説明

光学シート及びその製造方法

【課題】耐擦傷性に優れた光学シートを提供する。
【解決手段】可撓性支持体と、可撓性支持体の表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂、及び0.03〜40.0mg/mの界面活性剤を含有する成形層と、可撓性支持体の裏面に、0.02〜30.0mg/mの界面活性剤を含有する帯電防止層とを有する光学シート。上記界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及びアニオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可撓性支持体の一面に活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する成形層を備えた光学シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで表面に凹凸パターンを有する光学シートは主として建材等の装飾部材として用いられてきたが、近年、反射防止フィルム、拡散シート、輝度向上シート等の光学フィルムや、導光板、回折格子、パターンドメディア、情報記録媒体、光学素子、ホログラム、マイクロ流路等の部材に幅広く用いられている。特に、プリズムシート、レンズシート、反射防止フィルム等に代表されるような光学フィルム用途や、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタルバーサタイルディスク)等のトラッキング層を有する情報記録媒体用途において、凹凸パターンを有する光学シートの利用が増加している。これらの用途においては、光学特性の性能向上のために凹凸パターンの微細化が重要になってきている。例えば、凹凸パターンのピッチを可視光波長以下のサブミクロンオーダに微細化して、反射防止機能を向上することが提案されている(非特許文献1)。
【0003】
光学シートの製造方法としては、基材を直接成形する射出成形法や押出成形法以外に、紫外線硬化性樹脂等の活性エネルギー線硬化性樹脂を有する成形層を可撓性支持体上に形成する方法がある。例えば、可撓性支持体上に活性エネルギー線硬化性樹脂等を含有する樹脂溶液を塗布して樹脂層を形成し、この未硬化の樹脂層に成形ロール上のエンボスパターンを転写して樹脂層を成型し、成型された樹脂層に紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより樹脂層を硬化して凹凸パターンを有する成形層を形成し、形成された成形層を有する原反ロールを所定長さに裁断して光学シートを作製する方法が知られている(特許文献1、2)。この活性エネルギー線硬化性樹脂を用いて成形層を形成する方法によれば、微細な凹凸パターンを精度良く形成できるととともに、可撓性支持体の熱損傷を避けることができる。また、連続して成形層が形成されるため、安価に光学シートを製造することができる。
【0004】
ところで、この種の光学シートは、製造後に積み重ねられて搬送される際の光学シート同士の擦れや、液晶装置等の光学装置内に組み込まれる際の液晶部材等との接触、摺動により凹凸パターンが形成された成形層や、その反対面が傷付きやすい。特に、成形層の反対面は可撓性支持体が露出しているため、ポリエステルフィルム等の軟らかい可撓性支持体は傷が入りやすく、それによって光学特性の低下を招くことがある。
このため、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びポリオルガノシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを有する電離放射線硬化性組成物を成形層及びバックコート層に用いることにより被膜硬度を向上した光拡散性シートが提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特許3016638号公報
【特許文献2】特許3490099号公報
【特許文献3】特開2002−98809号公報
【非特許文献1】P.B.Clapham and M.C.Hutley, Nature (London) 244, pp.281-282(1973)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、拡散板等の硬質のアクリル樹脂からなる光学部材と光学シートとが重ねて配置されると、アクリル樹脂の削れ粉が光学シートと拡散板との間に介在する場合がある。このような場合、特許文献3における成形層やバックコート層に含まれる電離放射線硬化性樹脂よりもアクリル樹脂の方が硬いため、光学シートがアクリル樹脂粉と接触、摺動することにより光学シートの両面が傷付きやすい。また、バックコート層を形成することにより、製造コストを増加させることにもなる。さらに、可撓性支持体の成形層が形成された面の反対面は凹凸のない平滑面であるため、可撓性支持体が静電気を帯びやすく、帯電により塵埃が付着しやすくなる。特に、上記特許文献1や2のような可撓性支持体を連続搬送しながら成形層を形成する工程を有する製造方法においては、可撓性支持体が搬送部材と摺接するため、製造途中において可撓性支持体が帯電しやすくなり、それによって可撓性支持体に塵埃が付着しやすい。このため、塵埃が付着した状態で光学シートが積み重ねられ、可撓性支持体の裏面に付着した塵埃が可撓性支持体の表面の成形層と摺接すると、成形層や可撓性支持体の裏面が傷つきやすいという問題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、耐擦傷性に優れた光学シート、特に、傷の目立ち易いプリズムシートや、レンチキュラレンズシート、マイクロレンズアレイシート等のようなレンズシートを安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、光学シートの帯電性と滑り性とに着目し、以下の構成を採用すれば優れた耐擦傷性を有する光学シートを安価に提供できることを見出した。
すなわち、本発明は、可撓性支持体と、
前記可撓性支持体の表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂、及び0.03〜40.0mg/mの界面活性剤を含有する成形層と、
前記可撓性支持体の裏面に、0.02〜30.0mg/mの界面活性剤を含有する帯電防止層とを有する光学シートである。
【0008】
