説明

光学素子と、その防湿コーティング方法

【課題】 高温高湿の環境下においても経時的な劣化を防ぎ、位相差フィルムとガラス基板が剥離することのない光学素子と、光学素子の防湿コーティング方法を提供する。
【解決手段】複屈折性物質フィルムの表面に接着剤を塗布してガラス基板を接着した光学素子を防湿コーティングする。ガラス基板と複屈折性物質フィルムの端面に可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の混合溶液を塗布して防湿処理する。また、光学素子を可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の所定の混合比で混合した溶液に浸漬し、ガラス基板と複屈折性物質フィルムの端面を防湿処理する。複屈折性物質フィルムは位相差フィルムであり、可溶性フッ素樹脂はアモルファスフッ素樹脂であり、エチレン系化合物はPTFEである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアプロジェクター、フロントプロジェクター、CD、DVD、HDD、Blue−Rayプレーヤー、半導体製造用又は液晶基板用の露光装置、浸漬露光装置などに用いられる光学素子と、その防湿コーティング方法に関し、とくに、波長板、偏光板、ビームスプリッター、貼り合せレンズなどの光学素子と、それを防湿コーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばプロジェクターに用いられる波長板などの光学素子は、延伸処理して製造された位相差フィルムなどの複屈折性物質フィルムの両面にガラス基板が接着剤で接着され、サンドイッチ状に製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、従来から、レンズ、プリズム等の全面を防湿処理する技術(例えば、特許文献2参照)や、反射偏光板の切断された切断面全体にポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂をコートする技術(例えば、特許文献3の図1参照)、液晶セルの面に配置した偏光板の周辺端部を防湿性接着剤で被覆する技術(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
【特許文献1】特開2000−155372号公報
【特許文献2】特開平6−43375号公報
【特許文献3】特開平8−146219号公報
【特許文献4】特開昭55−138715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の光学素子は、高温高湿の環境下で耐久試験を行なうと、図5に示すように、位相差フィルムの両面に接着されたガラス基板21の端面の全周22が経時的に劣化して、剥離してしまう虞があった。
【0005】
本発明は、高温高湿の環境下においても経時的な劣化を防ぎ、位相差フィルムとガラス基板が剥離することのない光学素子と、光学素子の防湿コーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願の請求項1の発明は、複屈折性物質フィルムの表面に接着剤を介在してガラス基板を接着した光学素子の防湿コーティング方法において、ガラス基板と複屈折性物質フィルムの端面に可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の混合溶液を塗布して、ガラス基板と複屈折性物質フィルムの間に存在している接着剤の端面にコーティングを形成して防湿処理することを特徴とする光学素子の防湿コーティング方法である。
【0007】
また、請求項2の発明は、複屈折性物質フィルムの表面に接着剤を介在してガラス基板を接着した光学素子の防湿コーティング方法において、ガラス基板と複屈折性物質フィルムの間に接着剤を介在した光学素子を、可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の所定の混合比で混合した溶液に浸漬し、ガラス基板と複屈折性物質フィルムの間に存在している接着剤の端面にコーティングを形成して防湿処理することを特徴とする光学素子の防湿コーティング方法である。
【0008】
また、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の光学素子の防湿コーティング方法において、複屈折性物質フィルムは位相差フィルムであり、可溶性フッ素樹脂はアモルファスフッ素樹脂であり、エチレン系化合物はPTFEであることを特徴とする光学素子の防湿コーティング方法である。
【0009】
また、請求項4の発明は、複屈折性物質フィルムとガラス基板とが接着剤で接着されており、複屈折性物質フィルムとガラス基板の端面が、可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の所定の混合比で混合した溶液から形成されたコーティングにより防湿処理されていることを特徴とする光学素子である。
【0010】
