説明

光学表示装置

【課題】波長域が近い複数の可視光光源を使用した場合であってもマスク層の意匠パターンを各マスク層毎に浮かび上がらせることができる光学表示装置を提供すること。
【解決手段】所定の意匠パターンを有し、それぞれ他のマスク層とは異なる波長域を透過領域とする第1及び第2のマスク層17、18を透明基板15上に成膜した光学構造体に対しそれらマスク層17、18に対応した波長域に発光強度のピークを有する第1及び第2のLED13、14を配置し、更にLED13、14の前方に光源補正層19を配置した。そして、光源補正層19によってそれぞれ対応しない側のマスク層17、18の透過波長域内に部分的に存在する光を透過させないようにした。これによって、互いに波長域が近い可視光光源を使用した場合であってもマスク層17、18の意匠パターンを各マスク層17、18毎に高コントラストで浮かび上がらせることを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のマスク層から構成され背後の可視光光源から光を照射することで意匠パターンを中抜きした文字表示を行う光学表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から例えば携帯電話、パソコン、家電製品等の電化製品の表示面には文字、記号あるいは図形等の意匠パターンが印刷された所定の波長域の光のみを透過させる光学特性のマスク層を有する光学フィルムが配設され、可視光光源としてのバックライトで照らし出されたそれら文字等を視認させることでユーザーに機能を説明したりなんらかの入力を促すようになっている。例えば携帯電話では数字の印刷されたテンキーは基本的に電話番号の入力用のキーであり、バックライトで照らし出されたテンキーを押動するとその数字が電話番号として入力されることとなる。このような携帯電話の一例として特許文献1を挙げる。
このような意匠パターンのマスク層を複数用意して重複配置させ、異なる色のバックライトを使用することで異なる意匠パターンを表示させる光学表示装置に関する技術が提供されている。そのような技術の一例として特許文献2を挙げる。特許文献2では異なる2種類の光源として赤色LEDと青色LEDを使用して赤色と青色のそれぞれの波長域に透過特性を有するマスク層を使用して赤色LEDと青色LEDのいずれかを点灯させて赤色あるいは青色の意匠パターンを表示させるものである。
【0003】
上記特許文献2では光源を青色LEDと赤色LEDとし、青色と赤色を透過させるようなマスク層を使用している。2色を使用する場合ではこのように青・赤系を採用することが比較的多い。光源に青色光と赤色光を使用するのは光学的に2つの色の波長のピークが十分離れているためである。もし波長域が近いと本来マスク層で遮蔽されるべき光が部分的に透過して遮蔽されるべき意匠パターンが目視されるような不具合が生じるためである。また、マスク側についても透過域が十分離れており、透過域の重複(かぶり)がない(あるいは非常に少ない)ため一般に光源となる光がそのかぶり位置に存在することはなく、遮蔽すべき青色光又は赤色光が遮蔽されるべきマスク層側から透過してしまうこともない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−111836号公報
【特許文献2】特開2008−164877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電化製品によっては使用する光源として青色光と赤色光以外の光を使用したいという要請がある。例えば、青色光は眼にきつく、また冷たく感じる印象がある。そのため、より柔らかな印象の緑色系の光源を使用したいというわけである。赤色光についても赤色は一般に「危険」を意味する色のイメージであるため、暖色系であっても赤色ではなく橙色系や黄色系の光源を使用したいという場合がある。また、赤色は色弱者にとっては見にくいため、色弱者でも見やすい色として橙色系を使用したいという理由もある。
ここに例えば、緑色光と橙色光をそれぞれ青色光と赤色光の代わりに使用する場合を想定する。図5に示すように、意匠パターンを中抜きした2層のマスク層101、102を重複配置する。そして、このマスク層101、102の重複方向に緑色LED103と橙色LED104を配置してそれらを交互に点灯させた場合の見え方を検討するものとする。ここでは話を単純化するために光学表示装置として必要なその他の構成は省略する。
