説明

光半導体素子および光半導体素子の製造方法

【課題】歩留りを維持しつつ光取り出し効率を向上させることができる光半導体素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
半導体膜の表面に半導体膜の結晶軸に沿って等間隔に配列された複数の凹部を形成する。半導体膜の表面をエッチング処理することにより半導体膜の表面に複数の凹部の配列形態に従って配列され且つ半導体膜の結晶構造に由来する複数の突起を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード等の光半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード等の光半導体素子は、近年の技術の進歩により高出力化されている。これに伴って、光半導体素子の発熱量が増大する故、発光効率の低下および半導体膜の劣化等が問題となる。これを解決するために半導体膜の結晶成長に用いられる比較的熱伝導性の低いサファイア基板等の成長用基板を除去し、これに替えて比較的熱伝導性の高い基板で半導体膜を支持する構成がとられている。
【0003】
また、サファイア基板を除去することにより表出した半導体膜の表面に化学的なエッチング処理を施すことにより半導体膜の結晶構造に由来する複数の突起を形成し、光取り出し面に光取出し構造を形成することが行われている。これにより、光取り出し面において全反射される光の成分を減少させることができるため、光取り出し効率を向上させることが可能となる。例えば、GaN系半導体膜のC−面にアルカリ溶液を用いたウェットエッチング処理を施すことによりC−面上にウルツ鉱型の結晶構造に由来する複数の六角錐状の突起を形成することができる。このような結晶構造に由来する突起はマイクロコーンと称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−067182号公報
【特許文献2】特開2010−157551号公報
【特許文献3】特表2007−521641号公報
【特許文献4】特開2009−238879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、従来のプロセスを用いてGaNの表面に形成されたマイクロコーンの電子顕微鏡写真である。従来の化学的なエッチング処理によって半導体膜の表面に複数のマイクロコーンを形成すると、図1に示すように、マイクロコーンの各々の大きさ、ピッチ、配列は不規則なものとなる。これは、半導体膜の結晶欠陥や表面の平坦性等に起因して半導体膜の表面にはエッチング速度が互いに異なる結晶面がランダムに存在しているためである。
【0006】
このように、大きさ、間隔、配列が不規則なマイクロコーンが形成されると、以下のような問題を生じる。すなわち、マイクロコーンの形成過程においてマイクロコーン同士が接触すると、これらは相互に侵食し合って形状が変形したり、または、マイクロコーンの成長が停止してマイクロコーンの間に平坦な隙間が形成される場合ある。この場合、光取り出しに有利となるファセット(斜面)が出現しにくくなり、光取り出し効率向上の妨げとなる。
【0007】
一方、光取り出し効率を向上させるためにはマイクロコーンの平均サイズをある程度大きくする必要があり、通常は、エッチング時間でマイクロコーンの平均サイズを調整する。しかしながら、従来のプロセスでは、平均サイズよりも顕著に大きいサイズのマイクロコーンの出現を回避することは困難であり、この大きいサイズのマイクロコーンによって半導体膜に貫通孔が形成され、これが歩留り低下の要因となっていた。このように、従来のプロセスでは、歩留りを維持しつつ光取り出し効率を最大限に向上させることは困難であった。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、歩留りを維持しつつ光取り出し効率を向上させることができる光半導体素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光半導体素子の製造方法は、六方晶系の結晶構造を有する半導体膜を含む光半導体素子の製造方法であって、前記半導体膜の表面に前記半導体膜の結晶軸に沿って等間隔に配列された複数の凹部を形成する工程と、前記半導体膜の表面をエッチング処理することにより前記半導体膜の表面に前記複数の凹部の配列形態に従って配列され且つ前記半導体膜の結晶構造に由来する複数の突起を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る光半導体素子は、六方晶系の結晶構造を有する半導体膜を含む光半導体素子であって、前記半導体膜は、その表面に前記半導体膜の結晶構造に由来する複数の六角錐状突起を有し、前記複数の突起は前記半導体膜の結晶軸に沿った最密充填配列をなして形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光半導体素子およびその製造方法によれば、歩留りを維持しつつ光取り出し効率を向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来のプロセスによって形成されたマイクロコーンを示す電子顕微鏡写真である。
