説明

光学素子

【課題】 物理的膜厚dを均一にするだけでなく屈折率nも均一にした光学素子(OE)を提供する。
【解決手段】 第1の観点による光学素子(OE)は、基板を真空チャンバー内に配設し、基板保持部が有する複数の保持枠に基板を保持させ、基板を中央部から周辺部にかけて均一に加熱し、中央部から周辺部にかけて基板を均一に加熱している状態において蒸着源から蒸着材料を放出し、基板に蒸着材料を蒸着する光学薄膜成膜方法によって成膜された光学薄膜を含む光学素子である。そして光学薄膜の光学膜厚ndは、光学素子の中央部から周辺部の表面にかけて形成され、周辺部の光学膜厚ndと中央部の光学膜厚ndとが、均一である。なお、光学膜厚ndは、屈折率n×物理的膜厚dである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
多層の光学薄膜が形成された光学素子に関する
【背景技術】
【0002】
薄膜を有するレンズ,光学フィルタ又はプリズム等の光学素子を製造するために光学薄膜成膜装置が使用されている。光学薄膜成膜装置は球面形状又は平面形状の蒸着ドームを備え、その蒸着ドームが複数の光学素子を保持している。光学薄膜成膜装置は真空チャンバー内を加熱して且つ蒸着ドームを加熱して、蒸着物質を光学素子に蒸着させる。蒸着物質から蒸着ドーム面の各光学素子までの距離が異なるなどの理由から、蒸着物質の分布が各光学素子において均一でない。このため、光学素子を配置した位置によって光学素子に形成される蒸着物質の物理的膜厚dが異なってしまい、物理的膜厚dのバラツキは光学素子の反射率や透過率を変化させてしまう。この物理的膜厚dのバラツキを軽減させるため、特許文献1は蒸着ドームを回転させて光学素子に形成される物理的膜厚のバラツキを低減させている。
【特許文献1】特開平10−280130
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
光学薄膜成膜装置は蒸着ドームを回転させることで光学素子に成膜される蒸着物質の物理的膜厚のバラツキは低減させることができるが、個々の光学素子内では光学膜厚ndのバラツキが依然として発生していた。ここで、光学素子の性能を決める光学膜厚ndは、屈折率n×物理的膜厚dで示される。つまり、特許文献1に示す光学薄膜成膜装置は光学素子に形成される物理的膜厚dを均一にすることができても、屈折率nまでも均一にすることができず、光学膜厚ndが均一にならなかった。
【0004】
例えば、図6は、水晶基板に薄膜を形成した光学フィルタの波長の半値が目標値からどれだけ変化しているかを示したグラフである。図6では58mm*60mmの大きさの水晶基板と40.5mm*48mmの大きさの水晶基板との2種類の水晶基板を示している。図6は縦軸に目標とする波長の半値を0として半値の波長(nm)のズレを取り、横軸に光学フィルタの中央部からの周辺部への位置(mm)を取っている。
【0005】
光学フィルタの中央部付近では半値は目標値とする波長を得ているが、光学フィルタの周辺部になると所定波長より低い波長になり目標値を得ることができていない。これは物理的膜厚dが同じでも周辺部の屈折率nが低くなってしまい波長が低くなっていることに起因する。つまり従来の光学薄膜成膜装置は多数の光学素子の物理的膜厚dの均一化を図ることができても、個々の光学素子の光学膜厚ndを均一にすることができなかった。別言すれば、従来の光学薄膜成膜装置は、屈折率nのバラツキまで低減することができなかった。
【0006】
近年、光学機器の技術革新に伴って光学薄膜を有する光学素子に対する性能向上が強く求められている。この要求に答えるため、例えば40.5mm*48mmの大きさの光学フィルタを要求された場合には、従来の光学薄膜成膜装置を使って58mm*60mmの水晶基板に対して均一な物理的な薄膜dを有する薄膜/光学フィルタを形成する。そして、58mm*60mmの水晶基板の周辺部、すなわち屈折率nが異なる部分を切り取ることによって、光学膜厚ndが均一な40.5mm*48mmの光学フィルタを製造していた。
【0007】
このような製造方法では、要求された光学素子より大きめの光学素子を蒸着ドームに取り付けなければならないので、蒸着ドームに取り付けることができる光学素子の数が相対的に少なくなってしまう問題があった。また、光学素子の周辺部を無駄にしてしまうとともに光学素子の周辺部を切り取る作業が増えてしまう問題があった。
【0008】
