説明

光学活性な3−アミノカルボン酸エステルの製造方法

本発明の対象は、一回N−アシル化された3−アミノカルボン酸エステルの、エナンチオマーを富化させたエナンチオマー混合物を、酸性の塩形成剤の添加により、脱アシル化し、かつ引き続いた結晶化によるさらなるエナンチオマー富化工程に供する、光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物の製造方法、ならびにそれらの誘導体の製造方法に関する。
【0002】
不斉合成、すなわちプロキラルな群からキラルな群を生成させ、その結果立体異性体の生成物(エナンチオマー、またはジアステレオマー)が不均一な量で生じる反応は、とりわけ薬品産業の範囲においてこの上なく重要である。と言うのも、しばしば特定の光学活性の異性体のみが、治療上活性だからである。この関連で、作用物質の光学活性な中間工程も、ますます重要になる。このことは、3−アミノカルボン酸エステル(式I)にも、ならびにそれらの誘導体、およびとりわけ3−アミノ酪酸エステル(式II)にも当てはまる。
【化1】

【0003】
このため、一般式IおよびIIの光学活性な化合物を製造するための効果的な合成法に対して大きな要求が生じる。
【0004】
文献には、不飽和の3−アセチルアミノカルボン酸エステルの調製のための多くの方法が記載されている。β−ケトエステルから水性の、または気体状のアンモニアとの反応によってエナミンが得られることは、公知である。第二の工程において、こうして製造されたエナミンを、無水酢酸との反応によってN−アシル化することができる。
【0005】
S.P.B.Ovendenら、(J.Org.Chem 1999年、64、1140〜1144p)は、p−トルエンスルホン酸で酸性化された、トルエンまたはベンゼン中のアセトアミドとβ−ケトエステルとの溶液の共沸脱水による、α−不飽和の3−アセチルアミノカルボン酸エステルの一工程での製造を記載している。
【0006】
オレフィンもしくはβ−置換されたα−アシルアミドアクリル酸の水素化は、当業者には充分公知であり、かつUS3849480、もしくはUS4261919に記載されている。この中でW.S.KnowlesとM.J.Sabackyは、光学活性なエナンチオマーの形態が生成物として所望であり、かつ触媒錯体の金属がRh、Ir、Ru、Os、Pd、およびPtから選ばれている、光学活性な水素化触媒の存在下での、均一触媒によるオレフィンの不斉水素化(とりわけβ−置換されたα−アクリルアミド−アクリル酸の不斉水素化)のための一般的な方法を開示している。
【0007】
α−不飽和の3−アセチルアミノカルボン酸誘導体を、飽和の3−アミノカルボン酸誘導体へと不斉水素化するための実施例と、このために使用されるキラルな触媒の例はとりわけ、WO9959721、WO00118065、EP967015、EP1298136、WO03031456、およびWO03042135に開示されている。
【0008】
N.W.Boazらは、Org.Proc.Res.Develop.2005年、9、472pで、2−アミノカルボン酸アルキルエステルへの、2−アセチルアミノカルボン酸アルキルエステルの直接的な脱アシル化を記載している。同族の3−アミノカルボン酸アルキルエステルの反応は記載されていない。
【0009】
従って本発明は、光学活性な3−アミノカルボン酸エステルの、およびそれらの誘導体の単純な、ひいては経済的な製造方法を提供するという課題に基づく。
【0010】
意外なことに設定された課題は、一回N−アシル化された3−アミノカルボン酸エステルを、脱アシル化し、かつ結晶化によるエナンチオマー富化工程に供する方法によって解決されることが判明した。
【0011】
従って本発明の対象は、一般式I
【化2】

[式中、R1はアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールであり、かつR2はアルキル、シクロアルキル、またはアリールである]
の光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物を製造するための方法、ならびにそれらのアンモニウム塩の製造方法であって、
この際一般式(I.b)
【化3】

[式中、R1とR2は先に記載した意味を有し、かつR3は水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである]
の、一回N−アシル化された3−アミノカルボン酸エステルの、エナンチオマーが富化されたエナンチオマー混合物を、酸性の塩形成剤の添加によって脱アシル化し、かつ引き続いたさら結晶化によるエナンチオマー富化工程に供する。
【0012】
本発明のさらなる対象は、一般式(I’)
【化4】

[式中、R1はアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールであり、かつR2’は水素、カチオン等価体のM+、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである]
の光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物の製造方法、ならびにそれらの誘導体の製造方法であり、
この際
a)一般式I.1
【化5】

[式中、R1とR2は先に記載した意味を有する]
のβ−ケトエステルを、
a1)アミド化触媒の存在下で、式R3−C(O)NH2[式中、R3は先に挙げた意味を有する]の少なくとも1のカルボン酸アミドと、または
a2)アンモニア、および引き続いた一般式R3−C(O)X[式中、Xはハロゲン、または式OC(O)R4[式中、R4は先にR3に対して記載した意味を有する]の基である]のカルボン酸誘導体と、
反応させて、N−アシル化された、α−不飽和の(Z)−、および(E)−3−アミノカルボン酸エステルから成る相応する混合物を得、かつ場合によっては一般式(I.a)
【化6】