【図2】図2(a)〜(d)は、本発明の実施例に係る光半導体装素子の製造方法を示す断面図である。
【図3】図3(a)〜(d)は、本発明の実施例に係る光半導体素子の製造方法を示す断面図である。
【図4】図4(a)〜(e)は、本発明の実施例1に係る製造方法により形成されるマイクロコーンの形成過程を示す平面図である。
【図5】本発明の実施例に係るプロセスによって形成されたマイクロコーンを示す電子顕微鏡写真である。
【図6】図6(a)〜(d)は、本発明の実施例2に係る製造方法により形成されるマイクロコーンの形成過程を示す平面図である。
【図7】図7(a)および(b)は、本発明の実施例に係る成長用基板の結晶成長面を示す平面図、図7(c)および(d)は、本発明の実施例に係る光半導体素子の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、各図において、実質的に同一又は等価な構成要素および部分には同一の参照符を付している。
【実施例1】
【0014】
図2(a)〜(d)および図3(a)〜(d)は、本発明の実施例1に係る光半導体素子の製造方法を示す断面図である。
【0015】
(半導体膜の形成)
六方晶系の一種であるウルツ鉱型の結晶構造を有するAlxInyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x + y + z = 1)を成長可能なC面サファイア基板を成長用基板10として用いる。有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により成長用基板10上にAlxInyGazNから成るn型半導体層22、活性層24、p型半導体層26を順次結晶成長させて半導体膜20を得る。
【0016】
n型半導体層22は、GaNからなるバッファ層、下地GaN層、n型GaN層により構成される。成長用基板10をMOCVD装置に投入し、基板温度約1000℃とし、水素雰囲気中で約10分程度の熱処理を行う(サーマルクリーニング)。次に成長温度500℃にてTMG(トリメチルガリウム)(流量10.4μmol/min)、NH(流量3.3LM)を約3分間供給してGaNからなる低温バッファ層(図示せず)を形成する。その後、基板温度を1000℃まで昇温し約30秒間保持することにより低温バッファ層を結晶化させる。次に、成長温度1000℃を維持したまま、TMG (流量45 μmol/min)、NH (流速4.4LM)を約20分間供給し、厚さ約1μmの下地GaN層(図示せず)を形成する。次に、成長温度1000℃を維持したまま、TMG (流量45 μmol/min)、NH (流量4.4LM)、SiH(流量2.7×10-9 μmol/min)を約120分間供給し、厚さ約7μmのn型GaN層を形成する。これにより、成長用基板10上にn型半導体層22が形成される。
【0017】
次に、InGaN井戸層/GaN障壁層からなるペアを5ペア積層した多重量子井戸構造を有する活性層24をn型半導体層22上に形成する。成長温度約700℃にてTMG(流量3.6 μmol/min)、TMI(トリメチルインジウム) (流量10 μmol/min)、NH(流量4.4LM)を33秒供給して厚さ約2.2nmのInGaN井戸層を形成し、続いてTMG(流量3.6 μmol/min)、NH (流量4.4LM)を320秒供給して厚さ約15nmのGaN障壁層を形成する。かかる処理を5周期分繰り返すことにより活性層24が形成される。
【0018】
p型半導体層26は、例えばp型AlGaNクラッド層、Mgドープされたp型GaN層を順次結晶成長させることで形成される。成長温度を870℃にてTMG(8.1 μmol/min)、TMA(トリメチルアルミニウム)(流量7.5 μmol/min)、NH(流量4.4LM)、CpMg(流量2.9×10-7 μmol/min)を5分間供給し、活性層24上に厚さ約40nmのp型AlGaNクラッド層を形成する。引き続きそのままの温度でTMG(流量18 μmol/min)、NH(流量4.4LM)、CpMg(流量2.9×10-7 μmol/min)を7分間供給し、p型AlGaNクラッド層上に層厚約150nmのp型GaN層を形成する。これにより活性層24上にp型半導体層26が形成される(図2(a))。
