説明

光散乱ディスク、その使用及び波面測定装置

1.光散乱ディスク、その使用及び波面測定装置。2.1.本発明は、透明基板(1)及び透明基板の表面に隣接し光散乱活性粒子(3)を有する光散乱層(2)を備える光散乱ディスク、そのような光散乱ディスクの使用及びそのような光散乱ディスクを備えた波面測定装置に関する。2.2.本発明によれば、光散乱層は包埋剤を有し、包埋剤は空気より光学的に密でかつ透明基板の対向面に面的に隣接し、光散乱活性粒子は包埋剤によって囲まれている。2.3.例えば、横シアリング干渉による高開口数のマイクロリソグラフィ投影対物レンズの波面測定装置において使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板及び透明基板の表面に隣接し光散乱活性粒子を有する光散乱層を備える光散乱ディスク、このような光散乱ディスクの使用及びこのような光散乱ディスクを備える波面測定装置に関する。本願は米国仮出願第60/684,977号に基づく優先権を主張するもので、この仮出願の開示は参照として完全に本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
通常、光散乱ディスクは透明固体材料からなる平らなディスクの一面もしくは両面に粗面仕上されたものもしくは形削された表面として実現される。光散乱ディスクはたとえばスクリーン上の実画像を発生するための研磨済ガラスとして作用する。散乱ディスクの散乱効果のために、投影画像は異なる角度で観測できる。照明技術において、研磨済ガラスディスクは物体の照明を均一化する作用をする。光計測においては、散乱ディスクはまた空間コヒーレンスを解消するための位相ミキサとして作用する。特に、干渉計波面測定装置においては、散乱ディスク素子の回転運動及び/または振動運動を与えて、スペックルの位相を変化させまた混合させ、この結果、スペックルの位相を付随する検出器(associated detector)の露光時間に亘って零コントラストに平均化して、測定信号の妨害をなくすことができる。たとえばドイツ公開特許公報DE10320520A1及びこれに記載される従来技術を参照されたい。
【発明の開示】
【0003】
本願の場合、簡略化するために、光散乱ディスクという用語は散乱プロセスの結果として光周波数もしくは光波長が変化しない純光散乱型を包含するだけでなく、入射光が光散乱活性粒子によって吸収され異なる周波数もしくは波長で均一に放射される蛍光もしくは周波数変換型も包含する。また、この種の散乱ディスクは量子変換型と呼ばれる。このような周波数変換型散乱ディスクは、たとえば結像光を不可視波長領域から可視領域もしくはCCDのような通常の検出器による検出に適する波長領域に変換する。周波数変換型散乱ディスクを実現するために、透明固体基板が量子変換材料により形成された周波数変換表面コーティングを備える。たとえば、P43コーティングを有する水晶基板は紫外線を緑色光に変換する。もしくはこの透明固体基板自身が、特に、ドープされたガラス材料、(セリウムドープド水晶材料及びルミラス(Lumilas)が一般的である)のような材料を備えている。
【0004】
周波数変換及び高品質つまりほとんど欠落のない2次画像の生成が望まれる応用においては、変換プロセスはできるだけ薄い層において効果が発生するようにしなければならない。UV、DUVもしくはVUV光を使用する応用においては、この目的のためにたとえばP43材料層を有する水晶板型の数ミクロンメータ厚の散乱ディスクが用いられる。この周波数変換型光散乱層は顕微鏡的に見ると関連する基板表面上に沈殿した周波数変換材料の粒子または粉末粒子の蓄積よりなる。この粒子は自然には基板表面の全体に亘って接触するのではなく、比較的小さな範囲に接触し、この結果、周波数変換材料が基板表面に直接接触するというよりも、隣接粒子間の空隙は外部媒体中(一般には空気中)にある。つまり、顕微鏡的に見て全反射角の局部変化は基板/光散乱層の界面の光運動に関する。言い換えると、入射角が全反射角を超えると、基板を通って空隙領域内の界面つまり基板/空気の界面領域へ入射する光は、光散乱活性粒子に到達することなく界面で全反射される。この場合、全反射の角とは、簡単に言えば、全反射の臨界角を意味すると理解される。従って、通常の散乱ディスクは基板/空気の界面の全反射角より小さい開口を有する応用にのみ適する。
