説明

光学式エンコーダ

【課題】樹脂封止されたエンコーダの迷光によるエンコーダ信号の劣化や外部への影響を低減することができる光学式エンコーダを提供すること。
【解決手段】相対的に移動する固定体と移動体のいずれか一方に取り付けられた検出ヘッドと、検出ヘッドに対向して、固定体と移動体の他方に取り付けられ、所定ピッチの光学パタンを有する第2格子71が設けられたスケール7とを備えた光学式エンコーダであって、検出ヘッドは、スケール7に所定の光を照射するLED2と、LED2からの光を透過する光透過部材3と、光検出素子が所定のピッチで複数形成された光検出部4とを有し、光透過部材3には、所定ピッチの光学パタンを有する第1格子31と、LED2からスケール7の第2格子71へ至る光を絞るための開口絞り32と、が形成されており、LED2からの光を光透過部材3を介してスケール7に照射した後、スケール7の第2格子71により反射または回折した光が光検出部4の光検出素子上に形成するイメージの動きを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式エンコーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学式エンコーダのヘッド形状に関して、カンパッケージタイプの光源や受光素子をベアチップタイプや面実装タイプの物に置き換えたり、クリアモールド樹脂で封止したりするなど、エンコーダの小型化、低コスト化が進んでいる。
【0003】
この際、クリアモールド樹脂のような光透過性部材で発光素子を覆うように封止したり、さらには、発光素子と受光素子も一体に封止したりすることが行われている。
【0004】
例えば、図10に示す特開平6−221874の例では、発光素子8と光検出素子12がエポキシ樹脂等でできた透明カプセル2で覆われており、透明カプセル2の表面には、2重レンズ40、42が形成されている。発光素子8からの光は反射領域30と非反射領域32とを有するコードホイール34に直接照射され、その反射光が光検出素子12により検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−221874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クリアモールド樹脂のような光透過性部材で発光素子を覆うように封止すると、発光素子から出た光の内、検出に寄与しない光が光透過性部材表面から外へ漏れたり、光透過性部材の表面内部で反射してエンコーダヘッド内に照射されたり、最終的に外部への漏れ光となる。こうした樹脂内部での反射光や漏れ光は、迷光として発光素子やその周囲に実装する部材へ照射されたり、受光素子へ検出すべきでない光となって入射したり、外部へ放射されたりする。
【0007】
特に、クリアモールド樹脂のような光透過性部材で発光素子と受光素子を一体で覆うように封止すると、発光素子から出た光の一部が光透過性部材の表面内部で反射して受光素子へ直接入射するようになる。
【0008】
特開平6−221874では、2重レンズ40と42を含む表面、特に2重レンズ40と42で挟まれた部分で、発光素子から出た光が内部反射して光検出素子12へ入射する可能性がある。
【0009】
こうした光透過性部材内部での反射光や漏れ光といった迷光が発光素子やその周囲に実装する部材へ照射されたり、受光素子へ検出すべきでない光となって入射したりすることで、発光や受光や信号処理等に問題が生じる可能性がある。
【0010】
この内、受光素子へ入った光は信号のSN比を劣化し、検出されるエンコーダ信号が劣化してしまう。特に、発光素子と受光素子を一体に光透過性部材、例えば、樹脂、で封止して、樹脂内面での反射光が直接受光部に入る光路ができると信号のSN比を劣化させる要因となりうる。樹脂厚が薄く、内部反射光の樹脂内部表面への入射角が大きく、全反射角に近い、または、それ以上の角度であると、光は樹脂表面でほとんど透過せず、反射するため、内部反射光の検出レベルが極めて大きくなり、精度の良いエンコーダ信号検出が困難となる。
【0011】
また、外部への漏れ光も周囲に不要な光を発散したり、光学機器等に悪影響を与えたりする。
【0012】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであり、樹脂封止されたエンコーダの迷光によるエンコーダ信号の劣化や外部への影響を低減することができる光学式エンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る光学式エンコーダは、相対的に移動する固定体と移動体のいずれか一方に取り付けられた検出ヘッドと、前記検出ヘッドに対向して、前記固定体と移動体の他方に取り付けられ、所定ピッチの光学パタンを有する第2格子が設けられたスケールとを備えた光学式エンコーダであって、前記検出ヘッドは、前記スケールに所定の光を照射する発光部と、前記発光部からの光を透過する光透過部材と、光検出素子が所定のピッチで複数形成された光検出部とを有し、前記光透過部材には、所定ピッチの光学パタンを有する第1格子と、前記発光部から前記スケールの第2格子へ至る光を絞るための開口絞りとが形成されており、前記発光部からの光を前記光透過部材を介して前記スケールに照射した後、前記スケールの第2格子により反射または回折した光が前記光検出部の光検出素子上に形成するイメージの動きを検出する。
【0014】
また、本発明の第2の態様に係る光学式エンコーダは、相対的に移動する固定体と移動体のいずれか一方に取り付けられた検出ヘッドと、前記検出ヘッドに対向して、前記固定体と移動体の他方に取り付けられ、所定ピッチの光学パタンを有する第2格子が設けられたスケールとを備えた光学式エンコーダであって、前記検出ヘッドは、前記スケールに所定の光を照射する発光部と、前記発光部からの光を透過する光透過部材と、所定ピッチの光学パタンを有する第3格子が形成された光検出部とを有し、前記光透過部材には、所定ピッチの光学パタンを有する第1格子と、前記発光部から前記スケールの第2格子へ至る光を絞るための開口絞りとが形成されており、前記発光部からの光を前記光透過部材を介して前記スケールに照射した後、前記スケールの第2格子により反射または回折した光が前記光検出部の第3格子上に形成するイメージの動きを検出する。
【0015】
