説明

光導波路およびその製造方法

【課題】 実装時における個々のケースに応じた設計、製造の必要をなくすことにより、製品化までのリードタイムを短縮し、かつ、コストの低減を図ることができる光導波路およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 クラッド層とコア層とを含み、コア層を介して信号光を入射−伝播−出射する光導波路である。コア層が、少なくとも一部において複数層にて形成されている。クラッド層が下部クラッド層2Aと、中間クラッド層2Bと、上部クラッド層2Cとからなる光導波路の製造方法である。塗工された下部クラッド層に対しモールドをプレスして溝部を形成し、溝部内に第一のコア層1Aを塗工する工程と、下部クラッド層上に塗工された中間クラッド層に、同様にして第二のコア層を形成することを1回以上繰り返して、少なくとも一層の第二のコア層を形成する工程と、第二のコア層の形成された中間クラッド層上に上部クラッド層を塗工する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光導波路およびその製造方法に関し、詳しくは、配線板、特には、電気配線と光配線との併用により構成される電気・光混載配線板において、電気配線部とともに配設されて用いられる光導波路およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器内の電気配線板においては、信号の伝送速度向上を目的として、光配線の技術が導入されてきている。具体的には、配線板内に光配線として光導波路が適用され、電気配線層と積層して使用されている。このような、電気配線と光配線との混載により構成された配線板は、一般に、電気・光混載配線板と呼ばれる。
【0003】
かかる電気・光混載配線板に関しては、これまでに種々検討がなされてきており、例えば、特許文献1には、高密度実装または小型化が可能で、しかも光部品の実装が電気部品の実装と同じ方法で行える光・電気配線基板の実現を目的として、電気配線が埋設された電気配線基板と、光導波路が埋設された光基板とが積層された光・電気配線基板において、光基板を、電気配線基板に形成された柱状導電性ガイドにより貫通させる技術が記載されている。また、特許文献2、3等にも、電気・光混載配線板に係る改良技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−340906号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2003−287637号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2004−163722号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、上記のような電気・光混載配線板において用いられる光導波路は、直線状やY字分岐状等のコアパターンを予め設計することにより製品化されていた。従って、実際の配線板において発光素子や受光素子等の実装用に使用する場合には、これら素子の実装位置、実装方向、実装個数等が千差万別であるために、それぞれの使い方に合わせて設計、製造を行う必要があり、製品化までのリードタイム、コスト面で不利であるという問題があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記問題を解決して、実装時における個々のケースに応じた設計、製造の必要をなくすことにより、製品化までのリードタイムを短縮し、かつ、コストの低減を図ることができる光導波路およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、コア層を複数層にて形成することで、導波路コアの配設領域を所望に設定することが可能となり、これにより上記問題を解消できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の光導波路は、クラッド層とコア層とを含み、該コア層を介して信号光を入射−伝播−出射する光導波路において、前記コア層が、少なくとも一部において複数層にて形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の光導波路の製造方法は、前記クラッド層が下部クラッド層と、一層以上の中間クラッド層と、上部クラッド層とからなる上記本発明の光導波路の製造方法において、
前記下部クラッド層の塗工後に、塗工された該下部クラッド層に対し凹凸パターンが形成された第一のモールドをプレスして、該凹凸パターンを該下部クラッド層表面に転写することにより該下部クラッド層に溝部を形成し、該溝部内に第一のコア層を塗工する第一のコア層形成工程と、
