説明

光学フィルタ及びその製造方法

【課題】耐擦傷性に優れ、製造コストを抑制することができる光学フィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】可視光域の光を減衰する光学フィルタ部材10は、平板状且つ羽根状で所定の硬度を備える平板11と、平板11の一部に一点破線で示すように設けられた減光領域を備える。平板11の少なくとも光学フィルタ11aは、透明基板31と、透明基板31上に形成されたフィルタ層32と、フィルタ層32上に形成されたハードコート層33と、を備える。ハードコート層33の硬度は、フィルタ層32の硬度と比較して高硬度である。したがって、光学フィルタ11aは、ハードコート層を備えない光学フィルタと比較して、高い耐擦傷性を備える。また、フィルタ層32とハードコート層33とを印刷法又は塗布法により形成するため、製造コストを削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層を備えた光学フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラ、ビデオカメラなどの撮像装置には、撮像装置に入る光の強度を特定の比率で減ずる光学フィルタ(NDフィルタ;Neutral Density filter)が用いられている。このような光学フィルタとして、樹脂材料に特定の波長の光を吸収する光束吸収剤を分散させたフィルタや、カーボンナノチューブを分散させたインクをフィルム等の透明機材に印刷又は塗布したフィルタ(特許文献1)等がある。
【特許文献1】特開2007−187992号公報(第4頁、1図)
【0003】
従来の光学フィルタは、透光性を備える透明基板上に特定の波長の光を吸収する光束吸収剤を含有する樹脂からなる樹脂層を形成するか、透明基板の表面に無機材料(金属又は誘電体物質)を蒸着させて無機膜を形成して作成されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、透明基板上に特定の波長の光を吸収する光束吸収剤を含有する樹脂を印刷して作成された光学フィルタは、樹脂の硬度が低いため、耐擦傷性が低いという問題があった。
【0005】
また、光学フィルタの表面には、照明や太陽光などの外光が反射するのを防ぐために、AR(Anti-Reflection)コートが施されている。ARコートは、樹脂の表面にフッ化マグネシウムなどを蒸着して作成される。すると、樹脂の耐擦傷性が低いために、樹脂とともにARコートが剥がれてしまうという問題があった。
【0006】
また、この光学フィルタを作成する際に、透明基板上に印刷した樹脂を熱硬化させて、樹脂層を形成する。このとき、樹脂層の表面に気泡や凹凸が発生する。この凹凸は、樹脂に溶解したバインダ中の溶媒が揮発する際に発生する、又は、樹脂を印刷する際に巻き込まれた気泡による、等の要因により発生すると考えられている。この凹凸が発生するのを抑制するために、樹脂に予め表面改質剤が添加される。この表面改質剤は、光学フィルタの光透過性に影響を与える。したがって、表面改質剤等の添加剤を添加しないことが望ましい。また、この凹凸は、樹脂層上に形成されるARコートに穴を開けてしまうという問題もあった。
【0007】
また、透明基板と樹脂層とから構成される光学フィルタでは、樹脂層表面で反射した光と、透明基板と樹脂層との界面等の各層間の界面で反射した光とが干渉する。すると、光学フィルタの光反射率は、光の波長に対して周期的に変化する成分が現れる。このような光反射率の周期的に変化する成分を「リップル」という。リップルが発生するということは、光学フィルタの光学的特性が不安定であることを示す。したがって、リップルを抑制することが望ましい。
【0008】
また、透明基板の表面に金属又は誘電体物質から構成される無機膜を形成して光学フィルタを作成する場合、蒸着機を用いて無機物質を透明基板表面に蒸着して無機膜を形成する必要があった。この蒸着機は、大型の設備であり、高価で、生産性が低い。したがって、蒸着による光学フィルタの製造方法は、製造コストが高く、製造現場のスペースを圧迫してしまうという問題を有していた。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものである。本発明は、耐擦傷性に優れた光学フィルタを提供することを目的とする。また、本発明は、製造コストを削減することができる光学フィルタの製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る光学フィルタは、透光性を備える透光性基板と、前記透光性基板上に形成された第1の樹脂から構成されるフィルタ層と、前記フィルタ層上に形成された第2の樹脂から構成されるハードコート層と、を備えることを特徴とする。
