説明

光学部品用液晶セル

【課題】微視的な領域で配向を任意に変えた光学素子を提供すること。
【解決手段】光学素子が、基板(1)又は2つの間隔をおいた基板からなるセルと、基板上の1つまたはそれ以上の配向層(2)と、架橋した液晶モノマー又はオリゴマーの1つまたはそれ以上の異方性層(3)とを有する。液晶層に隣接する配向層の表面は、局所の規定された平行な又は扇状のライン構造のある配向パターン(4,5)を有する。ライン間の平均間隔は、液晶層の厚さより大きくなく、隣接するライン間の角度を3°より大きくない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は2つの基板と、それぞれの基板上の1つ又は2つの配向層と、架橋した液晶モノマー又はオリゴマーの1つ又はそれ以上の異方性フィルムとを備え、基板上又は基板間の液晶分子の配向が部分的に異なる光学素子に関するものである。本発明は、また、このような素子の生産と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光学軸を高分解能で事前に調整し、3次元配向させた異方性の透明又はカラーのポリマー網状組織層は、表示技術、積分光学技術及び偽造防止の分野で非常に重要である。
EP−A(ヨーロッパ特許公開)545234は、規定された異なる配向でその結果異なる屈折率の領域を備える液晶セルを開示する。液晶のこの種の屈折率パターンは、走査形顕微鏡(走査形プローブ顕微鏡又は原子間力顕微鏡[AFM])の走査ペンに従って移動する針を使用して、液晶の境界となる配向層の表面上に、ライン構造を精密機械的に生成することにより生産される。針にかけられる力により、ラインは比較的明確な溝又は単に均一に整列した分子の列にすることができる。以下、「スクラッチ(引っかく)」という言葉は、針の手段によりライン構造を生産するプロセスに使用する。このように構成したプレートのセルでは、配向層のパターンは液晶に移転される配向パターンを構成する。光学的に非線形な液晶状の又はさらに構造を固定した光学導波管構造は重要な用途である。
【0003】
EP−A611981は、架橋によりモノマー液晶の配向構造を安定化させる材料と方法を開示する。液晶の配向構造は、光配向可能なポリマー網状組織(「PPN層」)の配向層により誘導される。この目的のため、第1ステップで偏光によりPPN配向層に所望のパターンが光化学的に作られ、第2ステップでスピンコーティングによりその上に形成された液晶層に移される(PPN法)。次に液晶構造は、架橋により安定化される。この種の架橋した液晶層は、簡単にLPC(液晶ポリマー)と呼ぶ。
ヨーロッパ特許出願第689084号は、多くのPPN配向層と架橋液晶モノマーの異方性層の層構造を有する光学部品を記述するが、全てPPN法の制限を受ける、即ち分解能は制限され、ディレクタ(director)は少ししか方向を変えられず、傾き (チルト tilt)角の制御は制限される。
【0004】
まだ発行されていないスイス特許出願第2036/95 号は、光学部品をマスクとして使用する即ち偏光パターンを偏光感光層に伝える製品とその使用を記述する。
ヨーロッパ特許出願第689065号は、特に偽造防止に適した層構造の光学PPN素子とその生産を記述する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、微視的な領域で配向を任意に変えた光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
精密機械的にスクラッチした配向層を有する架橋可能な液晶は、より良いまたは完全に新しい特性を有する構造になることが分かった。
本発明によれば、前述の素子は、液晶層に隣接する配向層の表面は、局所の規定された平行な又は扇状のライン構造の配向パターンを有し、ライン間の平均間隔は液晶層の厚さより大きくなく、隣接するライン間の角度は3°より大きくない。
例えば、このようにしてPPN法と比較してより小さい構造も生産することができる。好適な方向に加えて、分子のチルト角も制御し変えることができ、好適な方向も局所的に連続的に変化させることができる。EP−A545234に記述された液晶セルと比較して、本発明の素子は基板は1枚のみでよい。3次元構造(複合層)もまた構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1に示すように、配向層2は基板1(例えばガラス)の上に配置される。配向層はポリイミドで出来ているのが好ましく、当業者に公知の方法でスピンコーティングで形成されるのが好ましい。第1ステップで、配向層は図に示すy方向に通常の方法でラビング(こする)される。その目的は、公知のように隣接する液晶層にラビングの方向とほぼ同じ方向の配向をさせることである。次に、所望の配向パターンが精密機械的な針によりスクラッチされる。針を制御する方法は、走査形プローブ顕微鏡により公知である。針は、x軸に平行に移動し、表面上に図に溝4で概略を示す微細な構造を生じる。次に、所望の厚さの好適な液晶モノマー混合物がスピンコーティングにより形成される。液晶層3のスクラッチしない領域5では、当初のラビングyの方向と平行に配向し、スクラッチした領域4では引っかいた方向xと平行に配向する。配向パターンは、1本の針で又は数本の針で平行に描くことができる。
【0008】
次に、液晶層は化学的又は光化学的な架橋により安定化される。光化学的架橋の場合、層の個々の部分を固化する必要が無ければ、前述のステップで照射を好適なマスクを通して行うこともできる。それゆえこの例では、完成したLCP層は、液晶分子がラビングのy方向に平行に配向した領域7と、ラビングのx方向に平行に配向した領域6とを備える。