上記光学シートは、成形層及び帯電防止層がそれぞれ、界面活性剤を0.03〜40.0mg/mと、0.02〜30.0mg/m含有するため、光学シートの両面の摩擦係数を低下させることができ、滑り性を向上することができる。また、成形層及び帯電防止層の界面活性剤の含有量が上記範囲であれば、光学シートの両面の貼り付きを抑えることができるとともに、帯電を低減することができ、それによって塵埃の付着を抑制することができる。さらに、上記一定量の界面活性剤をそれぞれ含有する成形層及び帯電防止層が形成された光学シートであれば、光学シート間に塵埃が介在した状態で光学シートが積み重ねられて摺動されても、光学シート同士が貼り付きの少ない状態で接触するとともに、成形層と帯電防止層との間で塵埃が滑りやすいため、両面の傷の発生を抑えることができる。
【0009】
上記光学シートにおいて、前記成形層は、前記帯電防止層よりも界面活性剤を多く含有することが好ましい。光学機能層である成形層は微細な凹凸を有しており、それによって傷が入り易いため、成形層の界面活性剤の含有量は帯電防止層のそれより多くすることが好ましい。一方、帯電防止層は成形層に比べ表面が平滑であるため、帯電防止層の界面活性剤の含有量が成形層のそれよりも多すぎると、光学シートが積み重ねられた場合に表面と裏面とが貼り付きやすくなる。
【0010】
また、前記成形層の界面活性剤の含有量をCs、前記帯電防止層の界面活性剤の含有量をCbとしたとき、CsとCbとの差(Cs−Cb)は0.01〜4.0mg/mが好ましい。成形層と帯電防止層の界面活性剤の含有量の差が上記範囲内であれば、貼り付きをさらに低減することができる。
【0011】
上記界面活性剤は、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及びアニオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。上記界面活性剤は、活性エネルギー線硬化性樹脂との相溶性に優れるため、成形層を形成するための樹脂溶液の白濁を生ずることなく、成形層及び帯電防止層の摩擦係数を低減することができる。
【0012】
上記界面活性剤の中でも、カチオン系界面活性剤が好ましい。カチオン系界面活性剤は活性エネルギー線硬化性樹脂との相溶性に優れるが、活性エネルギー線硬化性樹脂の内部に取り込まれ難いため、成形層の内部から表面に滲出しやすい。また、カチオン界面活性剤は導電性に優れるため、さらに表面電気抵抗を低下させることができる。
【0013】
上記界面活性剤は、アルキルアンモニウム塩を含有することが好ましい。上記界面活性剤は、導電性に優れるとともに、低融点を有し、移動度が大きいため、少量の添加で優れた滑り性と帯電防止性とを有する成形層及び帯電防止層を得ることができる。
【0014】
上記界面活性剤は、80℃以下の融点を有することが好ましい。低融点の界面活性剤を用いることにより、成形層及び帯電防止層の摩擦係数をさらに低減することができる。また、低融点の界面活性剤は移動度が大きいため、活性エネルギー線硬化性樹脂中に分散された界面活性剤が成形層の表面に滲出しやすい。このため、低融点の界面活性剤を含有する成形層を有する原反ロールを形成することにより、可撓性支持体の裏面に成形層中の界面活性剤を効率よく転写させることができる。
【0015】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するジアクリレートまたはジメタクリレートを主成分として含有することが好ましい。上記活性エネルギー線硬化性樹脂は成型性に優れるため、微細な凹凸パターンを有する成形層を精度よく形成することができる。また、上記活性エネルギー線硬化性樹脂は界面活性剤との相溶性に優れている。さらに、成形層が上記活性エネルギー線硬化性樹脂と界面活性剤とを含有する場合、成形層の表面に界面活性剤が滲出しやすいため、可撓性支持体の裏面へ界面活性剤を十分に転写させることができ、摩擦係数をさらに低下できる。
【0016】
また、上記成形層及び帯電防止層はいずれも、1.0×1013Ω/□以下の表面電気抵抗を有することが好ましい。上記光学シートであれば、光学シートの両面が低い表面電気抵抗を有するため、塵埃の付着をさらに防止することができる。
【0017】
そして、本発明は、上記に記載の光学シートの製造方法であって、連続搬送される可撓性支持体の表面に設けられた活性エネルギー線硬化性樹脂と前記活性エネルギー線硬化性樹脂に対して0.1〜10質量%の界面活性剤とを含有する樹脂層に成形ロールを当接させて前記樹脂層を成型し、
前記成型された樹脂層に活性エネルギー線を照射することにより樹脂層を硬化して成形層を形成し、
前記成形層が形成された可撓性支持体をロール状に巻き取って原反ロールを形成し、
前記原反ロール25〜80℃でエージングする、製造方法である。
【0018】
上記製造方法によれば、活性エネルギー線硬化性樹脂と一定量の界面活性剤とを含有する樹脂層を成形ロールで成型し、成型された樹脂層を硬化して成形層を形成した後に、ロール状に巻かれた原反ロールを25〜80℃でエージングすることにより成形層中の界面活性剤を可撓性支持体の裏面に効率よく転写させることができ、それによって一定量の界面活性剤を含有する成形層及び帯電防止層を形成することができる。また、上記製造方法によれば、光学シートの反りやうねりを抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の光学シート及びその製造方法によれば、耐擦傷性に優れた光学シートを安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本実施の形態に係る光学シートの基本構成の一例を示す概略断面図である。図1に示されるように、光学シート1は、可撓性支持体2の表面にはレンズ形状やプリズム形状等の凹凸パターンを有する光学機能層である成形層3が形成されており、可撓性支持体2の裏面には帯電防止層4が形成されている。
【0021】
可撓性支持体2としては、光学フィルム、情報記録媒体等で使用されている従来公知の可撓性支持体を使用することができる。一般的には各種合成樹脂からなる可撓性フィルムが挙げられる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。これらの中でも光学特性、機械的強度、寸法安定性、耐熱性、価格等の点からポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、特に2軸延伸したポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。使用する可撓性支持体の厚さは特に制限されないが、用途に合わせて、通常300μm以下の厚さを有する可撓性支持体が用いられる。また、フィルムに対する成形層の接着性を高めるため、コロナ処理、プラズマ処理等の活性化処理を行ってもよく、表面にポリウレタン、ポリエステル等を有する易接着層を設けてもよい。