【0011】
例えば、前記ハードコート層は、光束吸収材を含有してもよい。
【0012】
例えば、前記光束吸収材は粒状の物質から構成され、前記物質の粒径は1〜100nmであってもよい。
【0013】
例えば、前記光束吸収材は粒状の物質から構成され、前記ハードコート層中に0.1〜20重量%含有されてもよい。
【0014】
例えば、前記光束吸収材は色素から構成され、前記ハードコート層中に0.01〜5重量%含有されてもよい。
【0015】
例えば、前記色素は、ジイモニウム系色素、フタロシアニン系色素およびシアニン系色素のうち少なくともいずれか1つを含む色素から構成されてもよい。
【0016】
例えば、前記ハードコート層の厚みは、1〜50μmであってもよい。
【0017】
例えば、前記第2の樹脂は、エステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂およびシリコン系樹脂のうち少なくともいずれか1つを含む樹脂から構成されてもよい。
【0018】
例えば、前記ハードコート層上に形成された反射防止層を備えてもよい。
【0019】
また、本発明の第2の観点に係る光学フィルタを製造する方法は、透光性を備える透光性基板の上に、第1の樹脂を印刷してフィルタ層を形成するフィルタ層形成工程と、前記フィルタ層の上に、第2の樹脂を印刷してハードコート層を形成するハードコート層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
例えば、前記ハードコート層の上に、反射防止層を形成する反射防止層形成工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐擦傷性に優れた光学フィルタを提供することができる。また、本発明によれば、製造コストを削減することができる光学フィルタの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態に係る光学フィルタ及びその製造方法について、図を用いて説明する。
【0023】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る光学フィルタ11aを備えた光学フィルタ部材10を図1に示す。図1(a)は、光学フィルタ部材10の構成例を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のI−I線断面図である。また、図2は光学フィルタ部材10を用いた撮像装置20を模式的に示した図である。
【0024】
光学フィルタ部材10は、図1(a)に示すように、平板状且つ羽根状で所定の硬度を備える平板11と、平板11の一部に一点破線で示すように設けられた光学フィルタ11aと、平板11の一端部に形成された回動ピン12と、平板11の一端部に形成され、且つ回動ピン12と反対の面に突き出して形成された作動ピン13と、を備える。光学フィルタ部材10は、図2に示す撮像装置20内に設置される。
回動ピン12は、図2に示すようにフィルタ支持基板23上の穴に嵌合されており、光学フィルタ部材10の回転中心として機能する。
作動ピン13は、回動ピン12とは反対の面に突き出て形成されており、図示しないアクチュエータによって作動させられる。作動ピン13は、回動ピン12を中心として光学フィルタ部材10を回動する。
なお、回動ピン12と作動ピン13とは、平板11と一体的に成形されるか、平板11に接着剤等で貼り付けられている。
【0025】
撮像装置20は、図2に示すように、レンズ21a〜21cと、絞り22と、光学フィルタ部材10と、フィルタ支持基板23と、撮像素子24と、基板25とを備える。光学フィルタ部材10は、この撮像装置20内でフィルタ支持基板23上に設置される。光学フィルタ部材10の回動ピン12は、フィルタ支持基板23に設けられた穴に嵌合される。また、作動ピン13は、図示しないアクチュエータに係合される。光学フィルタ部材10は、アクチュエータによって作動ピン13が駆動することで回動ピン12を中心として回動し、光学フィルタ11aがフィルタ支持基板23の開口部23aを遮る、又は開放する。このようにして、光学フィルタ11aは、レンズ21aと絞り22から入る光を減衰させる。
【0026】
