配置され、当該回転シャフト201に対応して回転する他の回転シャフト202に連結される。そして、このエンコーダ100は、回転シャフト202の位置データを検出する。つまり、エンコーダ100は、回転力が出力される回転シャフト201(回転体の一例)の位置データを検出することになる。
【0028】
なお、本実施形態に係るエンコーダ100が検出する位置データには、回転シャフト201等の位置(回転角度。以下「モータ位置」等ともいう。)と、回転シャフト201等の回転方向を含む速度(回転速度。以下「モータ速度」等ともいう。)とが含まれるものとして、以下では説明する。ただし、本実施形態に係るエンコーダ100は、モータ速度の代わりにも回転方向だけを検出してもよく、回転シャフト201等の加速度(角加速度。以下「モータ加速度」等ともいう。)を更に検出してもよい。
【0029】
なお、エンコーダ100の配置位置は特に限定されるものではない。例えば、エンコーダ100は、回転シャフト201に直接連結されるように配置されてもよく、また、減速機や回転方向変換機などの他の機構を介して回転シャフト201等の回転体に連結されてもよい。
【0030】
制御部20は、エンコーダ100から出力される位置データを取得して、当該位置データに基づいて、モータ部200の回転を制御する。従って、モータ部200として電動式モータ部が使用される本実施形態では、制御部20は、位置データに基づいて、モータ部200に印加する電流又は電圧等を制御することにより、モータ部200の回転を制御する。更に、制御部20は、上位制御装置(図示せず)から上位制御信号を取得して、当該上位制御信号に表された位置又は速度等がモータ部200の回転軸201から出力されるように、モータ部200を制御することも可能である。なお、モータ部200が、油圧式、エア式、蒸気式などの他の動力源を使用する場合には、制御部20は、それらの動力源の供給を制御することにより、モータ部200の回転を制御することが可能である。
【0031】
(1−2.第1実施形態に係るエンコーダの構成)
次に、図2及び図3を参照しつつ、本実施形態に係るエンコーダ100の構成について説明する。図2及び図3は、本実施形態に係る光全周エンコーダの構成について説明するための説明図である。なお、図2は、本実施形態に係るエンコーダ100の一部構成を斜め上方より見た図であり、図3は、図2に示したエンコーダ100を、A−A線で切断した断面図である。
【0032】
図2及び図3に示すように、本実施形態に係るエンコーダ100は、大きく分けて、基板110と、導光部120と、マスク130と、ディスク140と、を有する。以下、各構成について適宜図面を参照し、その後、エンコーダ100の動作を通じて光の流れや検出原理等について説明する。なお、以下では説明の便宜上、回転軸AXにおけるモータ部200側(回転シャフト202側)を「下方」や「下」ともいい、モータ部200から離れる方向を「上方」や「上」ともいい、回転軸AXと垂直な方向を「側方」や「径方向」ともいう。ただし、本実施形態に係るエンコーダ100は、上下の概念に縛らるものではなく、どのような姿勢で配置されてもよいことはいうまでもない。
【0033】
(基板110)
基板110は、図3に示すように、発光部111と、受光部112と、アブソ検出部113と、信号処理部114(図13参照)を有する。そして、基板110は、マスク130の上方(固定トラックにおける回転トラックと反対側の一例)に配置される。この基板110が有する構成を、図4及び図5に示す。図4及び図5は、本実施形態に係る基板の構成について説明するための説明図である。なお、図4は、基板110の上面を示す図であり、図5は、基板110の下面を示す図である。
【0034】
発光部111は、図4に示すように、基板111の上面において回転軸AX上に配置される。そして、発光部111は、回転軸AXに沿って上方に向けて光を発生させる。なお、この発光部111が発する光は、レーザ光、平行光、発散光、収束光など様々な光であってもよく、また、その波長も特に限定されるものではない。
【0035】
受光部112は、2以上の発光部の一例であり、図4に示すように、本実施形態では4の発光部112A〜112Dで構成される。受光部112A〜112Dは、基板111の上面において発光部111を取り囲むように、回転軸AXの近傍においてそれぞれ4の領域XA〜XD毎に配置される。なお、本実施形態では、4つの領域XA〜XDが回転軸AX周りの点対称に設定されるため、受光部112A〜112Dも回転軸AX周りの点対称に配置される。この受光部112A〜112Dは、それぞれ各領域XA〜XD毎に光を受光し、受光信号を生成する。つまり、本実施形態では、各領域XA〜XD毎に4の受光信号が生成される。
【0036】
なお、本実施形態では、後述するようにマスク130には回転軸AX周りに点対称な4つの領域XA〜XDに分割されている。よって、この受光部112A〜112Dや、後述する他の構成は4つ配置される。しかし、このマスク130に設定される領域数は2以上であればよく、領域の設定位置も点対称でなくてもよい。この場合、受光部112や他の構成は、領域の個数とその設定位置に応じて配置されることが望ましい。なお、領域が4の整数倍である場合に、本実施形態に係るエンコーダ100は、偏心に対する影響を低減する効果をより一層高めることが可能である。そして、このような耐偏心性は、領域が点対称で形成される場合、更に一層高められる。
【0037】