また、本発明の第3の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記第1格子は、前記光透過部材の発光部側と前記スケール側のいずれか一方の面に形成され、前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の他方の面に形成される。
【0016】
また、本発明の第4の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記第1格子は、前記光透過部材の発光部側の面に形成され、前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の前記スケール側の面に形成される。
【0017】
また、本発明の第5の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記第1格子のパタンは、前記開口絞りを兼ねる。
【0018】
また、本発明の第6の態様に係る光学式エンコーダは、第5の態様において、前記第1格子のパタンは、前記光透過部材の発光部側と前記スケール側のいずれか一方の面に前記開口絞りを兼ねて形成され、前記光透過部材の他方の面に第2の開口絞りのパタンが形成される。
【0019】
また、本発明の第7の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記光透過部材を、前記発光部の前記スケール側の面に直接実装する。
【0020】
また、本発明の第8の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記光透過部材を、前記光検出部の前記スケール側の面に直接実装する。
【0021】
また、本発明の第9の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記開口絞りのパタンは円形または少なくとも一部が円弧状である。
【0022】
また、本発明の第10の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記光透過部材の側面の少なくとも一部に光伝達抑制部を有する。
【0023】
また、本発明の第11の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の前記スケール側の面に形成される。
【0024】
また、本発明の第12の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の発光部側の面に形成される。
【0025】
また、本発明の第13の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記光学式エンコーダは反射型である。
【0026】
また、本発明の第14の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記発光部と、前記光検出部の前記スケール側の面とが、それぞれ第2の光透過部材により全体的かつ一体的に覆われる。
【0027】
また、本発明の第15の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記発光部と、前記光検出部の前記スケール側の面とは、それぞれ第2の光透過部材により全体的かつ一体的に覆われるとともに、前記第2の光透過部材の上面は略平坦であり、屈折率を前記第2の光透過部材に換算した距離について、前記発光部から前記第2の光透過部材の表面までの換算距離をt1、前記光検出部から前記第2の光透過部材の表面までの換算距離をt2、前記発光部上の位置と、前記光検出部上の位置との間で最も遠くなる位置間の距離のうち前記スケールの表面に平行な方向の成分をL、 外界の屈折率をn1、前記光透過部材の屈折率をn2とそれぞれしたときに、ArcTan[L/(t1+t2)]≧ArcSin(n1/n2)を満足する。
【0028】
また、本発明の第16の態様に係る光学式エンコーダは、第1または第2の態様において、前記光透過部材が、前記光検出部側へ延びている。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、樹脂封止されたエンコーダの迷光によるエンコーダ信号の劣化や外部への影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る光学式エンコーダの斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係る光学式エンコーダの断面図である。
【図3】図3は、開口絞りの開口形状の変形例を示す図である。
【図4】図4は、第1実施形態の第3変形例に係る光透過部材の構成を示す図である。
【図5】図5は、第1実施形態の第4変形例に係る光透過部材の構成を示す図である。
【図6】図6は、第1実施形態の第5変形例に係る光透過部材の構成を示す図である。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係る光学式エンコーダの斜視図である。
【図8】図8は、本発明の第2実施形態に係る光学式エンコーダの断面図である。
【図9】図9は、第2実施形態の変形例に係る光学式エンコーダの構成を示す図である。
【図10】図10は、従来例に係る光学式エンコーダの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
以下に、本発明にかかる光学式エンコーダの第1実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、以下の実施形態においては、検出ヘッドとリニアタイプのスケールとの組合せを例に挙げているが、円盤状のスケールや円筒側面に形成されたスケール等にも適用可能である。リニアタイプのスケールを用いない場合には、変位検出に関わる光源からの光が照射されるスケール上の光学パタン部分を微視的に平板であり、かつ、光学パタンは微視的に所定のピッチを持つものと考え、この所定のピッチを持つ光学パタンを有する平板、または、仮想的にこの平板を拡張したものに対して、本発明が適用可能である。
【0032】
以下、第1実施形態の光学式エンコーダについて説明する。
【0033】
[構成]