光学フィルタ11aは、図1(b)に示すように、平板11を構成する透明基板31と、染料を含有する樹脂から構成されるフィルタ層32と、硬度が高く耐擦傷性に優れたハードコート層33と、から構成される。光学フィルタ11aは、光学フィルタ部材10が図2に示すようにフィルタ支持基板23の開口部23aを遮るように配置された際、開口部23aを覆い、絞り22の開口部22aから入る光を減衰させる。従って、光学フィルタ11aは、フィルタ支持基板23の開口部23a及び絞り22の開口部22aと同じか、これらより大きい面積を備える。
また、光学フィルタ11aは、図3(a)に示すように、フィルタ層32上に硬度が高く耐擦傷性に優れたハードコート層33が形成されている。したがって、光学フィルタ11aは、光学フィルタ11aの光学特性を発現しているフィルタ層32に傷が入りにくい構造を備えることができる。
【0027】
また、フィルタ層32を形成する際に、フィルタ層32を構成する樹脂を熱硬化させる。このとき、図3(a)に示す領域A1を拡大した図3(b)に示すように、フィルタ層32の表面に凹凸32aが発生する。この凹凸32aは、フィルタ層32を構成する樹脂に溶解したバインダ中の溶媒が揮発することにより生じるか、または、フィルタ層32を印刷する際に樹脂に巻き込まれた気泡による等の原因が考えられる。この凹凸32aにより、例えば、フィルタ層32上にARコートを直接形成すると、ARコートに穴が開く等の不具合が生じる。
そこで、フィルタ層32上に平坦なハードコート層33を設ける。これにより、光学フィルタ11aの表面は平坦となる。したがって、ハードコート層33の上にARコート34を形成することにより、ARコート34に穴が開くなどの不具合が解消される。
【0028】
平板11を構成する透明基板31は、光学的に透明であれば良く、例えばPET(PolyEthyleneTerephthalate)から構成される。透明基板31は、例えば、25〜200μm程度の厚みを備える。
【0029】
フィルタ層32は、透明基板31とハードコート層33との間に形成される。フィルタ層32は、光学的に透明なPET等の樹脂に、有機導電材料等の所定の染料等が分散されている。ただし、従来添加されていた表面改質剤等の添加剤は添加されない。フィルタ層32は、例えば、1〜100μm程度の厚みを備える。本実施の形態では、フィルタ層32は、例えば、15μm程度の厚みを備える。
【0030】
ハードコート層33は、例えば、エステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂から構成される。ハードコート層33は、フィルタ層32の上面に、例えば1〜50μm程度の厚みに形成される。また、ハードコート層33は、本実施の形態では、フィルタ層32の上に印刷法、塗布法によって形成される。また、フィルタ層32の表面に生じる凹凸のサイズは、一般にハードコート層33の厚みに対して微小である。したがって、たとえフィルタ層32の表面に凹凸が生じても、ハードコート層33の表面は平滑になる。
【0031】
ARコート34は、フッ化アクリレート、シリコン系樹脂から構成される。ARコート34は、ハードコート層33の上面に、例えば100nm(0.1μm)程度の厚みに形成される。
【0032】
このように、光学フィルタ11aは、フィルタ層32の上に耐擦傷性に優れるハードコート層33を有している。このため、光学フィルタ11aの表面に傷が入りにくい。
【0033】
また、光学フィルタ11aは、フィルタ層32の上にハードコート層33を有している。このため、ARコート34に穴が開く等の不具合が解消される。
【0034】
次に、本実施の形態に係る光学フィルタ11aの製造方法について説明する。
【0035】
まず、透明基板を用意する。透明基板は、光学的に透明であればいずれを用いてもよく、例えばPETから構成される基板を用いる。透明基板は、複数枚の光学フィルタ部材10を形成可能な面積を備え、例えば100μmの厚みを備える。
【0036】
次に、樹脂中に染料をほぼ均一に分散させる。このとき、表面改質剤等の添加剤を添加しない。その後、透明基板上に印刷法又は塗布法によって樹脂を印刷又は塗布する。続いて、例えば100℃程度で約1時間焼成し、フィルタ層を形成する。なお、フィルタ層は、その厚さが例えば1〜100μm程度になるように形成する。また、光学フィルタに要求される特性に応じて、フィルタ層に分散させる染料の種類、量を適宜調節する。
【0037】
