説明

光導波路素子

【課題】マイクロディスペンサ法を用いて微小領域に滴下する際に、光導波路の上面や側面に滴下し易くかつ安全に液状の充填材料を滴下する構造を備えた光導波路素子を提供すること。
【解決手段】伝搬する光のフィールドが光導波路5の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているメサ型1またはリッジ型6の光導波路を備えた光導波路素子において、前記光導波路の近傍に、光導波路の高さよりも高い突起構造3a、3b、3cを設けた光導波路素子。または、前記突起構造の代わりに、前記光導波路の近傍から当該光導波路の上方に突出して形成した梁状の構造を設けてもよい。さらに、前記突起構造の代わりに、前記光導波路の片側に、当該光導波路の長手方向に沿って、該光導波路の高さよりも高い壁構造を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信あるいは光情報処理分野で用いられる光導波回路の干渉計を構成する光導波路に関し、特に、高精度かつ恒久的に位相差を調整でき、位相調整用の樹脂充填を行うために必要となる、充填用溝構造を備えた光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
光導波路からなる干渉計回路は、現在の光通信網の中で使用されている。例えば、AWG(アレイ導波路回折格子:Arrayed Waveguide Grating)などは多光束干渉を利用した代表的なデバイスであり、WDM(波長分割多重:Wavelength Division Multiplexing)伝送を支える重要なデバイスである。
【0003】
光導波路からなる光導波路回路としては、AWGの他にも、半導体基板上に光変調器、位相シフタ、偏波分離器(PBS:Polarization beam splitter)、偏波合波器(PBC:Polarization beam combiner)などをモノリシック集積した光集積回路や、マッハツェンダー干渉計、などがある。これらの干渉計回路を製造する上で最も難しい点は、波長グリットに合わせてそれらの透過ピークなどの光学特性が一致するように製造しなければならない点である。例えば、ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)などの規格により定められた波長(周波数)に透過スペクトルピークを合わせて製造をしなくてはならない。
【0004】
多くの場合、ウエハープロセスによりこれらの光導波路干渉計回路は製造されるが、製造上の誤差などにより、特性が必ずしも、所望の特性にならないことが起こる。光導波路干渉計回路の光路長は、光導波路の長さと光導波路の屈折率との積で求めることができ、この光路長は、特に干渉計などの複数の光導波路からなる回路では厳密に設定する必要がある。しかしながら、実装時のプロセス誤差によりズレが生じるのは避けられないのが現実である。
【0005】
そこで、製造後の検査を実施するとともに、なんらかの手法で、特性を非可逆的に変更してしまうトリミング技術(特性修正技術)、即ち、光導波路の位相(光路長)調整をする技術がある。その従来例を以下に説明する。
【0006】
石英系材料からなる干渉計回路の場合、よく用いられる一般的な方法として、レーザ照射による調整が挙げられる(特許文献1参照)。この技術は、光導波路を作成した後、光導波路の一部にレーザ光を照射して屈折率を変える手法である。
【0007】
特許文献1に示す、レーザ照射によるトリミング技術は、ガラスからなる光導波路に対しては非常に有効な手段ではある。しかしながら他の半導体などからなる光導波路により構成された回路の場合は、レーザ照射により起こり得る物理現象が異なり、トリミングができない場合がある。例えば、半導体の場合多くは光を吸収してしまい、半導体光導波路の位相(屈折率)調整に適用するには適当ではなかった。
【0008】
また屈折率が低い光導波路の場合、光導波路の一部を切断して溝を形成し、この溝に光導波路とは屈折率の異なる樹脂などを充填することで屈折率を調整することが知られている(特許文献2参照)。
【0009】
特許文献2に示す技術は、石英系導波路のようにコアを形成する比屈折率差(クラッドとコアの屈折率差)が比較的小さい場合については有効である。しかし、屈折率差が大きくなる半導体光導波路回路などでは、光路の一部を切断した部分を横切る際の放射損失が無視できなくなるため、半導体光導波路の位相(屈折率)調整に適用するには適当ではなかった。
【0010】
半導体光導波路の場合は、比屈折率差が一般的に大きく、光路の切断は非常に大きな損失となる。これらを防ぐために、半導体光回路の場合、光導波路の一部を調整領域として異なる材料で置き換えることが提案されている(特許文献3参照)。