そこで本発明は、周辺部を切り取ったりすることなく、光学素子の周辺部と中央部との光学膜厚ndが均一な光学素子又は周辺部の光学膜厚ndが中央部の光学膜厚ndより大きい光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の観点による光学素子は、基板を真空チャンバー内に配設し、基板保持部が有する複数の保持枠に基板を保持させ、基板を中央部から周辺部にかけて均一に加熱し、中央部から周辺部にかけて基板を均一に加熱している状態において蒸着源から蒸着材料を放出し、基板に蒸着材料を蒸着する光学薄膜成膜方法によって成膜された光学薄膜を含む光学素子である。そして光学薄膜の光学膜厚ndは、光学素子の中央部から周辺部の表面にかけて形成され、周辺部の光学膜厚ndと中央部の光学膜厚ndとが、均一である。なお、光学膜厚ndは、屈折率n×物理的膜厚dである。
これまで物理的膜厚dを均一することしかできなかったが、この構成により基板の温度を均一にして屈折率nも均一にすることができる。このため、光学膜厚ndを基板の中央部から周辺部にかけて均一にすることができる。
【0010】
第2の観点による光学素子は、基板を真空チャンバー内に配設し、基板保持部が有する複数の保持枠に基板を保持させ、基板を中央部から周辺部にかけて均一に加熱し、中央部から周辺部にかけて基板を均一に加熱している状態において蒸着源から蒸着材料を放出し、基板に蒸着材料を蒸着する光学薄膜成膜方法によって成膜された光学薄膜を含む光学素子である。そして、光学薄膜の光学膜厚ndは、光学素子の中央部から周辺部の表面にかけて形成され、周辺部の光学膜厚ndが中央部の光学膜厚ndよりも大きい。なお、光学膜厚ndは、屈折率n×物理的膜厚dである。
【0011】
第3の観点による光学素子は、第2の観点において、周辺部の屈折率nは中央部の屈折率nより高く、周辺部の物理的膜厚dと中央部の物理的膜厚dとは同じである。基板の周辺部を中央部より加熱して周辺部の屈折率nが高い基板を製造することも可能である
【0012】
第4の観点による光学素子は、中央部と周辺部とにより構成される表面を有する光学素子である。そして、その表面には光学薄膜が成膜され、光学薄膜の周辺部の屈折率nは、光学薄膜の中央部の屈折率nと同じである。個別加熱ヒータを備えた保持枠に基板を保持する
【0013】
第5の観点による光学素子は、中央部と周辺部とにより構成される表面を有する光学素子である。その表面には光学薄膜が成膜され、光学薄膜の周辺部の屈折率nは、光学薄膜の中央部の屈折率nよりも高い。
【0014】
その他の観点において、上記方法によって成膜された光学素子は、中央部も周辺部も同じ光学膜厚ndを有している。また、蒸着材料の屈折率が、光学素子の中央付近から外周部にかけて屈折率が高くなっている光学薄膜を成膜した光学素子を提供することも可能となる。周辺部が中央部より屈折率が高くなっていると、レンズからの斜めに入射する光束に対しても中央部の直角に入射する光束に対しても同じ波長でフィルタ処理を行うことも可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光学素子の周辺部と中央部との光学膜厚ndが均一な光学素子又は光学素子の周辺部の光学膜厚ndが中央部の光学膜厚ndより大きい光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光学薄膜成膜装置10を示す概略断面図である。
【図2】光学薄膜成膜装置10内で蒸着ドーム19を下方から上方へ見た正面図である。
【図3】(a)は一つの保持枠に2つの光学素子OEを取り付ける第1保持枠33Aの正面図で、(b)は一つの保持枠に4つの光学素子OEを取り付ける第2保持枠33Bである。
【図4】光学フィルタを成膜するフローチャートである。
【図5】実験した1mm厚の水晶基板に40層の光学薄膜を形成した赤外線カットフィルタの分光特性を示したグラフである。
【図6】光学フィルタの波長の半値が目標値からどれだけ変化しているかを示したグラフである。
【図7】TiO分散データの水晶基板の加熱温度依存性を調べたグラフである。
【図8】(a)は電熱ヒータ37を配置した保持枠33Aの正面図である。 (b)は(a)のb−b断面図である。
【図9】(a)は保熱カバー39を配置した保持枠33の正面図である。 (b)は(a)のb−b断面図である。
【図10】(a)は、40.5mm*48mmの大きさの水晶基板における半値の変化を示したグラフである。