このようなマスク層101、102のインクの光学特性はそれぞれ表2の(1)と(2)のグラフの通りであり、緑色LED103と橙色LED104の光学特性はそれぞれ表3の(4)と(5)のグラフの通りである。表2及び表3からわかるように緑色光はインクの橙色の透過域に及んでしまっており、逆に橙色光はインクの緑色の透過域に及んでしまっている。光源は単一の波長のみで構成されているのではなく、ある発光強度のピークを頂点に正規分布曲線のような鐘形曲線を描くため、光源を基準にマスク層の透過域を設定するとこのように波長域が接近している2種類の光源では本来透過してはならない領域まで光が及んでしまうことがある。
従って、この場合では図5の点線のように緑色LED103の光は本来遮蔽されるべきマスク層101を一部透過し、橙色LED104の光も本来遮蔽されるべきマスク層102を一部透過してしまうこととなって、常に両方のマスク層101、102の意匠パターンが目視できてしまうこととなる。このように本来見えてほしい意匠パターン以外の意匠パターンが目視できてしまうことは、本来見えてほしい意匠パターンが見えにくくなったり、所定モードにおいて間違えてモード状態を理解するおそれもあり好ましくない。そのため、従来では緑色と橙色のような発光ピークの接近した光源を使用することができなかった。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、波長域が近い複数の可視光光源を使用した場合であってもマスク層の意匠パターンを各マスク層毎に浮かび上がらせることができる光学表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1の発明では文字、記号あるいは図形等からなる意匠パターンをネガあるいはポジのいずれかの関係となるように中抜きしたそれぞれ他のマスク層とは異なる波長域を透過領域とする複数のマスク層を1枚あるいは複数枚の透明基板上に成膜した光学構造体と、複数の前記マスク層に対応した波長域に発光強度のピークを有する複数種類の可視光光源を備え、前記可視光光源の光は縦軸を発光強度とし横軸を波長としたグラフにおいて発光強度のピークを頂点に鐘形曲線を描くような光学特性を有し、2つの前記マスク層に対応する2つの前記可視光光源の光の波長域の少なくとも一方が対応しない側の前記マスク層の透過波長域内に部分的に存在し、複数の前記マスク層の重複方向から前記可視光光源を選択的に照射して対応する前記マスク層以外のマスク層で選択された前記可視光光源の光を遮蔽して前記可視光光源毎に異なる意匠パターンを目視させるようにした光学表示装置において、2つの前記可視光光源の光のうち、それぞれ対応しない側の前記マスク層の透過波長域内に部分的に存在する光の透過率を抑制する光学特性の光源補正層を前記マスク層と前記可視光光源の間に配置したことをその要旨とする。
また、請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加えて、前記光源補正層に補正される2つの前記可視光光源の光は波長方向に互いに重複する発光領域を有することをその要旨とする。
また、請求項3の発明では請求項1又は2の発明の構成に加えて、前記マスク層は少なくとも2つの前記マスク層が互いに重複する透過波長域を有することをその要旨とする。
【0007】
また、請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、前記光源補正層は単一の光学特性を備え、2つの前記可視光光源の両方に使用されることをその要旨とする。
また、請求項5の発明では請求項1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、前記光源補正層は第1及び第2の光源補正層から構成され、前記第1の光源補正層の光学特性が前記第2の光源補正層よりも短波長側に透過率ピークがある場合に、前記第1の光源補正層を2つの前記可視光光源のうちのいずれか短波長側の前記可視光光源用に使用し、前記第2の光源補正層をいずれか長波長側の前記可視光光源用に使用することをその要旨とする。
また、請求項6の発明では請求項1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、2つの前記マスク層は緑色系と橙色系であることをその要旨とする。
【0008】
また、請求項7の発明では請求項1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、前記光源補正層は第1及び第2の光源補正層から構成され、前記第1の光源補正層の光学特性を2つの前記マスク層のうちのいずれか短波長側に透過率ピークのある前記マスク層の透過波長特性と一致させて2つの前記可視光光源のうちのいずれか短波長側の前記可視光光源用に使用し、前記第2の光源補正層の光学特性をいずれか長波長側に透過率ピークのある前記マスク層の透過波長特性と一致させていずれか長波長側の前記可視光光源用に使用することをその要旨とする。
