説明

光学的鍵システム

【課題】 光学的な多層薄膜を用いた鍵システムであって、鍵として用いる多層薄膜の分光特性を鍵認識装置側にデジタルデータ化して保存することを必要とせず、それによって第三者並びに鍵システムの製造者であっても鍵の複製及び不正開錠がなされることを完全に防止でき、しかも温度変化等による誤判定の発生を十分に防止できるという、従来にない極めて高水準のセキュリティ性を備えた光学的鍵システムを提供すること。
【解決手段】 特有の分光特性を有する多層薄膜からなる識別子5を備える鍵1、及び
前記識別子5と同一の分光特性を有する多層薄膜からなる参照部材7と、前記識別子5及び前記参照部材7に照射される光を発する光源8と、前記識別子5を透過又は反射した識別光及び前記参照部材を透過又は反射した参照光を検知し、前記識別子5の分光特性と前記参照部材7の分光特性との同一性を判定して判定信号を発する判定手段とを備える鍵認識装置2、
を備えることを特徴とする光学的鍵システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的鍵システムに関し、より詳しくは、セキュリティ性の高い光学部材を用いた鍵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の機械式鍵システムは、主として金属の小片にユニークな形状を刻んだものを鍵とし、その鍵の有するユニークさを機械的に認証して開錠または施錠するシステムである。しかしながら、このような金物の小片に刻まれたユニークな形状を利用した鍵システムは、複製が容易に可能であるという問題があった。
【0003】
ところで、このような鍵が十分に機能しない状態とは、意図していない開錠や、予定されていない第三者による同一認証を受けるような偽造によって開錠がなされてしまう状態を指す。つまり、鍵が十分に機能しない状態とは、鍵の有する排他的な独自性が予定されていない第三者によって犯されるということである。そして、このような鍵が十分に機能しない状態を回避するために、第三者に対して排他的な独自性を有する鍵システム、即ち、同じ鍵を複製することが、鍵の製作業者であっても非常に困難ないしは不可能である鍵システムの出現が古来より要請され続けている。そして、このような要請に応えるべく従来より種々の鍵システムが提案されてきている。
【0004】
例えば、昨今では、ピッキング盗等に対する対策として、磁石を組み込んだ鍵システムや鍵の形状の加工を精密化した鍵システムが提案されている。しかしながら、このような鍵システムであっても、鍵に工業的な寸法と仕様があることから、やはり複製が可能であるという問題があった。
【0005】
さらに、今までの鍵とは根本的に違った鍵システムとして、人の眼底、指紋、声等の各人が有する独自の情報を判別することで鍵に必要な排他性を得ようとする鍵システムが提案されている。しかしながら、このような鍵システムにおいても、読みとりの不安定さがあることや、属人的に認証されることから柔軟な許認可が困難であるといった問題点があった。
【0006】
一方、従来の鍵システムの概念をそのままにしながら複製が困難な鍵システムとして、特開2000−220331号公報(特許文献1)及び特開2003−314109号公報(特許文献2)では、光学多層膜を利用した光学式キー装置が提案されている。しかしながら、このような特開2000−220331号公報や特開2003−314109号公報に記載されている鍵システムにおいては、鍵の同一性を認定する方法として鍵に使用されている光学多層膜の分光特性を分光器で計測し、これを予め鍵システム中に記憶されている分光特性情報と照合する方法をとることから、それが正当な鍵であると判定するために鍵の形状に相当する分光特性をデジタルデータの形で錠の識別装置の中に複製して格納しておく必要があった。そのため、このような鍵システムにおいては、鍵を複製しないとの概念に反してデジタルデータの形で鍵を複製してしまうという問題があり、更には、製造者自身が鍵のデジタルデータ(複製物)に関して秘密を保持する必要があるという問題、並びに第三者にデータを読み取られることにより鍵の複製及び不正開錠がなされてしまう危険性があるという問題があった。また、鍵に使用されている光学多層膜の分光特性が温度等の条件によって変化した場合、正当な鍵と判定されなくなってしまうという誤判定の問題もあった。
【特許文献1】特開2000−220331号公報
【特許文献2】特開2003−314109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、光学的な多層薄膜を用いた鍵システムであって、鍵として用いる多層薄膜の分光特性を鍵認識装置側にデジタルデータ化して保存することを必要とせず、それによって第三者並びに鍵システムの製造者であっても鍵の複製及び不正開錠がなされることを完全に防止でき、しかも温度変化等による誤判定の発生を十分に防止できるという、従来にない極めて高水準のセキュリティ性を備えた光学的鍵システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、光学的鍵システムにおいて鍵と鍵認識装置との双方に同一の多層薄膜を備えることにより、前記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の光学的鍵システムは、
特有の分光特性を有する多層薄膜からなる識別子を備える鍵、及び
前記識別子と同一の分光特性を有する多層薄膜からなる参照部材と、前記識別子及び前記参照部材に照射される光を発する光源と、前記識別子を透過又は反射した識別光及び前記参照部材を透過又は反射した参照光を検知し、前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性との同一性を判定して判定信号を発する判定手段とを備える鍵認識装置、