一方、アブソ検出部113は、本実施形態では7つのアブソ検出部1131〜1137で構成される。アブソ検出部1131〜1137は、図5に示すように、基板110の下面において、回転軸AXから離れた位置に点対称に配置される。アブソ検出部1131〜1137としては、例えば受発光一体型素子を使用する事が可能である。アブソ検出部1131〜1137は、光を下方(ディスク140)に向けて発し、下方からきた光を受光する。その結果アブソ検出部1131〜1137は、受光信号を生成する。このアブソ検出部1131〜1137が生成する受光信号には、アブソリュート位置、つまり絶対位置の情報が含まれ、後述するモータ位置の算出に使用される。よって、このアブソ検出部113の個数及び配置位置は、モータ位置の絶対値が検出可能な構成であれば本実施形態に限定されるものではない。
【0038】
信号処理部114は、図4及び図5では省略されているが、基板110に配置される。そして、信号処理部114は、上記受光部112及びアブソ検出部113から受光信号を取得し、当該複数の受光信号から、モータ位置(絶対値を含む)及びモータ速度(回転方向を含む)を含む位置データを生成する。この生成された位置データは、制御部20に送られる。なお、この信号処理部114については、エンコーダ100の動作において構成を含めて説明する(図13参照)。また、信号処理部114は、本実施形態とは異なり、基板110以外のエンコーダ100の構成若しくは制御部20内に配置されてもよく、また、エンコーダ100及び制御部20とは異なる構成であってもよい。
【0039】
(導光部120)
導光部120は、主に例えばガラス材料やプラスチック材料などの光を透過する材質で形成され、マスク130(固定トラックT1)との間に基板110を挟んでその基板110の上方及び側方のほぼ全体を覆うように、回転軸AX上からマスク130に向けて延長形成される。そして、導光部120は、発光部111から発せられた光を、側方に発散させつつ導いた後下方へと導き、マスク130の固定トラックT1のほぼ全周に照射する。それだけでなく、導光部120は、後述する複数の固定スリット及び複数の回転スリットのほぼ全周を透過した光を、上記照射時と同様な光路で集光しつつ回転軸AX近傍に向けて導き、受光部112に照射する。ここでは、この光の流れ上、マスク130に光を照射する過程を「往路」ともいい、マスク130等からの戻り光を受光部112に照射する過程を「復路」ともいう。
【0040】
この導光部120の構成等を、図3及び図6〜図10を参照しつつ、より詳細に説明する。図6〜図10は、本実施形態に係る導光部の構成について説明するための説明図である。なお、図6は、導光部120を斜め上方から見た図であり、図7は、導光部120を上方から見た図であり、図8は、導光部120を斜め下方から見た図であり、図9は、導光部120を下方から見た図である。そして、図10は、導光部120を図6のB−B線で切断した切断面である。
【0041】
導光部120は、図3,図6及び図8に示すように、大きく分けて、入光部121と、発散集光部122と、第1導光部123と、方向変換面124と、第2導光部125と、照射入光面126と、出光部127と、鍔部128と、コーティングCOと、遮光部SPとを有する。
【0042】
入光部121は、図8及び図9に示すように、回転軸AX上に配置され、回転軸AXに沿って第1導光部123から発光部111に向けて延長形成される。そして、入光部121は、発光部111から発せられた光が入光され、その光を上方に導く。この際、入光部121は、上方にいくにつれて半径が大きくなる円柱状に形成されることが望ましい。入光部121から入光した光は、発散集光部122の発散面122Aに照射される。
【0043】
発散集光部122は、下方に陥没して形成された略円錐形状の面を有し、かつ、回転軸AXから周方向に発散面122Aと集光面122Bに分かれる。発散面122Aは、入光部121から伝搬された光を、径方向に反射させつつ、光を第1導光部123の全周にわたるように発散させるように、湾曲した面で形成される。なお、この湾曲面は、径方向の外周から平行な光が照射された時に、発光部111に集光されるように設定されることが望ましい。他方、集光面122Bは、発散集光部122の略円錐形状のうち発散面122Aよりも半径方向外側に設けられる。そして、集光面122Bは、復路を伝搬して第1導光部123を径方向に回転軸AXに向けて集光された光を、受光部112方向に反射させるように、湾曲した面で形成される。この湾曲面は、径方向の外周から平行な光が照射された時に、焦点が受光部112に最大限集光するように設定されることが望ましい。
【0044】
第1導光部123は、図3及び図6〜図10に示すように、基板111を覆うように略円板状に形成され、発散面122Aで発散された光を径方向外周に向けて導光する一方、復路の光を径方向内周に向けて導光する。
【0045】
方向変換面124は、図3及び図6等に示すように、第1導光部123の径方向外周において半径方向に対して略45°のリング状の面として形成される。そして、方向変換面124は、第1導光部123を径方向に向けて伝搬された光を下方に向けて反射する。一方、方向変換面124は、第2導光部125が上方に向けて伝搬した光を径方向で回転軸AXに向けて反射する。
【0046】
第2導光部125は、リング状の方向変換面124の下方においてリング状に配置され、基板110の側方を覆いつつ、方向変換面124からマスク130(固定トラックT1)近傍まで延長形成される。そして、この第2導光部125の下方には、照射入光面126が形成される。よって、導光部120の往路を伝搬した光は、第2導光部125により、マスク130近傍まで導かれ、照射入光面126を介してマスク130に照射される。一方、マスク130等からの戻り光は、照射入光面126から第2導光部125に入光して、導光部120により上記復路を伝搬される。
【0047】
出光部127は、入光部121の近傍において各領域XA〜XD毎に受光部112A〜112Dに対応した位置に出光部127A〜127Dの4つが配置される。そして各出光部127A〜127Dは、復路を伝搬し集光面122Bで集光された光を各受光部112A〜112D近傍まで導き、受光部112A〜112Dに向けて照射する。
