説明

光吸収性反射防止膜付き有機基体とその製造方法

【課題】耐久性に優れ、適度な可視光線吸収率を有する、安価な光吸収性反射防止膜付き有機基体とその製造方法の提供。
【解決手段】表面がプラズマで処理された有機基体10上に、基体側から、ケイ素の窒化物を主成分とする密着層12、光吸収膜13、低屈折率膜15が順に形成された光吸収性反射防止膜付き有機基体とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収性の反射防止膜付き有機基体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータの急速な広がりとともに、端末オペレータの作業環境を改善するために、ディスプレイ表面の反射低減やCRT(陰極線管)表面の帯電防止が要求されつつある。また、最近ではさらに、コントラスト向上のためにパネルガラスの透過率を低下させたり、人体に影響を及ぼす極低周波の電磁波を遮蔽することが求められてきている。
【0003】
これらの要求に応えるための方法として、(1)パネル表面に導電性の反射防止膜を設ける、(2)フェイスプレートガラス表面に導電性反射防止膜を設け、該フェイスプレートガラスをパネル表面に樹脂で貼り付ける、(3)両面に導電性反射防止膜を設けたフィルタガラスをブラウン管の前面に設置する、などの方法が採られている。
このうち(2)、(3)の場合には、真空蒸着法により多層の反射防止膜を形成するのが一般的である。
【0004】
具体的な膜構成の例としては、例えば特許文献1に示されるような、ガラス/高屈折率膜/低屈折率膜/高屈折率膜/高屈折率導電膜/低屈折率膜などが挙げられる。この構成の多層反射防止膜を表面にコーティングすることにより、表面の視感反射率を0.3%以下、表面のシート抵抗を1kΩ/□以下にでき、かつ上記の電磁波遮蔽効果を付与できる。
【0005】
また、コントラストを上げるには、光吸収膜をその構成の一部に使用することが有効であることが知られている。例えば、特許文献2に示されるような、ガラス/金属膜/高屈折率膜/低屈折率膜などを採用できる。この構成の多層の光吸収性反射防止膜を表面にコーティングすることにより、表面の視感反射率を0.5%以下、表面のシート抵抗値を100kΩ/□以下にできる。また、同時に可視光透過率を数十%低下させ、高コントラスト化を達成できる。
【0006】
また、(1)の方法については、(a)パネルにコーティングを施した後ブラウン管に成形する場合と、(b)ブラウン管を成形した後表面コーティングを行う場合とがあるが、いずれの場合もスピンコーティングなどのいわゆる湿式法によっているのが現状である。
【0007】
一方、反射防止を上記のようなガラス面に施すのではなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの有機フィルムに形成した後、ガラス表面に貼り付けるという方法も考えられる。
あるいは、(2)、(3)の場合には、ガラス板の代わりに安全性などの点からより好ましい有機基板(いわゆるプラスチック板)を用いてもよい。
これらの場合、基板に耐熱性の要求される湿式法は適用できず、基板の温度を上げない工夫をして蒸着法やスパッタリング法により形成する。
【0008】
有機フィルムへのコーティングはいわゆるロールコータで実施されるが、フィルムの搬送速度を一定に保つためには、成膜速度の安定性が強く要求される。
また、シート状基板へのコーティングにはインライン型の成膜装置が用いられるが、やはり成膜速度の安定性が必須である。この点で、蒸着法には問題がある。
一方、スパッタリング法では低屈折率膜の高速安定成膜が困難であった。
【0009】
これらの背景から、最近になって安定かつ高速にSiOをスパッタリング法により形成する方法の開発が盛んに行われた結果、いくつかの方法が実現されつつある。例えば、特許文献3に見られるMMRS(metal mode reactive sputtering)や、特許文献4のC−Mag(cylindrical magnetron)などである。
【0010】
この結果、スパッタリング法による反射防止膜が現実のものになりつつあるが、反射防止膜の構成については従来、真空蒸着法により形成されていた膜構成に準ずることが多く、スパッタリング法において特に有効な膜構成についてはこれまであまり知られていなかった。
【0011】
数少ない例として、特許文献5にはガラス/遷移金属窒化物/透明膜/遷移金属窒化物/透明膜の4層構成が示されている。しかし、この特許文献5においては、可視光線透過率を50%以下にするため、吸収層を2層に分け、層数を4層以上としている。したがって、製造コストが嵩み、実用的でなかった。
【0012】
また、本発明者らは、特許文献6において、光吸収膜/低屈折率膜の簡単な層構成からなり、生産性が高く、かつ、反射防止性能が優れるうえ、電磁波遮蔽に対応可能な低い表面抵抗値を有し、さらに、高いコントラストを確保するために適度な光吸収率を持つ光吸収性反射防止膜を提案した。しかし、有機基体上にこうした無機材料からなる光吸収性反射防止膜を形成した場合、基体と光吸収膜との界面における付着力が必ずしも充分でなかった。また、有機基体を用いたことに起因し、色むらも生じた。
【0013】
【特許文献1】特開昭60−168102号公報
【特許文献2】特開平1−70701号公報
【特許文献3】米国特許第4445997号明細書
【特許文献4】米国特許第4851095号明細書
【特許文献5】米国特許第5091244号明細書