[式中、R1、R2、およびR3は先に記載した意味を有する]
の(Z)−3−アミノカルボン酸エステルを単離し、
b)この反応で得られたエナミド(I.a)を、キラルな水素化触媒の存在下、エナンチオ選択性の水素化に供し、一般式(I.b)
【化7】

[式中、R1、R2、およびR3は先に記載した意味を有する]
の、エナンチオマーを富化させた、一回N−アシル化されたβ−アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を得、
c)水素化の際に得られた、化合物I.bのエナンチオマー混合物を、酸性の塩形成剤の添加によって脱アシル化し、かつ引き続いた結晶化によるさらなるエナンチオマー富化工程に供し、かつその際形成される、立体異性体を富化させた3−アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩を単離し、かつ
d)場合によっては単離されたアンモニウム塩を3−アミノカルボン酸エステルに変え、かつ
e)場合によっては3−アミノカルボン酸エステルを遊離の3−アミノカルボン酸、またはそれらの塩に変える。
【0013】
本発明の範囲において「キラルな化合物」とは、少なくとも1のキラル中心(すなわち少なくとも1の不斉原子、例えば少なくとも1の不斉C原子、または不斉P原子)、キラル軸、キラル面、またはらせん軸を有する化合物である。「キラルな触媒」という概念は、少なくとも1のキラルな配位子を有する触媒を含む。
【0014】
「アキラルな化合物」とは、キラルではない化合物である。
【0015】
「プロキラルな化合物」とは、少なくとも1のプロキラル中心を有する化合物と理解される。「不斉合成」とは、少なくとも1のプロキラル中心を有する化合物から、少なくとも1のキラル中心、キラル軸、キラル面、またはらせん軸を有する化合物が生成し、立体異性体の生成物が不均一な量で生じる反応である。
【0016】
「立体異性体」とは、同一の構成でありながら、三次元空間で異なる原子配置の化合物である。
【0017】
「エナンチオマー」とは、お互いに鏡像に対する像のように振る舞う立体異性体である。この際、不斉合成において得られる「エナンチオマー過剰率」(enantiomeric excess、ee)は、以下の式に従って求められる:
ee[%]=(R−S)/(R+S)*100
RとSは、双方のエナンチオマーのためのCIPシステムのディスクリプターであり、かつ不斉原子の絶対配置を表す。エナンチオマーの多い化合物(ee=100%)は、「ホモキラル化合物」とも呼ばれる。
【0018】
本発明による方法は、特定の立体異性体が富化されている生成物につながる。通常得られる「エナンチオマー過剰率(ee)」は、N−アシル化された3−アミノカルボン酸エステルに関して少なくとも約3%である。本方法により達成可能なee値は通常、少なくとも98%である。
【0019】
「ジアステレオマー」とは、互いにエナンチオマーではない立体異性体である。
【0020】
本発明により得られる化合物中にはさらなる不斉原子が存在しうるが、ここで実施される立体異性体という概念は、特に明確に言及しない場合、化合物IまたはI’中の不斉のβ−炭素原子に相応する、その都度の化合物の炭素原子に関する。さらなる立体中心が存在する場合、本発明の範囲においてはこれらの名称を列挙しない。
【0021】
以下、「アルキル」という言葉は、直鎖の、および分枝状のアルキル基を含む。この際これは好適には、直鎖の、または分枝状のC1〜C20のアルキル、好ましくはC1〜C12のアルキル基、特に好ましくはC1〜C8のアルキル基、および極めて特に好ましくはC1〜C6のアルキル基である。アルキル基の例は、とりわけメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、2−ペンチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、1,1−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、2−ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1−エチル−2−メチルプロピル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、2−エチルペンチル、1−プロピルブチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、2−メチルヘプチル、ノニル、デシル、2−プロピルヘプチルである。
【0022】
「アルキル」という言葉は置換されたアルキル基も含み、一般的にこれらの基はシクロアルキル基、アリール基、ヘタリール基、ハロゲン基、COORf基、COO-+基、およびNE12から選択されている[式中、Rfは水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールであり、M+はカチオン等価体であり、かつE1とE2は相互に独立して水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである]、1、2、3、4、または5の、好ましくは1、2、または3の、および特に好ましくは1の置換基を有することができる。
【0023】
本発明の意味において「シクロアルキル」という言葉は、置換されていない、およびまた置換されたシクロアルキル基、好適にはC3〜C8のシクロアルキル基、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル、またはシクロヘプチルを含み、これらの基は置換の場合、一般的に1、2、3、4、または5の、好ましくは1、2、または3の、および特に好ましくは1の置換基、好適にはアルキルとアルキルに対して挙げた置換基から選択されている1の置換基を有することができる。
【0024】
