説明

光学積層体の製造方法、光学素子及び液晶表示装置

【課題】引き裂けが生じにくく、ハンドリング性が良好であり、液晶表示装置に組み込んだとき、視野角による位相差変化の少ない表示画面を与えることができ、経時的にも安定した性能を有する光学積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】視野角特性を向上させた光学積層体の製造方法であって、固有複屈折値が負の重合体Aからなるa層の少なくとも片面に、透明な重合体Bからなるb層を積層して未延伸積層体を得る工程と、前記未延伸積層体を延伸して、前記A層と前記B層の少なくとも2層によって構成される光学積層体を得る工程とを備え、前記光学積層体は、|A層の正面レターデーション|>|B層の正面レターデーション|、重合体Aのガラス転移温度>重合体Bのガラス転移温度+20℃、0.5<幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度<2.0を満たす光学積層体の製造方法;それにより得られた光学積層体を含む光学素子及び液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、引き裂けが生じにくく、ハンドリング性が良好であり、液晶表示装置に組み込んだとき、視野角による位相差変化の少ない表示画面を与えることができ、経時的にも安定した性能を有する光学積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、高画質、薄型、軽量、低消費電力などの特徴をもち、テレビジョン、パーソナルコンピューター、カーナビゲーターなどに広く用いられている。液晶表示装置は、液晶セルの上下に透過軸が直交するように2枚の偏光子を配置し、液晶セルに電圧を印加することにより液晶分子の配向を変化させて、画面に画像を表示させる。ツイステッドネマチックモードの液晶表示装置では、電圧印加時に液晶分子が垂直配向状態となり、黒表示となる構成が多い。インプレーンスイッチングモードの液晶表示装置では、電圧無印加時に液晶分子が一定の方向に配向し、電圧印加時に配向方向が45度回転して、白表示となる構成が多い。
2枚の偏光子の透過軸が上下方向と左右方向を指して直交するように配置された液晶表示装置では、上下左右方向から画面を見るときは、十分なコントラストが得られる。しかし、上下左右から外れた方向から画面を斜めに見ると、入射側偏光子の透過軸と出射側偏光子の透過軸が、見かけ上直交でなくなるために、直線偏光が完全に遮断されずに光洩れが発生し、十分な黒が得られず、コントラストが低下してしまう。このために、液晶表示装置に光学補償手段を加えて、画面のコントラストの低下を防止する試みがなされている。
特許文献1には、(1)波長632.8nmの単色光を垂直入射した場合のレターデーションをRe、波長632.8nmの単色光をフィルム面の法線とのなす角度が40°で斜入射した場合のレターデーションをR40としたとき0.92≦R40/Re≦1.08であることを特徴とする位相差フィルムが開示されている。
また、特許文献2には、(2)フィルムの平面方向に配向した分子群と厚さ方向に配向した分子群とが混在してなることを特徴とする複屈折性フィルム、及び樹脂フィルムを延伸処理する際に、その樹脂フィルムの片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理して前記樹脂フィルムの延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することを特徴とする前記複屈折性フィルムの製造方法が開示されている。
【0003】
さらに、特許文献3には、(3)光透過性を有するフィルム(A)が、該フィルムの法線方向を基準として周囲45°以内に少なくとも1本の光軸又は光線軸を有するか、又は該フィルムの法線方向の屈折率をnTH、長手方向の屈折率をnMD、幅方向の屈折率をnTDとしたとき、nTH−(nMD+nTD)/2>0を満たすかのいずれかの条件を満たし、該フィルム(A)の少なくとも1枚と正の固有複屈折値を有するとともに光透過性を有する高分子から形成される1軸延伸フィルム(B)の少なくとも1枚とを、液晶セルと偏光板の間に挿入してなる液晶表示装置が開示されている。前記フィルム(A)として、固有複屈折値が負の材料からなる二軸延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを積層したものが挙げられている。
【0004】
特許文献4には、固有複屈折値が正である材料と負である材料が含有してなり、波長450nm、550nm及び650nmにおけるレターデーション値を各々Re(450)、Re(550)、Re(650)としたとき、Re(450)<Re(550)<Re(650)である位相差板が開示されている。これによれば、簡易な工程により製造が可能であり、可視光全域の入射光に対して均一な位相差特性を与えることができる。
【0005】
しかしながら、これらの公報に記載されている方法でフィルムを製造すると、例えば、位相差のバラツキや輝度ムラや色ムラが十分に小さくならず、又製造効率に劣る問題があった。また、この方法では、ハイビジョンテレビ等の大型液晶画面などに適用できる大判体を得ることが困難である。
また、特許文献2に記載の方法では、延伸と収縮との比率を精密にコントロールする必要があり、製造工程が複雑になって生産効率に劣る問題がある。
さらに特許文献4に記載の方法は、特に負の固有複屈折性を有する透明フィルムとして、二軸延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを用いた場合、位相差の制御が容易で生産性が高い方法であると考えられる。しかしながら、目的の位相差を発現させるには、実際には、材料の強度が不足しているために延伸時に破断しやすく、さらに、破断しないように高温で延伸を行うと、目的の位相差が発現しにくく、さらに位相差ムラが生じやすいことが考えられ、現実的な手法とは言えない。また、このフィルム自体は長尺体で作るのが難しく、個体間でのばらつきが生じやすいなどの不具合が発生しやすいという問題もある。