【0005】
最近、たとえば0.9を超えあるいは1.0を超える非常に大きい開口数を有する投影対物レンズが、半導体ウエハパターニングのマイクロリソグラフィにおいて、たとえば数10nmの非常に短い波長のUV光の使用と組合わせたいわゆる液浸対物レンズの形式で急速に用いられるようになった。結像収差もしくはこの高開口対物レンズの結像品質の決定には、そのような高開口数のテスト標本の対応する大きな入射角を処理できるたとえば波面測定型の測定装置を必要とする。
【0006】
従って、本発明が基礎とする技術的課題は上述の光散乱ディスク、それの使用、及び比較的高開口数の応用特にマイクロリソグラフィにおける高開口数の液浸対物レンズの測定に適切なそのような散乱ディスクを有する波面測定装置を提供することである。
【0007】
本発明は上述の課題を解決するもので、請求項1の特徴を備える光散乱ディスク、請求項11の特徴を備える使用、請求項12の特徴を備える波面測定装置、及び請求項19の特徴を備えるマイクロリソグラフィ投影露光装置を提供する。
【0008】
本発明に係る光散乱ディスクの場合、光散乱層の光散乱活性粒子は、空気より光学的に密であり基板の対向面に面的に隣接する包埋剤によって囲まれている。従って、包埋剤は基板の界面の光散乱活性粒子間の空隙を埋め、これにより、全反射角が基板/空気の界面に比較して大きくなり、あるいは包埋剤の屈折率が基板材料の屈折率より大きいもしくは等しければ全反射効果が完全に消滅する。
【0009】
このように、本発明に係る光散乱ディスクの場合には、全反射効果が除去され、あるいは全反射効果は基板/空隙領域に対して大きい入射角のときのみ発生するので、光散乱ディスクの使用可能領域は、空気が光散乱活性粒子を囲む媒体を形成する通常の光散乱ディスクに比較して許容入射角が大きくなる方向に拡張される。従って、本発明に係る光散乱ディスクは、特に、高開口数のマイクロリソグラフィ投影対物レンズたとえば液浸対物レンズの結像収差測定装置に用いることができる。
【0010】
本発明の一態様においては、包埋剤の屈折率は基板の屈折率の少なくともほぼ80%あるいは少なくともほぼ90%であり、特に、包埋剤の屈折率は基板の屈折率より大きいもしくは等しくできる。加えてもしくは代りに、包埋剤の屈折率は光散乱活性粒子の屈折率より小さくてもよい。これにより包埋剤とそれぞれの光散乱活性粒子間の界面における全反射効果が排除される。
【0011】
本発明のさらに一態様において、光散乱活性粒子は粒状材料よりなり、この粒状材料は、必要に応じて、周波数変換性質のない純散乱性質もしくは量子変換性質を有する。
【0012】
本発明のさらに一態様において、包埋剤は光散乱活性粒子が包埋された液体材料または固体材料である。液体包埋剤の場合、光散乱活性粒子は懸濁状態もしくは溶融状態、あるいは周囲に流体が流れる固体及び/または焼結及び/または多孔質の複合材料である。いずれの場合にあっても、包埋剤は基板界面における光散乱活性粒子間の空隙を埋めることが好ましい。
【0013】
本発明のさらに一態様においては、包埋剤の材料は、その屈折率が基板/包埋剤の界面の所望の全反射角度となるように、選択される。
【0014】
包埋剤はたとえば基板に密着保持でき、この結果、包埋剤を収容する容器をなくすことができる。あるいは、液体包埋剤はたとえば適当な容器によって封入される。後者においては、包埋剤はキャビティ中において静止状態もしくは流動状態にできる。
【0015】
さらに、本発明の一態様において、光散乱活性粒子は未固定の可動状態にされる。もしくは光散乱活性粒子は粒子キャリア基板に装着された拘束状態にされる。
【0016】
未固定の可動粒子の場合、本発明の有利な展開において、光散乱活性粒子の移動装置が設けられる。光散乱活性粒子の移動は散乱光の均一性を増加させる。光散乱活性粒子の移動効果を高めるために、光散乱活性粒子移動装置は、流体の包埋剤の活性的流体移動のための及び/または流体の包埋剤に対する光散乱活性粒子自身の活性的移動のための、及び/または包埋剤中の補助的粒子の活性的移動のための装置を備えていてもよい。第1の場合には、光散乱活性粒子は流れる包埋剤によって運ばれる(entrained)。第2の場合には、装置は光散乱活性粒子自身に起動力を与え、これにより、包埋剤を静止状態もしくは可動状態にすることができる。最後の場合、光散乱活性粒子の移動はこの目的のために包埋剤に導入された補助粒子を移動させることによって誘発される。たとえば、補助粒子は移動活性化装置に起動力を比較的直接的な方法で与えるように設計された材料から作られた粒子である。補助粒子の形状及び大きさは必要に応じて任意に選択できる。