【0019】
(素子分割溝の形成)
半導体膜20をp型半導体層26の表面からエッチングして所定の素子分割ラインに沿った素子分割溝20aを形成する。具体的にはp型半導体層26の表面に素子分割ラインに沿った開口を有するレジストマスク(図示せず)を形成する。次に、ウエハを反応性イオンエッチング(RIE:reactive ion etching)装置に投入し、Clプラズマを用いたドライエッチングにより上記レジストマスクを介して半導体膜20をエッチングして半導体膜20に素子分割溝20aを形成する(図2(b))。
【0020】
(保護膜およびp電極の形成)
素子分割溝20aの形成に伴って表出した半導体膜20の側面を覆う絶縁体からなる保護膜28を形成する。具体的には、素子分割溝20aの形成に伴って表出した半導体膜20の側面に開口を有するレジストマスク(図示せず)を形成する。次に、スパッタ法などにより、半導体膜20上に絶縁膜28を構成するSiO膜を成膜する。次に、レジストリムーバによって上記レジストマスクを除去して不要部分のSiO膜をリフトオフすることにより保護膜28のパターニングを行う。尚、後の成長用基板10の除去工程において保護膜28にクラックや剥離が生じることを避けるために、保護膜28は成長用基板10にまで達していないことが望ましい。また、保護膜28はSi等の他の絶縁体より構成されていてもよい。
【0021】
次に、p型半導体層26の表面にp電極30を形成する。具体的には、p型半導体層26上のp電極形成領域に開口を有するレジストマスク(図示せず)を形成する。次に、例えば電子ビーム蒸着法により、p型半導体層26上に電極材料であるPt(厚さ1nm)/Ag(厚さ150nm)/Ti(厚さ100nm)/Pt(厚さ100nm)/Au(厚さ200nm)を順次堆積させる。その後、上記レジストマスクを除去して不要部分の電極材料をリフトオフすることによりp型半導体層26上にp電極30を形成する。p電極30は、活性層24から放射された光を光取り出し面に向けて反射させる光反射層としても機能する。尚、本実施例では保護膜28を形成した後にp電極30を形成することとしたが、p電極30形成した後に保護膜28を形成することとしてもよい。この場合、必要に応じてレジストマスクが用いられる(図2(c))。
【0022】
(支持基板の形成)
半導体膜20を支持可能な機械的強度を有する導電性の支持基板50を用意する。例えば、ドーパント注入により導電性が付与されたSi基板を支持基板50として使用することができる。スパッタ法により支持基板50の表面に厚さ約1μmのAuSnからなる共晶接合層(図示せず)を形成する。次に、ウエハボンダ装置を用いて成長用基板10側のp電極30と支持基板50側の接合層とを当接させて熱および圧力を加えて支持基板50を半導体膜20に接合する(図2(d))。
【0023】
(成長用基板の除去)
レーザリフトオフ(LLO)法により成長用基板10を半導体膜20から剥離する。レーザ光源としてエキシマレーザを使用することができる。成長用基板10の裏面側から照射されたレーザは、半導体膜20に達し、成長用基板10との界面近傍におけるGaNを金属GaとNガスに分解する。これにより、成長用基板10と半導体膜20との間に空隙が形成され、成長用基板10が半導体膜20から剥離する。成長用基板10を剥離することによりn型半導体層22が表出する。このn型半導体層22の表出面は、GaN半導体結晶のC−面であり、アルカリ溶液を用いたウェットエッチングにより、GaNの結晶構造に由来する六角錐状のマイクロコーンを形成することが可能である(図3(a)) 。
【0024】
(光取り出し構造の形成)
成長用基板10を除去することにより表出したn型半導体層22の表面にアルカリ溶液を用いたウェットエッチング処理を施してn型半導体層22の表面に複数のマイクロコーン22aを形成する。これにより、n型半導体層22の表面に光取り出し構造を形成する(図3(b))。
【0025】
図4(a)〜(e)は、光取り出し面であるn型半導体層22表面を示す図であって、本工程にけるマイクロコーン22aの形成過程を示す平面図である。
【0026】