また、請求項5の発明は、複屈折性物質フィルムは位相差フィルムであり、可溶性フッ素樹脂はアモルファスフッ素樹脂であり、エチレン系化合物はPTFEであることを特徴とする光学素子である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は、鋭意実験研究した結果、例えば位相差フィルムの両面に接着剤を塗布した後、2枚のガラス基板の間に位相差フィルムを挟んだ形で接着し、さらにガラス基板の外表面に粘着シートを貼り付け、高温高湿環境下において貼り合わせに用いられた接着剤が化学的な影響を受けないようにするために、濃度や混合比を調整した可溶性フッ素樹脂とエチレン化合物との混合溶液に光学素子を浸漬させ、位相差フィルムとガラス基板の端面(コバ面)の全周をコーティングし、それと同時に位相差フィルムとガラス基板の間に存在する接着剤の端面にコーティングを形成することで、防湿し、接着剤の経時的な劣化を防ぎ、位相差フィルムとガラス基板が剥離することのない光学素子を開発した。
【0012】
本発明によると、特徴的な溶液中に光学素子を浸漬して接着剤を防湿コートする方法を用いるので、高温高湿の環境下においても、接着剤があまり経時的に劣化せず、したがって位相差フィルムとガラス基板が剥離しない波長板を製造することができる。
【実施例】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施例を説明する。
【0014】
本発明に係る光学素子の好適な例は、例えばプロジェクタなどに用いられる波長板である。
【0015】
図1は、位相差フィルム1の両面に、接着剤2、3を塗布し、それらの接着剤2、3を介して位相差フィルム1を両側から挟みこむように2枚のガラス基板4、5を貼り合わせた波長板を示す。
【0016】
図1の実施例において、好ましくは、位相差フィルム1の厚みは、0.2〜1.0mm、接着剤2、3の厚みは、5〜20μm、ガラス基板4、5の厚みは、0.2〜2.0mmである。
【0017】
図1に示すように、複屈折性物質フィルムからなる位相差フィルム1の両面に接着剤2、3を塗布し、ガラス基板4、5をサンドイッチ状に接着する。
【0018】
接着剤は、例えばポリカーボネイトなどの樹脂からなる。接着剤の線膨張係数L1、位相差フィルムの線膨張係数L2、ガラス基板の線膨張係数L3とすると、例えば、40℃程度の常温において、L3<L1<L2の関係を満たし、接着剤のガラス転移温度より高いとき、L3<L2<L1の関係を満たす。この場合、接着剤は、例えば40℃程度にガラス転移温度を持つものとする。
【0019】
接着した状態の波長板のガラス基板4、5の外表面(図1では上側の外表面と下側の外表面)に粘着シート6を貼り、波長板10とする。この粘着シート6は、コーティング12の形成後に、必要に応じて除去してもよい。
【0020】
図2の(A)に示すように、2枚以上の複数枚の波長板10を並列に配置し、それらの波長板6の間にゴムなどの緩衝材11を挟み込み、1つのセットにし、図2の(B)に示すように、そのセットを可溶性フッ素樹脂の防湿コーティング材の溶液12中に浸漬させる。溶液12の濃度や、波長板10の引き上げの速度などは、後述するように制御して、防湿処理を行なう。
【0021】
なお、粘着シート6の粘着剤は可溶性フッ素樹脂の溶液と相溶性のないものとする。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などである。
【0022】
なお、後述の環境試験においては、2枚の波長板10の間に緩衝材11を挟み込み、防湿コーティングした場合と、3枚の波長板10の間にそれぞれ緩衝材11を挟み込み、防湿コーティングした場合について、防湿処理した波長板の試験を行なっているが、本発明は、これに限らず、3枚以上の枚数であってもよい。
【0023】
また、コーティング方法として、上記以外に、図3の(A)に示すように、大型のガラス基板、例えば30cm角のガラス基板と、位相差フィルムとをサンドイッチ状に接着剤で貼りあわせて、波長板15を形成し、上記防湿コーティング材(可溶性フッ素樹脂)の溶液に浸漬することもできる。この場合、30cm角の波長板15の周縁部全周が防湿処理される。その後、図3の(B)に示すように、図示しない切断機械で所定の大きさに縦方向に切断して短冊状にする。そして、それらの切断面を再度、上記防湿コーティング材(可溶性フッ素樹脂)の溶液に浸漬する。さらに、切断機械で所定の大きさに横方向に切断し、上記防湿コーティング材(可溶性フッ素樹脂)の溶液に浸漬する。こうして、周縁部全周を防湿処理された短冊状の波長板を大量生産することができる。
【0024】
防湿コーティング処理に用いられるシーリング材として、旭硝子社製のCYTOP(登録商標)CTX−109AなどのCYTOPシリーズ、デュポン社製のTEFLON(登録商標)AF、ソルベイクライシス社製のアルゴフロン、菱光化学社製のRD−80などの可溶性であるアモルファスフッ素樹脂(可溶性フッ素樹脂)がある。
【0025】
この可溶性フッ素樹脂に、添加剤として、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのエチレン系化合物の粉末を添加する。PTFE以外にも、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などのフッ素樹脂であってもよい。
【0026】
防湿コーティングしたコート層、つまりコーティング12の厚みは、好ましくは20μm以下である。
【0027】
コーティング21の形成後、それを乾かし、図1の波長板10の端面の断面を拡大してみると、図4に示すように、コーティング12は、PTFE13が粒子となって、そのままシーリング材14の中に散在しており、これによって水分子を容易に近づけないようにしている。
【0028】
なお、シーリング材14の密着性が劣る場合には、アミノシラン系化合物などプライマーを併用して塗布する。
【0029】