前記第一のコア層の形成された下部クラッド層上に中間クラッド層を塗工して、塗工された該中間クラッド層に対し凹凸パターンが形成された第二のモールドをプレスして、該凹凸パターンを該中間クラッド層表面に転写することにより該中間クラッド層に溝部を形成し、該溝部内に第二のコア層を塗工することを1回以上繰り返して、少なくとも一層の第二のコア層を形成する第二のコア層形成工程と、
前記第二のコア層の形成された中間クラッド層上に上部クラッド層を塗工する上部クラッド層形成工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の光導波路の製造方法においては、前記コア層を形成するために順次用いる第一のモールドおよび第二のモールドとして、少なくとも一部に、略平行に延びる複数本の直線状凹凸パターンが形成されたものを用いて、前記第一のコア層および第二のコア層を、少なくとも一部において、層間で互いに直交する2つの方向に夫々、略平行に延びる複数本からなるよう順次形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成としたことにより、導波路コアの配設領域を所望に設定することで、複数層で構成される面内の導波路コアの存在する部位であれば、どこからでも光信号を取り出すことが可能となるため、使用目的等に応じてケースバイケースで設計、製造を行うことが不要となり、これにより、実装用光導波路の標準化、共通化を行うことができるとともに、リードタイムの大幅な短縮およびコストダウンを実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の光導波路は、クラッド層とコア層とを含み、コア層を介して信号光を入射−伝播−出射するものであって、コア層が、少なくとも一部において複数層にて形成されている点に特徴を有する。
【0012】
図1(a)に、本発明の光導波路の一例の概略斜視図を示す。図示する光導波路10は、層間で互いに直交する2つの方向に夫々、略平行に延びる複数本からなる二層のコア層1A、1Bを有している。また、図示する例では、クラッド層は、下部クラッド層2Aと、中間クラッド層2Bと、上部クラッド層2Cとからなる。複数層のコア層1A、1Bを設けることで、図示するように、光を伝播するコア層1の配設領域の自由度が大幅に広がるため、所望のコア層形状を形成することにより、使用目的等に応じた設計を行わなくても、コア層の存在する部位であればどこからでも、所望に応じて適宜光を取り出すことが可能となる。
【0013】
本発明においては、コア層が複数層で形成されているものであれば、その全体の導波路形状や積層形状、材質等については、特に制限されるものではない。特には、図示するように、複数層にて形成されたコア層のうちの二層1A、1Bが、少なくとも一部において、層間で互いに直交する2つの方向に夫々、略平行に延びる複数本からなるものとすることが好ましく、即ち、光導波路を上面から見た場合に、複数層のコア層が全体として格子状をなすように配設することが好ましい。
【0014】
本発明の光導波路は、配線板内で光配線として用いることができ、特には、電気・光混載配線板内に電気配線部とともに配設されて好適に用いられる。図2に、本発明の光導波路を用いた配線板の一例としての電気・光混載配線板の一構成例を示す。図示する電気・光混載配線板は、コア層1とクラッド層2とを含む本発明の光導波路10と、電気配線部(図示せず)を含む電気配線層40とが積層されてなり、光導波路10は、例えば、発光素子31と受光素子32との間で光信号を伝達する。なお、図中の光導波路10は、図1(a)に示すコア層1Bの配設方向に沿う断面にて示されている。本発明に係る配線板については、光導波路を用いた光配線が適用できるものであれば、その具体的構成については特に制限されるものではない。
【0015】
また、本発明においては、複数層のコア層の間に、中間クラッド層として、信号を送る光の波長領域において吸収損失の少ない光硬化性樹脂、具体的には、吸収損失が0.2dB/cm以下である光硬化性樹脂の層を設けることが好ましい。複数層のコア層を、かかる光硬化性樹脂の層を介して積層することで、一つのコア層内で光を伝播させる際の、他のコア層への光の漏れを防止することができる。かかる光硬化性樹脂としては、光インプリント法に使用する光硬化材料として後に挙げるものから、適宜選択して用いることができ、特に制限されるものではない。特には、クラッド層と同じ材料を介して積層することが好ましい。
【0016】