成長用基板10を除去することにより表出したn型半導体層22の表出面(C−面)に半導体膜20の結晶軸に沿って等間隔に配列された複数の凹部60を形成する(図4(a))。凹部60の各々は、後のウェットエッチング工程においてエッチングの制御点として機能し、複数のマイクロコーン22aは、凹部60の配列形態に従って規則的に配列される。
【0027】
各凹部60がエッチングの制御点として有効に機能するために、各凹部60の径は、500nm以上1.5μm以下であり、深さは50nm以上1.7μm以下であることが好ましい。各凹部60の形状は、例えば、角柱状、角錐状、円柱状、円錐状(すり鉢状)、半球状とすることができる。凹部60の内壁において様々な結晶面が表出する円柱状、円錐状(すり鉢状)、半球状がより好ましい。
【0028】
複数の凹部60の配列形態は以下のとおりである。すなわち、図4(a)に示すように、任意の1の凹部に隣接する他の凹部の各々が正六角形の各頂点に配置され且つ上記正六角形を構成する互いに対向する2辺が半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向と平行となるように凹部60を等間隔に配列する。換言すれば、複数の凹部60が半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向に等間隔に整列し且つ[10−10]方向にも等間隔に整列するように凹部60を配列する。尚、半導体膜20の結晶軸の方向は、成長用基板10に通常形成されている結晶方位を示すオリエンテーションフラットと称される切り欠き部に基づいて把握することができる。
【0029】
マイクロコーン22aは底面がおおよそ正六角形の六角錐状となり、底面となる正六角形の対向する2辺を結ぶ垂線の長さが凹部60の配列間隔(ピッチ)に一致する。このため凹部60の配列間隔(ピッチ)は、形成しようとするマイクロコーンのサイズに応じて定めればよい。凹部60の間隔(ピッチ)を例えば、1.0μm以上5.5μm以下から選択することができる。凹部60の間隔(ピッチ)が活性層24から発せられる光の波長よりも大きい場合には、光取り出しに有利なサイズのマイクロコーンを形成することができる。また、マイクロコーンはC−面に対して約62°の斜面を持ち、凹部60の間隔と形成されたマイクロコーンの高さはほぼ一致する。従って、活性層まで到達する貫通孔が形成されないように、凹部60の間隔をn型半導体層22の厚みより小さくなるように設定する。
【0030】
複数の凹部60は、例えばフォトリソグラフィおよびドライエッチングにより形成することが可能である。すなわち、n型半導体層22の表面に凹部形成領域に開口を有するレジストマスクを形成した後、反応性イオンエッチングにより上記レジストマスクを介してn型半導体層22をエッチングすることにより凹部60を形成する。
【0031】
複数の凹部60を形成した後、THAH(テトラ・メチルアンモニア溶液)等のアルカリ溶液にウエハを浸漬してC−面であるn型半導体層22の表面をウェットエッチングする。
【0032】
上記の如く、複数の凹部60の各々は、このウェットエッチング処理においてエッチングの制御点として機能する。すなわち、凹部60の各々の内壁面には様々な結晶面が表出している。このため、凹部60におけるエッチング速度はn型半導体層22の主面において表出しているC−面と比較して低くなる。このためエッチング速度が相対的に高いC−面から優先的にエッチングが開始され、所定の結晶面を表出させながらエッチングが進行する。これにより、n型半導体層22の表面において、各凹部60の形成箇所を頂部とする複数の六角錐状のマイクロコーン22aの形成が開始される。すなわち、マイクロコーン22aの各々は、複数の凹部60の配列形態に従った配列をなして形成される。全てのマイクロコーンは、その性質上、正六角形をなす底面の2つの辺が半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向と平行となる向きで形成される(図4(b))。凹部60の形状を円柱状、円錐状(すり鉢状)、半球状とすることにより、凹部60とその周辺部とのエッチング速度の差が顕著となり、凹部60のエッチング制御点としての機能をより高めることが可能となる。
【0033】
各凹部60の形成箇所を頂部として生成されたマイクロコーン22aの各々は、エッチングの進行に伴ってほぼ同じ速さで成長していく。複数のマイクロコーン22aは、凹部60の配列形態に従って等間隔に整列している故、互いに隣接するマイクロコーン同士が接触するタイミングはほぼ一致する(図4(c))。
【0034】
