説明

光学多層膜フィルタ、光学多層膜フィルタの製造方法、光学ローパスフィルタ、及び電子機器装置

【課題】透明基板に積層された誘電体の薄膜の応力による基板の反り幅をより低減することにより、光学的歪を防止した光学多層膜フィルタ及び光学多層膜フィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】透明基板に誘電体の薄膜を積層した光学多層膜フィルタの、透明基板の一方の面に高屈折率材料層と低屈折率材料層が交互に積層された誘電体多層膜が形成され、前記透明基板の他方の面に誘電体単層膜が形成され、誘電体単層膜は、透明基板の屈折率と実質的に同一の屈折率の誘電体材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体の薄膜を積層した光学多層膜フィルタ、光学多層膜フィルタの製造方法、光学ローパスフィルタ、及び電子機器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラやデジタルカメラ等の撮像素子として、CCD(Charge Coupled Device、電荷結合素子)が多く用いられている。
CCDは比較的広い波長の光に感度があり、可視光領域のみならず近赤外領域(750〜2500nm)の光にも感度が良好である。しかし、通常のカメラの用途では、人間の眼に見えない赤外領域は不要であり、近赤外線が撮像素子に入射すると解像度の低下や画像のムラなどの不都合を引き起こす。そのため、ビデオカメラ等の光学系には色ガラスなどの赤外カットフィルタが挿入され、入射する光の中の近赤外線をカットするようになっている。
【0003】
こうしたカメラにおいて、小型化の要請から、光学系を小型化することが求められているが、色ガラスの赤外カットフィルタは独立した部品であり、それだけ光学系の小型化の妨げになっている。そのため、誘電体多層膜で構成される赤外カットフィルタをレンズやローパスフィルタと一体化し、部品としての赤外線カットフィルタを廃止して光学系の小型化を図ることが提案されている。(例えば、特許文献1参照)
また、前記技術の中でも、膜の応力に起因する反りを小さくし、光学的歪などを防止する目的で、透明基板の両面に、高屈折率材料層と低屈折率材料層が交互に重ね合わされてなる誘電体多層膜が形成され、両方の誘電体多層膜を合わせて40層以上の膜層を有する光学多層膜フィルタが知られている。(例えば、特許文献2参照)
【0004】
【特許文献1】特開平5−207350号公報
【特許文献2】特開平7−209516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の光学多層膜フィルタは、透明基板の両面に各々、数多くの異なる積層数の誘電体多層膜を積層しなければならないため、2面ともそれぞれの光学特性を満足するような、精度良い成膜を行わなければならないという製造上の困難がある。また、光学特性との兼ね合いから、透明基板の両面に積層された誘電体多層膜の膜応力バランスがとりにくく、透明基板の反り幅の低減が不十分であるという課題があった。
そこで、本発明は、透明基板に積層された誘電体の薄膜の応力に起因する基板の反り幅をより低減することにより、光学的歪などを防止した光学多層膜フィルタ及び光学多層膜フィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係わる第1の発明の光学多層膜フィルタは、光を透過させるための基板と、前記基板の一方の面に、屈折率を相互に異にする第1の材料と第2の材料を交互に積層された誘電体多層膜と、前記基板の他方の面に形成された誘電体単層膜とを含むことを特徴とする。
上記構成によれば、光を透過させるための基板の一方の面に形成された誘電体多層膜による前記基板の応力を、前記基板の他方の面に形成された誘電体単層膜の応力により平坦化し、所望の誘電体多層膜を積層した前記基板の反り幅を、従来の光学多層膜フィルタに比較して低減した光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0007】
また、第2の発明の光学多層膜フィルタは、第1の発明において、前記誘電体単層膜の屈折率は、前記基板の屈折率と実質的に同一であることを特徴とする。
上記構成によれば、基板と基板に積層される誘電体単層膜の屈折率が、ほぼ同じまたは非常に近いことにより、特別な誘電体多層膜の膜設計を必要としない。
【0008】
