説明

光学装置

【課題】
半導体レーザと、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、レンズに係る調整工程を簡素化でき、光学部品へのレーザ光の結合効率の低下を抑制することが可能な光学装置を提供すること。
【解決手段】
半導体レーザ1と、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品4と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、該レンズを保持する保持機構3であり、該保持機構は保持部材と該保持部材に対して回転可能に配置された回転管とから構成され、該回転管内に該レンズを該回転管の回転軸に対して偏心状態で配置し、さらに、該筐体には、該レンズの光軸方向に対して垂直方向に形成された溝を形成し、該保持部材は、該溝20により位置決めされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置に関するものであり、特に、半導体レーザと、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体レーザからの出射光を光変調器などの光学部品に導入する際には、両者の間にレンズを配置し、半導体レーザからの出射光を該光学部品の導入口に光学的に結合させることが行われている。また、半導体レーザ、レンズ、及び光学部品を同一の筐体内に配置しモジュール化した光学装置も提供されている。
【0003】
従来、上記レンズの位置調整方法としては、次のような方法が採用されている。
(1)複数の三角柱形状の支持部品の斜辺上にレンズを載せ、支持部品の位置により高さを調整する方法
(2)筐体内の底面からレンズ中心までの距離を、該底面から光軸までの距離より短く設定し、該底面からレンズまでの間にスペーサを挿入して高さ調整を行う方法
【0004】
(3)半導体レーザとレンズとの間、又はレンズと光学部品との間に、ガラス等で形成された補正板を挿入し光軸ズレを調整する方法
(4)偏心レンズを用いて高さ調整を行う方法(特許文献1参照)
【特許文献1】特開昭64−48010号公報
【0005】
レンズの位置調整には、例えば、光軸方向と該光軸に垂直な面内にある高さ方向及び横方向との、3軸に対してレンズの調芯を行う必要がある。しかも、上述した調整方法(1)及び(2)では、調整に工数が掛り、(3)については、調整工数が増える上、部品点数も増加することとなる。
【0006】
上記(4)の調整方法は、高さ方向の調整方法としては実用的ではあるが、偏心レンズを回転して高さ調整する際には、調整後のレンズを保持した回転管と、該回転管を回転自在に保持する保持部材との固定方法が問題となる。特に、位置調整から回転管と保持部材との固定までの間に、位置ズレを生じないように回転管と保持部材との間のトルクを適切に維持することが必要となる。
しかも、上記(4)の場合においても、高さ方向のみでなく他の2軸については、上記(1)及び(2)と同様の調整が必要であり、調整作業が煩雑化する。
【0007】
さらに、上記(1)乃至(4)のいずれにおいても、レンズを支持する支持部材などを筐体内に固定する際に、接着剤や半田、さらにはYAGレーザなどが利用されているが、接着剤の収縮作用、半田やYAGレーザの熱応力作用などにより、位置ズレが発生する可能性が高く、正確な位置決めが困難となっている。特に、特許文献1に示すように、回転管と保持部材との間をYAGレーザを用いて複数箇所を固定する場合には、位置ズレが発生する危険性が極めて高くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、半導体レーザと、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、レンズに係る調整工程を簡素化でき、光学部品へのレーザ光の結合効率の低下を抑制することが可能な光学装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、半導体レーザと、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、該レンズを保持する保持機構であり、該保持機構は保持部材と該保持部材に対して回転可能に配置された回転管とから構成され、該回転管内に該レンズを該回転管の回転軸に対して偏心状態で配置し、さらに、該筐体には、該レンズの光軸方向に対して垂直方向に形成された溝を形成し、該保持部材は、該溝により位置決めされていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載の光学装置において、該溝の該光軸方向の幅は、該保持部材の該溝内に配置される部分の幅より広いことