説明

光学式振動歪み計測装置

【課題】 高温の測定対象物にも適用でき、測定対象部位の変形を直接計測することにより、ノイズの少ない高精度な信頼性のある歪み計測をできるようにした光学式振動歪み計測装置を提供する。
【解決手段】 一つのフォルダーに取り付けた少なくとも3基のレーザ変位計を用いて振動する測定対象部位の少なくとも3箇所の変形を測定し、各レーザ変位計により計測した変位の差から測定対象物に発生している振動変形による歪みを演算装置により演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式振動歪み計測装置に関するものであり、特に振動変位の検出部を、一つの共通フォルダーに少なくとも3基のレーザ変位計を固定したコンパクトな一体構造のものとすることにより、構造の簡素化と小型化及び計測精度の大幅な向上等を可能にした光学式振動歪み計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所等の各種プラントに設備された配管や機器等は、プラント運転中の加熱や機械的負荷によって絶えず応力を受けており、所謂応力歪みが生じている。例えば、振動している配管等の梁状の構造物には、曲げ変形を主体とする振動歪みが発生することになり、これ等の発生した歪みは、可能な限りリアルタイムで正確に計測すると共に、計測した歪み情報を設備管理システムへ伝達する必要がある。
【0003】
而して、前記振動する配管等に発生している歪みを計測する方法としては、歪みゲージを直接に振動している測定対象物に貼付けする方法(特開2003−194508号)や、多数の加速度計を測定対象部位を含む測定対象物の相当範囲に亘って取り付け、加速度計の計測値から測定対象物の変形状態を把握すると共に演算によって対象部位に発生している歪みを求める方法(特開平11−014445号等)等が開発されている。
【0004】
しかし、何れの計測方法にも多くの難点があり、例えば、イ.計測装置のセッティング等に多くの手数を必要とし、計測に要する作業量が膨大なものになること、ロ.歪みゲージを貼付けする方法では、ノイズが多いうえに高温の測定対象物には適用し難いこと、ハ.加速度計等を用いる方法では、測定したい歪みに影響を与える要因以外の他の要因をも含んだ情報から、間接的に測定対象物の変形を把握すると共に、その把握した変形から歪みを演算で求めるものであるため、誤差が大きく且つ作業に熟練を要すること等が、問題点として残されている。
【0005】
一方、前述の如き問題を解決するものとして、例えば運転中及び停止中のプラント設備を構成する機器、装置の形状に関するデータをレーザ光を用いて取得し、予め設定した運転中及び停止中の機器・装置の三次元位置評価点(基準評価点)と、一定経時後の運転中及び停止中の機器、装置の三次元位置評価点とから夫々の移動量を算出し、当該移動量の大きさ等に基づいてプラント設備の健全性を判断するようにした技術が開発されている(特開2001−41717号)。
【0006】
当該特開2001−41717号の技術は、高放射線線量箇所や高所等の機器、装置にも適用できると云う利点を有するものの、依然として計測装置が複雑且つ大型であり、計測そのものにも多くの手数が掛かるうえ、運転中の機器、装置の三次元位置評価点の検出だけでは、機器・装置の健全性(例えば配管の歪み)を高精度で連続的に監視できないと云う問題がある。
【0007】
同様に、前記歪みゲージや加速度計を用いる場合の問題点を解決するものとして、レーザ光のスペクトルパターンを利用したり、或いはドップラー効果を利用することにより試料表面の2箇所間の伸び又は縮み量を計測する装置が開発されている(特開平7−4928号、特開平9−297010号、特開2001−124516号等)。
【0008】
しかし、従前のレーザ光を用いたこの種の歪み計測装置は、何れも1基又は2基の独立したレーザ変位計を単に並設しただけのものであり、例えば、2基のレーザ変位計を並設した場合には、各レーザ変位計の取付け部の相対的な変形やバラツキによる測定誤差の発生が避けられないと云う問題がある。
【0009】
また、複数個のレーザ変位計を夫々単独に組み合せ使用した場合には、歪み計測装置が大型化することになり、結果として歪み計測装置の小型化が図れないだけでなく、所謂ハンディタイプの歪み計測装置の形成が不可能となる。
【0010】
更に、1基又は2基のレーザ変位計を使用する歪み計測装置においては、その計測値に、歪みに直接関係しない部分(即ち、歪みを測定したい対象部位以外の領域)の情報が必然的に含まれることになり、結果として歪み検出制度の低下を招くと云う難点がある。