【0048】
鍔部128は、第2導光部125の外周から径方向外側に向けて突出して形成される。この鍔部128は、導光部120をエンコーダ100の筐体(図示せず)に固定する役割を担う。
【0049】
コーティングCOは、照射入光面126・入光部121の入光面・出光部127の出光面以外の導光部120の面に配置される。そして、このコーティングCOは、光を反射又は遮蔽する材質で形成される。よって、コーティングCOは、導光部120が導光する光が外部に漏れたり、導光部120に照射光及び戻り光以外の余分な光が混ざることを防止できる。なお、このコーティングCOは、漏れ光や迷光による影響が少なければ、配置されなくてもよい。
【0050】
遮光部SPは、図9に示すように、4つの領域XA〜XDの境界に対応した位置に配置され、領域XA〜XD間を跨ぐ光を遮蔽する。つまり、本実施形態の場合、遮光部SPは、4つの領域XA〜XDの4つの境界に1ずつ配置される。このような遮光部SPを有することにより、導光部120は、マスク130の領域XA〜XDそれぞれから入射した光を、それぞれ対応した受光部112A〜112Dへと導くことができ、受光信号のノイズ成分を減少させさせることができる。
【0051】
より詳細に遮光部SPについて説明する。
遮光部SPは、図9及び図10等に示すように、回転軸AXから順に第1遮光部SP1と第2遮光部SP2と第3遮光部SP3とを有する。第1遮光部SP1は、回転軸AXから径方向外周に向かうにつれて、導光部120の幅(回転軸AXと垂直な面内の幅)が拡大しかつ厚み(回転軸AX方向の厚み)が減少することにより形成される。一方、第2遮光部SP2及び第3遮光部SP3は、図6、図8及び図10に示すように、導光部120の切り欠きとして形成される。なお、第1遮光部SP1は、上記のような形状を有することにより、一体としての導光部120の機械的強度を向上させる。更に第1遮光部SP1は、このような形状により、往路光が拡散されることを防ぎつつ復路光のクロストークを各領域XA〜XD間で適切に防止する効果を向上させることができる。なお、第1遮光部SP1〜第3遮光部SP3は、切り欠き等ではなく光を透過しない材質で形成されてもよい。
【0052】
このような形状を有する導光部120は、往路光と復路光をマスク130と発光部111又は受光部112とマスク130との間を伝搬することが可能である。この際、導光部120は、遮光部SPを有することにより、各領域XA〜XD間を跨ぐ光を低減させて受光信号のノイズを低減することが可能である。そして、導光部120は、コーティングCOを有することにより、漏れ光や迷光が受光されることを防止して、更に受光信号のノイズを低減することが可能である。また、導光部120は、一部構成を除き、導光する部材の全体を同一の材質で一体に形成することが可能であるため、型を使用して成形するなど製造が容易である。
【0053】
(マスク130)
マスク130は、主に少なくとも表面が光を吸収又は拡散する材質で形成され、ディスク140の回転トラックT2の上面を覆う形状を有し、導光部120が照射する光を遮る位置に固定して配置される。このマスク130の構成を、図11に示す。図11は、本実施形態に係るマスクの構成について説明するための説明図である。図11に示すように、マスク130は、固定トラックT1と、アブソ用固定スリットS3(アブソ用固定スリットS31〜S37)と、開口部131と、を有する。
【0054】
固定トラックT1は、回転トラックT2の上方(一側の一例)において、回転軸AXを中心としたリング状に設定される。なお、この固定トラックT1は、回転トラックT2に対応し、ほぼ一致する形状を有する。そして、この固定トラックT1は、図11に示すように、周方向(回転方向)で4つの領域XA〜XDに分割されている。そして、この領域XA〜XD毎に複数の固定スリットS1が配置される。
【0055】
固定スリットS1は、図11に示すように、回転軸AXを中心とし、各領域XA〜XD内でピッチ(繰り返し間隔)pが等しい放射状のパターンで複数形成される。そして、固定スリットS1は、往路光及び復路光を透過する。なお、領域XA〜XDそれぞれに含まれる複数の固定スリットS1を、固定スリットS1A〜S1Dという。つまり、固定スリットS1Aを透過した光が、領域XAを伝搬され、固定スリットS1Bを透過した光が、領域XBを伝搬され、固定スリットS1Cを透過した光が、領域XCを伝搬され、固定スリットS1Dを透過した光が、領域XDを伝搬されることになる。
【0056】
より具体的に、複数の固定スリットS1Aを例に挙げて説明する。
複数の固定スリットS1Aは、トラックT1の領域XAに配置される。複数の固定スリットS1Aは、等しいピッチp(例えば角度ピッチ)で回転軸AXを中心とした放射状に配置される。なお、固定スリットS1B〜S1Dそれぞれのピッチpも固定スリットS1Aのピッチpと等しく設定されることになる。
【0057】
他方、固定トラックT1における、一の領域内の複数の固定スリットS1と、その一の領域に隣接する他の領域内の複数の固定スリットS1とは、受光部112による受光信号間に回転方向が判別可能な位相差が生じるように形成される。つまり、一の領域内で複数の固定スリットS1は、回転軸AX周りの角度に対して所定の繰り返し周期(ピッチp)で形成されるが、その一の領域とそれに隣接する他の領域の固定スリットS1は、繰り返し周期は同じでも、その周期に位相差が生じるように形成される。そして、この位相差は、後述するディスク140の回転方向を判別可能な位相差に設定される。なお、この位相差は、固定トラックT1の分割数(本実施形態では4)や受光信号の分解能に応じて望ましい値が異なるが、0°より大きく180°より小さい値に設定されることで、ディスク140の回転方向を判別可能となる。なお、本実施形態の場合、領域XA〜XDが4つの等分割された領域であることから、位相差は、90°又は180°に設定されることが望ましい。これにより、各領域間の位相差を同一にすることができ、製造や信号処理が用意になる。なお、本実施形態では、隣接した領域間の位相差が90°である場合を例にあげて説明する。