本発明の意味において「ヘテロシクロアルキル」という言葉は、一般的に4〜7の、好適には5、または6の環原子を有する飽和の環式脂肪族基を含み、これらの基の中の1、または2の環炭素原子が、好適には元素の酸素、窒素、および硫黄から選択されているヘテロ原子によって置き換えられており、かつ場合によっては置換されていることができ、この際置換の場合はこれらの脂肪族ヘテロ環基は、アルキル、シクロアルキル、アリール、COORf、COO-+、およびNE12、好ましくはアルキル[式中、Rfは水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールであり、M+はカチオン等価体であり、かつE1とE2は相互に独立して水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである]から選択されている1、2、または3、好適には1または2、特に好ましくは1の置換基を有することができる。このような脂肪族ヘテロ環基の例としては、ピロリジニル、ピペリジニル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、オキサゾリジニル、モルホリジニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソオキサゾリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニルが挙げられるだろう。
【0025】
本発明の意味において「アリール」という言葉は、置換されていない、およびまた置換されたアリール基を含み、かつ好適にはフェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニル、フェナントレニル、またはナフタセニル、特に好ましくはフェニルまたはナフチルであり、この際これらのアリール基は置換の場合は一般的に、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、またはハロゲン基から選択されている、1、2、3、4、または5の、好適には1、2、または3の、および特に好ましくは1の置換基を有することができる。
【0026】
本発明の意味において「ヘタリール」という言葉は、置換されていない、または置換された芳香族ヘテロ環基、好適にはピリジル基、キノリニル基、アクリジニル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、インドリル基、プリニル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、1,2,3−トリアゾリル基、1,3,4−トリアゾリル基、およびカルバゾリル基を含み、この際これらの芳香族ヘテロ環基は、置換の場合一般的に、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、カルボキシル基、カルボキシラート基、−SO3H基、スルホナート基、NE12基、アルキレン−NE12基[式中、E1とE2は先に挙げた意味を有する]、またはハロゲン基から選択されている、1、2、または3の置換基を有することができる。
【0027】
「アルキル」、「シクロアルキル」、「アリール」、「ヘテロシクロアルキル」、および「ヘタリール」という言葉に対する上記の説明は、「アルコキシ」、「シクロアルコキシ」、「アリールオキシ」、「ヘテロシクロアルコキシ」、および「ヘタリールオキシ」という言葉にも相応して当てはまる。
【0028】
本発明の意味において「アシル」という言葉は、一般的に2〜11の、好適には2〜8の炭素原子を有するアルカノイル基、またはアロイル基、例えばアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、2−エチルヘキサノイル基、2−プロピルヘプタノイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、またはトリフルオロアセチル基である。
【0029】
「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素、好ましくはフッ素、塩素、および臭素である。
【0030】
+は、カチオン等価体、すなわち一価のカチオン、または多価のカチオンの1の陽性の負荷成分である。これに該当するのは例えば、Li、Na、K、Ca、およびMgである。
【0031】
先に記載したように、本発明による方法は一般式IおよびIIの光学活性な化合物の製造、ならびにそれらの誘導体の製造を可能にする。
【0032】
1は好適には、C1〜C6のアルキル、C3〜C7のシクロアルキル、またはC6〜C14のアリールであり、これらは先に述べたように場合によっては置換されていることができる。とりわけR1はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、シクロヘキシル、またはフェニル、特にメチルである。
【0033】
2は好ましくは置換されていない、または置換されたC1〜C6のアルキル、C3〜C7のシクロアルキル、またはC6〜C14のアリールである。特に好ましくは、基R2はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、トリフルオロメチル、シクロヘキシル、フェニル、およびベンジルである。
【0034】
2’は水素、M+、ならびにR2に対して挙げた意味である。
【0035】
3は水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリール、とりわけ水素、メチル、エチル、トリフルオロメチル、ベンジル、およびフェニルである。
【0036】
本発明によれば、化合物I.bのエナンチオマー混合物を酸性の塩形成剤の添加によって脱アシル化し、かつ引き続いた結晶化によるさらなるエナンチオマー富化工程に供し、かつこの際形成される、立体異性体を富化させた3−アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩を単離する。