図1(b)に、(a)に示す光導波路10のコア層1A、1Bのみを取り出した概略斜視図を示す。図示するように、本発明の光導波路10においては、例えば、ミラー50またはそれに準ずるスリット構造を用いて光の進行方向を変えることができる。ミラー50は、光の進行方向に対しある程度の角度をもって、例えば、45°をなす方向に設けることができ、例えば、図示するように、光の進行方向に対し45°をなしかつコア層面に対しても45°をなす方向に設けた二個のミラー50を組み合わせることで、下層のコア層1Aから上層のコア層1Bへと光路を変更し、または、その部分から光を取り出すことが可能となる。なお、ミラー50は、ブレードによるダイシング法、光ピン法、レーザー法等による加工により作製することができ、また、金などをコーティングしてもよい。
【0017】
従って、本発明の光導波路10内における光路の設定は、光路変更や他の光導波路層との光結合の必要なコア層の適宜箇所に上記45°ミラー50等を設けることにより、容易に行うことが可能である。
【0018】
本発明の光導波路の製造方法としては、公知の手法を適宜用いることができ、特に制限されるものではないが、いわゆるインプリント法(ホットエンボス法またはナノインプリント法とも称する)を用いる方法が好適である。
【0019】
図3に、かかるインプリント法を用いた図1(a)に示す本発明の光導波路10の製造工程の一例を示す。図示する例では、(a)基板5上に下部のクラッド層2Aを塗工した後、(b)かかる下部クラッド層2Aに対し凹凸パターンが形成された第一のモールド70をプレスして、その凹凸パターンを下部クラッド層2A表面に転写することにより溝部4を形成し(インプリント工程)、その後、(c)溝部4内に第一のコア層1Aを塗工する(第一のコア層形成工程)。次いで、(d)第一のコア層1Aの形成された下部クラッド層2A上に中間のクラッド層2Bを塗工して、下部クラッド層2Aの場合と同様に、塗工された中間クラッド層2Bに対し凹凸パターンが形成された第二のモールド(図示せず)をプレスして、凹凸パターンを中間クラッド層2B表面に転写することにより溝部を形成し、溝部内に第二のコア層1Bを塗工する(第二のコア層形成工程)。(e)は、(a)〜(d)と直交する方向から見た、第二のコア層1B塗工後の側面図である。さらに、(f)第二のコア層1Bの形成された中間クラッド層2B上に上部クラッド層2Cを塗工することにより(上部クラッド層形成工程)、光導波路10を製造することができる。
【0020】
この場合、インプリントによりコア層を形成するために順次用いる上記第一のモールド70および第二のモールド(図示せず)として、少なくとも一部に、略平行に延びる複数本の直線状凹凸パターンが形成されたものを用いることで、図1(a)に示すような、層間で互いに直交する2つの方向に夫々、略平行に延びる複数本からなる第一のコア層1Aおよび第二のコア層1Bを形成することができる。また、第二のコア層を二層以上で形成する場合には、(d)、(e)に示す中間クラッド層の塗工、インプリントおよび第二のコア層の塗工(第二のコア層形成工程)を2回以上繰り返して行えばよい。
【0021】
上記のように、インプリント法を用いて溝部4の形成を行うことにより、従来のリソグラフィー法に必要な現像作業が不要となり、簡易な工程で効率良く製造を行うことが可能となる。また、ビーム系が不要であるため装置コストが抑制でき、化学増幅系などの高価なレジスト材料が不要となる点でもコストの低減に寄与することができる。さらに、インプリント法では、パターンの形状をそのまま転写することができるため、設計通りの3次元形状を容易に得ることができるとともに、従来のリソグラフィー法では対応できなかった曲面などの多様な断面形状にも、光導波路を形成することが可能となるという利点もある。なお、図示する例では、断面矩形状の凸部を有するモールド(テンプレート)70を用いているが、例えば、断面略円形状のコア層を形成する場合などには、凸部断面が半円形やU字形、V字形などであるモールドを用いてもよく、特に制限されるものではない。
【0022】
ここで、上記インプリント工程においては、下部クラッド層2Aの材料として、熱可塑性材料または熱硬化性材料を用いる熱インプリント法、または、光硬化材料を用いる光インプリント法のいずれかを、好適に採用することができる。このうち、熱可塑性材料を用いる場合には、そのガラス転移点以上の温度でモールド70のプレスを行った後、モールド70からの離型前に下部クラッド層2Aの冷却硬化を行うことにより、形状精度良く溝部4のパターンを形成した下部クラッド層2Aを形成することができる。また、熱硬化性材料を用いた場合には、プレス後、モールド70からの離型前に下部クラッド層2Aの熱硬化を行い、光硬化材料を用いた場合には、同様にプレス後、モールド70からの離型前に、下部クラッド層2の光硬化を行えばよい。いずれの場合においても、モールド70からの離型前に下部クラッド層2Aを硬化させることができるため、所望の形状の溝部4のパターン、即ちコア層1のパターンを、歪みを生ずることなく形成することができる。一方、中間クラッド層2Bについては、熱可塑性材料、熱硬化性材料および光硬化材料(光硬化性樹脂)の中でも、光硬化性樹脂を用いて形成することが好ましい。