【0058】
より具体的に、相隣接した固定スリットS1Aと固定スリットS1Bとの関係を例にあげて説明する。領域XAの固定スリットS1B側端部に位置した固定スリットS1Aと、領域XBの固定スリットS1A側端部に位置した固定スリットS1Bとの間には、スリット間隔φA(位相差)が設けられる。このスリット間隔φAは、本実施形態では位相差が90°であるため、ピッチpの4分の1の奇数倍に設定されることになる。そして、他のスリット間隔φB〜φDも、同様にピッチpの4分の1の奇数倍に設定される。なお、位相差が180°の場合には、スリット間隔φA〜φDは、ピッチpの2分の1の奇数倍に設定されることになる。
【0059】
開口部131は、マスク130の中央位置に設けられ、基板110の発光部111等で発せられた熱を放熱する。なお、シャフト202に送風機構を設けてその回転による風を開口部131を介して基板110に送り、上記遮光部SPの切り欠きから熱を逃がすことも可能である。この場合、送風機構は、シャフト202の開口部190内に設けられてもよい。
【0060】
アブソ用固定スリットS31〜S37は、図5に示したアブソ検出部1131〜1137と回転軸AX方向で一致する位置に形成される。そして、このアブソ用固定スリットS31〜S37は、アブソ検出部1131〜1137の発光素子で発光された光を、回転軸AX方向に透過してディスク140に照射しつつ、ディスク140で反射された光を、やはり回転軸AX方向に透過してアブソ検出部1131〜1137の受光素子へと導く。この際、アブソ用固定スリットS31〜S37は、受光素子による受光信号の精度を向上させるだけでなく、上記受光部112の受光信号のノイズを減少させるために、照射光及び反射光をコリメートして直進光に近づける。
【0061】
(ディスク140)
ディスク140は、図3に示すように、モータ部200の回転出力が伝達される回転シャフト202に固定される。なお、上記マスク130や導光部120の第1導光部123、基板110等の構成も同様であるが、ディスク140は、回転軸AXと垂直な面と平行に配置される。また、ディスク140は、図3に示すように、マスク141と導光部142とを有する。そして、マスク141は、回転トラックT2と、アブソ用回転スリットS4とを有する。このディスク140の構成についてより具体的に図3及び図12を参照しつつ説明する。図12は、本実施形態に係るディスクの構成について説明するための説明図である。なお、図12は、ディスク140のマスク141側の面(上方)を見た図である。
【0062】
図12に示すように、ディスク140は、回転軸AXを中心とした円板状に形成される。そして、マスク141は、ディスク140の上面に配置される。なお、マスク141の配置位置は、特に限定されるものではないが、導光部142の反射部V1及びV2よりも基板110側に配置されることが望ましい。
【0063】
マスク141は、例えば光を透過又は正反射させずに吸収又は拡散させる材質で形成される。他方、マスク141には、トラックT2が設定され、このトラックT2には、光を透過する複数の回転スリットS2が配置される。更に、マスク141は、やはり光を透過するアブソ用回転スリットS4(アブソ用回転スリットS41〜S47)を有する。なお、これらのスリットは、マスク141の他の部位と異なり光を透過する。
【0064】
トラックT2は、図11に示したマスク130のトラックT1の下方にほぼ同一の半径で回転軸AXを中心としたリング状に設定される。そして、回転スリットS2は、固定スリットS1A〜S1Dのピッチpと同一のピッチpで、回転軸AXを中心とした放射状に形成される。よって、ディスク140が回転して、図11に示す固定スリットS1A〜S1Dと回転スリットS2とが回転軸AX方向で一致した領域XA〜XDのマスク141だけが光を下方(導光部142側)に透過する。
【0065】
アブソ用回転スリットS41〜S47は、回転軸AXからの距離がアブソ用固定スリットS31〜S37やアブソ検出部1131〜1137と同様な位置に配置される。そして、アブソ用回転スリットS41〜S47は、所定のアブソリュートパターンを有し、アブソ用回転スリットS41〜S47とアブソ用固定スリットS31〜S37とが回転軸AX方向で一致した場合に、光を下方に透過する。なお、このアブソ用回転スリットS4のアブソリュートパターンは、ディスク140の1回転内で、アブソ用固定スリットS31〜S37のいずれかと回転軸AX方向で一致する組み合わせが、同一にならないように設定される。つまり、このアブソ用回転スリットS4のアブソリュートパターンは、アブソ用固定スリットS31〜S37のいずれかと回転軸AX方向で一致する組み合わせにより、1X(1回転内の絶対位置)を示すように形成される。
【0066】
透過部142は、図3に示すように、反射部V1と、反射部V2と、コーティングCOとを有する。
【0067】
反射部V1及び反射部V2は、それぞれ回転スリットS2及びアブソ用回転スリットS4の下方に配置され、回転スリットS2及びアブソ用回転スリットS4を透過した光を上方に向けて反射して回転スリットS2及びアブソ用回転スリットS4を再度透過させる。本実施形態における反射部V1,V2は、図3に示すように、透過部140の下面において断面がV字のリング状に突出して形成される。これにより、反射部V1,V2は、各スリットを透過して回転軸AXと平行な光路を下方に向かう光を、径方向で内側にずらし、回転軸AXと平行な光路を今度は上方に向けて反射する。なお、反射部V1における復路光を見ると、この復路光は、再度回転スリットS2及び固定スリットS1を透過して導光部120へと入射し、反射面124で反射される結果、往路光よりも上方を通過して、集光部122Bへと到達し、受光部112に向けて集光されることになる。
