説明

光学材料及び光学部材

【課題】 十分な透明性及び耐湿性を有し、且つ、白化(曇化)を十分に抑制できる光学材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明による光学材料の製造方法は、下記式(10);
【化1】


で表されるリン酸エステル化合物及び酸化第二銅を混合する工程と、これに水を添加する工程とを備え、本発明の光学材料は、それらの反応により得られるリン酸エステル銅化合物を含有して成るものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光学材料及びその製造方法に関し、詳しくは、金属イオンに特有な特定波長の光(特定波長光)に対する吸収特性又は発光特性を有する光学材料、及び、その製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、金属イオンが発現する特定波長光の吸収特性又は発光特性を利用した光学材料としては、例えば、本出願人による特開平6−118228号公報に記載の光学フィルターを構成する材料、また、特開平10−212373号公報に記載のディスプレイ前面板を構成する材料等が挙げられる。これらの光学材料は、リン酸エステル化合物と銅イオンとを含有して成り、近赤外光吸収特性を有するものである。前者の公報には、銅源として有機酸又は無機酸の銅塩を用いる製造方法が開示されている。一方、後者の公報には、銅源として水酸化銅を含む材料の記載がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記の従来の光学材料について検討したところ、銅イオン源として用いる銅塩の形態によって、得られる光学材料の性能や特質に差異が生じること、及び、その特質に起因すると考えられる問題点を見出した。すなわち;
【0004】(1)銅源として酸塩を用いた場合、製造過程において生成する酸成分の除去が望まれる。しかし、光学材料中に若干の酸成分が残留することがあり、このような光学材料で形成される光学部材の透光性が、その酸成分の影響により経時的に劣化し易くなる傾向にある。
【0005】(2)銅源としてアルカリ塩を用いると、製造時に発生する水分の影響により、光学材料自体、又は、その光学材料で形成される光学部材の耐湿性が十分ではなく、白化現象(曇化現象)が発生し易くなる。
【0006】そこで、本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、十分な透明性及び耐湿性を有し、且つ、白化(曇化)を十分に抑制できる光学材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、金属イオンの分散性の観点から光学材料の金属源としては適用が極めて困難であると考えられていた難溶解性の金属塩を用い、リン酸エステル化合物へ金属イオンを良好に分散又は溶解できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明による光学材料は、上記式(1)で表されるリン酸エステル化合物と金属酸化物との反応により得られるリン酸エステル金属化合物を含有して成ることを特徴とする。
【0008】このように金属源として金属酸化物を用いると、金属酸化物と式(1)で表されるリン酸エステル化合物との反応において酸成分及び水分の生成量が少ない。また、金属酸化物は、一般に工業上の利用性及び経済性に優れており、コスト低減等の観点からも望ましい材料である。
【0009】この金属酸化物は特に限定されず、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、遷移金属酸化物、又は、希土類金属酸化物であると好ましく、本発明による光学材料は、これらの金属酸化物のうち、遷移金属酸化物、又は、希土類金属酸化物を金属源とするものが好ましい。なお、本発明において「遷移金属」とは、原子番号が21(スカンジウム)〜30(亜鉛)、39(イットリウム)〜48(カドミウム)、72(ハフニウム)〜80(水銀)である金属を示す。
【0010】これらの金属酸化物を構成する金属は、原子構造に特有な吸光特性又は発光特性を有しており、種々の光学特性が発現される光学材料が得られる。特に、遷移金属や希土類金属は、d軌道の電子遷移によると考えられる近赤外光吸収特性、特定波長の可視光吸収又は発光特性を発現するので、機能性に優れた光学材料を形成できる。
【0011】さらに、これらの金属のなかでも、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ホルミウム等が有用な金属であり、特に、本発明の光学材料としては、金属酸化物が、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム及びホルミウムから成る群より選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物であると好適である。
【0012】特に、銅は、リン酸エステル化合物に配位又は結合されて極めて優れた近赤外光吸収特性及び可視光透過特性を発現できる。また、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム又はエルビウムは、吸収波長の吸収ピークが大きく且つ急峻であり、波長成分の選択性に優れると共に、蛍光の発光効率等が高い傾向にある。
【0013】またさらに、本発明の光学材料は、式(1)で表されるリン酸エステル化合物を溶解又は分散可能な溶媒(樹脂を含む)を更に含有する液状の組成物、又は、同リン酸エステル化合物と共重合可能な樹脂を更に含有する樹脂組成物であるとより好ましい。このようにすれば、用いる溶媒や樹脂に応じた特性及び性質が光学材料及び/又はその成形体に付与される。したがって、これらの溶媒や樹脂を適宜選択することによって、各種の用途に好適な光学材料を得ることができる。
【0014】また、本発明者らは、金属酸化物を用い、リン酸エステル化合物へ金属イオンを良好に分散又は溶解できる方法を見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明による光学材料の製造方法は、本発明の光学材料を有効に製造する方法であって、式(1)で表されるリン酸エステル化合物及び金属酸化物を混合する工程と、金属酸化物に水を添加する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】金属酸化物は難溶解性のものが多く、リン酸エステル化合物への金属の分散性が十分ではないと考えられていたにもかかわらず、金属酸化物を水の存在下でリン酸エステル化合物と混合することにより、金属イオンがリン酸エステルに良好に分散された光学材料を得た。
【0016】ここで、金属酸化物として、亜酸化銅、酸化第一銅、酸化第二銅、又は、三二酸化銅を用いると好適である。安定性の観点からは酸化第二銅が優れる。一方、亜酸化銅及び酸化第一銅は、酸化第二銅よりも反応性が高い。また、亜酸化銅及び酸化第一銅は、大気中で次第に酸化第二銅に酸化され、三二酸化銅は酸素を放出し易く、実質的には酸化第二銅を含むものとなる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の光学材料及びその製造方法の実施形態について説明する。まず、本発明の光学材料を構成する金属酸化物、リン酸エステル化合物について説明する。
【0018】〈金属酸化物〉本発明の光学材料を構成するリン酸エステル金属化合物を得るための金属酸化物としては、金属の種類に特に制限はないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、若しくは、希土類金属の酸化物、又は、それら酸化物の水和物若しくは水化物が好ましく用いられる。これらの金属酸化物を構成する金属は、各金属原子の電子構造に特有な吸光特性又は発光特性を有しており、種々の光学特性が発現される光学材料が得られる。特に、遷移金属や希土類金属は、d軌道の電子遷移によると考えられる近赤外光吸収特性、特定波長の可視光吸収又は発光を発現するので、機能性に優れた光学材料を形成できる。
【0019】具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀等の酸化物が挙げられる。
【0020】さらに、これらの金属酸化物のなかでも、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ホルミウム等の酸化物がより好ましく、特に、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム及びホルミウムから成る群より選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物であると特に好ましい。
【0021】特に、銅は、近赤外領域の光(近赤外光)に対する良好な吸収特性を有している。金属酸化物として銅の酸化物、すなわち、亜酸化銅、酸化第一銅、酸化第二銅又は三二酸化銅を用いると、銅イオンがリン酸エステル化合物のリン酸基に配位結合及び/又はイオン結合し、銅イオンはリン酸エステルに囲まれた状態で光学材料中に溶解又は分散される。そして、この銅イオンのd軌道の電子遷移によって近赤外光が選択的に吸収され、優れた近赤外光吸収特性が発現される。これにより、視感度補正、測光、近赤外光及び赤外光カット、熱線吸収、輝度調整等の各種用途に好適な光学材料を得ることができる。
【0022】また、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム又はエルビウムは、それぞれのイオンに特有な波長光の吸収特性及び選択性に優れている(具体的には、吸収ピークが大きくかつ急峻である)。例えば、3価のネオジムイオンは、波長580nm近傍の光をシャープに吸収する特性を有し、また、エルビウムイオンは波長520nm近傍の光をシャープに吸収する特性を有している。このような希土類金属イオンを含有する光学材料は、可視光の防眩性に優れた光学部材を形成でき、また、医療用或いは加工用レーザーで用いられるレーザー光(波長約520nm)からの眼の防護性に優れた光学部材を形成できる。
【0023】さらに、これら希土類金属のイオンは、希土類金属イオンのなかでも、蛍光を高効率で発光したり、レーザ発光したりするので、これら希土類金属の酸化物を用いることにより、優れた光増幅機能を発現できる光学材料を形成できる。
【0024】これらの金属酸化物は、単独で又は二種以上混合して用いられる。このとき、これらの金属酸化物の使用量としては、リン酸エステル金属化合物を構成する金属イオンの光学材料中における含有割合が、好ましくは2〜60質量%、より好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは10〜25質量%となるように調整される。この金属イオンの含有割合が2質量%未満であると、光学材料の厚さによっては特定波長光に対する十分な吸収特性が得られ難い傾向にある。一方、この含有割合が60質量%を超えると、金属イオンを光学材料中に均一に溶解又は分散させ難い傾向にある。
【0025】また、光学材料中の銅イオン及び/又は希土類金属イオンの含量が、例えば、全金属イオン量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上とすると好適である。こうすることにより、銅イオン及び/又は希土類金属イオンに特有な光学特性を有する光学材料を確実に得ることができる。
【0026】〈リン酸エステル化合物〉本発明の光学材料を構成するリン酸エステル化合物は、下記式(1)で表されるものである。
【化3】