また、請求項8の発明では請求項1〜3又は7の発明の構成に加えて、2つの前記マスク層は青色系と赤色系であることをその要旨とする。
また、請求項9の発明では請求項1〜8のいずれかの発明の構成に加えて、前記マスク層の上層には複数種類の前記可視光光源の透過を許容するとともに外光を吸収して消灯時に前記マスク層の意匠パターンを遮蔽する遮蔽層が配設されていることをその要旨とする。
また、請求項10の発明では請求項1〜9のいずれかの発明の構成に加えて、前記光源補正層は前記可視光光源の表面に直接形成されていることをその要旨とする。
また、請求項11の発明では請求項1〜10のいずれかの発明の構成に加えて、前記2つの前記可視光光源は490nm〜520nmにピークのある青緑、緑色系の光源と、590nm〜620nmにピークのある橙色系の光源であることをその要旨とする。
また、請求項12の発明では請求項1〜11のいずれかの発明の構成に加えて、CIE 1976L*u*v*表色系において前記可視光光源の前記光源補正層を透過した後の色差が35未満であることをその要旨とする。
【0009】
このような構成の光学表示装置では、2つのマスク層に対応する2つの可視光光源の光の少なくとも一方が対応しない側のマスク層の透過領域まで及ぶこととなっている。つまり、本来いずれか一方の可視光光源の光が遮蔽されるべきはずのマスク層側でも光が一部透過されることとなり、そのままでは上記図5の破線で示すように常に両方のマスク層の意匠パターンが目視できてしまうこととなる。これは可視光光源の光が縦軸を発光強度とし横軸を波長としたグラフにおいて発光強度のピークを頂点に鐘形曲線を描くような光学特性を有し、裾野部分が両方のマスク層の波長域に存在するためである。
本発明では、光源補正層をマスク層と可視光光源の間に配置し、その光源補正層によってそれぞれ対応しない側の前記マスク層の透過波長域内に部分的に存在する光の透過率を抑制することで、本来一方の可視光光源の光が透過してはいけない側のマスク層でその光の透過を防止するようにしている。尚、可視光光源の鐘形曲線を描くような光学特性はピークを挟んだ左右が対称である場合だけでなく対称ではない場合も含むものとする。
ここに、透過率を抑制するとは望ましくは、対応しない側の可視光光源の光がまったく透過しないことであるが、実質上問題ない程度の抑制ができれば必ずしもまったく透過しない場合であってもよい。また、後述するような遮蔽層を設けたりしてユーザーの眼に入る光自体を抑制することができればそれだけ抑制量を削減することも可能である。
光源補正層に抑制される2つの前記可視光光源の光は波長方向に互いに重複する発光領域にある光であり、少なくともこのような光は必ず両方のマスク層の意匠パターンが目視できることとなるため抑制されなければならない。光源補正層は可視光光源とは別個に透明基板等に成膜されていてもよいが、可視光光源の表面に直接形成されていてもよい。
【0010】
1つの態様として光源補正層は単一の光学特性を備え、2つの前記可視光光源の両方に使用されることが望ましい。単一の光学特性を備えていることで、2つの可視光光源のそれぞれに別個の光源補正層を配設する手間がなくなるためである。
また、他の態様として光源補正層は第1及び第2の光源補正層から構成され、第1の光源補正層の光学特性が第2の光源補正層よりも短波長側に透過率ピークがある場合に、第1の光源補正層を2つの可視光光源のうちのいずれか短波長側の前記可視光光源用に使用し、第2の光源補正層をいずれか長波長側の可視光光源用に使用することが望ましい。第1及び第2の光源補正層をこのように配置することで正しく可視光光源の光を抑制することができる。これら2つの態様では2つの前記マスク層は緑色系と橙色系であることが好適である。
【0011】
また、他の1つの態様として光源補正層を第1及び第2の光源補正層から構成し、第1の光源補正層の光学特性を2つの前記マスク層のうちのいずれか短波長側に透過率ピークのあるマスク層の透過波長特性と一致させて2つの可視光光源のうちのいずれか短波長側の前記可視光光源用に使用し、第2の光源補正層の光学特性をいずれか長波長側に透過率ピークのあるマスク層の透過波長特性と一致させていずれか長波長側の前記可視光光源用に使用することが望ましい。つまり、光源補正層の特性とマスク層の特性を同じものとするというものである。このような構成であれば光源補正層を新たに設計しなくとも、2つのマスク層のぞれぞれの特性を流用することができ、透過波長域、遮蔽波長域が重なるため有利である。2つの前記マスク層は青色系と赤色系であることが好ましい。つまり波長域が比較的遠い2つの特性を有しているマスク層であることが好ましい。