【0011】
しかし特許文献3に示す方法はそもそも、違う材料の光導波路を同一基板上に作製しなくてはならず、調整のためにかける負荷が大きく、半導体光導波路の位相(屈折率)調整に適用するには適当ではなかった。
【0012】
その他、光導波路からなる干渉計回路の屈折率調整方法としては、基板上に形成されたリッジ型またはメサ型の光導波路であり、伝搬する光のフィールドが光導波路外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されている光導波路において、光導波路の近傍の光のフィールが存在する領域である光導波路の上面や側面に樹脂などを滴下、硬化させることで、屈折率を変化させて位相調整を実施する試みも提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−243011号公報
【特許文献2】特開2009−163013号公報
【特許文献3】特開2006−222305号公報
【特許文献4】特開2006−215159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これらは光路の切断なく、屈折率変化を起こし、位相調整を実施できる点で優れているが課題も多い。この方法で問題となるのが、所定長さに制限して滴下する樹脂の充填方法である。滴下長(光導波路の長手方向に沿って樹脂により覆われる部分の長さ)が制御されていない状態で、滴下、硬化を実施後、何らかの方法(レーザアブレーションなど)で長さを調整して除去するなどが考えられるが、工程自体の増加が著しい。
【0015】
直接、樹脂の充填長を制御しながら樹脂充填する方法としては、主に微小液滴を飛来させるインクジェット法と微細ノズルから吐出するマイクロディスペンサ法により高精度の滴下量制御する方法などが考えられる。
【0016】
まずインクジェット法は、原理的に微小液滴の吐出が可能でピコリットルオーダーの高精度の滴下量制御法として実績があり、吐出用ヘッドが滴下領域と非接触で微小液滴吐出が可能となるメリットを有するが、原理的に微小液滴を空中に飛来させる手法であるため、環境からの外乱の影響を受けやすく、滴下位置がばらつき、数10ミクロンオーダーの滴下領域を確保しておかなければならない。また、インクジェット法の場合、吐出用ヘッドの微細化が難しく、かつ充填する領域の真上に位置しておかなければならないため、顕微鏡等の光学機器により確認しながら充填し難いデメリットも有している。
【0017】
そのため、実際に樹脂の充填方法としては、微動ステージで駆動制御されたマイクロディスペンサ法が所定の場所にミクロンオーダーで位置制御して滴下する方法として有望である。前記マイクロディスペンサ法は、ガラス管などを延伸させたミクロンオーダー径の微細管を用いて滴下する手法である。そのため、透明な素材の管を利用することにより、顕微鏡等の光学機器で真上から観察しながら充填作業が行えるので、充填作業が行い易く作業効率が良いというメリットを有する。
【0018】
しかし、マイクロディスペンサ法は、液状樹脂が細管内を連続して流れる構造のため、ピコリットルオーダー以下では微小滴下量の制御が難しく、加えて光回路の表面状態の濡れ性の違いにより、滴下量を制御しても樹脂の広がりにバラツキが出るといった問題があった。
【0019】
加えて滴下後の液滴の取扱いの難しさが問題となる。図1に微小凹凸表面の一部に微小液滴を滴下した場合の模式図を示す。図1に示すように凹状の部分に樹脂を充填した場合、液滴Lの液量を大量に増やして溢れさせない限り、凹状の内部以外の部分に液滴を移動させることは困難である(A)。また他方、図1に示すように凸状の部分に液滴Lを滴下した場合、凸状の端部で液滴Lが表面張力により広がらずメサ構造の溝部分に流れ込まない現象が起こり、凸状の部分の表面形状によっては、滴下後の液滴をそのまま移動させることは困難であるため、液滴を滴下する安定的手法が求められる(B)。
【0020】
さらに超高精度マイクロピペットなどを用いて、コア表面に樹脂を直接滴下する場合、
外径数十ミクロン以下の細径ノズル等を使用することになるが、その場合、液状の充填材料の液滴サイズも数十ミクロン以下の大きさとなり、僅かな振動や誤動作でマイクロピペットのノズル先端がコア表面に接触し、前記細径ノズルや光導波路を破損させるという問題があった。
【0021】
このように、伝搬する光がコアから染み出しているコア表面に樹脂などを滴下、硬化させることで、光導波路の屈折率を変化させて位相調整する場合、その樹脂の滴下領域・滴下液量を高精度に制御するとともに、光導波路を破損させず、特定領域に液状の充填材料を滴下することは非常に困難であった。
