説明

光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物

【課題】吸湿性が低く、過酷な使用環境においても優れた光学特性を維持することができ、更に、金型転写性にも優れた光学レンズを得ることが可能な光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ化合物、オキセタン化合物及びカチオン硬化触媒を必須成分とする光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物であって、該エポキシ化合物の総量100質量%中の60質量%以上が水添エポキシ化合物である光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物に関する。より詳しくは、例えば、LED用レンズや撮像レンズ、ピックアップ用レンズ等の光学レンズに好適に用いられる光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン硬化性樹脂組成物は、カチオン硬化性の化合物及びカチオン硬化触媒を含み、熱や光等で触媒からカチオン種を発生し、それによるカチオン硬化反応によって硬化し得る樹脂組成物である。カチオン硬化(重合)は、ラジカル重合に比べ、酸素による硬化阻害が起こらない、硬化時の収縮が小さいといった利点があり、様々な分野への適用が期待されている。具体的には、例えば、電気・電子部材や光学部材、成型材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途への適用が種々検討されており、各用途において要求される特性に優れたカチオン硬化性樹脂組成物の開発が望まれている。
【0003】
従来、カチオン硬化性樹脂組成物としては、例えばエポキシ化合物を含むものが知られている。特許文献1には、カチオン重合性化合物としてのエポキシ化合物及びオキセタン化合物と、特定のカチオン重合開始剤とを含む硬化性樹脂組成物が開示されており、高温度環境下又は高温高湿度環境下でも、アルカリ金属と塩を形成したり、金属を腐食したり、剥離したりする等の不具合を生じることなく長期にわたって光学デバイスの接着を実現できる旨が記載されている。
また、特許文献2には、エポキシ樹脂、特定の光潜在性重合開始剤及び増感性物質を含む光硬化性レジスト組成物が、塗膜のタックフリ−化や深部硬化性に優れる旨が記載されている。
【0004】
カチオン硬化性樹脂組成物はまた、透明性を発現させることもできることから、撮像装置等における光学レンズ用材料としても有用である。光学分野では、例えば、デジタルカメラモジュールが携帯電話等に搭載される等、小型化・低コスト化が求められているため、撮像レンズとして従来の無機ガラスに代わって樹脂レンズの採用が進んでおり、樹脂レンズの材料としてカチオン硬化性樹脂組成物を用いることも検討されている。例えば、多官能環式脂肪族エポキシ樹脂、多官能オキセタン化合物及び光重合開始剤を特定の割合で含む紫外線硬化型樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。特許文献3には、このような樹脂組成物が、アッベ数50以上で耐熱変色性及び透明性に優れた光学レンズに好適である旨記載されている。
また、優れた透明性、耐熱信頼性を有する光学レンズを得ることを目的として、多官能エポキシ樹脂、オキセタン化合物及び光酸発生剤を含有する樹脂組成物を紫外線硬化させる工程を含む光学レンズの製法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−308589号公報
【特許文献2】特開2002−256063号公報
【特許文献3】特開2010−150489号公報
【特許文献4】特開2009−288598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、種々のカチオン硬化性樹脂組成物が検討されているが、エポキシ化合物をカチオン硬化して得られる硬化物は吸湿性が高くなるという問題がある。特に、光学レンズ用途においては、高湿条件下で経時的にレンズの透明性が低下するという問題があった。上述のように、光学分野における樹脂レンズの用途の拡大や需要の増大に伴い、様々な使用環境下で優れた光学特性を長期にわたって維持できる光学レンズが求められている。更に、光学レンズの小型化・微細化の要求も高まっており、その材料である樹脂組成物には高精度の成形加工性も求められている。このように、より耐久性に優れた光学レンズの材料に好適であるとともに、成形加工性にも優れたカチオン硬化性樹脂組成物を得るための工夫の余地があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、吸湿性が低く、過酷な使用環境においても優れた光学特性を維持することができ、更に、金型転写性にも優れた光学レンズを得ることが可能な光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、吸湿性の低い光学レンズを得るためのカチオン硬化性樹脂組成物について種々検討するにあたり、カチオン硬化性化合物としてエポキシ化合物及びオキセタン化合物を含むカチオン硬化性樹脂組成物に着目した。そして、上記エポキシ化合物の総量のうち、特定の割合を水添エポキシ化合物とすると、得られる硬化物の吸湿性が低くなることを見出した。更に、水添エポキシ化合物とオキセタン化合物とを併用することにより、硬化物の吸湿性を更に抑制できるとともに、樹脂組成物が高精度の成形加工性に優れたものとなることも見出した。そして、上記のような硬化物が、高温高湿度等、過酷な環境下でも安定した光学特性を発揮することができ、更に、金型転写性に優れ高精度で微細形状に加工することもできることから、光学レンズとして極めて有用であることも見出し、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、エポキシ化合物、オキセタン化合物及びカチオン硬化触媒を必須成分とする光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物であって、上記エポキシ化合物の総量100質量%中の60質量%以上が水添エポキシ化合物であることを特徴とする光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物(以下、カチオン硬化性樹脂組成物又は単に樹脂組成物ともいう。)は、エポキシ化合物、オキセタン化合物及びカチオン硬化触媒を含むものであるが、これらを必須成分とする限り、更に他の成分を含むものであってもよく、各成分は、夫々1種又は2種以上を使用することができる。
【0011】
上記エポキシ化合物は、分子内にエポキシ基を1つ以上有する化合物である。エポキシ基とは、3員環のエーテルであるオキシラン環を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む)を含むものである。
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物においては、上記エポキシ化合物の総量100質量%中の60質量%以上が水添エポキシ化合物である。これにより、硬化物の吸湿率を好ましい範囲である1.00%未満に抑制することができるため、硬化物の吸湿による透明性の低下が抑えられるとともに、更に熱や紫外線による着色や短波長光の透過率の低下が抑制されるという効果が得られる。その結果、上記硬化物を光学レンズに適用した場合に光学特性が安定したものとなる。
一方、水添エポキシ化合物の含有量が60質量%未満であると、上記樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の吸湿性を充分に低くすることができない。上記エポキシ化合物の総量100質量%に対する水添エポキシ化合物の含有量として、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%、すなわち、上記エポキシ化合物の全量が水添エポキシ化合物であることである。
【0012】
上記オキセタン化合物は、分子内にオキセタン環を1つ以上有する化合物である。上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物が上記水添エポキシ化合物とともにオキセタン化合物を必須成分とすることにより、得られる硬化物の吸湿性を一層低くすることができ、耐湿熱性を充分に向上させることができる。具体的には、高湿条件下で加熱した場合でも、硬化物の可視光透過性の低下を充分に抑制することができる。
また、上記オキセタン化合物としては比較的低分子量のものを用いることができるため、無溶媒系でも上記樹脂組成物を低粘度化することができ、加工特性を向上させることができる。樹脂組成物が溶媒を含むものであると、硬化工程により硬化物中に気泡が生じたり、硬化物表面の平滑性が損なわれたりするおそれがあるが、上記のように無溶媒で扱うことができれば、金型成形により複雑形状の硬化物を製造する場合であっても、転写性に優れた硬化物を得ることが可能となる。
更に、上記樹脂組成物がオキセタン化合物を必須成分とすることで、光カチオン硬化性に優れたものとなるため、熱硬化と比較して低温で硬化・成形することが可能となる。
【0013】