前記マスク層の上層には複数種類の前記可視光光源の透過を許容するとともに外光を吸収して前記マスク層の意匠パターンを遮蔽する遮蔽層が配設されていることが好ましい。このような遮蔽層によって、本来見えてほしくないマスク層の意匠パターンが外光や可視光光源によって見えてしまうのを極力防止することができる。また、遮蔽層の外層に反射層を配置するようにしてもよい。
光源については十分に波長域が離間しているのであれば、このような光源補正層は不要である。比較的接近している波長同士に適用することが好ましく、より具体的には例えば490nm〜520nmにピークのある青緑、緑色系の光源と、590nm〜620nmにピークのある橙色系の光源が挙げられる。
また、前記可視光光源の光と前記光源補正層を透過した後の補正光との色差がCIE 1976L*u*v*表色系において35未満であることが好ましい。そもそも、その可視光光源を目視させたいとして可視光光源に選択しているわけであるから、可視光光源が光源補正層を透過することによって、可視光光源とはあまりにかけ離れた光が目視されるようでは好ましくないからである。そして、色差が35未満であれば人の眼にかけ離れているとは認識されないからである。
CIE 1976では3刺激値(X:主に赤系、Y:主に緑系、Z:主に青系)によって計算される均等色空間CIE1976UCS色度図によってあらわされる3次元直交座標を用いたL*u*v*表色系としている。L*は明度指数を、u*v*はクロマティクネス指数である。L*u*v*表色系では2つの試料の間の色差を座標L*u*v*の差であるΔL*、Δu*、Δv*によって定義し、その量を下記式で表している。この式において得られる色差が35未満であるということである。
表1はD65標準光源を基準光としたときのCIE 1976L*u*v*表色系(2度視野)における各光源色の色差の一例である。この表1に示すように、概ね色差が35を超える程度から人の目には2つの光が異なる色調に感じることとなるため、補正後の可視光光源の光の色差が35未満であることが好ましい。
【0012】
【数1】

【0013】
【表1】

【0014】
ここに、本発明のマスク層、光源補正層及び遮蔽層は数十nm〜数百μmの厚さの膜体であって、マスク層及び光源補正層では所定の透過率を有し、遮蔽層では所定の吸収率及び透過率を有する。
マスク層、光源補正層及び遮蔽層は主にバインダー樹脂中に微粒子を分散させ所定の成膜方法(印刷、スピンコート、ディッピング、塗布、染色等)で成膜することが考えられる。バインダー樹脂としては実質的に透明であって、照射光を大きく変化させないものであれば特に限定されるものではない。例えばポリエステル、ポリカーボネート、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。微粒子素材としては顔料、染料あるいは蛍光剤等が具体的に挙げられる。
また、誘電体多層膜によってマスク層、光源補正層及び遮蔽層を構成することもできる。誘電体薄膜層としては一般にはそれ自体が多層膜構造を取ることとなる。誘電体薄膜の膜数、膜素材、膜厚を設計することによって透過光(つまり反射光)を自由に制御することが可能である。多層膜の各構成膜層は金属もしくは金属窒化物もしくは金属酸化物もしくは金属フッ化物からなる膜素材であって、例えばCr(クロム)、Ni(ニッケル)、Si(シリコン)、Si3N4(窒化シリコン)TiO2(二酸化チタン)、Ta25(五酸化タンタル)、SiO2(酸化ケイ素)、MgF2(フッ化マグネシウム)、CaF2(フッ化カルシウム)、ZrO2(酸化ジルコニュウム)らが挙げられる。
本発明では構成されるマスク層の数は特に限定されるものではない。所望の波長に対する反射性能又は透過性能を発現させるために化合物を選択し、組み合わせて誘電体光学膜を構成することが可能である。誘電体薄膜層の成膜方法に特に限定的な意味はないが一般的には蒸着法やスパッタリング法で成膜されることが好ましい。
【0015】
本発明に使用される透明基板は一般にその表面に成膜可能な材質であれば特に限定されるものではなく、例えばガラス、ポリカーボネート、ポリメチルメタクレート及びその共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニル、ABS樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、NBR樹脂、AS樹脂等が一例として挙げられる。
本発明は例えば、家電製品、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistants)のような電化製品の表示画面に応用することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