図1は光学式エンコーダ(以下、単にエンコーダと呼ぶ)の斜視図であり、図2は光学式エンコーダの断面図である。また、以下、全ての実施形態において図中に示すようにxyzの直交座標系を設定するものとする。図1において、エンコーダは、大きく分けて基板1と、ベアチップであるベアLED(以下、単にLEDと呼ぶ)2と、光透過部材3と、ピッチpが3/4のPDアレイ41を有する光検出器4と、光透過性樹脂6と、ピッチp2の第2格子71を有するスケール7と、の6つの部分からなる。図1において、光透過部材3は発光部としてのLED2のスケール7側の面に直接実装されている。
【0034】
基板1と、基板1上に配置されたLED2と、LED2上にx、y方向にはみ出して配置された光透過部材3と、基板1上に配置された光検出器4とは検出ヘッドとして一体に構成されている。この検出ヘッドの上部は屈折率nの光透過性樹脂6により全体的かつ一体的に覆われている、すなわち光透過性樹脂6内に埋め込まれている。
【0035】
光透過部材3は、LED2側の面にはピッチp1の第1格子31を有し、スケール7側の面には半径がRの円形の開口絞り32を有する。また、光透過部材3の光検出器4側の側面は光伝達抑制部材により遮光されている。開口絞り32の半径Rは幾つかの条件によって決められる。1つ目の条件は、LED2から出て光透過性樹脂6の内部表面で反射して光検出器4に直接入射する光を遮ることを可能とすることである。2つ目の条件は、光透過性樹脂6の内部表面への入射角が概ね全反射角で入射して反射する光を遮ることを可能とすることである。3つ目の条件は、エンコーダ信号の検出に全く、または、ほとんど寄与しない光を遮ることを可能とすることである。これらの条件の内、1つの目の直接入射光を遮ることが最も優先されるべき条件であるが、その上で、条件を組み合わせて開口形状を決定すればよい。なお、開口絞り32がエンコーダ信号の検出に寄与する信号までも遮る可能性がある場合には、エンコーダ信号の信号強度やSN比に基づいて開口形状を決定すればよい。
【0036】
図3の(A)は、開口絞り32の開口形状の変形例を示している。LED2に近い左側は円弧状のままになっている。一方、開口形状の右側は、検出に寄与しない光を遮断するようにコの字状になっている。コの字の縦の直線部分は、PDアレイ41の受光面まで届かない光を遮断するように形成されている。また、コの字の上下の直線部分は、PDアレイ41のX方向の脇へそれてしまう光を遮断するように形成されている。
【0037】
また、上記したように、光透過部材3の光検出器4側の側面は遮光されているが、これは開口絞り32によって遮ることのできない光や開口絞り32で反射して戻る光を遮光するためのものであり、上記1〜3の条件のうち、必要と思われる条件を満たしていれば必ずしも必要はない。もしくは、さらに他の側面も遮光してもよい。
【0038】
PDアレイ41はピッチp3の第3格子と受光素子を組み合わせたものであり、本実施形態では90°位相差の4信号を得るために各信号用のPDアレイ要素のピッチがp3となるように、出力が4つのPDアレイ要素ごとに電気的に接続されている。
【0039】
また、第1格子31と第2格子とPDアレイ41の受光面は図中x方向の向きに互いに平行に配置されている。樹脂上部の面については、少なくともLED2からの光がスケール7で反射されて光検出器4に入射する際に通過する部分は平坦で3つの格子と平行に形成されている。スケール7は第2格子71が第1格子31とPDアレイ41の受光面に平行になるようにx方向にのみ相対的に変位が可能となっている。
【0040】
さらに、基板1と、LED2と、光透過部材3と、光検出器4とは平行平板状になっている。これらの厚み公差は±20μm程度以下となっており、図1、図2に示すように基板1の上に順次直接貼り付けられている。これらの部材の接着固定に用いる接着剤の厚みムラについても、±10μm程度以下となっている。また、光透過性樹脂6の上面もほぼ平坦な形状となっている。
【0041】
光透過部材3において、第1格子31は光透過部材3の片側の面ほぼ全面にパターニングされている。すなわち、図1では、光透過部材3のLED2側の面に第1格子31が形成されるとともに、光透過部材3のスケール7側の面に開口絞り32が形成されている。なお、光透過部材3のスケール7側の面に第1格子を形成し、光透過部材3のLED2側の面に開口絞りを形成するようにしても良い。
【0042】
電気的な配線に関して、LED2と光検出器4とが基板1と電気的に接続されており、LED2と光検出器4の動作を可能としている。LED2の上面及び下面に電極13、11が形成されており、上面の電極13と基板1上の電極11を導電ワイヤ8にて接続し、下面の電極11と基板1の電極間は導電ペーストにて接続している。光検出器4と基板1との間にも導電ワイヤでの接続があるが、ここでは詳細は省略する。
【0043】
(原理説明)
ここで、3重格子型エンコーダの動作について式を参照して説明する。PDアレイは3重格子型エンコーダにおける第3格子と受光素子とを一体化したものであり、以下では適宜PDアレイの受光面を第3格子とよぶ。
【0044】
第1格子と第2格子の光学的な距離をz1、第2格子と第3格子の光学的な距離をz2、第1格子のピッチをp1、第2格子のピッチをp2、第3格子のピッチをp3、光源の波長をλとしたときの以下の条件式(式1、式2)を満たすときに第3格子上にピッチp3iの周期を持つ干渉パタンが形成されることが知られている。なお、ここで用いている「光学的な距離」の定義については、後述する式4、式5に示す。
【数1】

【0045】
干渉パタンのピッチp3iは以下の通りである。
【数2】

【0046】
第3格子のピッチp3を干渉パタンのピッチp3iに合致させれば、最適な信号検出が行える。
【数3】

【0047】
本実施形態では、式1〜式3を満足し、エンコーダ信号が得られるように部材寸法の決定や部材の配置が行われている。なお、ここで表記されている距離は全て光学的な距離である。光路が全て大気中の場合にはそのまま実際の距離を用いて良いが、通常、検出ヘッドはパッケージに入れられることが多く、ガラスや光透過樹脂の中を光が通ることがある。この場合、光学的な距離とは、光路の構成する空間、または、物質ごとに実際の長さを個々の屈折率で割ったものの総和とする。
【0048】
即ち、第1格子、第2格子間のi(自然数)番目の物質、または、空間の屈折率ni、厚みtiとし、第2格子、第3格子間のj(自然数)番目の物質の屈折率nj、厚みtjとしたときに、第1格子、第2格子間の光学的な距離をΣti/ni、第2格子・第3格子間の光学的な距離をΣtj/njとする。