針はまた、液晶分子のチルト角を制御し、調節するのに使用することができる。公知のように、液晶分子は表面に平行である必要はなく、配向層のポリマーによって決まる角度だけ平面から傾いている。ラビング又はスクラッチの方向により、x方向に対して正の角度傾くか又は負の角度傾くかが決まる。本発明でこれをどのように使用するかは、図5に示す。a)戻るとき針を上げる又はb)戻るとき前に描いた軌跡を通るようにすると、スクラッチの移動は、いつも同じ方向におこるようにすることができる。従って後者の場合は、y方向の送りは同期させなければならない。これらの2つのスクラッチ方法によれば、最大のポリマー特有のチルト角になる。c)に示すスクラッチパターンでは、チルト角0になり、パターンd)又はe)では可能な最大チルト角より小さな値となる。それゆえ、スクラッチの方法を選択することにより、チルト角は制御し調節することができる。
【0009】
架橋したポリマーは機械的に安定なので、緩衝ポリマー層があってもなくても上述の方法は繰り返し使用することができる。これは図2に示す。層21,22,23は、図1の層1,2,3に対応する。層23が架橋されたのち、再度ラビングされ精密機械的にスクラッチされる。または、別の層はラビングとスクラッチの前に形成し、例えば光学的性質又は配向特性を改善することもできる。層24のスピンコーティングとその後の架橋により、別の配向パターン25,26ができる。この方法は必要なだけ繰り返すことができ、このように構成すると、z方向にも3次元屈折率パターンが得られる。
本発明は、静的即ち切り換えない高分解能の屈折率パターンが必要なところにはどこでも使用できる。PPNプロセスで生産した素子を使用できる範囲は全て適用の範囲に含まれる。しかし、本発明はまた、より微細な構造を得るためにも使用することができ、ディレクタの方向を連続的に変化させ、さらにチルト角を制御し、公知のPPNの用途に加え完全に新しい可能性を開くこともできる。
【0010】
このような可能性には、カプラー等の積分光学の光学導波管構造、結合(coupling-in)構造(例えばグレーティング)、ディレイライン、偏光影響構造が含まれる。活性な又はNLO活性な素子と結合すると、これらの光学導波管構造は、また単純な方法で結合された網状組織として使用することができる。3次元網状組織は、特に層間の結合に、又は光学導波管の干渉のない交差に使用することができる。本発明の可能性の1つの例は、図3の光学導波管の180°曲げである。光31が、導波管33を伝わり、ポイント32まで行くと180°曲がる。この種の導波管構造を生産するには、湾曲部の内側の領域34と湾曲部の外側の領域35との両方で、即ち導波管33自体の中で、スクラッチの方向を局所的に連続的に変化させなければならない。これは、公知のどの方法ででも行うことができない。
【0011】
静的な屈折率パターンもまた、例えばPPNイルミネーション用の高分解能のマスクに使用することができる。本発明は、スイス特許出願第2036/95 号に記述されたホトリソグラフィー法より高分解能で複雑なマスクを生産するのに使用することができる。
【0012】
静的な屈折率パターンはまた、身分証明所と全ての文書の偽造防止に非常に重要である。本発明のスクラッチパターンは高分解能なので、屈折効果は別に防護の要素として使用することができる。即ち屈折率パターンは偏光によるホログラムとして作用する。もし前述したように3次元構造(体積ホログラム)を作ると、光分散の効率が大きく改善される。
本発明はまた、PPN法との組合わせが非常に重要である。広い領域を光学的にPPN法により構成し、その後本発明の方法でミクロ構造を形成することができる。その場合例えば、図1に示す配向層2又は図2に示す配向層22は、ラビングしたポリマー層ではなく、層23,24の間にあり得る中間層はスクラッチしたポリマー層ではなく、光で形成し架橋後別のパターンがスクラッチされたポリマー網状組織である。同じことが、前述した全ての例に当てはまる。
【実施例】
【0013】
次のジアクリレート素子が、架橋可能なモノマーとして使用された。























【0014】
【化1】

【0015】
これらの素子は、特に低い融点(約35°C)を有する過冷可能な(super-coolable)ネマチック混合物MLCPを開発するのに使用され、室温で調製できるようになった。混合物中のモノマー1,2,3の比率は、80:15:5であった。混合物にチバ−ガイギー社の光反応開始剤IRGACURE 369を2%添加した。
ITO(酸化インジウム、錫)をコーティングしたガラスの試験片に、約100 nmの厚さのポリイミド層を公知のスピンコーティングにより形成した。層は、通常のラビング装置によりラビングされた。次に、可変の回折定数を有し当初のラビング方向に45°の回折格子構造が、圧電気で駆動される針でスクラッチされた。これを、図4に図式的に示す。45の方向に移動する(v=3.6mm/s )テーブルに、コーティングした試料41が機械的に固定される。針43は、小さな棒44に固定され、圧電気により46と47の両方向に移動することができる。スクラッチされたライン間の平均間隔7.5 nmに対応して240 Hzの一定の周波数が方向46にかけられ、ラインの長さは10μm である。格子を付ける周期は、変調の周期的な中断により生じる。また、針は周期的に47の方向に上下させることができる。
【0016】