上記オキセタン化合物としては、上述したように分子内にオキセタン環を1つ以上有する化合物であれば特に制限されないが、硬化物の強度を向上させることができる点で、多官能オキセタン化合物、すなわち、分子内にオキセタン環を2つ以上有する化合物であることが好ましい。
【0014】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物においては、上記エポキシ化合物の総量に対する上記オキセタン化合物の質量比が1.0以上であることが好ましい。これにより、上記樹脂組成物を用いて得られる硬化物の吸湿性をより充分に抑制することができる。上記質量比としてより好ましくは1.5以上であり、更に好ましくは2.0以上である。上記質量比としてはまた、より好ましくは10.0以下であり、更に好ましくは4.0以下である。
【0015】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物においてはまた、上記エポキシ化合物と上記オキセタン化合物との合計量が、該樹脂組成物中の硬化物形成成分の総量100質量%に対し、40質量%以上であることが好ましい。これにより、上記樹脂組成物を用いて得られる硬化物の吸湿性をより充分に抑制することができる。上記エポキシ化合物と上記オキセタン化合物との合計量としてより好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上である。
なお、硬化物形成成分の総量とは、エポキシ化合物及びオキセタン化合物の総量(不揮発分換算量)、あるいは後述するようにメタロキサン成分を該樹脂組成物に含有させる形態においては、エポキシ化合物、オキセタン化合物及びメタロキサン成分の総量(不揮発分換算量)を意味する。
上記合計量としてはまた、100質量%以下であることが好ましい。ただし、後述するように、硬化物のヒケを抑制したり硬化物の硬度を高めたりする目的でメタロキサン成分を添加する場合には、該成分の添加による効果を充分に発揮できる添加量が必要であるため、上記エポキシ化合物と上記オキセタン化合物との合計量としては、90質量%以下とすることがより好ましい。更に好ましくは80質量%以下である。
【0016】
上記カチオン硬化触媒としては、光励起や熱等によって、重合を開始させるカチオン種を発生し得る化合物であれば特に限定されないが、光カチオン硬化触媒や熱カチオン硬化触媒であることが好適である。光カチオン硬化触媒を用いることにより、光によりカチオン種を含む化合物が励起されて光分解反応が起こり、光硬化が進むこととなる。また、熱カチオン硬化触媒を用いることにより、加熱によりカチオン種を含む化合物が励起されて熱分解反応が起こり、熱硬化が進むこととなる。中でも、比較的低温で硬化・成形できる点で、光カチオン硬化触媒を用いることがより好ましい。これにより、上記樹脂組成物が溶媒を含む場合であっても、硬化物中の気泡や硬化物表面の乱れを抑制することができる。
このように、上記カチオン硬化触媒が、光カチオン硬化触媒である形態は、本発明の好適な形態の1つである。
【0017】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物は、本発明の作用効果を損なわない範囲で溶媒を含んでいてもよい。ただし、上述したように、上記樹脂組成物が溶媒を含むと、硬化過程で硬化物中に気泡が生じたり硬化物表面の平滑性が損なわれたりするおそれがあるため、上記樹脂組成物は溶媒を含まないか、含んでも少量であることが好ましい。具体的には、上記樹脂組成物の総量100質量%に対する溶媒の含有量が10質量%以下であることが好ましい。上記溶媒の含有量としてより好ましくは5質量%以下、最も好ましくは0質量%、すなわち上記樹脂組成物が溶媒を含まないことである。
【0018】
以下に、本発明の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物の好ましい形態について更に具体的に説明する。
【0019】
上記水添エポキシ化合物としては、1分子内に平均2個以上のエポキシ基を有する水添エポキシ化合物、すなわち、多官能水添エポキシ化合物を用いることが好ましい。このような水添エポキシ化合物としては、飽和脂肪族環状炭化水素骨格に直接的又は間接的に結合したグリシジルエーテル基を平均2個以上有する多官能グリシジルエーテル化合物であることが好ましい。このような水添エポキシ化合物は、芳香族多官能エポキシ化合物の完全又は部分水添物であることが好ましく、より好ましくは、芳香族多官能グリシジルエーテル化合物の水添物である。
上記水添エポキシ化合物はまた、重量平均分子量が300以上であることが好ましく、また、8000未満であることが好ましい。
なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ−N 4.6150を2本、溶離液:テトラヒドロフラン、標準サンプル:TSKポリスチレンスタンダード)により測定することができる。
【0020】
上記水添エポキシ化合物として、具体的には、下記一般式(1−1)で表される水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、下記一般式(1−2)で表される水添ビスフェノールF型エポキシ化合物が好ましい。
一般式(1−1)、(1−2)においては、シクロヘキシル環やメチレン鎖等の炭化水素の一部又は全ての水素原子が置換されたものであってもよい。置換基としては、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、置換基があってもよい炭化水素基等が好ましい。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0021】
【化1】

式中、qは0以上の整数を表す。
【0022】
上記水添エポキシ化合物が水添ビスフェノールA型エポキシ化合物及び/又は水添ビスフェノールF型エポキシ化合物である形態においては、該水添エポキシ化合物の水素化率は95%より大きいことが好ましい。水素化率が95%より大きいと、上記水添エポキシ化合物が含有する芳香族環状構造が充分に少なくなるため、得られる硬化物の熱や光による着色(黄変)を充分に抑制することができる。より好ましくは、水素化率が98%より大きいことであり、更に好ましくは、水素化率が100%であることである。
【0023】
上記水添ビスフェノールA型エポキシ化合物として具体的には、ビスフェノールA型エポキシ化合物を水添することにより得られるものを使用することができ、例えば、YX−8000(三菱化学社製)、YX−8040(三菱化学社製)、ST−4000D(新日鐵化学社製)等が挙げられる。
上記水添ビスフェノールF型エポキシ化合物としては、具体的には、ビスフェノールF型エポキシ化合物を水添することにより得られるものを使用することができる。
なお、本明細書中、製造又は販売会社名が示された化合物等は、商品名を表すものとする。
【0024】
上記エポキシ化合物は、その総量100質量%中の70質量%以上が水添エポキシ化合物である限り、水添エポキシ化合物以外のエポキシ化合物を含んでいてもよい。
上記水添エポキシ化合物以外のエポキシ化合物としては、例えば、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物を挙げることができるが、硬化物の吸湿性抑制の観点からは、芳香族エポキシ化合物が好適である。また、芳香族エポキシ化合物を用いると、硬化物の屈折率を高めることもできる。一方、脂環式エポキシ化合物を用いると、樹脂組成物の硬化性を向上させることができ、更に、得られる硬化物を耐熱性、耐光性に優れたものとすることができる。
【0025】
上記芳香族エポキシ化合物とは、分子中に芳香環及びエポキシ基を有する化合物であり、例えば、ビスフェノール骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香環共役系を有するグリシジル化合物であることが好ましい。
【0026】
上記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フルオレン系エポキシ化合物、ブロモ置換基を有する芳香族エポキシ化合物等が好適であり、中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物及びフルオレン系エポキシ化合物が好ましい。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、828EL、1003又は1007)、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フルオレン系エポキシ化合物(大阪ガスケミカル社製、オンコートEX−1020又はオグソールEG−210)、フルオレン系エポキシ化合物(大阪ガスケミカル社製、オンコートEX−1010又はオグソールPG)等が好ましく用いられる。より好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フルオレン系エポキシ化合物(大阪ガスケミカル社製、オグソールEG−210)である。
【0027】
上記芳香族エポキシ化合物としてはまた、芳香族グリシジルエーテル化合物が好適であるが、芳香族グリシジルエーテル化合物としては、例えば、エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