【特許文献6】国際公開第96/18917号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、耐久性に優れ、適度な可視光線吸収率を有する、安価な光吸収性反射防止膜付き有機基体とその製造方法の提供を目的とする。
本発明は、また、色むらが改善され、適度な可視光線吸収率を有する、安価な光吸収性反射防止膜付き有機基体とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、有機基体上に、基体側から光吸収膜、低屈折率膜がこの順に形成されてなる光吸収性反射防止膜付き有機基体であって、低屈折率膜側からの入射光の反射低減能を有し、有機基体は表面がプラズマで処理された有機基体であり、プラズマ処理された基体表面と光吸収膜との間には、ケイ素、ケイ素の窒化物、ケイ素の酸化物およびケイ素の酸窒化物からなる群から選ばれる1種以上を主成分とする層(以下、密着層という)が形成されたことを特徴とする光吸収性反射防止膜付き有機基体(以下、光吸収性反射防止体という)とその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば耐久性に優れた光吸収性反射防止膜付き有機基体を、簡単な膜構成で、しかも総膜厚をあまり大きくすることなく実現できる。
また、本発明によれば、色むらが改善された光吸収性反射防止膜付き有機基体を安価に得ることができる。
【0017】
また、成膜方法としてスパッタリング法を用いれば、プロセスの安定性や大面積化が容易であることなどの利点があり、前記特徴とあわせ、低コストで光吸収性反射防止膜付き有機基体を生産できる。
また、本発明の光吸収性反射防止膜付き有機基体は、膜の付着力が大きく、耐久性に優れ、さらに、色むらが改善されているため、ディスプレイの前面に用いても、実用性充分な耐久性と品質を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
光吸収膜の幾何学的膜厚は、低反射を実現させるため2〜20nmであることが好ましい。また、低屈折率膜は、反射防止の観点から、屈折率が1.55以下で、かつ光学的膜厚が100〜160nmであることが好ましい。特に、屈折率は1.50以下が好ましく、また、光学的膜厚は100〜145nmであることが好ましい。例えば、屈折率が1.47の膜を用いた場合、幾何学膜厚としては68〜110nm、特に68〜100nmであることが好ましい。
【0019】
いずれの層の膜厚も前記範囲を逸脱すると、可視光領域における充分な反射防止性能が得られないおそれがある。また、低屈折率膜の屈折率が1.55を超えると、光吸収膜に要求される光学定数の範囲が狭くなるとともに、現実に得られる材料での実現が困難となる。
【0020】
図1に本発明の一例の模式的断面図を示す。図1において、10は有機基体、11はハードコート層、12は密着層、13は光吸収膜、14は酸化防止層、15は低屈折率膜を示す。
【0021】
光吸収性反射防止膜の光吸収率は可視光領域において10〜35%であることが好ましい。光吸収率がこの範囲を逸脱すると、光吸収膜の膜厚範囲が不適当となるか、または光吸収膜の光学定数が不適当となり、可視光領域における充分な反射防止性能が得られないおそれがある。
【0022】
また、低屈折率膜側からの入射光に対する反射率が、430〜650nmの波長範囲において0.6%以下であることが好ましい。光吸収性反射防止体の視感反射率(R)は0.6%以下であることが好ましい。
【0023】
低屈折率膜は、ケイ素の酸化物を主成分とする膜であることが好ましい。これは、充分低い屈折率が得られること、安定性のよいスパッタリング法により成膜できること等の理由による。
【0024】
ケイ素(Si)の酸化物を主成分とする膜は、導電性のSiターゲットを酸素ガスの存在下で直流(DC)スパッタリングしたものを用いることが、生産性の点から最も好ましい。このとき、ターゲットに導電性を持たせるために意図的に少量の不純物(例えば、P、Al、B)を混入させることがあるが、低い屈折率を維持するためには主成分はSiO(シリカ)とする。
【0025】
SiのDCスパッタリングでは、ターゲットのエロージョンの周縁部に付着した絶縁性のシリカ膜の帯電によってアーキングが誘発され、放電が不安定になったり、アークスポットから放出されたシリカの粒子が基板に付着して欠陥となることがある。これを防ぐため、周期的にカソードを正電圧とすることにより、帯電を中和する方法が採られることが多い。こうした成膜方法は、プロセスの安定性の点からきわめて好ましい。また、シリカ膜の成膜方法としては、RF(高周波)スパッタリングを用いてもよい。RFスパッタリングを用いれば、純粋なシリカ膜を成膜することもできる。
【0026】
本発明においては、光吸収膜の複素光学定数をn−ik(屈折率n、消衰係数k)、幾何学的膜厚をd、波長400nmでのkをk400、波長700nmでのkをk700、波長400nmでのnをn400 、波長700nmでのnをn700、nave=(n400+n700)/2、kave=(k400+k700)/2、ndif=n400−n700、kdif=k700−k400とし、低屈折率膜の屈折率をn、幾何学的膜厚をd、関数f(n)=1.6n−2.2としたときに、次式をいずれも満たすことが好ましい。このように設計することで低反射となる波長範囲が広くなる。
【0027】
【数1】

【0028】