【0017】
本発明に係る干渉計波面測定装置は、テスト標本を横シエアリング干渉で測定できるもので、たとえば、回折格子と検出素子間に設けられた本発明に係る散乱ディスクを用いる。この場合、回折格子は散乱ディスク基板の光散乱層と反対側面に設けられ、あるいは、光散乱ディスク基板に隣接する回折格子の格子基板上に設けられる。波面測定装置もまた、たとえば点回折干渉計としてあるいはシャック・ハルトマン(Shack-Hartmann)センサとして設計できる。テスト標本は特にマイクロリソグラフィ投影対物レンズとすることができる。
【0018】
本発明の一展開において、イマージョン媒体を回折格子とテスト標本との間に設け、この結果、波面測定装置によって取扱うことができるテスト標本の最大開口数をさらに大きくできる。
【0019】
さらに、波面測定装置の一態様において、光散乱層は検出素子に接触している。従って、光散乱ディスクからの出射光のふるまいのために介在する光媒体を考慮する必要がない。さらに、包埋剤として液体を選択すれば、適切な光散乱ディスク側の検出素子は包埋剤の境界として作用することができる。本発明の他の一態様において、光散乱層は散乱ディスク基板の検出素子側面に密着保持され、散乱ディスク基板の反対側面には回折格子が設けられる。そして、検出素子は、たとえば、検出結像光学素子の介在で光散乱層から離れて配置される。
【0020】
本発明のマイクロリソグラフィ投影露光装置においては、本発明の光散乱ディスクが投影対物レンズの光出力側に少なくとも所定時間間隔で配置され、投影対物レンズはたとえば0.9あるいはそれ以上の高開口数レンズであり、及び/またはイマージョン媒体好ましくはイマージョン流体と動作するように設計される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の有利な実施態様は添付図に示され、以下に説明する。
【0022】
図1に示される光散乱ディスク構成は、透明材料から形成された基板1と、この基板の主面に隣接し光散乱活性粒子3を有する光散乱層2とを備えている。光散乱活性粒子3は図示目的のために大きく示されている。光散乱活性粒子3は光散乱層2の包埋剤4によって囲まれており、つまり、包埋剤4に包埋されている。包埋剤4は、空気より光学的に密な気体、液体もしくは固体の媒体とすることができる。たとえば、基板1の屈折率とほぼ同一の屈折率を有する材料を包埋剤4として選択する。
【0023】
包埋剤4は光散乱活性粒子3間のすべての内部空間を満たし、従って、光散乱活性粒子3は丸く小さい粒子形状のために基板1とはせいぜい小さい接触領域で接触しており、基板1と光散乱活性粒子3の間に接触がなくとも、包埋剤4は基板1と面的に隣接する。これにより、基板1を通過した光は、入射角に関係なく、基板/光散乱層の界面5において全反射はなくなる。
【0024】
上述のことは図1において、3つの代表的な光ビーム6a、6b、6cを基に図示されている。光の一部である図1の光ビーム6aは基板/光散乱層の界面5の光散乱活性粒子に直接入射する。次いで、この光の一部は著しい損失もなく対応する光散乱活性粒子に直接入り、これらの光散乱活性粒子によって散乱され、また、材料に依存した周波数変換が施される。対応する実施態様においては、光散乱活性粒子3の屈折率は基板材料の屈折率とほぼ同一もしくは大きく、この結果、全反射効果の発生は認められない。いずれにあっても、たとえ光散乱活性粒子3が基板材料の屈折率よりいくらか小さい屈折率の材料を含んでいたとしても、全反射効果は通常の散乱ディスクの場合より高くない。基板/光散乱層の界面5において、光のかなりの部分は光散乱活性粒子に直接入射するのではなく、包埋剤4に入射する。垂直入射である図1の光ビーム6aの場合には、全反射は起こらず、光は最大可能な限り非減衰で光散乱層2に入り、光散乱層2の光散乱活性粒子に入射して散乱される。光散乱活性粒子の散乱のふるまいはこの光ビーム及び他の光ビーム中に矢印で示されている。基板/光散乱層の界面5における反射は必要に応じて通常の方法でこの界面5における反射防止コーティングを用いて最小にすることができる。