また、第3の発明の光学多層膜フィルタは、第1及び第2の発明において、前記誘電体単層膜は、酸化珪素系化合物で形成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、誘電体単層膜が酸化珪素系化合物で形成されることにより、強い圧縮応力の単層膜を形成することができ、従来の光学多層膜フィルタに比較して反り幅が低減した光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0009】
また、第4の発明の光学多層膜フィルタは、第1乃至第3の発明において、前記誘電体多層膜は、UV−IRカット膜、または、IRカット膜であることを特徴とする。
上記構成によれば、光を透過させるための基板の一方の面に屈折率を相互に異にする第1の材料と第2の材料を交互に積層された誘電体多層膜を有した、しかも従来の光学多層膜フィルタに比較して反り幅の少ない、UV−IRカットフィルタ(Ultraviolet-Infrared cut filter)及びIRカットフィルタ(Infrared cut filter)を得ることができる。
【0010】
また、第5の発明の光学多層膜フィルタは、第1乃至第4の発明において、前記光を透過させるための基板は、水晶板であることを特徴とする。
上記構成によれば、光を透過させるための基板が水晶板で構成されることにより、反り幅の少ない例えば光学ローパスフィルタとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、例えばUV−IRカットフィルタ及びIRカットフィルタ機能を含む光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0011】
また、第6の発明の光学多層膜フィルタは、第1乃至第4の発明において、前記光を透過させるための基板は、ガラス板であることを特徴とする。
上記構成によれば、光を透過させるための基板がガラス板で構成されることにより、反り幅の少ない例えばCCD(電荷結合素子)などの映像素子の防塵ガラスとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、例えばUV−IRカットフィルタ及びIRカットフィルタ機能を含む光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0012】
また、第7の発明の光学ローパスフィルタは、第5の発明の光学多層膜フィルタを、少なくとも一つ以上具えたことを特徴とする。
上記構成によれば、1枚の水晶板を用いた構造の光学ローパスフィルタや、2枚の水晶板を各々の光学軸が45度ずれるように貼り合わせた45度分離タイプの光学ローパスフィルタ、あるいは、45度分離タイプに対してさらに光学軸を45度ずらしてもう1枚の水晶板を用いた45度交差タイプの光学ローパスフィルタなどの、反り幅の少なくしかも、所望のフィルタ機能を一体的に構成した光学ローパスフィルタを得ることができる。特に、2枚あるいは3枚の水晶板を貼り合わせて構成する光学ローパスフィルタに有効である。
【0013】
また、第8の発明の電子機器装置は、第6の発明の光学多層膜フィルタが組み込まれたことを特徴とする。
このような電子機器としては、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどの映像装置や、いわゆるカメラ付携帯電話、いわゆるカメラ付携帯型パソコン(パーソナルコンピュータ)などの機器が挙げられる。
【0014】
また、第9の発明の電子機器装置は、第7の発明の光学ローパスフィルタが組み込まれたことを特徴とする。
このような電子機器としては、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどの映像装置や、いわゆるカメラ付携帯電話、いわゆるカメラ付携帯型パソコン(パーソナルコンピュータ)などの機器が挙げられる。
【0015】
また、第10の発明の光学多層膜フィルタの製造方法は、光を透過させるための基板の一方の面に、屈折率を相互に異にする第1の材料と第2の材料を交互に積層する工程と、前記基板の他方の面に誘電体単層膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
上記光学多層膜フィルタの製造方法によれば、従来の光学多層膜フィルタに比べて、反り幅の少ない光学多層膜フィルタを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の光学多層膜フィルタの実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1は、可視波長域の光を透過し、所定波長以下の紫外波長域と所定波長以上の赤外波長域での光の吸収が少ない良好な反射特性を有する光学多層膜フィルタ(UV−IRカットフィルタ)に適用した一実施例である。