次に、フィルタ層の上面に光学フィルタの形状に対応する開口部を備えるスクリーン印刷版またはメタルマスクを作成する。そして、印刷法又は塗布法を用いてハードコート層を形成するための樹脂をフィルタ層に印刷又は塗布する。続いて、スクリーン印刷版またはメタルマスクを取り外す。そして、例えば100℃程度で約1時間焼成し、ハードコート層を形成する。これにより、光学フィルタ11aが完成する。なお、ハードコート層の形成に用いる樹脂にも、予め染料を分散させていてもよい。
【0038】
さらに、光学フィルタ部材10の形状に切り取り、回動ピン12、作動ピン13を接着剤等によって光学フィルタ部材10に貼り付ける。これによって、光学フィルタ部材10が完成する。
【0039】
なお、必要に応じて、ハードコート層の上面に反射防止層であるARコートを施してもよい。
【0040】
本実施の形態の製造方法では、透明基板上に染料を分散させたフィルタ層を印刷法又は塗布法により形成し、その上にハードコート層を同様に印刷法又は塗布法により形成する。すなわち、光学フィルタを構成する各層は、すべて印刷法又は塗布法によって形成される。印刷法及び塗布法は、蒸着法と比較して安価であり、生産性も高い。したがって、光学フィルタを製造するコストを削減することができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る光学フィルタ51aを備えた光学フィルタ部材50について図を用いて説明する。本実施の形態の光学フィルタ51aが第1の実施の形態の光学フィルタ11aと異なる点は、ハードコート層63が光束吸収剤を含有する樹脂から構成されている点にある。
【0042】
光透過性を備える複数の層から構成される光学フィルタに外部から光が入射した場合、光学フィルタに反射した光の反射率は、一般的に入射光の波長に対して振幅をもった挙動を示す。
【0043】
例えば、図4(a)に示すように、透明基板と薄層とから構成される光学フィルタに光が入射した場合、光学フィルタに反射した光の反射率は、図4(b)に示すような挙動を示す。このような、波長に対して、入射光の光反射率の周期的に変化する成分を「リップル」という。
【0044】
以下に、リップルが発生するメカニズムについて説明する。
【0045】
光学フィルタに入射した光の一部は光学フィルタの表面で反射し、一部は光学フィルタの表面で屈折して薄層に侵入する。
光学フィルタに侵入した光の一部は光学フィルタを構成する薄層と基板との界面で反射し、一部は界面で屈折して基板に侵入する。
薄層と基板との界面で屈折して基板に侵入した光の一部は基板と空気との界面で反射し、一部は空気中へと射出する。
薄層と基板との界面で反射した光と、基板と空気との界面で反射した光と、のそれぞれ一部の光は、薄層表面から射出する。
つまり、光学フィルタに反射する光は主に、薄層表面と、薄層と基板との界面と、基板と空気との界面とのそれぞれの面で反射した光を含む。
この3つの界面で反射した光の位相はそれぞれ異なる。位相が異なる複数の光は、重ね合わせの原理に基づいて、強め合う、又は打ち消し合う。
これにより、光学フィルタに反射した光の反射率は、入射光の波長に依存する振幅をもった挙動を示す。
【0046】
リップルは、異なる位相を有する光の数が多いほど、より複雑になる。つまり、光学フィルタを構成する層が多くなるほど、より複雑なリップルが発生する。例えば、図5(a)に示すように、図4(a)で示した2層構造の光学フィルタにさらにハードコート層を設ける。すると、図5(b)に示すように、より複雑なリップルが発生する。
このリップルの発生は、光学フィルタの光学的特性を不安定にするため、好ましくない。
【0047】
本発明では、従来の光学フィルタの構造にさらにハードコート層を設けている。したがって、本発明の実施の形態に係る光学フィルタは、従来の光学フィルタより多くの層を備える。このため、本発明の実施の形態に係る光学フィルタは、従来の光学フィルタと比較してより複雑なリップルが発生する。
【0048】
そこで、リップルの発生を抑制するために、本実施の形態に係る光学フィルタでは、ハードコート層を構成する樹脂に、外部から入射した光の光束の一部を吸収する光束吸収剤を混合する。
【0049】
本実施の形態に係る光学フィルタ部材51は、図6(a)に示すように、光学フィルタ51aを備える平板51と、回動ピン52と、作動ピン53とを備え、第1の実施の形態と同様に撮像装置内に設置される。また、平板51は、図6(b)に示すように、透明基板61と、フィルタ層62と、ハードコート層63とを備える。
【0050】
透明基板61は、図6(b)に示すように、第1の実施の形態と同様に、光学的に透明な基板、例えばPET等から形成される。透明基板61は、例えば100μmの厚みを備える。
