説明

光学素子の製造方法

【課題】硬化時間の短縮を図りつつ成形後のアニールが不要な光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂に対し平均粒径が1〜30nmの無機微粒子を添加して有機無機複合材料を得る工程と、前記有機無機複合材料を加熱・硬化させて成形する工程と、を有する光学素子1の製造方法が開示されている。また無機微粒子がシランカップリング剤により表面修飾されており、熱硬化性樹脂がシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、アリルエステル系樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子の製造方法に関し、特に熱可塑性樹脂を用いて成形される光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学素子は光ピックアップ装置用や眼鏡用、カメラ用等として様々な光学用途に用いられており、安価に製造可能という理由で、ガラス製より樹脂製であることが多い。特に上記光ピックアップ装置用の光学素子は、一定の金型を用いた射出成形法を用いて効率よく製造することができるため、通常は熱可塑性樹脂から構成されている(例えば特許文献1参照)。しかし、熱可塑性樹脂で光ピックアップ装置用の光学素子を構成すると、熱による収差変動等が発生する場合がある。そこで、近年では、熱可塑性樹脂に代えて熱硬化性樹脂を用いて光学素子に耐熱性を付与し、上記の問題(熱による収差変動等)を解決している。
【特許文献1】特開2005−298717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、熱硬化性樹脂は硬化収縮(硬化時に収縮する現象)が大きいという特徴を有しており、更には完全に硬化するまで時間がかかるという不都合を有しており、場合によっては成形後においてその成形品をアニール(追加の加熱処理)する必要がある。
【0004】
すなわち、熱硬化性樹脂は、成形加工の際に原料が金型内で加圧・加熱されると、化学反応を起こして、ポリマー分子が3次元に架橋した構造を有する。その結果、熱硬化性樹脂から構成された成形品は過熱されても溶解することはなく、元の形(構造)を保持し続ける。原料には、モノマーやポリマーに至る前の中間反応物、さらにそれらに充填剤や架橋反応を速める触媒を配合したものが使われる。したがって、熱硬化性樹脂の加工では、熱可塑性樹脂の加工とは異なり、原料が射出成形機の金型に至る前の一部であって原料を溶かしたり流したりする部分は温度が比較的低くて済むのに対し、原料がその後に到達する金型は温度が高くなっている。その結果、熱硬化性樹脂が金型に流出すると、当該熱硬化性樹脂は内部で十分に反応が進行しないまま表面で硬化収縮が発生し、成形品にバリが生じたり、成形後においてアニールが必要であったりして、手間がかかることが多く、成形コストが割高になる。
【0005】
したがって、本発明の主な目的は、硬化時間の短縮を図りつつ成形後のアニールが不要な光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
熱硬化性樹脂に対し平均粒径が1〜30nmの無機微粒子を添加して有機無機複合材料を得る工程と、
前記有機無機複合材料を加熱・硬化させて成形する工程と、
を有することを特徴とする光学素子の製造方法が提供される。
【0007】
好ましくは、前記無機微粒子はシランカップリング剤により表面修飾されている。
【0008】
また、好ましくは、前記熱硬化性樹脂がシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂又はアリルエステル系樹脂である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱硬化性樹脂に対し一定の平均粒径を有する無機微粒子を添加するから、その添加量の分だけ熱硬化性樹脂の体積が減少し、成形時における有機無機複合材料の硬化時間を短縮することができる。更には、無機微粒子は熱伝導率が熱硬化性樹脂より高いため、熱硬化性樹脂に対し当該無機微粒子を添加すると、熱硬化性樹脂の内部まで熱が伝導し易くなり、有機無機複合材料の硬化時間を更に短縮することができるとともに、成形後のアニールも不要となる。以上から、本発明によれば、硬化時間の短縮を図りつつ成形後のアニールが不要な光学素子の製造方法を提供することができる(下記実施例参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態に係る光学素子1は、例えば図1に示すような凸状を呈したレンズであり、特に光ピックアップ装置用のレンズとして好適に使用される。光学素子1は、熱硬化性樹脂に対し無機微粒子を添加した有機無機複合材料を成形して得られるものである。
【0012】
以下、(1)熱硬化性樹脂と(2)無機微粒子とについて説明し、その後に(3)光学素子1の製造方法と(4)応用例とについて説明する。
【0013】