【0027】[式(1)中、Rは、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)若しくは(9)で表される基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2であり、nが1のときにRは同一であっても異なっていてもよい。
【化4】


【0028】(式(2)〜(9)中、R11〜R17は炭素数が1〜20のアルキル基、炭素数が6〜20のアリール基又はアラルキル基を示し(ただし、芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基又はハロゲンによって少なくともひとつ置換されていてもよい)、R21〜R25は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基を示し(ただし、R23、R24、R25が全て水素原子の場合を除く)、R31及びR32は炭素数が1〜6のアルキレン基を示し、R41は炭素数が1〜10のアルキレン基を示し、R51及びR52は炭素数が1〜20のアルキル基を示し、R61は水素原子又はメチル基を示し、mは1〜6の整数を示し、kは0〜5の整数を示し、pは2〜97の整数を示し、rは1〜10の整数を示す。)]
【0029】これらのリン酸エステル化合物のなかで式(9)で表される基を有するものとしては、式(9)におけるR61がメチル基であり、かつ、式(9)におけるpが2又は3であり、且つ、式(9)におけるrが1のもの、すなわち、下記式(10)又は式(11)で表されるリン酸エステル化合物が好ましい。
【0030】
【化5】


【0031】これらのリン酸エステル化合物は、例えば、以下の第1の方法、第2の方法、第3の方法等のいずれかによって製造される。
〔第1の方法〕:この第1の方法は、無溶媒又は適宜の有機溶剤中で、下記式(12)で表される化合物と五酸化リンとを反応させる方法である。
【0032】
【化6】


【0033】[式(12)中、Rは、上記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)若しくは(9)で表される基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又はアルケニル基を示す。]
【0034】すなわち、式(12)で表される化合物としては、下記式(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、(18)、(19)若しくは(20)で表されるアルコール、アルキルアルコール、フェノール等を好ましく用いることができる。
【0035】
【化7】


【0036】(式(2)〜(9)中、R11〜R17は炭素数が1〜20のアルキル基、炭素数が6〜20のアリール基又はアラルキル基を示し(ただし、芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基又はハロゲンによって少なくともひとつ置換されていてもよい)、R21〜R25は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基を示し(ただし、R23、R24、R25が全て水素原子の場合を除く)、R31及びR32は炭素数が1〜6のアルキレン基を示し、R41は炭素数が1〜10のアルキレン基を示し、R51及びR52は炭素数が1〜20のアルキル基を示し、R61は水素原子又はメチル基を示し、mは1〜6の整数を示し、kは0〜5の整数を示し、pは2〜97の整数を示し、rは1〜10の整数を示す。)]
【0037】また、式(12)で表される化合物のなかで、式(13)で表されるアルコールのうちアリール基又はアラルキル基を有する好適な具体例としては、下記式(21)又は下記式(22)で表されるアルコールが挙げられる。また、式(15)で表されるアルコールのうちアリール基を有する好適な具体例としては、下記式(23)で表されるアルコールが挙げられる。さらに、式(17)で表されるアルコールの好適な具体例としては、下記式(24)で表されるアルコールが挙げられる。
【0038】
【化8】