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、請求項2に記載の光学装置において、該溝の幅は、該保持部材の該溝内に配置される部分の幅より、0.5mm以下の範囲で広いことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明では、請求項1乃至3のいずれかに記載の光学装置において、該保持部材の上部に該回転管まで通じる略垂直方向の貫通孔を設け、該貫通孔の延長線上に該回転管の回転軸が位置することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明では、請求項4に記載の光学装置において、該貫通孔に接着剤を充填することを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明では、請求項4に記載の光学装置において、該貫通孔に半田を充填することを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明では、請求項4に記載の光学装置において、該貫通孔を利用したレーザ溶接が行われていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に係る発明では、請求項1乃至7のいずれかに記載の光学装置において、該光学部品が、ニオブ酸リチウム基板に光導波路を形成したLN素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明により、半導体レーザと、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、該レンズを保持する保持機構であり、該保持機構は保持部材と該保持部材に対して回転可能に配置された回転管とから構成され、該回転管内に該レンズを該回転管の回転軸に対して偏心状態で配置し、さらに、該筐体には、該レンズの光軸方向に対して垂直方向に形成された溝を形成し、該保持部材は、該溝により位置決めされているため、光軸方向の位置決め調整が不要となり、調整工程を簡素化することが可能となる。しかも、光軸方向の位置決めの精度が低下した場合でも、光学部品へのレーザ光の結合効率の低下を最小限に抑制することが可能となる。
【0018】
請求項2に係る発明により、溝の光軸方向の幅は、保持部材の該溝内に配置される部分の幅より広いため、保持部材を溝内に円滑に配置することが可能となる上、溝の一側面に保持部材を当接させることにより、容易に位置決めを行うことも可能となる。
【0019】
請求項3に係る発明により、溝の幅は、保持部材の該溝内に配置される部分の幅より、0.5mm以下の範囲で広いため、仮に溝内で保持部材がズレて配置された場合でも、光学部品へのレーザ光の結合効率の低下を最小限に抑制することが可能となる。
【0020】
請求項4に係る発明により、保持部材の上部に回転管まで通じる略垂直方向の貫通孔を設け、該貫通孔の延長線上に該回転管の回転軸が位置するため、回転管と保持手段とを貫通孔を通じて局所的に固定することが可能となり、両者の固定作業時における両者の位置ズレが発生することを抑制することができる。また、保持手段の上部に貫通孔があるため、保持手段を筐体内に配置した状態でも、回転管と保持手段とを容易に固定することができる。さらには、貫通孔が略垂直方向に形成されているため、組立作業時には貫通孔が略鉛直方向に配置されることとなり、接着剤や半田などが貫通孔の外側に流れ出すという不具合が発生することも無い。
【0021】
請求項5に係る発明により、貫通孔に接着剤を充填するため、回転管と保持手段とを貫通孔を通じて局所的に固定することが可能となる。しかも接着剤の収縮作用が発生しても、回転管と保持手段との間で位置ズレが発生することも抑制される。
【0022】
請求項6に係る発明により、貫通孔に半田を充填するため、回転管と保持手段とを貫通孔を通じて局所的に固定することが可能となる。しかも半田の熱応力作用や収縮作用などが発生しても、回転管と保持手段との間で位置ズレが発生することも抑制される。
【0023】
請求項7に係る発明により、貫通孔を利用したレーザ溶接が行われているため、回転管と保持手段とを貫通孔を通じて局所的に固定することが可能となる。しかもYAGレーザによる熱応力作用が発生しても、回転管と保持手段との間で位置ズレが発生することも抑制される。
【0024】
請求項8に係る発明により、光学部品が、ニオブ酸リチウム基板に光導波路を形成したLN素子であるため、特に、レンズの位置決め精度が光学部品へのレーザ光の結合効率に影響を与え、しかも、光軸方向に対する位置決め精度よりも、光軸方向に対して垂直方向の精度が要求されることから、本発明の光学装置を好適に適用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を好適例を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る光学装置の一例を示す断面概略図であり、図2は、図1のレンズ保持機構3を説明する図である。