【0022】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、基板上に形成されたリッジ型もしくはメサ型の光導波路であり、伝搬する光のフィールドが光導波路外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されている光導波路を備えた光導波路素子において、マイクロディスペンサ法を用いて充填材料を微小領域に滴下する際に、光導波路の周囲に本発明の改良を施すことにより、充填材料を塗布し易くするとともに、作製プロセス中の破損を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
本発明は、上記従来技術に鑑み、マイクロディスペンサ法を用いて微小領域に滴下する際に、光導波路の上面や側面に滴下し易くかつ安全に液状の充填材料を滴下する構造を備えた光導波路素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、伝搬する光のフィールドが光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているメサ型またはリッジ型の光導波路を備えた光導波路素子において、前記光導波路の近傍に、光導波路の高さよりも高い突起構造を設けたことを特徴とする光導波路素子である。
【0025】
請求項2に記載の発明は、伝搬する光のフィールドが光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているメサ型またはリッジ型の光導波路において、前記光導波路の近傍から光導波路の上方に突出した突起構造を設けたことを特徴とする光導波路である。
【0026】
請求項3に記載の発明は、伝搬する光のフィールドが光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているメサ型またはリッジ型の光導波路において、前記光導波路の片側において、当該光導波路の長手方向に沿って、該光導波路の高さよりも高い壁構造を設けたことを特徴とする光導波路である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、光導波路のコア近傍に形成された位相調整用溝構造に滴下を補助する滴下用突起構造を設けることにより、充填プロセス中の光導波路破損を防止し、充填材料の滴下時の作業性向上と作業の簡素化が可能となる。これにより簡便に光導波路の近傍の光のフィールが存在する領域である光導波路の上面や側面に屈折率の異なる材料を充填し光位相距離を変化させることが可能となり、その産業上の利用価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】微小凹凸表面の一部に微小液滴を滴下した場合の模式図である。
【図2】メサ型とリッジ型の光導波路の構成を示す図である。
【図3】液状の充填材料を滴下するプロセスの原理図である。
【図4】第1の実施形態の光導波路素子の断面構造の模式図である。
【図5】第1の実施形態の製造工程断面図である。
【図6】第2の実施形態の光導波路素子の断面構造の模式図である。
【図7】第2の実施形態の製造工程を示す図である。
【図8】第2の実施形態の他の製造工程を示す図である。
【図9】第3の実施形態の光導波路素子の断面構造の模式図である。
【図10】第3の実施形態の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、図2を用いてメサ型または、リッジ型の光導波路について説明する。図2(a)にメサ型の断面の構成を示し、図2(b)にリッジ型の断面の構成を示す。本発明の光導波路素子は、図2(a)、(b)に示すように、光導波路100の長手方向に沿ってその両脇に光導波路100よりも高さが低い窪み200が形成されている、いわゆるメサ型(a)またはリッジ型(b)の光導波路100が基板上に形成された構成を有している(本明細書中の説明においては、光導波路100を設ける基板を含めた構成を光導波路ともいう)。また、図2(a)、(b)の光導波路は、コア300の図示上下方向にはクラッドを設けているが図示左右方向には、クラッドを設けられていない光導波路が示されている。
【0030】
また本発明の光導波路素子は、伝搬する光のフィールドがこの光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されている。伝搬する光のフィールドが光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているので、光のフィールドが染み出した領域(光導波路の上面や側面)に充填材料である樹脂を充填させることにより光導波路の屈折率を変化させて位相調整をしている。