【0022】
可撓性支持体2の平均表面粗さ(Ra)は、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下が最も好ましい。また、可撓性支持体の十点平均表面粗さ(Rz)は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、0.5μm以下が最も好ましい。このような平滑性に優れた表面性を有する可撓性支持体は、光の乱反射が抑えられ、光学特性に優れる一方、接触面積が増加するため、帯電しやすく、また摩擦係数が高くなり、傷が発生しやすい。従って、界面活性剤を含有する成形層及び帯電防止層を設けることにより、塵埃の付着を防止する効果とともに、摩擦係数を低下させる効果が一層顕著に発揮される。
【0023】
成形層3は活性エネルギー線硬化性樹脂とともに、界面活性剤を0.03〜40.0mg/m、好ましくは0.2〜39.0mg/m、より好ましくは1.0〜8.3mg/m含有する。上記含有量の範囲で界面活性剤を含む成形層を形成することにより、成形層の摩擦係数を低減し、滑り性を向上することができる。また、界面活性剤の含有量が上記範囲であれば、光学シート両面の貼り付きを生ずることなく帯電性を低下させることができ、それによって塵埃の付着を抑制することができる。さらに、上記範囲の界面活性剤を含有する成形層と、一定量の界面活性剤を含有する帯電防止層とを形成すれば、光学シート間に塵埃が介在した状態で光学シートが積み重ねられて摺動されても、光学シート同士が貼り付きの少ない状態で接触するとともに、成形層と帯電防止層との間で塵埃が滑りやすいため、両面の傷の発生を抑えることができる。界面活性剤の含有量が0.03mg/m未満では、界面活性剤量が不足し、滑り性を十分改善することができず、また成形層が帯電しやすくなるため、耐擦傷性が劣化する。界面活性剤の含有量が40.0mg/mより多いと、帯電は少なくなるが、界面活性剤が成形層中に多量に存在するため、成形層が軟らかくなり、また摩擦係数が高くなる。このため、貼り付きが生じやすくなり、傷が入りやすくなる。また、常温で固体の界面活性剤の場合、成形層の表面に滲出した多量の界面活性剤によってブリードアウトが発生し、外観不良を引き起こす傾向がある。なお、界面活性剤の含有量は、光学シートの各面をアルコール等の水性溶剤で洗浄し、洗浄液中に洗い出される界面活性剤の量を測定することにより求めることができる。
【0024】
成形層の表面電気抵抗は、塵埃の付着を防止するために、1.0×1013Ω/□以下が好ましく、8.0×1012Ω/□以下がより好ましく、6.0×1012Ω/□以下が最も好ましい。成形層の表面電気抵抗が1.0×1013Ω/□より高くなると、成形層の表面に塵埃が付着しやすくなり、成形層に形成された凹凸が傷つきやすくなる。一方、成形層の表面電気抵抗は低いほど帯電防止性能が高くなるため好ましいが、低い表面電気抵抗を有する成形層を形成するためには、多量の界面活性剤を成形層に含有させる必要があるため、成形層が軟らかくなり、また摩擦係数が高くなるとともに、貼り付きが生じやすくなる。このため、成形層の表面電気抵抗は1.0×10Ω/□以上が好ましく、5.0×10Ω/□以上がより好ましく、8.0×10Ω/□以上が最も好ましい。なお、表面電気抵抗は、光学シートの各面を20℃、50%RH下で2重リングプローブを有する表面電気抵抗測定機を用い、JIS−K6911に準拠して測定した時の値である。
【0025】
界面活性剤としては、成形層の帯電防止性及び滑り性を改善できるものであれば特に制限なく使用することができるが、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及びアニオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、活性エネルギー線硬化性樹脂との相溶性に優れるため、樹脂溶液の白濁を生ずることなく、摩擦係数を低減することができる。
【0026】
カチオン系界面活性剤としては、具体的には、例えば、アルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩、イミダゾリン化合物等が挙げられる。上記塩としては、アニオンがハロゲン原子、硝酸、硫酸、過塩素酸等で置換された塩が挙げられる。これらの中でもエチルエチルジメチル−9−オクタデセニルアンモニウムサルフェイト、ポリオキシエチレントリアルキルアンモニウムクロライド、ジメチルパルミチルヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩等が好ましい。
【0027】
ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、N−2−ヒドロキシエチル−N−2−ヒドロキシアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が挙げられる。
【0028】
アニオン系界面活性剤としては、具体的には、例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルホスフェート等が挙げられる。上記塩としては、カチオンがアンモニア、アミン、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)やアルカリ土類金属等で置換された塩が挙げられる。
【0029】
上記界面活性剤の中でも、カチオン系界面活性剤は活性エネルギー線硬化性樹脂との相溶性に優れるが、活性エネルギー線硬化性樹脂の内部に取り込まれ難いため、成形層の内部から表面に滲出しやすい。また、カチオン界面活性剤は導電性に優れる。このため、界面活性剤としてカチオン系界面活性剤を使用すれば、低摩擦係数で、且つ低い表面電気抵抗を有する成形層を形成することができる。特に、カチオン系界面活性剤の中でも、アルキルアンモニウム塩が好ましい。アルキルアンモニウム塩は、導電性に優れるとともに、低融点を有し、移動度が大きいため、少量の添加で優れた滑り性と帯電防止性とを有する成形層を得ることができる。
【0030】