【0068】
なお、反射部V1及び反射部V2は、このように光路を径方向でずらしつつ、光を各スリットに戻すように反射するような構成であれば、このような構成に限定されるものではない。例えば、反射部V1及び反射部V2は、透過部140の上面に設けられたV字状の溝であってもよい(この場合、透過部140は光を透過する必要はない。)。ただし、このように反射部V1及び反射部V2を透過部140の下方に突起として設けることにより、遠心力や信号が伝わるディスク140の機械的強度を向上させることが可能である。
【0069】
以上、本発明の第1実施形態に係るエンコーダ100の構成について説明した。次に、本発明の第1実施形態に係るエンコーダ100の動作について説明する。なお、このエンコーダ100が有する信号処理部114の詳しい構成については、この動作の説明において図13を参照しつつ説明する。図13は、本実施形態に係る信号処理部の構成について説明するための説明図である。
【0070】
(1−3.第1実施形態に係るエンコーダの動作)
信号処理部114は、図13に示すように、A相信号生成部1141と、B送信号生成部1142と、アブソ信号生成部1143と、位置データ生成部1144とを有する。各構成については、動作を通じて説明する。
【0071】
(アブソ信号生成動作)
まず、アブソリュート(絶対位置)信号(アブソ信号)の生成動作について説明する。このアブソ信号生成動作は、図13に示すアブソ信号生成部1143で行われる。以下、光の流れと共に説明する。
【0072】
図3及び図5に示すアブソ検出部1131〜1137それぞれの発光素子は、マスク130に向けて光を照射する。すると、その光は、図11に示すマスク130のアブソ用固定スリットS31〜S37をそれぞれ透過して、コリメートされつつディスク140に照射される。他方、ディスク140は、モータ部200の回転により回転するため、図12に示す所定のパターンを有するアブソ用回転スリットS41〜S47も回転する。その結果、アブソ用回転スリットS41〜S47とアブソ用固定スリットS31〜S37とが一致した光が、アブソ用回転スリットS41〜S47を透過する。透過した光は、透過部141の反射部V2で反射される。その反射された光は、再度アブソ用回転スリットS41〜S47とアブソ用固定スリットS31〜S37を透過して、アブソ検出部1131〜1137の受光素子で受光される。従って、アブソ検出部1131〜1137は、ディスク140の1回転内の周期を有する所定の組み合わせの受光信号を出力する。
【0073】
そこで、アブソ信号生成部1143は、アブソ検出部1131〜1137からこの受光信号を取得する。そして、アブソ信号生成部1143は、この7つの受光信号の組み合わせから、1回転内の大体の絶対位置を割り出す。このアブソ信号生成部1143による絶対位置を表すアブソ信号生成処理は、例えば予め7つの受光信号の組み合わせと絶対位置との間の関係をテーブル等で記憶しておき、その関係から割り出すなど、様々な方法が使用可能である。そして、アブソ信号生成部1143は、生成したアブソ信号を位置データ生成部1144に出力する。
【0074】
(A相信号及びB相信号生成動作)
次に、上記アブソ信号生成動作と共に行われる、インクリメンタル信号に対応したA相信号及びB相信号の生成動作について説明する。このA相信号及びB相信号生成動作は、A相信号生成部1141とB相信号生成部1142とで行われる。以下、光の流れと共に説明する。
【0075】
図3及び図4に示す光源111は、導光部120の入光部121に向けて光を照射する。入光部121から入射した光は、入光部121を上方に伝播し、発散集光部122の回転軸AX側に位置した発散部で径方向に向けて反射され、第1導光部123を径方向の外周のほぼ全周に向けて伝搬される。そして、この光は、方向変換面124で更に下方(マスク130側)に向けて反射され、第2導光部125を下方に向けて伝搬され、照射入光面126からマスク130に照射される。図11に示すように、ディスク130の領域XA〜XDそれぞれには、90°位相差がついた同一ピッチpの複数の固定スリットS1A〜S1Dが形成されている。従って、導光部120から照射された光は、この固定スリットS1A〜S1Dを透過して、その固定スリットS1A〜S1Dのパターンでディスク140に照射される。
【0076】
一方、回転しているディスク140は、図12に示すように、全周に亘って等ピッチpの回転スリットS2が形成されているため、そのディスク140の位置(角度)に応じて、固定スリットS1A〜S1Dと回転スリットS2とが重なりあう部位だけ光を下方に透過させる。従って、ディスク140が固定スリットS2の1ピッチp分回転する間に略正弦波状に強度が変化する光が、ディスク140の固定スリットS2を透過することになる。一方、固定スリットS1A〜S1Dは、各領域XA〜XD同士で90°又は180°の位相差が形成されているため、各領域XA〜XDに対応した位置でディスク140を透過する光は、それぞれ90°又は180°の位相差を有する略正弦波状の光となる。つまり、ディスク140が1ピッチp分回転する間に、例えば、回転スリットS2は、順次、領域XAの固定スリットS1A・領域XBの固定スリットS1B・領域XCの固定スリットS1C・領域XDの固定スリットS1Dと一致する。
【0077】