上記各請求項の発明では、複数のマスク層の意匠パターンを異なる色の可視光光源を使用して各マスク層の意匠パターンのみを目視させるような光学表示装置において、互いに波長域が近い可視光光源を使用した場合であってもマスク層の意匠パターンを各マスク層毎に高コントラストで浮かび上がらせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例の光学表示装置をファクシミリ装置に応用した場合の説明図。
【図2】実施例1の光学表示装置の構造を模式的に説明する説明図。
【図3】実施例2の光学表示装置の構造を模式的に説明する説明図。
【図4】実施例3の光学表示装置の構造を模式的に説明する説明図。
【図5】従来の光学表示装置の構造を模式的に説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の光学表示装置の実施例について図面に従って説明する。
(実施例1)
図1に示すように、光学表示装置10は例えば電化製品であるファクシミリ装置11に搭載されるものとする。光学表示装置10は光学フィルム12とその背後に配置された可視光光源としての2種類の第1及び第2のLED13、14とより構成されている。第1及び第2のLED13、14の表面には直接光源補正層が成膜されている。第1及び第2のLED13、14は意匠パターンに対応した位置に過不足なく照明できるように適度な間隔で複数個配置されている。光学表示装置10は第1及び第2のLED13、14の点灯状態を変更することで待機時に表示される「SLEEP」の文字と操作可能状態で表示される「START」の両方の意匠パターンを選択的に表示させることができる。
【0019】
次に、このような光学表示装置10のより詳しい構造について説明する。
光学フィルム12は図2に示すように透明基板15の裏面側に成膜されている。光学フィルム12は透明基板15側から順に遮蔽層16、第1のマスク層17、第2のマスク層18の3層構造とされている。本実施例1では各層16、17、18とも蒸着によって成膜されている。図1に示すように、第1のマスク層17には上記「SLEEP」の文字部分が意匠パターンP1として中抜きされおり、第2のマスク層18には上記「START」の文字部分が意匠パターンP2として中抜きされている。
第1及び第2のLED13、14が第2のマスク層18に対向する位置に配置されている。第1及び第2のLED13、14は光源補正層が蒸着によってその表面に成膜されているため、図2では模式的に光源補正層19として第2のマスク層18と第1及び第2のLED13、14の間に配置するように表現する。
【0020】
第1のマスク層17の光学特性は透過−吸収特性を示す表2のグラフにおいて(1)の光学特性を示し、第2のマスク層18は表2のグラフの(2)の光学特性を示し、遮蔽層16は表1のグラフの(3)の光学特性を示す。
尚、各層の光学特性は可視光域のみに特化して記入されている。
表2のグラフ(1)に示すように、第1のマスク層17は短波長側の波長群である380nm〜530nm辺りの光に対してはほぼ平均0%の透過率に設定され、530nm〜580nmにかけて急激に透過率が上昇し、580nmより長波長側で平均95%程度の透過率に設定されている。このような光学特性では寒色系の色は透過できず暖色系の色が透過できることとなる。第1のマスク層17に白色光を透過させて肉眼で単独目視すると橙色を呈することとなる。
一方、表2のグラフ(2)に示すように、第2のマスク層18は短波長側の波長群である380nm〜530nm辺りの光に対しては平均95%程度の透過率に設定され、530nm〜580nmにかけて急激に透過率が減少し、580nmより長波長側でほぼ平均0%の透過率とされている。このような光学特性では暖色系の色は透過できず寒色系の色が透過できることとなる。第2のマスク層18に白色光を透過させて肉眼で単独目視すると青緑色を呈することとなる。
この(1)及び(2)のグラフから分るように530nm〜580nmにかけて両マスク層17、18は重複する透過波長域を有することとなる。
また、表2のグラフ(3)に示すように、遮蔽層16は可視光域(400〜750nmの範囲)において一定した透過率に設定されている。
【0021】
表3のグラフ(4)に示すように、第1のLED13の光は520nm付近にピークのある左右対称の鐘形曲線の光学特性を示す。従って、その光は肉眼で緑色を呈することとなる。表3のグラフ(5)に示すように、第2のLED14の光は620nm付近にピークのある左右対称の鐘形曲線の光学特性を示す。従って、その光は肉眼で橙色を呈することとなる。本実施例1では両LED13、14の光は光源補正層19によって補正されている。表4のグラフ(4−α)は光源補正層19によって補正された第1のLED13の光の光学特性であり、表4のグラフ(5−α)は光源補正層19によって補正された第2のLED14の光の光学特性である。光源補正層19の光学特性は表5に示す通りである。