【0039】なお、上述の如く、式(12)で表される化合物にはフェノールが含まれるが、本発明では、式(12)で表される化合物を、便宜上、総称して以下「特定のアルコール」という。ここで、特定のアルコールと五酸化リンとの反応に用いられる有機溶剤としては、五酸化リンと反応しない有機溶剤であって、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油スピリット等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられ、これらの中では、トルエン、キシレンが好ましい。
【0040】この第1の方法において、特定のアルコールと五酸化リンとの反応条件は、特定のアルコールが式(13)〜(20)で表されるアルコール(ただし、芳香環を有するものを除く)の場合、反応温度が0〜100℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間が1〜24時間、好ましくは4〜9時間である。また、特定のアルコールが、フェノール、又は式(13)〜(17)で表されるアルコールのうち芳香環を有するものの場合、反応温度が0〜100℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間が1〜96時間、好ましくは4〜72時間である。
【0041】また、この第1の方法においては、例えば、特定のアルコール及び五酸化リンをモル比で3:1となる割合で用いることにより、上記式(1)に示す水酸基の数が2(式(1)に示すnが2)であるリン酸モノエステル化合物(以下、「モノエステル」という)と、式(1)に示す水酸基の数が1(式(1)に示すnが1)であるリン酸ジエステル化合物(以下、「ジエステル」という)との割合が略1:1の混合物が得られる。また、特定のアルコールと五酸化リンとの割合及び反応条件を適宜選択することにより、モノエステルとジエステルとの割合は、モル比で99:1〜40:60となる範囲内で調整される。
【0042】〔第2の方法〕:この第2の方法は、無溶媒又は適宜の有機溶剤中で、特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとを反応させ、得られる生成物に水を添加して加水分解する方法である。オキシハロゲン化リンとしては、オキシ塩化リン、オキシ臭化リンを用いることが好ましく、特に好ましくはオキシ塩化リンである。また、特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの反応に用いられる有機溶剤としては、オキシハロゲン化リンと反応しない有機溶剤であって、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油スピリット等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられ、これらの中では、トルエン、キシレンが好ましい。
【0043】そして、特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの反応条件は、反応温度が0〜110℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間が1〜20時間、好ましくは2〜8時間である。また、この第2の方法においては、例えば、特定のアルコール及びオキシハロゲン化リンをモル比で1:1となる割合で用いることにより、モノエステルを得ることができる。
【0044】さらに、式(14)、式(16)、式(17)(ただし、R23が水素原子の場合)、式(18)、又は式(20)で表される特定のアルコールを用いる場合には、この特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの割合及び反応条件を選択すると共に、反応触媒としては、四塩化チタン(TiCl4)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化アルミニウム(AlCl3)等のルイス酸触媒、副生する塩酸のキャッチ剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類や、ピリジン等が好ましく用いられる。
【0045】これらの反応触媒や塩酸キャッチ剤を用いることにより、モノエステルとジエステルとの混合物が得られる。そして、この特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの割合及び反応触媒を含む反応に係る条件を適宜選択することにより、モノエステルとジエステルとの割合は、モル比で99:1〜1:99となる範囲内で調整される。
【0046】また、上記式(13)、式(15)、式(17)(ただし、R23がアルキル基の場合)、又は式(19)で表される特定のアルコールを用いる場合には、この特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの割合及び反応条件を選択すると共に、ルイス酸触媒及び塩酸キャッチ剤を併用することにより、モノエステルとジエステルとの混合物が得られ、このとき、その割合がモル比で99:1〜1:99となる範囲内で調整される。
【0047】ただし、特定のアルコールとしてアルキレンオキサイド基の繰り返し単位数mが小さいものを用いる場合には、得られるリン酸エステル化合物が水溶性のものとなるため、アミン類等の塩酸キャッチ剤を用いると、生成されるアミン塩酸塩を水による洗浄によって除去することが困難となる傾向にある。以上において、反応触媒の使用量としては、オキシハロゲン化リン1モルに対して0.005〜0.2モル、好ましくは0.01〜0.05モルである。
【0048】〔第3の方法〕:この第3の方法は、無溶媒又は適宜の有機溶剤中で、特定のアルコールと三ハロゲン化リンとを反応させることにより、ホスホン酸エステル化合物を合成し、その後、得られたホスホン酸エステル化合物を酸化する方法である。三ハロゲン化リンとしては、三塩化リン、三臭化リンを用いることが好ましく、特に好ましくは三塩化リンである。
【0049】また、特定のアルコールと三ハロゲン化リンとの反応に用いられる有機溶剤としては、三ハロゲン化リンと反応しない有機溶剤であって、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油スピリット等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられ、これらの中では、ヘキサン、ヘプタンが好ましい。そして、特定のアルコールと三ハロゲン化リンとの反応条件は、反応温度が0〜90℃、好ましくは40〜75℃であり、反応時間が1〜10時間、好ましくは2〜5時間である。
【0050】また、上記ホスホン酸エステル化合物を酸化する手段としては、ホスホン酸エステル化合物に、例えば、塩素ガス等のハロゲンを反応させることによりホスホロハロリデート化合物を合成し、このホスホロハロリデート化合物を加水分解する手段を利用することができる。ここで、ホスホン酸エステル化合物とハロゲンとの反応温度は0〜40℃が好ましく、特に好ましくは5〜25℃である。また、ホスホン酸エステル化合物を酸化する前に、このホスホン酸エステル化合物を蒸留して精製してもよい。
【0051】この第3の方法においては、例えば、特定のアルコール及び三ハロゲン化リンをモル比で3:1となる割合で用いることにより、ジエステルが高い純度で得られる。また、特定のアルコールと三ハロゲン化リンとの割合及び反応条件を選択することにより、モノエステルとジエステルとの混合物が得られ、このとき、その割合はモル比で99:1〜1:99となる範囲で調整される。
【0052】以上の第1〜第3の方法で得られるリン酸エステル化合物の好ましい具体例としては、下記式(25)−a、下記式(25)−b、下記式(26)−a〜x、下記式(27)−a〜x、下記式(28)−a〜v、下記式(29)−a〜nで表される化合物が挙げられる。これらリン酸エステル化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて用いることができ、それらの金属化合物における光学特性の観点からは、式(25)−b、式(27)−a〜x、式(28)−a〜v、式(29)−a〜nで表されるリン酸エステル化合物が好ましく、式(28)−s〜vで表されるリン酸エステル化合物が特に好ましい。
【0053】
【化9】