また、位相差フィルムは裁断して、偏光板と貼りあわせて用いられることが多いが、特に特許文献3に記載の位相差フィルムは、裁断時に欠けが生じやすく、それにより偏光板と貼り合わせるときに裂けやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−160204号公報
【特許文献2】特開平5−157911号公報
【特許文献3】特開平2−256023号公報
【特許文献4】特開2002−40258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、引き裂けが生じにくく、ハンドリング性が良好であり、液晶表示装置に組み込んだとき、視野角による位相差変化の少ない表示画面を与えることができ、経時的にも安定した性能を有する光学積層体の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、固有複屈折値が負の重合体AからなるA層と、透明な重合体BからなるB層の少なくとも2層によって構成され、幅方向の引裂強度と長手方向の引裂強度との比が0.5〜2であり、A層の正面レターデーションがB層の正面レターデーションより大きく、重合体Aのガラス転移温度が重合体Bのガラス転移温度より20℃を超えて高い光学積層体は、ハンドリング性が良好であり、液晶表示装置に組み込んだとき、視野角による位相差変化の少ない表示画面を与えることができ、経時的にも安定した性能を有することを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
(1) 視野角特性を向上させた光学積層体の製造方法であって、
固有複屈折値が負の重合体Aからなるa層の少なくとも片面に、透明な重合体Bからなるb層を積層して未延伸積層体を得る工程と、
前記未延伸積層体を延伸して、前記A層と前記B層の少なくとも2層によって構成される光学積層体を得る工程とを備え、
前記光学積層体は
|A層の正面レターデーション|>|B層の正面レターデーション| [1]
重合体Aのガラス転移温度>重合体Bのガラス転移温度+20℃ [2]
0.5<幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度<2.0 [3]
を満たす光学積層体の製造方法。
(2) 前記未延伸積層体を延伸する工程において、延伸温度が「重合体Aのガラス転移温度−5℃〜重合体Aのガラス転移温度+15℃」である(1)記載の光学積層体の製造方法。
(3) 前記未延伸積層体を得る工程は、共押出法により前記未延伸積層体を成形することを含む(1)又は(2)記載の光学積層体の製造方法。
(4) 前記重合体A及びBのガラス転移温度が「重合体Bのガラス転移温度+30℃≧重合体Aのガラス転移温度>重合体Bのガラス転移温度+20℃」の関係を満たす(1)〜(3)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
(5) 前記重合体Bは、脂環式構造を有する樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、(メタ)アクリル酸エステル−ビニル芳香族化合物共重合体樹脂、およびポリエーテルスルホンからなる群から選択される重合体である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
(6) 前記未延伸積層体を延伸する工程において、延伸倍率が1.1以上1.4未満である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
(7) 前記A層及び前記B層の構成が、B層−A層−B層の3層である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
(8) 前記B層の光弾性係数が、1.0×10−11Pa−1以下である(1)〜(7)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
(9) 80℃、5時間での前記A層の収縮率が、0.5%以下である(1)〜(8)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
(10) (1)〜(9)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法により得てなる光学積層体と偏光板の積層体からなることを特徴とする光学素子。
(11) (1)〜(9)のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法により得てなる光学積層体又は(10)記載の光学素子を少なくとも一枚用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学積層体の製造方法では、引き裂けが生じにくく、ハンドリング性が良好であり、液晶表示装置に組み込んだとき、視野角による位相差変化の少ない表示画面を与えることができ、経時的にも安定した性能を有する光学積層体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光学積層体は、固有複屈折値が負の重合体AからなるA層と、透明な重合体BからなるB層の少なくとも2層によって構成され、
|A層の正面レターデーション|>|B層の正面レターデーション| [1]
重合体Aのガラス転移温度>重合体Bのガラス転移温度+20℃ [2]
0.5<幅方向の引裂強度/長手方向引裂強度<2.0 [3]
を満たす。
固有複屈折値Δnは、式[4]により算出される値である。
Δn=(2π/9)(Nd/M){(n+2)/n}(α−α) [4]
ただし、πは円周率、Nはアボガドロ数、dは密度、Mは分子量、naは平均屈折率、α1は高分子の分子鎖軸方向の分極率、α2は高分子の分子鎖軸と垂直な方向の分極率である。