【0023】
熱インプリント法に用いることのできるクラッド層の材料としては、透明性に優れた熱可塑性材料および熱硬化性材料であればよく、特に制限されるものではない。例えば、熱可塑性材料としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。これらの材料は、単独もしくはブレンドして用いてもよく、ブレンドの場合には、ブレンドされる各々の材料の3次元網目構造が相互貫通している構造(IPN(Inter penetrating networks)構造)をとってもよい。上記材料の成分をブロックとして、共重合体としてもよい。また、上記材料に適量の溶剤を添加して、転写性を改良することも可能である。
【0024】
また、熱硬化性材料としては、シリコン系材料、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート樹脂、フッ素系樹脂、これら樹脂の重水素化物などが挙げられる。これらの材料は、単品もしくはブレンドして用いてもよく、ブレンドの場合には、ブレンドされる各々の材料の3次元網目構造が相互貫通している構造(IPN構造)をとってもよい。上記材料の成分をブロックとして、共重合体としてもよい。
【0025】
次に、光インプリント法は、一般的に材料の硬化速度が速いので、熱インプリント法と比較して、プロセス時間を短くできる利点がある。かかる光インプリント法に用いることのできる光硬化材料は、(a)重クロム酸塩系感光性樹脂、(b)光分解型感光性樹脂、(c)光二量化型感光性樹脂、(d)光重合型感光性樹脂に分類される。
【0026】
(a)重クロム酸塩系感光性樹脂としては、ゼラチン、グルー、卵白、アラビアゴム、セラミックなどの天然高分子、あるいは、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリアクリルアミドのような合成高分子に、重クロム酸アンモニウムあるいは重クロム酸カリウムを加えたものを挙げることができる。また、(b)光分解型感光性樹脂としては、芳香族ジアゾニウム塩系樹脂、o−キノンジアジド類樹脂、アジド化合物含有樹脂があり、(c)光二量化型感光性樹脂としては、桂皮酸エステル系樹脂が挙げられる。これらはいずれも、光インプリント法における下部クラッド層材料として用いることができる。
【0027】
さらに、(d)光重合型感光性樹脂としては、不飽和二重結合のラジカル重合反応を利用した光ラジカル重合系組成物、二重結合へのチオール基の付加反応を利用した光付加反応系組成物、および、エポキシ基の開環付加反応(カチオン重合)を利用した光カチオン重合系組成物等が挙げられる。このうち光ラジカル重合系組成物としては、(メタ)アクリロイル基、マレイン酸、フマル酸基を官能基として導入した不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和エポキシ樹脂、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、二重結合へのチオール基の付加反応を利用した光付加反応系組成物としては、ポリウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基にアリルアルコールを反応結合させたポリエンにペンタエリスリトールテトラキス(β−メルカプトプロピオネート)のようなチオール基を持つ化合物が挙げられ、光カチオン重合系組成物としては、光の照射により、BF3、SnCl4、PF5などのルイス酸を放出する化合物を光カチオン重合開始剤として用いて、エポキシ基などを光開環重合させるものが挙げられる。上記の光重合型感光性樹脂は、いずれも光インプリント法に使用可能である。
【0028】
なお、インプリント法では、前述したように熱収縮や光硬化収縮により寸法変化が生ずるため、使用する材料に応じて変化量をあらかじめ予測して、光導波路を設計する必要がある。また、解像度がモールドで定まってしまう点、モールド内に樹脂の残膜が発生する場合がある点にも注意を要する。
【0029】