(1)熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂は熱により硬化するものであればその種類に特に制限はないが、好ましくはシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂又はアリルエステル系樹脂が使用可能である。
【0014】
(1.1)シリコーン系樹脂
シリコーン系樹脂は、ケイ素(Si)と酸素(O)とが交互に結合したシロキサン結合−Si−O−を主鎖としているポリマーである。具体的には、シリコーン系樹脂として、所定量のポリオルガノシロキサン樹脂よりなるシリコーン系樹脂が使用可能である(例えば特開平6−9937号公報参照)。
【0015】
熱硬化性のポリオルガノシロキサン樹脂は、加熱による連続的加水分解−脱水縮合反応によって、シロキサン結合骨格による三次元網状構造となるものであれば、特に制限はなく、一般に高温、長時間の加熱で硬化性を示し、一度硬化すると過熱により再軟化し難い性質を有する。
【0016】
このようなポリオルガノシロキサン樹脂は、下記一般式(A)が構成単位として含まれ、その形状は鎖状、環状、網状形状のいずれであってもよい。
((R)(R)SiO) … (A)
【0017】
上記一般式(A)中、「R」及び「R」は同種又は異種の置換もしくは非置換の一価炭化水素基を示す。具体的には、「R」及び「R」として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基、またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子をハロゲン原子、シアノ基、アミノ基などで置換した基、例えばクロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノメチル基、γ−アミノプロピル基、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基などが例示される。「R」及び「R」は水酸基およびアルコキシ基から選択される基であってもよい。また、上記一般式(A)中、「n」は50以上の整数を示す。
【0018】
ポリオルガノシロキサン樹脂は、通常、トルエン、キシレン、石油系溶剤のような炭化水素系溶剤、またはこれらと極性溶剤との混合物に溶解して用いられる。また、相互に溶解しあう範囲で、組成の異なるものを配合して用いても良い。
【0019】
ポリオルガノシロキサン樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、オルガノハロゲノシランの一種または二種以上の混合物を加水分解ないしアルコリシスすることによって得ることができ、ポリオルガノシロキサン樹脂は、一般にシラノール基またはアルコキシ基等の加水分解性基を含有し、これらの基をシラノール基に換算して1〜10重量%含有する。
【0020】
これらの反応は、オルガノハロゲノシランを溶融しうる溶媒の存在下に行うのが一般的である。また、分子鎖末端に水酸基、アルコキシ基またはハロゲン原子を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンを、オルガノトリクロロシランと共加水分解して、ブロック共重合体を合成する方法によっても得ることができる。このようにして得られるポリオルガノシロキサン樹脂は一般に残存するHClを含むが、本実施形態の組成物においては、保存安定性が良好なことから、10ppm以下、好ましくは1ppm以下のものを使用するのが良い。
【0021】
(1.2)アクリル系樹脂
アクリル系樹脂としては、特にアダマンタン骨格を有する熱硬化性樹脂が好ましく使用される。アダマンタン骨格を有する熱硬化性樹脂としては、2−アルキル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート(特開2002−193883号公報参照)、3,3’−ジアルコキシカルボニル-1,1’ビアダマンタン(特開2001−253835号公報参照)、1,1’−ビアダマンタン化合物(米国特許第3342880号明細書参照)、テトラアダマンタン(特開2006−169177号公報参照)、2−アルキル−2−ヒドロキシアダマンタン、2−アルキレンアダマンタン、1,3−アダマンタンジカルボン酸ジ−tert−ブチル等の芳香環を有しないアダマンタン骨格を有する硬化性樹脂(特開2001−322950号公報参照)、ビス(ヒドロキシフェニル)アダマンタン類やビス(グリシジルオキシフェニル)アダマンタン(特開平11−35522号公報、特開平10−130371号公報参照)等を使用することができる。
【0022】
(1.3)アリルエステル系樹脂
アリルエステル系樹脂とは、アリルエステル化合物を含有する熱硬化性樹脂である。アリルエステル化合物を含有する熱硬化性樹脂としては、芳香環を含まない臭素含有(メタ)アリルエステル(特開2003−66201号公報参照)、アリル(メタ)アクリレート(特開平5−286896号公報参照)、アリルエステル樹脂(特開平5−286896号公報、特開2003−66201号公報参照)、アクリル酸エステルとエポキシ基含有不飽和化合物の共重合化合物(特開2003−128725号公報参照)、アクリレート化合物(特開2003−147072号公報参照)、アクリルエステル化合物(特開2005−2064号公報参照)等を好ましく用いることができる。