【0011】
固有複屈折値が負である重合体としては、ビニル芳香族系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、ポリメタクリル酸メチル系重合体、セルロースエステル系重合体、これらの多元共重合体などを挙げることができる。これらの固有複屈折値が負である重合体は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中で、ビニル芳香族系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体及びポリメタクリル酸メチル系重合体を好適に用いることができ、ビニル芳香族系重合体は、複屈折発現性が高いので特に好適に用いることができる。
ビニル芳香族系重合体としては、例えば、ポリスチレン;スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ニトロスチレン、p−アミノスチレン、p−カルボキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレンなどと、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン、(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどとの共重合体などを挙げることができる。これらの中で、ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体及びスチレン−アクリロニトリル共重合体を好適に用いることができる。
【0012】
本発明に用いる透明な重合体は、厚さ1mmの試験片について測定した全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。このような重合体としては、例えば、脂環式構造を有する樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、(メタ)アクリル酸エステル−ビニル芳香族化合物共重合体樹脂、ポリエーテルスルホンなどを挙げることができる。これらの中で、脂環式構造を有する樹脂を好適に用いることができる。
脂環式構造を有する樹脂としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及び、これらの水素化物などを挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なので、好適に用いることができる。
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体若しくはノルボルネン系単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン系単量体の付加重合体若しくはノルボルネン系単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物などを挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系単量体の開環重合体又はノルボルネン系単量体と他の単量体との開環共重合体の水素化物は、透明性が良好なので、特に好適に用いることができる。
【0013】
本発明に用いるA層及びB層には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、抗菌剤、その他の樹脂、熱可塑性エラストマーなどを添加することができる。これらの添加剤の添加量は、固有複屈折値が負の重合体A又は透明な重合体B100重量部に対して、0.01〜5重量部であることが好ましく、0.1〜3重量部であることがより好ましい。
【0014】
本発明においては、波長400〜700nmの光で測定したA層の正面レターデーションをRe(A)(nm)、B層の正面レターデーションをRe(B)(nm)としたとき、|Re(A)|>|Re(B)|である。|Re(A)|>|Re(B)|であることにより、光学的に調整を行ったA層の光学特性を効果的に利用することができる。|Re(A)|≦|Re(B)|であると、光学積層体の光学補償機能が十分に発現しないおそれがある。
本発明においては、|Re(B)|が25nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。|Re(B)|が25nmを超えると、光学積層体の光学補償機能が十分に発現しないおそれがある。なお、B層が複数層ある場合には、|Re(B)|は、各B層の面内レターデーションの絶対値の総和とする。
【0015】
本発明においては、重合体A及び重合体Bのガラス転移温度をそれぞれTg(A)(℃)、Tg(B)(℃)としたとき、Tg(A)>Tg(B)+20であることが好ましく、Tg(A)>Tg(B)+24であることがより好ましい。
【0016】
本発明において、透明な重合体BからなるB層は、引張破壊伸びが30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。引張破壊伸びが30%以上であるB層と、A層とを積層することにより、未延伸積層体を安定して共延伸することができる。なお、引張破壊伸びは、JIS K 7127にしたがって測定される値である。
【0017】
本発明の光学積層体は、幅方向の引裂強度と長手方向の引裂強度の比、すなわち幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度が0.5〜2.0であり、好ましくは幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度が0.8〜1.5である。幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度が0.5以下であっても、2.0以上であっても、光学積層体を液晶表示装置に組み込むときに、引き裂けによる破断が生じやすく、ハンドリング性が不良になるおそれがある。なお、引裂強度は、JIS K 7128−2エルメンドルフ引裂法により測定される値である。
