光学的情報記録再生装置
【課題】BD多層ディスクの各情報記録面に球面収差補正を行った場合でも、対物レンズ出射光強度の変動を抑制可能な光ピックアップを搭載した光学的情報記録再生装置を提供する。
【解決手段】
情報記録面における球面収差補正光学素子の位置情報と、対物レンズの出射光強度比の情報を記録したピックアップ情報記録手段を光ピックアップに設ける。さらに、球面収差補正光学素子の駆動回路と位置検出手段と、情報記録手段をピックアップコントローラに接続し、レーザ出力補正回路をピックアップコントローラとレーザ駆動制御回路に接続する。装置動作時に球面収差補正を行う際、球面収差補正光学素子の位置検出手段とピックアップ情報記録手段から得られる情報から前記ピックアップコントローラにて対物レンズの出射光強度比を推定し、これに基づいてレーザ出力補正回路からレーザ光源の出射光強度を変化させる信号をレーザ駆動制御回路に伝送する。
【解決手段】
情報記録面における球面収差補正光学素子の位置情報と、対物レンズの出射光強度比の情報を記録したピックアップ情報記録手段を光ピックアップに設ける。さらに、球面収差補正光学素子の駆動回路と位置検出手段と、情報記録手段をピックアップコントローラに接続し、レーザ出力補正回路をピックアップコントローラとレーザ駆動制御回路に接続する。装置動作時に球面収差補正を行う際、球面収差補正光学素子の位置検出手段とピックアップ情報記録手段から得られる情報から前記ピックアップコントローラにて対物レンズの出射光強度比を推定し、これに基づいてレーザ出力補正回路からレーザ光源の出射光強度を変化させる信号をレーザ駆動制御回路に伝送する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学的情報記録媒体に情報信号を記録または再生する光ピックアップを搭載した光学的情報記録再生装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1に「光源と対物レンズの間にコリメートレンズユニットを備え、カバー層の厚さが基準値からずれ球面収差が発生した時はコリメートレンズを前後に動かし、生じた球面収差を打ち消す。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−103087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DVDに続く大容量光ディスクとして、青紫色レーザを使い単層で約25GB、2層で約50GBの容量を持つBD(Blu-ray Disc)とその記録再生装置が商品化されている。このBD2層ディスクでは2つの情報記録面に約25μmのカバー層厚さの差があり、かつ対物レンズの開口数が約0.85とDVDに比べて高い。そのため、記録再生装置にはそれぞれの情報記録面に対して球面収差を抑制し、光ビームの焦点を合わせるための球面収差補正手段が設けられている。特許文献1に記載の球面収差補正手段では、コリメートレンズを前後に動かすことで対物レンズに入射する光ビームの状態を平行光から発散光あるいは収束光に変化させ、上記球面収差を抑制している。
【0005】
また、光ピックアップでは一般的に、半導体レーザの特性ばらつきを補正し、対物レンズからの出射光強度を一定にするAPC制御(Auto Power Control)が用いられている。このAPC制御は、半導体レーザから出射した光ビームの一部を前方モニタにより受光し検出し、その検出信号を半導体レーザ駆動回路にフィードバックして半導体レーザの出射光強度を制御する方法であり、情報記録面での再生、記録パワーを適正値に設定する機能である。
【0006】
しかし、上記の球面収差補正手段では、対物レンズに入射させる光ビームの状態を平行光から発散光あるいは収束光に変化させるため、コリメートレンズを前後に動かすと、レーザ出射強度に対する対物レンズ出射光強度が変動してしまう。つまり、上記APC制御によってレーザ出射光強度がある一定の値に制御されているにも係わらず、対物レンズ出射光強度が大きく変動し、ひいては情報記録面での光スポット強度が変動して記録再生性能が不安定な状態になる。
【0007】
現在のBD2層ディスクでは、2面の情報記録面のカバー層厚さの差は約25μmで球面収差補正に必要なコリメートレンズの移動量が比較的小さくて済む。また、対物レンズに入射する光ビームについて、平行光から発散光あるいは収束光への変化の度合いが小さく、レーザ出射強度に対する対物レンズ出射強度の変動は小さいため問題になる可能性は低いと言える。
【0008】
ところが、例えば6面といった情報記録面を持つBD多層ディスクでは、記録再生性能の観点から各情報記録面間の層間距離をある程度確保する必要があり、現在のBD2層ディスクに比べると、光入射側のディスク表面から見て最も近い情報記録面でのカバー層厚さと最も遠い情報記録面でのカバー層厚さの差を大きくせざるを得ない。そのため、BD多層ディスクでは球面収差補正に必要なコリメートレンズの移動量がBD2層ディスクの場合に比べてより大きくなり、対物レンズに入射する光ビームについて、平行光から発散光あるいは収束光への変化の度合いがBD2層ディスクの場合に比べて大きくなる。
【0009】
その結果、レーザ出射光強度をある一定の値に設定しても対物レンズ出射光強度の変動がより大きくなってしまうという問題が予想される。つまり、レーザ出射強度および前方モニタの受光強度が変わらずに上記APC制御が行われているにも係わらず、対物レンズ出射光強度が大きく変動し、ひいては各情報記録面での光スポット強度が大きく変動して記録性能、再生性能が劣化するという問題が顕著になると予想される。
【0010】
本発明は以上を鑑み、BD多層ディスクの各情報記録面で球面収差補正を行った場合でも、対物レンズ出射光強度の変動を抑制可能な光ピックアップを搭載した光学的情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記記載の目的は、その一例として本発明の特許請求の範囲に記載の構成、手段により実現可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、BD多層ディスクの各情報記録面で球面収差補正を行っても、対物レンズ出射光強度の変動を抑制することができる。その結果、安定した記録再生が可能なBD多層用光ピックアップを搭載したBD多層用光学的情報記録再生装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】BD多層用光学的情報記録再生装置の模式図である。
【図2】BD用光ピックアップの模式図である。
【図3(A)】BDコリメートレンズが基準位置にある場合の模式図である。
【図3(B)】BDコリメートレンズがBD対物レンズから離れる方向に移動した場合の模式図である。