【0037】
本発明による方法に特有の特徴は、脱アシル化に使用される、一般式I.bの化合物の異性体混合物中に、相応するエナンチオマーも、またはキラルなβ−ケトエステルから出発してジアステレオマーも、無視できない量で含まれていることである。従って本方法は有利には、例えば前駆体化合物からエナミドの通常の不斉水素化によって得られる、一般式I.bの化合物の異性体混合物から出発して、一般式Iの光学活性な化合物の製造を可能にする。
【0038】
本方法工程においては通常、すでにエナンチオマーを富化させてあるエナンチオマー混合物を使用する。好ましくはこれらの混合物のee値は75%超、および特に好ましくは90%超である。
【0039】
本発明による方法の好ましい実施形態においては、脱アシル化をアルコール溶剤内で実施する。
【0040】
本発明により使用されるアルコール溶剤とは、純粋なアルコール、ならびにアルコールを含む溶剤混合物と理解される。これはこの際とりわけメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、およびシクロヘキサノール、ならびにこれらのアルコールと不活性の溶剤との、例えば芳香族化合物、例えばトルエン、および塩化炭化水素、ジクロロメタン、またはクロロホルムとの混合物である。これは特に好ましくは、式R2−OH[式中、R2は式I、またはIIの生成物の場合と同じ意味を有する]の化合物である。
【0041】
本発明による方法のさらなる好ましい実施形態においては、結晶化によるエナンチオマーの富化のために溶剤として少なくとも1のエステル、または少なくとも1のエステルを含む溶剤混合物を添加する。このエステルは好ましくは酢酸アルキルエステル、とりわけ式CH3C(O)OR2[式中、R2は上記の意味を有する]の酢酸アルキルエステルである。特に好ましくはR2は、反応させN−アシル化された、式(I.b)の3−アミノカルボン酸エステルにおける意味と同じ意味を有する。このエステルは特に、酢酸メチル、または酢酸エチルである。
【0042】
本発明の特別な実施形態においては、脱アシル化の際に使用される溶剤または溶剤混合物を、脱アシル化を行った後、当業者に公知の通常の方法によって、特に蒸留法によって部分的に、または完全に除去する。引き続き、結晶化によるエナンチオマー富化のために、残留物に適切な溶剤または溶剤混合物、特に1のエステルから成るか、または1のエステルを含む溶剤混合物を添加する。好適には結晶化によるエナンチオマー富化のために使用される溶剤を、濃縮された(すなわち飽和の、またはほぼ飽和の)3−アミノカルボン酸エステル化合物の溶液に添加する。場合によっては引き続き、脱アシル化の際に使用された溶剤の残分を当業者に公知の方法によって、好適には蒸留法によってさらに低下させる。この際特に好ましくは、脱アシル化の際に使用された溶剤の残分を5%未満に低下させる。
【0043】
好ましくは脱アシル化を、少なくとも60℃の、特に好ましくは少なくとも75℃の温度で実施する。引き続いた結晶化のために、この温度を下げることができる。
【0044】
脱アシル化の際の圧力は一般的に、周囲圧力〜25barの範囲である。アルコール溶剤を使用する際、圧力は好ましくは1〜10barの範囲である。引き続いた結晶化は常圧で実施することができる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態においては、脱アシル化、および引き続いた結晶化のために使用される塩形成剤が、アキラルな酸性化合物から選択されている。塩形成剤として適しているのは例えば、水性環境において酢酸より大きい酸強度を有し、かつ飽和のβ−アミノカルボン酸エステルとアンモニウム塩を形成する酸である。有利には、塩の沈殿、およびこれらの引き続いた単離が、光学純度の向上につながる。
【0046】
好適にはこれらの塩形成剤から生成する塩は、安息香酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、シュウ酸水素塩、硫酸水素塩、ギ酸塩、乳酸塩、フマル酸塩、塩化物、臭化物、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホナート、およびメタンスルホナートから選択されている。特に好ましくはp−トルエンスルホナート、およびメタンスルホナートが適している。
【0047】
このような塩形成剤を使用する場合、通常、単離されたアンモニウム塩に対して、少なくとも98%のee値が得られる。
【0048】
本発明による方法の特に好ましい実施形態において、脱アシル化と引き続いた結晶化のために塩形成剤としてp−トルエンスルホナート、またはメタンスルホナートを使用し、かつ脱アシル化のために使用されるアルコール溶剤は、式R2−OH[式中、R2は先に記載した意味を有する]の化合物を含む。
【0049】
結晶化によるエナンチオマー富化の際の温度は一般的に、使用される溶剤もしくは溶剤混合物の融点から沸点の間の範囲である。適切な実施形態においては、結晶形成を開始させるため、および/または所望のエナンチオマーの沈殿を完全にするために、結晶化の過程における温度を一回または複数回高め、かつ/または低下させることができる。
【0050】
有利には、エナンチオマーを富化させる結晶化後に単離された固体は、少なくとも97.0%の、およびとりわけ98%超のee値を有する。
【0051】
ee値95%のN−アシル化された3−アミノカルボン酸エステルを使用する際は通常、脱アシル化が行われた後、相応するアンモニウム塩に対して少なくとも98%のee値が得られる。
【0052】
結晶化の際に得られる、式Iまたは式IIの生成物を、後処理に供することができる(以下の実施の方法工程d)、およびe)を参照)。
【0053】
本発明のさらなる対象は、以下に記載する反応工程a)〜c)、および選択的にd)およびe)を含む方法に関する。