【図11】凸レンズ41からCCD又はCMOSを使った光電変換部45へ光学フィルタ43を介して光束が入射する概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<光学薄膜成膜装置の概要>
図1は光学薄膜成膜装置10を示す概略断面図である。
本実施形態に係る光学薄膜成膜装置10は、図1に示すように、蒸着チャンバー12内の底部側でかつ中心から偏った位置に配設された2つの第1蒸着源17及び第2蒸着源18と、ガラス又は水晶などの光学素子OEを保持する基板保持部である蒸着ドーム19とを備えている。蒸着チャンバー12は10−4Pa程度まで真空にすることができる。第1蒸着源17は例えばTiOを含み、電子ビームが照射されることでTiOが蒸発する。また第2蒸着源18は例えばSiOを含み、電子ビームが照射されることでSiOが蒸発する。
【0018】
第1蒸着源17と蒸着ドーム19との間には遮蔽可能な第1シャッター21が設けられており、第2蒸着源18と蒸着ドーム19との間には遮蔽可能な第2シャッター22が設けられている。光学薄膜成膜装置10は、光学薄膜の設計膜厚に応じて第1シャッター21及び第2シャッター22を交互に移動動作するための図示しない制御装置を有しており、制御装置は適宜第1シャッター21及び第2シャッター22を交互に開閉する。第1シャッター21及び第2シャッター22は、それぞれ第1蒸発源17及び第2蒸着源18の直上とそこから外れた位置との間を回転移動することにより各薄膜層の成膜開始と終了とを制御して物理的膜厚dを調整する。
【0019】
また、蒸着ドーム19の周縁部に近接した位置に、光学素子OEの物理的膜厚dを均一にするための第1拡散板27及び第2拡散板28が、第1シャッター21及び第2シャッター22上方にそれぞれ配設されている。
【0020】
蒸着ドーム19は、蒸着チャンバー12の上部に配置された駆動モータ26を介して蒸着チャンバー12のほぼ中央位置で回転可能に支持されている。また、蒸着ドーム19の上部には加熱ヒータ24が設けられている。加熱ヒータ24は放射熱によって蒸着ドーム19及び光学素子OEを所定温度、例えば200°Cから270°Cに加熱する。電子ビームが第1蒸着源17及び第2蒸着源18に照射されることで蒸着チャンバー12の内部温度は280°C以上に達することもある。なお、蒸着ドーム19は、球面形状に限らず平面ドーム又は段付きドームなどであっても良い。
【0021】
図2は、光学薄膜成膜装置10内で蒸着ドーム19を下方から上方へ見た正面図である。蒸着ドーム19は、図2に示すように貫通する複数の矩形開口部31を同心円状に有している。この矩形開口部31は、例えば一片が100mmの正方形の開口である、矩形開口部31には光学素子OEを保持する保持枠33が取り付けられる。蒸着ドーム19はステンレス又は鉄などの金属材料で形成されている。
【0022】
図3は、保持枠33を示した正面図である。図3(a)は一つの保持枠に2つの光学素子OEを取り付ける第1保持枠33Aであり、第1保持枠33Aは、ガラス又は水晶などの光学素子に第1蒸着源17又は第2蒸着源18が蒸着されるための第1孔35を2つ有している。図3(b)は一つの保持枠に4つの光学素子OEを取り付ける第2保持枠33Bであり、第2保持枠33Bは光学素子に第1蒸着源17又は第2蒸着源18が蒸着されるための第2孔36を4つ有している。図示しないが保持枠33は一つの保持枠に1つの光学素子OEを設けても良い。
【0023】
また矩形の光学素子OEだけでなく円形の光学素子を保持する保持枠33を設けても良い。
【0024】
<光学薄膜成膜装置の動作>
次に、本実施形態に係る光学薄膜成膜装置10により40層の光学薄膜を有する光学フィルタを成膜する成膜方法について説明する。図4は、光学フィルタを成膜するフローチャートである。
ステップS11において、光学薄膜成膜方法は、図4に示すように、光学素子OEを保持枠33に取り付け、さらにその光学素子OEを保持した保持枠33を蒸着ドーム19に装着する。
【0025】
ステップS12において、蒸着チャンバー12の真空引きを行うとともに加熱ヒータ24によって蒸着チャンバー12内の特に蒸着ドーム19及び光学素子OEを所定温度に加熱する。
ステップS13において、駆動モータ26により蒸着ドーム19を所定の速度で回転させる。
【0026】
ステップS14において、第1シャッター21及び第2シャッター22を閉じた状態にしておき、ステップS15において第1蒸着源17及び第2蒸着源18を電子ビームで加熱する。