【図3(C)】BDコリメートレンズがBD対物レンズに近づく方向に移動した場合の模式図である。
【図4(A)】BD対物レンズとBD情報記録媒体の情報記録面の位置関係を示す図である。
【図4(B)】BD対物レンズとBD情報記録媒体の情報記録面の位置関係を示す図である。
【図5】BD6層媒体を示す模式図である。
【図6(A)】BDコリメートレンズの移動量の計算モデルを示す図である。
【図6(B)】図6(A)のモデルによる計算結果を示すグラフである。
【図7】波面収差の計算例を示すグラフである。
【図8】コリメートレンズの移動量と対物レンズ出射強度比との計算例を示すグラフである。
【図9】コリメートレンズの移動量と、対物レンズ出射強度比、レーザ出射光強度比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
図1は本実施例のBD多層用光学的情報記録再生装置を示し、図2は図1から主に本実施例のBD用光ピックアップを抜粋して示した図である。まず、図2、図3(A)〜(C)、図4(A)〜(B)を用い本実施例のBD用光ピックアップについて説明する。
【0015】
図2において、BDレーザ光源201から波長405nm帯の直線偏光の発散ビーム光が出射され、偏光ビームスプリッタ202、反射ミラー203、BD補助レンズ204を経てBDコリメートレンズ205により略平行な光ビームに変換される。上記BDコリメートレンズ205は、例えばステッピングモータ、圧電素子を用いた球面収差補正駆動手段206により矢印207に示す光軸208の方向に移動する。また、上記BDコリメートレンズ205の位置を検出するための位置検出手段209が設けられている。上記BDコリメートレンズ205から出射した光ビームは、1/4波長板210により円偏光に変換され、BD立上げミラー211により垂直に光路を曲げられた後にBD対物レンズ212で集光され、情報記録媒体213の情報記録面214に照射される。215は上記BD対物レンズ212入射する光ビームを所望の径に制限するため設けられた円形開口を示している。
【0016】
上記情報記録面214で反射した光ビームは、上記BD対物レンズ212、上記BD立上げミラー211を経て上記1/4波長板210により直線偏光に変換され、上記BDコリメートレンズ205、上記BD補助レンズ204、上記反射ミラー203を経て上記偏光ビームスプリッタ202の反射面で反射され、多分割回折素子216に入射する。光ビームは上記多分割回折素子215により複数の光ビームに分割され、BD光検出器216に到達する。本実施例ではサーボ信号の検出方式として、例えばフォーカス誤差信号(以下、FESと呼ぶ)にナイフエッジ法、トラッキング誤差信号(以下、TESと呼ぶ)にプッシュプル(以下、PPと呼ぶ)方式を用い、上記情報記録媒体213の情報記録面214に照射された集光スポットの位置を制御する。なお、上記ナイフエッジ法や上記PP方式は公知技術であるためここでは説明を省略する。
【0017】
BDレーザ光源201から出射してビームスプリッタ202、反射ミラー203の上方を通過した光ビームは前方モニタ218により受光され、その検出信号がBDレーザ駆動制御回路219にフィードバックされ、BDレーザ光源201の出射光強度が制御される。
【0018】
なお、BDレーザ光源201と偏光ビームスプリッタ202の間に3スポット形成用回折格子(図示しない)を設け、上記多分割回折素子216を削除し上記偏光ビームスプリッタ202と上記BD光検出器217の間にシリンドリカルレンズ(図示しない)を設けてBD用光ピックアップを構成しても良い。この場合、サーボ信号の検出方式として、フォーカス誤差信号に非点収差法、トラッキング誤差信号に差動プッシュプル(DPP)方式を使用し、上記情報記録媒体213に照射された集光スポットの位置を制御する。
【0019】
BD光学系では上記情報記録面214での集光スポットを小さくするため、BD対物レンズ212の開口数はDVDに比べると高い0.85としている。ところが、各情報記録面でのカバー層厚さ誤差、あるいは各情報記録面間のカバー層厚さの差によって発生する球面収差は、対物レンズの開口数の4乗に比例して増加するのでBD光学系では上記球面収差の補正手段が必須となる。本実施例では小型化の観点から、上記BD補助レンズ204と上記BDコリメートレンズ205の2枚のレンズでコリメートレンズ系を構成している。なお、光ピックアップの実装スペースによっては、上記コリメートレンズ系を1枚のコリメートレンズとする、あるいはコリメートレンズの後に凹レンズと凸レンズからなり入射平行光を拡大し平行光を出射するビームエキスパンダを設け、上記球面収差の補正手段としても良い。
【0020】
図3(A)〜(C)は上記球面収差補正駆動手段206により、球面収差補正が行われる際にBD対物レンズ212に入射する光の状態を示している。図3(A)は上記BDコリメートレンズ205が基準位置にある場合を示しており、BD対物レンズ212に平行光301が入射する。図3(B)は上記BDコリメートレンズ205が矢印302の方向、すなわち光軸208に沿ってBD対物レンズ212から離れる方向に移動させた場合を示しており、BD対物レンズ212に入射する光が上記平行光301から弱発散光303に変換され、発生した球面収差が打消されるように補正が行われる。図3(C)は上記BDコリメートレンズ205が矢印304の方向、すなわち光軸208に沿ってBD対物レンズ212に近づく方向に移動させた場合を示しており、BD対物レンズ212に入射する光が上記平行光301から弱収束光305に変換され、発生した球面収差が打消されるように補正が行われる。
【0021】
図2において、本実施例の光ピックアップには上記BDコリメートレンズ205の位置情報と、上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されたピックアップ情報記録手段220が設けられている。例えば、上記BDコリメートレンズ205の基準位置(図3(A)の状態)における上記BD対物レンズ212の出射光強度を出射光強度比の基準とする。シミュレーションにより上記位置情報と上記出射光強度比の情報を求めても良いし、あるいは実測により求めても良い。上記BDコリメートレンズ205には球面収差補正駆動手段206とその駆動回路221および位置検出手段209が設けられ、上記駆動回路211と上記位置検出手段209と上記ピックアップ情報記録手段220がピックアップコントローラ222に接続されている。さらに、レーザ出力補正回路223が上記ピックアップコントローラ222とレーザ駆動制御回路219に接続されている。
【0022】