可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の混合比(重量%比)は、好ましくは、10:0.1〜10:10である。
【0030】
好ましいコーティング方法を述べる。溶液コート装置を用い、引き上げ速度を1.67〜3.33mm/secとする。乾燥条件は、60℃の雰囲気中に1時間放置する。引き上げ速度は、上記に限定されず、0.1mm/sec〜2.0mm/secの範囲で有効である。
【0031】
引き上げ時は、波長板を、周縁面を溶液面に向かい合い、かつ溶液面に対し垂直な面内に保持し、波長板の一辺が溶液面に対し垂直な面内で30度〜45度に傾斜させて引き上げる。なお、傾斜させる角度はこれに限定されず、傾斜角度を持つ場合はすべてよい。
【0032】
コーティング12の形成後、高温高湿の環境耐久試験を行なった。
【0033】
条件は、温度60℃、湿度90%の環境中に、500時間配置する。
【0034】
試験開始後140時間後の耐湿性能評価を行なった結果は、表1の通りである。その後も同様の結果を示した。
【表1】

【0035】
表1において、*1は緩衝材を使用した場合のコーティング、*2は2枚同時にコーティングした場合、*3は3枚同時にコーティングした場合を示す。
【0036】
また、混合溶液Aでは、可溶性フッ素樹脂のCYTOP(登録商標)CTX−109A 10重量%比に対し、フッ素樹脂PTFEは5重量%比、混合溶液Bでは、可溶性フッ素樹脂のCYTOP(登録商標)CTX−109Aに対し、フッ素樹脂PTFEは7重量%比である。
【0037】
上記の可溶性フッ素樹脂以外にも、TEFLON(登録商標)AF、アルゴフロン、RD−80などの樹脂と、PTFEなどのフッ素樹脂を混合させ、同様の試験を行なっても、同様に波長板周縁部から劣化、剥離が見られなかった。
【0038】
また、防湿性、密着性の試験を行なっても、同様に劣化、剥離を生ずることがなかった。
【0039】
さらに、上記実施例では、プロジェクタ用の波長板を用いて防湿コーティングする方法をあげたが、これに限定されず、CD、DVD、HDD、Blue−Rayプレーヤー、半導体製造用又は液晶基板用の露光装置、浸漬露光装置などに用いられる波長板、偏光板、ビームスプリッター、貼り合せレンズなどの光学素子においても、同様に防湿処理することによって、高温高湿環境下において劣化、剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の1つの実施例による波長板を示す縦断面図。
【図2】本発明の方法の1つの好適例により、多数枚の波長板を同時にコーティングする方法を説明する概略説明図。
【図3】大型ガラス基板から多数の波長板を製造する工程の一例を示す説明図。
【図4】本発明の好ましい1つの実施例による波長板の端面を誇張して示す拡大縦断面図。
【図5】従来の波長板の経時劣化を示す説明図。
【符号の説明】
【0041】
1 位相差フィルム
2、3 接着剤
4、5 ガラス基板
6 粘着シート
10 波長板
11 緩衝材
12 コーティング
13 PTFE
14 シーリング材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折性物質フィルムの表面に接着剤を介在してガラス基板を接着した光学素子の防湿コーティング方法において、
ガラス基板と複屈折性物質フィルムの端面に可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の混合溶液を塗布して、ガラス基板と複屈折性物質フィルムの間に存在している接着剤の端面にコーティングを形成して防湿処理することを特徴とする光学素子の防湿コーティング方法。
【請求項2】
複屈折性物質フィルムの表面に接着剤を介在してガラス基板を接着した光学素子の防湿コーティング方法において、
ガラス基板と複屈折性物質フィルムの間に接着剤を介在した光学素子を、可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の所定の混合比で混合した溶液に浸漬し、ガラス基板と複屈折性物質フィルムの間に存在している接着剤の端面にコーティングを形成して防湿処理することを特徴とする光学素子の防湿コーティング方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子の防湿コーティング方法において、
複屈折性物質フィルムは位相差フィルムであり、可溶性フッ素樹脂はアモルファスフッ素樹脂であり、エチレン系化合物はPTFEであることを特徴とする光学素子の防湿コーティング方法。
【請求項4】
複屈折性物質フィルムとガラス基板とが接着剤で接着されており、複屈折性物質フィルムとガラス基板の端面が、可溶性フッ素樹脂とエチレン系化合物の所定の混合比で混合した溶液から形成されたコーティングにより防湿処理されていることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光学素子において、
複屈折性物質フィルムは位相差フィルムであり、可溶性フッ素樹脂はアモルファスフッ素樹脂であり、エチレン系化合物はPTFEであることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−206218(P2007−206218A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22936(P2006−22936)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】