【0054】
工程a)
本発明による方法の工程a)の実施形態においては、アミド化触媒の存在下、式I.1のβ−ケトエステルを、少なくとも1の式R3−C(O)NH2のカルボン酸アミドと反応させ、反応水を除去して式I.aの3−アミノカルボン酸エステルにする(工程a.1)。
【0055】
好ましくは、工程a.1における式R3−C(O)NH2のカルボン酸アミドは、アセトアミド、プロピオン酸アミド、安息香酸アミド、ホルムアミド、またはトリフルオロアセトアミド、とりわけ安息香酸アミドまたはアセトアミドである。
【0056】
工程a.1に適した溶剤は、水と低沸点で共沸混合物を形成し、当業者に公知の分離法(例えば共沸蒸留)により反応水を除去できる溶剤である。これはとりわけ芳香族化合物、例えばトルエン、ベンゼンなど、ケトン、例えばメチルイソブチルケトン、またはメチルエチルケトンなど、およびハロゲンアルカン、例えばクロロホルムである。好ましくはトルエンを使用する。
【0057】
適切なアミド化触媒は、例えば酸、例えばp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸などである。好ましくはp−トルエンスルホン酸を使用する。
【0058】
好適には方法工程a.1での反応を20〜110℃の、特に好ましくは60〜90℃の範囲の温度で行う。この際特に好ましくは、この温度は通常の条件下、使用される溶剤の沸点以上である。
【0059】
方法工程a.1は通常、0.01〜1.5bar、とりわけ0.1〜0.5barで実施する。場合によっては工程a.1で得られるアミノカルボン酸エステルを、当業者に公知の通常の方法(例えば蒸留による方法)に従って精製工程に供することができる。
【0060】
別の実施においては、式I.1のβ−ケトエステルを水性のアンモニアと、および引き続き式R3−C(O)X[式中、Xはハロゲン、または式OC(O)R4[式中、R4は先にR3に対して記載した意味を有する]の基である]のカルボン酸誘導体と反応させてN−アシル化された、β−不飽和の(Z)−3−アミノカルボン酸エステル(I.a)にする(工程a.2)。
【0061】
このカルボン酸誘導体は、好適にはカルボン酸塩化物から[式中、Xは塩素であり、かつR3は先に記載した意味を有する]、またはカルボン酸無水物[式中、XはOC(O)R4であり、かつR4は好ましくはR3と同様の意味を有する]から選択されており、特に好ましくはこれらのカルボン酸誘導体は塩化アセチル、塩化ベンゾイル、または無水酢酸である。
【0062】
好ましくは工程a.2でのアシル化を、20℃〜120℃の範囲の温度で実施し、特に好ましくは60℃〜90℃の範囲の温度で実施する。
【0063】
工程a.2でのアシル化を、極性溶剤中、または極性溶剤と非極性溶剤との混合物中で実施し、好ましくはこの極性溶剤が式R3COOHのカルボン酸、または第三級アミンであり、非極性溶剤としてはとりわけハロゲンアルカン、および芳香族化合物が適しており、特に好ましくは溶剤として酢酸、またはトリエチルアミンを使用する。
【0064】
工程a.2でのアシル化は、触媒量で、ならびに化学量論的に、または溶剤として使用可能な触媒を用いて実施することができ、該触媒は好適には非求核塩基、例えば第三級アミンであり、この際特に好ましいのはトリエチルアミン、および/またはジメチルアミノピリジン(DMAP)である。
【0065】
場合によっては、工程a.1、およびa.2において(Z)−3−アミノカルボン酸エステルが(E)−3−アミノカルボン酸との混合物として、および場合によってはさらなるアシル化生成物が得られる。この場合、式I.aの(Z)−3−アミノカルボン酸エステルを当業者に公知の方法によって単離する。好ましい方法は、蒸留による分離である。
【0066】
工程b)
工程aで得られた、式I.aのα−不飽和の(Z)−3−アミノカルボン酸エステル化合物を、その後キラルな水素化触媒の存在下、エナンチオ選択性の水素化に供し、エナンチオマーを富化させたエナンチオマー混合物である、一回N−アシル化された、一般式(I.b)のβ−アミノカルボン酸エステルを得ることができる。
【0067】
好適には工程b)において、少なくとも1のキラルな、リン原子を含む化合物を配位子として含む、元素周期表の8〜11族の遷移金属の少なくとも1の錯体を、水素化触媒として使用する。
【0068】
水素化のために好適には、使用されるα−不飽和の、N−アシル化された3−アミノカルボン酸エステル(I.a)を、所望の異性体を選抜して水素化することができる、キラルな水素化触媒を使用する。好適には工程b)で得られる式I.bの化合物は不斉水素化の後、少なくとも75%の、特に好ましくは少なくとも90%のee値を有する。しかしながら本発明による方法においては、これほど高いエナンチオマー純度は多くの場合必要でない。と言うのも、本発明による方法によれば、引き続いた脱アシル化工程、および結晶化工程においてさらなるエナンチオマー富化を行うからである。しかしながら好適には、化合物I.bのee値は、少なくとも75%である。
【0069】
好適には本発明による方法は、基質/触媒の比(s/c)が少なくとも1000:1、特に好ましくは少なくとも5000:1、およびとりわけ少なくとも15000:1の場合の、エナンチオ選択性の水素化を可能にする。
【0070】
好ましくは、以下に挙げる配位子の少なくとも1つを有する、8、9、10族の金属の錯体を不斉水素化のために使用する。好適にはこの遷移金属は、Ru、Rh、Ir、Pd、またはPtから選択されている。特に好ましくは、Rhベース、およびRuベースの触媒である。とりわけ好ましいのは、Rhの触媒である。
【0071】
配位子として使用されるリン含有化合物は、好適には二座の、および多座のホスフィン化合物、ホスフィニット化合物、ホスホニット化合物、ホスホロアミダイト化合物、およびホスフィット化合物から選択されている。
【0072】
好ましくは、以下の式
【化8】