【0054】
【化10】


【0055】
【化11】


【0056】
【化12】


【0057】
【化13】


【0058】
【化14】


【0059】
【化15】


【0060】
【化16】


【0061】
【化17】


【0062】
【化18】


【0063】
【化19】


【0064】
【化20】


【0065】
【化21】


【0066】
【化22】


【0067】ここで、式(2)、(3)、(6)又は(7)で表されるリン酸エステル化合物におけるアルキレンオキサイド基の繰り返し単位数mは、1〜6、好ましくは1〜3の整数である。このmの値が6を超えると、例えば、後述する樹脂組成物としたときの硬度が大幅に低下する。一方、mの値が0、すなわちアルキレンオキサイド基が結合されていない場合には、樹脂組成物とする場合に、金属イオンの分散性が低下する傾向にある。
【0068】また、リン酸エステル化合物及びリン酸エステル金属化合物の熱的安定性の観点から、mが1であると特に好適である。このmが1であるアルキレンオキサイド基を有するリン酸エステル金属化合物は、mが2以上の整数であるアルキレンオキサイド基を有するものに比して、高い熱分解温度を有する傾向がある。よって、mが1であるアルキレンオキサイド基を有するリン酸エステル金属化合物を含む組成物を熱成形する際に、その成形温度を高めて成形加工性をより向上できる。
【0069】さらに、mが1であるアルキレンオキサイド基を有するリン酸エステル金属化合物は、mが2以上の整数であるアルキレンオキサイド基を有するものに比して、耐湿性にも優れる傾向にある。具体的には、mが1であるアルキレンオキサイド基を有するリン酸エステル金属化合物を用いた光学材料は、高温多湿の環境下でも可視光透過率の経時的な劣化が殆ど無いのに対し、mが2以上の整数であるアルキレンオキサイド基を有するものは、経時的な劣化が比較的起こり易い傾向にある。
【0070】またさらに、式(8)におけるアルキレンオキサイド基の繰り返し単位数kは、0〜5、好ましくは0〜2の整数である。このkの値が5を超える場合には、樹脂組成物としたときの硬度が低下する傾向にある。
【0071】さらにまた、式(9)におけるアルキレンオキサイド基の繰り返し単位数rは、1〜10、好ましくは1〜4の整数である。このrの値が10を超えるものは、樹脂組成物としたときの吸湿性がやや高くなり、成形品の伸縮がやや発生し易い傾向にある。特に、長期間の使用において、周囲環境の湿度変化による伸びや縮みによって、例えば、表面被覆層がある場合に、その表面被覆層の劣化が進行し易いことがある。加えて、rの値が10を超えると、成形品の剛性又は硬度がやや低下してしまい、必要な所望の機械的強度がやや得られ難い傾向にある。さらに、この場合には、成形品に対して十分な耐熱性が得られない虞がある。そして、rが1であると、光学特性の経時的な劣化が殆ど無い光学材料が得られ易い。
【0072】また、式(9)で表されるようなメタクリロイルオキシアルキル基におけるアルキレンオキサイド基がエチレンオキサイド基又はプロピレンオキサイド基であると、pが4以上であるアルキレンオキサイド基を有するリン酸エステル金属化合物に比して、特定波長光の吸収特性が高められる。
【0073】なお、上述したように、特定のリン酸エステル化合物としては、モノエステルかジエステルが用いられるが、式(1)において水酸基が結合していないトリエステルは、金属イオンと配位結合及び/又はイオン結合が可能な水酸基を有しないため、樹脂組成物とする場合等に金属イオンを樹脂中に分散させることが困難である。
【0074】また、式(2)〜(6)におけるR11〜R17は炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2のアルキル基、又は、炭素数が6〜20のアリール基若しくはアラルキル基である(ただし、芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基又はハロゲンによって少なくともひとつ置換されていてもよい)。また、式(7)におけるR51、及び式(8)におけるR52は炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2のアルキル基である。
【0075】これらR11〜R17、R51及びR52の炭素数が20を超えるリン酸エステル化合物は、樹脂組成物とした場合に、樹脂との相溶性が低下する場合があり、樹脂中に金属イオンを分散させ難い。
【0076】さらに、式(2)におけるR21、式(3)におけるR22、及び式(6)におけるR23〜R25は、炭素数が1〜4のアルキル基である(ただし、R23、R24、R25が全て水素の場合を除く)。すなわち、式(2)及び式(3)におけるアルキレンオキサイド基としては、プロピレンオキサイド基、ブチレンオキサイド基等が挙げられ、式(6)におけるアルキレンオキサイド基としてはブチレンオキサイド基等が挙げられる。
【0077】これらのなかでは、プロピレンオキサイド基を有するものが好ましい。また、これらR21〜R25の炭素数が4を超える場合には、リン酸エステル化合物及び金属酸化物、又は、リン酸エステル金属化合物を、溶剤や樹脂中に高い割合で分散させることが困難となる。
【0078】またさらに、式(7)におけるR31、及び式(8)におけるR32は、炭素数が1〜6、好ましくは1〜4、更に好ましくは3〜4、特に好ましくは3のアルキレン基である。すなわち、アルキレンオキサイド基(OR31、OR32)としては、メチレンオキシ基、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基、ペンチレンオキシ基、ヘキシレンオキシ基などが挙げられ、特にプロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基が好ましい。
【0079】このR31及びR32の炭素数が6を超える場合には、リン酸エステル化合物及び金属酸化物、又は、リン酸エステル金属化合物を、溶媒や樹脂中に高い割合で分散させることが困難である。またさらに、式(8)におけるR41は、炭素数が1〜10、好ましくは3〜6、更に好ましくは3〜4、特に好ましくは3のアルキレン基である。このアルキレン基R41の炭素数が10を超えると、溶媒や樹脂中への分散性が低下する傾向にある。さらにまた、式(9)におけるR61は水素原子又はメチル基である。
【0080】さらにまた、金属酸化物として銅の酸化物を用いる場合、式(1)で表されるリン酸エステル化合物のうち、芳香環を有するリン酸エステル化合物と、芳香環を有しないリン酸エステル化合物とを混合して用いると好適である。このようにすると、可視光と近赤外光との境界にあたる波長領域(概ね波長750nm前後)における可視光側の透過率、及びその波長領域における近赤外光側の吸収率がともに高められた光学材料を得ることができる。
【0081】特に、上記芳香環を有するリン酸エステル化合物が、式(25)−a及び/又は式(25)−b、好ましくは式(25)−bで表される化合物であると、近赤外光の選択吸収性、及び可視光の選択透過性により優れると共に、後述する液状組成物を得る際に、溶剤への溶解性を高めることができる。このとき、上記の芳香環を有するリン酸エステル化合物及び/又はその銅化合物と、芳香環を有しないリン酸エステル化合物及び/又はその銅化合物との含有割合が、重量比で10:90〜90:10、好ましくは40:60〜90:10、特に好ましくは60:40〜85:15であるとより好適である。
【0082】〈光学材料〉本発明による光学材料は、上述したリン酸エステル化合物(以下、「特定のリン酸エステル化合物」という)と、上述した金属酸化物との反応により得られるリン酸エステル金属化合物を含有して成るものである。このような光学材料の好適な実施形態としては、例えば、以下のものが挙げられる。
[第1実施形態]:リン酸エステル金属化合物そのもの[第2実施形態]:リン酸エステル金属化合物を含有する液状組成物[第3実施形態]:リン酸エステル金属化合物を含有する樹脂組成物[第4実施形態]:リン酸エステル金属化合物を含有する粘着性組成物以下、これらについて説明する。
【0083】〈光学材料の第1実施形態:リン酸エステル金属化合物〉リン酸エステル金属化合物は、特定のリン酸エステル化合物と金属酸化物とを、適宜の条件下で接触させて反応させることにより製造される。具体的には、以下の第4の方法、第5の方法、第6の方法等を用いることができる。
〔第4の方法〕:特定のリン酸エステル化合物と金属酸化物とを混合して両者を反応させる方法。
〔第5の方法〕:適宜の有機溶剤中において特定のリン酸エステル化合物と金属酸化物とを反応させる方法。
〔第6の方法〕:上記第4又は第5の方法において、金属酸化物、又は、金属酸化物及び特定のリン酸エステル化合物の混合物に水を添加し、反応させる方法。
【0084】第5の方法において用いられる有機溶剤としては、用いられる特定のリン酸エステル化合物を溶解又は分散し得るものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ヘキサン、ケロシン、石油エーテル等が挙げられる。また、(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等の重合性を有する有機溶剤も用いられる。
【0085】これら第4〜第6の方法のなかでは、金属酸化物を構成する金属のリン酸エステル化合物への溶解性又は分散性を高める観点から、第6の方法を用いることが好ましい。
【0086】このように水を添加する場合の具体的な方法としては、特定のリン酸エステル化合物、又は、特定のリン酸エステル化合物及び有機溶剤の混合物(各種添加剤を含んでもよい)に金属酸化物を混合し、この混合物に所定量の水を添加し、所定時間攪拌するといた方法が挙げられる。このとき、特定のリン酸エステル化合物に金属酸化物及び水を同時に加えても構わない。
【0087】この水の添加量としては、リン酸エステル化合物由来の水酸基1モルに対して、好ましくは0.05〜5.0モル、より好ましくは0.10〜1.0モルである。或いは、金属酸化物中の酸素原子(水和物又は水化物における水分子の酸素原子を除く)1モルに対して、好ましくは0.30〜10モル、より好ましくは0.50〜1.0モルである。
【0088】また、水を添加して反応させるときの条件は、温度が、好ましくは0〜50℃で、より好ましくは10〜30℃、或いは室温程度、反応時間が、好ましくは5時間以上、より好ましくは10〜50時間、更に好ましくは20〜50時間である。
【0089】〈光学材料の第2実施形態:液状組成物〉この液状組成物は、特定のリン酸エステル化合物と金属酸化物との反応により得られるリン酸エステル金属化合物が、溶剤中に含有されて成るものである。液状組成物としては、溶剤を蒸発させて生成される薄膜や薄層が、金属イオンの吸収波長以外の波長光に対して透明なものであると好ましく、液状組成物自体は、透明なもの、半透明なもの、又は、不透明なものであってもよい。
【0090】溶剤としては、水又は有機溶媒を用いることができ、有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ブチルセルソルブ等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ヘキサン、ケロシン、石油エーテル等が用いられる。また、他の溶剤として、例えば、(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等の有機溶媒を用いることもできる。