マイクロコーン22aの間に形成される三角形の隙間62を囲む3つの面は、互いに等価な結晶面であるため、結晶面同士が競合することとはなくエッチングが進行する。すなわち、マイクロコーン同士が相互に侵食し合って形状が変形することはなく、隙間62が平坦面として残ることもない(図4(d))。
【0035】
エッチングが更に進行すると、サイズが略均一な複数のマイクロコーン22aが最密充填配列をなしてn型半導体層22の表面全体を埋め尽くす。すなわち、複数のマイクロコーン22aはほぼ隙間なく形成され、平坦面として残る部分は殆ど存在していない。また、マイクロコーン同士が侵食し合うこともないので、マイクロコーンの形状が再び六角錐となり、これがエッチング工程の終了まで維持される(図4(e))。このときマイクロコーン22aの底面の正六角形が[11−20]方向と平行な2辺を有している。尚、最密充填配列とは、図4(e)に示すように、平面上に正六角形の底面を有する複数のマイクロコーンが隙間なく並んだ配列のことをいい、いわゆるハニカム状の配列のことをいう。
【0036】
(n電極の形成)
複数のマイクロコーンが形成されたn型半導体層22の表面にn電極70を形成する。具体的には、n電極形成領域に開口を有するレジストマスク(図示せず)をn型半導体層22の表面に形成する。続いてEB蒸着法などにより、n型半導体層22の表面に電極材料であるTiおよびAlを順次堆積させる。その後、上記レジストマスクを除去して不要部分の電極材料をリフトオフすることによりn電極70のパターニングを行う。次に、500℃、20秒間の熱処理を行ってn電極70を合金化させる。これにより、n電極70とn型半導体層22との間のオーミック性が向上する(図3(c))。
【0037】
(素子分離)
ウエハを切断、分離して光半導体素子を個片化する。レーザスクライブまたはダイシングなどによって素子分割溝20aの底部において露出している支持基板50を素子分割溝20aに沿って切断し、光半導体素子をチップ状に個片化する。以上の各工程を経ることにより光半導体素子が完成する(図3(d))。
【0038】
図5は、本実施例のプロセスによってn型半導体層22の表面に形成されたマイクロコーンの電子顕微鏡写真である。複数のマイクロコーンは、大きさが略均一であり、最密充填配列を呈して形成されていることがわかる。すなわち、複数のマイクロコーンはほぼ隙間なく形成され、平坦面として残っている部分は殆ど存在しておらず、また、ほぼ全てのマイクロコーンの形状は、光取り出しに有利となる六角錐を維持していることがわかる。
【0039】
以上の説明から明らかなように、n型半導体層22の表面に形成された複数の凹部60はエッチングの制御点として機能する。すなわち、凹部60の内壁においてC−面と比較してエッチング速度が相対的に低い結晶面が表出しているため、凹部60の形成箇所が複数のマイクロコーンの各頂点となるようにエッチングが進行する。従って、複数のマイクロコーン22aの配列は、凹部60の配列形態に従うこととなる。マイクロコーン22aは、その性質上、正六角形をなす底面の2つの辺が半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向と平行となる向きで形成される。この点に鑑みて、任意の1の凹部に隣接する他の凹部の各々が正六角形の各頂点に配置され且つ上記正六角形を構成する互いに対向する2辺が半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向と平行となるように各凹部を等間隔に配列することにより、複数のマイクロコーンの各々は、ほぼ同じ速度で成長し、ほぼ同じタイミングで隣接するマイクロコーンと接触する。このため、大きさ、形状、間隔が略均一であり且つ半導体膜20の結晶軸に沿った最密充填配列を呈する複数のマイクロコーンを形成することができる。すなわち、複数のマイクロコーンは六角錐の形状を維持したまま隙間なく形成され、光取り出し面には平坦面が残らない。これにより、光取り出し面において、理想的な光取り出し構造を形成することが可能となり、光半導体素子の光取り出し効率を最大限に向上させることが可能となる。また、複数のマイクロコーンはほぼ一様な速度で成長するため、平均サイズよりも顕著に大きいサイズのマイクロコーンの出現を回避することが可能となる。従って、マイクロコーンを形成するためのウェットエッチング工程において半導体膜20に貫通孔が形成されてしまうことを回避することが可能となり、従来のプロセスと比較して生産歩留りの向上を図ることが可能となる。
【実施例2】
【0040】