を備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の光学的鍵システムにおいては、鍵と鍵認識装置との双方に同一の多層薄膜を備えており、それによって鍵に使われている多層薄膜自体を鍵の判定のための割り符として利用している。このように同一の多層薄膜そのものを判定のために利用していることから、本発明の光学的鍵システムにおいては、多層薄膜の分光特性を鍵認識装置側にデジタルデータ化して保存することを必要としないため、不正にデータを読み取られて鍵が複製及び不正開錠されることを完全に防止することが可能となる。また、このような本発明の光学的鍵システムにおいては、同一の分光特性を有する多層薄膜の事後的な複製が極めて困難であることから、例えば複数の多層薄膜の中から使用者自身が選んだ多層薄膜を錠及び鍵認識装置に組み込んで鍵システムを構成する方法をとることにより、その鍵システムの製造者であっても鍵の複製をすることが困難となり、極めて高水準のセキュリティ性を備える鍵システムとなる。さらに、温度変化等により多層薄膜の分光特性が変わっても、鍵と鍵認識装置の双方が同一の条件下で使用されるため、鍵と鍵認識装置に備えられる双方の多層薄膜の分光特性が同様に変化することとなり、誤判定の問題も生じない。
【0011】
前記本発明の光学的鍵システムとしては、前記判定信号に基づいて施錠又は開錠する施錠装置、及び/又は、前記判定信号に基づいて判定結果を表示する表示装置を更に備えていることが好ましい。
【0012】
このような施錠装置を備えることによって、判定信号に応じて電気的に施錠及び開錠をすることが可能となる。また、このような表示装置を備えることによって、鍵の利用者又は第三者に対して、正当な鍵であるか否かの判定結果を表示して知らせることが可能となる。
【0013】
さらに、前記本発明の光学的鍵システムにおいては、前記鍵認識装置が、前記光源から発せられた光を前記識別子に照射される識別光と前記参照部材に照射される参照光とに分割する光分割手段と、前記識別子を透過又は反射した識別光と前記参照部材を透過又は反射した参照光とを合成して合成光を得る光合成手段とを更に備えていることが好ましく、
その場合、前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性とが同一である場合に、前記識別子を透過又は反射した識別光の光学特性と前記参照部材を透過又は反射した参照光の光学特性とが相補的な関係になることを利用して、前記判定手段において前記合成光のスペクトラムの平坦性を判定することによって前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性との同一性を判定することが好ましい。
【0014】
さらに、前記本発明の光学的鍵システムが前記光分割手段と光合成手段とを更に備える場合、前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性とが同一である場合に、前記識別子を透過した識別光の光強度特性と前記参照部材を反射した参照光の光強度特性とが相補的な関係になること、或いは前記識別子を反射した識別光の光強度特性と前記参照部材を透過した参照光の光強度特性とが相補的な関係になることを利用することが好ましい。
【0015】
このような多層薄膜を透過した光の光強度特性と多層薄膜を反射した光の光強度特性との相補的な関係を利用することによって、多層薄膜を透過した光と反射した光の合成光のスペクトラムの平坦性を評価するという簡易かつ確実性の高い評価方法で鍵の判定を行うことが可能となる。
【0016】
また、前記本発明の光学的鍵システムとしては、前記識別子及び前記参照部材がそれぞれ、前記多層薄膜、光学異方性物質膜及び反射膜を積層していることが好ましく、
その場合、前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性とが同一である場合に、前記識別子を反射した識別光の偏光特性と前記参照部材を反射した参照光の偏光特性とが相補的な関係になることを利用することが好ましい。
【0017】
このような識別光の偏光特性と参照光の偏光特性の相補的な関係を利用することによって、識別光と参照光の合成光のスペクトラムの平坦性を評価するという簡易かつ確実性の高い評価方法で鍵の判定を行うことが可能となる。
【0018】
さらに、本発明にかかる前記光分割手段及び前記光合成手段としては、それぞれ偏光分離ミラーからなるものであることが好ましい。このような偏光分離ミラーを用いることによって、入射光を正確にほぼ半分に分割して識別光と参照光とに分けることを可能とし、他方、識別光又は参照光のうちの一方を透過させ、一方を反射させて偏光面の異なる識別光と参照光を合成することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光学的な多層薄膜を用いた鍵システムであって、鍵として用いる多層薄膜の分光特性を鍵認識装置側にデジタルデータ化して保存することを必要とせず、それによって第三者並びに鍵システムの製造者であっても鍵の複製及び不正開錠がなされることを完全に防止でき、しかも温度変化等による誤判定の発生を十分に防止できるという、従来にない極めて高水準のセキュリティ性を備えた光学的鍵システムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の光学的鍵システムの好適な第一の実施形態の構成を示す模式図である。
【0022】
本実施形態の鍵システムは、基本的には鍵1、鍵認識装置2及び施錠装置3からなり、本実施形態では更に表示装置4を備えている。
【0023】
鍵1は、特有の分光特性を有する多層薄膜からなる識別子5を備えており、本実施形態ではガラス基板6上に蒸着により形成せしめた独自の分光特性を有する多層薄膜を識別子5として用いている。また、本実施形態では、識別子5と同じ方法で識別子5の多層薄膜と同一の分光特性を有する多層薄膜を準備し、その多層薄膜を参照部材7として用いる。
【0024】
鍵認識装置2は、参照部材7、光源8及び分光計測判定装置9を備えており、更に光学系を構成するコリメータレンズ10、偏光分離ミラー(PBS)11,12、(1/4)λ波長板13、(1/2)λ波長板14、全反射プリズム15及び偏光板16を備えている。
【0025】
鍵認識装置2においては、光源8から発せられた光L1の光路上にコリメータレンズ10及び偏光分離ミラー11が配置され、偏光分離ミラー11によって反射されたs偏光成分の光(識別光)L2の光路上に(1/4)λ波長板13が配置されている。そして、(1/4)λ波長板13を透過した識別光L2の光路上に、判定対象となる鍵1の識別子5が配置され、識別光L2が識別子5によって反射されるように構成されている。