また、上記界面活性剤の中でも、80℃以下の融点を有する界面活性剤が好ましく、60℃以下の融点を有する界面活性剤がより好ましい。また、それらの中でも、炭素数4以上の炭化水素鎖を有する界面活性剤が好ましい。低融点の界面活性剤は移動度が大きく、成形層の表面に滲出しやすい。このため、低融点の界面活性剤を含有する成形層を形成した原反ロールを作製することにより、成形層の表面に滲出した界面活性剤を可撓性支持体の裏面に効率よく転写することができる。また、長鎖の炭化水素鎖を有する界面活性剤は滑り性に優れている。
【0031】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、紫外線、赤外線、可視光線、エックス線または電子線等の活性エネルギー線の照射により硬化する樹脂が挙げられる。例えば、重合性を有するモノマーとオリゴマーとを主成分とする樹脂を用いることができる。このような重合性を有するモノマー及びオリゴマーの中でも、アクリル系のモノマー及びオリゴマーは種類が多く、選択肢が広いので好ましい。活性エネルギー線硬化性樹脂の粘度は、25℃において3〜600mPa・sが好ましい。粘度が3mPa・sより低いと、この粘度に制御するために単官能モノマーの使用量が多くなってしまい、硬化性が低下したり、成形層が脆くなる等、成形層の物性が劣化する場合がある。粘度が600mPa・sを超えると、樹脂層を成形ロールに当接させて成型する際に樹脂が成形ロールのパターンにスムーズに入らず、気泡のかみ込み等の不良を起こす場合がある。
【0032】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂は、単官能ビニルモノマーまたは単官能(メタ)アクリルモノマーと、多官能(メタ)アクリルモノマー(オリゴマー)とを含有することが好ましい。一般的に、多官能モノマー(オリゴマー)が硬化物特性に支配的である。単官能モノマーは粘度調整用の希釈剤として用いられるが、活性エネルギー線硬化性樹脂の粘度が低いほど、成形層の機械的特性を確保することが難しくなる。
【0033】
単官能ビニルモノマー及び単官能(メタ)アクリルモノマーとしては、具体的には、例えば、ビニルピロリドン、ビニルホルムアミド、アクリロイルモルホロリン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアクリルアミド、イソボロニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホロリン、フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらは単独または複数混合して使用してもよい。アクリルモノマーが硬化性の点からメタクリレートモノマーより好ましい。これらのモノマーは粘度が低いため、低粘度の樹脂溶液が得られる。また、これらのモノマーは複素環、アミド基、水酸基、メトキシ基等の官能基を有しているので硬化後、成形層の可撓性支持体への密着性を向上させることも可能である。これらの中でも粘度、硬化性、硬度、付着性、及び屈折率等の点からビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホロリン、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸がより好ましい。
【0034】
多官能(メタ)アクリルモノマー(オリゴマー)としては、具体的には、例えば、2,2−ビス[4−(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピルトリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独または複数混合して使用してもよい。市販で入手可能な多官能(メタ)アクリルオリゴマーとしては、共栄社化学社製AH−600、UA306H、新中村化学社製U−4HA、U−6HA、U−6LPA等が挙げられる。これらのモノマー(オリゴマー)は硬化後に硬度を付与したり、硬化性を促進することも可能である。これらの中でも、ビスフェノールA骨格を有するジアクリレートまたはジメタクリレートを主成分として含有する多官能(メタ)アクリルモノマー(オリゴマー)である、2,2−ビス[4−(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパンが好ましい。上記ビスフェノールA骨格を有する多官能(メタ)アクリルモノマー(オリゴマー)は、樹脂層成型時の成型性に優れるため、微細な凹凸パターンを有する成形層を精度よく形成することができる。また、上記樹脂は界面活性剤の分散性に優れている。さらに、上記樹脂を含有する成形層中で界面活性剤が成形層の表面に滲出しやすい。このため、エージングによって成形層から可撓性支持体の裏面に界面活性剤を効率よく転写させることができる。屈折率の点からは2,2−ビス[4−(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパンが好ましい。硬化性及び硬度の点からは、3官能以上のペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びアクリルオリゴマーが好ましい。
【0035】
単官能ビニルモノマーまたは単官能(メタ)アクリルモノマーと、多官能(メタ)アクリルモノマー(オリゴマー)との混合比は、活性エネルギー線硬化性樹脂の粘度が3〜600mPa・sであれば特に限定されないが、質量比で5:95〜80:20が好ましい。前記比が小さくなると、粘度が高くなり、成形ロール上のパターンにスムーズに樹脂が入り込まず、転写性が劣化しやすい。前記比が大きくなると、成形層が脆くなりやすい。また、活性エネルギー線硬化性樹脂は、70℃以上の引火点を有することが好ましい。上記樹脂の量は、特に限定されるものではないが、成形層全体に対して通常85〜99質量%である。
【0036】