前記式を満たす上で好適な光吸収膜としては、1)金および/または銅を含有する膜、2)チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物を主成分とする膜が挙げられる。
【0029】
1)金および/または銅を含有する膜の具体例としては、金膜、金を50重量%以上含む合金膜、該合金の窒化物膜、該合金の酸窒化物膜、該合金の炭化物膜または該合金の炭窒化物膜が挙げられる。
【0030】
ここで、金、または、金を50重量%以上含む合金(以下、金合金という)を用いた場合は、幾何学的膜厚は、2〜5nm、特に、2.5〜3.5nmであることが好ましい。
【0031】
幾何学的膜厚が2nm未満では低反射となる波長領域は広がるが、反射率が大きくなる。また、5nm超では低反射となる波長領域は狭くなり、反射率は大きくなる。この性質から、金、金合金の膜厚を2〜5nm、さらに好ましくは、2.5〜3.5nmとすることにより、光吸収性反射防止体の反射率は低くなり、また、低反射となる波長範囲は広くなる。
【0032】
また、金合金の窒化物を光吸収膜として用いる場合は、光吸収性反射防止体の反射率を低く、かつ、低反射となる波長範囲を広くするためには、金合金の窒化の程度が増すにつれ、その膜厚を大きくする必要が生じる。ただし、8nm超の膜厚にすると、反射率が大きく、また、低反射の波長範囲が狭くなる。したがって、2〜8nmとすることが好ましい。同様のことが金合金の酸窒化物、炭化物、炭窒化物を用いた際にも見られる。
【0033】
金膜を用いると、金が化合物を作り難いため、例えば、反応性スパッタリング法により光吸収性反射防止体を製造する場合でも、金膜の形成において、酸化性ガスまたは窒化性ガスなどをスパッタリングガスとして使用できる。この性質のため、これに続く、低屈折率膜の形成の際に必要とされるスパッタリングガスを用いて、1つの成膜室において、スパッタリングガスの交換を行わずに2層の光吸収性反射防止膜が形成でき、製造コストが低くなるため好ましい。また、金、金合金を用いた反射防止膜の吸収率は10%程度であり、製造コストの低い単純な層構成でありながら、透過率の高い反射防止体が得られる。
【0034】
また、金合金の、窒化物、酸窒化物、炭化物または炭窒化物を用いることにより、反射防止膜の吸収率を容易に調整できる。すなわち、金合金に対して、窒化、酸窒化、炭化、炭窒化の程度を増すことにより、得られる反射防止膜の吸収率が高くなる。したがって、窒化、酸窒化、炭化、炭窒化の程度を制御することにより、得られる反射防止膜の吸収率を所望の値に制御できる。
【0035】
さらに、金および/または銅を含有する膜の具体例として、銅膜、銅窒化物膜、銅酸窒化物膜、銅炭化物膜、銅炭窒化物膜、銅を50重量%以上含む合金膜、該合金の窒化物膜、該合金の酸窒化物膜、該合金の炭化物膜または該合金の炭窒化物膜が挙げられる。特に、銅膜または銅を50重量%以上含む合金膜であることが好ましい。
【0036】
ここで、銅、または、銅を50重量%以上含む合金(以下、銅合金という)を用いた場合は、幾何学的膜厚は2〜5nm、特に、2.5〜3.5nmであることが好ましい。
【0037】
幾何学的膜厚が2nm未満では低反射となる波長領域は広がるが、反射率が大きくなる。また、5nm超では低反射となる波長領域は狭くなり、反射率は大きくなる。この性質から、銅または銅合金の膜厚を2〜5nm、さらに好ましくは、2.5〜3.5nmとすることにより、光吸収性反射防止体の反射率は低くなり、また、低反射となる波長範囲は広くなる。
【0038】
また、銅の窒化物または銅合金の窒化物を光吸収膜として用いる場合は、光吸収性反射防止体の反射率を低く、かつ、低反射となる波長範囲を広くするためには、銅または銅合金の窒化の程度が増すにつれ、その膜厚を大きくする必要が生じる。ただし、8nm超の膜厚にすると、反射率が大きく、また、低反射の波長範囲が狭くなる。したがって、2〜8nmとすることが好ましい。同様のことが銅、銅合金の、酸窒化物、炭化物、炭窒化物を用いた際にも見られる。
【0039】
また、銅または銅合金を用いた反射防止膜の吸収率は10%程度であり、製造コストの低い単純な層構成でありながら、透過率の高い反射防止体が得られる。
【0040】
また、銅(または銅合金)の、窒化物、酸窒化物、炭化物、または炭窒化物を用いることにより、反射防止膜の吸収率を容易に調整できる。すなわち、銅、銅合金に対して、窒化、酸窒化、炭化、炭窒化の程度を増すことにより、得られる反射防止膜の吸収率が高くなる。したがって、窒化、酸窒化、炭化、炭窒化の程度を制御することにより、得られる反射防止膜の吸収率を所望の値に制御できる。
【0041】
2)チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物を主成分とする膜の具体例としては、窒化チタン膜、窒化ジルコニウム膜および窒化ハフニウム膜が挙げられる。
【0042】
チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物を主成分とする膜を用いた場合、幾何学的膜厚は5〜20nmとすることが好ましい。5nm未満では低反射となる波長領域は広がるが、反射率が大きくなる。また、20nm超では低反射となる波長領域は狭くなり、反射率は大きくなる。特に好ましい範囲は7〜14nmである。
【0043】
窒化チタン膜は可視光領域における光学定数の値が適当で、低屈折率膜としてシリカ膜を用いた場合とのマッチングがよく、10nm程度の膜厚で低い反射率と、ほどよい光吸収率を得ることができ、また、耐久性や、材料価格の観点からも好ましい。