上記エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるものが好適である。
上記高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、上記エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られるものが好適である。
【0028】
上記ノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルテヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジシクロペンタジエン、テルペン、クマリン、パラキシリレングリコールジメチルエーテル、ジクロロパラキシリレン、ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を、更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるものが好適である。
【0029】
上記芳香族エポキシ化合物としては更に、例えば、テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び、更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂等を用いることもできる。
【0030】
上記脂環式エポキシ化合物は、脂環式エポキシ基を有する化合物である。上記脂環式エポキシ基としては、例えば、エポキシシクロヘキサン基(エポキシシクロヘキサン骨格)、環状脂肪族炭化水素に直接又は炭化水素を介して付加したエポキシ基等が挙げられる。中でも、エポキシシクロヘキサン基を有する化合物であることが好適である。また、硬化速度をより高めることができる点で、分子中に脂環式エポキシ基を2個以上有する多官能脂環式エポキシ化合物が好適である。また、分子中に脂環式エポキシ基を1個有し、かつビニル基等の不飽和二重結合基を有する化合物も好ましく用いられる。
【0031】
上記エポキシシクロヘキサン基を有するエポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、イプシロン−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が好適である。また、上記エポキシシクロヘキサン基を有するエポキシ化合物以外の脂環式エポキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、トリグリシジルイソシアヌレート等のヘテロ環含有のエポキシ樹脂等の脂環式エポキシド等が挙げられる。
【0032】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物中の上記エポキシ化合物(水添エポキシ化合物及び水添エポキシ化合物以外のエポキシ化合物)の含有量としては、上記樹脂組成物中の硬化物形成成分の総量100質量%に対し、10質量%以上、45質量%以下であることが好ましい。より好ましくは15質量%以上、40質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以上、35質量%以下である。
【0033】
上記オキセタン化合物としては、1分子中に1個以上のオキセタン環を有するものであれば特に制限されず、いずれも樹脂組成物の低粘度化による加工特性の向上や硬化物の吸湿性抑制に有効であるが、屈折率を向上させるという観点では、分子内に芳香環を有するオキセタン化合物を用いることが好適である。一方、硬化物のアッベ数を下げることなく上述の加工特性向上や吸湿性抑制といった効果を奏することができる点、及び、耐熱性・耐光性向上の観点では、脂肪族系オキセタン化合物を用いることが好ましい。ここで、「脂肪族系オキセタン化合物」とは、分子内に芳香環を有しないオキセタン化合物を意味する。また一方、上述したように、硬化物の強度向上の観点からは、多官能のオキセタン化合物、すなわち1分子中に2個以上のオキセタン環を有する化合物を用いることが好適である。また、構造中にエステル基等の極性部位の含有率が少ないものを用いることで、更に硬化物の吸湿性を抑制することができる。
【0034】
上記脂肪族系オキセタン化合物のうち、単官能のオキセタン化合物としては、例えば、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が好ましい。
【0035】
上記芳香環を有するオキセタン化合物のうち、単官能のオキセタン化合物としては、例えば、3−メチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が好ましい。
【0036】
上記脂肪族系オキセタン化合物のうち、多官能のオキセタン化合物としては、例えば、ジ〔1−エチル(3−オキセタニル)〕メチルエーテル、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、1,2−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕エタン、1,3−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が好ましい。
【0037】
上記芳香環を有するオキセタン化合物のうち、多官能のオキセタン化合物としては、例えば、フェノールノボラックオキセタン、ビフェニル骨格を有するジオキセタン化合物(宇部興産社製、ETERNACOLL(R)OXBP)、フェニル骨格を有するジオキセタン化合物(宇部興産社製、ETERNACOLL(R)OXTP、ETERNACOLL(R)OXIPA)、イソフタル酸‐ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]、フルオレン骨格を有するジオキセタン化合物等が好ましい。
【0038】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物中の上記オキセタン化合物の含有量としては、上記樹脂組成物中の硬化物形成成分の総量100質量%に対し、10質量%以上、95質量%以下であることが好ましい。95質量%を超えると、上記樹脂組成物が硬化せず、硬化物が得られないおそれがある。より好ましくは15質量%以上、50質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以上、40質量%以下である。
【0039】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物は、メタロキサン成分(メタロキサン化合物)を含有することが好ましい。これにより、得られる硬化物の硬度を向上させることができる。また、上記樹脂組成物の硬化時の収縮率が低下することから、硬化物のヒケ(硬化工程における収縮により金型等の型から硬化物が脱離し、硬化物表面に段差、窪み等が生じる現象)の発生を充分に抑制し、表面平滑性、金型転写性に優れたものとすることができる。
メタロキサン化合物は、メタロキサン結合(M−O−M結合、Mはケイ素原子又は金属原子を表す。)を有する化合物である。メタロキサン化合物としては、例えば、ポリメタロキサン化合物、金属酸化物粒子を挙げることができる。
【0040】
上記ポリメタロキサン化合物は、メタロキサン結合に加え、縮合可能な基を更に有する化合物であることが好ましい。縮合可能な基とは、加熱によって縮合する官能基をいう。上記縮合可能な基として具体的には、例えば、M−O−R基(Rは、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)、M−OH基、M−X基(Xは、ハロゲン原子を表す。)、M−H基が好適である。これらの縮合可能な基の中でも、硬化反応性の点で、M−O−R基又はM−OH基が特に好適である。
【0041】
上記ポリメタロキサン化合物としては、特に限定されないが、Mで表される原子が、Si、Mg、Al、Ca、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Ir、Tl、Pb、Bi及びRaのうち1種又は2種以上であるものを含むことが好ましい。より好ましくは、MがSi、Al、Ti、Zn、Zr、Sn、Ba及びRaのうち1種又は2種以上であるものを含むことであり、更に好ましくは、Si、Ti、Zn及びZrのうち1種又は2種以上であるものを含むことである。特に好ましくは、化合物の安定性や製造のしやすさから、MがSi及び/又はTiであるもの、すなわち、ポリシロキサン化合物、ポリチタノキサン化合物及びポリチタノシロキサン化合物の少なくとも1種を含むことである。
上記ポリメタロキサン化合物がポリシロキサン化合物を含む場合、シロキサン結合の含有量としては、全てのメタロキサン結合の総量100質量%に対して30質量%以上であることが好ましい。より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。
【0042】