球面収差補正を行う際には、上記BDコリメートレンズ205の位置検出手段209および上記ピックアップ情報記録手段220から得られる情報が上記ピックアップコントローラ222に伝送されて現在のBD対物レンズ212の出射光強度比が推定され、この出射光強度比に応じて上記レーザ出力補正回路223から上記BDレーザ光源201の出射光強度を変化させる信号が上記レーザ駆動制御回路219に伝送される。上記ピックアップコントローラ222では、上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の間の関係式が生成され、この関係式から現在の上記BDコリメートレンズ205の位置におけるBD対物レンズ212の出射光強度比が推定される。
【0023】
上記ピックアップ情報記録手段220には、図4(A)に示すように、上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402と、最も遠い情報記録面403における上記BDコリメートレンズ205の位置情報と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。あるいは、図4(B)に示すように、上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402と、最も遠い情報記録面403と、その間の情報記録面404における上記BDコリメートレンズ205の位置情報と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。
【0024】
次に、図1を用いて本実施例のBD多層用光学的情報記録再生装置について説明する。点線部101で囲まれた部分が本実施例のBD用光ピックアップを示しているが、既に図2、図3、図4を用いて説明済みであるためここでは説明を省略する。ピックアップコントローラ222には、信号処理回路102、フォーカス制御回路103、トラッキング制御回路104、チルト制御回路105が接続されている。上記フォーカス制御回路103、トラッキング制御回路104、チルト制御回路105はBD対物レンズ212を保持し駆動するアクチュエータ(図示しない)に接続されている。BD用光ピックアップ101の光検出器217からフォーカス誤差信号、トラッキング誤差信号、情報再生信号、チルト検出信号が出力され、信号処理回路102に伝送される。信号処理回路102ではこれらの信号を処理し、最適な信号をフォーカス制御回路103、トラッキング制御回路104、チルト制御回路105に伝送してアクチュエータ(図示しない)を駆動させ、情報記録媒体213の情報記録面における光スポットの位置制御を行う。また、信号処理回路102は表示手段106と接続されており、ユーザが装置を制御する場合は、ユーザ入力手段(図示しない)から信号処理回路102に指令を送ることで制御する。その処理状態は表示手段106に表示される。
【0025】
以後、図5から図9を用いてさらに詳しく説明する。図5は情報記録媒体213(BD多層ディスク)の例としてBD6層ディスクを示す。光入射側の表面501から見て順にL5層、L4層、L3層、L2層、L1層、L0層の6面の情報記録面を持つ。本図で表面501からL5層までの距離をt5、L4層までの距離をt4、L3層までの距離をt3、L2層までの距離をt2、L1層までの距離をt1、L0層までの距離をt0と表記すると、本実施例では例として、t0=114μm、t1=97μm、t2=87.5μm、t3=76μm、t4=63μm、t5=48μmとした。
【0026】
図6(A)、図6(B)は図5で示したBD6層ディスクの各情報記録面に焦点を合わせるために球面収差補正を行った場合に、球面収差補正に必要なBDコリメートレンズ205の移動量を計算した例を示している。図6(A)は計算モデルを示し、図6(B)は横軸にカバー層厚さを、縦軸に球面収差補正に必要なBDコリメートレンズ205の移動量をとって示した図である。ここで移動量0とは、BDコリメートレンズ205が図3(A)で示した基準位置、すなわちBDコリメートレンズ205の出射面から平行光が出射する状態を指す。なお、本実施例ではBD対物レンズ212の基準カバー層厚さを現在のBD2層ディスクにおける中間層での値87.5μmにしている。ここで、上記BD対物レンズ212の基準カバー層厚さは上記の87.5μmから異なる値とすることも設計上可能である。
【0027】
図6(B)に示す特性曲線601から、各情報記録面L0層〜L5層でのカバー層厚さ(横軸)と、球面収差補正を行うために必要なBDコリメートレンズ205の移動量(縦軸)は線形な関係にあることがわかる。また、BDコリメートレンズ109が光軸方向に1mm移動することにより、約42μmのカバー層厚さ誤差により発生する球面収差を補正できる計算になる。
【0028】
図7は上記BDコリメートレンズ205が基準位置(図3(A)の状態)にあり球面収差補正を行わない場合と、上記BDコリメートレンズ205を基準位置(図3(A)の状態)から光軸方向に移動させ、発生した球面収差を補正した場合で集光スポットに発生する波面収差を計算した例を示す。
【0029】
特性直線701は、球面収差補正を行わない場合を示しており、カバー層厚さが上記BD対物レンズ212の基準カバー層厚さ87.5μmからずれるに従い急激に球面収差が増加し、最もカバー層厚さが薄いL5層において約0.37λrms(白丸印)、最もカバー層厚さが厚いL0層において約0.25λrms(白四角印)という大きな球面収差が発生している。特性直線702は、球面収差補正を行った場合を示しており、球面収差の値が最もカバー層厚さが薄いL5層において約0.015λrms(黒丸印)、最もカバー層厚さが厚いL0層で約0.015λrms(黒四角印)まで大幅に改善されていることがわかる。
【0030】
図8は上記BDコリメートレンズ205を基準位置(図3(A)の状態)から光軸方向に移動させ、図6および図7で説明した球面収差補正を行った状態で、BD対物レンズ212の出射光強度比をL0層〜L5層の各情報記録面で計算した例を示している。横軸に上記BDコリメートレンズ205の移動量を、縦軸にBD対物レンズ212の出射光強度比をとって示している。ここで、上記BD対物レンズ212の出射光強度比は、上記BDコリメートレンズ205の基準位置(図3(A)の状態)におけるBD対物レンズ212の出射光強度で正規化した値から算出している。
【0031】
図の特性曲線801に示すように、BDコリメートレンズ205の移動量に応じてBD対物レンズ212の出射光強度比が変化しており、その値は最もカバー層厚さが厚いL0層では約0.95、最もカバー層厚さが薄いL5層では約1.13となっている。L5層とL1層での比をとると約1.2となり、対物レンズ212の出射光強度比がL1層〜L5層の間で約20%変動することになる。しかし、本発明ではこの変動を抑制することが可能である。これに関して以下説明する。