【数4】

【0049】
ここで、第1格子、第2格子間、および、第2格子、第3格子(PDアレイの受光面)間に介在する物質、または、空間の厚みと屈折率を説明する。
【0050】
第1格子、第2格子間においては、光透過基板の屈折率がn1、厚みがt1、光透過樹脂の屈折率がn2、厚みがt2、ヘッド−スケール間の空気の屈折率がn3、厚みがt3である。
【0051】
第2格子、第3格子間においては、ヘッド−スケール間の空気の屈折率がn3、厚みがt3、光透過樹脂の屈折率がn2、厚みがt5である。
【0052】
光透過基板の屈折率は約1.5、光透過樹脂の屈折率は約1.5、空気の屈折率はほぼ1である。光透過基板、光透過樹脂の屈折率は、比較的入手しやすい部材の屈折率を適用しているが、これ以外の値をとっても良い。
【0053】
以上の設定において、各格子間の光学的な距離z1とz2は、式4、式5を用いてz1とz2は以下のように表される。
【0054】
z1=t1/n1+t2/n2+t3/n3
z2=t5/n2+t3/n3
本実施例では、以下の式が成り立つような構成となっている。
【0055】
z1=z2 (式6)
p1=p3 (式7)
式2・式3・式6・式7より、各格子のピッチについては以下の関係が成り立つ。
【0056】
p1=p3=2×p2
(以上、原理説明)
次に、エンコーダヘッドの厚みについて説明する。LED2の発光面から光透過性樹脂6表面間においては、光透過部材3の屈折率がn1、厚みがt1、光透過性樹脂6の屈折率がn2、厚みがt2である。光透過性樹脂6表面からPDアレイ41間においては、光透過性樹脂6の屈折率がn2、厚みがt5である。なお、ヘッド−スケール間の空気の屈折率はn3である。
【0057】
屈折率を光透過性樹脂6に換算して、LED2の発光面から光透過性樹脂6表面間の距離d1と光透過性樹脂6表面からPDアレイ41間の距離d2を以下のように定義する。
【0058】
d1=t1・n2/n1+t2 (式8)
d2=t5 (式9)
また、光源としてのLED2からPDアレイ41の光が入射する部分までのスケール7に平行な方向の距離をLとする。すると、光透過性樹脂6表面での反射角θは、以下の式で表される。
【0059】
tanθ=L/(d1+d2) (式10)
また、光透過性樹脂6表面での全反射角θcは以下の式で表される。
【0060】
sinθc=n3/n2 (式11)
本実施形態では、樹脂厚を小型化のために薄くしている。そのため、少なくとも、PDアレイ41の受光エリア内で発光部から一番遠くなる位置でのL、即ち、一番大きくなるLに対して、以下の式12が成り立つように設定されている。即ち、光透過性樹脂6表面で内部反射すると仮定すると、少なくとも反射光の一部が全反射光となってPDアレイ41の受光エリアに到達するような構造となっている。
【0061】
θ>θc (式12)
以上の式8〜式12より、以下の式13が成り立つ。
【0062】
arctan[L/(d1+d2)]>arcsin(n3/n2) (式13)
なお、この発明の実施の形態の各構成要素については、各種の変形、置き換えが可能である。光源にはLEDの例を示したが、面発光レーザ等、回折イメージが形成可能なものであれば、ベアチップタイプでもモールドタイプでもカン封止したタイプでもよい。第1格子を有する光透過部材3の素材としてガラスが一般的であるが、PETやポリイミド等の樹脂を用いてもよい。第3格子は検出位相の異なる4つの種類のアレイ要素を組み合わせて受光部に用いた例を示したが、必要とする出力信号数によって、2つ、または、1つの種類のアレイ要素を用いたタイプであってもよい。
【0063】
本実施形態の構成は相対移動量を検出するものであるが、検出ヘッドおよびスケール上に基準位置検出用の部材、特に、光源・検出部・光学パタンなどを追加して配置することも可能である。
【0064】
さらに、本実施形態の第1から第3までの格子、または、この一部を複数配置することで、同一方向の変位を複数の検出系で検出、または、直交する複数の方向の変位を同時に検出する構成にすることも可能である。
【0065】
[作用]
以下に、上記した構成の作用を説明する。光源であるLED2から光が出射され、この光は光透過部材3に形成された第1格子31を通り、スケール7上の第2回折格子71に照射される。さらに光は第2回折格子71で反射、回折され、PDアレイ41(第3格子)上に第2回折格子71の回折イメージが形成される。この回折イメージは第2回折格子71を2倍に拡大した像であり、回折イメージの光はPDアレイ41を通して光検出器4で検出される。スケール7が 検出ヘッドに対してx方向に相対移動すると、この回折イメージが第3格子上でx方向に移動するため、光検出器4からは周期的な疑似正弦波信号が得られる。
【0066】
光検出器4からは90°位相差の4つの信号が得られる。必要に応じて2組の180°位相差の信号ごとに差分を取り、90°位相差の2信号が得ることができる。LED2から出射され、光透過部材3の第1格子31を経た後、光透過部材3の上面に到達する光は開口絞り32によって、光検出器4へ内部反射光は直接入らない。また、開口絞り32の形状によっては、光透過性樹脂6の表面での全反射光、もしくは、全反射に近い光をほほ遮ることが出来たり、エンコーダ信号の検出に寄与しない光を遮ることが出来たりする。
【0067】
特に、開口絞り32の形状を円形、もしくは、一部を円弧状とすることで、絞られた光に関して、光透過性樹脂6へ到達する光の入射角を一定値以下に制限できる。
【0068】
さらに、光透過部材3の光検出器4側の側面が遮光されていることによって、光透過部材3の側面を通って光検出器4へ直接入る内部反射光を遮ることが出来る。側面遮光をさらに全周に設けたり、特定の部分に設けたりすることで、光透過性樹脂6内部での迷光、さらには、特定の方向への迷光を低減することができる。
【0069】
[効果]
上記した第1実施形態では、開口絞り32によって光透過性樹脂6内部での反射光が光検出器4への直接入射しないようにしている。このことにより、検出されるエンコーダ信号におけるノイズ成分を低減できる。このことがSN比向上につながり、安定した信号検出が可能となる。
【0070】