上記M−O−R基において、Rは、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表すが、これらのうち2種以上を有するものであってもよい。また、炭素数は1〜20であることが好適である。より好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜3である。
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルへキシル基、n−オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロへキシル基、ビシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;鎖状アルキル基の水素原子の一部又は全部が、シクロアルキル基で置換されてなる基;シクロアルキル基の水素原子の一部又は全部が、鎖状アルキル基で置換されてなる基等が挙げられる。
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基等の他、これらの水素原子の一部又は全部がアルキル基等で置換されてなる基(例えば、メチルフェニル基(トルイル基)、ジメチルフェニル基(キシリレン基)、ジエチルフェニル基等)等が挙げられる。
上記アラルキル基としては、ベンジル基等の他、これらの水素原子の一部又は全部がアルキル基等で置換されてなる基(例えば、メチルベンジル基等)等が挙げられる。
【0043】
上記Rの中でも、アルキル基(すなわち、RO基がアルコキシ基である形態)が好ましく、特に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好適である。これによって、熱硬化工程での収縮をより低減することが可能になる。より好ましくはメチル基又はエチル基であり、反応の制御がしやすい点で、エチル基が最も好適である。
上記Rは、置換基を有するものであってもよい。また、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)構造であってもよいし、環状構造であってもよい。
また上記Xで表されるハロゲン原子としては、特に限定されないが、フッ素原子が特に好適である。
【0044】
上記ポリメタロキサン化合物の分子構造としては特に限定されないが、通常、鎖状構造(直鎖状、分岐状)、ラダー状構造、環状構造、かご状及び粒子状が例示される。中でも、エポキシ化合物、オキセタン化合物等への溶解性が高い点で、鎖状、ラダー状、かご状が好ましい。更に溶解性が高く、光学的な透明性や機械特性がより高い硬化物が得られる点で、鎖状、ラダー状がより好ましく、特に好ましくはラダー状である。特にラダー状のポリメタロキサン化合物を用いると、他の構造のものを用いる場合に比べて、少量の添加で離型性、光学特性(透明性、アッベ数・屈折率等)の制御性、機械的特性を更に向上することができる。すなわち、(1)硬化後の成形金型から硬化物を容易に離型することができる(離型性に優れる。)、(2)樹脂組成物の透明性、アッベ数・屈折率を厳密に制御することができる(制御性に優れる。)、(3)硬化物の透明性、アッベ数・屈折率を厳密に制御することができる(制御性に優れる。)、(4)硬化物の機械的特性に優れる(弾性率、破壊強度が高い)、等といった添加効果を発揮することができる。
また上記ポリメタロキサン化合物は常温で液状であってもよいし、固体状のものであってもよい。
【0045】
上記ポリメタロキサン化合物の重量平均分子量としては、300以上が好ましく、また、10万以下であることが好ましい。300未満であると、ポリメタロキサン化合物を含む樹脂組成物の保存安定性がより充分とはならず、また、離型性や光学特性の制御性、機械的特性をより向上することができないおそれがある。10万を超えると、エポキシ化合物、オキセタン化合物等への相溶性をより充分なものとできないおそれがある。より好ましくは500以上、更に好ましくは1000以上であり、また、より好ましくは5万以下、更に好ましくは1万以下である。
【0046】
上記ポリメタロキサン化合物がポリシロキサン化合物を含む形態において、ポリシロキサン化合物としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等の鎖状シリコーン化合物、ポリシルセスキオキサン(シルセスキオキサン単位を主として含むポリシロキサン)を挙げることができる。これらの分子の形状としては特に限定されず、直鎖状、分岐した鎖状(網目状を含む)、環状、籠状等を挙げることができる。
【0047】
上記ポリシロキサン化合物がポリシルセスキオキサンである形態において、特に好ましくはシロキサン結合(Si−O−Si結合)によって3個のケイ素原子と結合するケイ素原子を有する構造単位、すなわちシルセスキオキサン単位を主として含み、かつ分子内に縮合可能な基を含む化合物(この化合物を、「縮合可能な基を有するシルセスキオキサン」、単に「シルセスキオキサン」、又は、「ポリシルセスキオキサン」とも称す。)である。このようなポリシロキサン化合物は、例えば、下記平均組成式(2):
xYySiOz (2)
(Rは、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。Yは、縮合基又は縮合原子を表し、Siと結合して上記縮合可能な基を形成するものである。x、y及びzは、それぞれ、Siに対するR、Y及びOの結合割合の平均値を表し、0<x<2、0<y<2、1<z<2、0<(x+y)<2、及び、x+y+2z=4を満たす。)で表される化合物が特に好ましい。このようなシルセスキオキサンを用いることによって、耐熱性や機械的特性を向上・改善するとともに、樹脂組成物の経時的な粘度の上昇が抑制されることになる。したがって、上記樹脂組成物をハンドリング性により優れる一液型樹脂組成物(一液性硬化性樹脂組成物)とすることができ、また、より効率的かつ簡便に、優れた物性を有する硬化物を得ることが可能になる。
【0048】
上記平均組成式(2)において、Rは、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表すが、これらの炭素数は1〜20であることが好適である。より好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜3である。また、アルキル基、アリール基又はアラルキル基の中でも、アルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルへキシル基、n−オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロへキシル基、ビシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;鎖状アルキル基の水素原子の一部又は全部が、シクロアルキル基で置換されてなる基;シクロアルキル基の水素原子の一部又は全部が、鎖状アルキル基で置換されてなる基等が挙げられる。中でも、表面硬度を更に高めることができる観点から、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好適である。より好ましくはメチル基である。また、高屈折率化の観点では、アリール基又はアラルキル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
上記Rは、置換基を有するものであってもよいが、置換基を有さない基であることが特に好ましい。
なお、本明細書中、「アルキル基」には、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基だけでなく、環状のアルキル基(シクロアルキル基)を含むものとする。
【0049】
上記ポリシロキサン化合物はまた、上記Rに代えて、有機樹脂成分(エポキシ化合物、オキセタン化合物等)と結合を形成する基を有するものを用いてもよい。例えば、上記平均組成式(2)中、Rに代えて硬化性の官能基を有する化合物を用いてもよい。ただし、有機樹脂成分の安定性の観点からは、このような化合物は用いない方が好ましい。
【0050】
上記Yは、縮合基又は縮合原子を表し、Siと結合して上記縮合可能な基を形成するものである。したがって、Yは、OR基(Rは、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)、水酸基、ハロゲン原子(X)及び水素原子からなる群より選択される少なくとも1種であることが好適である。R及びXの好適な形態は、上述したとおりである。
【0051】
上記平均組成式(2)中のx、y及びzは、0<x<2、0<y<2、1<z<2、0<(x+y)<2、及び、x+y+2z=4を満たすものである。
上記yは、Siに対するYの結合割合の平均値を表し、0を超えて2未満の数であるが、yが2以上であると、Yの縮合により成型体中に気泡を生じるおそれがある。好ましくは1未満、更に好ましくは0.5未満、特に好ましくは0.3未満である。また、0.001より大きい値であることが好ましい。0.001未満では、硬化工程でのポリメタロキサン化合物の縮合による硬度向上効果が小さくなり、エポキシ化合物等への相溶性も小さいものとなる。より好ましくは0.01より大きい値、更に好ましくは0.05より大きい値、特に好ましくは0.08より大きい値である。
【0052】