【0025】
特徴的には、基板/光散乱層の界面5の光散乱活性粒子が占有していない位置における比較的大きい入射角で入射する光もまた包埋剤4と基板1との間の屈折率協調のために全反射損失なしで光散乱層2に入射し、この光散乱層の中の光散乱活性粒子に入射して散乱される。この点については、光ビーム6cを参照されたい。特定の実施態様においては、たとえ、包埋剤4の屈折率が基板1の屈折率より小さくとも、空気の屈折率より大きいので、空気より光学的に密な包埋剤が存在しない通常の散乱ディスクに比較して、基板/空気の全反射角と基板/包埋剤の全反射角との間の角度で入射する光もまた光散乱層2に入射する。
【0026】
原則として、空気の屈折率より大きい屈折率を有するすべての材料が包埋剤4に適し、これらの材料は入射光及び散乱光の両方及び適当な周波数変換された放射光に対して可能な限り透明である。固体の包埋剤4の場合、光散乱活性粒子3は固定され、つまり、包埋剤4中に固められる。多くの応用においては、好ましくは、液体の包埋剤4が選択され、この液体包埋剤4の屈折率は所望の応用によって要求される全反射角に適合するように選択される。UVもしくはDUV光に関して適切な液体としては、たとえば水あるいはフォンブリン(Fomblin)である。他の波長の光の場合、たとえば、液浸顕微鏡におけるイマージョン媒体として用いられる油を包埋剤として用いることができる。
【0027】
必要あれば、包埋剤4はまた光散乱層2に入射する光の角スペクトルのフィルタ機能を果たすように設計できる。つまり、基板1とそのときの光学的に密な包埋剤4との屈折率差が目標にあわせて選択され、この結果、大きくとも全反射角度までの入射角で光散乱層2に入射する光のみが所望の光散乱層2に入る。
【0028】
光散乱活性粒子3については、通常のものすべて使用できる。特に、周波数変換なしの純散乱のふるまいを有するものたとえばガラスあるいは水晶粒子材料、及び蛍光量子変換のふるまいを有するものたとえばP43材料、同様のドープドグラス材料、セリウムドープド水晶材料、ルミナス等である。
【0029】
光散乱活性粒子3は透明であり、及び/または、応用により及び必要により反射性を有する。同様に、光散乱活性粒子3の寸法及び形状は応用により任意である。このように、光散乱活性粒子3はたとえば基本的に同一寸法かつ同一形状であるが、その性質に応じて、たとえば、密もしくは粗な粒子、滑らかなもしくは粗な面を有する粒子、さらに丸いもしくは鋭い粒子等でもよい。光散乱活性粒子は分離されもしくは集まって存在し、また、流体包埋剤4の使用により包埋剤中に未固定状態にもしくは拘束状態で存在し、つまり、自由に可動もしくは粒子キャリア基板に装着されもしくは粒子キャリア構造の中もしくは上に存在する。どんな場合でも、重要なのは入射方向つまり基板1側において包埋剤4によって光散乱活性粒子を妨害しない包埋をすること及び湿潤することである。
【0030】
流体包埋剤4を選択した場合、対応する実施態様において、包埋剤4は光散乱活性粒子3、従って、光散乱層2全体と共に基板1に密着保持できる。あるいは、液体包埋剤4はたとえば容器を用いることによりあるいは空隙に導入することにより適切に封入される。この空隙への導入は図1に示されており、基板1から離れた側において、光散乱層2は光路の下流に配置された透明部品7によって区切られ、この透明部品7は如何なる所望のものでもよく、例えば個々の用途においてこの位置に配置される光学的部品である。言うまでもなく、流体包埋剤4の場合、必要に応じて、包埋剤4を光散乱層2の残り側において適切な方法で区切ることができる。液体包埋剤4は、必要に応じて、静止状態もしくは流動たとえば洗い流し状態にすることができる。流体包埋剤4の流れが効果的でありかつ光散乱活性粒子3が自由な可動状態にされれば、光散乱活性粒子3は包埋剤4の流れによって運搬され、これにより、光散乱層2の散乱性質の一時的変化を得ることができ、通常の散乱ディスクの機械的運動と等価の効果を発揮する。
【0031】
本発明に係る光散乱ディスクは、基板/光散乱層の界面における全反射を低減もしくは回避することにより広範囲の応用が可能となる。特に、通常の散乱ディスクがこれまで用いられていた場合にも用いることができ、さらに、散乱される光が高入射角で光散乱ディスクに入射するのに適している。重要な応用分野は高開口光学系の測定たとえばマイクロリソグラフィ投影露光装置の高開口数投影対物レンズの測定である。この点に関し、図2、図3は2つの実施態様を示す。