以下に、本発明の実施例2に係る光半導体素子の製造方法について説明する。本実施例に係る製造方法は、光取り出し構造を形成する工程が上記した実施例1の場合と異なる。より具体的には、マイクロコーンのサイズおよび配列を定めるための複数の凹部60の配列形態が実施例1の場合と異なる。光取り出し構造を形成する工程以外の工程は、実施例1と同様であるので、その説明は省略する。
【0041】
成長用基板10を除去することにより表出したn型半導体層22の表面にアルカリ溶液を用いたウェットエッチング処理を施してn型半導体層22の表面に複数のマイクロコーンを形成する。これにより、n型半導体層22の表面に光取り出し構造を形成する。図6(a)〜(d)は、光取り出し面であるn型半導体層22表面を示す図であって、本工程におけるマイクロコーン22aの形成過程を示す平面図である。
【0042】
成長用基板10を除去することにより表出したn型半導体層22の表出面(C−面)に半導体膜20の結晶軸に沿って等間隔に配列された複数の凹部60を形成する(図6(a))。凹部60の各々は、後のウェットエッチング工程においてエッチングの制御点として機能し、複数のマイクロコーン22aは、凹部60の配列形態に従って規則的に配列される。
【0043】
凹部60の好ましいサイズおよび形状は、上記した実施例1の場合と同じである。複数の凹部60の配列形態は以下のとおりである。すなわち、図6(a)に示すように、任意の1の凹部に隣接する他の凹部の各々が正六角形の各頂点に配置され且つ上記正六角形を構成する互いに対向する2辺が半導体膜20の結晶軸の[11−20]方向と平行となるように凹部60を等間隔に配列する。換言すれば、複数の凹部60が半導体膜20の結晶軸の[11−20]方向に等間隔に整列し且つ[2−1−10]方向にも等間隔に整列するように凹部60を配列する。かかる配列形態は、実施例1における凹部60の配列を90°回転させた場合に相当する。
【0044】
マイクロコーン22aは底面がおおよそ正六角形の六角錐状となり、底面となる正六角形の対向する2辺を結ぶ垂線の長さが凹部60の配列間隔(ピッチ)に一致する。このため凹部60の配列間隔(ピッチ)は、形成しようとするマイクロコーンのサイズに応じて定めればよい。凹部60の間隔(ピッチ)を例えば、1.0μm以上5.5μm以下から選択することができる。凹部60の間隔(ピッチ)が活性層24から発せられる光の波長よりも大きい場合には、光取り出しに有利なサイズのマイクロコーンを形成することができる。また、マイクロコーンはC−面に対して約62°の斜面を持ち、凹部60の間隔と形成されたマイクロコーンの高さはほぼ一致する。従って、活性層まで到達する貫通孔が形成されないように、凹部60の間隔をn型半導体層22の厚みより小さくなるように設定する。
【0045】
複数の凹部60は、例えばフォトリソグラフィおよびドライエッチングにより形成することが可能である。すなわち、n型半導体層22の表面に凹部形成領域に開口を有するレジストマスクを形成した後、反応性イオンエッチングにより上記レジストマスクを介してn型半導体層22をエッチングすることにより凹部60を形成する。
【0046】
複数の凹部60を形成した後、THAH(テトラ・メチルアンモニア溶液)等のアルカリ溶液にウエハを浸漬してC−面であるn型半導体層22の表面をウェットエッチングする。
【0047】
複数の凹部60の各々は、このウェットエッチング処理においてエッチングの制御点として機能する。すなわち、凹部60の各々の内壁面においては様々な結晶面が表出している。このため、凹部60の各々におけるエッチング速度はn型半導体層22の主面において表出しているC−面と比較して低くなる。このため、エッチング速度が相対的に高いC−面から優先的にエッチングが開始され、所定の結晶面を表出させながらエッチングが進行する。これにより、n型半導体層22の表面には、各凹部60の形成箇所を頂部とする複数の六角錐状のマイクロコーン22aの形成が開始される。すなわち、マイクロコーン22aの各々は、複数の凹部60の配列形態に従った配列をなして形成される。全てのマイクロコーンは、その性質上、正六角形をなす底面の2つの辺が半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向と平行となる向きで形成される(図6(b))。凹部60の形状を円柱状、円錐状(すり鉢状)、半球状とすることにより、凹部60とその周辺部とのエッチング速度の差が顕著となり、凹部60のエッチング制御点としての機能をより高めることが可能となる。
【0048】
各凹部60の形成箇所を頂部として生成されたマイクロコーン22aの各々は、エッチングの進行に伴ってほぼ同じような速度で成長していく(図6(c))。
【0049】