活性エネルギー線硬化性樹脂には上記のモノマー以外に、従来公知の一般的なモノマー及びオリゴマーを用いてもよい。また、必要に応じて汎用樹脂、有機溶剤、光開始剤、増感剤、促進剤、レベリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、離型剤、色材、フィラー等を使用してもよい。活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する樹脂溶液を調製するために有機溶剤を使用する場合には、樹脂層を形成した後に有機溶剤を除去するための乾燥工程を設けることが好ましい。なお、光開始剤の必要性は活性エネルギー線の種類による。特に紫外線、可視光線を活性エネルギー線として硬化反応に使用する場合、光開始剤が必要とされる。また、活性エネルギー線の照射を可撓性支持体を介して行う場合には、可撓性支持体を透過する活性エネルギー線の波長に応じた光開始剤を使用することが好ましい。例えば、可撓性支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムが用いられる場合には、イルガキュア369、819、907(チバガイギー社製)等のそれぞれの可撓性支持体の吸収波長と重ならないような波長領域で吸収をもつ光開始剤を使用することができる。これらの中でも、イルガキュア907は、2,4−ジエチルチオキサントンまたは2−クロロチオキサントンと併用すれば、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化を促進することができるため好ましい。光重合開始剤の量は、使用する樹脂や光重合開始剤の種類にもよるが、活性エネルギー線硬化性樹脂に対して通常0.5〜5質量%である。
【0037】
上記のような活性エネルギー線硬化性樹脂及び界面活性剤を含有する成形層は、耐擦傷性の観点からB以上の鉛筆硬度を有することが好ましい。
【0038】
可撓性支持体2の裏面の帯電防止層4は、界面活性剤を0.02〜30.0mg/m、好ましくは0.1〜27.0mg/m、より好ましくは0.5〜4.5mg/m含有する。上記範囲で界面活性剤を含有する帯電防止層を可撓性支持体の裏面に形成することにより、摩擦係数を低下させることができ、滑り性を向上することができる。また、界面活性剤の含有量が上記範囲であれば、光学シート両面の貼り付きを生ずることなく帯電性を低下させることができ、それによって塵埃の付着を抑制することができる。さらに、一定量の界面活性剤を含有する成形層及び帯電防止層が形成されれば、両層の間に塵埃が介在した状態で光学シートが積み重ねられて摺動されても、傷の発生を防止することができる。これにより、光学シートが積層されて、成形層と可撓性支持体の裏面とが接触したり、可撓性支持体の裏面がアクリル樹脂等からなる硬質の異物と接触、摺動した場合でも、傷の発生を低減することができる。界面活性剤の含有量が0.02mg/m未満では、界面活性剤量が不足し、滑り性を十分改善することができず、また帯電防止層が帯電しやすくなるため、耐擦傷性が劣化する。一方、界面活性剤の含有量が30.0mg/mより多いと、帯電は少なくなるが、摩擦係数が高くなり、傷が入りやすくなる。また、常温で固体の界面活性剤の場合、多量の界面活性剤によってブリードアウトが発生し、外観不良を引き起こす傾向がある。
【0039】
また、本実施の形態の光学シートは、成形層の界面活性剤の含有量をCs、帯電防止層の界面活性剤の含有量をCbとしたとき、CsがCbより多いことが好ましい。成形層は微細な凹凸を有しており、それによって傷が入り易いため、成形層の界面活性剤の含有量は帯電防止層のそれより多くすることが好ましい。一方、帯電防止層は成形層に比べ表面が平滑であるため、帯電防止層の界面活性剤の含有量が成形層のそれよりも多すぎると、光学シートが積み重ねられた場合に表面と裏面とが貼り付きやすくなる。また、上記CsとCbとの差(Cs−Cb)は、0.01〜4.0mg/mが好ましい。成形層と帯電防止層の界面活性剤の含有量の差が上記範囲内であれば、光学シート同士の貼り付きをさらに低減することができる。
【0040】
帯電防止層の表面電気抵抗は、塵埃の付着を防止するために、1.0×1013Ω/□以下が好ましく、9.0×1012Ω/□以下がより好ましく、8.0×1012Ω/□以下が最も好ましい。帯電防止層の表面電気抵抗が1.0×1013Ω/□より高くとなると、帯電防止層の表面に塵埃が付着しやすくなり、可撓性支持体の裏面が傷つきやすくなる。帯電防止層の表面電気抵抗は低いほど帯電防止性能が高くなるため好ましいが、低い表面電気抵抗の帯電防止層を形成するためには、多量の界面活性剤を含有させる必要があるため、摩擦係数が高くなるとともに、貼り付きが生じやすくなる。このため、帯電防止層の表面電気抵抗は1.0×10Ω/□以上が好ましく、6.5×1011Ω/□以上がより好ましい。
【0041】
帯電防止層の界面活性剤としては、成形層の界面活性剤と同様の界面活性剤を使用することができる。これらの中でも成形層と同様に、カチオン系界面活性剤が好ましく、アルキルアンモニウム塩がより好ましい。また、成形層と同様に、80℃以下の融点を有する界面活性剤が好ましく、60℃以下の融点を有する界面活性剤がより好ましい。成形層から界面活性剤を可撓性支持体の裏面に転写することなく帯電防止層を形成する場合には、帯電防止層中の界面活性剤は成形層中の界面活性剤と異なる種類の界面活性剤であってもよい。成形層から界面活性剤を可撓性支持体の裏面に転写することにより帯電防止層を形成する場合には、成形層の界面活性剤と同種の界面活性剤を含有する帯電防止層を形成することができる。
【0042】
帯電防止層は、界面活性剤以外に、帯電性及び滑り性に影響を与えない範囲で、潤滑剤等の添加剤を含有してよい。ただし、耐擦傷性を考慮すれば、実質的に界面活性剤のみを含有する帯電防止層が好ましく、界面活性剤のみからなる帯電防止層がより好ましい。
【0043】
次に、本実施の形態の光学シートの製造方法について説明する。光学シートの製造にあたっては、まず、活性エネルギー線硬化性樹脂及び界面活性剤を含有する樹脂溶液が調製される。可撓性支持体の裏面に帯電防止層を形成するため、界面活性剤を含有する界面活性剤含有溶液を上記樹脂溶液とは別途調製し、活性エネルギー線硬化性樹脂及び界面活性剤を含有する成形層の形成前あるいは形成後に、該界面活性剤含有溶液を可撓性支持体の裏面に形成してもよい。ただし、成形層から界面活性剤を可撓性支持体の裏面に転写させて帯電防止層を形成すれば、界面活性剤含有溶液の調製が不要になるとともに、界面活性剤含有溶液を可撓性支持体上に塗布する帯電防止層形成工程を別途行うことも不要となる。さらに、常温で固体の界面活性剤を用いる場合、直接可撓性支持体の裏面に帯電防止層を形成することができないため、固体の界面活性剤を溶媒に溶解した界面活性剤含有溶液を可撓性支持体に塗布し、さらに溶媒を除去するために乾燥する必要があるが、成形層からの転写によればこのような帯電防止層形成工程も設ける必要がなく、従って、製造コストをさらに低減することができる。このため、以下では活性エネルギー線硬化性樹脂と界面活性剤とを含有する樹脂溶液を用いて成形層を形成し、該成形層から界面活性剤を可撓性支持体の裏面に転写して帯電防止層を形成する方法について説明する。
【0044】