【0051】
フィルタ層62は、透明基板61とハードコート層63との間に形成される。フィルタ層62は、光学的に透明なPET等の樹脂に、有機導電材料等の所定の染料等が分散されている。また、第1の実施の形態に係る光学フィルタ11aと同様に、フィルタ層62を形成するのに用いる樹脂にも従来添加されていた表面改質剤等の添加剤は添加されていない。フィルタ層62は、例えば、1〜100μm程度の厚みを備える。フィルタ層62を厚く形成すれば、光学フィルタ51aの光の透過率は低下し、薄く形成すれば透過率は上昇する。したがって、光学フィルタ51aに求められる透過率に応じて、適宜フィルタ層62の厚みを調節する。本実施の形態では、フィルタ層62は、例えば、15μm程度の厚みを備える。
【0052】
ハードコート層63は、エステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂から構成される。ハードコート層63を形成する樹脂63aには、図7に示すように、光学フィルタ51aに入射する光を吸収する光束吸収剤63bが分散される。
光束吸収剤63bは、可視光領域の光を吸収する。すると、ハードコート層63に侵入した光のうち、ハードコート層63とフィルタ層62との界面と、フィルタ層62と透明基板61との界面と、透明基板61と空気との界面とのそれぞれの界面で反射した光の一部は、ハードコート層63に含まれる光束吸収剤63bに吸収される。
これにより、ハートコート層63に光束吸収剤が含まれない場合と比較して、ハードコート層63から空気中に射出する光は減少する。したがって、ハードコート層63の表面で反射した光と干渉する光の量が減少するため、リップルの発生が抑制される。
【0053】
光束吸収剤63bは、例えばカーボン、Ni、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」という。)、色素などがある。光学フィルタ11aの用途に応じて適宜選択するとよい。また、光束吸収剤63bはカーボン、Ni等の粒状の物質から構成するときには、粒状の物質の粒径が1〜100nmのものを用いるとよい。ここで、光束吸収剤63bを分散させる量が少ない場合、十分な減光性を得られないという問題がある。また、光束吸収剤63bを分散させる量が多い場合、粘度が上昇し印刷等が困難になるという問題がある。そこで、光束吸収剤63bは、ハードコート層を構成する樹脂に対し0.1〜20重量%程度混入するのが好ましい。
光束吸収剤63bとして繊維状のCNTを用いるときには、その外径が1〜100nmのものを用いて、ハードコート層を構成する樹脂に対して0.1〜20重量%程度混入するのが好ましい。
光束吸収剤63bとして色素を用いるときは、ハードコート層を構成する樹脂に対して0.01〜5重量%程度混入するのが好ましい。このような色素としては、ジイモニウム系、フタロシアニン系、シアニン系等の色素を、フィルタ層62に合わせて適宜に選択することが好ましい。
【0054】
また、光束吸収剤63bが分散された樹脂63aから構成されるハードコート層63の厚みは、1〜50μmが好ましい。ハードコート層63の厚みが1μm以下の場合、ハードコート層63は、各界面で反射した光を十分に吸収することができず、リップルを抑制することができない。一方、ハードコート層63の厚みが50μm以上の場合、光学フィルタ51aに入射した光がハードコート層63で過剰に吸収され、光学フィルタ51aを透過する光が減少するため、光学フィルタ51aの本来の機能を損ねてしまう。
例えば、ハードコート層を構成する樹脂がポリエステルで、光束吸収剤63bがCNTである場合、ディップコーティングによりハードコート層63を成膜した場合、ハードコート層63の厚みは5.0μm程度となる。
【0055】
このように本実施の形態に係る光学フィルタ51aは、最表面に形成されるハードコート層63に光束吸収剤63bを含有させることにより、光学フィルタ51aを構成する各層間の界面で反射した光が吸収される。すると、光学フィルタ51aの表面で反射した光と干渉する光が減少するため、リップルの発生が抑制される。
【0056】
次に、本実施の形態に係る光学フィルタ51aの製造方法を説明する。
【0057】
まず、透明基板を用意する。透明基板は、光学的に透明であればいずれを用いてもよく、例えばPETから構成される基板を用いる。透明基板は、複数枚の光学フィルタ部材50を形成可能な面積を備え、例えば100μmの厚みを備える。
【0058】