上記zは、1より大きく2未満の数であればよい。好ましくは1.2より大きく1.8未満であり、より好ましくは1.35より大きく1.65未満である。
上記x+yは、0より大きく2未満の数であればよい。好ましくは0.4より大きく1.6未満であり、より好ましくは0.7より大きく1.3未満である。
上記xは、y及びx+yが上述した好適な範囲を満たすものとなるように、適宜設定することが好適である。
【0053】
上記ポリメタロキサン化合物としてはまた、光学特性の制御の観点から、その他の金属、無機元素を構成成分として含むものであってもよい。金属元素としては、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra等のアルカリ土類金属元素;La、Ce等のランタノイド系金属元素;Ac等のアクチノイド系金属元素;Sc、Y等のIIIa族金属元素;Ti、Zr、Hf等のIVa族金属元素;V、Nb、Ta等のVa族金属元素;Cr、Mo、W等のVIa族金属元素;Mn、Tc、Re等のVIIa族金属元素;Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等のVIII族金属元素;Cu、Ag、Au等のIb族金属元素;Zn、Cd、Hg等のIIb族金属元素;Al、Ga、In、Tl等のIIIb族金属元素;Ge、Sn、Pb等のIVb族金属元素;Sb、Bi等のVb族金属元素;Se、Te等のVIb族金属元素等を挙げることができ、これらが1種又は2種以上併存していてもよい。これらは、組成物が目的とする電気的特性や光学特性、磁気的特性等によって適宜選択することができる。例えば、光学物性のうち、高屈折率の樹脂組成物を得たい場合には、Ti、Zr、In、Zn、La、Al等が好ましい。
【0054】
上記金属酸化物粒子としては、上記MがSi、Ti、Zr、Zn、La、Y及びInの少なくとも1種であり、かつ該元素を主金属元素とする酸化物が好適である。具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ランタン、酸化イットリウム及び酸化インジウムの少なくとも1種が好適である。
硬化物の透明性を高める観点からは、上記金属酸化物粒子は平均1次粒子径が70nm以下であることが好ましい。より好ましくは30nm以下である。平均1次粒子径は、B.E.T.法により測定される比表面積から算出される比表面積径を採用するものとする。また、上記金属酸化物粒子は、上記樹脂組成物中で1次粒子として分散していることが好ましい。平均分散粒子径は、光散乱式粒度分布測定により得られる体積基準の平均粒子径を採用するものとする。
このように硬化物の透明性を高める場合には、上記の中でも、シリカが特に好適である。
一方、硬化物の屈折率を高める観点からは、チタニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウムが好適であり、チタニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛がより好適である。
【0055】
上述したとおり、上記メタロキサン成分におけるMとしては、メタロキサン成分がポリメタロキサン化合物であるか、金属酸化物粒子であるかにかかわらず、Siすなわちケイ素が最も好適である。このようなメタロキサン成分は、上記樹脂組成物への相溶性又は分散性に優れるものであるとともに、屈折率がエポキシ−オキセタン硬化物の屈折率に近いために、透明性を損なわずに高い濃度で配合することができる。その結果、得られる硬化物が高硬度となり、更に、ヒケが充分に抑制され表面平滑性に優れたものとなる。また、メタロキサン成分添加による透明性の低下を抑制することができる。
一方、硬化物の屈折率を高める観点からは、MとしてTi、Zr、Zn、In、La、Yが好適である。
【0056】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物において、上記メタロキサン成分(メタロキサン化合物)の含有量としては、上記樹脂組成物中の硬化物形成成分の総量100質量%に対し、10質量%以上であることが好ましい。上記メタロキサン成分としてポリシロキサン化合物を用いる場合には、その含有量は、上記樹脂組成物中の硬化物形成成分の総量100質量%に対し、40質量%以上とすることがより好ましい。これにより、硬化物のヒケの発生を一層抑止することができる。
上記メタロキサン成分の含有量としてはまた、60質量%以下であることが好ましい。
【0057】
上記カチオン硬化触媒としては、上述したように、光カチオン硬化触媒や熱カチオン硬化触媒を用いることが好ましい。
光カチオン硬化触媒は、光カチオン重合開始剤とも呼ばれ、光照射により、硬化剤としての実質的な機能を発揮するものである。
上記光カチオン硬化触媒としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等が好適である。
【0058】
上記光カチオン硬化触媒の具体的な商品としては、例えば、UVI−6950、UVI−6970、UVI−6974、UVI−6990(ユニオンカーバイド社製);アデカオプトマーSP−150、SP−151、SP−170、SP−172(ADEKA社製);Irgacure250(チバ・ジャパン社製);CI−2481、CI−2624、CI−2639、CI−2064(日本曹達社製);CD−1010、CD−1011、CD−1012(サートマー社製);DTS−102、DTS−103、NAT−103、NDS−103、TPS−103、MDS−103、MPI−103、BBI−103(みどり化学社製);PCI−061T、PCl−062T、PCl−020T、PCl−022T(日本化薬社製);CPI−100P、CPI−101A、CPI−200K(サンアプロ社製);サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L、サンエイドST−110L、サンエイドSI−145、サンエイドSI−150、サンエイドSI−160、サンエイドSI−180L(三新化学工業社製);WPAGシリーズ(和光純薬工業社製)等のジアゾニウム塩タイプ、ヨードニウム塩タイプ、スルホニウム塩タイプが好ましい。
【0059】
熱カチオン硬化触媒は、熱酸発生剤、熱硬化剤、熱カチオン発生剤、カチオン重合開始剤とも呼ばれ、接着剤組成物において硬化温度になれば、硬化剤としての実質的な機能を発揮するものである。
上記熱カチオン硬化触媒としては、例えば、下記一般式(3):
(RZ)s+(AXt)s− (3)
(式中、Zは、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、N及びハロゲン元素からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を表す。R、R、R及びRは、同一又は異なって、有機基を表す。a、b、c及びdは、0又は正数であり、a、b、c及びdの合計はZの価数に等しい。カチオン(RZ)s+はオニウム塩を表す。Aは、ハロゲン化物錯体の中心原子である金属元素又は半金属元素(metalloid)を表し、B、P、As、Sb、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Coからなる群より選ばれる少なくとも一つである。Xは、ハロゲン元素を表す。sは、ハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷である。tは、ハロゲン化物錯体イオン中のハロゲン元素の数である。)で表される化合物が好適である。
【0060】
上記一般式(3)の陰イオン(AXt)s−の具体例としては、テトラフルオロボレート(BF4−)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6−)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6−)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6−)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6−)等が挙げられる。
更に一般式AXt(OH)で表される陰イオンも用いることができる。また、その他の陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO)、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CFSO)、フルオロスルホン酸イオン(FSO)、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0061】
上記熱カチオン硬化触媒としては、比較的低温で硬化剤としての機能を発揮できるものが好適である。具体的には、140℃以下で硬化できるものが好ましい。これにより、硬化物と被着体との収縮率の違いに起因する被着体の反りや割れを抑制することができるとともに、被着体がガラス等の無機材料と比較して耐熱性の低い樹脂材料からなる場合であっても、熱硬化工程における加熱による被着体への影響を低減することができる。より好ましくは、120℃以下で硬化剤として機能するものである。
【0062】