窒化チタン膜としては、金属チタンターゲットを窒素ガスの存在下でDCスパッタリングして得られるものを用いることが、生産性の点から好ましい。
【0044】
このとき、窒化チタン膜の光学定数を好ましい範囲とするために、スパッタリングガスが窒素と希ガスを主成分として含んでおり、該窒素の割合が3〜50体積%、特に5〜20体積%であるようにすることが好ましい。これよりも窒素の割合が少ないと、チタン過剰の光吸収膜となり、低反射波長領域が狭まる。また、これよりも窒素の割合が多いと、窒素過剰の光吸収膜となり、低反射波長領域が狭まるとともに、膜の比抵抗が高くなり表面抵抗値が大きくなる。
【0045】
ターゲットに印加する電力は、1W/cm以上の電力密度とすることが好ましい。これは、成膜速度を工業生産に充分なくらいに速く保つとともに、成膜中に膜に取り込まれる不純物の量を低く保つためである。また、後述のように、膜中に取り込まれる酸素の量を抑制する働きが大きい。
【0046】
また、ターゲットに印加する電力は10W/cm以下の電力密度とすることが好ましい。これは、適当な光学定数を有する窒化チタン光吸収膜を得るとともに、ターゲットへの過度の電力投入によるターゲットまたはカソードの溶解や異常放電の頻発を避けるためである。すなわち、これを超える電力を投入すると、純窒素雰囲気にしてもチタンリッチの膜となり、所望の組成が得られなくなるとともに、ターゲットおよびその周辺部品が加熱され、アーキングの発生や場合によっては加熱部位の溶解が起きる危険がある。
【0047】
ターゲットやスパッタリングガスの組成に少量の不純物を含むことは、最終的に形成された薄膜が実質的に窒化チタン膜の光学定数を有する範囲においてはなんら問題はない。また、ターゲットとして窒化チタンを主成分とする材料を用いて、スパッタリングにより窒化チタン膜を形成してもよい。
【0048】
一方、酸素の存在により、基板や上層のシリカ膜との付着力が向上する効果が見出された。したがって、窒化チタン膜の光学定数が好ましい範囲に保たれるかぎりにおいては、窒化チタン膜中に酸素が含まれることが好ましい場合もある。
その場合の窒化チタン膜としては、光学定数と比抵抗の点から、膜中におけるチタンに対する酸素の原子割合が0.5以下であることが好ましい。この割合が0.5よりも大きいと、酸窒化チタン膜となり、比抵抗が上昇するとともに、光学定数が不適当となり、表面抵抗値、反射防止効果ともに不充分となる。
【0049】
通常のスパッタリング法により窒化チタン膜を形成する場合、真空槽の残留ガス分などにより膜中に酸素が混入することが避けられない。膜中の酸素が窒化チタン膜の光学特性に及ぼす影響については、これまであまり知られていなかった。特に、本発明における光吸収層としての性能に及ぼす影響については全く知られていなかった。
【0050】
本発明者らは、窒化チタン膜の成膜条件と窒化チタン膜中の酸素量の関係、および本発明における光吸収層としての性能との関係について研究した結果、本発明における窒化チタン膜としては、光学定数の観点から、膜中におけるチタンに対する酸素の原子割合が0.4以下であることが好ましいことを見出した。
【0051】
この割合が0.4を超えると、窒化チタン膜の光学定数の波長依存性が好ましい範囲からずれる結果、低反射特性が損なわれる傾向を示す。また、酸窒化膜となるため比抵抗も上昇し、表面抵抗値が電磁波遮蔽に必要な1kΩ/□を超える傾向を示す。
【0052】
本発明の光吸収性反射防止体のシート抵抗値(R)は500Ω/□以下が好ましい。
【0053】
本発明において、密着層は密着力改善層として作用する。密着層としては、具体的には、ケイ素膜、ケイ素の窒化物膜、ケイ素の酸化物膜、ケイ素の酸窒化物膜などが用いられる。特に、密着力改善の効果が著しいことからケイ素の窒化物を主成分とする層、特に、ケイ素の窒化物膜が好ましく用いられる。ケイ素の窒化物膜には、不純物量程度の酸素が混入してもよい。ケイ素の酸化物膜を用いる場合には、この膜の組成は、ケイ素リッチで吸収膜になっていることが好ましい。ケイ素原子に対する酸素原子の原子比は1以下であることが特に好ましい。アルミニウムの窒化物を主成分とする層では密着力向上の効果が充分ではない。
【0054】
密着層の幾何学的膜厚は、0.5〜10nmであることが好ましい。0.5nm未満では密着力向上の効果が小さく、10nm超では反射防止性能が劣化する傾向にある。1〜8nmであることが特に好ましい。また、密着層として、可視光を吸収する層(例えば、吸収がある、ケイ素、ケイ素の窒化物、ケイ素の酸化物、ケイ素の酸窒化物)を用いた場合、幾何学的膜厚は、0.5〜5nmであることが好ましい。
【0055】
本発明においては、光吸収膜と低屈折率膜との間には、ケイ素の窒化物および/またはアルミニウムの窒化物を主成分とする酸化防止層が、0.5〜20nmの幾何学的膜厚で形成されることが好ましい。0.5nm未満では酸化防止の効果が小さく、20nm超では反射防止性能が劣化する傾向にある。
【0056】
本発明における有機基体としては、有機材料からなるシートまたはフィルムを採用できる。特に、ディスプレイの前面に用いられるガラス等に貼り付けて使用されるPETフィルムや、またはポリカーボネート(PC)シートを用いると本発明の効果が充分に発揮されるので好ましい。
【0057】
ここでいうガラス等としては、ブラウン管を構成するパネルガラス自身や、ブラウン管に樹脂で貼り付けて使用するフェイスプレートガラス、ブラウン管と操作者との間に設置するフィルタガラスなどが例示できる。