[式中、Arは場合によっては置換されたフェニル、好ましくはトリル、またはキシリルである]
の化合物から選択されている少なくとも1の配位子を有する触媒、またはそれらのエナンチオマーを、水素化のために使用する。
【0073】
特に好ましくは、先に挙げた化合物群の二座の化合物である。とりわけP−キラルの化合物、例えばDuanPhos、TangPhos、またはBinapineが好ましい。
【0074】
少なくとも1のリン原子を介して遷移金属に配位された、適切なキラルな配位子は、当業者に公知であり、かつ例えばChiral Quest((Princeton)Inc.,Monmouth Junction,NJ)により市販で手に入る。先に例示的に記載したキラルな配位子の呼称は、その市販の名称に相応する。
【0075】
キラルな遷移金属錯体は、当業者に公知の方法(例えば、Uson,Inorg.Chim.Acta 73、275p 1983年、EP−A−0158875、EP−A−437690)で、適切な配位子と、非安定性の、または半非安定性の(hemilabil)を配位子を含む金属錯体との反応によって得ることができる。この際、錯体、例えばPd2(ジベンジリデンアセトン)3、Pd(OAc)2(Ac=アセチル)、RhCl3、Rh(OAc)3、[Rh(COD)Cl]2、[Rh(COD)OH]2、[Rh(COD)OMe]2(Me=メチル)、Rh(COD)acac、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、[Rh(COD)2)]X、Rh(acac)(CO)2(acac=アセチルアセトナート)、RuCl3、Ru(acac)3、RuCl2(COD)、Ru(COD)(メタリル)2、Ru(Ar)I2、およびRu(Ar)Cl2(Ar=アリール)(これらは置換されていなくても、また置換されていてもよい)、[Ir(COD)Cl]2、[Ir(COD)2]X、Ni(アリル)Xを、触媒前駆体として使用することができる。COD(=1,5−シクロオクタジエン)の代わりに、NBD(=ノルボルナジエン)を使用することもできる。好ましくは、[Rh(COD)Cl]2、[Rh(COD)2)]X、Rh(acac)(CO)2、RuCl2(COD)、Ru(COD)(メタリル)2、Ru(Ar)Cl2(Ar=アリール)(これらは置換されていなくても、また置換されていてもよい)、ならびにCODの代わりにNBDを有する相応する系である。特に好ましくは、[Rh(COD)2)]X、および[Rh(NBD)2)]Xである。
【0076】
Xは、不斉合成で一般的に使用可能な、当業者に公知のあらゆるアニオンであることができる。Xの例はハロゲン、例えばCl-、Br-、またはI-、BF4-、ClO4-、SbF6-、PF6-、CF3SO3-、BAr4-である。好ましいXはBF4-、PF6-、CF3SO3-、SbF6-である。
【0077】
キラルな遷移金属錯体を、反応槽における実質的な水素化反応の前に、その場所で製造するか、または個別にも生成することができ、単離して、かつ引き続き使用することができる。この際、少なくとも1の溶剤分子が遷移金属錯体に付加することが起こり得る。錯体製造のための慣用の溶剤(例えばメタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタンなど)は、当業者に公知である。
【0078】
さらに少なくとも1の非安定性の、または半非安定性の配位子を有する、ホスフィン金属錯体、亜ホスフィン酸金属錯体、亜ホスホン酸金属錯体、ホスホロアミダイト金属錯体、および亜リン酸金属錯体、もしくはこれらの金属−LM−錯体(LM=溶剤)は、適切な触媒前駆体であり、これらの前駆体から水素化条件で実質的な触媒が生成する。
【0079】
本発明による方法の水素化工程(工程b)は通常、−10〜150℃の温度、好ましくは0〜120℃の温度、および特に好ましくは10〜70℃の温度で実施する。
【0080】
この際水素圧は、0.1bar〜600barの範囲で変えることができる。好ましくはこの水素圧は0.5〜20barの圧力範囲、特に好ましくは1〜10barである。
【0081】
エナミドI.aの水素化反応のための溶剤としては、不斉水素化のために当業者に公知のすべての溶剤が適している。好ましい溶剤は低級アルキルアルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ならびにトルエン、THF、酢酸エチルである。特に好ましくは、本発明による方法において酢酸エチル、またはTHFを溶剤として使用する。
【0082】
先に記載した水素化触媒(もしくは水素化触媒前駆体)を、適切な方法、例えばアンカー基として適した官能基、吸着、グラフトなどによる、適切な担体、例えばガラス、シリカゲル、プラスチック樹脂、ポリマー担体などからなる担体への結合によって、固定することができる。これらの担体は、固体相触媒としての使用にも適している。有利には、この方法に従って触媒消費量をさらに低下させることができる。先に記載した触媒は、連続的な反応実施、例えば先に記載したような固定後の固体相触媒の形態においても適している。
【0083】
さらなる実施において、工程bにおける水素化を連続的に実施する。連続的な水素化を、1または好適には複数の反応帯域で行うことができる。複数の反応帯域は、複数の反応器、または反応器内部の空間的に異なる領域によって形成することができる。複数の反応器を使用する場合、これらはその都度同一の、または異なる反応器であることができる。これらの反応器はその都度、同一または異なる混合特性を有することができ、および/または内部構造物によって1または複数に分割されていることができる。これらの反応器は恣意的に相互に、例えば並列に、または直列に接続されていることができる。
【0084】
水素化のための適切な耐圧反応器は、当業者には公知である。これに該当するのは、一般的には気液反応のための通常の反応器、例えば管式反応器、管束反応器、撹拌槽、空気強制循環反応器、泡鐘塔などであり、これらは場合により内部構造物によって充填されているか、もしくは分割されていることができる。
【0085】
工程c)
工程c)については、最初に行った、酸性の塩形成剤の添加による結晶化のための実施のところで、引き合いに出されている。
【0086】
工程d)
所望の場合は、エナンチオマーを富化させる結晶化の際に単離されるアンモニウム塩を、さらなる後処理に供することができる。従って例えば、式Iの光学活性な化合物の遊離のために、結晶化の生成物を1の適切な塩基、好適にはNaHCO3、NaOH、KOHと接触させることができる。適切な方法では、結晶化の生成物を水に溶解するか、または懸濁させ、かつ引き続き塩基の添加によってpH値を約8〜12、好適には約10に調整する。遊離の3−アミノカルボン酸エステルの単離のために、塩基性の溶液または懸濁液を、適切な有機溶剤、例えばエーテル、例えばメチルブチルエーテル、炭化水素または炭化水素混合物、例えばアルカン、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、またはアルカン混合物、リグロイン、または石油エーテル、または芳香族化合物、例えばトルエンによって、抽出することができる。好ましい抽出剤は、トルエンである。この方法の場合、3−アミノ酸エステルをほぼ定量で得ることができ、ee値もそのまま得られる。
【0087】
工程e)
場合によっては3−アミノカルボン酸エステルを、当業者に公知の方法を用いて誘導することができる。可能な誘導は例えば、光学活性なアルコールへのエステルの鹸化、または光学活性なアルコールへの、カルボキシル炭素原子の立体選択性の還元を含む。
【0088】
従って本発明による式I’の化合物の誘導体は例えば、3−アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩、R2’が水素である遊離のカルボン酸、R2’がM+である遊離のカルボン酸、ならびに光学活性な3−アミノアルコールを含む。
【0089】
特別な実施において、先に記載した方法は、以下の絶対配置を有する、式II
【化9】