【0032】
既に図2を用いて説明したように、ピックアップ情報記録手段220には図8の特性曲線801の情報、すなわち上記BDコリメートレンズ205の位置と、上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。ここで、上記BDコリメートレンズ205の基準位置(図3(A)の状態)における上記BD対物レンズ212の出射光強度をBD対物レンズ212の出射光強度比の基準とする。
【0033】
球面収差補正を行う際には、上記ピックアップコントローラ222では、上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の間の関係式(図8の特性曲線801に相当)が生成され、この関係式から現在の上記BDコリメートレンズ205の位置(図8の横軸)におけるBD対物レンズ212の出射光強度比(図8の縦軸)が推定される。
【0034】
さらに、上記BDコリメートレンズ205の位置検出手段209および上記ピックアップ情報記録手段220から得られる情報を上記ピックアップコントローラ222に伝送して現在のBD対物レンズ212の出射光強度比を推定し、この出射光強度比に応じて上記レーザ出力補正回路223から上記BDレーザ光源201の出射光強度を変化させるように上記レーザ駆動制御回路219を駆動させる。
【0035】
このことを図9を用いて説明する。横軸に上記BDコリメートレンズ205の移動量を、縦軸にBD対物レンズ212の出射光強度比、BDレーザ光源201の出射光強度比をとって示している。図8で示した特性曲線801に対し、BDレーザ光源201の出射光強度比を特性曲線901のように変化させる。その結果、特性曲線801と特性曲線901を掛け合わせたものが総合的なBD対物レンズの出射光強度比となる。この総合的なBD対物レンズの出射光強度比は特性曲線902のようになり、BDコリメートレンズの移動量に係わらず一定、すなわちL0層〜L5層の各情報記録面で一定値になる。
【0036】
なお、上記ピックアップ情報記録手段220には、図8に示すように、最もカバー層厚さが薄いL5層(=上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402)と、最もカバー層厚さが厚いL0層(=最も遠い情報記録面403)における上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。あるいは、図8に示すように、最もカバー層厚さが薄いL5層(=上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402)と、最もカバー層厚さが厚いL0層(=最も遠い情報記録面403)と、L5層とL0層の間の層、例えばL2層(=402と403の間の情報記録面404)における上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。
【0037】
本実施例ではBD用光ピックアップとこれを搭載した光学的情報記録再生装置について説明してきたが、これに限定されず、BD/DVD/CD対応の3波長互換光ピックアップ(BD用対物レンズとDVD/CD用対物レンズの2つの対物レンズを用いた光ピックアップ、あるいは1個のBD/DVD/CD用互換対物レンズを用いた光ピックアップ)とこれを搭載した光学的情報記録再生装置にも適用可能である。
【0038】
以上説明してきたように、本発明ではBD多層ディスクの各情報記録面で球面収差補正を行った場合でも、BD対物レンズの出射光強度を安定させることができ、対物レンズ出射光強度の変動を抑制できるという効果がある。ひいては安定した記録再生が可能なBD多層用光ピックアップを搭載したBD多層用光学的情報記録再生装置を提供することが可能になる。
【0039】
さらに、本発明ではBDコリメートレンズの位置情報と、BD対物レンズの出射光強度比の情報が記録されたピックアップ情報記録手段を光ピックアップに設け、これと接続したピックアップコントローラにおいてBDコリメートレンズの位置とBD対物レンズの出射光強度比の間の関係式が生成されるようにしている。そのため、装置動作時に球面収差補正を行う際に、素早くピックアップコントローラ、レーザ出力補正回路から上記BDレーザ光源の出射光強度を変化させる信号をレーザ駆動制御回路に伝送することができるので、短い時間でBD対物レンズの出射光強度を安定させることが可能な光学的情報記録再生装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
101 BD用光ピックアップ
102 信号処理回路
201 BDレーザ光源
205 BDコリメートレンズ
212 BD対物レンズ
213 情報記録媒体
219 BDレーザ駆動制御回路
220 ピックアップ情報記録手段
222 ピックアップコントローラ
223 レーザ出力補正回路
801、901、902 特性曲線
【技術分野】
【0001】
本発明は光学的情報記録媒体に情報信号を記録または再生する光ピックアップを搭載した光学的情報記録再生装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1に「光源と対物レンズの間にコリメートレンズユニットを備え、カバー層の厚さが基準値からずれ球面収差が発生した時はコリメートレンズを前後に動かし、生じた球面収差を打ち消す。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−103087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DVDに続く大容量光ディスクとして、青紫色レーザを使い単層で約25GB、2層で約50GBの容量を持つBD(Blu-ray Disc)とその記録再生装置が商品化されている。このBD2層ディスクでは2つの情報記録面に約25μmのカバー層厚さの差があり、かつ対物レンズの開口数が約0.85とDVDに比べて高い。そのため、記録再生装置にはそれぞれの情報記録面に対して球面収差を抑制し、光ビームの焦点を合わせるための球面収差補正手段が設けられている。特許文献1に記載の球面収差補正手段では、コリメートレンズを前後に動かすことで対物レンズに入射する光ビームの状態を平行光から発散光あるいは収束光に変化させ、上記球面収差を抑制している。
【0005】
また、光ピックアップでは一般的に、半導体レーザの特性ばらつきを補正し、対物レンズからの出射光強度を一定にするAPC制御(Auto Power Control)が用いられている。このAPC制御は、半導体レーザから出射した光ビームの一部を前方モニタにより受光し検出し、その検出信号を半導体レーザ駆動回路にフィードバックして半導体レーザの出射光強度を制御する方法であり、情報記録面での再生、記録パワーを適正値に設定する機能である。