【0058】
また、これらの有機基体としてその表面に耐擦傷性を改善する目的で各種のハードコート層が設けられたものを用いると、最終的な耐久性が高くなるため好ましい。ハードコート層は、より好ましい結果が得られることから、紫外線硬化型樹脂の硬化物または熱硬化型樹脂の硬化物からなる層であることが好ましい。特に、紫外線硬化型のアクリル系樹脂の硬化物からなる層であることが好ましい。紫外線硬化型のアクリル系樹脂としては、具体的には、ウレタン結合を有する(メタ)アクリロイル基含有化合物(いわゆるウレタンアクリレート)、ウレタン結合を有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物(いわゆるポリエステルアクリレート)、エポキシアクリレートなどが挙げられる。
【0059】
本発明においては、有機基体の屈折率とハードコート層の屈折率との差が小さいほど好ましく、具体的には、有機基体の屈折率とハードコート層の屈折率との差の絶対値が0.05以下、特に0.03以下であることが好ましい。このように屈折率の差を小さくすることにより、色むらが低減し外観品位が向上する。
【0060】
屈折率の差を小さくする具体的な手法としては、ハードコート層の屈折率が有機基体の屈折率に比べて低い場合は、ハードコート層の屈折率を高くすることが挙げられる。その方法としては、ハードコート層を形成する材料(樹脂)に、1)屈折率を高める構造や官能基を導入する、2)高屈折率微粒子を添加する、などが挙げられる。もし、有機基体の屈折率とハードコート層の屈折率との差が大きい場合は、1)と2)をともに実施することが好ましい。
【0061】
例えば、有機基体がPETフィルムで、ハードコート層が紫外線硬化型のアクリル系樹脂の硬化物からなる層である場合、このアクリル系樹脂に高屈折率微粒子を分散させることによって、ハードコート層の屈折率をPETフィルムの屈折率に近づけることができる。ここでいう高屈折率微粒子としては、酸化アンチモン(V)、酸化チタン(IV)、酸化イットリウム(III)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化スズ(IV)、インジウム−スズ酸化物(ITO)、酸化ランタン(III)、酸化アルミニウム(III)、酸化亜鉛(II)、酸化セリウム(IV)などが挙げられる。
【0062】
本発明におけるプラズマ処理としては、RF(高周波)プラズマ処理を用いることが好ましい。
また、プラズマ処理をする際の雰囲気は、非酸化性雰囲気であることが好ましい。非酸化性雰囲気とする具体的な手法としては、放電ガスとして、酸素原子を含まないガスを用いる。例えば、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。これは、酸素原子を含むガス(例えば、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素など)を用いると光吸収膜の特性が劣化し、表面抵抗値の上昇、透過率の増加が観測されるためである。この原因は明確ではないが、プラズマ処理中に有機基板内に注入された酸素(または酸素原子)がその後の密着層/光吸収層の成膜時に基板から脱離し、光吸収膜中に取り込まれることによるものと推定される。
【0063】
プラズマ処理として、有機基体を真空槽内に設置した後、槽内を非酸化性雰囲気とし、有機基体の裏面に配置された電極に高周波電力を印加し、有機基体表面への投入電力密度をP(W/cm)、電極の自己バイアス電位を−V(ボルト)としたときに、処理時間t(秒)が2P・t/(V・e・π)≧5×1015(ただし、eは電気素量を表し、1.6×10−19(C)である)を満たすプラズマ処理を行うことが好ましい。5×1015以上で有機基体と膜との間の密着力を向上させる効果が充分に発現される。
【0064】
有機基体がハードコート層を有する場合は、ハードコート層付き有機基体についてプラズマ処理を行う。
また、プラズマ処理が連続的な処理であって、有機基体が連続的に巻き取られる場合には、プラズマ処理をした直後、基体を巻き取る前に、密着層を形成することが好ましい。密着層が形成されないまま巻き取られると、プラズマ処理された基体表面が他に接触し、密着力が低下するおそれがある。
【0065】
本発明においては、密着層、光吸収膜および低屈折率膜から選ばれる1種以上の膜をスパッタリング法により形成することが好ましい。特に、成膜速度の安定性、大面積基体への応用の容易性などの観点からDCスパッタリング法が好ましい。同様の理由から、酸化防止層もスパッタリング法、特にDCスパッタリング法により形成することが好ましい。また、DCスパッタリング法では、RFスパッタリング法に比べて、有機基体へ入射する電子エネルギーが少なく、有機基体へのダメージが小さい。
【0066】
したがって、本発明においては、有機基体がプラズマ処理された後、有機基体が巻き取られる前に直ちにスパッタリング法により密着層が形成されることが好ましい。このように製造されることにより、結果として、安定して、耐久性の高い光吸収性反射防止膜付き有機基体を得ることができる。
【0067】
[作用]
本発明における光吸収性反射防止膜は、入射光の一部を吸収し、透過率を減少させる。本発明の光吸収性反射防止体を、1)ディスプレイの前面ガラスに貼り付けて使用した場合、または、2)フェイスプレートガラスやフィルタガラスの代替品として使用した場合、表面から入射して表示素子側表面で反射してくる光(バックグラウンド光)の強度が減少し、表示光とこのバックグラウンド光との比を大きくしてコントラストを上げうる。