複数のマイクロコーン22aは、凹部60の配列形態に従って等間隔に整列している故、互いに隣接するマイクロコーン同士が接触するタイミングはほぼ一致する。そして、サイズがほぼ揃った複数のマイクロコーン22aは、最密充填配列をなしてn型半導体層22の表面全体を埋め尽くす。すなわち、複数のマイクロコーンはほぼ隙間なく形成され、平坦面として残る部分は殆ど存在していない。また、マイクロコーン同士が侵食し合うこともないので、六角錐の形状がエッチング工程の終了まで維持される(図6(d))。本実施例に係る製造方法によれば、互いに隣接するマイクロコーン同士が接触した時点で最密充填配列が完成する。このときマイクロコーン22aの底面の正六角形が[1−100]方向と平行な2辺を有している。
【0050】
このように、本実施例に係る光半導体素子の製造方法によれば、実施例1の場合と同様、大きさ、形状、間隔が略均一であり且つ半導体膜20の結晶軸に沿って最密充填配列をなす複数のマイクロコーンを半導体膜20のC−面上に形成することができる。これにより、半導体膜20の光取り出し面において、理想的な光取り出し構造を形成することが可能となり、光半導体素子の光取り出し効率を最大限に向上させることが可能となる。また、複数のマイクロコーンはほぼ一様な速度で成長するため、平均サイズよりも顕著に大きいサイズのマイクロコーンの出現を回避することが可能となる。従って、マイクロコーンを形成するためのウェットエッチング工程において半導体膜20に貫通孔が形成されてしまうことを回避することが可能となり、従来のプロセスと比較して生産歩留りの向上を図ることが可能となる。
【実施例3】
【0051】
以下に、本発明の実施例3に係る光半導体素子の製造方法について図7を参照しつつ説明する。上記各実施例においては、成長用基板10を除去することにより表出したn型半導体層22の表面(C−面)にフォトリソグラフィおよびドライエッチングにより所定の配列形態を有する複数の凹部60を形成することとした。本実施例では、複数の凹部60を形成するためのプロセスが上記各実施例の場合と異なる。
【0052】
はじめに、上記実施例1および2において示された複数の凹部60の配列形態に対応した配列をなす複数の凸部11を結晶成長面に有する成長用基板10aを用意する。図7(a)および(b)は、本実施例に係る成長用基板10aの結晶成長面を示す平面図である。複数の凸部11は、任意の1の凸部に隣接する他の凸部の各々が正六角形の各頂点に配置され且つ上記正六角形を構成する互いに対向する2辺が後に形成される半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向と平行となるように(図7(a))または[11−20]方向と平行となるように(図7(b))等間隔に配列されている。換言すれば、複数の凸部11が後に形成される半導体膜20の結晶軸の[1−100]方向に等間隔に整列し且つ[10−10]方向にも等間隔に整列するように凸部11を配置する(図7(a))。または、複数の凸部11が後に形成される半導体膜20の結晶軸の[11−20]方向に等間隔に整列し且つ[2−1−10]方向にも等間隔に整列するように凸部11を配置する(図7(b))。
【0053】
成長用基板10は、例えばC面サファイア基板であり、複数の凸部11は例えばフォトリソグラフィおよびドライエッチングにより形成することが可能である。凸部11の形状は、例えば、角柱状、角錐状、円柱状、円錐状、半球状とすることができる。このように、成長用基板10aの結晶成長面には、上記各実施例において示された凹部60の反転パターンともいうべき複数の凸部11が設けられている。
【0054】
次に、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により複数の凸部11が形成された成長用基板10の結晶成長面にAlxInyGazNから成るn型半導体層22、活性層24、p型半導体層26を順次結晶成長させて半導体膜20を得る(図7(c))。
【0055】
その後、上記実施例1の場合と同様、素子分割溝の形成工程、保護膜およびp電極の形成工程、支持基板の接合工程、成長用基板の除去工程を実施する。成長用基板10aを除去することにより表出したn型半導体層22の表面には、成長用基板10aの結晶成長面に設けられた複数の凸部11の各々に対応する複数の凹部60が形成されている。すなわち、複数の凹部60は、凸部11の配列形態に応じた配列をなしている。かかる凹部60の配列形態は、上記した実施例1および2の場合と同様である(図7(d))。
【0056】