【0018】
本発明の光学積層体においては、B層の光弾性係数が1.0×10−11Pa−1以下であることが好ましく、8×10−12Pa−1以下であることがより好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、
C=Δn/σ
で表される値である。光弾性係数が小さい材料は、成形加工に際して光学歪みが生じにくい。B層の光弾性係数が1.0×10−11Pa−1を超えると、光学積層体の変形によってB層に複屈折を生じ、光学積層体の光学特性が低下するおそれがある。
【0019】
本発明の光学積層体においては、80℃、5時間でのA層の収縮率が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。80℃、5時間でのA層の収縮率が0.5%を超えると、光学積層体の寸法安定性が不十分となり、経時的に光学特性が変化するおそれがある。
【0020】
本発明の光学積層体は、固有複屈折値が負の重合体AからなるA層の両面に、透明な重合体BからなるB層が積層され、B層−A層−B層の3層で構成されてなることが好ましい。A層の両面にB層を積層することにより、各層の収縮率の差による光学積層体の反りの発生を防止することができる。また、固有複屈折値が負の重合体Aに紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加剤を配合したとき、共押出や共延伸の際の添加剤の揮発や、光学積層体における添加剤の滲み出しを防止することができる。酸化を受けやすい固有複屈折値が負の重合体Aに酸化防止剤を配合することにより、重合体の劣化を効果的に防止することができる。
【0021】
本発明の光学積層体においては、固有複屈折値が負の重合体AからなるA層と透明な重合体BからなるB層との間に接着剤層(C層)を設けることができる。接着剤層は、A層とB層との双方に対して親和性を有する重合体Cから形成することができる。このような重合体Cとしては、例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−スチレン共重合体などのエチレン系共重合体や他のオレフィン系重合体、これらの(共)重合体を酸化、ケン化、塩素化、クロルスルホン化などにより変性した変性物などを挙げることができる。接着剤層の厚さは、1〜50μmであることが好ましく、2〜30μmであることがより好ましい。
本発明の光学積層体が接着剤層を有する場合は、接着剤層を構成する重合体のガラス転移温度又は軟化点は、透明な重合体Bのガラス転移温度よりも低いことが好ましく、透明な重合体Bのガラス転移温度よりも15℃以上低いことがより好ましい。
【0022】
本発明の光学積層体を製造する方法に特に制限はなく、例えば、固有複屈折値が負の重合体Aからなる層の少なくとも片面に、透明な重合体Bからなる層を積層して未延伸積層体とし、次いで、これを延伸することができる。未延伸積層体を得る方法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法などの共押出による成形方法;ドライラミネーションなどのフィルムラミネーションによる成形方法;基材重合体フィルムに対して重合体溶液をコーティングするコーティングによる成形方法;などを挙げることができる。これらの中で、共押出による成形方法は、生産性が高く、未延伸積層体中に溶剤などの揮発性成分が残留しないので、好適に用いることができる。
本発明において、未延伸積層体を延伸する方法に特に制限はなく、例えば、ロール間の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法、テンターを用いて横方向に一軸延伸する方法などの一軸延伸法、固定するクリップの間隔が開かれて縦方向の延伸と同時にガイドレールの広がり角度により横方向に延伸する同時二軸延伸法、ロール間の周速の差を利用して縦方向に延伸した後にその両端部をクリップにより把持してテンターを用いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法、横又は縦方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機や、横又は縦方向に左右等速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにして、移動する距離が同じで延伸角度θを固定できるようにした若しくは移動する距離が異なるようにしたテンター延伸機を用いて斜め延伸する方法;などを挙げることができる。中でも、必要な光学特性を得るためには、一軸延伸又は一軸に近い延伸をするのが好ましい。さらに、一軸延伸の場合は、延伸方向と直交する方向に遅相軸が現れ、延伸条件を適宜選択することにより、フィルム幅方向に対する遅相軸の方向を調整することができ、光学積層体と偏光板とをロールトゥーロールで積層するという簡便な方法で目的とする光学素子を製造することができる。
【0023】
未延伸積層体の延伸温度は、固有複屈折値が負である重合体Aのガラス転移温度をTg(A)(℃)としたとき、Tg(A)−10〜Tg(A)+20(℃)であることが好ましく、Tg(A)−5〜Tg(A)+15(℃)であることがより好ましい。
本発明において、未延伸積層体の延伸倍率は、1.01〜10倍であることが好ましく、1.04〜5倍であることがより好ましい。未延伸積層体の延伸倍率が1.01倍未満であると、光学積層体のレターデーションの発現が不十分になるおそれがある。未延伸積層体の延伸倍率が10倍を超えると、積層体が破断するおそれがある。