活性エネルギー線硬化性樹脂と界面活性剤とを含有する樹脂溶液を調製する場合、界面活性剤の量は、活性エネルギー線硬化性樹脂に対して、0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。界面活性剤の量が0.1質量%より少ないと、成形層中の界面活性剤の量が少なくなるとともに、転写される界面活性剤の量が少なくなり、光学シートの両面の摩擦係数及び表面電気抵抗が上昇して、耐擦傷性が劣化しやすい。界面活性剤の量が10質量%より多いと、界面活性剤の種類やエージング温度にもよるが、成形層中の界面活性剤の量が多くなり、成形層が軟らかくなって、摩擦係数が増加する場合がある。また、転写される界面活性剤の量が多くなり、光学シート同士が貼り付きやすくなる。さらに、常温で固体の界面活性剤が使用される場合、ブリードアウトが生じて、外観不良となりやすい。
【0045】
図2は、本実施の形態の光学シートの製造装置の一例を示す概略構成図である。図2に示すように、製造装置は、送り出しロール10a,巻き取りロール10bを有する搬送部10と、活性エネルギー線硬化性樹脂及び界面活性剤を含む樹脂層5を可撓性支持体2上に形成するための樹脂層形成部20と、樹脂層5に所定の凹凸パターンを成型し、成型された樹脂層5を硬化するための転写部30とを有している。また、上記の転写部30は窒素ガス雰囲気(例えば、酸素濃度300ppm以下)で樹脂層5の硬化を行うために不図示の密閉ボックス内に配置されている。
【0046】
図2に示すように、まず、樹脂層形成部20において、コータ等からなる塗布手段21から一定の供給量で可撓性支持体2上に活性エネルギー線硬化性樹脂と界面活性剤とを含有する樹脂溶液が供給されて、可撓性支持体2の一面に未硬化の樹脂層5が形成される。塗布方法としては、従来公知のロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ディップコート法、カーテンコート法等が挙げられる。塗布手段21は、樹脂層5の成型前であれば、特に配置される場所は制限されない。例えば、図3に示すように、塗布手段21は成形ロール31上に配置してもよい。
【0047】
樹脂層5が形成された可撓性支持体2は、次に転写部30に搬送される。この転写部30は、樹脂層5に凹凸パターンを成型する成形ロール31と、可撓性支持体2を成形ロール31に押圧するためのニップロール32と、凹凸パターンが成型された樹脂層5に活性エネルギー線Eを照射し樹脂層5を硬化させる照射手段34と、バックアップロール33と、活性エネルギー線Eの拡散を防止するための遮蔽板35とを有している。
【0048】
転写部30において、搬送されてきた可撓性支持体2は、樹脂層5が表面にエンボスパターン(図示せず)を有する成形ロール31に当接し、樹脂層5が形成された側と反対側の可撓性支持体2の裏面がニップロール32に当接するように、成形ロール31とニップロール32との間に供給される。そして、ニップロール32で可撓性支持体2側から樹脂層5を成形ロール31に押し付け、成形ロール31上のエンボスパターンを樹脂層5に転写することにより、凹凸パターンが樹脂層5に成型される。そして、成型された樹脂層5に照射手段34から活性エネルギー線Eを照射することにより樹脂層5が硬化される。照射手段34は、樹脂層5を硬化することができれば、特に配置される場所は制限されない。例えば、図4に示すように、成形ロール31内に照射手段34を配置してもよい。この場合、成形ロール31としては、活性エネルギー線Eを透過する樹脂製ロールが用いられる。この方法によれば、可撓性支持体2が活性エネルギー線Eを透過しない材料からなる場合でも樹脂層5を硬化することができる。
【0049】
成形層3の凹凸パターンは、目的、用途に応じて種々の形状で形成される。例えば、凹凸の平均間隔(D)が0.01〜50μm、凹凸の平均高さ(H)が0.01〜50μm、凹凸の平均間隔(D)と凹凸の平均高さ(H)の比(D/H)が0.01〜100である凹凸パターンも形成可能である。図5は、本実施の形態の成形層に形成される凹凸パターンを例示する概略断面図である。図中、(a)は一定間隔の平坦な凹凸パターンを示し、(b)は、一定間隔のプリズム状の凹凸パターンを示し、(c)はランダムなプリズム状の凹凸パターンを示す。
【0050】
次に、成形層3が形成された可撓性支持体2を巻き取りロール10bでロール状に巻き取ることにより、原反ロール6が形成される。原反ロール6の巻き取り張力は、0.01〜1kg/mmが好ましく、0.05〜0.5kg/mmがより好ましく、0.1〜0.3kg/mmが最も好ましい。巻き取り張力が0.01kg/mm未満では、成形層3と可撓性支持体2の裏面との接触が不十分となり、界面活性剤が十分転写されない場合があり、また原反ロール6が変形しやすくなる。巻き取り張力が1kg/mmより大きいと、原反ロール6中で成形層3が強く押圧されるため、塵埃が成形層3と可撓性支持体2の裏面と間に付着した場合、その形状が成形層3に転移する虞がある。
【0051】
上記のようにして形成された原反ロールは、成形層中の界面活性剤を可撓性支持体の裏面に転写して帯電防止層を形成するために、エージングすることが好ましい。エージングすることなく界面活性剤を成形層から可撓性支持体の裏面に転写することもできるが、ロール状態でエージングすることにより、成形層中の界面活性剤が成形層の表面に滲出しやすくなり、短時間で十分な量の界面活性剤を可撓性支持体の裏面に転写することができる。このため、樹脂溶液中の界面活性剤の添加量とエージング条件とを変更することにより、成形層及び帯電防止層中の界面活性剤量を調整することができる。エージング温度は、25〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。エージング温度が25℃以上であれば、界面活性剤の融点にもよるが、成形層中で界面活性剤が移動しやすく、そのため成形層の表面への界面活性剤の滲出量が多くなり、可撓性支持体の裏面に界面活性剤を十分に転写できるとともに、エージング時間を短時間化することができる。エージング温度が80℃以下であれば、界面活性剤が可撓性支持体の裏面に多量に転写されないため、貼り付きが生じ難く、また可撓性支持体の変形も抑えられる。エージングは、可撓性支持体の変形が生じない温度であれば、長時間行ってもよいが、生産性を考慮すれば、通常24時間〜1週間であり、好ましくは24〜48時間である。
【0052】