その後、アルカリ溶液を用いたウェットエッチング処理を施すことにより、凹部60はエッチング制御点として機能して、大きさ、形状、間隔が略均一であり且つ最密充填配列をなすマイクロコーンをn型半導体層22の表面に形成することができる。尚、成長用基板10aを除去した後、半導体膜20のn型半導体層22側を研削して凹部60の径や深さを調整することとしてもよい。
【0057】
尚、上記した各実施例においては、半導体膜20をGaN系半導体で構成する場合を例に説明したが、六方晶系の結晶構造を有する他の半導体、例えばZnO系半導体を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 10a 成長用基板
11 凸部
20 半導体膜
22 n型半導体層
22a マイクロコーン
24 活性層
26 p型半導体層
30 p電極
50 支持基板
60 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系の結晶構造を有する半導体膜を含む光半導体素子の製造方法であって、
前記半導体膜の表面に前記半導体膜の結晶軸に沿って等間隔に配列された複数の凹部を形成する工程と、
前記半導体膜の表面をエッチング処理することにより、前記半導体膜の表面に前記複数の凹部の配列形態に従って配列され且つ前記半導体膜の結晶構造に由来する複数の突起を形成する工程と、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記複数の凹部の各々は、任意の1の凹部に隣接する他の凹部の各々が正六角形の各頂点に配置され且つ前記正六角形を構成する互いに対向する2辺が前記半導体膜の結晶軸の[1−100]方向または[11−20]方向と平行となるように配置されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記複数の突起の各々は六角錐形状を有し且つ最密充填配列をなして形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記半導体膜の表面はC−面であり、前記複数の凹部の各々の内壁において複数の結晶面が表出していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
互いに隣接する凹部間の距離が前記半導体膜から発せられる光の波長よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記エッチング処理は、アルカリ溶液を用いたウェットエッチング処理であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
成長用基板上に前記半導体膜を結晶成長させる工程と、
前記半導体膜上に支持基板を形成する工程と、
前記成長用基板を除去する工程と、を更に含み、
前記複数の凹部は、前記成長用基板を除去することにより表出した前記半導体膜の表出面をマスクを介してエッチングすることにより形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項8】
成長用基板上に前記半導体膜を結晶成長させる工程と、
前記半導体膜上に支持基板を形成する工程と、
前記成長用基板を除去する工程と、を更に含み、
前記成長用基板は、結晶成長面に前記複数の凹部の各々に対応する複数の凸部を有し、
前記複数の凹部は、前記成長用基板の前記結晶成長面に前記半導体膜を結晶成長することにより形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
六方晶系の結晶構造を有する半導体膜を含む光半導体素子であって、
前記半導体膜は、その表面に前記半導体膜の結晶構造に由来する複数の六角錐状突起を有し、前記複数の突起は前記半導体膜の結晶軸に沿った最密充填配列をなして形成されていることを特徴とする光半導体素子。
【請求項10】
前記半導体膜はGaN系半導体からなることを特徴とする請求項9に記載の光半導体素子。
【請求項11】
前記複数の六角錐状突起の各々は、前記半導体膜から発せられる光の波長よりも大きいことを特徴とする請求項8または9に記載の光半導体素子。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−186335(P2012−186335A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48786(P2011−48786)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】