図1は、本発明の一実施例を示す光学多層膜フィルタの構成を説明するための断面模式図である。
図2は、光学多層膜フィルタの製造方法を示す図である。
【0018】
図1において、光学多層膜フィルタ1は、光を透過させるための基板のガラス基板2と、ガラス基板2の一方の面に第1の材料の高屈折率材料層と、第2の材料の低屈折率材料層とが、交互に積層された誘電体多層膜3と、ガラス基板2の他方の面に、誘電体からなる1層の薄膜が形成された誘電体単層膜4とで構成されている。
【0019】
ガラス基板2は、白板ガラス(屈折率、n=1.52)で、直径30mm、厚さ0.3mmと0.5mmの2種類を用いた。
誘電体多層膜3の材料は、高屈折率材料層(H)がTiO(n=2.40)、低屈折率材料層(L)がSiO(n=1.46)で構成される。
誘電体多層膜3は、前記ガラス基板2の一方の面(上面)に高屈折率材料のTiO膜3H1が積層され、積層された高屈折率材料のTiO膜3H1の上面に、低屈折率材料のSiO膜3L1が積層され、以下、低屈折率材料のSiO膜3L1の上面に高屈折率材料のTiO膜と低屈折率材料のSiO膜が順次、交互に積層され、誘電体多層膜3の最上膜層は、低屈折率材料のSiO膜3L30が積層されて、各々30層、計60層の誘電体多層膜3を形成している。
【0020】
この誘電体多層膜3の膜構成の詳細を説明する。
以下に説明する膜厚構成の表記は、高屈折率材料層(H)の膜厚を光学膜厚nd=1/4λの値を1Hとして表記し、低屈折率材料層(L)を同様に1Lと表記する。また、(xH、yL)のSの表記は、スタック数と呼ばれる繰り返しの回数で、括弧内の構成を周期的に繰り返すことを表している。
【0021】
誘電体多層膜3の膜厚構成は、設計波長λは550nm、ガラス基板2の上面第1層の高屈折率材料のTiO膜3H1が0.60H、第2層の低屈折率材料のSiO膜3L1が0.20L、以下、順次1.05H、0.37L、(0.68H、0.53L)、0.69H、0.42L、0.59H、1.92L、(1.38H、1.38L)、1.48H、1.52L、1.65H、1.71L、1.54H、1.59L、1.42H、1.58L、1.51H、1.72L、1.84H、1.80L、1.67H、1.77L、(1.87H、1.87L)、1.89H、1.90L、1.90H、最上層の低屈折率材料のSiO膜3L30が0.96Lの、計60層が形成されている。
【0022】
誘電体単層膜4は、前記ガラス基板2の他方の面(下面)に酸化珪素系化合物のSiOからなる単層膜が形成されている。
誘電体単層膜4の膜構成は、前記誘電体多層膜3の膜構成と同様に、低屈折率層(L)の膜厚を光学膜厚nd=1/4λの値を1Lとして表記すると、設計波長λが550nm、膜厚は、12.3Lの1層が形成されている。
【0023】
次に、図2の光学多層膜フィルタの製造方法を示す図、に基づいて実施例1の光学多層膜フィルタの製造方法を説明する。
図2(a)は、ガラス基板2の成膜前の状態を示す。ガラス基板2は、ほぼ反りのない平坦な基板である。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、ガラス基板2の一方の面(上面)に誘電体多層膜3を形成する。
成膜方法は通常の真空蒸着法を用いる。
膜構成は、TiOの高屈折率材料層3H1〜3H30とSiOの低屈折率材料層3L1〜3L30を、前記に示した膜厚構成でガラス基板2の上面に交互に成膜する。
この誘電体多層膜3が形成されたガラス基板2は、低屈折率材料層のSiOの強い圧縮応力と高屈折率材料層のTiOの弱い引張応力により、誘電体多層膜3の成膜された膜面が凸になるように反り幅aの反りが生じた。
【0025】
次に、図2(c)に示すように、ガラス基板2の一方の面(上面)に形成された誘電体多層膜3の他方の面(下面)に、酸化珪素系化合物のSiO(n=1.46)からなる誘電体単層膜4を形成する。
【0026】
成膜方法は、ガラス基板2表面にSiOを蒸着する際に、蒸着するSiOにイオン照射しながら蒸着を行うイオンアシスト法を用いて、成膜される膜の圧縮応力が強く、緻密な誘電体単層膜4を形成する。