このようにディスク140を透過した光は、図3に示すようにディスク140の裏面に形成された導光部142を透過してV字状の反射部V1で一旦径方向内側に反射された後、再度上方(固定スリットS2側)に向けて反射される。径方向内側にずらされた復路を往路と反対方向に進む光は、順次固定スリットS2及び回転スリットS1を透過して、導光部120に入光する。すると、この光は、往路とは逆に、コーティングCOの施されてない照射入光面から導光部120の第2導光部125に導かれ、第2導光部125を上方に向けて伝搬される。そして、この光は、方向変換面124で径方向内側(つまり回転軸AX側)に向けて反射・集光される。方向変換面124で反射された光は、反射前までは往路光よりも径方向内側を通過していたため、反射後では往路光よりも上方(マスク130から離れる方向)を通過する。従って、この復路光は、往路光とは異なり、主に発散集光部122の集光面122Bに到達する。一方、集光面122Bは、光路が出光部127で受光部112の受光面近傍に集光されるよう設定されているため、集光面122Bで反射した光は、集光されつつ出光部127を伝搬して受光部112で受光される。
【0078】
なお、上述の通り、この復路光等は、ディスク140の回転に応じて、固定スリットS1A〜S1Dにより領域XA〜XD毎に異なるタイミングで受光部112A〜112Dに受光される。そして導光部120は、図10に示すように、この異なるタイミングで生じた領域XA〜XD毎の光がクロストークすることを防止可能な遮蔽部SPを有する。そして、図4及び図8〜図9に示すように、出光部127及び受光部112A〜112Dは、各領域XA〜XD毎に設けられている。従って、本実施形態に係るエンコーダ100によれば、受光部112A〜112Dは、ノイズが低減され、90°又は180°位相差を各領域XA〜XD毎に有する正弦波状の受光信号を発生する。そして、図13に示すように、回転軸AXを挟んで対向した受光部112A及び受光部112Cの受光信号は、信号処理部114のA相信号生成部1141に出力され、同じく回転軸AXを挟んで対向した受光部112B及び受光部112Dの受光信号は、信号処理部114のB相信号生成部1142に出力される。
【0079】
A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142は、点対称の関係となる2の領域から2の受光部がそれぞれ受光して得られた2の受光信号をそれぞれ取得する。そして、A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142それぞれは、その2の受光信号同士を減算(差動)することにより1の信号を生成する。よって、A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142からは、2の信号(A相信号及びB相信号)が生成される。
この際、A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142がそれぞれ取得した2の受光信号は、本実施形態の場合、回転軸AXを挟んで配置された領域の固定スリットS1が180°位相差を有するため、180°位相差を有する。従って、このように差動されることにより、2の受光信号からは、偏心量などの誤差が相殺された1のA相信号又はB相信号が生成されることになる。つまり、例えば、図11において、ディスク140の回転軸AXが所望の位置から領域XAと領域XCの方向に偏心した場合、この偏心による誤差は、他の領域に比べて、領域XAからの受光信号と領域XCからの受光信号に生じる。しかし、この誤差による受光信号の強度は、領域XAの受光信号と領域XCの受光信号では逆となる。よって、本実施形態のようにA相信号生成部1141が両受光信号を差動させることによりこのような誤差を相殺することが可能である。同様に、B相信号生成部1142は、ディスク140の回転軸AXが所望の位置から領域XBと領域XDの方向に偏心した場合に生じる誤差を相殺することが可能である。
また、上記のように生成されたA相信号とB相信号とは、固定スリットS1A,S1Cと固定スリットS1B,S1Dとが電気角で90°位相差を有するため、ディスク140の1ピッチp分の回転で1周期となり、かつ、90°の位相差を有する。
そして、A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142は、生成したA相信号生及びB相信号に出力する。この際、A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142は、生成したA相信号生及びB相信号を所定の逓倍数で逓倍して出力することにより、分解能を向上させてもよい。また、A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142は、A相信号生及びB相信号を生成する過程で、アナログ・デジタル変換処理や信号増幅処理を施すことが好ましい。
【0080】
なお、ここでは、A相信号生成部1141及びB相信号生成部1142は、それぞれ取得する2の受光信号が90°の位相差を有すため、この2の受光信号を差動増幅させるが、例えば、2の受光信号が180°の位相差を有する場合には、この2の受光信号を加算して増幅させることにより、同様に誤差を相殺することが可能である。
【0081】
(位置データ生成動作)
最後に、上記アブソ信号とA相信号とB相信号とから、位置データを生成する動作について説明する。この位置データ生成動作は、位置データ生成部1144で行われる。
【0082】
位置データ生成部1144は、上述のように生成されたアブソ信号とA相信号とB相信号とを取得する。そして、位置データ生成部1144は、これらの信号に基づいて、ディスク140の回転方向を含む位置データを生成する。つまり、位置データ生成部1144は、アブソ信号に基づいて、ディスク140の1回転内の大まかな絶対位置(アブソリュート位置)を特定する。一方、位置データ生成部1144は、A相信号及びB相信号の少なくとも一方をカウント等することにより、上記の大まかな絶対位置に対してより詳細な絶対位置を特定する。更に、位置データ生成部1144は、A相信号及びB相信号の位相差が90°であるか−90°であるかを参照することにより、ディスク140の回転方向を特定する。そして、位置データ生成部1144は、特定した精度の高い絶対位置と回転方向とを含む位置データを生成して、制御部20に出力することになる。