【0026】
一方、偏光分離ミラー11を透過したp偏光成分の光(参照光)L3の光路上には参照部材7が配置され、更に参照部材7を透過した参照光L3′の光路上に(1/2)λ波長板14及び全反射プリズム15が配置され、参照部材7を透過した参照光L3′と識別子5により反射された識別光L2′とが交差するように構成されている。
【0027】
そして、参照光L3′と識別光L2′とが交差する位置に偏光分離ミラー12が配置され、偏光分離ミラー12によって参照光L3′と識別光L2′とが合成されて得られた合成光L4が偏光板16を透過して分光計測判定装置9に入射されるように構成されている。
【0028】
分光計測判定装置9は、スリット17、グレーティング18、フィールドレンズ(結像レンズ)19、ラインセンサー20及び情報処理装置21を備えており、合成光L4がスリット17、グレーティング18及びフィールドレンズ19を透過してラインセンサー20に入射するように配置されている。そして、ラインセンサー20と情報処理装置21とが電気的に接続されており、さらに情報処理装置21と施錠装置3及び表示装置4とが電気的に接続されている。
【0029】
図2に識別子5及び参照部材7として用いることのできる多層薄膜の模式断面図を示す。このような図2に示された多層薄膜は、基板として厚さ0.5mmの光学研磨した合成石英平行平板を使い、この基板上に光学的な多層薄膜を積層させたものであり、多層薄膜の構成は大きく3構成になっている。具体的な多層薄膜の構成は、先ず、基板上に高屈折率層として厚さ116.28nmの酸化アルミニウム膜と低屈折率層として厚さ119.42nmの酸化珪素膜とを、交互に合計20層積層させた層がある。その層の上には、高屈折率層として厚さ105.70nmの酸化アルミニウム膜と低屈折率層として厚さ108.56nmの酸化珪素膜とを、交互に合計20層積層させた層がある。更にその層の上に、高屈折率層として厚さ95.13nmの酸化アルミニウム膜と低屈折率層として厚さ97.70nmの酸化珪素膜とを、交互に合計20層積層させた層がある。
【0030】
このような構成を有する多層薄膜の分光透過特性を図3に示す。複雑なピーク位置を持つ光学設計は、多層薄膜の屈折率、膜厚、層数等のパラメータが多いために複製の難易度が非常に高い。また、各層の膜厚を個々に変化させたり屈折率が異なる第3の屈折率層を加えるなどすれば、更に複製の難易度を高くすることができる。
【0031】
例えば、製造誤差によって、各層の厚さがそれぞれ1%少なかった場合の多層薄膜の分光透過特性を図3に点線で示す。図3に示すように、多層薄膜の膜厚が1%少ないこと(僅かlnm膜厚の差)によっても、多層薄膜の分光透過特性は大きく異なってくる。
【0032】
また、このような多層薄膜の製造の際においては、成膜装置であるスパッタリング装置や蒸着装置内の基板設置位置等の違いによって得られる多層薄膜の膜厚誤差が10%以上となることも珍しくない。そのため、多層薄膜の膜厚を1%未満で再現することは、非常に困難なものである。このように、多層薄膜の分光特性を再現することは、例え高度な膜厚制御技術を使った場合であっても、設計段階に加え、製造段階で更に困難なものとなることから、事実上ほとんど不可能であるといえる。
【0033】
また、このような多層薄膜は、光を吸収せずに入射してきた光を多層薄膜の分光特性に従って反射光と透過光とに切り分けるものである。従って、多層薄膜を透過した光と多層薄膜に反射された光とを合算すると入射光と等しくなる。このように、多層薄膜の分光透過特性と分光反射特性とは相補的な関係にある。例えば、波長に対してほぼ一定の光学特性(例えば光強度特性)を有する光を発する光源を用いた場合、識別子5によって反射された識別光L2′を計測すると多層薄膜の分光反射特性に由来する図4に示すような光学特性(例えば光強度特性)が計測され、他方、参照部材7を透過した参照光L3′を計測すると多層薄膜の分光透過特性に由来する図5に示すような光学特性(例えば光強度特性)が計測される。そして、識別光L2′と参照光L3′との合成光のスペクトラムは、図6に示されているような波長に対して平坦性のあるほぼ一定な光学特性(例えば光強度特性)、すなわち光源8が発した光と同一の光学特性(例えば光強度特性)が計測されることとなる。本実施形態は、このような多層薄膜の分光特性の相補的な関係を利用するものである。このように同一の分光特性を有する多層薄膜を識別子5及び参照部材7に用いて鍵の判定のための割り符として利用することで、本発明の鍵システムにおいては、多層薄膜の分光特性を鍵認識装置側にデジタルデータ化して保存することを必要とせず、不正にデータを読み取られて鍵が複製及び不正開錠がなされることを完全に防止することが可能となる。
【0034】
ここで、鍵1は、識別光L2の光路に対して多層薄膜面が垂直となるように配置されていればよく、どのような向きに置かれてもかまわない。本実施形態においては、上述のように多層薄膜の分光特性を鍵の判定基準としているため、多層薄膜面が垂直であれば鍵1の向きに依存しないためである。また、参照部材7も同様に、参照光L3の光路に対して多層薄膜面が垂直となるように設置されている。
【0035】
光源8としては、特に制限されないが、本実施形態においては、波長領域550nm〜600nmにおいてほぼ一定の光強度特性を有する白色LED(日亜化学社製NSPW300BS)を使用している。かかる光源8はランダム偏光で光束を輻射する。
【0036】
また、光学系を構成するコリメータレンズ10、偏光分離ミラー(PBS)11,12、(1/4)λ波長板13、(1/2)λ波長板14、全反射プリズム15及び偏光板16としては、特に制限されず、市販されているもの等を適宜使用することができる。
【0037】
なお、(1/4)λ波長板13は、入射してくる光L2の光路に対する垂直方向と波長板との間の角度が45°となるように傾斜させて設置されている。また、(1/2)λ波長板14も同様に、入射してくる光L3の光路に対する垂直方向と波長板との間の角度が45°となるように傾斜させて設置されている。
【0038】