【0091】この液状組成物は、溶剤として有機溶媒を用いる場合、前述した〔第5の方法〕又は〔第6の方法〕によって好ましく製造される。また、予め製造したリン酸エステル金属化合物を溶剤中に溶解又は分散させることによっても調製可能である。この液状組成物に含まれるリン酸エステル金属化合物の含有割合は、使用される溶剤の種類や、光学材料の用途や使用目的によって異なるが、調合後の粘度の観点から、通常、溶剤100重量部に対して、0.1〜1900重量部、好ましくは1〜900重量部、特に好ましくは5〜400重量部となる範囲で調整される。
【0092】〈光学材料の第3実施形態:樹脂組成物〉この樹脂組成物は、特定のリン酸エステル化合物と金属酸化物との反応により得られるリン酸エステル金属化合物が、樹脂中に含有されて成るものである。特定のリン酸エステル化合物は、樹脂との相溶性に優れたものであり、金属イオンがその樹脂中に良好に分散される。樹脂としては、特定のリン酸エステル化合物及び/又はリン酸エステル金属化合物との相溶性又は分散性に優れる樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、以下に示すアクリル系樹脂等の樹脂を好ましく用いることができる。
【0093】アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル系単量体又はそれから得られる重合体が好ましく用いられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体のうち単官能基のものの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロシキエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロシキプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレン(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート等の変性(メタ)アクリレート類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル〕プロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0094】なお、上記( )で囲まれた「メタ」の意味は、アクリル酸若しくはその誘導体、及び、メタクリル酸若しくはその誘導体の両方を記載する必要があるときに、記載を簡潔にするため便宜上使用されている記載方法であり、本明細書においても採用したものである。
【0095】また、別の樹脂としては、上記の(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、この(メタ)アクリル酸エステル系単量体との共重合が可能な他の共重合性単量体も用いられる。このような共重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸等の不飽和カルボン酸、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類、スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジブロムスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0096】さらに、特定のリン酸エステル化合物との相溶性が高い他の樹脂重合体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト等、更には、スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジブロムスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ヒドロキシメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物の重合体が挙げられる。
【0097】ここで、樹脂を構成する単量体として単官能性のもののみを用いる場合には、重合した成形体として熱可塑性のものが得られ、単量体の一部又は全部として多官能性のものを用いる場合には、熱硬化性の成形体が得られる。よって、これら樹脂を適宜選択することにより、使用目的、用途及び加工成形方法等に応じた光学材料の成形体を得ることが可能となる。これらのうち、熱可塑性のものを用いれば、重合後の再成形が容易となるので、成形加工性が向上される。
【0098】この樹脂組成物を調製するための具体的な方法は、特に限定されるものではないが、以下の2つの方法等によると好適である。
【0099】〔第7の方法〕:この第7の方法は、単量体中に、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物、又は、両者の反応によって得られたリン酸エステル金属化合物を含有させて単量体組成物を調製する方法である。この単量体組成物は、重合されずにそのまま光学材料として用いることができる。或いは、この単量体組成物を更にラジカル重合処理して重合体組成物としてもよい。また、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物を用いる場合には、単量体組成物に所定量の水を添加すると、金属酸化物の溶解性が高められるので好ましい。
【0100】この方法において、単量体組成物のラジカル重合処理の具体的な方法としては、特に限定されるものではなく、通常のラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法、例えば、塊状(キャスト)重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の公知の方法を利用することができる。
【0101】また、単量体組成物の重合によって得られる光学材料の成形体の耐候性や耐熱性を向上させる観点からは、この単量体組成物に、紫外線吸収剤や光安定剤等の各種の高分子用添加剤を添加すると好適である。また、光学材料の色調を整えるために、各種着色剤を添加することも可能である。
【0102】紫外線吸収剤としては、例えば、p−tert−ブチルフェニルサリシレート等のサリシレート系、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0103】また、光安定剤としては、例えば、ビス(1,2,2,6,6ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ジ(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−ブチル(3’,5’−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−(3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−4−(3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ポリ{(6−{1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ}−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)(1,6−{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル}アミノヘキサメチレン)}、ポリ{{6−(モルフォリノ)−S−トリアジン−2,4−ジイル}{1,6−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ}ヘキサメチレン}、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジネタノールとのジメチルサクシネートポリマー等の各種ヒンダードアミン系の光安定剤を用いることができる。
【0104】さらに、ラジカル重合開始剤としては、通常の有機過酸化物系重合開始剤を用いることができ、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシデカネート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、 tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート等のパーオキシエステル、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール等が好ましく用いられる。
【0105】或いは、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)や2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−2−カルボニトリル)等のアゾ系ラジカル重合開始剤も好ましく用いられる。
【0106】〔第8の方法〕:この第8の方法は、樹脂中に、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物、又は、両者の反応によって得られたリン酸エステル金属化合物を加えて混合する方法である。この方法は、樹脂として熱可塑性樹脂を用いるときに利用される。具体的には、■溶融させた樹脂中に、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物、又は、リン酸エステル金属化合物を加えて混練する方法、■樹脂を適宜の有機溶剤に溶解、分散又は膨潤させ、この溶液に特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物、又は、リン酸エステル金属化合物を加えて混合した後、この溶液から有機溶剤を除去する方法がある。また、上記■及び■のいずれの方法においても、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物を用いる場合には、単量体組成物に所定量の水を添加することにより、金属酸化物の溶解性を高めることが可能である。
【0107】上記■の方法における混練手段としては、熱可塑性樹脂の溶融混練法として一般に用いられている手段、例えば、ミキシングロールによって溶融混練する手段、ヘンシェルミキサー等によって予備混合した後、押出機によって溶融混練する手段が挙げられる。一方、上記■の方法で用いられる有機溶剤としては、樹脂を溶解、分散又は膨潤し得るものであれば、特に限定されるものではなく、その具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等の塩素系炭化水素類、ジメチルアクリルアミド、ジメチルフォルムアミド等のアミド化合物等が挙げられる。
【0108】ここで、樹脂組成物におけるリン酸エステル金属化合物の含有割合は、光学材料の用途又は使用目的によって異なるが、成形性の観点から、通常、樹脂100質量部に対して、0.1〜400質量部、好ましくは0.3〜200質量部、特に好ましくは1〜100質量部となる範囲で調整される。また、樹脂組成物(光学材料)における金属イオンの含有割合は、樹脂組成物全体に対して、前述したように好ましくは2〜60質量%となるように調整される。
【0109】〈光学材料の第4実施形態:粘着性組成物〉この粘着性組成物は、樹脂組成物の一形態であって、特定のリン酸エステル化合物と金属酸化物との反応により得られるリン酸エステル金属化合物が、粘着性を有する樹脂(以下、「粘着性樹脂」という)に含有されて成るものである。このような粘着性樹脂としては、例えば、粘着性を有するアクリル系樹脂、ポリビニルブチラール、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はその部分鹸化物等が挙げられる。