本実施の形態の光学シートは、上記のようにして作製される原反ロールを所定長さに裁断することにより製造することができる。このようにして得られる光学シートは、耐擦傷性が向上しているため、種々の用途に使用することができる。例えば、レンチキュラレンズやフライアイレンズ等の微細なレンズを有するレンズシート、プリズムシート、反射防止フィルム等の他、情報記録媒体のトラック層形成用シートとして使用することもできる。
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(実施例1〜9及び比較例1〜6)
表1及び2に示す組成を有する樹脂溶液をそれぞれ調製した。表中、「部」とあるのは、「質量部」を意味する。樹脂溶液の調製にあたっては、活性エネルギー線硬化性樹脂単独及び樹脂溶液の粘度(25℃)をそれぞれ、東機産業社製のE型粘度計(回転数:10rpm)で測定した。また、調製した樹脂溶液の状態(25℃)を目視により確認した。
【0055】
原反ロールの作製にあたっては、図1に示す製造装置を用いた。まず、樹脂層形成部において、連続搬送されるPETフィルム(厚さ:188μm,Ra:0.01μm,Rz:0.3μm)の一面に、樹脂溶液を塗布して、樹脂層を形成した。その後、転写部において、樹脂層を、可撓性支持体の搬送速度と同速で回転するプリズム形状のエンボスパターンを有する成形ロール(頂角:90°,凹凸の平均間隔(D):40μm,凹凸の平均高さ(H):20μm,D/H:2)に当接させ、樹脂層が成形ロールに押し当てられた状態で、高圧水銀ランプから紫外線(1000mJ/cm)を照射し樹脂層を硬化することにより、凹凸パターンを有する成形層を形成した。ついで、巻き取り張力0.1kgf/mmでロール状に可撓性支持体を巻き取ることにより、原反ロールを作製した。そして、作製した原反ロールを各表中のエージング条件で処理した後、原反ロールを所定サイズに裁断して、測定用の光学シートを作製した。
【0056】
(比較例7)
表2に示す組成を有する樹脂溶液を用いた以外は、上記と同様にして原反ロールを作製した。これとは別に、0.01質量%の濃度で264WAXを溶媒(水/エタノール/イソプロパノール=10/40/50質量%)に溶解させた界面活性剤含有溶液を調製した。そして、上記原反ロールの成形層を形成した裏面にグラビアロールを用いて、調製した界面活性剤含有溶液を塗布し、乾燥して、帯電防止層を形成した。その後、作製した原反ロールをエージング処理することなく、原反ロールを所定サイズに裁断して、測定用の光学シートを作製した。
【0057】
(比較例8)
表2に示す組成を有する樹脂溶液を用い、3.5質量%の濃度で264WAXを含有する界面活性剤含有溶液を用いた以外は、比較例7と同様にして測定用の光学シートを作製した。
【0058】
上記のようにして作成した実施例及び比較例の各光学シートを用いて、以下の評価を行った。
【0059】
[界面活性剤量]
25℃下で、光学シートの成形層を形成した表面、及び裏面をそれぞれ洗浄液(水/エタノール/イソプロパノール=10/40/50質量%)で洗浄し、洗浄液中に各面から洗い出されてきた界面活性剤の量を測定した。
【0060】
[表面電気抵抗]
20℃,50%RH下、表面電気抵抗測定機(三菱油化社製Hiresta Model,HT−210プローブ:HRプローブ)を用い、JIS−K6911に準拠して光学シートの各面の表面電気抵抗を測定した。
【0061】
[摩擦係数]
25℃,50%RH下、光学シートの各面のポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製A4300)に対する動摩擦係数を測定した。測定条件は、荷重を20g/mm、摺動距離を50mm、摺動速度を1000mm/min、摺動回数を2往復とした。
【0062】
[鉛筆硬度]
20℃,50%RH下、光学シートの成形層を形成した面の鉛筆硬度をJIS K5600−5−4に準じて測定した。
【0063】
[灰付着性]
20℃,50%RH下、ポリエステル布で10往復擦った後の光学シートの表面と裏面とにそれぞれたばこの灰を落とし、灰の付着性を評価した。
【0064】
[耐擦傷性]
光学シート10枚を、光学シートの成形層を形成した表面と、裏面とが向き合う状態で積層し、光学シート間に1m当たり1gのアクリルビーズ(粒径:1〜3μm)を散布した後、テープで外周を固定して測定試料を作製した。上記のようにして作製した測定試料を、振動試験機(株式会社振研社製G−5230NS)を用いてX、Y及びZ方向に各1時間、振動数10〜100Hzで振動させた。重力加速度は、2Gと4Gの2種類で行った。振動後、測定試料を開き、光学シートのアクリルビーズと接触していた両面を目視により観察し、傷がない場合を、○、傷がある場合を、×として評価した。
【0065】
[外観]
光学シートを13cm×15cmの大きさに裁断した測定試料を作製した。この測定試料を平らな金属板の上に置き、金属板からの反りの高さ及び金属板からのうねりの高さの最大値を測定した。両高さが1mm以下である場合を、1、いずれか一方の高さが1〜2mmである場合を、2、いずれか一方の高さが2mmより大きい場合を、3とした。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
上記表に示すように、実施例の樹脂溶液は活性エネルギー線硬化性樹脂と界面活性剤とを含有しているが、界面活性剤が樹脂中に均一に分散されるため、無色透明な樹脂溶液を調製することができる。また、実施例の光学シートは、活性エネルギー線硬化性樹脂と界面活性剤とを含有する樹脂溶液を用いて成形層を形成した原反ロールを作製することにより、成形層から可撓性支持体の裏面に界面活性剤が転写され、界面活性剤を含有する帯電防止層が形成されることが分かる。また、原反ロールをエージングすることなく界面活性剤を転写することもできるが、原反ロールをエージングすることにより、成形層から可撓性支持体の裏面に界面活性剤が効率よく転写されることが分かる。そして、界面活性剤の転写によって、0.2〜39.0mg/mの界面活性剤を含有する成形層と、0.1〜27.0mg/mの界面活性剤を含有する帯電防止層とが形成された実施例の光学シートは、両面の摩擦係数が低く、滑り性が改善されており、また表面電気抵抗も低減されている。このため、光学シート間にアクリル樹脂粉を介在させた状態で積み重ねた複数の光学シートを摺動させても、両面で傷の発生がなく、耐擦傷性に優れた光学シートであることが分かる。特に、界面活性剤としてカチオン系界面活性剤を用いた作製された光学シートは、同一条件で他の界面活性剤を用いて作製した光学シートに比べ、両面の表面電気抵抗が低い。また、実施例では、25〜80℃のエージングにより界面活性剤を成形層から可撓性支持体の裏面に転写できるため、反りやうねりの少ない光学シートが得られることが分かる。