【0011】
【特許文献1】特開2003−194508号
【特許文献2】特開平11−014445号
【特許文献3】特開2001−41717号
【特許文献4】特開平7−4928号
【特許文献5】特開平9−297010号
【特許文献6】特開2001−124516号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従前のレーザ光を利用した光学式振動歪み計測装置、特にスペクトルパターンの移動量検出を基本とする装置の上述の如き問題、即ち、イ.2基以上のレーザ変位計を並設した場合には、各レーザ変位計の取付け部の相対的な変形やバラツキに起因する測定誤差の発生が不可避であること、ロ.歪み計測装置の小型化、ハンディタイプ化が図れないこと、ハ.測定値に、歪みを測定したい対象部位以外の領域の情報が含まれることになり、歪み検出制度を高めることが困難なこと等の問題を解決せんとするものであり、一つの共通フォルダーに取り付けした少なくとも3個のレーザ変位計を用いることにより、高温や高放射熱量の測定対象物にも容易に適用することができ、しかも対象部位についてノイズの少ない高精度な歪み計測が行えると共に、装置の小型、ハンディ化を可能とした光学式振動歪み計測装置を提供することを発明の主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記発明の課題を解決するため、本願請求項1の振動歪み計測装置に係る発明は、一つのフォルダーに取り付けた少なくとも3基のレーザ変位計を用いて振動する測定対象部位の少なくとも3箇所の変形を測定し、各レーザ変位計により計測した変位の差から測定対象物に発生している振動変形による歪みを演算装置により演算する構成としたことを発明の基本構成とするものである。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、複数のレーザ変位計の光源として単一の光源を用いる構成としたものである。
【0015】
請求項3の発明は、振動する測定対象物の対象部位外表面の少なくとも3箇所の検出点へレーザビームを入射すると共に、各検出点からの反射レーザビームを個別に受光する少なくとも3基のレーザ変位計と、当該各レーザ変位計を載置固定する平盤状のフォルダーと、前記各レーザ変位計により測定した各検出点の振動変位を用いて測定対象物の対象部位の振動による曲げ歪みを演算する演算装置とから構成したことを発明の基本構成とするものである。
【0016】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、少なくとも3基のレーザ変位計を、1基の共通発光部と少なくとも3基のレーザ変位計の受光部とから形成し、前記共通発光部から各検出点へレーザ光を入射する構成としたものである。
【0017】
請求項5の発明は、請求項3の発明において、フォルダーを取手付きのフォルダーとし、光学式振動歪み計測装置の振動変位検出部を可搬型の構成としたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、一つの共通するフォルダーに複数のレーザ変位計を取り付けしたものを用いているため、各変位計の取り付け部の相対的な変形やバラツキに起因する誤差が無くなり、高精度な振動変位の計測が出来ると共に、レーザ変位計の取り付けにも堅固な取り付け装具を必要とせず、歪み計測装置の高精度化と小型化及び又はハンディ化が可能となる。
【0019】
また、本発明では、少なくとも3個のレーザ変位計を用いて、3ケ所以上の変位から歪みを測定したい部位の変形を直接に測定するようにしているため、歪みに関係しない部位の情報を含まないデータのみを用いて測定したい部位の歪みを求めることができ、結果として歪みの計測精度を大幅に向上させることができる。
【0020】
更に、本発明の請求項2及び請求項4の発明に於いては、単一の発光部を複数の変位計の光源として共用する構成としているため、光学式振動歪み計測装置の小型化及び製造コストの大幅な引下げが可能になると共に、計測器そのものの操作性が高まり、所謂歪み測定のし易い取扱性に優れた装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
[実施形態1]