光源補正層19のない状態では両LED13、14の光はいずれも両マスク層17、18は重複する透過波長域に存在する部分があるが、光源補正層19を透過させることによって透過波長域に存在しなくなる。これによって図2に示すように第1のLED13の光は第1のマスク層17に遮蔽されて意匠パターンP1を目視させることとなり、逆に第2のLED14の光は第2のマスク層18に遮蔽されて意匠パターンP2を目視させることとなる。その際に第1及び第2のLED13、14の光が両マスク層17、18は重複する透過波長域に存在しないため、意匠パターンP1と交錯して意匠パターンP2が、逆に意匠パターンP2と交錯して意匠パターンP1が目視されるようなことがない。
また、実施例1では表6−Aに示すように、CIE 1976L*u*v*表色系において第1及び第2のLED13、14の光はともに光源補正層19によって補正された補正光との色差が35未満に収まっている。尚、補正される前の第1及び第2のLED13、14の光の光学特性のL*u*v*表色系の座標を表6−Bに示す。これは以下の実施例でも同様である。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
【表6】

【0027】
(実施例2)
次に実施例1とはマスク層の光学特性が異なる実施例2について説明する。第1及び第2のLED13、14の構成は実施例1と同じであるため説明は省略する。実施例2では光学表示装置10のみ異なるためファクシミリ装置11についての説明は省略する。
実施例2においては図3の模式図に示すような構成とされる。
第1のマスク層21の光学特性は透過−吸収特性を示す表7のグラフにおいて(6)の光学特性を示し、第2のマスク層22は表7グラフの(7)の光学特性を示す。遮蔽層23は表7のグラフの(8)の光学特性を示す。尚、遮蔽層23の光学特性は実施例1の遮蔽層16と同じである。
尚、各層の光学特性は可視光域のみに特化して記入されている。
表7のグラフ(6)に示すように、第1のマスク層21は短波長側の波長群である430nm〜555nm辺りの光に対しては平均0%に近い透過率に設定され、555nm〜600nmにかけて急激に透過率が上昇し、600nmより長波長側で平均95%程度の透過率に設定されている。このような光学特性では寒色系の色は透過できず暖色系の色が透過できることとなる。第1のマスク層21に白色光を透過させて肉眼で単独目視すると赤色を呈することとなる。
一方、表7のグラフ(7)に示すように、第2のマスク層22は短波長側の波長群である380nm〜500nm辺りの光に対しては平均95%程度の透過率に設定され、500nm〜550nmにかけて急激に透過率が減少し、550nmより長波長側でほぼ平均0%の透過率とされている。このような光学特性では暖色系の色は透過できず寒色系の色が透過できることとなる。第2のマスク層22に白色光を透過させて肉眼で単独目視すると青色を呈することとなる。
【0028】
表7のこの(6)及び(7)のグラフから分るように両マスク層21、22は実施例1よりも互いに離間した透過波長域を有することとなる。従って、そもそも実施例1よりも第1のLED13の光の波長域は第1のマスク層21とは重複する波長域が少なく、第2のLED14の光の波長域も第2のマスク層22と重複する波長域が少なくなる傾向となる。しかし、両マスク層21、22が実施例1の場合よりも離間した波長域であるとしても、表3の両LED13、14と照合してみると依然として第1のLED13は第1のマスク層21の透過波長域に存在する(第2のLED14は第2のマスク層22の透過波長域に存在していない)。そのため、このままでは第1のLED13は第1のマスク層21を透過してしまうこととなる。
【0029】
本実施例2では両LED13、14の光は光源補正層24によって補正されている。表8のグラフ(6−α)は光源補正層24によって補正された第1のLED13の光の光学特性であり、表8のグラフ(7−α)は光源補正層24によって補正された第2のLED14の光の光学特性である。光源補正層24の光学特性は表9に示す通りである。
表8のグラフ(6−α)(7−α)と表7の両マスク層21、22の波長域(6)(7)をそれぞれ照合すると、両LED13の光は透過波長域に存在しなくなっている(第2のLED14は補正前から存在しない)。これによって図3に示すように第1のLED13の光は第1のマスク層21に遮蔽されて意匠パターンP1を目視させることとなり、逆に第2のLED14の光は第2のマスク層22に遮蔽されて意匠パターンP2を目視させることとなる。その際に第1及び第2のLED13、14の光が両マスク層21、22は重複する透過波長域に存在しないため、意匠パターンP1と交錯して意匠パターンP2が、逆に意匠パターンP2と交錯して意匠パターンP1が目視されることがない。