次にLPC層が、スピンコーティングにより形成される(パラメーター:2000rpmで2分間)。アニソール溶剤内のMLCPの濃度を選択することで、層の厚さを広い範囲内で変化させることができる。5%の濃度では、例えば約65nmの層厚になる。次に、層は照射装置で光架橋された(水銀アーク灯30分)。架橋した構造を、偏光顕微鏡と原子間力顕微鏡(AFM)で検査した。偏光顕微鏡では、顕微鏡の分解能の限度で(即ち720 nmの格子の周期まで)格子をはっきり見ることができ、図4の部分42は試験片の他の部分と異なり、異なる方向に配向した複屈折を有した。AFMで観察すると、格子の周期は240 nmであった。これらの測定により、異方性架橋ポリマーに非常に微細な屈折率パターンを生じることができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の素子の実施例の概略断面図。
【図2】他の実施例の概略断面図。
【図3】他の実施例の概略上面図。
【図4】本発明の素子を生産する装置。
【図5】針を案内する色々の方法。
【符号の説明】
【0018】
1・・基板
2・・配向層
3・・液晶層
4・・スクラッチした領域
5・・スクラッチしない領域
6・・x方向に配向した領域
7・・y方向に配向した領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、1つまたはそれ以上の配向層と、架橋した液晶モノマー又はオリゴマーの1つ又はそれ以上の異方性層とを有し、液晶分子が局所的に異なる配向を有する光学素子において、
前記液晶層に隣接する前記配向層の表面は、局所の決められた平行な又は扇状のライン構造のある配向パターンを有し、ライン間の平均間隔は前記液晶層の厚さより大きくなく、隣接するライン間の角度は3°より大きくないことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
2つの間隔をおいた基板からなるセルと、それぞれの基板上の1つまたはそれ以上の配向層と、前記配向層間に配置され、架橋した液晶モノマー又はオリゴマーの1つ又はそれ以上の異方性層とを有し、液晶分子が局所的に異なる配向を有する光学素子において、
前記液晶層に隣接する前記配向層の表面は、局所のはっきり平行な又は扇状のライン構造のある配向パターンを有し、ライン間の平均間隔は前記液晶層の厚さより大きくなく、隣接するライン間の角度は3°より大きくないことを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載した光学素子であって、前記配向層は、光により形成されたポリマー網状組織からなることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれか1項に記載した光学素子であって、前記ライン構造は、機械化学的に形成された溝状構造要素からなることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれか1項に記載した光学素子であって、架橋した液晶分子の少なくとも1つの層は、液晶のモノマー又はオリゴマーの混合物であり、少なくともプロセスの期間中は、また0°Cから60°Cの範囲では1°Cの温度間隔で、架橋前は液晶状であったことを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載した光学素子の製造方法であって、配向層の表面上に微細構造を精密機械的に作り、次に液晶オリゴマー又はモノマーの層を形成し、次に液晶層を架橋することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載した光学素子の製造方法であって、光学軸の方向がスクラッチしたラインの方向により変化することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載した光学素子の製造方法であって、2つの基板の1つはセル中で架橋した後除去されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項5に記載した光学素子の製造方法であって、架橋した液晶分子の少なくとも1つの層は、液晶のモノマー又はオリゴマーの混合物であり、少なくともプロセスの期間中は、また0°Cから60°Cの範囲では1°Cの温度間隔で、架橋前は液晶状であったことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載した光学素子を、決められた光偏光パターン、即ち局所的に可変の偏光の光ビームを生じるマスクとして使用した装置。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載した光学素子を、偏光に感応する光感応層に光で誘起する配向パターンを形成することに使用する装置。
【請求項12】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載した光学素子を、光学導波管又は光学導波管の網状組織として使用する装置。
【請求項13】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載した光学素子を、身分証明書又は文書の防護要素として使用する装置。
【請求項14】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載した光学素子を、光屈折要素として使用する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−102236(P2007−102236A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274772(P2006−274772)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【分割の表示】特願平8−290199の分割
【原出願日】平成8年10月31日(1996.10.31)
【出願人】(596098438)ロリク アーゲー (22)
【氏名又は名称原語表記】ROLIC AG
【Fターム(参考)】