次に、フィルタ層を構成する樹脂中に染料をほぼ均一に分散させる。このとき、表面改質剤等の添加剤を添加しないようにする。その後、透明基板上に印刷法又は塗布法によって樹脂を印刷又は塗布する。続いて、例えば100℃程度で約1時間焼成し、フィルタ層を形成する。なお、フィルタ層は、その厚みが例えば1〜100μm程度になるように形成する。また、光学フィルタに要求される特性に応じて、フィルタ層に分散させる染料の種類、量を適宜調節する。
【0059】
次に、光束吸収剤を樹脂に分散させる。そして、フィルタ層の上面に光学フィルタの形状に対応する開口部を備えるスクリーン印刷版またはメタルマスクを作成し、光束吸収剤を含有する樹脂を印刷法又は塗布法を用いてフィルタ層上に印刷又は塗布する。続いて、スクリーン印刷版またはメタルマスクを取り外す。次に、例えば100℃程度で約1時間焼成し、ハードコート層を形成する。そして、光学フィルタ51aが完成する。
【0060】
さらに、光学フィルタ部材50の形状に切り取り、回動ピン52、作動ピン53を接着剤等によって光学フィルタ部材50に貼り付ける。これにより、光学フィルタ部材50が完成する。
【0061】
このように、本実施の形態の製造方法も、第1の実施の形態の製造方法と同様に、光学フィルタ51aを構成する各層を形成する工程は、すべて印刷法又は塗布法を用いる。したがって、従来のように蒸着を行う必要がないので、安価に光学フィルタを製造することができる。
【0062】
本発明は上述した各実施の形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。例えば、回動ピンを回動中心として、作動ピンをアクチュエータによって作動させることによって、光学フィルタ部材を回動させる構成を採って説明したが、これに限られない。例えば、作動ピンのみを備え、作動ピンをアクチュエータ等で回転させることで、光学フィルタ部材を回動させる等、光学フィルタ部材を駆動する構成によって適宜変更することが可能である。また、回動ピンと作動ピンとが同一面上にあってもよい。また、光学フィルタ部材は更にガイドを備えることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1(a)は本発明の第1の実施の形態に係る光学フィルタの構成例を示す図である。図1(b)は、図1(a)に示すI−I線断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の光学フィルタ部材が搭載された撮像装置を示す図である。
【図3】図3(a)はARコートを備えた場合の本発明の第1の実施の形態に係る光学フィルタの図1(a)に示すI−I線断面図である。図3(b)は、図3(a)の領域A1の拡大図である。
【図4】図4(a)はリップルの発生メカニズムを説明するために用いた図である。図4(b)は、光学フィルタに反射した光の光反射率と入射光の波長との関係を示す図である。
【図5】図5(a)はリップルの発生メカニズムを説明するために用いた図である。図5(b)は、複数の層を備える光学フィルタに反射した光の光反射率と入射光の波長との関係を示す図である。
【図6】図6(a)は本発明の第2の実施の形態に係る光学フィルタの構成例を示す図である。図6(b)は、図6(a)に示すII−II線断面図である。
【図7】ハードコート層の内部の微視的な状態を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10,50・・・光学フィルタ部材
11,51・・・平板
11a,51a・・・光学フィルタ
12,52・・・回動ピン
13,53・・・作動ピン
20・・・撮像装置
21a〜c・・・レンズ
22・・・絞り
22a・・・開口部
23・・・フィルタ支持基板
23a・・・開口部
24・・・撮像素子
25・・・基板
31,61・・・透明基板
32,62・・・フィルタ層
33,63・・・ハードコート層
34・・・ARコート
63a・・・樹脂
63b・・・光束吸収材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を備える透光性基板と、
前記透光性基板上に形成された第1の樹脂から構成されるフィルタ層と、
前記フィルタ層上に形成された第2の樹脂から構成されるハードコート層と、
を備えることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記ハードコート層は、光束吸収材を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記光束吸収材は粒状の物質から構成され、前記物質の粒径は1〜100nmである、