偏光板16は、(1/4)π方向の偏光板であり、合成光L4の光路に対する垂直方向と偏光板との間の角度が45°となるように傾斜させて設置されている。このような偏光板16は、互いに直交する識別光の偏光面と参照光の偏光面とを一致させるために設置されるものである。すなわち、偏光板16は、偏光分離ミラー(PBS)11を透過してきた識別光と反射してきた参照光とを、それぞれ(1/4)π方向偏光させて偏光面を一致させる役割を果たすものである。本実施形態においては、グレーティングを使用するため、2つの合成される光束の偏光面を一致させておくことが望ましいことから偏光板16を設置している。
【0039】
分光計測判定装置9においては、スリット17は、グレーティング18の向きと同方向に設置されている。かかるスリット17により光束が絞り込まれ、分光を検知するラインセンサー20への開口が決められる。また、グレーティング18によってスリット17を透過した光が回折されて波長に従って広がり、その後、フィールドレンズ19によって結像されてラインセンサー20でスペクトラムが計測される。ここで、フィールドレンズ19は、スリット17と垂直に置かれたシリンドリカルなレンズである。このようなフィールドレンズ19によって、グレーティング18で分光した光がラインセンサー20に投影される。なお、図1では便宜上、分光計測判定装置9に備えられているスリット17、グレーティング18、フィールドレンズ19及びラインセンサー20を直線的な構成で記載しているが、分光は反射型のグレーティングを用いて行うケースが通常である。このような反射型のグレーティングを用いた場合には、分光計測判定装置9の光学的な構成は、グレーティング18で光束が折られるかたちの構成とすることも可能である。
【0040】
ラインセンサー20は、フィールドレンズ19によって結像されたスリット像が投影される位置に設置されている。このようなラインセンサー20としては特に制限されず、所定の幾何学形状の光強度検出素子が配設されているようなCCDを用いることができる。本実施形態においては、このようなラインセンサー20としてSONY社製ILX554Bを使用している。そして、ラインセンサー20によって合成光の波長毎の強度が計測されて光電変換される。このようにして変換された強度信号が情報処理装置21に出力される。
【0041】
情報処理装置21は、ラインセンサー20から入力された強度信号によって、識別子及び参照部材が備えるそれぞれの多層薄膜が有する分光特性の同一性を計算、判定するものである。すなわち、情報処理装置21は、入力された強度信号によって鍵1が正当なものであるか否かを計算、判定し、その判定信号を施錠装置3及び表示装置4へと送る。このような判定に使用する手段としては特に制限されず、例えば、予めインストールされている公知の回折像解析プログラムを用いることが挙げられる。なお、本実施形態の情報処理装置21においては、識別光と参照光の合成光のスペクトラムの平坦性が認識されたときに鍵1が正当なものであると判定する。
【0042】
また、このような判定に際し、実際には多少ノイズが含まれる場合があるため、情報処理装置21においては、スペクトラムのSN比を考慮して多層薄膜が有する分光特性の同一性を判定することが好ましい。例えば、スペクトラムのSN比が10%以内に入っている場合に鍵1が正当なものであると判定し、他方、10%を越えた場合には鍵1が不正なものであると判定するように調節することが好ましい。なお、本実施形態のように、識別光と参照光の合成光のスペクトラムの平坦性が認識されたときに鍵1が正当なものであると判定する場合においては、センサーがサチュレーションを起こす程度の高強度の光が外部から人為的に入射されると、検出された光があたかも一定の光学特性(例えば光強度特性)を有しているがごとく誤認され、鍵システムが破られてしまう可能性がある。そのため、本実施形態においては、情報処理装置21において、識別光と参照光の合成光のスペクトラムの平坦性を計算する前に、検出された光の強度が適性なものであるかを予め判定してこれを防止している。
【0043】
施錠装置3は、前記判定信号を受けて施錠又は開錠する装置である。なお、本発明に用いられる施錠装置としては特に制限されず、前記判定信号に応じて施錠又は開錠できるものが用いられ、例えば市販の電気的制御による施錠装置を適宜用いることが可能である。
【0044】
また、表示装置4は、前記判定信号を受けて、鍵の判定結果を表示する装置である。本実施形態において、このような表示装置4としては汎用のLCDキャラクタ表示ディスプレイを使用している。なお、本発明に用いられる表示装置としては特に制限されず、市販のモニターや所定のランプを適宜用いることができる。
【0045】
次に、このような鍵1及び鍵認識装置2を備える本発明の第一の実施形態について、図1に示す模式図及び図7に示す動作のフローチャートを参照しつつ、その好適な使用態様を説明する。
【0046】
本実施形態においては、鍵認識装置2が鍵1を検知すると(ステップS30)、光源8が点灯する(ステップS31)。そして、光源8が輻射した光L1はコリメータレンズ10で平行光とされる。このような平行光は、偏光分離ミラー(PBS)11に向かい、偏光分離ミラー(PBS)11によってs偏光成分(識別光)L2とp偏光成分(参照光)L3とに分けられる。この時、偏光分離ミラー(PBS)11によって折り曲げられた識別光L2が鍵1へと向かい、偏光分離ミラー(PBS)11を透過した参照光L3が参照部材7へと向かう。本実施形態においては、偏光分離ミラー(PBS)11へ入射する光L1がランダム偏光であることから、入射した光のほぼ正確に半分が偏光分離ミラー(PBS)11によって反射され、残りの半分の光が偏光分離ミラー(PBS)11を透過する。そして、識別光L2の偏光面と参照光L3の偏光面は、互いに90°異なる。
【0047】