成膜装置は、図示しないが、公知の成膜装置のイオンアシスト装置を用いて、ガラス基板2を真空蒸着チャンバ内の成膜用サセプタに取り付けて、真空蒸着チャンバ内の下部に低屈折率材料のSiOを充填したるつぼを配置して、SiOを蒸着すると同時に、電解で加速されたイオンビームをガラス基板へ照射して、活性な状態を維持したまま、ガラス基板2に所望の厚みに成膜する。
【0027】
その結果、誘電体多層膜3の低屈折率材料層の強い圧縮応力、及び高屈折率材料層の弱い引張応力と、誘電体単層膜4の強い圧縮応力とが打ち消し合って、ガラス基板に形成された薄膜全体としては応力が非常に小さくなり、光学多層膜フィルタ1は成膜前同様の平坦度が得られ、反りのほぼないUV−IRカット機能の光学多層膜フィルタが完成する。
【0028】
誘電体単層膜4の厚みの決定方法としては、ガラス基板2及び誘電体多層膜3の各層の材料及び厚さと、誘電体単層膜4の熱膨張率とから、誘電体単層膜4の厚みを決定する。他の方法としては、ガラス基板2に誘電体多層膜3を形成した後に、実際の反り幅を例えば、フラットネステスタにより測定し、この反り幅を元の平坦の状態に戻すための反り防止用の誘電体単層膜4の厚みを決定して成膜する。
【0029】
以上の実施例1におけるガラス基板の反り幅の測定結果を表1に示す。
表1に示すように誘電体多層膜3の形成により増加した反り幅が、次の誘電体単層膜4の形成後に反り幅が減少した。なお、反り幅の測定は、高精度フラットネステスタFT−900((株)ニデック製)を使用した。
【0030】
【表1】



このように、本発明の光学多層膜フィルタ1は、誘電体多層膜3を構成する、低屈折率材料層の強い圧縮応力及び高屈折率材料層の弱い引張応力と、誘電体単層膜4の強い圧縮応力とが打ち消し合って、ガラス基板2に形成された薄膜全体としては応力が非常に小さくなり、反りのほぼない、膜剥離・クラック等の発生が減少したUV−IRカット機能の光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0031】
また、光学多層膜フィルタ1の反りがほぼないため、少なくても1枚の光学多層膜フィルタ1を含む2枚以上のガラス基板を張り合わせて使用する場合には、張り合わせ精度が上がり、特に、樹脂等の変形しやすいものを挟んで使用する場合には、変形量を最小に抑えることが可能である。この光学多層膜フィルタは、例えばCCD(電荷結合素子)などの映像素子の防塵ガラスとして、CCDの入射面に貼り合せて一体的に構成した、UV−IRカットフィルタ機能を含む光学多層膜フィルタに適用することができる。
【0032】
さらに、誘電体単層膜4の屈折率が、ガラス基板2の屈折率の±7%の範囲で、ガラス基板2の屈折率と実質的に同一としてあるため、誘電体多層膜としては、特別な膜設計を施さなくても、従来の設計のものを用いることができる。
なお、ガラス基板2に誘電体単層膜を形成すると、光学多層膜フィルタの透過率には細かなリップルが見られるようになる。このリップルが大きくなると良好な光学特性を得ることができなくなるが、本実施例に於いて、光学多層膜フィルタ1の透過率のリップルは微少な範囲に収まり、良好な光学特性の光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0033】
以上の実施例において、基板は、白板ガラスを用いた場合で説明したが、これに限定せず、BK7、サファイアガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラス、SF3、及びSF7の透明基板であってもよいし、一般に市販されている光学ガラスが使用できる。さらに、水晶であってもよい。
特に、基板が水晶で構成されることにより、反り幅の少ない例えば光学ローパスフィルタとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、例えばUV−IRカットフィルタ及びIRカットフィルタ機能を含む光学多層膜フィルタに適用することができる。
【0034】
また、高屈折率材料層の材料としてTiOを用いた場合で説明したが、Ta、Nbを適用することができる。
また、低屈折率材料層の材料としてSiOを用いた場合で説明したが、MgFを適用することができる。
また、誘電体単層膜4の材料としは、SiOを用いた場合で説明したが、Alを適用することができる。
【0035】
上記製造方法において、ガラス基板2の上面に誘電体多層膜3を先行して成膜し、次に誘電体多層膜3が成膜されたガラス基板2の下面に、誘電体単層膜4を成膜する方法で説明したが、誘電体単層膜4を最初に成膜し、次に誘電体単層膜4が成膜されたガラス基板2の他方の面に、誘電体多層膜3を成膜する方法するであってもよい。