【0031】
図3に、マイクロディスペンサ用細管ノズルなどで、液状の充填材料を滴下するプロセスの原理図を示す。マイクロディスペンサ法を用いて、平面基板1上に十分な塗布領域を有する場合には図3のaに示すように、直接、基板表面に微細ノズル2を接近させて液滴を塗布することが可能である。しかし、この場合は、マイクロディスペンサ用細管ノズルが移動可能な十分な塗布領域が必要となる。
【0032】
本発明では、メサ構造またはリッジ構造の光導波路において、光導波路の上面や側面ではなく、光導波路の近傍に図3のbに示すような光導波路よりも高い滴下用突起構造3を設けている。この滴下用突起構造3は、その先端に、充填する液状樹脂を接触させ、その表面に沿って液状樹脂を流動させるものであり、樹脂充填を容易に滴下することを可能とする。さらに、この光導波路よりも高い滴下用突起構造3を光導波路の近傍に作製することにより光導波路に滴下用マイクロインジェクタの細管ノズルが接触しにくい構造となっている。そのため、この構成により、表面にメサ構造やリッジ構造の光導波路において光導波路表面に樹脂充填する場合に、十分な塗布の平坦面を有していなくても、誤動作などによる光導波路やマイクロディスペンサのノズルを破損させる危険性を回避することができる。
【0033】
また、他の構成として、図3のcに示すように、メサ構造またはリッジ構造の光導波路1において、光導波路の上面や側面ではなく、光導波路コアCの近傍に、光導波路Dよりも高い壁面構造4を設けている。この構造により、光導波路Dよりも高い位置で側面からマイクロインジェクタ用ノズル2を挿入して、壁面構造4の側壁面に沿って充填材料を滴下することにより、液状の充填材料はメサ構造またはリッジ構造の光導波路周辺に流れるので、樹脂充填を容易行うことができる。さらに、図3のcの場合も光導波路の部分に滴下用マイクロインジェクタの細管ノズルが接触しにくい利点もある。
【0034】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の光導波路素子は、光導波路の近傍に、光導波路の高さよりも高い構造体を形成することを特徴としている。図4に第1の実施形態の光導波路の断面構造の模式図を示す。図4(a)はメサ型の断面の構成を示し、図4(b)はリッジ型の断面の構成を示している。第1の実施形態では、メサ型またはリッジ型の光導波路1、6において、光導波路コア5の両側の窪み1a、6aまたはメサ構造における光導波路以外の凸部1cのいずれかにそれぞれ滴下用突起構造3a、3b、3cを作製する。この滴下用突起構造3a、3b、3cは、光導波路1b、6bの高さよりも高く作製することにより、滴下用突起構造3a、3b、3cの先端の高さでマイクロインジェクタ用ノズル先端を平行移動させても、光導波路1b、6bに接触することはなく、光導波路とマイクロインジェクタ用ノズル先端の接触は避けられ、接触による機械的破損を防止できる。すなわち、滴下用突起構造3a、3b、3c自体がマイクロインジェクタ用ノズル先端に対して光導波路をカバーする障壁となっている。
【0035】
滴下用突起構造3a、3b、3cは、光導波路1b、6bの高さより高く、図3のbに示すように、液状の充填材料の流れる空間が確保されていれば、形状は任意でよく、例えば、自立壁のような構造であっても構わない。また滴下用突起構造3a、3b、3cの作製位置は、リッジ構造の光導波路の場合は、液状の充填材料が光導波路6bの表面(または側面)に流れる程度の近傍であればよい。メサ構造の光導波路における滴下用突起構造3a、3bの作製位置は、光導波路1bの上面(または側面)が充填材料に覆われれば良いので、光導波路コア5の両側の溝構造1aの内側(3a)もしくは、溝構造1aに液状の充填材料が流れ込む程度の近傍(3b)であればよい。実用的には、光導波路と滴下用突起構造との距離は、数ミクロン〜数十ミクロン程度であることが望ましい。
【0036】
充填材料としては、数十ミクロン以下の微細なメサ構造もしくはリッジ構造の光導波路であるため、滴下する際は粘度が低く、あるいは流動性が高く、光導波路表面に隙間なく充填できる材料であるとともに、充填後に空微細なメサ構造もしくはリッジ構造から充填物が流失しないように充填前後で粘度を増加させることが可能な材料であることが望ましい。
【0037】