また、実施例2でも表10に示すように、CIE 1976L*u*v*表色系において第1及び第2のLED13、14の光はともに光源補正層24によって補正された補正光との色差が35未満に収まっている。
【0030】
【表7】

【0031】
【表8】

【0032】
【表9】

【0033】
【表10】

【0034】
(実施例3)
次に実施例2とは光源補正層の光学特性のみが異なる実施例3について説明する。実施例3は光学フィルム12の構成や第1及び第2のLED13、14の構成は実施例2と同じであるため説明は省略する。また、実施例3でも光学表示装置10のみ異なるためファクシミリ装置11についての説明は省略する。
実施例3においては図4の模式図に示すような構成とされる。図4に示すように、実施例3の光源補正層は第1のLED13側に配置される第1の光源補正層25aと第2のLED14側に配置される第2の光源補正層25bとから構成されている。実際の第1及び第2のLED13、14にはそれぞれの表面に異なる光学特性の第1及び第2の光源補正層25a、25bが成膜されることとなる。
第1の光源補正層25aの光学特性は第2のマスク層22の光学特性と一致する。また、第2の光源補正層25bの光学特性は第1のマスク層21の光学特性と一致する。
このため、第3の実施例では光源補正層として前記2種のマスク層の他に第三の光学特性を持つ層を 調色する必要がなくなる。
表11のグラフ(8−α)は第1の光源補正層25aによって補正された第1のLED13の光の光学特性であり、表11のグラフ(9−α)は第2の光源補正層25bによって補正された第2のLED14の光の光学特性である。
【0035】
補正後の両LED13、14の光学特性である表11のグラフ(8−α)(9−α)と表7の両マスク層21、22の波長域(6)(7)をそれぞれ照合すると、LED13の光は透過波長域に存在しなくなっている(第2のLED14は補正前から存在しない)。これによって図4に示すように第1のLED13の光は第1のマスク層21に遮蔽されて意匠パターンP1を目視させることとなり、逆に第2のLED14の光は第2のマスク層22に遮蔽されて意匠パターンP2を目視させることとなる。その際に第1及び第2のLED13、14の光が両マスク層21、22は重複する透過波長域に存在しないため、意匠パターンP1と交錯して意匠パターンP2が、逆に意匠パターンP2と交錯して意匠パターンP1が目視されることがない。
また、実施例3ではマスク層21、22と同じ特性の光源補正層25a、25bを使用しているため、透過波長域、遮蔽波長域が重なることで、光源(補正後)の色相とマスク層の色相が近づき同色化しやすい。
また、実施例3でも表12に示すように、CIE 1976L*u*v*表色系において第1及び第2のLED13、14の光はそれぞれ光源補正層25a、25bによって補正された補正光との色差が35未満に収まっている。
【0036】
【表11】

【0037】
【表12】

【0038】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記では説明の簡略化のために2つのマスク層の場合について説明したが、3つ以上のマスク層を有する光学表示装置に応用することも可能である。
・マスク層や光源の波長域は上記に限定されるものではない。例えば寒色系の2つの光源に応用することも可能である。
・透明基板15への成膜順序や成膜方法、また、透明基板15の枚数は適宜変更可能である。
・光源補正層についての成膜方法も自由である。また、LEDに直接成膜するのではなく、透明基板上に成膜させるようにしてもよい。
・遮蔽層16、23の光学特性は上記に限定されるものではない。また、遮蔽層16、23を使用せずに光学表示装置10を構成することも可能である。
・また、遮蔽層16、23は蒸着以外に市販品の減光フィルムを用いてもよい。
・遮蔽層16、23の上層に反射層を設けるようにしてもよい。
・照射用の光源はLEDやELなどの単色光源が好ましいが、電球などの光源と薄膜を組み合わせた光源を用いても良く、導光板や拡散板などを使って照射光とするのが良い。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【符号の説明】
【0039】
10…光学表示装置、13、14…可視光光源としてのLED、15…透明基板、17、18、21、22…マスク層、P1、P2…意匠パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