【0083】
(1−4.第1実施形態による効果の例)
以上、本発明の第1実施形態に係るエンコーダ100及びこのエンコーダ100を備えたモータシステム1について説明した。このエンコーダ100等によれば、ディスク140のほぼ全周に亘って光を照射して、その全周から得られた信号から受光信号を生成している。従って、エンコーダ100等は、ディスク140の偏心等により生じる誤差の影響を低減して、精度の高い位置検出を行うことが可能である。従って、エンコーダ100等によれば、ディスク140等の高精度な位置決めが要求されず、エンコーダ100等の製造を容易にすることが可能である。
【0084】
また、このエンコーダ100等は、1つのトラックT1中に複数の領域XA〜XDを有し、各領域XA〜XD毎に位相の異なる受光信号を得ることを可能にしている。従って、このエンコーダ100等は、回転方向を検出する複数相の受光信号を得るために、ディスク140やマスク130に複数のトラックを設定する必要や、それに応じた複数の導光部を用意せずに済む。よって、このエンコーダ100等によれば、部品点数を減少させて製造コストを低減するだけでなく、装置自体を小型化することが可能である。更に言えば、このことは原材料の使用量の低減につながるだけでなく、光源111を複数用意する必要がないため、エネルギー消費量を低減することも可能である。
【0085】
この際、エンコーダ100等によれば、軸を挟んで対向した領域から電気角で0°又は180°位相が異なる受光信号が得られるように、固定スリットS1が設定され、かつ、両領域から得られた2の受光信号を位相差が180°であれば減算し0°であれば加算する。従って、このエンコーダ100等によれば、上記偏心誤差低減効果が減少することを防止することが可能である。なお、このことについて言えば、本実施形態ではトラックT1が4分割される場合について説明したが、このトラックT1の分割数は特に限定されるものではない。しかし、分割数が4の倍数の場合に、回転軸AXを挟んで対向した領域から、A相信号又はB相信号を生成することが可能であり、より大きな偏心誤差低減効果を発揮することが可能である。また、分割数が大きいほど、更に大きな偏心誤差低減効果を発揮可能である。
【0086】
更に、エンコーダ100等によれば、各領域XA〜XDを伝搬する光のクロストークを防止する遮光部SPを有することにより、A相信号用の受光信号とB相信号用の受光信号とを同一導光部120中を伝搬させることにより生じるノイズを低減することが可能である。従って、エンコーダ100等は、更に精度の高い位置検出が可能である。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明した。しかしながら、本発明はこれらの実施形態の例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、様々な変更や修正を行うことに想到できることは明らかである。従って、これらの変更後や修正後の技術も、当然に本発明の技術的範囲に属するものである。
【0088】
例えば、上記実施形態では、相隣接する領域XA〜XDから得られる受光信号同士の位相が90°異なるように、相隣接する固定スリットS1A〜S1X間に、電気角で90°のスリット間隔φA〜φDを設けた。しかし、このスリットスリット間隔φA〜φDは、この例に限定されるものではなく、受光信号に電気角で0°より大きく180°より小さい分解能以上の位相差が生じるような間隔であればよい。
【0089】
また、上記実施形態では、反射部V1,V2がディスク140の裏面に突出した部位として設けられる場合について説明した。しかしながら、この反射部V1,V2は、回転スリットS2を透過した往路光を、その往路と同一又は平行な光路で反射可能な構成であれば様々な構成が考えられる。つまり、例えば反射部V1、V2は、回転スリットS2自体又は回転スリットS2の下方に配置されたV字状の溝として形成されてもよい。この場合、導光部142は必ずしも必要ではない。また、往路光と復路光を同一光路で伝搬させる場合、回転スリットS2自体を反射スリットとして構成することも可能である。例えば、平板状の低反射部材の上に高反射コートを部分的に、141のスリット開口部のみ、配置することで142が不要な構造とすることが可能である。
【0090】
また、上記実施形態では、導光部120として複数の反射面等を有する導光部材として説明した。しかしながら、この導光部120は、例えば、全周に光を照射可能な光ファイバや光ファイバの束などで構成することも可能である。
【0091】
更に、上記実施形態では、最終的にアブソリュート形のエンコーダを構成するために、アブソ信号をえる構成も備える例について説明した。しかし、このアブソ信号用の格子得は、上記実施形態以外にも、光学式・磁気式・レゾルバ式・機械式問わず様々な構成を使用することが可能である。更にいえば、インクリメンタル形のエンコーダを構成する場合、アブソ信号用の構成は不要で、アブソ用素子配置とアブソ用スリット配置をU,V,W相等の配置とすることで対応可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0092】
1 モータシステム
10 モータ
20 制御部
100 エンコーダ
110 基板
111 発光部
112,112A,112B,112C,112D 受光部
113,1131,1132,1133 アブソ検出部
1134,1135,1136,1137 アブソ検出部
114 信号処理部