次に、識別光L2は(1/4)λ波長板13を透過した後、鍵認識装置2から出射して鍵1の識別子5に照射される。そして、識別子5によって反射されて鍵認識装置2に戻ってくる識別光L2′は、鍵1の識別子5の多層薄膜の分光反射特性に由来した光学特性(図4に示すような光強度特性)を有する識別光L2′となる。なお、識別子5によって反射されなかった光は鍵1を通過し、そのままとなるか或いは図示されていない鍵1の後に置かれた黒色の材質に吸収されて、鍵認識装置2には戻ってこない。このようにして鍵1に照射された光のうち、鍵1に備えられた識別子5によって反射された光のみが再度(1/4)λ波長板13に向かう。従って、再び鍵認識装置2に戻ってくる識別光L2′は、偏光分離ミラー(PBS)11に入射した光束の半分に多層膜の分光反射特性が乗じられたものとなる。
【0048】
そして、鍵1の識別子5によって反射されて鍵認識装置に帰ってきた識別光L2′は、再度(1/4)λ波長板13を通過する。このように識別光は、再度偏光分離ミラー(PBS)11に入射するまでに(1/4)λ波長板13を二度通過することとなるため、偏光面が(1/2)πだけ回転する。従って、鍵1の識別子5によって反射された識別光L2′は、そのまま偏光分離ミラー(PBS)11を透過して偏光分離ミラー(PBS)12へと向かうこととなる。
【0049】
一方、偏光分離ミラー(PBS)11で分けられた参照光L3は、鍵に備えられている識別子5と同じ多層薄膜からなる参照部材7を透過する。この時、参照部材7を透過した参照光L3′は、多層薄膜(参照部材7)の分光透過特性に由来した光学特性(例えば図5に示すような光強度特性)を有する。従って、参照部材7を透過した参照光L3′は、偏光分離ミラー(PBS)11に入射した光の半分に多層薄膜(参照部材7)の分光透過特性が乗じられたものとなる。
【0050】
次に、参照部材7を透過した参照光L3′は、(1/2)λ波長板14を透過し、偏光面が(1/2)πだけ回転する。そして、(1/2)λ波長板14を透過した参照光L3′は、全反射プリズム15に入射し、進行方向を反対向きにして偏光分離ミラー(PBS)12へと向かう。このように、全反射プリズム15に入射した参照光L3′は折り返されて、進行方向を逆向きにして偏光分離ミラー(PBS)12へと向かうこととなる。
【0051】
そして、偏光分離ミラー(PBS)12に向かって入射してくる光のうち、識別光L2′は偏光分離ミラー(PBS)12をそのまま通過し、識別光と90°偏光面の異なる参照光L3′は偏光分離ミラー(PBS)12によって反射される。従って、偏光分離ミラー(PBS)12によって、識別光L2′と参照光L3′とが合成されて合成光L4となる。
【0052】
次に、偏光分離ミラー(PBS)12によって合成されて得られた合成光L4は、偏光板16へと向かう。このような偏光板16は、偏光分離ミラー(PBS)12を透過してきた識別光L2′の偏光面と偏光分離ミラー(PBS)12に反射された参照光L3′の偏光面を、それぞれ(1/4)π方向偏光させて偏光面を一致させる。
【0053】
そして、偏光板16を透過して偏光面が一致させられた合成光L4は、スリット17を透過してグレーティング18に照射された後、フィールドレンズ19を透過する。このように、スリット17を通過した光の像が、グレーティング18で分光され、フィールドレンズ19によってラインセンサー20に投影されるのである。すなわち、スリット像はグレーティング18で波長に従って広がり、ラインセンサー20でスペクトラムとして計測されることとなる。
【0054】
ラインセンサー20においては、入射した光の波長毎の強度が測定され、光電変換されて、その強度信号(CCD信号)が情報処理装置21に出力される(ステップS32)。そして、情報処理装置21において、先ず、光源が発した光の強度から判断してラインセンサー20に入射した光の強度が適正であるかを判定する(ステップS33)。
【0055】
そして、光の強度が適正である場合には、情報処理装置21によって、前記強度信号のDC成分が除去され(ステップS34)、続いて信号処理がなされ(ステップS35)、得られた信号に基づいて識別子5の多層薄膜と参照部材7の多層薄膜の分光特性の同一性が判定される(ステップS36)。この際、合成光のスペクトラムの平坦性が認識された場合には、正当な鍵であると判定され、その判定信号が施錠装置3及び表示装置4に出力されて開錠がなされ(ステップS37)、一連の処理が終了する。一方、情報処理装置21において、光の強度が不適正であると判定された場合、及び合成光のスペクトラムの平坦性が認識されなかった場合には、鍵1は不正なものと判定され(ステップS38)、この場合も一連の処理が終了する。
【0056】
[第二の実施形態]
次に、本発明の光学的鍵システムの好適な第二の実施形態について説明する。図8は、本発明の鍵システムの好適な第二の実施形態の構成を示す模式図である。
【0057】
本実施形態の鍵システムは、前述の第一の実施形態と同容に基本的には鍵1、鍵認識装置2及び施錠装置3からなり、更に表示装置4を備えているが、以下の点において第一の実施形態と相違する。
【0058】
すなわち、先ず、鍵1は、特有の分光特性を有する多層薄膜からなる識別子5と(1/4)λ波長板22と反射層23とが積層した構成となっている。また、積層した構造を有する鍵1は矩形で、積層されている(1/4)λ波長板22の軸は水平面に対し、光軸を中心に45°傾斜させた構成をとる。更に、前記反射層23に用いられる部材としては、反射層による光の吸収がないという理由から、GBO膜が使用されている。また、本実施形態では、参照部材7と(1/4)λ波長板22と反射層23とを積層させて鍵1と同様の構成を有する参照部材積層体24を作成している。
【0059】
鍵認識装置2は、参照部材積層体24、光源8及び分光計測判定装置9を備えており、更に光学系を構成するコリメータレンズ10、偏光分離ミラー(PBS)11、(1/4)λ波長板13及び偏光板16を備えている。
【0060】
鍵認識装置2においては、光源8から発せられた光L5の光路上にコリメータレンズ10及び偏光分離ミラー(PBS)11が配置され、偏光分離ミラー(PBS)11によって反射されたs偏光成分の光(識別光)L6の光路上に判定対象となる鍵1が配置され、識別光L6が鍵1によって反射されるように構成されている。
【0061】
一方、偏光分離ミラー(PBS)11を透過したp偏光成分の光(参照光)L7の光路上には(1/4)λ波長板13が配置され、更に(1/4)λ波長板13を透過した参照光L7の光路上に参照部材積層体24が配置され、参照光L7が参照部材積層体24によって反射されるように構成されている。