【0023】
(2)無機微粒子
無機微粒子としては、光学的に透明な(光透過性を有する)もの、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子、セレン化物微粒子、テルル化物微粒子等が挙げられる。より具体的には、例えば、酸化ケイ素微粒子、酸化アルミ微粒子、リン酸アルミ微粒子、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、酸化ケイ素微粒子(シリカ微粒子)、炭酸カルシウム微粒子である。
【0024】
これらの微粒子は、1種類の無機微粒子を用いてもよく、また複数種類の無機微粒子を併用してもよい。
【0025】
熱硬化性樹脂に対する無機微粒子の添加量(有機無機複合材料に占める無機微粒子の体積比)は1〜50体積%であり、好ましくは10〜40体積%であり、更に好ましくは20〜30体積%である。
【0026】
無機微粒子の形状は、球状、楕円状、扁平状、ロッド状などいずれの形状であっても良いが、特に球状のときに光学素子1の機能を有効に発揮できる。また、粒子径の分布に関しても特に制限されるものではないが、光学素子1の機能をより効率よく発揮させるためには、広範な分布を有するものよりも、比較的狭い分布を持つものが好適に用いられる。
【0027】
無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、金属塩の熱分解、金属塩や金属アルコキシドの加水分解などの方法がよく知られている。金属塩の熱分解としては、金属塩もしくはそれらの溶液を噴霧し、加熱分解することにより得られる。金属塩や金属アルコキシドの加水分解としては、予め金属塩や金属アルコキシド溶液を作製し、この溶液に水を添加することで、加水分解重合を進行させることにより得られる。
【0028】
無機微粒子として平均粒子径が1〜30nmであるものが使用される。無機微粒子の平均粒子径は1〜20nmであるのがより好ましく、1〜10nmであるのがさらに好ましい。平均粒子径が1nm未満であると、無機微粒子の分散が困難であるため所望の性能が得られない可能性があり、平均粒子径が30nmを超えると、得られる有機無機複合材料が濁るなどして透明性が低下し、光線透過率が70%未満となる可能性がある。平均粒子径は、無機微粒子体積を球換算した場合の直径を表す。測定粒子個数は、無機微粒子の電子顕微鏡写真の粒子を無差別に100個以上選択し、個々の無機微粒子の粒径の算術平均を平均粒子径とする。
【0029】
無機微粒子は表面「修飾」されているのが好ましく、表面修飾後に表面「処理(疎水化処理)」されているのがより好ましい。
【0030】
無機微粒子の表面修飾はシランカップリング剤を用いておこなうのが好ましい。
例えば、熱硬化性樹脂としてシリコーン系樹脂を選択する場合には、官能基がビニル系のシランカップリング剤で無機微粒子の表面を修飾するのがよく、当該シランカップリング剤としては信越シリコーン社製KA-1003,KBM-1003,KBE-1003等が好適である。
アクリル系樹脂(メタクリレート)を選択する場合には、官能基がメタクリロキシ系のシランカップリング剤で無機微粒子の面を修飾するのがよく、当該シランカップリング剤としては信越シリコーン社製KBM-502,KBM-503,KBE-502,KBE-503等が好適である。
アリルエステル系樹脂を選択する場合には、官能基がビニル系のシランカップリング剤で無機微粒子の表面を修飾するのがよく、当該シランカップリング剤としては信越シリコーン社製KA-1003,KBM-1003,KBE-1003等が好適である。
無機微粒子がこれら上記カップリング剤を含む表面処理剤で表面修飾されると、熱硬化性樹脂のモノマーと共重合し、架橋する。
【0031】
無機微粒子の表面修飾は湿式法にて行うのが好ましい。その表面修飾例の一例としては、始めに、1%酢酸水をよく攪拌しながら、シランカップリング剤を滴下し、そこに攪拌しながら無機微粒子を添加・攪拌し、均一にする。その後、シランカップリング剤と無機微粒子との混合液をろ過し、100〜150℃で乾燥させ、無機微粒子の表面とシランカップリング剤との脱水縮合反応を進行させ、無機微粒子を表面修飾する。
【0032】
無機微粒子の表面修飾例の他の例としては、無機微粒子のスラリーを攪拌しながら、シランカップリング剤を添加して攪拌し、無機微粒子とシランカップリング剤との混合液をろ過し、100〜150℃で乾燥させ、無機微粒子の表面とシランカップリング剤との脱水縮合反応を進行させ、無機微粒子を表面修飾する。
【0033】
上記無機微粒子の表面修飾におけるカップリング剤の添加量は、無機微粒子に対し0.1〜20重量%とするのが好ましく、5〜15重量%とするのがより好ましい。
【0034】
無機微粒子は上記のような表面修飾後に表面処理されているのが好ましいが、当該表面処理は特にしなくてもよい。無機微粒子を表面処理する方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。
【0035】