インプリント法を用いる場合の、図3(a)、(d)に示す各クラッド層の形成は、使用する材料に応じて慣用の塗工方法により行えばよく、特に制限されるものではない。例えば、スピンコート法、コンマ法、グラビア法等を用いることができる。また、所望に応じ別途作製したフィルム状のクラッド層を積層してもよい。また、図3(c)に示す溝部4内へのコア層の形成は、特に制限されるものではなく、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット、ディスペンサー塗布、アプリケーター塗布等の、液状かまたは少なくとも流動性を有する材料を供給することが可能な慣用の方法を用いて行うことができ、特には、インクジェットまたはディスペンサー塗布、中でも、ディスペンサー塗布の手法を用いることが好適である。図3(d)に示す上部クラッド層2Cの塗工後には、熱ないし光(紫外線(UV)、電子線(EB)等)を適宜付与して、未硬化の部分を硬化させることにより、光導波路10を得ることができる。なお、コア層の塗工後にも、コア層をある程度硬化させて形状を保持するために、熱ないし光を付与することが好ましい。
【0030】
各クラッド層およびコア層の材料としては、上記した以外にも、従来慣用の無機材料や有機材料のうちから適宜選択して用いることができるが、コア層は、各クラッド層よりも高屈折率にて形成することが必要となるので、互いの層の材料との関連で選択することを要する。具体的には例えば、光硬化材料、熱硬化性材料、熱可塑性材料等の各種モノマー(溶液も含む)、オリゴマー(溶液も含む)、ポリマー溶液のうちから、透明性や耐熱性20等のその要求特性等の観点から、適宜選択して用いることができる。
【0031】
上記のうちモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの低級アルコールエステル、下記一般式(1)、

(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数8〜20のアルキル基を表す)で表される化合物、ジ(メタ)アクリルエステル、トリ(メタ)アクリルエステル、さらには、スチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマーなどを挙げることができる。
【0032】
アクリル酸およびメタクリル酸の低級アルコールエステルの低級アルコールとしては、炭素数1〜5、好ましくは1〜3の1価アルコール、より好ましくはメタノールが挙げられる。
【0033】
また、前記一般式(1)で表される化合物において、炭素数8〜20の高級アルキル基を示すR2の好ましい炭素数は10〜16、より好ましくは12〜14である。この高級アルキル基R2は、単独アルキル基であっても混合アルキル基であってもよいが、最も好ましくは炭素数12と13との混合アルキル基である。この場合、炭素数12のアルキル基のものと炭素数13のアルキル基のものとの割合、即ち、ドデシル(メタ)アクリレートとトリデシル(メタ)アクリレートとの割合は、重量比として通常20:80〜80:20であり、特に40:60〜60:40であることが好ましい。
【0034】
ジ(メタ)アクリルエステルとしては、エチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのジエステル、ポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのジエステル、アルキル鎖の炭素数が3〜6のジオールと(メタ)アクリル酸とのジエステルが挙げられる。また、トリ(メタ)アクリルエステルとしては、アルキル鎖の炭素数が3〜6のトリオールと(メタ)アクリル酸とのトリエステルが挙げられる。なお、ポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのジエステルを構成するポリエチレングリコールとしては、下記一般式(2)、

において、nが1〜15、特に1〜10のものが好ましい。
【0035】
上記モノマーを重合あるいは共重合させて層を形成するための方法としては、熱や光による硬化方法が一般的であるが、特に制限されるものではない。一般的には、熱硬化の場合には、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジーt−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、クミルパーオキシオクトエートなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリルなどのアゾ化合物等の重合開始剤を添加し、50〜120℃で1〜20時間重合させる方法を採用することができる。また、光硬化の場合の重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタールなどのケタール系化合物、α−ヒドロキシケトン、ミヒラーズケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのケトン系化合物、ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、メタロセンなどのメタロセン系化合物、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン化合物などが好適に用いられる。