第1格子31を形成している光透過部材3に開口絞り32を設けているため、余分な部材を設ける必要がなく効率的である。特に、光源としてのLED2から光検出器4に至る光路において、光が拡がる前のLED2に近い部材(ここでは光透過部材3)に開口絞り32を設けることで、開口絞り32の形成に必要なエリアが小さくて済み、小型化にも有利である。
【0071】
光透過部材3を光源であるLED2の表面に直接実装することで、開口絞り32の形成に必要なエリアがより小さくて済み、光透過部材3のサイズも小さくてよくなる。また、LED2との間に何も介在せず、実装時の位置ずれも小さくでき、開口絞り32も第1格子31も機能を発揮しやすい。
【0072】
以下に、光透過部材3のLED2側に第1格子31、スケール7側に開口絞り32を設けた場合の効果について説明する。第1格子31から第2格子71までの光学的な距離と、第2格子71から第3格子までの距離が等しいことから、光透過部材3のスケール7側に第1格子31を設けた場合と比較して光透過部材3の厚みの分だけPDアレイ41の高さを低くでき、全体の厚みを薄くできると共に、段差が小さいことから光検出器4からのワイヤ配線が容易となる。
【0073】
また、第1格子31を光源としてのLED2に近いところに配置出来るので、第1格子31の形成に必要な面積が小さくて済み、光透過部材3の小型化につながる。
【0074】
一方、開口絞り32を光透過部材3の上面であるスケール7側に配置することで、光透過部材3の光源(LED2)側に開口絞り32を配置した場合と比較して、光透過部材3の実装ずれによる開口絞り32の位置の変動によって、開口絞り32の機能の変動が少ないという利点がある。例えば、開口絞り32が光検出器4側へ近づくように移動すると、内部反射光がPDアレイ41に入りやすくなり、開口絞り32が光検出器4側から遠ざかるように移動すると、エンコーダ信号検出に必要な光までも遮ってしまい信号レベルの低下を招きやすい。開口絞り32を光透過部材3の上面であるスケール7側に配置すると、光源としてのLED2から遠い位置では光が拡がっているため、開口絞り32の同じ位置変動量に対する影響が少なくて済む。なお、第1格子31は光透過部材3のLED2側全面にあり、位置変動の影響は受けにくい構造である。
【0075】
また、開口絞り32の形状を円形、もしくは、一部を円弧状とすることで、絞られた光に関して、光透過性樹脂6へ到達する光の入射角を一定値以下に制限できる。そのため、光透過性樹脂6表面での反射によって光検出器4へ直接入る内部反射光を含む光透過性樹脂6内部での迷光がSN比を劣化させたり、エンコーダ検出ヘッド外部へ漏れたりすることを抑制できる。
【0076】
開口絞り32の形状をエンコーダ信号の検出に全くまたはほとんど寄与しない光を遮るようにして設定している場合には、特に外部への迷光を抑制できる。
【0077】
光透過部材3の側面に遮光を施すことで、開口絞り32の効果と相まって迷光防止の効果をより向上させている。
【0078】
本実施形態のエンコーダは反射型であるが、反射型のエンコーダはスケール7の片側に発光部と受光部を配置できるため、透過型に比べて薄型化が可能である。開口絞り32を用いることで、光透過性樹脂6表面で反射する内部反射光やその他の迷光の影響を防止、または、低減出来るため、例えば光透過性樹脂6の厚みをより薄くできる可能性があり、薄型化・小型化にとって有利な形態である。
【0079】
なお、本実施形態では、エンコーダヘッドの光学部材・電気配線を樹脂で封止している。樹脂封止は、樹脂封止がない場合に比べて信頼性の点で向上することは勿論であるが、低コスト・量産性に向いた材料である。開口絞り32による迷光防止によって安定した出力を得ることが可能となる。特に、樹脂封止した反射型エンコーダでは内部反射光が直接受光部に入るという問題が起こりやすいが、開口絞り32が有効な解決手段と成りうる。そのため、樹脂封止と開口絞りの組合せは低コスト・量産性にとって有利な形態であると言える。
【0080】
さらに、樹脂封止と開口絞り32の組合せによって、樹脂厚みを薄くすることが可能である。樹脂が厚いと製造時・使用時の温度変化によって大きな内部応力が働き、基板の反り、樹脂クラック、実装部品の歪みなどが生じる。そのため、反りによる製造時のハンドリングのしにくさやエンコーダを組み込む際の位置や姿勢のずれが生じたり、エンコーダの特性や信頼性に悪影響を与えたりする可能性がある。開口絞りを用いて樹脂厚の薄型化を図ることで、こうした問題にも対応しうる。本実施形態では、PDアレイ41の受光エリア内で発光部から一番遠くなる位置でのL、即ち、一番大きくなるLに対して、θ>θcとなるように設定されている。そのため、光透過部材3の開口絞り32と、光透過部材3のPDアレイ41側側面の遮光が無ければ、光透過性樹脂6表面での全反射光が少なくともPDアレイ41の一部に入射する構造となっている。しかし、開口絞り32と側面遮光により、全反射光の影響を受けない、または、少なくとも全反射光の影響が抑制されている。このことにより、薄型にも関わらず、安定した検出が可能となっている。
【0081】
(第1実施形態の第1変形例)
[構成]
以下に、上記した第1実施形態の第1変形例について説明する。図3の(B)は、第1変形例に係る光透過部材3の構成を示している。この部品以外の構成は、第1実施形態と同じである。第1変形例では、光透過部材3のLED2側の面に配置された第1格子31のパタンが開口絞り32−1の機能を兼ねており、光透過部材3のスケール7側の面には何もパターニングはされていない。また、光検出器4側の側面は遮光されている。
【0082】
開口絞り32の形状は、半径Rの円形である。Rのサイズは第1実施形態とは大きさが異なるが、設定の方法は第1実施形態と同様に上記1〜3の条件に基づいて決定される。開口絞り32の形状は円形のみならず、第1実施形態と同様に種々の変更が可能である。
【0083】
[作用・効果]
基本的には第1実施形態と同様である。第1格子31のパタンと開口絞り32−1のパタンとを一体化していることにより、スケール7側の面へのパターニングが不要となる。また、光透過部材3のLED2側の面に開口絞り32のパタンを配置することで、開口絞り32のパタンがよりLED2に近づく。そのため、開口絞り32−1のパタンのサイズを最も小さくすることが可能である。特に、実装精度が高い場合には有効である。
【0084】
(第1実施形態の第2変形例)
[構成]