無機微粒子の表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−メチルフェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルフェノキシシラン、シクロペンチルトリメトキシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ベンジルジメチルエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩及びアミノシラン配合物等が挙げられ、更に、シランに代わってアルミニウム、チタン、ジルコニア等を用いることもでき、その場合は例えば、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロキシド等である。
【0036】
また、イソステアリン酸、ステアリン酸、シクロプロパンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンプロピオン酸、オクチル酸、パルミチン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ヘキサヒドロフタル酸などの脂肪酸やそれらの金属塩、さらに有機リン酸系表面処理剤のいずれの表面処理剤が使用可能であり、これらを単独、または二種以上を混合して用いることができる。
【0037】
これらの化合物は、反応速度などの特性が異なり、表面処理の条件などに適した化合物を用いることができる。また、1種類のみを用いても、複数種類を併用してもよい。さらに、用いる化合物によって得られる表面処理微粒子の性状は異なることがあり、有機無機複合材料を得るにあたって用いる熱硬化性樹脂との親和性を、表面処理する際に用いる化合物を選ぶことによって図ることも可能である。表面処理の割合は特に限定されるものではないが、表面修飾後の無機微粒子に対して、表面処理剤の割合が10〜99質量%であることが好ましく、30〜98質量%であることがより好ましい。
【0038】
(3)光学素子1の製造方法
(3.1)有機無機複合材料の調製
本実施形態に係る光学素子1の製造にあたっては、始めに光学素子1の原料となる有機無機複合材料を調製(作製)する。
有機無機複合材料は、溶融中の熱硬化性樹脂に対して、無機微粒子を添加、混練することで作製されてもよいし、溶媒に溶解した熱硬化性樹脂と、無機微粒子とを混合し、その後有機溶媒を除去することで作製されてもよい。
【0039】
特に本実施形態では、有機無機複合材料は溶融混練法で作製することが望ましい。熱硬化性樹脂を無機微粒子の存在下で重合したり、熱硬化性樹脂の存在下で無機微粒子を作製することも可能であるが、熱硬化性樹脂の重合や無機微粒子の作製において特殊な条件が必要になるからである。溶融混練法では、既成の手法で作製した熱硬化性樹脂や無機微粒子を混合することで有機無機複合材料を作製できるため、通常安価な有機無機複合材料の作製が可能になる。
【0040】
溶融混練において、有機溶剤の使用も可能である。有機溶剤の使用で、溶融混練の温度を下げることができ、熱硬化性樹脂の劣化が抑制しやすくなる。その場合、溶融混練後に脱揮を行い、有機無機複合材料中から有機溶剤を除去することが好ましい。
【0041】
溶融混練に用いることのできる装置としては、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置を挙げることができる。また、単軸押出機、二軸押出機等のように連続式の溶融混練装置を用いることもできる。
【0042】
処理後の無機微粒子と熱硬化性樹脂の混合方法として、具体的な混練機としては、KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ポリラボシステム(HAAKE社製);ナノコンミキサー(東洋精機製作所社製);ナウターミキサーブス・コ・ニーダー(Buss社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)が挙げられる。
【0043】
有機無機複合材料の製造方法において、溶融混練を用いる場合、熱硬化性樹脂と無機微粒子とを一括で添加し混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。この場合、押出機などの溶融混練装置では、段階的に添加する成分をシリンダーの途中から添加することも可能である。
【0044】
溶融混練による複合化を行う場合、無機微粒子は粉体ないし凝集状態のまま添加することが可能である。あるいは、液中に分散した状態で添加することも可能である。液中に分散した状態で添加する場合は、混練後に脱揮を行うことが好ましい。
【0045】
液中に分散した状態で添加する場合、あらかじめ凝集粒子を一次粒子に分散して添加することが好ましい。分散には各種分散機が使用可能であるが、特にビーズミルが好ましい。ビーズは各種の素材があるがその大きさは小さいものが好ましく、特に直径0.001〜0.1mmのものが好ましい。
【0046】
無機微粒子は表面修飾(及び表面処理)された状態で加えられることが好ましいが、表面修飾剤(及び表面処理剤)と無機微粒子とを同時に添加し、熱硬化性樹脂との複合化を行うインテグラルブレンドのような手法がありどのような手法を用いることも可能である。
【0047】
(3.2)有機無機複合材料の成形