上記熱カチオン硬化触媒の具体的な商品としては、例えば、AMERICUREシリーズ(アメリカン・キャン社製)、ULTRASETシリーズ(アデカ社製)、WPAGシリーズ(和光純薬工業社製)等のジアゾニウム塩タイプ;UVEシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、UV9310C(GE東芝シリコーン社製)、Photoinitiator 2074(ローヌプーラン社製)、WPIシリーズ(和光純薬工業社製)等のヨードニウム塩タイプ;CYRACUREシリーズ(ユニオンカーバイド社製)、UVIシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、CDシリーズ(サートマー社製)、オプトマーSPシリーズ・オプトマーCPシリーズ(アデカ社製)、サンエイドSIシリーズ(三新化学工業社製)、CIシリーズ(日本曹達社製)、WPAGシリーズ(和光純薬工業社製)、CPIシリーズ(サンアプロ社製)等のスルホニウム塩タイプ等が挙げられる。上記の中でも、比較的低温で硬化できる点で、スルホニウム塩タイプが好ましい。
【0063】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物において、カチオン硬化触媒の含有量としては、溶媒等を含まない有効成分量としての不揮発分換算量として、上記エポキシ化合物及びオキセタン化合物の合計量100質量%に対し、0.01〜10質量%とすることが好適である。
カチオン硬化触媒の含有量をこのような範囲とすることで、硬化速度をより充分に高めることができる。カチオン硬化触媒の含有量としてより好ましくは、0.05〜5質量%である。更に好ましくは、0.1〜3質量%である。
【0064】
なお、光硬化においては、上記光カチオン硬化触媒に加え、更に光増感剤を併用することが好ましい。光増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル等のアミン類等が好適である。
【0065】
上記光増感剤の配合量は、上記エポキシ化合物及びオキセタン化合物の合計量100質量%に対し、0.1〜20質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光重合がより効率的に進行しないおそれがあり、20質量%を超えると、内部へ紫外線が透過するのが妨げられ、硬化が充分とはならないおそれがある。より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0066】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物においては、上述したように溶媒等の揮発成分を使用しないことが好ましいが、必要に応じて使用することもできる。上記樹脂組成物が溶媒を含む場合としては、具体的に、該樹脂組成物の調製に用いた原料が溶媒を含むものである場合や、該樹脂組成物の粘度調整等を目的として別途添加する場合を挙げることができる。上記樹脂組成物の調製に用いた原料に含まれる溶媒の例としては、例えば、カチオン硬化触媒溶液における溶媒や、メタロキサン成分(特に金属酸化物粒子)の分散体における分散媒を挙げることができる。
上記溶媒としては特に制限されず、有機溶媒であれば使用することができるが、少なくとも上述したエポキシ化合物及びオキセタン化合物を溶解するものが好ましい。また、上記樹脂組成物がメタロキサン成分を含む場合には、上記溶媒はエポキシ化合物、オキセタン化合物を溶解し、かつメタロキサン成分を溶解又は分散可能なものであることが好ましい。具体的には、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグルコールエーテル、グルコールエステル、グルコールエーテルエステル等のグリコール誘導体;メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル等のエーテル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル等が挙げられる。
【0067】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物はまた、必要に応じて離型剤を含んでもよい。離型剤としては、通常の離型剤を好適に用いることができるが、炭素数8〜36のアルコール、炭素数8〜36のカルボン酸、炭素数8〜36のカルボン酸無水物、炭素数8〜36のカルボン酸エステル及び炭素数8〜36のカルボン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。このような離型剤を含有することで、金型を用いて硬化する際に容易に金型を剥がすことができ、硬化物の表面に傷をつけることなく外観を制御し、透明性を発現させることができることから、より優れた透明性、表面外観、寸法精度及び金型転写性等を有する硬化物を得ることができ、光学レンズ等に更に有用な硬化物となる。
【0068】
上記化合物の中でもより好ましくは、カチオン硬化反応を阻害することなく、離型効果を充分に発揮できることから、特に、アルコール、カルボン酸、カルボン酸エステルであり、更に好ましくは、カルボン酸(特に高級脂肪酸)及びカルボン酸エステルである。なお、アミン類は、カチオン硬化反応を阻害する可能性があることから、離型剤として用いない方が好ましい。
上記化合物はまた、直鎖状、分岐状、環状等のいずれの構造であってもよく、分岐しているものが好ましい。
上記化合物の炭素数としては、8〜36の整数であることが好適であるが、これによって、樹脂組成物の透明性や作業性等の機能を損なうことなく優れた剥離性を示す硬化物となる。炭素数としてより好ましくは8〜20であり、更に好ましくは10〜18である。
【0069】
上記離型剤の含有量としては、上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物中の硬化物形成成分100質量%に対して、0.01質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。0.01質量%未満では離型剤の添加効果が不充分となる場合があり、10質量%を超えると上記樹脂組成物が硬化しにくくなる等のおそれがある。より好ましくは、0.1質量%以上である。上記離型剤の含有量としてはまた、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは、2質量%以下である。
【0070】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物は、上述した必須成分や好適な含有成分の他に、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、無機微粒子、反応性希釈剤、不飽和結合を有さない飽和化合物、顔料、染料、ラジカル補足剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、熱重合開始剤、嫌気重合開始剤、重合禁止剤、無機充填剤や有機充填剤、カップリング剤等の密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤・分散剤、沈降防止剤、増粘剤・タレ防止剤、色分かれ防止剤、乳化剤、スリップ・スリキズ防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤(静電助剤)等を含有してもよい。
【0071】
上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物はまた、粘度が10000Pa・s以下であることが好ましい。これによって、加工特性により優れるものとなり、寸法精度及び金型転写性等に更に優れる硬化物を得ることができる。より好ましくは1000Pa・s以下、更に好ましくは200Pa・s以下である。また、0.01Pa・s以上であることが好ましい。より好ましくは0.1Pa・s以上、更に好ましくは1Pa・s以上である。
上記粘度の測定は、カチオン硬化触媒(硬化剤)を加える前の樹脂組成物について、R/Sレオメーター(米国ブルックフィールド社製)を用いて、25℃、回転速度D=1/sの条件下で行うことが可能である。なお、粘度20Pa・s以上では、RC25−1の測定治具を使用することができ、粘度20Pa・s未満では、RC50−1の治具を使用することができる。また、回転速度D=1/s時点の粘度が測定できないものについては、回転速度D=5〜100/sの値を外挿して、樹脂組成物の粘度として評価可能である。
【0072】
本発明はまた、上記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物でもある。
上記硬化物は、上述した光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物から得られることに起因して、吸湿性が低く、過酷な使用環境においても安定した性能を発揮することができる。