【0062】
そして、鍵1によって反射された識別光L6′及び参照部材7によって反射された参照光L7′が偏光分離ミラー(PBS)11によって合成され、得られた合成光L8が偏光板16を透過して分光計測判定装置9に入射されるように構成されている。
【0063】
本実施形態は、多層薄膜の以下のような特性を利用するものである。すなわち、矩形の鍵1の辺に対して水平方向もしくは垂直方向に偏光した光がこの鍵1に入射すると、識別子5(多層薄膜)で入射光束の一部が反射し、この時、反射した光は多層薄膜の分光反射特性に由来する光学特性(例えば光強度特性)を有する。そして、識別子5(多層薄膜)によって反射されず識別子5(多層薄膜)を透過した光は、(1/4)λ波長板22を透過し、反射層23で折り返された後、再度(1/4)λ波長板22を透過し、識別子5(多層薄膜)に逆方向から入射することとなる。このように識別子5(多層薄膜)に逆方向から入射する光は、(1/4)λ波長板22を往復で2回通過するため、偏光面が(1/2)πだけ回転する。こうして識別子5(多層薄膜)に戻ってきた光のうち、識別子5(多層薄膜)によって反射させられた光は折り返されて再度反射層23へと向かい、識別子5(多層薄膜)を反射せずに通過した光のみが鍵1から出射する。この過程は何度も繰り返され、識別子5(多層薄膜)を透過した光のみがこの鍵1から脱出できることになる。この時、鍵1から光が出射するまでの間に、識別子5(多層薄膜)と反射層23とを折り返した回数が偶数か奇数かで、出射する光の偏光面が、(1/2)π異なることとなる。
【0064】
ここで、識別子5(多層薄膜)の分光透過率をT(λ)とすると、垂直方向の直線偏光の光束をこの鍵に加えて出射する光の比率は次の表1に示す通りである。なお、次数とは、入射軸奥の反射層で反射される回数を指すものとする。また、入射光は偏光面に対して45°方向におかれた(1/4)λ偏光板を一度通過すると円偏光となり、もう一度通過すると偏光面が90°度だけ回転した直線偏光光束となる。
【0065】
【表1】

【0066】
また、鍵1を出射する光の比率に関して、無限級数の和をとると反射光の偏光面(1/2)π方向の成分は、下記式1のように表わすことができる。すなわち、反射光の偏光面(1/2)π方向の成分は、
式1:T(λ)/(2−T(λ))={2/(2−T(λ))}−1
となる。一方、偏光面が0方向の成分は下記式2のように表すことができる。
式2:2−{2/(2−T(λ))}
このように、鍵1から帰ってくる光の強度は、反射層23での光の吸収が小さいとすると、偏光面(1/2)π方向の成分の光の強度と偏光面が0方向の成分の光の強度とが相補的な関係にあることから入射光の強度に等しくなる。つまり、鍵1は一見、鏡面体に見えることとなる。すなわち、本実施形態で用いられる鍵1は、識別子5(多層薄膜)に由来する分光特性を持ち、鍵1によって反射された光の強度を変化させるものではなく、鍵1によって反射された光の偏光特性を変化させるものということができる。本実施形態は、このような偶数回反射光の偏光特性と奇数回反射光の偏光特性の相補的な関係を利用したものである。
【0067】
なお、本実施形態における鍵1においては、反射層23を設けることで、鍵自体が干渉色とはならず、多層薄膜で構成されていることが見知される可能性が少なく、より安全性が高いといえる。
【0068】
また、本実施形態においては、上述のように、鍵1及び参照部材積層体24によって反射された光の偏光特性の相補的な関係を利用するため、鍵1の垂直の辺が光源からの光L5の光路に対して平行となる方向に置く必要がある。また、参照部材積層体24も鍵1と同様に、参照部材積層体24の垂直の辺が識別光L6の光路に対して平行となる方向に置く必要がある。
【0069】
光源8は、前述の第一の実施形態に用いられる光源と同様の白色LEDである。また、光学系を構成するコリメータレンズ10、偏光分離ミラー(PBS)11、(1/4)λ波長板13及び偏光板16についても、前述の第一の実施形態に用いられているものと同様のものが用いられる。ここで(1/4)λ波長板13は参照光L7の光路に対する垂直方向と(1/4)λ波長板13との間の角度が45°となるように傾斜させて設置されている。このような(1/4)λ波長板13を通過することで、参照光L7は円偏光とされる。また、偏光板16も、合成光L8の光路に対する垂直方向と偏光板16との間の角度が45°となるように傾斜させて設置されている。
【0070】
分光計測判定装置9は、前述の第一の実施形態の分光計測判定装置と同様のものが設置されており、更に、施錠装置3及び表示装置4についても、前述の第一の実施形態と同様のものが設置されている。
【0071】
次に、本発明の第二の実施形態について、図8に示す模式図及び図7に示す動作のフローチャートを参照しつつ、その好適な使用態様を説明する。
【0072】
先ず、鍵認識装置2が鍵1を検知すると(ステップS30)、光源8が点灯する(ステップS31)。このような光源8が輻射した光L5はコリメータレンズ10で平行光とされ、偏光分離ミラー(PBS)11に入射する。そして、偏光分離ミラー(PBS)11によって、前記平行光がs偏光成分の光(識別光)L6とp偏光成分の光(参照光)L7に分けられる。このようにして、偏光分離ミラー(PBS)11によって反射された識別光L6は、鍵1に照射され、偏光分離ミラー(PBS)11を透過した参照光L7は、参照部材積層体24へ照射される。
【0073】
そして、鍵1に入射した識別光L6は、鍵1によって反射されて、先に示したような偏光特性を有する識別光L6′に変化させられ、再度偏光分離ミラー(PBS)11に入射する。このようにして鍵1によって反射されて戻ってきた識別光L6′のうち、偏光分離ミラー(PBS)11を透過することができるのは反射層で奇数回反射している光のみである。これは、奇数回反射している識別光の偏光面が、鍵1に入射した識別光の偏光面に対して90°回転しているからである。
【0074】
一方、偏光分離ミラー(PBS)11を透過した参照光L7の光路上には、(1/4)λ波長板13が置かれている。参照光L7が(1/4)λ波長板13を通過することで参照光L7は円偏光となる。従って、参照部材積層体24に入射する参照光L7は、前述の第一の実施形態で想定したような直線偏光ではない。また、このような参照部材積層体24から出射した光は、反射層での奇数回又は偶数回の反射に応じて回転方向が左右異なる円偏光となるため区別することが可能である。