【0036】
また、実施例の誘電体単層膜4の成膜は、成膜装置としてイオンアシスト法の場合で説明したが、イオンアシスト法と同様に成膜が緻密に行われるイオンプレーティング法であっても良い。
【実施例2】
【0037】
以下、本発明の光学多層膜フィルタの第2の実施例を説明する。
この実施例2は、実施例1の基板の材料が水晶からなることのみが異なる。
【0038】
光を透過させるための基板材料は、48mm×43mmの水晶(透過率、n=1.52)、厚さは0.43mmを用いる。基板材料以外についての条件はすべて実施例1と同じにして、UV−IRカットフィルタに適用した一実施例である。
【0039】
誘電体多層膜3が形成された水晶基板は、低屈折率材料層のSiOの強い圧縮応力と高屈折率材料層のTiOの弱い引張応力により、誘電体多層膜の膜面が凸になるように反りが生じた。
次に、水晶基板の一方の面に形成された誘電体多層膜3の他方の面に、酸化珪素系化合物のSiO(n=1.46)からなる誘電体単層膜4を形成する。膜の材料は、SiOを用い、イオンアシスト法で形成した。
その結果、前記誘電体多層膜3の反りと打ち消しあうように誘電体単層膜4の反りが発生するため、誘電体単層膜の形成後に反り幅が減少した。
【0040】
この実施例2における水晶基板の反り幅の測定結果を表2に示す。
なお、反り幅の測定は、高精度フラットネステスタFT−900((株)ニデック製)を使用した。
【0041】
以上のように実施例2の光学多層膜フィルタは、透明基板が水晶板で構成されることにより、反り幅の少ない例えば光学ローパスフィルタとして、しかも、UV−IRカットフィルタ機能を一体的に構成した光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0042】
【表2】



【実施例3】
【0043】
以下、本発明の光学多層膜フィルタの第3の実施例を説明する。
第3の実施例は、可視波長域の光を透過し、所定波長以上の赤外波長域での光の吸収が少ない良好な反射特性を有する光学多層膜フィルタ(IRカットフィルタ)に適用した一実施例である。
【0044】
この第3の実施例は、第1の実施例のガラス基板2の上面に形成された高屈折率材料層3の膜層数及び膜厚構成と、ガラス基板2の下面に形成された低屈折率材料層4の膜厚構成のみが異なる。
【0045】
以下に、実施例3におけるガラス基板の成膜方法を説明する。
ガラス基板2の誘電体多層膜3の成膜は、膜の材料は、高屈折率材料層(H)がTiO、低屈折率材料層(L)がSiO。成膜方法は通常の真空蒸着装置を用いた。
以下に説明する膜厚構成の表記は、実施例1と同様に、高屈折率材料層(H)の膜厚を光学膜厚nd=1/4λの値を1Hとして表記し、低屈折率材料層(L)を同様に1Lと表記する。また、(xH、yL)のSの表記は、スタック数と呼ばれる繰り返しの回数で、括弧内の構成を周期的に繰り返すことを表している。
【0046】
誘電体多層膜3の膜厚構成は、設計波長λは755nm、ガラス基板側から1.14H、1.09L、1.03H、1.01L、(0.99H、0.99L)6、1.02H、1.08L、1.31H、0.18L、1.37H、1.24L、1.27H、1.28L、(1.28H、1.28L)6、1.26H、1.28L、1.25H、0.63Lの40層が形成されている。
【0047】
誘電体多層膜が形成されたガラス基板2は、低屈折率材料層のSiOの強い圧縮応力と高屈折率材料層のTiOの弱い引張応力により、誘電体多層膜3の膜面が凸になるように反りが生じた。
【0048】
次に、ガラス基板2の誘電体単層膜の成膜は、膜の材料は、SiOを用い、イオンアシスト法で形成した。
【0049】
低屈折率層(L)の膜厚を光学膜厚nd=1/4λの値を1Lとして表記すると、膜厚構成は、設計波長λが550nm、ガラス基板仮面に8.2Lの1層とした。
誘電体単層膜4が形成されたガラス基板2は、SiOの強い圧縮応力により、誘電体単層膜4の膜面が凸になるように反りが生ずる。
その結果、前記誘電体多層膜の反りと打ち消しあうように誘電体単層膜の反りが発生するため、誘電体単層膜の形成後に反り幅が減少した。
【0050】
以上の実施例3におけるガラス基板の反り幅の測定結果を表3に示す。
なお、反り幅の測定は、高精度フラットネステスタFT−900((株)ニデック製)を使用した。
【0051】
この光学多層膜フィルタは、例えばCCD(電荷結合素子)などの映像素子の防塵ガラスとして、CCDの入射面に貼り合せて一体的に構成した、IRカットフィルタ機能を含む光学多層膜フィルタに適用することができる。