【0069】
これに対して、界面活性剤を含有していない成形層を有する比較例1の光学シートは表面電気抵抗が高く、摩擦係数も高くなり、耐擦傷性が劣っている。また、界面活性剤を含有する成形層及び帯電防止層を有する光学シートでも、成形層及び帯電防止層の両方の界面活性剤の量が多すぎるまたは少なすぎる場合、耐擦傷性が十分に改善されないことが分かる。特に、界面活性剤の含有量が少なすぎると、表面電気抵抗も高くなるため、塵埃が付着しやすくなり、そのため耐擦傷性が低下しやすくなると考えられる。さらに、成形層及び帯電防止層の一方の界面活性剤量が実施例と同等であっても、他方の界面活性剤量が多すぎるあるいは少なすぎる比較例4〜5及び7〜8の光学シートは、両面が接触する状態で光学シートが摺動された場合、耐擦傷性が低下することが分かる。従って、光学シートの一面側の帯電性及び滑り性が改善されても、他面側の帯電性及び滑り性が劣る場合、摺動により傷が発生しやすくなる。なお、比較例4の光学シートは、成形層の界面活性剤量が0.07mg/mであったが、成形層の摩擦係数が高かった。これは、50〜55℃の融点を有する界面活性剤を少量含有する樹脂溶液を用い、原反ロールのエージングを行わなかった場合、成形層の表面に界面活性剤が偏在し、界面活性剤のない部分が形成されたためと考えられる。さらに、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤を用いた比較例6の光学シートは、樹脂溶液調製時に白濁が生じ、均一な樹脂溶液が得られなかった。また、この比較例6の光学シートは成形層にシリコーン系界面活性剤が多量に存在した。これは、シリコーン系界面活性剤が活性エネルギー線硬化性樹脂中に均一に分散されないため、成形層の表面に偏在したためと考えられる。さらに、この比較例6の光学シートは、両面にシリコーン系界面活性剤が多量に存在するにも拘らず、表面電気抵抗が高く、また摩擦係数も高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態に係る光学シートの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光学シートを製造するための製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る光学シートを製造するための製造装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る光学シートを製造するための製造装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図5】成形層の凹凸パターンを例示する概略断面図であり、(a)は一定間隔の平坦な凹凸パターンを示し、(b)は、一定間隔のプリズム状の凹凸パターンを示し、(c)はランダムなプリズム状の凹凸パターンを示す。
【符号の説明】
【0071】
1 光学シート
2 可撓性支持体
3 成形層
4 帯電防止層
5 樹脂層
6 原反ロール
31 成形ロール
E 活性エネルギー線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性支持体と、
前記可撓性支持体の表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂、及び0.03〜40.0mg/mの界面活性剤を含有する成形層と、
前記可撓性支持体の裏面に、0.02〜30.0mg/mの界面活性剤を含有する帯電防止層とを有する光学シート。
【請求項2】
前記成形層は、前記帯電防止層よりも界面活性剤を多く含有する請求項1に記載の光学シート。
【請求項3】
前記成形層の界面活性剤の含有量をCs、前記帯電防止層の界面活性剤の含有量をCbとしたとき、CsとCbとの差(Cs−Cb)が0.01〜4.0mg/mである請求項1に記載の光学シート。
【請求項4】
前記成形層及び帯電防止層は、前記界面活性剤として、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及びアニオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項5】
前記成形層及び帯電防止層は、前記界面活性剤として、カチオン系界面活性剤を少なくとも含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項6】
前記成形層及び帯電防止層は、前記界面活性剤として、アルキルアンモニウム塩を少なくとも含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項7】
前記界面活性剤は、80℃以下の融点を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項8】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂は、ビスフェノールA骨格を有するジアクリレートまたはジメタクリレートを主成分として含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項9】
前記成形層及び帯電防止層はいずれも、1.0×1013Ω/□以下の表面電気抵抗を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学シート。
【請求項10】
請求項1に記載の光学シートの製造方法であって、
連続搬送される可撓性支持体の表面に設けられた活性エネルギー線硬化性樹脂と前記活性エネルギー線硬化性樹脂に対して0.1〜10質量%の界面活性剤とを含有する樹脂層に成形ロールを当接させて前記樹脂層を成型し、
前記成型された樹脂層に活性エネルギー線を照射することにより樹脂層を硬化して成形層を形成し、
前記成形層が形成された可撓性支持体をロール状に巻き取って原反ロールを形成し、
前記原反ロール25〜80℃でエージングする、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−137842(P2011−137842A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68623(P2008−68623)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】