【0036】
なお、上記モノマーとともに、リン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、グリコール類及びグリコール(メタ)アクリレート類の1種または2種以上をブレンドして用いることが、高温高湿下に長期間放置した場合の白濁を防止する点から好ましい。
【0037】
また、ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸のエステル)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(結晶、非結晶)、ポリシラン、ポリエーテルスルホン、ポリノルボルネン、エポキシ系樹脂、例えば、ビスフェノールA型、ノボラック型のエポキシ樹脂とポリアミノアミド、変性ポリアミノアミド、変性芳香族ポリアミン、変性脂肪族ポリアミン、変性脂環族ポリアミン,フェノールなどの活性水素を持つ硬化剤との混合硬化物、ポリアリール、ポリイミド(PI)、ポリカルボジイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリアミド(PA)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、メチルメタクリレート−スチレン共重合体(MS、MMA−St)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のスチレン系樹脂(中でも、SBS、ABSは耐衝撃性に優れる利点を備える)、ポリフェニレンエーテル等のポリアリーレンエーテル、ポリアリレート(PAR)、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロックポリマー(SEBS)、フッ化ビニリデン系樹脂、ヘキサフルオロプロピレン系樹脂、ヘキサフルオロアセトン系樹脂等のフッ素系樹脂などを挙げることができ、中でも、(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0038】
透明樹脂としては、他に、ポリ塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンポリマー(商品名:アートン(JSR(株))、ゼオネックス(日本ゼオン(株)等)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)、フェノール樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂等が挙げられる。上記のうち、モノマーあるいは低分子材料から出発できるものとしては、スチレン系樹脂、特にはMS樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂がある。
【0039】
さらに、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの低級アルコールエステルとスチレン系モノマーとの共重合体の他、前述したモノマー類の一部または全ての水素原子をフッ素原子に置き換えたモノマーを用いた透明樹脂などを用いることもできる。かかるコア層および上下クラッド層の材料は、単独または2種以上を適宜混合して使用することが可能である。なお、各クラッド層は、伝送損失の低減の観点からは、同一の材料を用いて形成することが好ましい。
【0040】
なお、製造工程において使用する基板5としては、従来より知られているものから適宜選択して用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、シリコン基板や石英基板、金属箔、ガラス板などの他、ポリエチレンテレフタレート(PET)やアクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリイミド(PI)フィルムなどの高分子フィルム等を用いることができる。但し、前述のインプリント工程において光インプリント法を用いる場合には、基板5側から、または、モールド側から光を照射して硬化を行う必要があるため、基板5またはモールドとして透明なものを用いることが必要となる。さらに、上記各層の塗工溶液の調製に用いる溶剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、酢酸セロソルブ、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、シクロヘキサノン等の慣用の有機溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0041】