【0110】これらのなかで、粘着性を有するアクリル系樹脂は、粘着成分を構成するアクリル系単量体を含有する単量体組成物を重合処理することにより得られるものである。この粘着成分として用いられるアクリル系単量体としては、アルキル基の炭素数が4〜12であって、ホモポリマーのガラス転移点が−70℃〜−30℃であるアクリル酸アルキルエステルを好適に用いることができ、具体的には、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート等が挙げられる。
【0111】また、その単量体組成物には、凝集成分を構成する単量体及び改質成分を構成する単量体を含有させることが望ましい。この凝集成分を有する単量体としては、粘着成分として用いられるアクリル系単量体と共重合可能なものであって、得られる共重合体のガラス転移点を高める作用を有するものが用いられる。具体的には、炭素数が1〜3の低級アルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、スチレン等が挙げられる。
【0112】上記改質成分として用いられる単量体としては、粘着成分として用いられるアクリル系単量体と共重合可能であって、官能基を有するものが用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル等のカルボキシル基含有化合物、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の水酸基含有化合物、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド等の酸アミド化合物、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体等が挙げられる。
【0113】そして、単量体組成物における各単量体の使用割合は、用いられる単量体の種類、得られる光学材料の使用目的等によって異なるが、通常、粘着成分として用いられるアクリル系単量体が30〜95質量%、凝集成分として用いられる単量体が5〜50質量%、改質成分として用いられる単量体が0.1〜10質量%である。
【0114】この単量体組成物を重合処理する方法としては、溶液重合法及び乳化重合法を用いることができる。これら重合処理に用いられる触媒としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチルニトリル、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過酸化物が挙げられる。溶液重合法により単量体樹脂組成物の重合処理を行う場合には、重合溶媒として種々の有機溶媒を用いることができ、例えば酢酸エチル等のエステル類、芳香族炭化水素類、ケトン類等が挙げられる。また、乳化重合法により単量体組成物の重合処理を行う場合には、乳化剤として、通常の乳化重合に使用されている公知の種々のものを用いることができる。
【0115】上記のように単量体組成物を重合処理することにより、粘着性を有するアクリル系樹脂がポリマー溶液又はラテックスの状態で得られる。
【0116】本実施形態の粘着性組成物は、上記の粘着性を有するアクリル系樹脂、ポリビニルブチラール、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はその部分鹸化物等の粘着性樹脂に、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物、又は、リン酸エステル金属化合物を混合することにより得られる。ここで、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物を用いる場合には、所定量の水を添加して混合又は混練すると、金属酸化物の溶解性が高められるので好ましい。
【0117】また、この粘着性組成物には、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系又はサリチル酸系の紫外線吸収剤、その他の抗酸化剤、安定剤等を更に含有させることができる。またさらに、種々の可塑剤を含有させることもできる。このような可塑剤としては、リン酸トリクレジル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル系可塑剤、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸系可塑剤、ジブチルセバケート、ブチルリシノレート、メチルアセチルリシノレート、ブチルサクシネート等の脂肪酸系可塑剤、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラート、ポリエチレングリコール等のグリコール系可塑剤等が挙げられる。
【0118】以上説明した本発明の光学材料によれば、金属源として金属酸化物が用いられるので、金属酸化物と特定のリン酸エステル化合物との反応において酸成分及び水分の生成量が少ない。よって、金属源として酸塩を用いたときのような酸成分の除去が必要なく、製造工程が簡略化されると共に、光学材料の経時的な劣化を防止できる。また、水分の生成量が少ないので、耐湿性を向上でき、金属塩としてアルカリ塩を用いた場合に発生し易い白化を十分に抑制できる。さらに、金属酸化物は、一般に工業上の利用性及び経済性に優れている。このように耐湿性が向上され且つ劣化し難く、しかも工業的に利用し易いので、極めて耐久性及び耐候性に優れた光学材料を低コストで実現できる。
【0119】またさらに、金属酸化物として、遷移金属酸化物、及び/又は、希土類金属酸化物を金属源とすれば、これらの各金属は、その原子構造に特有な吸光特性又は発光特性、特に、d軌道の電子遷移によると考えられる優れた近赤外光吸収特性、特定波長の可視光吸収又は発光特性を発現するので、光学的な機能性に優れた種々の特性が発現される光学材料を得ることができる。
【0120】また、これらの金属酸化物のなかでも、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ホルミウム等の酸化物を用いると、光学的な機能により優れた光学材料が得られる。
【0121】特に、銅は、リン酸エステル化合物に配位又は結合されて極めて優れた近赤外光吸収特性及び可視光透過性を発現でき、視感度補正、測光、近赤外光及び赤外光カット、熱線吸収、輝度調整等の各種用途に好適な光学材料とすることができる。また、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム及びホルミウムは、吸収波長の吸収ピークが大きく且つ急峻であり、波長成分の選択性に優れていると共に、蛍光の発光効率が高い傾向にあり、或いは、レーザ発光するので、光増幅機能を発現できる光学材料を形成可能である。
【0122】また、リン酸エステル金属化合物そのもの、液状組成物、樹脂組成物等の各種形態の光学材料が得られるので、それらの形態に応じた優れた特性、例えば、成形加工性、熱可塑性、熱硬化性、透明性、耐候性、軽量性、粘着性、易取扱性、塗布容易性、乾燥性等を光学材料及び/又はその成形体に付与できる。したがって、各種の用途に適用可能な汎用性に富む光学材料が得られる。
【0123】また、各種形態の光学材料の製造において、特定のリン酸エステル化合物及び金属酸化物を混合する工程に加え、金属酸化物に水を添加する工程を備えると、従来、適用が困難と考えられていた金属酸化物を用いても、金属をリン酸エステル化合物及び/又は組成物中へより良好に溶解又は分散できる。よって、こうすれば、本発明の光学材料をより確実に且つ簡易に製造することが可能となる。
【0124】〈光学部材〉本発明による光学材料を用いると、種々の用途に適応した光学部材を形成できる。光学部材の形態としては、光学材料そのもの、透光性材料等と組み合わせたもの、成形加工したもの等が挙げられ、具体的には、粉体状、液状、粘着状、塗料状、フィルム状、板状、筒状、レンズ状等の種々の形態とすることができる。
【0125】このような光学部材は、その優れた耐久性、耐候性、光学特性、汎用性、経済性等により、例えば、CCD用、CMOS用又は他の受光素子用の視感度補正部材、測光用部材、熱線吸収用部材、複合光学フィルタ、レンズ部材(眼鏡、サングラス、ゴーグル、光学系、光導波系)、ファイバ部材(光ファイバ)、ノイズカット用部材、プラズマディスプレイ前面板等のディスプレイカバー又はディスプレイフィルタ、プロジェクタ前面板、光源熱線カット部材、色調補正部材、照明輝度調節部材、光学素子(光増幅素子、波長変換素子等)、ファラデー素子、アイソレータ等の光通信機能デバイス、光ディスク用素子等を構成するものとして好適である。
【0126】
【実施例】以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0127】〈実施例1〉(1)モノマー調製:式(28)−sで表されるビス(メタクリル酸オキシエチル)アシッドホスフェート及び式(28)−tで表されるメタクリル酸オキシエチルアシッドホスフェートの混合物6.45g(モル比が1:1、酸価数280mgKOH/g)をメチルメタクリレート43.5gに溶解混合後、α−メチルスチレン0.5gを加え、更に金属源として酸化第二銅0.8g(10mmol)を加え、室温で48時間攪拌した。この溶液を濾過してモノマー溶液を調製した。
【0128】(2)重合用ガラスモールドの組立:直径81mmのガラス製モールド板を二枚用意した。このガラス製モールド板の一方の周縁部に環状の軟質塩ビ製パッキンを配置し、更にその上から他方のガラス製モールド板を載せて対向配置し、両者のガラス製モールド板を外方からクランプで押さえて保持して重合用ガラスモールド(型)を組み立てた。
【0129】(3)樹脂板成形:上記(1)で調製したモノマー溶液50gにt−ブチルパーオキシデカネート0.5gを添加し、メンブランフィルターにて濾過した後、この濾液を上記(2)で組み立てた重合用ガラスモールド内に注入した。次いで、これをオーブン内に収容し、40℃の一定温度で3時間、40℃から100℃の昇温に2時間、100℃の一定温度で2時間、100℃から70℃の降温に2時間と順次異なる温度に制御しながら重合固化を行った。重合終了後、重合用ガラスモールドをオーブンから取り出し、クランプ、ガラス製モールド板を取り外し、厚さ3mmの青色透明な樹脂板を得た。
【0130】〈実施例2〉モノマー溶液の調製において、酸化第二銅0.8gを加える際に水0.10gを更に添加し、この混合物を室温で48時間攪拌したこと以外は実施例1と同様にして、モノマー溶液の調製、重合用ガラスモールドの組立及び樹脂板成形を行った。このときの水の添加割合は、式(28)−s及びtで表されるリン酸エステル化合物由来の水酸基1モルに対して0.15モル、酸化第二銅の酸素原子1モルに対して、0.55モルである。
【0131】〈分光透過率測定〉実施例1及び2で製作した樹脂板について、分光光度計「U−4000」〔(株)日立製作所製〕を用いて、分光透過率を測定した。波長200〜900nmにおける分光透過率曲線をそれぞれ図1及び2、波長50nm毎の透過率の数値を表1に示す。この結果より、金属酸化物として酸化第二銅を用いた本発明の光学材料は、銅イオンに特有な優れた近赤外光吸収特性を発現できると共に、十分な可視光透過特性を有することが確認された。また、実施例2の樹脂板の方が実施例1の樹脂板よりも近赤外光吸収特性が優れることが判明した。これより、リン酸エステル化合物と酸化第二銅を混合して反応させる際に水を添加することの優位性が確認された。
【0132】
【表1】