【0006】
しかし、上記の球面収差補正手段では、対物レンズに入射させる光ビームの状態を平行光から発散光あるいは収束光に変化させるため、コリメートレンズを前後に動かすと、レーザ出射強度に対する対物レンズ出射光強度が変動してしまう。つまり、上記APC制御によってレーザ出射光強度がある一定の値に制御されているにも係わらず、対物レンズ出射光強度が大きく変動し、ひいては情報記録面での光スポット強度が変動して記録再生性能が不安定な状態になる。
【0007】
現在のBD2層ディスクでは、2面の情報記録面のカバー層厚さの差は約25μmで球面収差補正に必要なコリメートレンズの移動量が比較的小さくて済む。また、対物レンズに入射する光ビームについて、平行光から発散光あるいは収束光への変化の度合いが小さく、レーザ出射強度に対する対物レンズ出射強度の変動は小さいため問題になる可能性は低いと言える。
【0008】
ところが、例えば6面といった情報記録面を持つBD多層ディスクでは、記録再生性能の観点から各情報記録面間の層間距離をある程度確保する必要があり、現在のBD2層ディスクに比べると、光入射側のディスク表面から見て最も近い情報記録面でのカバー層厚さと最も遠い情報記録面でのカバー層厚さの差を大きくせざるを得ない。そのため、BD多層ディスクでは球面収差補正に必要なコリメートレンズの移動量がBD2層ディスクの場合に比べてより大きくなり、対物レンズに入射する光ビームについて、平行光から発散光あるいは収束光への変化の度合いがBD2層ディスクの場合に比べて大きくなる。
【0009】
その結果、レーザ出射光強度をある一定の値に設定しても対物レンズ出射光強度の変動がより大きくなってしまうという問題が予想される。つまり、レーザ出射強度および前方モニタの受光強度が変わらずに上記APC制御が行われているにも係わらず、対物レンズ出射光強度が大きく変動し、ひいては各情報記録面での光スポット強度が大きく変動して記録性能、再生性能が劣化するという問題が顕著になると予想される。
【0010】
本発明は以上を鑑み、BD多層ディスクの各情報記録面で球面収差補正を行った場合でも、対物レンズ出射光強度の変動を抑制可能な光ピックアップを搭載した光学的情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記記載の目的は、その一例として本発明の特許請求の範囲に記載の構成、手段により実現可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、BD多層ディスクの各情報記録面で球面収差補正を行っても、対物レンズ出射光強度の変動を抑制することができる。その結果、安定した記録再生が可能なBD多層用光ピックアップを搭載したBD多層用光学的情報記録再生装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】BD多層用光学的情報記録再生装置の模式図である。
【図2】BD用光ピックアップの模式図である。
【図3(A)】BDコリメートレンズが基準位置にある場合の模式図である。
【図3(B)】BDコリメートレンズがBD対物レンズから離れる方向に移動した場合の模式図である。
【図3(C)】BDコリメートレンズがBD対物レンズに近づく方向に移動した場合の模式図である。
【図4(A)】BD対物レンズとBD情報記録媒体の情報記録面の位置関係を示す図である。
【図4(B)】BD対物レンズとBD情報記録媒体の情報記録面の位置関係を示す図である。
【図5】BD6層媒体を示す模式図である。
【図6(A)】BDコリメートレンズの移動量の計算モデルを示す図である。
【図6(B)】図6(A)のモデルによる計算結果を示すグラフである。
【図7】波面収差の計算例を示すグラフである。
【図8】コリメートレンズの移動量と対物レンズ出射強度比との計算例を示すグラフである。
【図9】コリメートレンズの移動量と、対物レンズ出射強度比、レーザ出射光強度比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
図1は本実施例のBD多層用光学的情報記録再生装置を示し、図2は図1から主に本実施例のBD用光ピックアップを抜粋して示した図である。まず、図2、図3(A)〜(C)、図4(A)〜(B)を用い本実施例のBD用光ピックアップについて説明する。
【0015】
図2において、BDレーザ光源201から波長405nm帯の直線偏光の発散ビーム光が出射され、偏光ビームスプリッタ202、反射ミラー203、BD補助レンズ204を経てBDコリメートレンズ205により略平行な光ビームに変換される。上記BDコリメートレンズ205は、例えばステッピングモータ、圧電素子を用いた球面収差補正駆動手段206により矢印207に示す光軸208の方向に移動する。また、上記BDコリメートレンズ205の位置を検出するための位置検出手段209が設けられている。上記BDコリメートレンズ205から出射した光ビームは、1/4波長板210により円偏光に変換され、BD立上げミラー211により垂直に光路を曲げられた後にBD対物レンズ212で集光され、情報記録媒体213の情報記録面214に照射される。215は上記BD対物レンズ212入射する光ビームを所望の径に制限するため設けられた円形開口を示している。
【0016】
上記情報記録面214で反射した光ビームは、上記BD対物レンズ212、上記BD立上げミラー211を経て上記1/4波長板210により直線偏光に変換され、上記BDコリメートレンズ205、上記BD補助レンズ204、上記反射ミラー203を経て上記偏光ビームスプリッタ202の反射面で反射され、多分割回折素子216に入射する。光ビームは上記多分割回折素子215により複数の光ビームに分割され、BD光検出器216に到達する。本実施例ではサーボ信号の検出方式として、例えばフォーカス誤差信号(以下、FESと呼ぶ)にナイフエッジ法、トラッキング誤差信号(以下、TESと呼ぶ)にプッシュプル(以下、PPと呼ぶ)方式を用い、上記情報記録媒体213の情報記録面214に照射された集光スポットの位置を制御する。なお、上記ナイフエッジ法や上記PP方式は公知技術であるためここでは説明を省略する。
【0017】
BDレーザ光源201から出射してビームスプリッタ202、反射ミラー203の上方を通過した光ビームは前方モニタ218により受光され、その検出信号がBDレーザ駆動制御回路219にフィードバックされ、BDレーザ光源201の出射光強度が制御される。
【0018】