【0068】
本発明において、光吸収膜、低屈折率膜は、1)各界面の反射フレネル係数と、2)各界面の間の位相変化量、および3)各層内の振幅減衰量、によって決定される総合反射率が、可視光領域で充分低くなるように、光学定数および膜厚が設定される。
【0069】
特に、光吸収膜の光学定数は、一般的な通常の透明膜の可視光域における分散関係(波長依存性)とは異なる依存性を示すため、適当に選定された光吸収膜を用いれば、通常の透明膜のみで構成した場合に比べ、可視光領域における低反射領域を格段に広げうる。この効果は、金、金合金、銅、銅合金、金合金の窒化物、銅の窒化物、銅合金の窒化物、チタンの窒化物、ジルコニウムの窒化物、ハフニウムの窒化物、を主成分とする膜を光吸収膜として用いた場合に顕著である。
【0070】
密着層の挿入は、有機基体または有機基体上にコートされたハードコート層と、光吸収膜との付着力を著しく改善する効果がある。特に、非酸化性雰囲気でRFプラズマ処理をした場合、その上に形成される光吸収膜の電気伝導性を損なったり、光吸収膜の光学定数を変化させたりすることなく付着力を向上させうる。特に光吸収膜としてチタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物を主成分とする膜を用い、密着層としてケイ素の窒化物膜を用いた場合、光吸収膜と密着層とのなじみがよく優れた耐久性が得られる。
【実施例】
【0071】
[例1(実施例)]
真空槽内に、金属チタンと、比抵抗1.2Ω・cmのN型ケイ素(リンドープ単結晶)とをターゲットとしてカソード上に設置した。
【0072】
一方、アクリレートのハードコート層(屈折率1.53)を施した約150μm厚のPETフィルム(屈折率1.60)を10cm角に切断したものを基板ホルダー上にセットした。
【0073】
真空槽を1×10−5Torrまで排気した後、基板のハードコート層が施された面上に次のようにして光吸収性反射防止膜を形成した。
【0074】
(1)まず放電ガスとしてアルゴンを導入し、圧力が1×10−3Torrになるようコンダクタンスを調整した。次いで、基板ホルダー(表面積約1200cm)に200WのRF電力を1分間投入し、RFプラズマ処理を行った。このとき、電極の自己バイアス電圧は−280Vであった。
【0075】
(2)次いで、ガスをアルゴンと窒素の混合ガス(10%窒素)に切り替え、圧力を2×10−3Torrに調整し、ケイ素ターゲットに図2に示した波形の電圧を印加して、ケイ素ターゲットの間欠DCスパッタリングにより、幾何学的膜厚2nmの窒化ケイ素膜(密着層)を形成した。
【0076】
(3)次いで、ガスの混合比を20%窒素に切り替え、圧力を2×10−3Torrに調整した後、チタンのカソードに負の直流電圧を印加して、チタンターゲットのDCスパッタリングにより、幾何学的膜厚12nmの窒化チタンの膜(光吸収膜)を成膜した。
【0077】
(4)ガス導入を停止し、真空槽内を高真空とした後、放電ガスとしてアルゴンと酸素の混合ガス(50%酸素)を導入し、圧力が2×10−3Torrになるようコンダクタンスを調整した。次いでケイ素ターゲットに図2に示した波形の電圧を印加し、ケイ素ターゲットの間欠DCスパッタリングにより、幾何学的膜厚85nmのシリカ膜(屈折率が1.47の低屈折率膜)を形成し、本発明の光吸収性反射防止膜付き有機基体(以下、サンプルフィルムという)を得た。
【0078】
得られたサンプルフィルムについて測定した分光反射率の曲線を図3に示す。分光反射率の測定時には、表面反射だけを測定するために裏面に黒色ラッカーを塗布して裏面反射を消した状態で測定した。視感透過率(T)は69.7%、視感反射率(R)は0.34%であった。また、サンプルフィルムのシート抵抗値(R)を非接触の伝導率測定器により測定したところ、340Ω/□であった。
【0079】
また、サンプルフィルムを恒温恒湿槽(50℃、相対湿度95%)に48時間投入した後、エタノールを含ませたガーゼに約2kg/cmの荷重をかけて10往復こすり、膜の剥離が発生するかどうかを目視観察した。結果を表3に示す。なお、表中のHC−PETはハードコート層付きPETフィルムの意であり、Si:Pは、比抵抗1.2Ω・cmのN型ケイ素の意であり、1.4E17は1.4×1017の意である。
【0080】
[例2〜9(実施例)、例10〜14(比較例)]
作製条件を表1〜2に示すように変えた以外は例1と同様にして光吸収性反射防止膜付き有機基体を作製し、特性を測定した。ただし、例9および例14の密着層形成時の酸素の含有量はそれぞれ2体積%および10体積%であった。結果を表3〜4に示す。なお、表中のPC板はポリカーボネート板の意であり、Si:Alは、Alがドープされたケイ素の意であり、Cu−AlはCuとAlの合金の意である。また、表中の膜厚は幾何学的膜厚の意である。なお、例8で得られたサンプルフィルムについて測定した分光反射率の曲線を図4に示す。
【0081】
例1〜9は、比較例である例10〜14に比べ付着力、すなわち耐久性がきわめて優れる。また、例1〜6、8および9では、2P・t/(V・e・π)の値が4.7×1015である例7に比べ付着力が優れる。例1〜7では、酸素ガスでプラズマ処理した例8に比べ、反射率、抵抗値の点で優れる。また、例1〜4および例10〜13では、光吸収膜中におけるチタン原子に対する酸素原子の割合は0.1〜0.25であった。
【0082】