【0133】〈耐湿性試験〉実施例1及び2で製作した樹脂板を、温度60℃、相対湿度(RH)90%の高温高湿環境下に1000時間保持した。1000時間経過後、これらの樹脂板を目視観察したところ、表面に析出物は発生しておらず、また、白濁も全く生じておらず、透明な状態が維持されていた。さらに、吸湿による変形も生じなかった。また、1000時間経過後のこれらの樹脂板に対し、上述したのと同様にして分光透過率測定を実施したところ、分光特性に有意な変化は見られなかった。これらの結果より、本発明の光学材料は、耐湿性及び耐久性に極めて優れることが確認された。
【0134】〈実施例3〉モノマー溶液の調製において、酸化第二銅1.3gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、モノマー溶液の調製、重合用ガラスモールドの組立及び樹脂板成形を行った。
【0135】〈実施例4〉モノマー溶液の調製において、酸化第二銅1.3gを加える際に水0.1gを更に添加し、この混合物を室温で48時間攪拌したこと以外は実施例3と同様にして、モノマー溶液の調製、重合用ガラスモールドの組立及び樹脂板成形を行った。このときの水の添加割合は、式(28)−s及びtで表されるリン酸エステル化合物由来の水酸基1モルに対して0.1モル、酸化第二銅の酸素原子1モルに対して、0.34モルである。
【0136】〈比較例1〉金属源として水酸化銅1.3gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、モノマー溶液の調製、重合用ガラスモールドの組立及び樹脂板成形を行った。この樹脂板に対し、上述したのと同様にして耐湿性試験を行ったところ、1000時間経過後の樹脂板には、白化(曇化)が生じており、また、一部に反りが発生していた。
【0137】〈比較例2〉金属源として水酸化銅0.4gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、モノマー溶液の調製を行ったところ、モノマー溶液に白濁が生じてしまい、透明な樹脂板を製造することができなかった。
【0138】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明の光学材料によれば、十分な透明性及び耐湿性を達成でき、且つ、白化(曇化)を十分に抑制できる。また、本発明の光学材料の製造方法によれば、十分な透明性及び耐湿性を有し、且つ、白化(曇化)を十分に抑制でき、極めて耐久性及び耐候性に優れた光学材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の樹脂板における分光透過率曲線を示すグラフである。
【図2】実施例2の樹脂板における分光透過率曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記式(1)で表されるリン酸エステル化合物と、金属酸化物との反応により得られるリン酸エステル金属化合物を含有して成ることを特徴とする光学材料。
【化1】