以下に、上記した第1実施形態の第2変形例について説明する。図3の(C)は、第2変形例に係る光透過部材3の構成を示している。この部品以外の構成は、第1実施形態と同じである。図3の(C)では、光透過部材3のLED2側の面に配置された第1格子31のパタンに開口絞り32−1の機能を付加するとともに、光透過部材3のスケール7側の面にも2つ目の開口絞り32−2を配置している。なお、光透過部材3のスケール7側の面に開口絞りの機能をもつ第1格子のパタンを配置し、光透過部材3のLED2側の面に2つ目の開口絞りを配置するようにしてもよい。
【0085】
また、光検出器4側の側面は遮光されている。LED2側の開口絞り32−1の形状は半径R1の円形であり、スケール7側の開口絞り32−2の形状は、半径R2の円形である。R2のサイズの設定方法は第1実施形態と同様に、上記1〜3の条件に基づいて決定されている。半径R1はLED2側にあるために小さいが、R1の設定はR2と同様に設定した場合よりも緩い、即ち、やや大きいものとなっている。
【0086】
開口絞り32−1、32−2の形状は円形のみならず、第1実施形態と同様に種々の変更が可能である。
【0087】
[作用・効果]
基本的には第1実施形態と同様であるが、2つの開口絞り32−1、32−2を用いることによって、次のような作用・効果がある。まず、1つ目の開口絞り32−1で光源であるLED2から不要な光を大まかに遮る。さらに2つ目の開口絞り32−2でさらに迷光の原因となりうる光を遮断する。これにより、より発光部(LED2)に近い部分で迷光となりうる光を取り除くため、迷光がより発生しにくくなる。特に、実装精度を考慮しなければならない際には、効果的である。
【0088】
また、光源としてのLED2の光出射窓が大きい場合には、二重に開口絞り32−1、32−2を設けないと光透過性樹脂6の表面への入射角を抑えることは困難であり、開口絞り1つでは、絞りの効果が少ないことがありうる。従って、光源としてのLED2の光出射窓が大きい場合にも二重の開口絞り32−1、32−2によって効果的に迷光を低減できる。
【0089】
また、第1格子31や開口絞り32−1、32−2のパタンが反射率の高いCr等の部材で出来ている場合には、第1格子31を兼ねた開口絞り32−1で迷光となりうる光を低減しておかないと、開口絞り32−2のパタンの下側で反射した光が第1格子31側へ戻ってしまい、迷光の原因となったり、第1格子31で反射されて本来の検出光路を通ってPDアレイ41で検出されるとエンコーダ信号を打ち消す成分となったりしうる。このように、二重の開口絞り32−1、32−2を、反射率の高い材料を用いて光透過部材3の上下の面にパターニングする場合にも開口絞りへ到達する不要な光を低減することで有効に機能する。
【0090】
以上の迷光低減効果により、エンコーダ信号のSN比が良好で安定した信号検出が可能となる。
【0091】
(第1実施形態の第3変形例)
[構成]
図4は、第3変形例に係る光透過部材3の構成を示している。この部品と光源以外の構成は、第1実施形態の第2変形例と同じである。
【0092】
図4の構成では、光透過部材3を光検出器4側すなわちPDアレイ41側へ長く張り出して配置している。また、光源に面実装タイプのモールドLEDを採用している。2つの開口絞り32−1、32−2の形状は半径R1とR2の円形であり、R1とR2の決定方法は、第2変形例と同様である。開口絞り32−1、32−2の形状は円形のみならず、第1実施形態と同様に種々の変更が可能である。
【0093】
[作用・効果]
基本的には第1実施形態の第2変形例と同様である。光透過部材3をPDアレイ41側へ長く張り出すことで、開口絞りの位置をPDアレイ41に近い部分に配置することが可能となり、検出に必要な光を遮らずに済む。また、張り出した部分に遮光効果があって、その部分が長いため、LED2の側面から出てくる光を効果的に遮断できる。同様にスケール7に平行な方向に延長することでも迷光となりうる光を遮断できる。
【0094】
2つの開口絞り32−1、32−2を用いることによって、次のような作用・効果がある。1つ目の開口絞り32−1で光源であるLED2から不要な光を大まかに遮る。さらに2つ目の開口絞り32−2でさらに迷光の原因となりうる光を遮断する。これにより、より発光部(LED2)に近い部分で迷光となりうる光を取り除くため、迷光がより発生しにくくなる。特に、実装精度を考慮しなければならない際には、効果的である。
【0095】
また、光源としてのLED2の光出射窓が大きい場合には、二重に開口絞り32−1、32−2を設けないと光透過性樹脂6の表面への入射角を抑えることは困難であり、開口絞り1つでは、絞りの効果が少ないことがありうる。従って、光源の光出射窓が大きい場合にも二重の開口絞り32−1、32−2によって効果的に迷光を低減できる。
【0096】
以上の迷光低減効果により、エンコーダ信号のSN比が良好で安定した信号検出が可能となる。
【0097】
(第1実施形態の第4変形例)
[構成]
図5は、第4変形例に係る光透過部材3の構成を示している。この部品以外の構成は、第1実施形態の第3変形例と同じである。
【0098】
図5の構成では、光透過部材3を延長してPDアレイ41を覆うようにPDアレイ41に対する開口絞り33を設けて配置している。開口絞り32と開口絞り33の部分には僅かな段差があり、光透過部材3はLED2に実装されている。光透過部材3と光透過性樹脂6の屈折率が共にほぼ1.5としていることから、屈折率を光透過性樹脂6に換算した場合の換算距離d1とd2はほぼ等しくなっている。なお、光学設計によっては段差を無くしLED2を光検出器4より若干高くしても良い。
【0099】
[作用・効果]
基本的には第1実施形態の第3変形例と同様である。また、張り出した部分に遮光効果があって、LED2の側面から出てくる光が内部反射して直接PDアレイ41に入射しないように遮断することができる。また、PDアレイ41の周囲に入射した光がPD構造によって吸収され、暗電流が発生してPDアレイ41へ流れ込んでしまい、ノイズ成分となったり、90°位相差信号ごとのオフセット成分が発生したりする可能性があるが、PDアレイ41の周囲を遮光することにより、これらのノイズ成分・オフセット成分の発生を抑制できる。以上の迷光低減効果により、エンコーダ信号のSN比が良好で安定した信号検出が可能となる。
【0100】
(第1実施形態の第5変形例)