図3より明らかなように、本発明によれば、可視光領域の広い範囲にわたって低反射率が実現されるとともに、透過率をほぼ一様に減少させうる。したがって、本発明をCRT等のディスプレイ画面の前面に設置されるパネルガラス、フェイスプレートガラス、フィルタガラス等に適用した場合には表示画面のコントラストを改善する効果が透明反射防止膜の場合より顕著となる。
【0083】
[例15(実施例)]
有機基体として約150μm厚のPETフィルム(屈折率1.60)を用い、ハードコート層を以下のようにした。芳香族環を含有する紫外線硬化型のアクリル系樹脂に高屈折率微粒子を分散させ、PETフィルム上に塗工した。これに紫外線を照射して硬化させ、ハードコート層を形成した。このハードコート層の膜厚は3μmであった。高屈折率微粒子の添加量は、ハードコート層の屈折率がほぼ1.60となるように調節した。
【0084】
このハードコート層を有するPETフィルムを用いた以外は例1と同様にして光吸収性反射防止膜付き有機基体を作製した。得られたサンプルフィルムについて測定した分光反射率の曲線を図5に示す。
【0085】
図5より明らかなように、有機基体の屈折率とハードコート層の屈折率との差を小さくすることによって、図3に見られるような反射率曲線のリップルが減少する。結果として、例1に比べて色むらが改善され、また、種々の角度から観察しても色調が変化しにくく、外観品位が向上する。
【0086】
[例16(実施例)]
ガス分離ができない構造のロールコータの真空槽内のカソード上に、金属チタンターゲットと、ホウ素がドープされたケイ素ターゲットとを設置した。
【0087】
一方、アクリレートのハードコート層(紫外線硬化型のアクリル系樹脂の硬化物からなるハードコート層、屈折率1.53)を有する約150μm厚のロール状のPETフィルム(屈折率1.60)を巻き出しロールにセットした。
【0088】
真空槽を1×10−5Torrまで排気した後、基板のハードコート層が施された面上に次のようにして光吸収性反射防止膜を形成した。
【0089】
(1)まず放電ガスとしてアルゴンを導入し、圧力が4×10−3Torrになるようコンダクタンスを調整した。次いで、フィルムの裏面側に配置された電極(表面積約150cm)に200WのRF電力を投入し、ライン速度0.2m/minでフィルムを送りながら、RFプラズマ処理を行った。このとき、電極の自己バイアス電圧は−15Vであった。フィルム上のプラズマ処理された部分が巻き取りロールに達する前に、フィルム送りを止めた。
【0090】
(2)次いで、ガスをアルゴンと窒素の混合ガス(50%窒素)に切り替え、圧力を4×10−3Torrに調整し、ケイ素ターゲットに図2に示した波形の電圧を印加して、ケイ素ターゲットの間欠DCスパッタリングにより、再度フィルムを送りながら、(1)でプラズマ処理された部分上に、幾何学的膜厚4nmの窒化ケイ素膜(密着層)を形成した。密着層の形成の終了とともにフィルム送りを止めた。
【0091】
(3)次いで、ガスの混合比を10%窒素に切り替え、圧力を4×10−3Torrに調整した後、チタンのカソードに負の直流電圧を印加して、チタンターゲットのDCスパッタリングにより、再度フィルムを送りながら、密着層の上に幾何学的膜厚12nmの窒化チタンの膜(光吸収膜)を成膜した。光吸収膜の形成の終了とともにフィルム送りを止めた。
【0092】
(4)次いで、ガスの混合比を50%窒素に戻し、圧力を4×10−3Torrに調整し、ケイ素ターゲットに図2に示した波形の電圧を印加して、ケイ素ターゲットの間欠DCスパッタリングにより、再度フィルムを送りながら、光吸収膜の上に幾何学的膜厚20nmの窒化ケイ素膜(酸化防止層)を形成した。酸化防止層の形成の終了とともにフィルム送りを止めた。
【0093】
(5)ガス導入を停止し、真空槽内を高真空とした後、放電ガスとしてアルゴンと酸素の混合ガス(50%酸素)を導入し、圧力が4×10−3Torrになるようコンダクタンスを調整した。次いでケイ素ターゲットに図2に示した波形の電圧を印加し、ケイ素ターゲットの間欠DCスパッタリングにより、再度フィルムを送りながら、酸化防止層の上に幾何学的膜厚85nmのシリカ膜(低屈折率膜)を形成し、巻き取りロールにサンプルフィルムを巻き取った。
【0094】
得られたサンプルフィルムを恒温恒湿槽(50℃、相対湿度95%)に48時間投入した後、エタノールを含ませたガーゼに約2kg/cmの荷重をかけて10往復こすり、膜の剥離が発生するかどうかを目視観察した。剥離は発生しなかった。
【0095】
[例17(比較例)]
最初に、例16の工程(1)と同様にしてプラズマ処理し、フィルム送りを止めずにそのまま巻き取りロールにフィルムを巻き取った。このとき、先に巻き取られたフィルムが後から巻き取られるフィルムで覆われるようになるまで巻き取りを行った。次いで、例16の工程(2)〜(5)と同様にしてサンプルフィルムを作製した。
【0096】
得られたサンプルフィルムについて例16と同様にして評価した。結果、先に巻き取られた部分は、プラズマ処理がされているにもかかわらず剥離が発生した。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の光吸収性反射防止体を、1)ディスプレイの前面ガラスに貼り付けて使用した場合、または、2)フェイスプレートガラスやフィルタガラスの代替品として使用した場合、表面から入射して表示素子側表面で反射してくる光(バックグラウンド光)の強度が減少し、表示光とこのバックグラウンド光との比を大きくしてコントラストを上げうる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の一例の模式的断面図。