ステップS16では、光学素子OEの第1層目に第1蒸着源17を蒸着させる際には、第1シャッター21を閉状態から開状態にして所定時間経過後に再び閉状態にする。これにより第1層目の蒸着層が形成される。そしてステップS17に進む。
【0027】
ステップS17おいて、所定数の蒸着層が形成されたかが判断される。未だ1層目であるので、ステップS15を経由してステップS18に進む。
ステップS18では、光学素子OEの第2層目に第2蒸着源18を蒸着させるため、第2シャッター22を閉状態から開状態にして所定時間経過後に再び閉状態にする。これにより第2層目の蒸着層が形成される。そしてステップS17に進む。ステップS16とステップS18とを交互に繰り返すことにより、40層の光学薄膜を有する光学フィルタを形成する。
【0028】
<光学膜厚ndの均一化>
光学素子OEの性能を決める光学膜厚ndは、屈折率n×物理的膜厚dで示される。物理的膜厚dが一定であっても屈折率nが下がってしまうと光学膜厚ndが下がってしまう。例えば、赤外線カットフィルタにおいて光学膜厚ndが下がってしまうと、赤外線カットの波長領域が下がることになる。
【0029】
図5は、実験した1mm厚の水晶基板に40層の光学薄膜を形成した赤外線カットフィルタの分光特性を示したグラフであり、縦軸に透過率横軸に波長(350nm〜1200nm)を採っている。この赤外線カットフィルタは、図4に示したフローチャートに基づいて製造された。図5の実線は赤外線カットフィルタの中央部の透過率を示し、図5の点線は赤外線カットフィルタの周辺部の透過率を示している。赤外線カットフィルタの周辺部の透過率は、中央部の透過率に比べて波長が下がる方向にシフトしている。
【0030】
図6は、大きさが異なる2種類の水晶基板に薄膜を形成した光学フィルタの波長の半値が目標値からどれだけ変化しているかを示したグラフである。図6は縦軸に目標とする波長の半値を0として半値(図5で透過率が50パーセントの波長値)の波長のズレを取り、横軸に光学フィルタの中央部からの周辺部への位置(mm)を取っている。58mm*60mmの大きさの水晶基板であっても、40.5mm*48mmの大きさの水晶基板であっても周辺部は半値が下がり、周辺では横線で示した−2nmの線を下回る状態になっている。
【0031】
図7は、TiO分散データの水晶基板の加熱温度依存性を調べたグラフであり、縦軸に屈折率を横軸に波長を採っている。
グラフから理解できるように温度が上がれば同じ波長においてTiOの屈折率nが上がっている。このため発明者は、光学素子OEの周辺部の温度が中央部の温度と同じようにすれば光学膜厚ndは一定になることを見出した。単に、光学薄膜成膜装置10内で加熱ヒータ24の温度を上げるだけでは光学素子OEの中央部も温度を上げてしまうため、以下に示す実施例では、光学素子OEの周辺部の温度と中央部の温度とを同じように、又は周辺部の温度を中央部の温度より高くなるようにした。
【実施例1】
【0032】
実施例1では、図3に示した保持枠33を成膜する光学素子OEと同じ素材で形成した。これまで保持枠33は、蒸着ドーム19と同じステンレス又は鉄などの金属であったが、光学素子OEと同じ熱伝導率の材料とするとともに、光学素子OEの周辺部の熱が保持枠33を介して蒸着ドーム19に逃げないようにステンレス又は鉄などの金属より熱伝導率の低い材料にしている。例えば熱伝導率の低いステンレスは熱伝導率15W/mKであるのに対して、ガラスの熱伝導率は1W/mKであり、水晶の熱伝導率は8W/mKである。
【0033】
光学素子OEと同じ材料の保持枠33を使い、図4に示したフローチャートに基づいて赤外線カットフィルタを製造した。図10(a)は、40.5mm*48mmの大きさの水晶基板における半値の変化を示したグラフである。図6で示した40.5mm*48mmの大きさの水晶基板とは異なり、中央部及び周辺部においてもほぼ一定で、最周辺部で約―1nm下がっているだけである。
【実施例2】
【0034】
実施例2では、図3に示した保持枠33をジルコニアセラミック素材で形成した。このジルコニアセラミック素材でできた保持枠33は、微細なマイクロポア構造を有し断熱性に優れている。このため、光学素子OEの周辺部の熱が保持枠33を介して蒸着ドーム19に逃げない。微細なマイクロポア構造を有するジルコニアセラミック素材は熱伝導率0.2W/mKである。このように、ステンレスなどの金属でできた蒸着ドーム19よりも熱伝導率の低い材質で保持枠33を形成する。熱伝導率は、1.0W/mK以下が好ましい。
【0035】