文字、記号あるいは図形等からなる意匠パターンをネガあるいはポジのいずれかの関係となるように中抜きしたそれぞれ他のマスク層とは異なる波長域を透過領域とする複数のマスク層を1枚あるいは複数枚の透明基板上に成膜した光学構造体と、複数の前記マスク層に対応した波長域に発光強度のピークを有する複数種類の可視光光源を備え、
前記可視光光源の光は縦軸を発光強度とし横軸を波長としたグラフにおいて発光強度のピークを頂点に鐘形曲線を描くような光学特性を有し、
2つの前記マスク層に対応する2つの前記可視光光源の光の波長域の少なくとも一方が対応しない側の前記マスク層の透過波長域内に部分的に存在し、
複数の前記マスク層の重複方向から前記可視光光源を選択的に照射して対応する前記マスク層以外のマスク層で選択された前記可視光光源の光を遮蔽して前記可視光光源毎に異なる意匠パターンを目視させるようにした光学表示装置において、
2つの前記可視光光源の光のうち、それぞれ対応しない側の前記マスク層の透過波長域内に部分的に存在する光の透過率を抑制する光学特性の光源補正層を前記マスク層と前記可視光光源の間に配置したことを特徴とする光学表示装置。
【請求項2】
前記光源補正層に補正される2つの前記可視光光源の光は波長方向に互いに重複する発光領域を有することを特徴とする請求項1に記載の光学表示装置。
【請求項3】
前記マスク層は少なくとも2つの前記マスク層が互いに重複する透過波長域を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学表示装置。
【請求項4】
前記光源補正層は単一の光学特性を備え、2つの前記可視光光源の両方に使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項5】
前記光源補正層は第1及び第2の光源補正層から構成され、前記第1の光源補正層の光学特性が前記第2の光源補正層よりも短波長側に透過率ピークがある場合に、前記第1の光源補正層を2つの前記可視光光源のうちのいずれか短波長側の前記可視光光源用に使用し、前記第2の光源補正層をいずれか長波長側の前記可視光光源用に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項6】
2つの前記マスク層は緑色系と橙色系であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項7】
前記光源補正層は第1及び第2の光源補正層から構成され、前記第1の光源補正層の光学特性を2つの前記マスク層のうちのいずれか短波長側に透過率ピークのある前記マスク層の透過波長特性と一致させて2つの前記可視光光源のうちのいずれか短波長側の前記可視光光源用に使用し、前記第2の光源補正層の光学特性をいずれか長波長側にピークのある前記マスク層の透過波長特性と一致させていずれか長波長側の前記可視光光源用に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項8】
2つの前記マスク層は青色系と赤色系であることを特徴とする請求項1〜3又は7に記載の光学表示装置。
【請求項9】
前記マスク層の上層には複数種類の前記可視光光源の透過を許容するとともに外光を吸収して前記マスク層の意匠パターンを遮蔽する遮蔽層が配設されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項10】
前記光源補正層は前記可視光光源の表面に直接形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項11】
前記2つの前記可視光光源は490nm〜520nmにピークのある青緑、緑色系の光源と、590nm〜620nmにピークのある橙色系の光源であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項12】
CIE 1976L*u*v*表色系において前記可視光光源の前記光源補正層を透過した後の色差が35未満であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の光学表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−3102(P2012−3102A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138959(P2010−138959)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】