【図2】例1において用いられた、ケイ素ターゲットに印加する電位の時間変動を示す図。
【図3】例1で得られたサンプルの分光反射率を示す図。
【図4】例8で得られたサンプルの分光反射率を示す図。
【図5】例15で得られたサンプルの分光反射率を示す図。
【符号の説明】
【0103】
10:有機基体
11:ハードコート層
12:密着層
13:光吸収膜
14:酸化防止層
15:低屈折率膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機基体上に、基体側から光吸収膜、低屈折率膜がこの順に形成されてなる光吸収性反射防止膜付き有機基体であって、低屈折率膜側からの入射光の反射低減能を有し、有機基体は表面がプラズマで処理された有機基体であり、プラズマ処理された基体表面と光吸収膜との間には、ケイ素、ケイ素の窒化物、ケイ素の酸化物およびケイ素の酸窒化物からなる群から選ばれる1種以上を主成分とする層が形成されていることを特徴とする光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項2】
光吸収膜の幾何学的膜厚が2〜20nmである請求項1記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項3】
光吸収膜が、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属の窒化物を主成分とする膜である請求項1または2記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項4】
光吸収膜が、金および/または銅を含有する膜である請求項1または2記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項5】
低屈折率膜が、ケイ素の酸化物を主成分とする膜である請求項1〜4いずれか1項記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項6】
ケイ素、ケイ素の窒化物、ケイ素の酸化物およびケイ素の酸窒化物からなる群から選ばれる1種以上を主成分とする層の幾何学的膜厚が0.5〜10nmである請求項1〜5いずれか1項記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項7】
ケイ素、ケイ素の窒化物、ケイ素の酸化物およびケイ素の酸窒化物からなる群から選ばれる1種以上を主成分とする層が、ケイ素の窒化物を主成分とする層である請求項1〜6いずれか1項記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項8】
光吸収膜と低屈折率膜との間に、ケイ素の窒化物および/またはアルミニウムの窒化物を主成分とする酸化防止層が、0.5〜20nmの幾何学的膜厚で形成されている請求項1〜7いずれか1項記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項9】
有機基体が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネートからなる有機基体である請求項1〜8いずれか1項記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項10】
有機基体が、基体上にハードコート層が形成された有機基体である請求項1〜9いずれか1項記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項11】
有機基体の屈折率とハードコート層の屈折率との差の絶対値が0.05以下である請求項10記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体。
【請求項12】
有機基体表面をプラズマ処理し、プラズマ処理された表面上に、ケイ素、ケイ素の窒化物、ケイ素の酸化物およびケイ素の酸窒化物からなる群から選ばれる1種以上を主成分とする層と、光吸収膜と、低屈折率膜とをこの順に形成することを特徴とする光吸収性反射防止膜付き有機基体の製造方法。
【請求項13】
プラズマ処理として、有機基体を真空槽内に設置した後、槽内を非酸化性雰囲気とし、有機基体の裏面に配置された電極に高周波電力を印加し、有機基体表面への投入電力密度をP(W/cm)、電極の自己バイアス電位を−V(ボルト)としたときに、処理時間t(秒)が2P・t/(V・e・π)≧5×1015(ただし、eは電気素量を表し、1.6×10−19(C)である)を満たすプラズマ処理を行う請求項12記載の光吸収性反射防止膜付き有機基体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−223332(P2007−223332A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131465(P2007−131465)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【分割の表示】特願平9−339097の分割
【原出願日】平成9年12月9日(1997.12.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】