上記樹脂組成物の硬化方法としては、熱硬化や光硬化(活性エネルギー線照射による硬化)等の種々の方法を好適に用いることができるが、上述のように、より低温で硬化できることから光硬化を採用することが好ましい。熱硬化としては30〜400℃程度の温度範囲で硬化することが好ましく、光硬化は照射光量が積算光量10〜10000mJ/cmの範囲で硬化することが好ましい。硬化は1段階で行ってもよく、また、1次硬化(予備硬化)、2次硬化(本硬化)のように2段階で行ってもよい。例えば、レンズ等のように金型成形を必要とする場合においては、脱型操作を必要とするが、脱型操作の前に1次硬化を行い、脱型操作後に2次硬化を行うといった硬化・成形方法が好ましく採用される。
以下に、2段階硬化を行う場合について、詳述する。
【0073】
2段階硬化法としては、1次硬化に相当する第1工程として、樹脂組成物を光硬化を行うか、又は、80〜200℃で熱硬化させる工程と、該第1工程で得た硬化物を200℃を超え、500℃以下で熱硬化させる2次硬化に相当する第2工程とを含む方法を採用することが好ましい。
【0074】
上記第1工程においては、光硬化を行うことが好ましい。この場合、活性エネルギー線としては、カチオン性活性種を生成させることができるものであればよい。例えば、紫外線、可視光線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線、マイクロ波、高周波、赤外線、レーザー光線等が好適であり、カチオン性活性種を発生させる化合物の吸収波長を考慮して適宜選択すればよい。中でも、容易に取り扱うことができる点から、波長180〜500nmの紫外線又は可視光線が好ましい。これらの波長範囲の中でも、特に、254nm、308nm、313nm、365nmの波長の光が硬化に有効である。
なお、上記活性エネルギー線照射による硬化工程は、空気中及び/又は不活性ガス中、減圧下、加圧下のいずれの雰囲気下でも行うことができる。
【0075】
上記波長180〜500nmの紫外線又は可視光線の光発生源としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、水銀−キセノンランプ、エキシマーランプ、ショートアーク灯、ヘリウム・カドミニウムレーザー、アルゴンレーザー、エキシマーレーザー、太陽光等が好適である。
【0076】
上記活性エネルギー線照射の照射時間、すなわち活性エネルギー線による硬化工程における硬化時間は、活性エネルギー線の種類や照射量等によって適宜設定すればよい。例えば、波長180〜500nmの紫外線又は可視光線の照射時間は、0.1マイクロ秒〜30分が好ましく、より好ましくは0.1ミリ秒〜10分である。
【0077】
上記第1工程において熱硬化を行う場合には、硬化温度を80〜200℃とすることが好ましい。より好ましくは100℃以上であり、また、より好ましくは160℃以下である。
上記熱硬化工程における硬化時間は、例えば、10分以内であることが好ましく、より好ましくは5分以内、更に好ましくは3分以内である。また、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上である。
【0078】
上記熱硬化工程はまた、空気中及び/又は窒素等の不活性ガス雰囲気の減圧下、加圧下のいずれの雰囲気下でも行うことができる。また、硬化温度80〜200℃の範囲内で、硬化温度を段階的に変化させてもよい。例えば、生産性向上等の観点から、樹脂組成物を型内で所定の温度・時間で保持した後、型から取り出して空気中及び/又は窒素等の不活性ガス雰囲気内に静置して熱処理することも可能である。また、光硬化(活性エネルギー線照射による硬化)を組み合わせてもよい。
【0079】
上記第1工程としてはまた、金属、セラミック、ガラス、樹脂製等の型(「金型」と称す。)を用いた硬化工程であることが好適である。金型を用いた硬化工程とは、例えば、射出成型法、圧縮成型法、注型成型法、サンドイッチ成型法等の金型成型法で通常行われる硬化工程であればよいが、第1工程がこのような金型を用いた硬化工程であれば、耐磨耗性、低収縮性、寸法精度及び金型転写性等の各種物性に優れ、かつ着色がなく透明な成形体(硬化物)を容易に製造できる。
【0080】
上記第1工程が金型を用いた硬化工程である場合には、第1工程の後であって、かつ第2工程の前に、脱型工程を行うことが好適である。脱型工程を含む形態、すなわち第1工程で得た硬化物を金型から取り出し、取り出した硬化物を次の第2工程に供する形態とすることによって、高価な金型を有効に回転(リサイクル)でき、かつ金型の寿命を長くすることができるため、低コストで成形体を得ることが可能になる。
この場合、上記樹脂組成物を硬化剤及び必要に応じて他の成分を含む1液組成物とし、目的とする成形体の形状に合わせた金型内に該1液組成物を充填(射出・塗出等)して硬化させ、その後、硬化物を金型から取り出す方法が好適に用いられる。
【0081】
上記硬化方法において、第2工程では、上記第1工程で得た硬化物(好ましくは、脱型工程によって金型から取り出した硬化物)を200℃を超え、500℃以下で熱硬化させることが好ましい。より好ましくは250℃以上、更に好ましくは300℃以上、特に好ましくは330℃以上、最も好ましくは350℃以上である。また、より好ましくは、400℃以下である。
上記第2工程における硬化時間は、得られる成形体の硬化率が充分となる時間とすればよく特に限定されないが、製造効率を考慮すると、例えば、30分〜30時間とすることが好適である。より好ましくは1〜10時間である。
【0082】
上記第2工程はまた、空気中及び/又は窒素等の不活性ガス雰囲気のいずれの雰囲気下でも行うことができる。中でも特に、酸素濃度が低い雰囲気下で上記第2工程を行うことが好ましい。例えば、酸素濃度が10体積%以下である不活性ガス雰囲気下で行うことが好適である。より好ましくは3体積%以下、更に好ましくは1体積%以下、特に好ましくは0.5体積%以下、最も好ましくは0.3体積%以下である。また、硬化温度200℃を超え、500℃以下の温度範囲内で、硬化温度を段階的に変化させてもよい。
【0083】
上記硬化方法で得られる硬化物の強度としては、金型から取り出して形状を保てる程度の強度であればよく、例えば、1kgf/cm以上の力で押し出したときの形状変化の割合が10%以下の圧縮強度であることが好ましい。形状変化の割合としては、より好ましくは1%以下であり、更に好ましくは0.1%以下であり、特に好ましくは0.01%以下である。
【0084】
本発明の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を硬化することにより得られる硬化物は、屈折率が1.40〜1.60であることが好ましい。屈折率がこのような範囲にあると、上記硬化物を光学レンズ等に好適に用いることができる。上記硬化物の屈折率としてより好ましくは、1.45〜1.55であり、更に好ましくは、1.47〜1.53である。
屈折率は、屈折率計(アタゴ社製、DR−M2)を用いて測定することができる。
【0085】
上記硬化物はまた、アッベ数が45以上であることが好ましい。これにより、光の波長分散が小さくなり、解像度があがり、光学特性に優れたものとすることができる。45未満であると、例えば、にじみがみられるおそれがあり、充分な光学特性を発揮せず、光学レンズに好適な材料とはならないおそれがある。上記アッベ数として、より好ましくは、50以上であり、更に好ましくは、55以上であり、特に好ましくは、58以上である。
アッベ数は、屈折率計(アタゴ社製、DR−M2)を用いて測定することができる。
【0086】
上記硬化物はまた、吸湿性の低いものであることが好ましい。具体的には、吸湿率(吸水率)が1.00%未満であることが好ましい。これにより、高湿条件下であっても、硬化物の吸湿による透明性の低下が抑えられるとともに、更に熱や紫外線による着色や短波長光の透過率の低下が抑制されるという効果が得られる。その結果、上記硬化物を光学レンズに適用した場合に光学特性が安定したものとなる。上記吸湿率としてより好ましくは0.90%以下、更に好ましくは0.70%以下、特に好ましくは0.60%以下である。
上記吸湿率は、硬化直後(2段階硬化においては、第2硬化工程終了直後)の硬化物質量と、湿熱試験(85℃、85%RH、100時間)後の硬化物質量とに基づき、湿熱試験前後の硬化物質量の増加率を算出することにより求めることができる。
【0087】
本発明の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、吸湿性が低く、過酷な使用環境においても優れた光学特性を維持することができるものである。また、上記樹脂組成物が成形加工性に優れることに起因して、上記硬化物は金型転写性に優れるものであり、高精度で微細形状に加工することも可能である。このような硬化物は、例えば、特に、光学部材に好適に用いることができ、中でも、眼鏡レンズ、(デジタル)カメラ、携帯電話や車載カメラ、監視カメラ等のカメラ用撮像レンズ、光ビーム集光レンズ(光ピックアップ用レンズ)、LED用レンズ等の光拡散用レンズ等の光学レンズ用途に極めて有用である。光学レンズとして好ましくは、カメラレンズ、光ビーム集光レンズ及び光拡散用レンズであり、より好ましくはカメラレンズである。カメラレンズの中でも、携帯電話用撮像レンズ及びデジタルカメラ用撮像レンズ等の撮像レンズが好ましい。また、微小光学レンズであることが好適である。
このように、上記樹脂組成物を硬化して得られる硬化物を用いてなる光学レンズもまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0088】