図1は、本発明に係る光学式振動歪み計測装置Aの全体構成を示す説明図であり、図2は、第1実施形態に係る光学式振動歪み計測装置Aを用いた歪み計測の実施態様を示す斜面図、第3図は、図2の歪み計測において、変位から歪みを求める演算式で用いている記号の説明図である。
【0022】
図1及び図2に於いて、1は測定対象物である配管、2はレーザ変位計、3はレーザ変位計を支持固定するフォルダー、4aは電源装置、4bはAD変換装置、5は演算装置、6aは入射レーザビーム、6bは反射レーザビーム、7は取手、P1・P2・P3は検出点、Sは支持固定点である。
【0023】
前記測定対象物である配管1は、図1に示す如く所謂片持ち梁状に支持されており、その先端部は矢印イ−イ′方向へ往復振動をしている。尚、本実施形態では、外径54mm、内径27.2mmのステンレス鋼配管の一方の支持点から約10mm位離れた位置P1を第1検出点としている。
【0024】
前記レーザ変位計2としては公知の(株)キーエンス製LK−G80型レーザ変位計(サンプリング周期20μs、分解能0.2μm)を使用しているが、レーザ変位計そのものは公知であるため、ここではその詳細な説明は省略する。
【0025】
また、本実施形態においては、3個の同一仕様のレーザ変位計を使用しているが、3個のレーザ変位計を使用して測定精度をより高めるようにしても良いことは勿論である。
【0026】
前記フォルダー3は、平盤状の鋼板から形成されており、その後端部には取手7が設けられている。尚、フォルダー3の材質は硬質の合成樹脂であってもよく、軽量であってレーザ変位計2を確実に支持固定することが出来、しかもレーザ変位計の支持固定によって変形を生じないものであれば、如何なる材質及び形態のものであってもよい。また、当該フォルダー3とその上に載置固定した3基のレーザ変位計2などから、本発明に係る光学式振動歪み計測装置Aの振動変位検出部Bが形成されている。
【0027】
前記電源装置4a及びAD変換装置4bは、フォルダー3とは別体として設けられており、レーザ変位計2からケーブル8を介して入力された変位計測信号が、AD変換装置4bでデジタル信号に変換され、演算装置5へ入力される。
【0028】
前記演算装置5には、パーソナルコンピュータが用いられており、後述する各演算式(1)、(2)、(3)及び(4)に基づいて振動する歪み(曲げ歪み)の振幅を及び測定対象物1の振動により変形した形状の曲率半径Rが夫々演算される。
【0029】
図2を参照して、本発明に係る光学式振動歪み計測装置は、フォルダー3の取手7を持って簡単に搬送等を行うことができ、通常はレーザ変位計2と測定対象物1の外表面との間隔を8cm位に選定した状態で、フォルダー3を静止台(図示省略)上に固定する。
また、図1の実施形態の光学式振動歪み計測装置にあっては、分解能0.2μm程度の振動変位(サンプリング周期20μsの計測が可能である。
【0030】
次に、本発明に係る光学式振動歪み計測装置による振動歪み等の計測方法等について説明する。
図2及び図3を参照して、前述の如くレーザ変位計2を固定したフォルダー3を、レーザー変位計と測定対象物1との間に所定の間隔(例えば8cm位)を保持せしめて適宜の方法、例えば別途に設けた静置台等を用いて固定する。
【0031】
その後、各レーザ変位計2を作動させ、夫々の入射光6a及び反射光6bを用いて3箇所の検出点P1、P2、P3の変位量、即ち振動変位の振幅u1、u2、u3を測定する。
尚、図3において、Dは測定対象物1の直径又は厚さ、Rは測定対象物1が振動で変形した形状の曲率半径、u1、u2、u3は各レーザ変位計2で測定した各検出点P1、P2、P3の振動変位の振幅、X1、X2はレーザ変位計2の間隔寸法である。
【0032】
前記各レーザ変位計2で計測された変位量、即ち振動変位の振幅μ1、μ2、μ3は、ケーブル8及びAD変換装置4bを経て演算装置5へ送られ、ここで下記の(1)〜(4)式に基づいて測定対象物1の曲げ歪みの振幅及び振動変形形状の曲率半径R等が演算される。
尚、当該(1)〜(2)式は機械工学便覧等に開示されているものであり、演算式としては公知のものである。
【0033】
【数1】

【0034】
【数2】

【0035】
【数3】

【0036】
【数4】

【実施例1】
【0037】
測定対象物をステンレス鋼管1(外径D=34mm、内径φ=27.2mm、支持固定点Sから約10mm離れた位置P1を第1検出点とし、且つステンレス鋼管1の外表面とレーザ変位計2間の距離を36mmとして、図2の光学式振動変位計測装置をセットした。
【0038】