1141 A相信号生成部
1142 B相信号生成部
1143 アブソ信号生成部
1144 位置データ生成部
120 導光部
121 入光部
122 発散集光部
122A 発散面
122B 集光面
123 第1導光部
124 方向変換面
125 第2導光部
126 照射入光面
127,127A,127B,127C,127D 出光部
128 鍔部
CO コーティング
SP 遮光部
SP1 第1遮光部
SP2 第2遮光部
SP3 第3遮光部
130 マスク
131 開口部
T1 固定トラック
S1,S3 固定スリット
S31,S32,S33,S34,S35,S36,S37 アブソ用固定スリット
140 ディスク
141 マスク
142 導光部
T2 回転トラック
S2,S4 回転スリット
S41,S42,S43,S44,S45,S46,S47 アブソ用回転スリット
V1,V2 反射部
200 モータ部
201,202 回転シャフト
203 開口部
AX 回転軸
XA,XB,XC,XD 領域
φA,φB,φC,φD スリット間隔
p ピッチ
x 位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸周りに回転可能な回転体に追従して回転可能であり、かつ、前記回転軸を中心としてリング状に設定された回転トラックと、
前記回転トラックにおいて前記回転軸を中心とした放射状に等ピッチで形成され、光を透過する複数の回転スリットと、
前記回転トラックの一側において該回転トラックに対応してリング状に固定して設定され、かつ、周方向で2以上の領域に分割された固定トラックと、
前記固定トラックにおいて前記回転軸を中心とした放射状に前記領域内で等ピッチに形成され、光を透過する複数の固定スリットと、
前記複数の固定スリット及び前記複数の回転スリットを透過した光を、集光しつつ前記回転軸近傍に向けて導く導光部と、
前記回転軸近傍に配置され、前記導光部により導かれた光を、前記2以上の領域毎にそれぞれ受光する2以上の受光部と、
を有し、
前記固定トラックにおける、一の前記領域内の複数の固定スリットと、該一の領域に隣接する他の前記領域内の複数の固定スリットとは、前記2以上の受光部による受光信号間に回転方向が判別可能な位相差が生じるように形成される、光全周エンコーダ。
【請求項2】
前記固定トラックは、4の整数倍の個数の前記領域に分割される、請求項1に記載の光全周エンコーダ。
【請求項3】
前記導光部は、前記2以上の領域の境界に対応した位置に、前記2以上の領域を跨ぐ光を遮蔽する複数の遮光部を有する、請求項1又は2に記載の光全周エンコーダ。
【請求項4】
前記固定トラックが有する2以上の領域は、前記回転軸周りに前記領域の数の回転対称に設定され、
前記回転軸周りに点対称の関係となる2の前記領域毎の前記複数の固定スリットは、2の前記受光部による受光信号間に電気角で0°又は180°の位相差が生じるように形成される、請求項1に記載の光全周エンコーダ。
【請求項5】
前記点対称の関係となる2の領域から得られた2の受光信号同士を加算又は減算した結果に基づいて、前記回転体の回転方向を含む位置データを生成する位置データ生成部を更に有する、請求項4に記載の光全周エンコーダ。
【請求項6】
光を発する光源及び前記2以上の受光部が配置され、前記固定トラックにおける前記回転トラックと反対側に、前記光源が前記回転軸上に位置するように配置される基板と、
前記回転トラックの他側に配置され、前記複数の固定スリットを透過した後、前記複数の回転スリットを透過した光を、該複数の回転スリットに向けて反射する反射部と、
を更に有し、
前記導光部は、
前記固定トラックとの間に前記基板を挟んで該基板を覆うように、前記回転軸上から前記固定トラックに向けて延長形成され、
前記回転軸上に配置された光源から発せられた光を、前記固定トラックに照射し、
前記反射部で反射された後、前記複数の回転スリット及び前記複数の固定スリットを順次透過した光を、前記回転軸に向けて集光しつつ前記2以上の受光部に導く、請求項1に記載の光全周エンコーダ。
【請求項7】
回転シャフトを回転させるモータ部と、
前記回転シャフトに連結されて前記回転シャフトの位置を測定する光全周エンコーダと、
前記光全周エンコーダが検出した位置に基づいて、前記モータ部の回転を制御する制御部と、
を備え、
前記光全周エンコーダは、
前記回転体に追従して回転可能であり、かつ、前記回転軸を中心としてリング状に設定された回転トラックと、
前記回転トラックにおいて前記回転軸を中心とした放射状に等ピッチで形成され、光を透過する複数の回転スリットと、
前記回転トラックの一側において該回転トラックに対応してリング状に固定して設定され、かつ、周方向で2以上の領域に分割された固定トラックと、
前記固定トラックにおいて前記回転軸を中心とした放射状に前記領域内で等ピッチに形成され、光を透過する複数の固定スリットと、
前記複数の固定スリット及び前記複数の回転スリットを透過した光を、集光しつつ前記回転軸近傍に向けて導く導光部と、
前記回転軸近傍に配置され、前記導光部により導かれた光を、前記2以上の領域毎にそれぞれ受光する2以上の受光部と、
を有し、
前記固定トラックにおける、一の前記領域内の複数の固定スリットと、該一の領域に隣接する他の前記領域内の複数の固定スリットとは、前記2以上の受光部による受光信号間に回転方向が判別可能な位相差が生じるように形成される、モータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−196870(P2011−196870A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65081(P2010−65081)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】