図6は、第5変形例に係る光透過部材3の構成を示している。第1実施形態の第2変形例において、光透過部材3を光検出器4のスケール7側の面、具体的には光検出器4のPDアレイ41の面に貼り付けて(直接実装)、LED2側へ延長したものである。即ち、第1格子31を形成した光透過部材3を光検出器4のPDアレイ41の面に貼り付けている。また、PDアレイ41に対する開口絞り33を設けて配置している。
【0101】
[作用・効果]
基本的には第1実施形態の第3変形例と同様である。また、張り出した部分に遮光効果があって、LED2の側面から出てくる光が内部反射して直接PDアレイ41に入射しないように遮断することができる。
【0102】
また、PDアレイ41の周囲に入射した光がPD構造によって吸収され、暗電流が発生してPDアレイ41部分へ流れ込んでしまい、ノイズ成分となったり、90°位相差信号ごとのオフセット成分が発生したりする可能性があるが、PDアレイ41の周囲を遮光することにより、これらのノイズ成分・オフセット成分の発生を抑制できる。以上の迷光低減効果により、エンコーダ信号のSN比が良好で安定した信号検出が可能となる。
【0103】
また、第1格子31を形成した光透過部材3を光検出器4のPDアレイ41の面に貼り付けている。これにより、第1格子31と第3格子であるPDアレイ41面とを独立してくみ上げる場合と比較して、第1格子31と第3格子の高さの段差がより小さく抑えることが可能となる。その結果、第1格子31から第2格子71までの距離と第2格子71から第3格子までの距離の差がより小さく抑えられる。そのため、第3格子上に形成される第2格子71の拡大イメージの拡大倍率がより2倍に近くなり、拡大倍率のずれによる検出信号レベルの低下が抑えられる。また、検出ヘッドとスケール7間のギャップ変動による拡大倍率のずれがより少なく抑えられるため、ギャップ変動にも強いエンコーダとなる。
【0104】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係る光学式エンコーダの斜視図であり、図8はその断面図である。第2実施形態は、第1実施形態の第3変形例において、PDアレイ41を有する光検出器4を、4つの受光部を有する光検出器4とピッチp3の第3格子51を有する光透過基板5で置き換えたものである。
【0105】
第1格子31と第2格子71と第3格子51は図中x方向の向きに互いに平行に配置されている。樹脂上部の面については、少なくとも光源としてのLED2からの光がスケール7で反射されて光検出器に入射する際に通過する部分は平坦で3つの格子31、51、71と平行に形成されている。スケール7は第2格子71が第1格子31と第3格子51に平行になる状態でx方向にのみ相対的に変位が可能となっている。
【0106】
基板1、ベアLED2、光透過部材3、光検出器4、光透過基板5は平行平板状になっている。これらの厚み公差は±20μm程度以下となっており、図7、図8に示すように基板1の上に順次直接貼り付けられている。これらの部材の接着固定に用いる接着剤の厚みムラについても、±10μm程度以下となっている。また、光透過性樹脂6の上面もほぼ平坦な形状となっている。
【0107】
光透過基板5において、第3格子51は光透過基板5の片側の面をほぼ4等分する形で4つの格子群から成る。各格子群のピッチはすべてp3であり、それぞれp3/4だけずれた配置となっている。各格子群のスケール7の移動方向の有効幅W3は、光透過基板5のスケール移動方向の幅の約1/2となっている。第3格子51が光透過基板5の光検出器4側の面になるように配置されている。4つの格子群と光検出器4の4つの受光部が1対1で対応するような構造となっている。光検出器4において、各格子群に対応する受光部から位相がp3/4ずつ異なる4つの位相の異なる信号を生成する。
【0108】
エンコーダヘッドの厚みについて説明する。LED2の発光面から光透過性樹脂6表面間においては、光透過部材3の屈折率がn1、厚みがt1、光透過性樹脂6の屈折率がn2、厚みがt2である。光透過性樹脂6表面から光検出器4の受光面の間においては、光透過性樹脂6の屈折率がn2、厚みがt5、光透過基板5の屈折率がn4、厚みがt4、である。なお、ヘッドとスケール7間の空気の屈折率はn3である。
【0109】
屈折率を光透過性樹脂に換算して、LED2の発光面から光透過性樹脂6表面間の距離d1と光透過性樹脂6表面からPDアレイ41間の距離d2を以下のように定義する。
【0110】
d1=t1・n2/n1+t2
d2=t4・n2/n4+t5
ここで、本実施形態では、光透過部材3と光透過基板5の材質と厚みは等しく、設定されている。従って、t1=t4であり、かつ、t2=t5となる。
【0111】
従って、d1とd2は以下のようになる。
【0112】
d1=d2=t1・n2/n1+t2
なお、この実施形態においては、第1実施形態と同様に各種の変形、置き換えが可能である。
【0113】
[作用・効果]
第1実施形態の第3変形例と同様の作用、効果が得られる。PDアレイの代わりに4つの受光部を有する光検出器4と第3格子51を有する光透過基板5を用いることで、比較的複雑なPDアレイの設計・製作を行わずに3重格子エンコーダを実現できる。
【0114】
また、光透過部材3と光透過基板5の材質と厚みが等しいことから、LED2と光検出器4の厚みを揃えることで、d1とd2を精度良く合わせることが可能となる。これにより、拡大倍率のずれによる検出信号レベルの低下が抑えられる。また、検出ヘッドとスケール7間のギャップ変動による拡大倍率のずれが少なく抑えられるため、ギャップ変動にも強いエンコーダとなる。
【0115】
(第2実施形態の変形例)
[構成]
図9は、第2実施形態の変形例に係る光学式エンコーダの構成を示す図である。図9では、光透過基板5を光透過部材3に一体化して配置している。光透過部材3は、第2格子71に平行になるように配置され、LED2、または光検出器4との間に隙間が生じた場合には、その隙間を接着剤が充填するようになっている。そのため、第1格子31と第3格子51の高さ方向の段差を小さく抑えられる。
【0116】
[作用・効果]
基本的には第2実施形態と同様である。第1格子31と第3格子51の高さ方向の段差が第2実施形態の場合よりもより小さくすることが出来る。そのため、拡大倍率のずれによる検出信号レベルの低下をより抑えられる。また、検出ヘッドとスケール7間のギャップ変動による拡大倍率のずれがより少なく抑えられるため、ギャップ変動にも強いエンコーダとなる。