本発明の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物は、上述のような構成であるので、吸湿性が低く、過酷な使用環境においても優れた光学特性を維持することができ、更に、金型転写性にも優れた光学レンズを得ることが可能なものである。そして、本発明の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、各種光学レンズとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0090】
<光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物の調製>
製造例1(樹脂組成物(1))
ガスインレット、冷却管、攪拌棒付きの四つ口フラスコに、エポキシ化合物としてのYX−8000(商品名、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約350、三菱化学社製)50部、及び、オキセタン化合物としてのOXT−221(商品名、多官能オキセタン樹脂、ジ〔1−エチル(3−オキセタニル)〕メチルエーテル、東亞合成社製)50部、メタロキサン化合物としてのPMSQ−E(商品名、ポリメチルシルセスキオキサン、小西化学工業社製)50部を仕込み、80℃でよく攪拌して均一にした。この液体を40℃に冷却した後、光カチオン硬化触媒としてCPI−101A(商品名、サンアプロ社製)0.8部を投入し、均一に混合することにより樹脂組成物(1)を得た。
【0091】
製造例2〜14(樹脂組成物(2)〜(14))
エポキシ化合物、オキセタン化合物、メタロキサン化合物(必要に応じて)及び光カチオン硬化触媒の種類や配合量を表1のように変更した以外は製造例1と同様にして、樹脂組成物(2)〜(14)を得た。
【0092】
硬化剤(カチオン硬化触媒)を加える前の樹脂組成物について、以下の方法により粘度を測定した。結果を表1に示す。
<粘度>
R/Sレオメーター(米国ブルックフィールド社製)を用いて、25℃、回転速度D=1/sの条件下で行った。なお、粘度20Pa・s以上では、RC25−1の測定治具を使用し、粘度20Pa・s未満では、RC50−1の治具を使用した。
また、回転速度D=1/s時点の粘度が測定できないものについては、回転速度D=5〜100/sの値を外挿して、樹脂組成物の粘度として評価した。
【0093】
<成型体(硬化物)の作成>
実施例1〜10、比較例1〜4
上記製造例で調製した樹脂組成物(以下、調製液ともいう。)に、必要に応じて50℃の熱を加えて減圧脱泡処理を行った。鋳型は、2枚の標準試験板(ガラス、日本テストパネル社製、厚み2mm、大きさ50mm×50mm)を基板とし、穴あけ加工したシリコーンゴムシート(十川ゴム社製、厚さ1mm、外形50mm×50mm、内径35mm×35mm)をスペーサーとして挟んだものを使用した。調製液の充填は、鋳型の基板を1枚外しておき、シリコーンゴムシートの穴部に樹脂を2.5g充填してから、外しておいた基板を押し当てて、バネ付きクリップで固定する方法をとった。
放射線照射光源として、250W超高圧水銀ランプ(商品名「USH−250BY」、ウシオ電機社製)を備えた露光装置(基本構成ユニット「ML−251B/D」、照射光学ユニット「PM25C−135」、ウシオ電機社製)を用いた。鋳型の照射側の基板表面における照度を、波長365nmにおいて33mW/cmとし、積算光量が2J/cmとなるように照射した。
出来上がった光硬化成型体を鋳型から取り出し、真空雰囲気下で250℃で1時間加熱(ポストキュア)することで、厚み1mmの板状成型体を得た。
【0094】
上記のようにして得られた成型体について、屈折率、アッベ数、吸湿率及び硬化時のヒケを以下の方法により測定及び評価した。結果を表1に示す。
<屈折率、アッベ数の評価>
屈折率及びアッベ数の測定は、JIS K7142に準拠した方法で、下記の方法によりそれぞれ測定を行った。
屈折率は、上記硬化物(1mm厚の成型体)について、屈折率計(アタゴ社製、DR−M2)を用いて、測定波長を486nm、589nm、656nmとして、20℃の条件下で測定した。表1には、589nmにおける測定値を示した。
アッベ数は、上記硬化物(1mm厚の成型体)について、屈折率計(アタゴ社製、DR−M2)を用いて、20℃の条件下で測定した。なお、測定の接触液として1−ブロモナフタレンを用いた。
【0095】
<吸湿性>
吸湿性は、250℃でポストキュアした直後の硬化物質量と、湿熱試験(85℃、85%、100時間)後の硬化物質量との質量比から下記式に基づいて算出した。
吸湿率(%)=(湿熱試験後の硬化物質量−250℃でのポストキュア直後の硬化物質量)/250℃でのポストキュア直後の硬化物質量×100
【0096】
<硬化時の外観>
硬化性及び硬化物外観を次の通り評価した。
○:目視で硬化物外観に異常が見られなかったもの
ヒケ:目視で硬化物外観にヒケが見られたもの
硬化不良:放射線照射で硬化しなかったもの
【0097】
【表1】

【0098】
表1における略称等は以下のとおりである。
YX−8000:水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量約350、三菱化学社製
YX−8040:水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、重量平均分子量3831、三菱化学社製
CEL−2021P:脂環式エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ダイセル化学工業社製
OXT−221:多官能オキセタン樹脂、ジ〔1−エチル(3−オキセタニル)〕メチルエーテル、東亞合成社製
OXT−212:単官能オキセタン樹脂、2−エチルヘキシルオキセタン、東亞合成社製
PMSQ−E:ポリメチルシルセスキオキサン、小西化学工業社製
PMPSQ−E:ポリメチルフェニルシルセスキオキサン、小西化学工業社製
CPI−101A:トリアリールスルホニウム塩系光カチオン硬化触媒、サンアプロ社製
【0099】
実施例及び比較例から、以下のことがわかった。
本発明の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を用いた実施例1〜10では、いずれも得られる硬化物の吸湿率を充分に抑制できる(1.00%未満とすることができる)ことがわかった。一方、硬化物形成成分として水添エポキシ化合物のみを用いた比較例1では、硬化物の吸湿率が充分に低くならず、硬化物形成成分としてオキセタン化合物のみを用いた比較例2では、放射線照射によって硬化することができないことがわかった。また、エポキシ化合物として水添エポキシ化合物とそれ以外のエポキシ化合物とを併用する形態においては、エポキシ化合物中の水添エポキシ化合物含有量を60質量%以上とした実施例9及び10(夫々62質量%及び78質量%)では吸湿率を充分に抑制できるのに対して、水添エポキシ化合物含有量が60質量%未満である比較例3及び4(夫々0質量%及び50質量%)では吸湿率を充分に抑制できないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物、オキセタン化合物及びカチオン硬化触媒を必須成分とする光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物であって、
該エポキシ化合物の総量100質量%中の60質量%以上が水添エポキシ化合物である
ことを特徴とする光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物の総量に対する前記オキセタン化合物の質量比が1.0以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記オキセタン化合物は、多官能オキセタン化合物である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記オキセタン化合物と前記エポキシ化合物との合計量が、前記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物中の硬化物形成成分の総量100質量%に対し、40質量%以上である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記カチオン硬化触媒は、光カチオン硬化触媒である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物の総量100質量%に対する溶媒の含有量が10質量%以下である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学レンズ用カチオン硬化性樹脂組成物を硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化物を用いてなることを特徴とする光学レンズ。

【公開番号】特開2012−136571(P2012−136571A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288175(P2010−288175)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】