なお、BDレーザ光源201と偏光ビームスプリッタ202の間に3スポット形成用回折格子(図示しない)を設け、上記多分割回折素子216を削除し上記偏光ビームスプリッタ202と上記BD光検出器217の間にシリンドリカルレンズ(図示しない)を設けてBD用光ピックアップを構成しても良い。この場合、サーボ信号の検出方式として、フォーカス誤差信号に非点収差法、トラッキング誤差信号に差動プッシュプル(DPP)方式を使用し、上記情報記録媒体213に照射された集光スポットの位置を制御する。
【0019】
BD光学系では上記情報記録面214での集光スポットを小さくするため、BD対物レンズ212の開口数はDVDに比べると高い0.85としている。ところが、各情報記録面でのカバー層厚さ誤差、あるいは各情報記録面間のカバー層厚さの差によって発生する球面収差は、対物レンズの開口数の4乗に比例して増加するのでBD光学系では上記球面収差の補正手段が必須となる。本実施例では小型化の観点から、上記BD補助レンズ204と上記BDコリメートレンズ205の2枚のレンズでコリメートレンズ系を構成している。なお、光ピックアップの実装スペースによっては、上記コリメートレンズ系を1枚のコリメートレンズとする、あるいはコリメートレンズの後に凹レンズと凸レンズからなり入射平行光を拡大し平行光を出射するビームエキスパンダを設け、上記球面収差の補正手段としても良い。
【0020】
図3(A)〜(C)は上記球面収差補正駆動手段206により、球面収差補正が行われる際にBD対物レンズ212に入射する光の状態を示している。図3(A)は上記BDコリメートレンズ205が基準位置にある場合を示しており、BD対物レンズ212に平行光301が入射する。図3(B)は上記BDコリメートレンズ205が矢印302の方向、すなわち光軸208に沿ってBD対物レンズ212から離れる方向に移動させた場合を示しており、BD対物レンズ212に入射する光が上記平行光301から弱発散光303に変換され、発生した球面収差が打消されるように補正が行われる。図3(C)は上記BDコリメートレンズ205が矢印304の方向、すなわち光軸208に沿ってBD対物レンズ212に近づく方向に移動させた場合を示しており、BD対物レンズ212に入射する光が上記平行光301から弱収束光305に変換され、発生した球面収差が打消されるように補正が行われる。
【0021】
図2において、本実施例の光ピックアップには上記BDコリメートレンズ205の位置情報と、上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されたピックアップ情報記録手段220が設けられている。例えば、上記BDコリメートレンズ205の基準位置(図3(A)の状態)における上記BD対物レンズ212の出射光強度を出射光強度比の基準とする。シミュレーションにより上記位置情報と上記出射光強度比の情報を求めても良いし、あるいは実測により求めても良い。上記BDコリメートレンズ205には球面収差補正駆動手段206とその駆動回路221および位置検出手段209が設けられ、上記駆動回路211と上記位置検出手段209と上記ピックアップ情報記録手段220がピックアップコントローラ222に接続されている。さらに、レーザ出力補正回路223が上記ピックアップコントローラ222とレーザ駆動制御回路219に接続されている。
【0022】
球面収差補正を行う際には、上記BDコリメートレンズ205の位置検出手段209および上記ピックアップ情報記録手段220から得られる情報が上記ピックアップコントローラ222に伝送されて現在のBD対物レンズ212の出射光強度比が推定され、この出射光強度比に応じて上記レーザ出力補正回路223から上記BDレーザ光源201の出射光強度を変化させる信号が上記レーザ駆動制御回路219に伝送される。上記ピックアップコントローラ222では、上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の間の関係式が生成され、この関係式から現在の上記BDコリメートレンズ205の位置におけるBD対物レンズ212の出射光強度比が推定される。
【0023】
上記ピックアップ情報記録手段220には、図4(A)に示すように、上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402と、最も遠い情報記録面403における上記BDコリメートレンズ205の位置情報と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。あるいは、図4(B)に示すように、上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402と、最も遠い情報記録面403と、その間の情報記録面404における上記BDコリメートレンズ205の位置情報と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。
【0024】
次に、図1を用いて本実施例のBD多層用光学的情報記録再生装置について説明する。点線部101で囲まれた部分が本実施例のBD用光ピックアップを示しているが、既に図2、図3、図4を用いて説明済みであるためここでは説明を省略する。ピックアップコントローラ222には、信号処理回路102、フォーカス制御回路103、トラッキング制御回路104、チルト制御回路105が接続されている。上記フォーカス制御回路103、トラッキング制御回路104、チルト制御回路105はBD対物レンズ212を保持し駆動するアクチュエータ(図示しない)に接続されている。BD用光ピックアップ101の光検出器217からフォーカス誤差信号、トラッキング誤差信号、情報再生信号、チルト検出信号が出力され、信号処理回路102に伝送される。信号処理回路102ではこれらの信号を処理し、最適な信号をフォーカス制御回路103、トラッキング制御回路104、チルト制御回路105に伝送してアクチュエータ(図示しない)を駆動させ、情報記録媒体213の情報記録面における光スポットの位置制御を行う。また、信号処理回路102は表示手段106と接続されており、ユーザが装置を制御する場合は、ユーザ入力手段(図示しない)から信号処理回路102に指令を送ることで制御する。その処理状態は表示手段106に表示される。
【0025】
以後、図5から図9を用いてさらに詳しく説明する。図5は情報記録媒体213(BD多層ディスク)の例としてBD6層ディスクを示す。光入射側の表面501から見て順にL5層、L4層、L3層、L2層、L1層、L0層の6面の情報記録面を持つ。本図で表面501からL5層までの距離をt5、L4層までの距離をt4、L3層までの距離をt3、L2層までの距離をt2、L1層までの距離をt1、L0層までの距離をt0と表記すると、本実施例では例として、t0=114μm、t1=97μm、t2=87.5μm、t3=76μm、t4=63μm、t5=48μmとした。
【0026】