本発明の光学積層体において、透明な重合体Bのガラス転移温度Tg(B)を固有複屈折値が負である重合体Aのガラス転移温度Tg(A)より低くし、未延伸積層体の延伸温度をTg(A)−10〜Tg(A)+20(℃)とし、かつ延伸倍率を1.01〜10倍とすることにより、固有複屈折値が負の重合体AからなるA層の面内レターデーション|Re(A)|と、透明な重合体BからなるB層の面内レターデーション|Re(B)|との間で、|Re(A)|>|Re(B)|の関係、及び、幅方向の引裂強度と長手方向の引裂強度との間で、(幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度)が0.5〜2.0の関係を満たすことができ、液晶セルの特性に合わせて、各層の複屈折性を調整することにより、視野角特性を向上させることができる。
このとき、透明な重合体からなる未延伸の重合体層(b層)は、そのガラス転移温度Tg(B)よりも20℃以上高い温度で延伸されるので、高分子はほとんど配向せず、実質的に無配向の状態となる。さらに未延伸積層体を共延伸することにより、別々に延伸したA層とB層を貼合積層する場合に比べて、製造工程を短縮し、製造コストを低減することができる。また、固有複屈折値が負の重合体Aからなる未延伸フィルムは、単独では延伸しにくく、延伸ムラや破断などが生ずる場合があるが、ガラス転移温度が低い他の透明な重合体Bと積層することにより、安定して共延伸することが可能となる。
【0024】
本発明の光学素子は、本発明の光学積層体と偏光板の積層体からなる。光学素子に用いる偏光板の基本的な構成は、二色性物質を含有するポリビニルアルコール系偏光フィルムなどの偏光子の片面又は両面に、接着層を介して保護層となる透明保護フィルムを接着したものからなる。
偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコールなどのフィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理などの処理を施したもので、自然光を入射すると直線偏光を透過する偏光子を用いることができる。偏光子の厚さは、5〜80μmであることが好ましい。
偏光子の片側又は両側に設ける透明保護層となる保護フィルムとしては、トリアセチルセルロースなどのアセテート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、脂環式構造を有する樹脂、アクリル系樹脂などの樹脂フィルムを挙げることができる。これらの中で、アセテート系樹脂及び脂環式構造を有する樹脂は、複屈折が小さく、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性に優れるので好適に用いることができ、脂環式構造を有する樹脂は、さらに軽量性にも優れるので、特に好適に用いることができる。透明保護フィルムの厚さは、500μm以下であることが好ましく、5〜300μmであることがより好ましく、10〜150μmであることがさらに好ましい。
光学積層体と偏光板との積層は、接着剤や粘着剤等の適宜な接着手段を用いて貼りあわせることができる。接着剤又は粘着剤としては、例えば、アクリル系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ゴム系などが挙げられる。これらの中で、アクリル系の接着剤、粘着剤は、耐熱性と透明性に優れるので好適に用いることができる。
【0025】
本発明の光学積層体と偏光板とを、光学積層体の遅相軸と偏光板の透過軸とが平行又は直交するように積層する。積層する方法に特に制限はなく、例えば、光学積層体と偏光板をそれぞれ所望の大きさに切り出して積層する方法、長尺の光学積層体と長尺の偏光板をロールトゥーロールで積層する方法などを挙げることができる。
本発明の光学積層体は、透明な重合体BからなるB層を偏光板の透明保護フィルムとして兼用し、光学素子を薄型化することができる。光学素子の厚さは、100〜700μmであることが好ましく、200〜600μmであることがより好ましい。
【0026】
本発明の液晶表示装置は、本発明の光学積層体又は本発明の光学素子を少なくとも1枚用いたものである。本発明の光学積層体を液晶表示装置に備える態様としては、偏光板と液晶セルの間に光学積層体を配置する態様、偏光板の液晶セルと反対側に光学積層体を配置する態様などを挙げることができる。液晶表示装置は、偏光板を液晶セルの片側又は両側に配置してなる透過型や反射型、あるいは、透過・反射両用型などの構成とすることができる。液晶セルの液晶モードとしては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。これらの中で、インプレーンスイッチングモードに特に好適に適用することができる。
【0027】
インプレーンスイッチングモードでは、水平方向にホモジニアスな配向をした液晶分子と、透過軸が画面正面に対して上下と左右の方向を指して垂直の位置関係にある2枚の偏光子を用いているので、上下左右の方向から画面を斜めに見るときには、2本の透過軸は直交して見える位置関係にあり、ホモジニアス配向液晶層はツイステッドモード液晶層で生ずるような複屈折も少ないことから、十分なコントラストが得られる。
これに対して、方位角45度の方向から画面を斜めに見るときには、2枚の偏光子の透過軸のなす角度が90度からずれる位置関係となるために、直線偏光が完全に遮断されずに光洩れが発生し、十分な黒が得られず、コントラストが低下する。インプレーンスイッチングモードの液晶表示装置の2枚の偏光子の間に、本発明の光学積層体を配置することにより、液晶セル中の液晶により生じる位相差の補償と2枚の偏光子の透過軸の直交配置の補償を行う。これによって、透過光に生ずる複屈折を効果的に補償して光の洩れを防ぎ、全方位角において高いコントラストを得ることができる。この効果は、他のモードの液晶表示装置においても同様の効果があると考えられ、特に前記IPSモードにおいて効果が顕著である。
本発明の液晶表示装置において、液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトや輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、光学積層体の評価は下記の方法によって行った。