尚、この時のレーザ変位計2の設置間隔X1=36mm、X2=72mmであり、また、レーザ変位計2で測定した振動変位の各振幅u1=0.0014mm、u2=0.0132mm、u3=0.0366mmであった。
【0039】
更に、この時の測定対象部位の演算した振動変形形状の曲率半径Rは、R=111724mm、曲げ歪みの振幅εは、ε=152μstrainであり、この歪みは、配管1の縦弾性係数EをE=19500N/mm2とすると、応力σが、σ=29.7N/mm2の場合の歪みに相当する。
【0040】
[実施形態2]
図4は、本発明の第2実施形態に係る光学式振動歪み計測装置Aの概要を示す傾斜面であり、図4に於いて9はレーザ変位計発光部、10はレーザ変位計受光部である。
【0041】
即ち、当該第2実施形態においては、レーザ変位計の発光部9が共通の発光部に形成されており、1台の共通発光部9から各検出点P1、P2、P3へ同時にレーザビーム6aが入射されると共に、各検出点P1、P2、P3からの反射レーザビーム6bが各レーザ変位計の受光部10へ入射されるよう構成されている。
尚、図4において、3はフォルダー、11は取手、6aは入射レーザビーム、6bは反射レーザビームであり、光学式振動歪み計測装置Aとしての作動やこれを用いた歪み計測方法は、前記図1乃至図3に示した第1実施形態の場合と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、発電所等のあらゆるプラント設備や自動車等の機器・装置に於ける梁状の振動構造物の振動歪みの計測に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る光学式振動歪み計測装置の全体構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る光学式振動歪み計測装置を用いた歪み計測の実施態様を示す斜面図である。
【図3】図2の歪み計測において、変位から歪みを求める演算式中で使用されている各記号の説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る光学式振動歪み計測装置の概要を示す斜面図である。
【符号の説明】
【0044】
Aは光学式振動歪み計測装置
Bは振動変位検出部
Sは支持固定箇所
1〜P3は検出ポイント
Dは測定対象物1の直径(又は厚さ)
Rは振動変形した形状の曲率半径
1〜u3はレーザ変位計で測定した振動変位の振幅
1、X2はレーザ変位計の取付け間隔
εは曲げ歪みの振幅
1は測定対象物(配管)
2はレーザ変位計
3はフォルダー
4aは電源装置
4bはAD変換装置
5は演算装置
6aは入射レーザビーム
6bは反射レーザビーム
7は取手
8はケーブル
9は共通発光部(共通光源)
10はレーザ変位計受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのフォルダーに取り付けた少なくとも3基のレーザ変位計を用いて振動する測定対象部位の少なくとも3箇所の変形を測定し、各レーザ変位計により計測した変位の差から測定対象物に発生している振動変形による歪みを演算装置により演算する構成としたことを特徴とする光学式振動歪み計測装置。
【請求項2】
複数のレーザ変位計の光源として単一の光源を用いる構成としたことを特徴とする請求項1の光学式振動歪み計測装置。
【請求項3】
振動する測定対象物の対象部位外表面の少なくとも3箇所の検出点へレーザビームを入射すると共に、各検出点からの反射レーザビームを個別に受光する少なくとも3基のレーザ変位計と、当該各レーザ変位計を載置固定する平盤状のフォルダーと、前記各レーザ変位計により測定した各検出点の振動変位を用いて測定対象物の対象部位の振動による曲げ歪みを演算する演算装置とから構成したことを特徴とする光学式振動歪み計測装置。
【請求項4】
少なくとも3基のレーザ変位計を、1基の共通発光部と少なくとも3基のレーザ変位計の受光部とから形成し、前記共通発光部から各検出点へレーザ光を入射する構成とした請求項3に記載の光学式振動歪み計測装置。
【請求項5】
フォルダーを取手付きのフォルダーとし、光学式振動歪み計測装置の振動変位検出部を可搬型の構成としたことを特徴とする請求項3に記載の光学式振動歪み計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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