さらに、本発明においては、上記のようにして作製した光導波路10の表面に、ハードコートや吸湿防止層などを積層して用いてもよい。光導波路10において光の経路となって情報を伝達する部位はコア層であるので、コア層が傷つかなければ光導波路としての性能に問題は生じないが、そのような大きな損傷を防止するために、表面にハードコートを設けることが必要となる場合もある。かかるハードコートの材料としては、(メタ)アクリレートモノマー、例えば、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、3官能以上の(メタ)アクリレートや、多官能のエポキシ、(メタ)アクリルオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、共重合系(メタ)アクリレート、エポキシオリゴマーに、光開始剤を加えて重合させる(メタ)アクリレート系またはエポキシ系ハードコート材料や、シラン化合物、有機金属化合物、無機酸化物微粒子、硬化用触媒、および、所望に応じその他の材料を含むシリコーン系ハードコート材料(プライマー処理を用いてもよい)、オルガノアルコキシシラン系、アルコキシシラン・ジルコネート系、水系シリケート系、水性アルミナ系、オルガノアルコキシシラン・樹脂ハイブリッド系、アルコキシシラン・ジルコネート・樹脂ハイブリッド系、水系シリケート・樹脂ハイブリッド系などの無機系ハードコート材料、光カチオン硬化型有機・無機ハイブリッド材料などの有機・無機ハイブリッド型ハードコート材料等が挙げられる。
【0042】
また、吸湿防止剤は、使用する光導波路材料によっては吸湿により屈折率が変化して、所期の設計値から大きく外れてしまうことがあるため、これを防ぐ目的で設けられる。吸湿防止層には、一般に疎水性が高い材料が用いられ、例えば、撥水性の塗料や、フッ素を含む化合物等が挙げられる。また、SiO2やSiN4等を用いることもでき、これらを光導波路(フィルム)の上下面に塗布することで、光導波路材料自体の吸湿を防ぐものである。なお、片面のみに塗布した場合、異方性が生じて反りの発生につながる場合がある。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
6インチ径の石英ガラス基板5上に、スピンコーターを用いて、アクリル系樹脂(JSR社製)を100μm厚さに塗布し、引き続き、100℃で3分間加熱して、下部クラッド層2A(屈折率1.51)を形成した。次に、凹凸パターンの凸側が図3に示すコア層1Aの直線状のコア形状に倣った形状を有する石英製モールド70を準備し、180℃のプレス温度にて熱インプリントを行い、下部クラッド層2Aにコア層形成用の凹溝を形成した後、光源として高圧水銀灯(365nm)を用いて、照度20mW/cm2、光量1.0J/cm2にて露光した。溝は断面寸法が幅50μm、高さ50μmで、図1に示す直線状の平面形状を有していた。
【0044】
次に、上記下部クラッド層2Aに用いたアクリル系樹脂に対し高屈折率モノマーとしてのエポキシアクリレートを添加することで、下部クラッド層2Aのアクリル系樹脂よりも屈折率を3%高くしたアクリル系樹脂組成物を、スクリーン印刷法にて下部クラッド層2Aの直線状溝部に印刷して、温度100℃にて3分間加熱後、高圧水銀灯(365nm)の光源を用いて、照度20mW/cm2、光量1.0J/cm2にて露光することにより、屈折率1.57、幅50μm、高さ50μmのコア層1Aを形成した。
【0045】
次に、中間クラッド層2Bとして、上記下部クラッド層2Aと同じアクリル系樹脂を用いて、スピンコート法にて厚さ100μmの膜を積層し、温度100℃にて3分間加熱した。その後、凹凸パターンの凸側が図3に示すコア層1Bの直線状のコア形状(コア層1Aと直交する方向)に倣った形状を有する石英製モールドを準備し、180℃のプレス温度にて熱インプリントを行い、中間クラッド層2Bにコア層形成用の凹溝を形成した後、高圧水銀灯(365nm)の光源を用いて、照度20mW/cm2、光量1.0J/cm2にて露光し、幅50μm、高さ50μmで直線状の凹溝を形成した。さらに、再び上記の手順を繰り返して、屈折率1.57、幅50μm、高さ50μmのコア層1Bを形成した。
【0046】
次に、上部クラッド層2Cとして、上記下部クラッド層2Aと同じアクリル系樹脂を用いて、スピンコート法にて50μmの膜を積層し、温度100℃にて3分間加熱後、高圧水銀灯(365nm)の光源を用いて、照度20mW/cm2、光量1.0J/cm2にて露光した。さらに、150℃で60分間加熱を行い、基板と一体の格子状光導波路を作製した。