【0075】
そして、参照部材7を反射して戻ってきた参照光L7′は、(1/4)λ波長板13を再度通過して直線偏光となる。ここで、偏光分離ミラー(PBS)11に戻ってきた時点では、偶数回反射の光と奇数回反射の光は、偏光面が90°異なる直線偏光となっている。なお、このような(1/4)λ波長板13は参照光L7の光路上ではなく、参照光L7′と識別光L6′を合成させた後の合成光L8の光路上に設置するのでもかまわない。
【0076】
このようにして偏光分離ミラー(PBS)11に戻ってきた参照光L7′のうち、偶数回反射の光のみが偏光分離ミラー(PBS)11によって反射されて直角に折られ、分光計測判定装置9に向かう。
【0077】
このように、偏光分離ミラー(PBS)11によって、偏光分離ミラー(PBS)11を透過した識別光L6′と偏光分離ミラー(PBS)11によって反射された参照光L7′とが合成される。このように合成されて得られた合成光L8は、偏光板16を透過して偏光面を一致させられ、分光計測判定装置9に入射する。そして、合成光L8は、スリット17を透過してグレーティング18に照射された後、フィールドレンズ19を透過し、ラインセンサー20に投影される。
【0078】
ラインセンサー20においては、入射した光の波長毎の強度が光電変換されて、その強度信号が情報処理装置21に出力される(ステップS32)。そして、情報処理装置21においては、先ず、光源が発した光の強度から判断してラインセンサーに入射した光の強度が適正であるかを判定する(ステップS33)。
【0079】
そして、光の強度が適正である場合には、情報処理装置21によって、前記強度信号のDC成分が除去され(ステップS34)、続いて信号処理がなされ(ステップS35)、得られた信号に基づいて識別子5の多層薄膜と参照部材7の多層薄膜の分光特性の同一性が判定される(ステップS36)。この際、合成光のスペクトラムの平坦性が認識された場合には、正当な鍵であると判定され、その判定信号が施錠装置3及び表示装置4に出力されて開錠がなされ(ステップS37)、一連の処理が終了する。一方、情報処理装置21において、光の強度が不適正であると判定された場合、及び合成光のスペクトラムの平坦性が認識されなかった場合には、鍵1は不正なものと判定され(ステップS38)、この場合も一連の処理が終了する。
【0080】
[その他の実施形態について]
なお、本発明の実施形態は前記第一及び第二の実施形態に限定されるものではない。
【0081】
すなわち、例えば、前記第一の実施形態では多層薄膜を透過した光の光強度特性と多層薄膜を反射した光の光強度特性の相補的な関係を利用したものであるが、合成光のスペクトラムと光源が発する光のスペクトラムとの同一性を比較して鍵の判定をする実施形態とすることも可能である。具体的には、鍵認識装置内に分光計測判定装置を2つ設置して、一方の分光計測判定装置で、第一の実施態様と同様に特有の分光特性を有する多層薄膜からなる識別子によって反射させられた反射光と、識別子と同一の多層薄膜からなる参照部材を透過した透過光とを合成して得られる合成光のスペクトラムを計測し、もう一方の分光計測判定装置で光源が発する光が有するスペクトラムを直接計測して、それぞれが示すスペクトラムが同一か否かを比較して鍵の適正を判定する実施形態が挙げられる。
【0082】
また、前記第一の実施形態は多層薄膜を透過した光の光強度特性と多層薄膜を反射した光の光強度特性の相補的な関係を利用したものであるが、多層薄膜を透過した光の光強度特性又は多層薄膜を反射した光の光強度特性のどちらか一方のみを利用して、多層薄膜が有する分光特性の同一性を比較して鍵の判定をする実施形態とすることも可能である。具体的には、鍵認識装置内に分光計測判定装置を2つ設置して、一方の分光計測判定装置で識別子を透過した光の光強度特性を測定し、もう一方の分光計測判定装置で参照部材を透過した透過した光の光強度特性を測定し、それぞれの光の光強度特性を比較して多層薄膜が有する分光特性が同一のものであるか否かを判定して鍵の適正を判定する実施形態が挙げられる。
【0083】
さらに、前記第一及び第二の実施形態においては光源として白色LEDを使用していたが、前記光源を変更して用いることも可能である。このような光源としては、使用する波長領域おいて連続かつ白色(色として白色という意味ではなく、一定の強度のスペクトラムと云う意味)で発光する光源を用いることが好ましく、例えば、前述の白色LEDの他、有機EL、タングステンランプ、フィラメント型光源等が挙げられる。なお、本発明に用いられる多層薄膜が非常に狭い幅で強度変化を繰り返すような設計であって使用波長領域を狭く取れるような場合には、前記光源の中でも、LEDを用いることが好ましい。なお、ランダム偏光の状態に自信がもてないような光源を用いた場合には、光源から発せられる光の光路上に、垂直方向に対して45°に傾けた偏光板を設置して、同様の効果が得られるようにすることも可能である。
【0084】
また、第一の実施形態においては参照光を折り返すために全反射プリズムを用いていたが、全反射プリズムと代えて同様の効果が得られるもの(例えば反射板、銀、アルミ蒸着板、GBOフィルム多層積層板(3M社)等)を使用することも可能である。
【0085】
また、第二の実施形態においては、前述のような構成の鍵1が用いられていたが、(1/4)λ波長板を基材とし、(1/4)λ波長板の上に蒸着により形成せしめた独自の分光特性を有する多層薄膜を準備し、かかる多層薄膜(識別子)に反射膜を積層させる構成の鍵を用いてもよい。更に、第二の実施形態の鍵の反射層に用いられる部材もGBO膜に代えて、銀、アルミ蒸着板、誘電体ミラー等を使用することも可能である。なお、このような部材の中でも、光が吸収され難いという観点から、GBO膜のような全反射膜を用いることが好ましい。
【0086】