図6(A)、図6(B)は図5で示したBD6層ディスクの各情報記録面に焦点を合わせるために球面収差補正を行った場合に、球面収差補正に必要なBDコリメートレンズ205の移動量を計算した例を示している。図6(A)は計算モデルを示し、図6(B)は横軸にカバー層厚さを、縦軸に球面収差補正に必要なBDコリメートレンズ205の移動量をとって示した図である。ここで移動量0とは、BDコリメートレンズ205が図3(A)で示した基準位置、すなわちBDコリメートレンズ205の出射面から平行光が出射する状態を指す。なお、本実施例ではBD対物レンズ212の基準カバー層厚さを現在のBD2層ディスクにおける中間層での値87.5μmにしている。ここで、上記BD対物レンズ212の基準カバー層厚さは上記の87.5μmから異なる値とすることも設計上可能である。
【0027】
図6(B)に示す特性曲線601から、各情報記録面L0層〜L5層でのカバー層厚さ(横軸)と、球面収差補正を行うために必要なBDコリメートレンズ205の移動量(縦軸)は線形な関係にあることがわかる。また、BDコリメートレンズ109が光軸方向に1mm移動することにより、約42μmのカバー層厚さ誤差により発生する球面収差を補正できる計算になる。
【0028】
図7は上記BDコリメートレンズ205が基準位置(図3(A)の状態)にあり球面収差補正を行わない場合と、上記BDコリメートレンズ205を基準位置(図3(A)の状態)から光軸方向に移動させ、発生した球面収差を補正した場合で集光スポットに発生する波面収差を計算した例を示す。
【0029】
特性直線701は、球面収差補正を行わない場合を示しており、カバー層厚さが上記BD対物レンズ212の基準カバー層厚さ87.5μmからずれるに従い急激に球面収差が増加し、最もカバー層厚さが薄いL5層において約0.37λrms(白丸印)、最もカバー層厚さが厚いL0層において約0.25λrms(白四角印)という大きな球面収差が発生している。特性直線702は、球面収差補正を行った場合を示しており、球面収差の値が最もカバー層厚さが薄いL5層において約0.015λrms(黒丸印)、最もカバー層厚さが厚いL0層で約0.015λrms(黒四角印)まで大幅に改善されていることがわかる。
【0030】
図8は上記BDコリメートレンズ205を基準位置(図3(A)の状態)から光軸方向に移動させ、図6および図7で説明した球面収差補正を行った状態で、BD対物レンズ212の出射光強度比をL0層〜L5層の各情報記録面で計算した例を示している。横軸に上記BDコリメートレンズ205の移動量を、縦軸にBD対物レンズ212の出射光強度比をとって示している。ここで、上記BD対物レンズ212の出射光強度比は、上記BDコリメートレンズ205の基準位置(図3(A)の状態)におけるBD対物レンズ212の出射光強度で正規化した値から算出している。
【0031】
図の特性曲線801に示すように、BDコリメートレンズ205の移動量に応じてBD対物レンズ212の出射光強度比が変化しており、その値は最もカバー層厚さが厚いL0層では約0.95、最もカバー層厚さが薄いL5層では約1.13となっている。L5層とL1層での比をとると約1.2となり、対物レンズ212の出射光強度比がL1層〜L5層の間で約20%変動することになる。しかし、本発明ではこの変動を抑制することが可能である。これに関して以下説明する。
【0032】
既に図2を用いて説明したように、ピックアップ情報記録手段220には図8の特性曲線801の情報、すなわち上記BDコリメートレンズ205の位置と、上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。ここで、上記BDコリメートレンズ205の基準位置(図3(A)の状態)における上記BD対物レンズ212の出射光強度をBD対物レンズ212の出射光強度比の基準とする。
【0033】
球面収差補正を行う際には、上記ピックアップコントローラ222では、上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の間の関係式(図8の特性曲線801に相当)が生成され、この関係式から現在の上記BDコリメートレンズ205の位置(図8の横軸)におけるBD対物レンズ212の出射光強度比(図8の縦軸)が推定される。
【0034】
さらに、上記BDコリメートレンズ205の位置検出手段209および上記ピックアップ情報記録手段220から得られる情報を上記ピックアップコントローラ222に伝送して現在のBD対物レンズ212の出射光強度比を推定し、この出射光強度比に応じて上記レーザ出力補正回路223から上記BDレーザ光源201の出射光強度を変化させるように上記レーザ駆動制御回路219を駆動させる。
【0035】
このことを図9を用いて説明する。横軸に上記BDコリメートレンズ205の移動量を、縦軸にBD対物レンズ212の出射光強度比、BDレーザ光源201の出射光強度比をとって示している。図8で示した特性曲線801に対し、BDレーザ光源201の出射光強度比を特性曲線901のように変化させる。その結果、特性曲線801と特性曲線901を掛け合わせたものが総合的なBD対物レンズの出射光強度比となる。この総合的なBD対物レンズの出射光強度比は特性曲線902のようになり、BDコリメートレンズの移動量に係わらず一定、すなわちL0層〜L5層の各情報記録面で一定値になる。
【0036】
なお、上記ピックアップ情報記録手段220には、図8に示すように、最もカバー層厚さが薄いL5層(=上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402)と、最もカバー層厚さが厚いL0層(=最も遠い情報記録面403)における上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。あるいは、図8に示すように、最もカバー層厚さが薄いL5層(=上記情報記録媒体213の光入射側の表面401から見て最も近い情報記録面402)と、最もカバー層厚さが厚いL0層(=最も遠い情報記録面403)と、L5層とL0層の間の層、例えばL2層(=402と403の間の情報記録面404)における上記BDコリメートレンズ205の位置と上記BD対物レンズ212の出射光強度比の情報が記録されている。
【0037】
本実施例ではBD用光ピックアップとこれを搭載した光学的情報記録再生装置について説明してきたが、これに限定されず、BD/DVD/CD対応の3波長互換光ピックアップ(BD用対物レンズとDVD/CD用対物レンズの2つの対物レンズを用いた光ピックアップ、あるいは1個のBD/DVD/CD用互換対物レンズを用いた光ピックアップ)とこれを搭載した光学的情報記録再生装置にも適用可能である。
【0038】
以上説明してきたように、本発明ではBD多層ディスクの各情報記録面で球面収差補正を行った場合でも、BD対物レンズの出射光強度を安定させることができ、対物レンズ出射光強度の変動を抑制できるという効果がある。ひいては安定した記録再生が可能なBD多層用光ピックアップを搭載したBD多層用光学的情報記録再生装置を提供することが可能になる。