【0052】
【表3】



【実施例4】
【0053】
以下、本発明の光学多層膜フィルタの第4の実施例を説明する。
この実施例4は、実施例3の基板の材料が水晶からなることのみが異なる。
【0054】
光を透過させるための基板材料は、48mm×43mmの水晶(n=1.52)、厚さは0.43mmを用いる。基板材料以外についての条件はすべて実施例3と同じにして、IRカットフィルタに適用した一実施例である。
【0055】
誘電体多層膜が形成された水晶基板は、低屈折率材料層のSiOの強い圧縮応力と高屈折率材料層のTiOの弱い引張応力により、誘電体多層膜の膜面が凸になるように反りが生じた。
次に、水晶基板の一方の面に形成された誘電体多層膜の他方の面に、酸化珪素系化合物のSiO(n=1.46)からなる誘電体単層膜4を形成する。膜の材料は、SiOを用い、イオンアシスト法で形成した。
その結果、前記誘電体多層膜3の反りと打ち消しあうように誘電体単層膜4の反りが発生するため、誘電体単層膜の形成後に反り幅が減少した。
【0056】
この実施例4における水晶基板の反り幅の測定結果を表4に示す。
なお、反り幅の測定は、高精度フラットネステスタFT−900((株)ニデック製)を使用した。
【0057】
以上のように実施例4の光学多層膜フィルタは、透明基板が水晶板で構成されることにより、例えば光学ローパスフィルタとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、IRカットフィルタ機能を含む光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0058】
【表4】



【実施例5】
【0059】
次に、本発明の光学ローパスフィルタの一実施例を説明する。
この光学ローパスフィルタは、実施例2の光学多層膜フィルタ(UV−IRカットフィルタ)を用いた実施例である。
【0060】
図3は、光学多層膜フィルタ機能を含む光学ローパスフィルタの構造を示す図。
図4は、本発明の光学多層膜フィルタを含む光学ローパスフィルタの光学軸と光線の進行方向について説明する光学ローパスフィルタの模式図であり、光学ローパスフィルタを構成する各層を分解して斜視図により示している。
本実施例の光学ローパスフィルタ9の構造は、図3に示すように、複屈折板としての2つの水晶板10,20と、1/4波長板30を含んで構成されており、2つの水晶板10,20の間に、これも水晶からなる1/4波長板30を挿入した3層構造となっている。
【0061】
水晶版10は、前述の実施例2の、透明基板が水晶からなる光学多層膜フィルタであり、水晶板10の一方の面に誘電体多層膜が形成されて、水晶板10の他方の面に誘電体単層膜が形成されている。これら3層構造を構成する水晶版10と、1/4波長板30と、水晶版20とは、それぞれが貼り合わされて一体構造になっている。
【0062】
次に、図4に基づいて光学ローパスフィルタ9の光学軸と光線の進行方向について説明する。
光入射側に配置される水晶板10は、光入射面と直交し、かつ紙面と平行な面(x−z平面)において、z軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A1により示す方向)に光学軸(光学的主軸)を有している。この水晶板10に入射した光線L1は、水晶板10の有する複屈折性によって、2つの光線L11、L12に分離されて出射する。これらの光線L11、L12は、それぞれ偏向状態が直線偏向に変化して射出する。
【0063】
1/4波長板30は、光入射面(x−y平面)において、x軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A2により示す方向)に光学軸を有している。これにより、1/4波長板30に入射した光線L11、L12は、それぞれ直線偏向から円偏向に偏向状態が変えられ、2つの光線L13、L14となって出射する。
【0064】
光出射側に配置される水晶板20は、光入射面と直交し、かつ紙面と直交する面(y−z平面)において、y軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A3により示す方向)に光学軸を有している。この水晶板20に入射した光線L13は、水晶板20の有する複屈折性によって、2つの光線L15、L16に分離されて出射する。水晶板20に入射した光線L14は、前記水晶板10と同様に、2つの光線L17、L18に分離されて出射する。これらの光線L15、L16、L17、L18は、それぞれ偏向状態が直線偏向に変化して出射する。