ジルコニアセラミック素材の保持枠33を使い、図4に示したフローチャートに基づいて赤外線カットフィルタを製造した。この赤外線カットフィルタは、上述した図10(a)と同等な半値の変化を示したグラフとなった。すなわち、周辺部でも赤外線カットフィルタの波長は低下しない。保持枠33には、ジルコニアセラミック素材の以外にもソーダガラス、クラウンガラスなども使用することができる。
【実施例3】
【0036】
実施例3では、図8に示すように、保持枠33Aの第1孔35の周りに電熱ヒータ37を配置した。図8(a)は電熱ヒータ37を配置した保持枠33Aの正面図であり、(b)は(a)のb−b断面図である。実施例3の保持枠33はステンレス又は鉄などの金属で形成しており、電熱ヒータ37で保持枠33を加熱する。加熱ヒータ24により蒸着ドーム19は200°Cから270°Cに加熱され、また電子ビームが第1蒸着源17及び第2蒸着源18を加熱する熱で蒸着チャンバー12の内部温度は加熱ヒータ24の設定温度よりも高くなっていることがある。そこで電熱ヒータ37は保持枠33を270°Cから310°C程度まで加熱する。このように保持枠33を加熱することで光学素子OEの周辺部の温度を上げる。なお、加熱ヒータ37のコード37Aは隣の加熱ヒータ(不図示)に接続されており、最終的に電源に接続されている。
【0037】
電熱ヒータ37付きの保持枠33Aを使い、図4に示したフローチャートに基づいて赤外線カットフィルタを製造した。この赤外線カットフィルタは、電熱ヒータ37の温度を調整することで上述した図10(a)と同等な半値の変化を示したグラフとなった。また、電熱ヒータ37の温度を調整して、光学素子OEの中央部の温度よりも周辺部の温度を高くした状態で赤外線カットフィルタを製造すると、図10(b)に示す半値の変化を示したグラフとなった。
【0038】
すなわち、図10(b)に示すように、赤外線カットフィルタの周辺部が中央部よりも波長が高いフィルタを製造することができた。物理的膜厚dは均一に蒸着されているので、蒸着材料の屈折率nが光学基板OEの中央付近から外周部にかけて屈折率nが高くなっていることを意味している。
【実施例4】
【0039】
実施例4では、図9に示すように、保持枠33Aの第1孔35の周りに保熱カバー39を配置した。図9(a)は保熱カバー39を配置した保持枠33の正面図であり、(b)は(a)のb−b断面図である。実施例4の保持枠33Aもステンレス又は鉄などの金属で形成し、保熱カバー39もステンレス又は鉄などの金属で形成している。保熱カバー39は第1蒸着源17又は第2蒸着源18の反対側、つまり加熱ヒータ24側に配置される。保熱カバー39には孔部39Aが形成されており、孔部39Aの領域の光学素子OEは保熱されない。すなわち光学素子OEの中央領域は保熱されない。保熱カバー39があると光学素子OEの熱が逃げにくくなることで光学素子OEの周辺部の温度が均一になる。
【0040】
保熱カバー39付きの保持枠33Aを使い、図4に示したフローチャートに基づいて赤外線カットフィルタを製造した。この赤外線カットフィルタは、孔部39Aの大きさ及び保熱カバー39の厚みを調整することで上述した図10(a)と同等な半値の変化を示したグラフとなった。また、孔部39Aの大きさを小さくし厚くした保熱カバー39の厚くした保熱カバー39をつけた状態で赤外線カットフィルタを製造すると、図10(b)に示すような赤外線カットフィルタの周辺部が中央部よりも赤外線カットフィルタの波長が高いフィルタを製造することができた。
【0041】
<周辺部の光学膜厚ndが厚い光学フィルタ>
実施例3及び実施例4によると、赤外線カットフィルタの周辺部が中央部よりも赤外線カットフィルタの波長が高いフィルタを製造することができた。このような赤外線カットフィルタはレンズなどを介して入射する光束を受光する際には、有効な赤外線カットフィルタとして使用することができる。
【0042】
図11は、凸レンズ41からCCD又はCMOSを使った光電変換部45へ光学フィルタ43を介して光束が入射する概念図である。