(1)光学積層体の各層の厚さ
光学積層体をエポキシ樹脂に包埋したのち、ミクロトーム[大和光機工業(株)、RUB−2100]を用いて0.05μm厚にスライスし、透過型電子顕微鏡を用いて断面を観察し、測定する。
(2)各層の正面レターデーションRe及び厚さ方向のレターデーションRth
光学積層体を各層に分離したのち、自動複屈折計[王子計測機器(株)、KOBRA−ADH21]を用いて波長550nmで各層の幅方向に対し、中央部及び両端部から10mmの計3点で測定し、その平均値を測定値とする。ただし、B層が複数層ある場合におけるB層の正面レターデーションは各B層の絶対値の合計値である。
(3)ガラス転移温度
示差走査熱量計[セイコーインスツルメンツ(株)、DSC6200]を用いて、試料重量10mg、昇温速度10℃/分の条件で測定する。
(4)引裂強度比
JIS K 7128−2(エルメンドルフ引裂法)にしたがい、光学積層体の中央部における長手方向及び幅方向の試料について測定する。
(5)光弾性係数
光学積層体からB層を分離し、光弾性測定装置[(株)ユニオプト製、PHDL−10A]を用いて測定する。
(6)収縮率
光学積層体からA層を分離し、長手方向100mm、幅方向100mmの正方形の試験片を切り出し、80℃の乾式オーブンで5時間加熱する。加熱前及び加熱後の試料について、万能投影機を用いて長手方向及び幅方向の寸法を測定し、次式により収縮率を求める。
収縮率(%)={(加熱前の寸法−加熱後の寸法)/加熱前の寸法}×100
(7)ハンドリング性
光学積層体から長手方向300mm、幅方向300mmの正方形の試験片を切り出し、一辺の幅方向の中心位置に10mmのノッチをカッターで入れ、そこから手で引き裂いて評価する。
良好:途中で引っ掛かりがあり、引き裂きにくい。
不良:サンプルが一直線に端まで裂けてしまう。
(8)視野角特性
光学積層体をインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置に組み込んで、目視によって視野角特性を観察する。
(9)経時テスト
光学素子を用いて、反射型液晶表示装置を作製し、80℃、90%RH環境下1時間と、−20℃、40%RH環境下1時間のヒートサイクルテストを200サイクル繰り返した後、正面から反射型液晶表示装置の画像を目視で観察する。
良好:特に異常は認められない。
不良:画面端部などに部分的に色相変化が認められる。
【0029】
実施例1
重合体Aとしてスチレン−無水マレイン酸共重合体[ノヴァケミカルジャパン(株)、ダイラークD332、ガラス転移温度130℃]、重合体Bとしてノルボルネン系重合体[日本ゼオン(株)、ZEONOR1020、ガラス転移温度105℃]、接着剤層を構成する重合体Cとしてマレイン酸変性オレフィン系重合体[三菱化学(株)、モディックAPF534A、ビカット軟化点55℃]を用いた。
重合体A及び重合体Bのペレットを、熱風乾燥機を用いて100℃で4時間乾燥した。
乾燥したペレットと、重合体Cのペレットを、それぞれ濾過精度30μmのリーフディスク形状のフィルターを設置したスクリュー径50mmの3台の単軸押出機に別々に供給し、フィードブロックを介して合流せしめ、ダイスより押出温度260℃で共押出しした。なお、用いたダイスは、リップ部材質が炭化タングステンであり、#1000のダイヤモンド砥石で研磨したリップを用い、内面に表面粗さRa=0.05μmのクロムメッキを施した650mm幅のT型ダイスを用いた。
前記ダイスから押出されたシート状の積層フィルムを、直径250mm、温度135℃、周速度R10.05m/分の第1冷却ドラムに密着させ、次いで、直径250mm、温度125℃、周速度R10.05m/分の第2冷却ドラム、直径250mm、温度100℃、周速度R9.98m/分の第3冷却ドラムに順次密着させて移送し、両端部各70mmをトリミングして、b層(30μm)−c層(4μm)−a層(40μm)−c層(4μm)−b層(30μm)の構成の幅500mm、長さ500mの未延伸積層体を得た。
この未延伸積層体はロール状に巻き取った。なお、層構成は、それぞれの押出機の回転数を調節することにより調整した。
得られた未延伸積層体をフローティングゾーン方式の縦延伸機に供給し、延伸温度135℃、延伸倍率1.1倍で縦一軸延伸し、光学積層体を得た。得られた光学積層体のA層の正面レターデーションRe(A)は120nmであり、B層の正面レターデーションRe(B)は10nmであった。光学積層体の長手方向の引裂強度は4.5N、幅方向の引裂強度は5.4Nであり、幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度は1.2であった。B層の光弾性係数は、6×10−12Pa−1であった。A層の収縮率は、0.1%であった。ハンドリング性及び経時テストの結果は、いずれも良好であった。
ノルボルネン系樹脂[日本ゼオン(株)、ZEONOR1420、ガラス転移温度135℃]からなる未延伸フィルムを、温度139℃、延伸倍率1.1倍でニップロールにより縦一軸延伸して、厚さ100μmの一軸延伸位相差フィルムEを得た。一軸延伸位相差フィルムEの波長550nmの光線で測定した屈折率は、nx=1.5312、ny=1.5300、nz=1.5300であった。
上記の光学積層体と透過軸が長さ方向にある偏光板とをロールトゥーロール法により積層して光学素子の巻状体を得た。この巻状体から切り出した光学素子を、市販のインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置の入射側の偏光板と置き換え、一軸延伸位相差フィルムEと合わせて、光学積層体が液晶セル側に、一軸延伸位相差フィルムEが液晶セルに隣接するように組み込んだ。この際、光学積層体の遅相軸(屈折率が最大になる方向)及び一軸延伸位相差フィルムEの遅相軸と、入射側偏光板の透過軸とは、いずれも垂直に配置した。得られた液晶表示装置の表示特性を目視により確認したところ、画面を正面から見た場合も、全方位から極角80度以内の斜めから見た場合も、表示は良好かつ均一であった。