[式(1)中、Rは、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)若しくは(9)で表される基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2であり、nが1のときにRは同一であっても異なっていてもよい。
【化2】


(式(2)〜(9)中、R11〜R17は炭素数が1〜20のアルキル基、炭素数が6〜20のアリール基又はアラルキル基を示し(ただし、芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基又はハロゲンによって少なくともひとつ置換されていてもよい)、R21〜R25は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基を示し(ただし、R23、R24、R25が全て水素原子の場合を除く)、R31及びR32は炭素数が1〜6のアルキレン基を示し、R41は炭素数が1〜10のアルキレン基を示し、R51及びR52は炭素数が1〜20のアルキル基を示し、R61は水素原子又はメチル基を示し、mは1〜6の整数を示し、kは0〜5の整数を示し、pは2〜97の整数を示し、rは1〜10の整数を示す。)]
【請求項2】 前記金属酸化物は、遷移金属酸化物、及び/又は、希土類金属酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項3】 前記金属酸化物は、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、銅、ネオジム、プラセオジム、ユーロピウム、ツリウム、エルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム及びホルミウムから成る群より選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物である、ことを特徴とする請求項2記載の光学材料。
【請求項4】 前記式(1)で表されるリン酸エステル化合物及び金属酸化物を混合する工程と、前記金属酸化物に水を添加する工程と、を備えることを特徴とする光学材料の製造方法。
【請求項5】 前記金属酸化物として、亜酸化銅、酸化第一銅、酸化第二銅、又は、三二酸化銅を用いることを特徴とする請求項4記載の光学材料の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開2001−264501(P2001−264501A)
【公開日】平成13年9月26日(2001.9.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−80664(P2000−80664)
【出願日】平成12年3月22日(2000.3.22)
【出願人】(000001100)呉羽化学工業株式会社 (477)
【Fターム(参考)】