【0065】
このように構成された、光学ローパスフィルタ9は所望のフィルタ機能を一体的に構成した、UV−IRカットフィルタ機能を含む光学ローパスフィルタを得ることができる。特に、実施例に示したように、構成する水晶板がそれぞれが貼り合わされて一体構造になっている構成において、反りの少ない、光学的歪を防止した光学ローパスフィルタを提供することができる。
【実施例6】
【0066】
次に、実施例3の光学多層膜フィルタを含んで構成される電子機器装置について説明する。
実施例は、電子機器装置として、例えば、静止画の撮影を行うデジタルスチルカメラの映像装置に適用した一実施例である。
図5は、本発明の電子機器の一構成例を示す説明図であり、撮像モジュールと、この撮像モジュールを含む撮像装置の構成例を示す。
【0067】
図5に示す撮像モジュール100は、光学ローパスフィルタ110と、光学多層膜フィルタ120と、光学像を電気的に変換する撮像素子のCCD(電荷結合素子)130と、この撮像素子130を駆動する駆動部140を含んで構成されている。
光学多層膜フィルタ120は、本発明の実施例3において説明した、ガラス基板2と、ガラス基板2の一方の面に高屈折率材料層と低屈折率材料層とが交互に積層された誘電体多層膜3と、透明基板2の他方の面に誘電体の1層の薄膜が形成された誘電体単層膜4とで構成され、IRカットフィルタ機能を有する光学多層膜フィルタである。この光学多層膜フィルタ120は、前記CCD130の前面に、CCD130と貼り合わされて一体的に構成され、CCD130の防塵ガラス機能を併せて有している。
【0068】
この撮像モジュール100と、光入射側に配置されるレンズ200と、撮像モジュール100から出力される撮像信号の記録・再生等を行う本体部300を含んで、撮像装置を構成することができる。なお、図示しないが、本体部300は、撮像信号の補正等を行う信号処理部と、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部と、この撮像信号を再生する再生部と、再生された映像を表示する表示部などの構成要素が含まれる。
【0069】
このように構成されたデジタルスチルカメラは、CCD130と防塵ガラス機能とIRカットフィルタ機能を一体的に構成された光学多層膜フィルタ120の搭載により、貼り合せ制度が良い、良好な光学特性のデジタルスチルカメラを提供することができる。
【0070】
なお、実施例の映像モジュール100は、レンズ200を分離して配置した構造で説明したが、レンズ200も含めて撮像モジュールが構成されていてもよい。
【実施例7】
【0071】
次に実施例5の光学ローパスフィルタを含んで構成される電子機器装置について説明する。
実施例は、電子機器装置として、例えば、静止画の撮影を行うデジタルスチルカメラの映像装置に適用した一実施例である。
図6は、本発明の別の電子機器の一構成例を示す説明図であり、撮像モジュールとこの撮像モジュールを含む撮像装置の構成例を示す。
【0072】
図6に示す撮像モジュール101は、前述の実施例5の光学ローパスフィルタ111と、光学像を電気的に変換する撮像素子のCCD131と、このCCD131を駆動する駆動部141を含んで構成されている。
この撮像モジュール101と、光入射側に配置されるレンズ201と、撮像モジュール101から出力される撮像信号の記録・再生等を行う本体部301を含んで、撮像装置を構成している。なお、図示しないが、本体部301には、撮像信号の補正等を行う信号処理部と、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部、および、この撮像信号を再生する再生部と、再生された映像を表示する表示部などの構成要素が含まれる。
【0073】
このように構成された、電子機器装置としてのデジタルスチルカメラは、本発明の反りの少ない、光学的歪を防止した光学ローパスフィルタの搭載により、確実な光学擬似信号(モアレ)の除去された鮮明な画像を表示するデジタルスチルカメラを提供することができる。
【0074】
なお、実施例の映像モジュール101は、レンズ201を分離して配置した構造で説明したが、レンズ201も含めて撮像モジュールが構成されていてもよい。
また、実施例は、電子機器装置として、デジタルスチルカメラの場合で説明したが、動画の撮影を行うデジタルカメラの映像装置や、これ以外にも、いわゆるカメラ付き携帯電話や、カメラ付携帯パソコン(パーソナルコンピュータ)などの電子機器においても、本発明にかかる光学ローパスフィルタを用いて撮像部を構成することが可能である。