【0047】
次に、得られた光導波路を塩酸中に浸漬することにより、基板と導波路部とを剥離した。これにより、図1に示す、2層のコア形状の積層による格子状のコア層を有するフィルム光導波路10を得た。なお、この光導波路10に光を入射し再び出射する間に、光を垂直方向に90°光路変換する箇所、即ち、下のコア層1Aから上のコア層1Bへ、あるいはこの逆の光路変換をするか、または、上下側のいずれかに存在する光素子や新たな光導波路に対し光を出射する箇所には、45°ミラーを作製した。加工には、刃先の形状が90°V次形ダイヤモンドブレードを用い、光導波路のコア層に垂直にブレードを当てながら切削を行った。 上記一連の工程により、コア層が少なくとも一部において複数層にて形成されている本発明の光導波路が製造できた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)は本発明の光導波路の概略斜視図であり、(b)はそのコア層のみを取り出して示す概略斜視図である。
【図2】本発明の光導波路を用いた配線板の一例としての電気・光混載配線板の一構成例である。
【図3】インプリント法を用いた光導波路の製造工程の一例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1A、1B コア層
2A 下部クラッド層
2B 中間クラッド層
2C 上部クラッド層
4 溝部
5 基板
10 光導波路
31 発光素子
32 受光素子
40 電気配線層
50 ミラー
70 モールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッド層とコア層とを含み、該コア層を介して信号光を入射−伝播−出射する光導波路において、前記コア層が、少なくとも一部において複数層にて形成されていることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
電気配線部とともに電気・光混載配線板内に配設される請求項1記載の光導波路。
【請求項3】
前記電気配線部を含む電気配線層と積層されて前記電気・光混載配線板内に配設される請求項2記載の光導波路。
【請求項4】
前記複数層にて形成されたコア層のうちの二層が、少なくとも一部において、層間で互いに直交する2つの方向に夫々、略平行に延びる複数本からなる請求項1〜3のうちいずれか一項記載の光導波路。
【請求項5】
前記複数にて形成されたコア層が、光硬化性樹脂を介して積層されている請求項1〜4のうちいずれか一項記載の光導波路。
【請求項6】
有機化合物からなる請求項1〜5のうちいずれか一項記載の光導波路。
【請求項7】
光の進行方向に対し45°をなす方向に、ミラーが少なくとも一個設けられている請求項1〜6のうちいずれか一項記載の光導波路。
【請求項8】
前記クラッド層が下部クラッド層と、一層以上の中間クラッド層と、上部クラッド層とからなる請求項1〜7のうちいずれか一項記載の光導波路の製造方法において、
前記下部クラッド層の塗工後に、塗工された該下部クラッド層に対し凹凸パターンが形成された第一のモールドをプレスして、該凹凸パターンを該下部クラッド層表面に転写することにより該下部クラッド層に溝部を形成し、該溝部内に第一のコア層を塗工する第一のコア層形成工程と、
前記第一のコア層の形成された下部クラッド層上に中間クラッド層を塗工して、塗工された該中間クラッド層に対し凹凸パターンが形成された第二のモールドをプレスして、該凹凸パターンを該中間クラッド層表面に転写することにより該中間クラッド層に溝部を形成し、該溝部内に第二のコア層を塗工することを1回以上繰り返して、少なくとも一層の第二のコア層を形成する第二のコア層形成工程と、
前記第二のコア層の形成された中間クラッド層上に上部クラッド層を塗工する上部クラッド層形成工程と、を含むことを特徴とするものである。
【請求項9】
前記コア層を形成するために順次用いる第一のモールドおよび第二のモールドとして、少なくとも一部に、略平行に延びる複数本の直線状凹凸パターンが形成されたものを用いて、前記第一のコア層および第二のコア層を、少なくとも一部において、層間で互いに直交する2つの方向に夫々、略平行に延びる複数本からなるよう順次形成する請求項8記載の光導波路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−184801(P2006−184801A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381054(P2004−381054)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】