本発明は、半導体レーザ1と、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品4と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、該レンズ12を保持する保持機構3であり、該保持機構3は保持部材10と該保持部材に対して回転可能に配置された回転管11とから構成され、該回転管内に該レンズを該回転管の回転軸に対して偏心状態で配置し、さらに、該筐体には、該レンズの光軸方向に対して垂直方向に形成された溝を形成し、該保持部材は、該溝により位置決めされていることを特徴とする。
【0026】
図1の光学装置について詳述すると、筐体9内には、半導体レーザ1が、ペルチェ素子などの冷却手段を兼ねた支持部材2上に配置されている。半導体レーザ1としてMEMS(Micro Electro mechanical System)を搭載した半導体レーザを用いることにより、全ての部材を固定した後であっても、位置補正を行なうことが可能となる。光学部品4は、光変調器や光スイッチなど種々の光学素子を用いることが可能である。特に、光学部品4として、LN変調器などのような、ニオブ酸リチウム基板に光導波路を形成したLN素子を用いる場合には、本発明の光学装置を好適に適用することが可能である。これは、LN素子においては、特に、レンズの位置決め精度が光学部品へのレーザ光の結合効率に影響を与え、しかも、光軸方向に対する位置決め精度よりも、光軸方向に対して垂直方向の精度が要求されるためである。
【0027】
光学部品4の他端には、補強板6やキャピラリー7などを用いて、光ファイバ8が接続されている。
また、半導体レーザ1と光学部品4との間には、半導体レーザ1と光学部品4とを光学的に結合するレンズが配置されている。該レンズは、保持機構3により所定の位置に保持されている。
【0028】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、上記レンズの位置決めは、基本的に3軸調整(例えば、光軸方向,該光軸に垂直な面内にある高さ方向及び横方向の各調整)が必要であるが、以下の表1及び2に示すように、光軸方向の位置ズレよりは、高さ方向の位置ズレが結合効率に大きな影響を与えており、しかも、仮に、光軸方向の位置ズレが、金属加工に係る精度が、例えば数10μm〜数100μm程度であっても、十分に高い結合効率を確保できることを見出した。なお、表1及び2は、レンズ透過後のビーム径と光学部品の入射側のモード径とが同じ10μmと仮定している。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
具体的には、光軸方向の位置ズレは150μmであっても結合効率の低下は約5%であるのに対し、高さ方向又は横方向の位置ズレであっては、3μmで約4割まで結合効率が低下することとなる。
【0032】
このため、本発明では光軸方向の位置決めを、筐体9内に設けた溝20で行っている。なお、図1に示した筐体は、全ての部品を配置し、光学的な結合調整及び電気的な接続が完了した後に、上部を不図示の蓋で封止する。また、矢印aは半導体レーザ1から光学部品4に入射する光波を、矢印bは光ファイバ8により出射する光波を示している。
【0033】
溝20の光軸方向の幅は、溝内に配置される保持機構3の保持部材10の幅よりも広く設定されており、表1から500μm以下の範囲であれば、溝の幅を保持部材の幅より広く設定しても、結合効率の低下を約4割に留めることが可能となる。
【0034】
また、溝の幅を保持部材の幅より広く設定した際には、図1に示すように溝の一側面に保持部材を当接させ、位置決めを行ってから、筐体9に保持機構(保持部材)をYAGレーザなどで溶接する。
【0035】
次に、保持機構3の具体的な構成について説明する。
保持機構3は、図2に示すように、保持部材10と該保持部材に対して回転可能に配置された回転管11とから構成され、該回転管内にレンズ12を該回転管の回転軸に対して偏心状態で配置している。
【0036】
図2(b)は、図2(a)の矢印Aにおける断面図を示す。
本発明の保持機構の特徴は、保持部材10の上部に回転管11まで通じる略垂直方向の貫通孔13を設け、該貫通孔の延長線上に該回転管の回転軸Oが位置することを特徴とする。Oは、レンズ12の中心軸である。
【0037】
保持部材10に対して回転管11は回転自在に配置されているが、レンズの位置調整の際に、調整後から回転管の保持部材への固定までの間に、両者の位置関係がずれないよう、両者間には適正なトルクが発生するよう構成する。トルクの大きさは、好ましくは100〜500g、より好ましくは100〜200gである。