ことを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記光束吸収材は粒状の物質から構成され、前記ハードコート層中に0.1〜20重量%含有される、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記光束吸収材は色素から構成され、前記ハードコート層中に0.01〜5重量%含有される、
ことを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記色素は、ジイモニウム系色素、フタロシアニン系色素およびシアニン系色素のうち少なくともいずれか1つを含む色素から構成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記ハードコート層の厚みは、1〜50μmである、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記第2の樹脂は、エステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂およびシリコン系樹脂のうち少なくともいずれか1つを含む樹脂から構成される、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記ハードコート層上に形成された反射防止層、
を備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
光学フィルタを製造する方法であって、
透光性を備える透光性基板の上に、第1の樹脂を印刷してフィルタ
層を形成するフィルタ層形成工程と、
前記フィルタ層の上に、第2の樹脂を印刷してハードコート層を形成するハードコート層形成工程と、
を有することを特徴とする光学フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記ハードコート層は、光束吸収材を含有する、
ことを特徴とする請求項10に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記光束吸収材は、粒状の物質から構成され、前記物質の粒径は1〜100nmである、
ことを特徴とする請求項11に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項13】
前記光束吸収材は、粒状の物質から構成され、前記ハードコート層中に0.01〜20重量%含有される、
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項14】
前記光束吸収材は、色素から構成され、前記ハードコート層中に0.01〜5重量%含有される、
ことを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項15】
前記色素は、ジイモニウム系色素、フタロシアニン系色素およびシアニン系色素のうち少なくともいずれか1つを含む色素から構成される、
ことを特徴とする請求項14に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項16】
前記ハードコート層の厚みは、1〜50μmである、
ことを特徴とする請求項10乃至15のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項17】
前記第2の樹脂は、エステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびシリコン系樹脂のうち少なくともいずれか1つを含む樹脂から構成される、
ことを特徴とする請求項10乃至16のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項18】
前記ハードコート層の上に、反射防止層を形成する反射防止層形成工程、
を有することを特徴とする請求項10乃至17のいずれか1項に記載の光学フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−258306(P2009−258306A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106082(P2008−106082)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】