【0030】
実施例2
重合体Aとしてスチレン−アクリロニトリル共重合体[旭化成(株)、スタイラックT8707、ガラス転移温度100℃]、重合体Bとしてノルボルネン系樹脂[日本ゼオン(株)、ZEONOR750、ガラス転移温度70℃]を用いた他は実施例1と同様にして未延伸積層体を製造した。
延伸温度を110℃とした以外は、実施例1と同様にして縦一軸延伸を行い、光学積層体を得た。得られた光学積層体のA層の正面レターデーションRe(A)は125nmであり、B層の正面レターデーションRe(B)は10nmであった。光学積層体の幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度は、1.0であった。B層の光弾性係数は、6×10−12Pa−1であった。A層の収縮率は、0.3%であった。ハンドリング性及び経時テストの結果は、いずれも良好であった。
実施例1と同様にして、光学積層体と透過軸が長さ方向にある偏光板とをロールトゥーロール法により積層して光学素子の巻状体を得た。この巻状体から切り出した光学素子を、市販のインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置の入射側の偏光板と置き換え、一軸延伸位相差フィルムEと合わせて、光学積層体を液晶セル側に、一軸延伸位相差フィルムEが液晶セルに隣接するように組み込んだ。この際、光学積層体の遅相軸(屈折率が最大になる方向)及び一軸延伸位相差フィルムEの遅相軸と、入射側偏光板の透過軸とは、いずれも垂直に配置した。得られた液晶表示装置の表示特性を目視で確認したところ、画面を正面から見た場合も、全方位から極角80度以内の斜め方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。
【0031】
比較例1
延伸倍率を1.4倍とした以外は、実施例1と同様にして縦一軸延伸を行い、光学積層体を得た。得られた光学積層体のA層の正面レターデーションRe(A)は150nmであり、B層の正面レターデーションRe(B)は35nmであった。光学積層体の長手方向の引裂強度は4.0N、幅方向の引裂強度は8.4Nであり、幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度は2.1であった。B層の光弾性係数は、6×10−12Pa−1であった。A層の収縮率は、0.4%であった。ハンドリング性は、不良であった。経時テストの結果は、良好であった。
実施例1と同様にして、光学積層体と透過軸が長さ方向にある偏光板とをロールトゥーロール法により積層して光学素子の巻状体を得た。この巻状体から切り出した光学素子を、市販のインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置の入射側の偏光板と置き換え、一軸延伸位相差フィルムEと合わせて、光学積層体を液晶セル側に、一軸延伸位相差フィルムEが液晶セルに隣接するように組み込んだ。この際、光学積層体の遅相軸(屈折率が最大になる方向)及び一軸延伸位相差フィルムEの遅相軸と、入射側偏光板の透過軸とは、いずれも垂直に配置した。得られた液晶表示装置の表示特性を目視で確認したところ、画面を正面から見た場合も、全方位から極角80度以内の斜め方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。
【0032】
比較例2
重合体Aとしてスチレン−無水マレイン酸共重合体[ノヴァケミカルジャパン(株)、ダイラークD332、ガラス転移温度130℃]、重合体Bとしてノルボルネン系樹脂[日本ゼオン(株)、ゼオノア1430、ガラス転移温度138℃]を用いた他は実施例1と同様にして未延伸積層体を得、次いで実施例1と同様に縦一軸延伸を行って、光学積層体を製造した。
得られた光学積層体のA層の正面レターデーションRe(A)は120nmであり、B層の正面レターデーションRe(B)は125nmであった。光学積層体の長手方向の引裂強度/幅方向の引裂強度は、1.5であった。B層の光弾性係数は、6×10−12Pa−1であった。A層の収縮率は、0.4%であった。ハンドリング性は、不良であった。経時テストの結果は、良好であった。
実施例1と同様にして、光学積層体と透過軸が長さ方向にある偏光板とをロールトゥーロール法により積層して光学素子の巻状体を得た。この巻状体から切り出した光学素子を、市販のインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置の入射側の偏光板と置き換え、一軸延伸位相差フィルムEと合わせて、光学積層体を液晶セル側に、一軸延伸位相差フィルムEが液晶セルに隣接するように組み込んだ。この際、光学積層体の遅相軸(屈折率が最大になる方向)及び一軸延伸位相差フィルムEの遅相軸と、入射側偏光板の透過軸とは、いずれも垂直に配置した。得られた液晶表示装置の表示特性を目視で確認したところ、光学積層体を使用しない場合よりも、全方位から極角80度以内の斜め方向から見た場合のコントラストが低下した。
【0033】
比較例3
重合体Aとしてスチレン−無水マレイン酸共重合体[ノヴァケミカルジャパン(株)、ダイラークD332、ガラス転移温度130℃]、重合体Bとしてポリカーボネート[帝人化成(株)、パンライトL1225Y、ガラス転移温度150℃]を用いた他は実施例1と同様にして未延伸積層体を製造した。
延伸温度を150℃とした以外は、実施例1と同様にして縦一軸延伸を行い、光学積層体を得た。得られた光学積層体のA層の正面レターデーションRe(A)は80nmであり、B層の正面レターデーションRe(B)は130nmであった。光学積層体の長手方向の引裂強度/幅方向の引裂強度は、2.0であった。B層の光弾性係数は、70×10−12Pa−1であった。A層の収縮率は、0.3%であった。ハンドリング性は、良好であった。経時テストの結果は、不良であった。