充填材料の流動性を変化させる1つ目の方法としては、高温加熱により粘度低下、もしくは軟化させ流動状態となり、再び温度を下げることにより粘度上昇もしくは固体化する熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリブタジエン、天然ゴム等のポリジエン、ポリイソブレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸ドデシル、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のビニル重合体、直鎖オレフィン系のポリエーテルや、ポリフェニレンオキシド(PPO)、およびその共重合体やブレンド体、エーテル基とスルホン基を混在させたポリエーテルスルホン(PES)、エーテル基とカルボニル基を混在させたポリエーテルケトン(PEK)、チオエーテル基を持つポリフェニレンスルフィド(PPS)やポリスルホン(PSO)等のポリエーテル、およびその共重合体やブレンド体、またポリオレフィンの末端にOH基、チオール基、カルボニル基、ハロゲン基などの置換基を少なくとも一つ有するもの、例えば、HO−(C−C−C−C−)n−(C−C(C−C−)m)−OHなど、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等のポリオキシドやポリイソシアネート誘導体、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂や、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン68、ナイロン610などの脂肪族ポリアミドや、芳香族ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、熱可塑性ゴムなどが挙げられる。
【0039】
また充填材料の流動性を変化させる2つ目の方法としては、硬化反応前は流動性の液体状態であって、熱反応開始剤による熱反応や紫外線反応開始剤による紫外線硬化反応、また反応性物質混合による硬化化学反応によって固体状態に硬化する硬化性樹脂を用いることができる。
【0040】
硬化樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミドや感光性ポリイミドなどのレジスト材料が挙げられる。
【0041】
さらに充填材料の流動性を変化させる3つ目の方法としては、溶媒や可塑剤などに希釈可能な固体状態の高分子材料や無機塩などの材料を、溶媒希釈や可塑剤混合により粘度を低下させ、溶媒や可塑剤の揮発によって粘度上昇もしくは固化させる方法が挙げられる。具体的には、有機溶媒に溶解する熱可塑性樹脂や、可塑剤と相溶性を有する熱可塑性樹脂や水や極性溶媒に溶解するイオン結晶、無機塩や有機塩、錯体を用いる方法である。
【0042】
水に溶解できる有機材料としては、例えばフェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、デキストリン、グルー、カゼインなどがある。また有機溶媒に溶解できる有機材料としては、例えば、ゴム、アクリル、ウレタン、アミド、フェノール、酢酸ビニル系のポリマーなどが挙げられる。
【0043】
また可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ビス(2−エチルへキシル)(DOP)、フタル酸ジノルマルオクチル、(DnOP)、フタル酸ジノニル(DNP)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸エステル、フタル酸ブチルベンジル(BBP)などのフタル酸エステルや、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジノルマルアルキル、アジピン酸アルキル、アゼライン酸ジオクチル(DOZ)、セバシン酸ジオクチル(DBS)、リン酸トリクレシル(TCP)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、エポキシ化大豆油(ESBO)、トリメリット酸トリオクチル(TOTM)、ポリエステル、塩素化パラフィンなどが挙げられる。
【0044】
滴下用突起構造の材質としては、光導波路材料と同じ材料でもよい。好ましくは、変形があまり起こらずマイクロインジェクタ法の細管ノズルとの接触によって破損しにくい柔軟な有機材料が用いられる。より具体的には、充填材料として列記している樹脂材料が利用できるが、充填材料として熱可塑性樹脂を用いる場合には、その液状化するための加熱温度において滴下用突起構造の形状が安定している材料を選択する必要がある。
【0045】