[式中、R2はC1〜C6のアルキルである]
の光学活性な化合物もしくはそれらのアンモニウム塩の製造に、またはこれらの化合物もしくは塩のエナンチオマーの製造に役立つ。これらの化合物、およびこれらの塩は高い光学純度で、とりわけ少なくとも98%のee値で得られる。
【0090】
実施例
実施例1:(R)−3−アミノ酪酸メチルエステルの製造
【化10】

a)(Z)−N−アセチル−3−アミノクロトン酸エチルエステルの合成
アセト酢酸メチルエステル(580g、5mol)、アセトアミド(295g、5mol)、およびトルエン(1l)中のp−トルエンスルホン酸一水和物(19g、0.1mol)を、還流温度80℃、および300mbarの圧力で水分離器を用いて反応水がそれ以上分離されなくなるまで加熱し、かつGC分析によって完全な反応を確認した(24h)。反応混合物を25℃に冷却後、有機相を水で洗浄した(375mlで二回)。一つにまとめた水相を引き続きトルエン(500ml)で抽出し、集めた有機相を一つにまとめ、かつトルエンを低圧下で除去した。こうして得られた未精製の生成物を低圧下(15mbar)での蒸留により、105℃の塔頂温度で短い塔によって精製した。(Z)−N−アセチル−3−アミノクロトン酸メチルエステル(380g、2.38mmol)が、98%の純度(GC)で得られた。収率は47%であった。
【0091】
b)(R)−N−アセチル−3−アミノ酪酸メチルエステルの合成
保護ガス下、(Z)−N−アセチル−3−アミノクロトン酸メチルエステル(200g、1.27mmol)をTHF(200g)中に溶解し、かつ反応槽を短時間真空処理することによって脱ガスした。[Rh(COD)DuanPhos]OTf(31.5mg、0.042mmol)の添加後、生成する溶液を、一定の保護ガス雰囲気を維持しながら1.2lのオートクレーブに移送した。このオートクレーブを5barの水素圧で二度洗浄し、かつ引き続きこの水素圧で70℃に加熱し、かつ20時間撹拌した。反応搬出物のGC分析により、99.2%の(R)−N−アセチル−3−アミノ酪酸メチルエステル含有率で、99.5%の反応率が測定された。ee値は95.1%eeであった。
【0092】
c)p−トルエンスルホン酸を用いた、(R)−3−アミノ酪酸メチルエステルの合成
工程b)に従って得られた、THF(43ml)中の(R)−N−アセチル−3−アミノ酪酸メチルエステル(37.5g)の溶液から、低圧下、50℃の温度で溶剤を除去した。残留物をメタノール(94ml)中に取り、p−トルエンスルホン酸一水和物(53.8g)を添加し、かつ固有圧力下、12時間100℃で撹拌した。反応溶液の冷却と放圧の後、メタノールを低圧下、50℃で除去した。残留物に酢酸メチルエステル(112ml)を50℃で添加し、かつ引き続き0〜5℃にゆっくり冷却した。沈殿する生成物を濾過により単離し、冷酢酸メチルエステルで洗浄し、かつ引き続き真空で乾燥させた。
【0093】
化合物の構造を、NMRスペクトル分析器を用いて確認した。化合物の含有率は、塩基による滴定によって測定した。エナンチオマー純度は、誘導後にガスクロマトグラフによってキラルな相に基づいて測定した。エナンチオマー純度の測定のためのアミノ酸の誘導、およびそれらの誘導体は、当業者には公知である。
【0094】
反応生成物の分析は、GCによって以下の方法で行った:
反応率測定:
分離カラム:25m*0.32mm OV 1、FD=0.5μm、50゜、2’、20゜/’、300゜、45’。
出発物質:8.1分;生成物:8.3分
【0095】
ee測定:
前カラム:25m*0.25mm Optima−1、FD=0.5μm;キラルカラム:30m*25mm BGB 174S;FD=0.25μm;温度プログラム:140℃、12’;10℃/分、200℃、2分;Col 1:
Ramp.press.:1.7bar H2(4.6ml/’);1.7分、10bar/分、1.9bar、0.2分;10bar/分;1.4bar;Col2:Const.press.、1.3bar H2(2.7ml/分)。
(R)−3−N−アセチルアミノ酪酸メチルエステル:9.87分
(S)−3−N−アセチルアミノ酪酸メチルエステル:10.51分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
【化1】