上記のように有機無機複合材料を調製したら、有機無機複合材料中の熱硬化性樹脂を熱で硬化させることで有機無機複合材料を所定形状に成形し、光学素子1を製造することができる。具体的には、有機無機複合材料を、圧縮成形やトランスファー成形、射出成型等により硬化成形させればよい。特に、成形品の原材料として熱硬化性樹脂を用いるのは、光学面が球面や非球面の形状を呈したり、光学面に微細な構造を有する光学素子1(例えば対物レンズ)を製造する場合に好適である。
【0048】
成形品は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れ、下記のような種々の光学部品として好適に使用される。
【0049】
ここで、「成形」に関する事項について更に説明する。
熱可塑性樹脂で光学素子1を構成する場合、通常は射出成形により成形する。このとき使用される射出成形機は、加熱されたシリンダー内でスクリューを回転させながら原料樹脂を溶融し、シリンダーの先端に設けられたノズルから射出する部分と、射出された溶融樹脂を受け入れる金型を保持する型締め部分とから構成されている。
【0050】
原料樹脂は、シリンダーの根元に設置されたホッパーからスクリューの回転によってシリンダーの内部に引き込まれ、シリンダーからの加熱によって溶融されながらスクリューで混練される。スクリューは回転しながら後退し、シリンダーの前部に一定量の溶融樹脂を溜めていく。一定量の溶融樹脂が溜まったところで、高圧でスクリューを前に押し出すことによって、ノズルを通して金型内に溶融樹脂を射出する。この際、金型内には強い内圧がかかるので、金型が開かないように金型を強い圧力で締め付けておく。この締め付け圧力を型締圧と呼ぶ。
【0051】
一方、溶融された樹脂の溶融粘度が小さければ小さいほど、射出圧力も小さくて済むことになる。溶融粘度が小さいことは、メルトインデックス(MI)が大きいこと、すなわち平均分子量が小さいことを意味する。平均分子量が小さいことは、強度などの機械的特性も低くなることを意味する。そこで成形品の強度を高くしようとすると、平均分子量の大きいもの、すなわちMIの低い流動性の悪いグレードを使う必要にせまられる。その結果、より型締圧の高い射出成形機が必要となる。このため、金型に使われる鋼材も、硬度の高いもの、強度の高いものが必要で、金型費用がかかる。
【0052】
これに対し、一部の熱硬化性樹脂の成形法には、Reaction Injection Molding(RIM)という手法がある。当該手法は、原料となるモノマーや触媒、さらには充填剤などを金型に注入する直前で混合し、一気に金型内に注入して加熱することにより、金型内で重合反応を起こして成形品(プラスチック製品)を得る方法である。当該手法は、低圧成形なので、金型の素材が通常の炭素鋼やアルミニウム、Niシェルなどの一般鋼材で間に合うことから、金型コストが安く済む。
【0053】
以上の光学素子1の製造方法によれば、熱硬化性樹脂に対し一定の平均粒径を有する無機微粒子を添加するから、その添加量の分だけ熱硬化性樹脂の体積が減少し、成形時における有機無機複合材料の硬化時間を短縮することができる。更には、無機微粒子は熱伝導率が熱硬化性樹脂より高いため、熱硬化性樹脂に対し当該無機微粒子を添加すると、熱硬化性樹脂の内部まで熱が伝導し易くなり、有機無機複合材料の硬化時間を更に短縮することができるとともに、成形後のアニールも不要となる。以上から、硬化時間の短縮を図りつつ成形後のアニールが不要な光学素子の製造方法を提供することができる(下記実施例参照)。
【0054】
(4)応用例
光学素子1は、上記の作製方法により得られるが、例えば下記のような光学部品に応用される。
【0055】
例えば、光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。
【0056】
光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
【実施例】
【0057】
(1)有機無機複合材料の調製
下記の熱硬化性樹脂に対し無機微粒子としてのシリカ(日本アエロジル社製RX300,平均粒子径7nm)を添加して、その混合物を溶融混練し、複数の有機無機複合材料(A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4参照)を調製した。熱硬化性樹脂に対する無機微粒子の混合比(有機無機複合材料に占める無機微粒子の体積比)を下記表1の通りとし、溶融混練ではポリラボシステム(HAAKE社製)を用いた。
【0058】
シリコーン:信越化学社製LPS-L402
メタクリレート:ダイセル化学 特開2002−193883号公報に従って作製した 2−アルキル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート
アリルエステル:ダイセル化学 特開平5−286896号公報に従って作製した アリルエステル
【0059】
なお、上記有機無機複合材料のうち、試料A1,B1,C1に相当する材料は熱硬化性樹脂のみで構成し、無機微粒子は含んでいない。試料A5に相当する材料の無機微粒子についてはシランカップリング剤で表面修飾した。
【0060】
(2)試料の作製