なお、本発明の鍵システムを破る方法としては、前述のようにセンサーがサチュレーションをおこす程度の高強度の光を外部から人為的に入射させる方法が挙げられる。しかしながら、前記第一及び第二の実施形態のように分光計測判定装置においてセンサー光量のレベルをモニターして光の強度を判定することや、あらかじめ特定の波長だけを遮光するフィルターを鍵認識装置内に設置することで、これを防止することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明によれば、光学的な多層薄膜を用いた鍵システムであって、鍵として用いる多層薄膜の分光特性を鍵認識装置側にデジタルデータ化して保存することを必要とせず、それによって第三者並びに鍵システムの製造者であっても鍵の複製及び不正開錠がなされることを完全に防止でき、しかも温度変化等による誤判定の発生を十分に防止できるという、従来にない極めて高水準のセキュリティ性を備えた光学的鍵システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の光学的鍵システムの第一の実施形態を示す模式図である。
【図2】多層薄膜の構成を示す模式断面図である。
【図3】図2に示す多層薄膜の分光透過特性を示すグラフである。
【図4】本発明の光学的鍵システムの第一の実施形態における識別光L2′の光強度特性を示すグラフである。
【図5】本発明の光学的鍵システムの第一の実施形態における参照光L3′の光強度特性を示すグラフである。
【図6】本発明の光学的鍵システムの第一の実施形態における合成光L4のスペクトラムを示すグラフである。
【図7】本発明の光学的鍵システムにおける動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の光学的鍵システムの第二の実施形態の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0089】
1…鍵、2…鍵認識装置、3…施錠装置、4…表示装置、5…識別子、6…基材、7…参照部材、8…光源、9…分光計測判定装置、10…コリメータレンズ、11…偏光分離ミラー(PBS)12…偏光分離ミラー(PBS)、13…(1/4)λ波長板、14…(1/2)λ波長板、15…全反射プリズム、16…偏光板、17…スリット、18…グレーティング、19…フィールドレンズ、20…ラインセンサー、21…情報処理装置、22…(1/4)λ波長板、23…反射層、24…参照部材積層体、L1…光源8から発せられた光、L2…識別光、L2′…識別子5により反射された識別光、L3…参照光、L3′…参照部材7を透過した参照光、L4…合成光、L5…光源8から発せられた光、L6…識別光、L6′…鍵1により反射された識別光、L7…参照光、L7′…参照部材により反射された参照光、L8…合成光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特有の分光特性を有する多層薄膜からなる識別子を備える鍵、及び
前記識別子と同一の分光特性を有する多層薄膜からなる参照部材と、前記識別子及び前記参照部材に照射される光を発する光源と、前記識別子を透過又は反射した識別光及び前記参照部材を透過又は反射した参照光を検知し、前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性との同一性を判定して判定信号を発する判定手段とを備える鍵認識装置、
を備えることを特徴とする光学的鍵システム。
【請求項2】
前記判定信号に基づいて施錠又は開錠する施錠装置を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の光学的鍵システム。
【請求項3】
前記判定信号に基づいて判定結果を表示する表示装置を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学的鍵システム。
【請求項4】
前記鍵認識装置が、前記光源から発せられた光を前記識別子に照射される識別光と前記参照部材に照射される参照光とに分割する光分割手段と、前記識別子を透過又は反射した識別光と前記参照部材を透過又は反射した参照光とを合成して合成光を得る光合成手段とを更に備えており、
前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性とが同一である場合に、前記識別子を透過又は反射した識別光の光学特性と前記参照部材を透過又は反射した参照光の光学特性とが相補的な関係になることを利用して、前記判定手段において前記合成光のスペクトラムの平坦性を判定することによって前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性との同一性を判定することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学的鍵システム。
【請求項5】
前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性とが同一である場合に、前記識別子を透過した識別光の光強度特性と前記参照部材を反射した参照光の光強度特性とが相補的な関係になること、或いは前記識別子を反射した識別光の光強度特性と前記参照部材を透過した参照光の光強度特性とが相補的な関係になることを利用することを特徴とする請求項4に記載の光学的鍵システム。
【請求項6】
前記識別子及び前記参照部材がそれぞれ、前記多層薄膜、光学異方性物質膜及び反射膜を積層してなるものであり、
前記識別子の分光特性と前記参照部材の分光特性とが同一である場合に、前記識別子を反射した識別光の偏光特性と前記参照部材を反射した参照光の偏光特性とが相補的な関係になることを利用することを特徴とする請求項4に記載の光学的鍵システム。
【請求項7】
前記光分割手段及び前記光合成手段がそれぞれ、偏光分離ミラーからなるものであることを特徴とする請求項4〜6のうちのいずれか一項に記載の光学的鍵システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−97426(P2006−97426A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287685(P2004−287685)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】