[式中、R1はアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールであり、かつR2はアルキル、シクロアルキル、またはアリールである]
の、光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物、ならびに該化合物のアンモニウム塩の製造方法であって、
この際、一般式(I.b)
【化2】

[式中、R1とR2は先に記載した意味を有し、かつR3は水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである]
の、一回N−アシル化された3−アミノカルボン酸エステルの、エナンチオマーを富化させたエナンチオマー混合物を酸性の塩形成剤の添加により脱アシル化し、かつ引き続いた結晶化によるさらなるエナンチオマー富化工程に供する、一般式Iの、光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物、ならびに該化合物のアンモニウム塩の製造方法。
【請求項2】
一般式I’
【化3】

[式中、R1はアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールであり、かつR2’は水素、カチオン等価体のM+、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである]
の、光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物の製造方法、ならびにそれらの誘導体の製造方法であって、
この際、
a)一般式I.1
【化4】

[式中、R1とR2は先に記載した意味を有する]
のβ−ケトエステルを、
a1)アミド化触媒の存在下で、式R3−C(O)NH2[式中、R3は先に挙げた意味を有する]の少なくとも1のカルボン酸アミドと、または
a2)アンモニア、および引き続き式R3−C(O)X[式中、Xはハロゲン、または式OC(O)R4[式中、R4は先にR3に対して記載した意味を有する]の基である]の1のカルボン酸誘導体と
反応させて、一般式(I.a)
【化5】

[式中、R1、R2、およびR3は先に記載した意味を有する]
の、相応するN−アシル化された、α−不飽和の(Z)−3−アミノカルボン酸エステルを得、
b)この反応で得られたエナミド(I.a)を、キラルな水素化触媒の存在下、エナンチオ選択性の水素化に供し、一般式(I.b)
【化6】

[式中、R1、R2、およびR3は先に記載した意味を有する]
の、エナンチオマーが富化された、一回N−アシル化されたβ−アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を得、
c)水素化の際に得られた化合物I.bのエナンチオマー混合物を、酸性の塩形成剤の添加により脱アシル化し、かつ結晶化による引き続いたさらなるエナンチオマー富化工程に供し、かつこの際形成される、立体異性体を富化させた、3−アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩を単離し、かつ
d)場合によっては単離されたアンモニウム塩を3−アミノカルボン酸エステルに変え、かつ
e)場合によっては3−アミノカルボン酸エステルを、遊離の3−アミノカルボン酸、またはそれらの塩に変える、光学活性な3−アミノカルボン酸エステル化合物の製造方法、ならびにそれらの誘導体の製造方法。
【請求項3】
式I.1のβ−ケトエステルをアミド化触媒の存在下、少なくとも1の式R3−C(O)NH2のカルボン酸と反応させ、反応水を除去して、式I.aの3−アミノカルボン酸エステルにする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記脱アシル化をアルコール溶剤中で実施する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
エナンチオマーを富化させる結晶化を、エステルを添加して実施する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
脱アシル化、および結晶化のために使用される塩形成剤が、アキラルな酸性化合物から選択されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩形成剤が、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、安息香酸、シュウ酸、リン酸、硫酸、シュウ酸水素塩、硫酸水素塩、ギ酸、乳酸、フマル酸、塩酸、臭化水素酸、およびトリフルオロ酢酸から選択されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
脱アシル化、および結晶化のために、p−トルエンスルホン酸、またはメタンスルホン酸を塩形成剤として使用し、かつ脱アシル化のために使用されるアルコール溶剤が、式R2−OH[R2は先に記載した意味を有する]の化合物を含む、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1のキラルな、リン原子を含む化合物を配位子として含む、元素周期表の第8〜11族の遷移金属の、少なくとも1の錯体を水素化触媒として使用する、請求項2から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記遷移金属が、Ru、Rh、Ir、Pd、またはPtから選択されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒が、二座の、または多座のホスフィン化合物、ホスフィニット化合物、ホスホニット化合物、ホスホロアミダイト化合物、およびホスフィット化合物から選択されている、少なくとも1の配位子を有する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒が、以下の式
【化7】

[式中、Arは置換されていてもよいフェニル、好ましくはトリル、またはキシリルである]
の化合物、またはそれらのエナンチオマーから選択されている少なくとも1の配位子を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
方法工程のうちの少なくとも1つが連続的に行われる、請求項2から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水素化を連続的に行う、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1がC1〜C9のアルキルであり、かつR2とR3が請求項1で挙げた意味を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
3がメチルであり、かつR1とR2が請求項1で挙げた意味を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項17】
前記結晶化後に単離された固体が、少なくとも98%のee値を有する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
以下の絶対配置
【化8】

[式中、R2はC1〜C6のアルキルである]
を有する式IIの光学活性な化合物もしくはそれらのアンモニウム塩、またはこれらの化合物もしくは塩の光学活性なエナンチオマーを得る、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−542603(P2009−542603A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517278(P2009−517278)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056843
【国際公開番号】WO2008/003761
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】