凸レンズ41を通った光束は、周辺部で大きく屈折され中央部で小さく屈折される。光学フィルタ43は入射する光束が垂直入射でない場合、光束の入射角度に比例して短波長側にシフトする。このため、光学フィルタ43を図11の右図に示すように周辺部が中央部よりも波長が長いフィルタに形成しておけば、光電変換部45に入射する光束は中央部から周辺部まで同じ波長が入射することになる。つまり、光電変換部45は中央部と周辺部とで同じ色再現性を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、真空蒸着法による成膜を行うとしているが、これに限定されるものではなく、高周波イオンプレーティング法によって、無機材料と有機材料を複合化させてもよい。高周波イオンプレーティング法とは無機材料を真空加熱により蒸発させ、さらに放電によるプラズマエネルギーにより有機材料と無機材料の化学的に活発なイオンや分子を発生させて、両材料を複合化させる技術である。有機材料は蒸着チャンバー外部より単体ガス又はアルゴンやヘリウム等のキャリアガスとともに導入され、プラズマのエネルギーにより無機・有機複合膜が生成する。
【0044】
また、実施形態では、主に赤外線カットフィルタを説明してきたが、他の光学フィルタでもよく、ガラス又は水晶基板に光学薄膜を成膜するレンズ及びプリズムなどに対しても本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0045】
10 … 光学薄膜成膜装置
12 … 蒸着チャンバー
17 … 第1蒸着源
18 … 第2蒸着源
19 … 蒸着ドーム
21 … 第1シャッター
22 … 第2シャッター
24 … 加熱ヒータ
26 … 駆動モータ
27 … 第1拡散板
28 … 第2拡散板
31 … 矩形開口部
33 … 保持枠(33A … 第1保持枠,33B … 第2保持枠)
35 … 第1孔
36 … 第2孔
37 … 電熱ヒータ(37A … コード)
39 … 保熱カバー(39A … 孔部)
41 … 凸レンズ
45 … 光電変換部
43 … 光学フィルタ
OE … 光学素子
nd … 光学膜厚
n … 屈折率
d … 物理的膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を真空チャンバー内に配設し、基板保持部が有する複数の保持枠に前記基板を保持させ、前記基板を中央部から周辺部にかけて均一に加熱し、前記中央部から前記周辺部にかけて前記基板を均一に加熱している状態において蒸着源から蒸着材料を放出し、前記基板に前記蒸着材料を蒸着する光学薄膜成膜方法によって成膜された光学薄膜を含む光学素子であって、
前記光学薄膜の光学膜厚ndは、前記光学素子の前記中央部から前記周辺部の表面にかけて形成され、前記周辺部の前記光学膜厚ndと前記中央部の前記光学膜厚ndとが、均一である光学素子。
なお、光学膜厚ndは、屈折率n×物理的膜厚dである。
【請求項2】
基板を真空チャンバー内に配設し、基板保持部が有する複数の保持枠に前記基板を保持させ、前記基板を中央部から周辺部にかけて均一に加熱し、前記中央部から前記周辺部にかけて前記基板を均一に加熱している状態において蒸着源から蒸着材料を放出し、前記基板に前記蒸着材料を蒸着する光学薄膜成膜方法によって成膜された光学薄膜を含む光学素子であって、
前記光学薄膜の光学膜厚ndは、前記光学素子の前記中央部から前記周辺部の表面にかけて形成され、前記周辺部の前記光学膜厚ndが前記中央部の前記光学膜厚ndよりも大きい光学素子。
なお、光学膜厚ndは、屈折率n×物理的膜厚dである。
【請求項3】
前記周辺部の屈折率nは前記中央部の屈折率nより高く、前記周辺部の物理的膜厚dと前記中央部の物理的膜厚dとは同じである請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
中央部と周辺部とにより構成される表面を有する光学素子であって、
前記表面には光学薄膜が成膜され、前記光学薄膜の前記周辺部の屈折率nは、前記光学薄膜の前記中央部の屈折率nと同じである光学素子。
【請求項5】
中央部と周辺部とにより構成される表面を有する光学素子であって、
前記表面には光学薄膜が成膜され、前記光学薄膜の前記周辺部の屈折率nは、前記光学薄膜の前記中央部の屈折率nよりも高い光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−145958(P2012−145958A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56791(P2012−56791)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【分割の表示】特願2007−148760(P2007−148760)の分割
【原出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】