【0038】
保持部材10と回転管11との固定は、貫通孔に接着剤を充填する方法や、貫通孔に半田を充填する方法、より好ましくは、貫通孔にYAGレーザを入射しレーザ溶接する方法により可能となる。
【0039】
図2では、回転管11内にレンズ12を配置したが、回転管11を2重構造(回転管を2重にし、上述した回転管11とレンズ12と同様に偏心状態としたもの)にし、高さ方向だけでなく横方向の調整も可能なように構成することも可能である。ただし、この2重構造の回転管を用いる際には、外側に位置する回転管の外周の一部には、図2に示した貫通孔13に繋がると共に、内側の回転管の外周面まで連通した孔(外側の回転管が回動する範囲で貫通孔13に位置する回転管の外周部分に対して連続的した孔が形成される)を設け、貫通孔13を介して、2つの回転管についても相互に固定できるように構成することが好ましい。
【0040】
本発明の光学装置を製造する際には、まず、筺体9内に半導体レーザ1及び光学部品4を配置固定し、次に、レンズ12の位置決め及び固定を行なう。レンズの固定は、まず最初に、保持機構3の保持部材10を溝20内に配置して、YAGレーザ等で保持部材10を筺体9に固定する。次に、回転管11を回動し、高さ方向(又は横方向)の調整を行い、貫通孔13を利用して保持部材と回転管(及び回転管同士)をYAGレーザ等で固定する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、半導体レーザと、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、レンズに係る調整工程を簡素化でき、光学部品へのレーザ光の結合効率の低下を抑制することが可能な光学装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る光学装置の断面概略図である。
【図2】レンズの保持機構を説明する図である。
【符号の説明】
【0043】
1 半導体レーザ
2 半導体レーザの支持部材
3 レンズ保持機構
4 光学部品
5 光学部品の支持部材
6 キャピラリー接続用補強部材
7 キャピラリー
8 光ファイバ
9 筺体
10 保持部材
11 回転管
12 レンズ
13 貫通孔
20 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザと、該半導体レーザからの出射光を導入する光学部品と、該半導体レーザと該光学部品とを光学的に結合するレンズとを筐体内に配置した光学装置において、
該レンズを保持する保持機構であり、該保持機構は保持部材と該保持部材に対して回転可能に配置された回転管とから構成され、該回転管内に該レンズを該回転管の回転軸に対して偏心状態で配置し、
さらに、該筐体には、該レンズの光軸方向に対して垂直方向に形成された溝を形成し、
該保持部材は、該溝により位置決めされていることを特徴とする光学装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学装置において、該溝の該光軸方向の幅は、該保持部材の該溝内に配置される部分の幅より広いことを特徴とする光学装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光学装置において、該溝の幅は、該保持部材の該溝内に配置される部分の幅より、0.5mm以下の範囲で広いことを特徴とする光学装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光学装置において、該保持部材の上部に該回転管まで通じる略垂直方向の貫通孔を設け、該貫通孔の延長線上に該回転管の回転軸が位置することを特徴とする光学装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光学装置において、該貫通孔に接着剤を充填することを特徴とする光学装置。
【請求項6】
請求項4に記載の光学装置において、該貫通孔に半田を充填することを特徴とする光学装置。
【請求項7】
請求項4に記載の光学装置において、該貫通孔を利用したレーザ溶接が行われていることを特徴とする光学装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光学装置において、該光学部品が、ニオブ酸リチウム基板に光導波路を形成したLN素子であることを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−216682(P2008−216682A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54610(P2007−54610)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】