調製済みの各有機無機複合材料を160℃、13.3Paの減圧下でプレスし、Φ11mm、厚さ3mmの成形体とした後、表面を研磨して光学素子を作製した。これら光学素子を熱硬化性樹脂と無機微粒子の添加量との組合せに応じて「試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4」とした。
【0061】
(3)試料の評価
(3.1)線膨張係数の測定
各試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4を40〜60℃の範囲内で温度変化させ、各試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4の線膨張係数を測定した。測定装置としてSII(セイコーインスツルメンツ)社製EXSTAR6000 TMA/SS6100を用いた。測定結果を下記表1に示す。
【0062】
(3.2)アニール後の線膨張係数の測定
各試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4をアニールし(150℃の乾燥した恒温槽で120時間加熱し)、そのアニール後の各試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4の線膨張係数を上記(3.1)と同様に測定した。その測定結果を下記表1に示す。
【0063】
(3.3)光線透過率の測定
各試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4において、ASTM D−1003に従って可視光線の入射光量に対する全透過光量を測定した。その測定結果を下記表1に示す。
【0064】
(3.4)硬化時間の測定
各有機無機複合材料が100%硬化するまでの時間(各有機無機複合材料から試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4を得るまでの時間)を試料A1〜A5,B1〜B4,C1〜C4ごとに測定した。詳しくは、試料A1〜A5について、ビッカース硬度計(AKASHI MVK-F2)で荷重50gfをかけたときの試料A1の最終的な到達硬度を基準としてその硬度に達した時間を100とし、その他の試料A2〜A5がその硬度に達するまでの時間を測定した。試料B1〜B4,C1〜C4についても、試料B1,C1の到達硬度を基準としてその他の試料B2〜B4,C2〜C4がその硬度に達するまでの時間を測定した。その測定結果を下記表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
(4)まとめ
表1に示す通り、試料A1と試料A2〜A5とでは、試料A2〜A5は一定の硬度に達するまでの時間が試料A1より短縮されており、特に無機微粒子を表面処理した試料A5は著しく短縮されていることがわかる。
【0067】
更に、試料A1と試料A2〜A5とでは、試料A2〜A5は線膨張係数が試料A1より小さく、3次元架橋がしっかりと進行していることがわかる。アニール後においても、試料A1は線膨張係数が著しく低下しており内部まで十分に架橋が進行していないと考えられるのに対し、試料A2〜A5は線膨張係数の低下が少なく内部まで十分に3次元架橋が進行していることがわかる。これらのことは試料B1〜B4,C1〜C4についても同様となっている。
【0068】
以上から、熱硬化性樹脂に対し無機微粒子を添加することは、硬化時間の短縮を図る上で有用であり、しかも硬化時間が短縮されても材料内部では架橋の十分に進行し、成形後においてアニールが不要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の好ましい実施形態に係る光学素子の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂に対し平均粒径が1〜30nmの無機微粒子を添加して有機無機複合材料を得る工程と、
前記有機無機複合材料を加熱・硬化させて成形する工程と、
を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子の製造方法において、
前記無機微粒子がシランカップリング剤により表面修飾されていることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法において、
前記熱硬化性樹脂がシリコーン系樹脂であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法において、
前記熱硬化性樹脂がアクリル系樹脂であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光学素子の製造方法において
前記熱硬化性樹脂がアリルエステル系樹脂であることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−83268(P2009−83268A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255517(P2007−255517)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】