【0075】
以上のように本発明によれば、基板の一方の面に形成された誘電体多層膜による前記基板の応力を、前記基板の他方の面に形成された誘電体単層膜の応力により平坦化し、所望の誘電体多層膜を積層した前記基板の反り幅を、従来の光学多層膜フィルタに比較して低減した光学多層膜フィルタを得ることができる。
また、本発明の光学多層膜フィルタの製造方法によれば、従来の光学多層膜フィルタに比べて、反り幅の少ない光学多層膜フィルタを容易に製造することができる。
【0076】
また、本発明の光学ローパスフィルタは、所望のフィルタ機能を一体的に構成した、反りの少ない、光学的歪を防止した光学ローパスフィルタを提供することができる。
また、本発明の電子機器装置は、例えば、反りの少ない光学ローパスフィルタの搭載により、確実な光学擬似信号の除去された鮮明な画像を表示するデジタルスチルカメラ及び防塵ガラス機能とIRカットフィルタ機能を一体的に構成された貼り合せ精度が良い、良好な光学特性のデジタルスチルカメラ等の電子機器装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の光学多層膜フィルタの構成を説明するための断面模式図。
【図2】本発明の光学多層膜フィルタの薄膜を形成する際のガラス基板の反りの状態を示す概略説明図。
【図3】本発明の光学ローパスフィルタの構造を示す図。
【図4】本発明の光学ローパスフィルタの光学軸と光線の進行方向について説明する光学ローパスフィルタの模式図。
【図5】本発明の電子機器の一構成例を示す説明図。
【図6】本発明の別の電子機器の一構成例を示す説明図。
【符号の説明】
【0078】
1.120.光学多層膜フィルタ、
2.ガラス基板、3.誘電体多層膜、
4.誘電体単層膜、
9.110.111.光学ローパスフィルタ、
10.20.水晶、
30.1/4波長板、
100.101.撮像モジュール、
130.131.撮像素子、
200.201.レンズ、
300.301.本体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過させるための基板と、前記基板の一方の面に、屈折率を相互に異にする第1の材料と第2の材料を交互に積層された誘電体多層膜と、
前記基板の他方の面に形成された誘電体単層膜とを含むことを特徴とする光学多層膜フィルタ。
【請求項2】
前記誘電体単層膜の屈折率は、前記基板の屈折率と実質的に同一であることを特徴とする請求項1に記載の光学多層膜フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体単層膜は、酸化珪素系化合物で形成されていることを特徴とする請求項1及び2の何れか一項に記載の光学多層膜フィルタ。
【請求項4】
前記誘電体多層膜は、UV−IRカット膜、または、IRカット膜であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の光学多層膜フィルタ。
【請求項5】
前記光を透過させるための基板は、水晶板であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の光学多層膜フィルタ。
【請求項6】
前記光を透過させるための基板は、ガラス板であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の光学多層膜フィルタ。
【請求項7】
請求項5に記載の光学多層膜フィルタを、少なくとも一つ以上具えた光学ローパスフィルタ。
【請求項8】
請求項6に記載の光学多層膜フィルタが組み込まれた電子機器装置。
【請求項9】
請求項7に記載の光学ローパスフィルタが組み込まれた電子機器装置。
【請求項10】
光を透過させるための基板の一方の面に、屈折率を相互に異にする第1の材料と第2の材料を交互に積層する工程と、
前記基板の他方の面に誘電体単層膜を形成する工程とを含むことを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2005−43755(P2005−43755A)
【公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−279146(P2003−279146)
【出願日】平成15年7月24日(2003.7.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】