実施例1と同様にして、光学積層体と透過軸が長さ方向にある偏光板とをロールトゥーロール法により積層して光学素子の巻状体を得た。この巻状体から切り出した光学素子を、市販のインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置の入射側の偏光板と置き換え、一軸延伸位相差フィルムEと合わせて、光学積層体を液晶セル側に、一軸延伸位相差フィルムEが液晶セルに隣接するように組み込んだ。この際、光学積層体の遅相軸(屈折率が最大になる方向)及び一軸延伸位相差フィルムEの遅相軸と、入射側偏光板の透過軸とは、いずれも垂直に配置した。得られた液晶表示装置の表示特性を目視で確認したところ、光学積層体を使用しない場合よりも、全方位から極角80度以内の斜め方向から見た場合のコントラストが低下した。
実施例1〜2及び比較例1〜3の製造条件を第1表に、得られた光学積層体の評価結果を第2表に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
第1表及び第2表に見られるように、A層の正面レターデーションがB層の正面レターデーションより大きく、重合体Aのガラス転移温度が重合体Bのガラス転移温度より25〜30℃高く、長手方向の引裂強度/幅方向の引裂強度が1.0〜1.2である実施例1〜2の光学積層体は、ハンドリング性、視野角特性及び経時テストの結果がすべて良好である。
これに対して、長手方向の引裂強度/幅方向の引裂強度が2.1である比較例1の光学積層体は、ハンドリング性が不良である。A層の正面レターデーションがB層の正面レターデーションより小さく、重合体Aのガラス転移温度が重合体Bのガラス転移温度より低い比較例2の光学積層体は、ハンドリング性と視野角特性が不良である。A層の正面レターデーションがB層の正面レターデーションより小さく、重合体Aのガラス転移温度が重合体Bのガラス転移温度より低く、重合体Bの光弾性係数が大きい比較例3の光学積層体は、視野角特性と経時テストの結果が不良である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の光学積層体は、長手方向と幅方向の引裂強度の差が小さく、ハンドリング性が良好であり、本発明の光学素子は優れた光学的性能を有し、本発明の光学積層体又は本発明の光学素子を少なくとも一枚用いた本発明の液晶表示装置は、全方位にわたって色彩の変化がなく、高画質の表示画面が得られ、経時的にも変化がなく、安定して使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視野角特性を向上させた光学積層体の製造方法であって、
固有複屈折値が負の重合体Aからなるa層の少なくとも片面に、透明な重合体Bからなるb層を積層して未延伸積層体を得る工程と、
前記未延伸積層体を延伸して、前記A層と前記B層の少なくとも2層によって構成される光学積層体を得る工程とを備え、
前記光学積層体は
|A層の正面レターデーション|>|B層の正面レターデーション| [1]
重合体Aのガラス転移温度>重合体Bのガラス転移温度+20℃ [2]
0.5<幅方向の引裂強度/長手方向の引裂強度<2.0 [3]
を満たす光学積層体の製造方法。
【請求項2】
前記未延伸積層体を延伸する工程において、延伸温度が「重合体Aのガラス転移温度−5℃〜重合体Aのガラス転移温度+15℃」である請求項1記載の光学積層体の製造方法。
【請求項3】
前記未延伸積層体を得る工程は、共押出法により前記未延伸積層体を成形することを含む請求項1又は2記載の光学積層体の製造方法。
【請求項4】
前記重合体A及びBのガラス転移温度が「重合体Bのガラス転移温度+30℃≧重合体Aのガラス転移温度>重合体Bのガラス転移温度+20℃」の関係を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項5】
前記重合体Bは、脂環式構造を有する樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、(メタ)アクリル酸エステル−ビニル芳香族化合物共重合体樹脂、およびポリエーテルスルホンからなる群から選択される重合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項6】
前記未延伸積層体を延伸する工程において、延伸倍率が1.1以上1.4未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項7】
前記A層及び前記B層の構成が、B層−A層−B層の3層である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項8】
前記B層の光弾性係数が、1.0×10−11Pa−1以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項9】
80℃、5時間での前記A層の収縮率が、0.5%以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法により得てなる光学積層体と偏光板の積層体からなることを特徴とする光学素子。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法により得てなる光学積層体又は請求項10記載の光学素子を少なくとも一枚用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−2924(P2010−2924A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223091(P2009−223091)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【分割の表示】特願2004−104689(P2004−104689)の分割
【原出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】