【符号の説明】
【0117】
1 基板
2 LED
3 光透過部材
4 光検出器
5 光透過基板
6 光透過性樹脂
7 スケール
8 導電ワイヤ
31 第1格子
32 開口絞り
41 PDアレイ
51 第3格子
71 第2格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に移動する固定体と移動体のいずれか一方に取り付けられた検出ヘッドと、前記検出ヘッドに対向して、前記固定体と移動体の他方に取り付けられ、所定ピッチの光学パタンを有する第2格子が設けられたスケールとを備えた光学式エンコーダであって、
前記検出ヘッドは、前記スケールに所定の光を照射する発光部と、前記発光部からの光を透過する光透過部材と、光検出素子が所定のピッチで複数形成された光検出部とを有し、
前記光透過部材には、所定ピッチの光学パタンを有する第1格子と、前記発光部から前記スケールの第2格子へ至る光を絞るための開口絞りとが形成されており、
前記発光部からの光を前記光透過部材を介して前記スケールに照射した後、前記スケールの第2格子により反射または回折した光が前記光検出部の光検出素子上に形成するイメージの動きを検出することを特徴とする光学式エンコーダ。
【請求項2】
相対的に移動する固定体と移動体のいずれか一方に取り付けられた検出ヘッドと、前記検出ヘッドに対向して、前記固定体と移動体の他方に取り付けられ、所定ピッチの光学パタンを有する第2格子が設けられたスケールとを備えた光学式エンコーダであって、
前記検出ヘッドは、前記スケールに所定の光を照射する発光部と、前記発光部からの光を透過する光透過部材と、所定ピッチの光学パタンを有する第3格子が形成された光検出部とを有し、
前記光透過部材には、所定ピッチの光学パタンを有する第1格子と、前記発光部から前記スケールの第2格子へ至る光を絞るための開口絞りとが形成されており、
前記発光部からの光を前記光透過部材を介して前記スケールに照射した後、前記スケールの第2格子により反射または回折した光が前記光検出部の第3格子上に形成するイメージの動きを検出することを特徴とする光学式エンコーダ。
【請求項3】
前記第1格子は、前記光透過部材の発光部側と前記スケール側のいずれか一方の面に形成され、前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の他方の面に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項4】
前記第1格子は、前記光透過部材の発光部側の面に形成され、前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の前記スケール側の面に形成されることを特徴とする請求項3に記載の光学式エンコーダ。
【請求項5】
前記第1格子のパタンは、前記開口絞りを兼ねることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項6】
前記第1格子のパタンは、前記光透過部材の発光部側と前記スケール側のいずれか一方の面に前記開口絞りを兼ねて形成され、前記光透過部材の他方の面に第2の開口絞りのパタンが形成されることを特徴とする請求項5に記載の光学式エンコーダ。
【請求項7】
前記光透過部材を、前記発光部の前記スケール側の面に直接実装することを特徴とする請求項第1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項8】
前記光透過部材を、前記光検出部の前記スケール側の面に直接実装したことを特徴とする光学式エンコーダ。
【請求項9】
前記開口絞りのパタンは円形または少なくとも一部が円弧状であることを特徴とする請求項第1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項10】
前記光透過部材の側面の少なくとも一部に光伝達抑制部を有することを特徴とする請求項第1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項11】
前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の前記スケール側の面に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項12】
前記開口絞りのパタンは、前記光透過部材の発光部側の面に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項13】
前記光学式エンコーダは反射型であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項14】
前記発光部と、前記光検出部の前記スケール側の面とは、それぞれ第2の光透過部材により全体的かつ一体的に覆われることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項15】
前記発光部と、前記光検出部の前記スケール側の面とは、それぞれ第2の光透過部材により全体的かつ一体的に覆われるとともに、前記第2の光透過部材の上面は略平坦であり、
屈折率を前記第2の光透過部材に換算した距離について、前記発光部から前記第2の光透過部材の表面までの換算距離をt1、前記光検出部から前記第2の光透過部材の表面までの換算距離をt2、前記発光部上の位置と、前記光検出部上の位置との間で最も遠くなる位置間の距離のうち前記スケールの表面に平行な方向の成分をL、外界の屈折率をn1、前記光透過部材の屈折率をn2とそれぞれしたときに、
ArcTan[L/(t1+t2)]≧ArcSin(n1/n2)
を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。
【請求項16】
前記光透過部材は、前記光検出部側へ延びていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−230409(P2010−230409A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76819(P2009−76819)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】