【0039】
さらに、本発明ではBDコリメートレンズの位置情報と、BD対物レンズの出射光強度比の情報が記録されたピックアップ情報記録手段を光ピックアップに設け、これと接続したピックアップコントローラにおいてBDコリメートレンズの位置とBD対物レンズの出射光強度比の間の関係式が生成されるようにしている。そのため、装置動作時に球面収差補正を行う際に、素早くピックアップコントローラ、レーザ出力補正回路から上記BDレーザ光源の出射光強度を変化させる信号をレーザ駆動制御回路に伝送することができるので、短い時間でBD対物レンズの出射光強度を安定させることが可能な光学的情報記録再生装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0040】
101 BD用光ピックアップ
102 信号処理回路
201 BDレーザ光源
205 BDコリメートレンズ
212 BD対物レンズ
213 情報記録媒体
219 BDレーザ駆動制御回路
220 ピックアップ情報記録手段
222 ピックアップコントローラ
223 レーザ出力補正回路
801、901、902 特性曲線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的情報記録再生装置において、
レーザ光源と、
前記レーザ光源から出射した光ビームを複数の情報記録面を持つ情報記録媒体の情報記録面に集光可能な対物レンズと、
前記レーザ光源と前記対物レンズの間の光路に設けられ、光軸方向に移動可能な球面収差補正光学素子と、
を有する光ピックアップを備え、
前記球面収差補正光学素子の位置情報と、前記対物レンズの出射光強度比の情報を記録したピックアップ情報記録手段を前記光ピックアップに設けた光学的情報記録再生装置。
【請求項2】
請求項1において、前記球面収差補正光学素子に駆動手段と駆動回路および位置検出手段が設けられ、前記駆動回路と前記位置検出手段と前記情報記録手段がピックアップコントローラに接続されており、レーザ出力補正回路が前記ピックアップコントローラとレーザ駆動制御回路に接続された光学的情報記録再生装置。
【請求項3】
請求項1、2において、前記ピックアップコントローラにて、前記球面収差補正光学素子の位置と対物レンズの出射光強度比の情報の関係式が生成される光学的情報記録再生装置。
【請求項4】
請求項1、2、3において、球面収差補正を行う際に、前記球面収差補正光学素子の位置検出手段と前記ピックアップ情報記録手段から得られる情報に基づいて前記ピックアップコントローラにて前記対物レンズの出射光強度比を推定し、この強度比に応じて前記レーザ出力補正回路から前記レーザ光源の出射光強度を変化させる信号を前記レーザ駆動制御回路に伝送する光学的情報記録再生装置。
【請求項5】
請求項1、2、3、4において、少なくとも前記情報記録媒体の光入射側の表面から見て最も近い情報記録面と、最も遠い情報記録面と、における前記球面収差補正光学素子の位置情報および前記対物レンズの出射光強度比の情報を前記ピックアップ情報記録手段に記録した光学的情報記録再生装置。
【請求項6】
請求項1、2、3、4において、前記情報記録媒体の光入射側の表面から見て最も近い情報記録面と、最も遠い情報記録面と、その間の情報記録面と、における前記球面収差補正光学素子の位置情報および前記対物レンズの出射光強度比の情報を前記ピックアップ情報記録手段に記録した光学的情報記録再生装置。
【請求項1】
光学的情報記録再生装置において、
レーザ光源と、
前記レーザ光源から出射した光ビームを複数の情報記録面を持つ情報記録媒体の情報記録面に集光可能な対物レンズと、
前記レーザ光源と前記対物レンズの間の光路に設けられ、光軸方向に移動可能な球面収差補正光学素子と、
を有する光ピックアップを備え、
前記球面収差補正光学素子の位置情報と、前記対物レンズの出射光強度比の情報を記録したピックアップ情報記録手段を前記光ピックアップに設けた光学的情報記録再生装置。
【請求項2】
請求項1において、前記球面収差補正光学素子に駆動手段と駆動回路および位置検出手段が設けられ、前記駆動回路と前記位置検出手段と前記情報記録手段がピックアップコントローラに接続されており、レーザ出力補正回路が前記ピックアップコントローラとレーザ駆動制御回路に接続された光学的情報記録再生装置。
【請求項3】
請求項1、2において、前記ピックアップコントローラにて、前記球面収差補正光学素子の位置と対物レンズの出射光強度比の情報の関係式が生成される光学的情報記録再生装置。
【請求項4】
請求項1、2、3において、球面収差補正を行う際に、前記球面収差補正光学素子の位置検出手段と前記ピックアップ情報記録手段から得られる情報に基づいて前記ピックアップコントローラにて前記対物レンズの出射光強度比を推定し、この強度比に応じて前記レーザ出力補正回路から前記レーザ光源の出射光強度を変化させる信号を前記レーザ駆動制御回路に伝送する光学的情報記録再生装置。
【請求項5】
請求項1、2、3、4において、少なくとも前記情報記録媒体の光入射側の表面から見て最も近い情報記録面と、最も遠い情報記録面と、における前記球面収差補正光学素子の位置情報および前記対物レンズの出射光強度比の情報を前記ピックアップ情報記録手段に記録した光学的情報記録再生装置。
【請求項6】
請求項1、2、3、4において、前記情報記録媒体の光入射側の表面から見て最も近い情報記録面と、最も遠い情報記録面と、その間の情報記録面と、における前記球面収差補正光学素子の位置情報および前記対物レンズの出射光強度比の情報を前記ピックアップ情報記録手段に記録した光学的情報記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図3(C)】
【図4(A)】
【図4(B)】
【図5】
【図6(A)】
【図6(B)】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3(A)】
【図3(B)】
【図3(C)】
【図4(A)】
【図4(B)】
【図5】
【図6(A)】
【図6(B)】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−43503(P2012−43503A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184542(P2010−184542)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】
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