次に、図5を用いて第1の実施形態の滴下用突起構造を光導波路に形成する際の製造工程を説明する。図5は第1の実施形態の工程図を示すものである。ここではメサ構造の光導波路を例に挙げて説明するが、リッジ構造の光導波路もこれと同様に作製できる。
【0046】
図5の(a)に示すように、メサ構造の光導波路1の表面に滴下用突起構造の材料9を液状材料であればスピンコート法で、無機や金属膜の場合には蒸着法、スパッタ法、無電解メッキ法などにより光導波路1bより高くなるように積層させる。
【0047】
積層させた滴下用突起構造の材料9の上部に、フォトリソグラフィ法によりレジスト材料などを用いて加工パターン10をパターニングする(b)。パターニング後、プラズマエッチング法、レーザー加工法、ウエットエッチング法により、図5の(c)に示すように、滴下用突起構造3以外の部分を取り除くことにより本実施形態の光導波路が作成できる。
【0048】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の光導波路素子は、第1の実施形態における滴下用突起構造の代わりに、光導波路の近傍から当該光導波路の上方に突出した滴下用梁構造を設けたことを特徴とする。
【0049】
図6に第2の実施形態の光導波路の断面構造の模式図を示す。図6(a)、(c)はメサ型の断面の構成を示し、図6(b)、(d)はリッジ型の断面の構成を示している。第2の実施形態の光導波路は、コア上面ではなく、光導波路の近傍に固定された支持部7bと、光導波路の上方に突起した先端部7aとを有する滴下用梁構造7を設けた構成とされている。この先端部7aにマイクロインジェクタ用ノズルの液滴を接触させて充填すると、液滴の流下によって、滴下用梁構造7の支持部7bである光導波路周辺にも樹脂充填させることができる。滴下用梁構造7の大きさとしては、メサ構造において溝構造1aに均等に液状の充填材料が流入するために、光導波路幅wの範囲内に滴下用梁構造7の先端部7aがあることが望ましい。滴下用梁構造7の支持部7bを固定する位置は、リッジ構造の光導波路の場合は、液状の充填材料が光導波路1bの上面(または側面)に流れる程度の近傍であればよい。メサ構造の光導波路における滴下用梁構造7の支持部7bを固定する位置は、光導波路1bの上面(または側面)が充填材料に覆われれば良いので、光導波路1の両側の凸部1eに設ければよい。
【0050】
また、図6(a)、(b)は、片持ち梁の滴下用梁構造7を示しているが、液状の充填材料が流れ込める流路が確保されていれば、図6(c)、(d)のように両持ち梁の滴下用梁構造8であってもよい。この片持ち梁(両持ち梁)の滴下用梁構造7、8は、光導波路1b、6bを覆う構造となっているため、外部からの機械的な破損を防護する構造でもある。
【0051】
次に第2の実施形態の片持ち梁(両持ち梁)の滴下用梁構造を光導波路に形成する際の製造工程について説明する。図7は第2の実施形態の製造工程を示すものである。ここではメサ構造の光導波路を用いて説明するが、リッジ構造の光導波路においてもこれと同様に作製できる。まず、図7(a)に示すように、メサ構造の光導波路1表面に、液状材料であればスピンコート法で、無機や金属膜の場合には蒸着法、スパッタ法、無電解メッキ法などにより、滴下用梁構造の材料9を厚膜に積層させる。
【0052】
その表面に、フォトリソグラフィ法を用いて、エッチング用マスクパターン10を形成する(b)。その後、ECRやイオンビームによる斜めエッチングにより、マスクパターン10の下部の滴下用梁構造の材料9を斜めに切削加工を行い作製する(c)。
【0053】
またもっと簡便には、感光性レジスト9を厚膜にスピンコート法などを用いて、プレキュアして膜状にする(a)。その表面にフォトマスク10を当て、斜め露光を行うことにより(b)、光導波路1b上方にオーバーハング形状のレジストパターンを作製することによっても(c)、第2の実施形態の片持ち梁(両持ち梁)の滴下用突起構造を備えた光導波路が作製可能となる。
【0054】
また、第2の実施形態の光導波路の他の製造工程が図8に示されている。図8に示すように、メサ構造の光導波路基板1表面に、リフトオフ用の材料11を積層し(a)、フォトリソグラフィ法によりレジスト膜12をパターニングし(b)、プラズマエッチングにより、リフトオフするパターン11をメサ構造の光導波路基板表面に作製する(c)、(h)。リフトオフ材料としては、酸、弗酸などにより溶解する金属、ガラスやアセトン等有機溶媒に可溶のアクリル樹脂やポリスチレン等樹脂材料が利用できる。
【0055】
その後、(d)、(i)に示すように、滴下用突起構造の材料13を表面に積層し、再び、フォトリソグラフィ法によりレジスト膜12をパターニングし(e)、(j)、プラズマエッチングなどにより、滴下用突起構造部分13を作製する(f)、(k)。その後、リフトオフ用のパターン11を溶解させることにより、片持ち梁もしくは両持ち梁の滴下用突起構造を作製することが出来る(g)、(l)。
【0056】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の光導波路素子は、第1の実施形態における滴下用突起構造の代わりに、光導波路の片側に、光導波路の長手方向に沿って、この光導波路の高さよりも高い滴下用壁構造を設けたことを特徴とする。
【0057】
図9に第3の実施形態の光導波路の断面構造の模式図を示す。図9(a)はメサ型の断面の構成を示し、図9(b)はリッジ型の断面の構成を示している。第3の実施形態の光導波路では、メサ構造及びリッジ構造の光導波路コア5の近傍に、光導波路1b、6bよりも高い滴下用壁構造4を設けている。この滴下用壁構造4の側壁面にマイクロインジェクタ法の細管ノズルの液滴を接触させ、液状の充填材料を光導波路コアの周囲に充填することができる構造となっている。
【0058】
本実施形態の光導波路では、ノズルからの吐出液滴を滴下用壁構造4の壁面に沿って流れさせることができるため、ノズル位置を変えなくても、最初は片側(滴下用壁構造4が設けられた側)の窪み1a、6aに液状の充填材料は蓄えられるが、流し続けることにより、反対側の光導波路コア周囲の窪み1d、6dにも液状の充填材料は溢れるため、吐出時間と流量により、光導波路コアの周囲全体に充填することも可能である。
【0059】
ここで光導波路部分の片側に滴下用壁構造を設けることは、光導波路の左右両脇のうち、左側にのみに設けること(図9に示す例)、または右側のみに設けること態様だけでなく、右側のみに設ける区間と左側にのみ設ける区間が光導波路の長手方向(図9の紙面手前から奥方向)に沿って混在する態様も含む。
【0060】
図10は本発明の第3の実施形態の滴下用壁構造を光導波路に形成する際の製造工程図を示すものである。ここではメサ構造の光導波路を用いて説明するが、リッジ構造の光導波路においても同様に作製できる。まず(a)に示すように、光導波路1上に、壁面構造を形成する材料9を、液状材料であればスピンコート法で、無機や金属膜の場合には蒸着法、スパッタ法、無電解メッキ法などにより厚膜に積層させる。
【0061】
積層した表面に、フォトリソグラフィ法によりレジスト材料10などを用いて加工パターンをパターニングする(b)。パターニング後、プラズマエッチング法、レーザー加工法、ウエットエッチング法により、(c)に示すように滴下用突起構造4以外の部分をエッチングして作製する。
【符号の説明】
【0062】
1、6 光導波路
1a、6a 窪み
1b 光導波路
1c 凸部
1d、6d 窪み
2 ノズル
3a、3b、3c 滴下用突起構造
4 壁面構造
5 光導波路コア
7、8 滴下用突起構造
9 滴下用突起構造の材料
10 加工パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝搬する光のフィールドが光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているメサ型またはリッジ型の光導波路を備えた光導波路素子において、
前記光導波路の近傍に、光導波路の高さよりも高い突起構造を設けたことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
伝搬する光のフィールドが光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているメサ型またはリッジ型の光導波路を備えた光導波路素子において、
前記光導波路の近傍から光導波路の上方に突出して形成した梁状の構造を設けたことを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
伝搬する光のフィールドが光導波路の外に染み出すように光導波路コア及びクラッドの幅が設定されているメサ型またはリッジ型の光導波路を備えた光導波路素子において、
前記光導波路の片側に、当該光導波路コアの長手方向に沿って、該光導波路の高さよりも高い壁構造を設けたことを特徴とする光導波路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−54239(P2013−54239A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193041(P2011−193041)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】