【0032】
詳しくは、図2、図3は横シアリング干渉計を用いた波面測定装置における重要な検出器側部分を示す。波面測定装置の残りは通常の構成であり、従って、詳しく図示していない。各図2、図3において、測定すべきテスト標本は高開口数の液浸対物レンズ8として示され、このレンズは、たとえば、スキャナタイプもしくはステッパタイプの短波長UV光の半導体ウエハのパターニング用マイクロリソグラフィ投影露光装置に用いられる。図2はレンズ8a及び面終端素子8bを備えている対物レンズ8の出射側のみを示す。後段の検出器側部分もしくは測定装置の結像側部分は、それ自体公知の方法で、対物レンズ8の像面内もしくは近傍に設けられた回折格子9及びその後方の小さい距離に位置する光感知検出素子10たとえばCCDアレイを備えている。
【0033】
図1を参照して説明したタイプの一つの発明に係る散乱ディスク11は回折格子9と検出素子10との間に導入される。この場合、共通で結合された格子/散乱ディスク基板11aは光散乱層11bの基板として作用し、図1の光散乱層2に対応し、また同時に、回折格子9の基板として作用する。具体的には、回折格子9は対物レンズ8に対向する共通キャリア基板11aの主側に位置し、他方、光散乱層11bは共通キャリア基板11aの主側の反対側において、光感知検出素子10に接触している。光散乱層11bの包埋剤が流体であれば、詳細は図示しないが、必要であれば、境界を光散乱層11bに設けることができる。図示された態様の代わりとして、一方を回折格子用基板とし、他方を光散乱層とし、それらを互いの背面で接触するように構成することも可能である。
【0034】
対物レンズ8と格子/散乱ディスク結合基板11との間の内部空間は横方向において適当な封止リング12によって封入され、任意の適当なイマージョン媒体たとえば水で満たされる。他方、対物レンズ8の面終端素子8b及び格子/散乱ディスク結合基板11aはイマージョン媒体の軸方向境界として作用する。
【0035】
図2と類似の図3はさらに横シアリング干渉計型の波面測定装置を示し、以下に説明する以外は図2に対応する。簡略化のために、図3において用いられている図2と同一の参照符号は機能的等価の部品を示すので、図2の上述の説明を参照されたい。図3の測定装置が図2の測定装置と異なる点は、光感知検出素子10が散乱ディスク11詳しくはその光散乱層11bから離れて配置され、検出結像光学系14が光散乱層11bと検出素子10との間に設けられている。この実施態様においては、光散乱層11bは回折格子/散乱ディスク結合基板11aにおいて平らなドロップのごとく密着しており、従って、容器に封入される必要がない。この目的のために、光散乱層11bの流体包埋剤は適切な方法で選択される。このように、たとえば、フォンブリンが光散乱活性粒子の包埋剤として用いられると、非常に低い蒸気圧のために、蒸発による液体の損失は数ヶ月に亘っても無視できる程度に小さい。従って、包埋流体を頻繁に補充もしくは交換する必要はない。
【0036】
図3の測定装置の場合、結像光学系14は散乱ディスクの光散乱層11bにおいて2次画像として発生するシアリング干渉縞を検出素子10に結像し、他方、図2の測定装置においては、検出素子10は光散乱層11bに接触することにより2次画像を光散乱層11b上で直接取得する。これに対し、図3の場合、散乱ディスク11は、散乱ディスク11の回折格子から離れた側においてその光散乱層11bでもって周囲の媒体たとえば空気と隣接する。両実施態様において、光散乱層11bはたとえば量子変換材料よりなる光散乱粒子を備えることができ、この結果、入射UV測定光15は散乱されるだけでなく、同時に異なる波長範囲の光16に変換され、検出素子10によってより良好に検出できる。
【0037】
図2、図3の両実施態様において、測定装置は、散乱ディスク11上に、及び特に散乱ディスク基板11aと光散乱層11bとの間の界面に高角度で光15が入射する非常に高い開口数のテスト標本8を測定するのにも適切である。このような高角度入射においても、上述の界面における全反射は受容できるほど小さくあるいは完全に回避できる。この目的のために、包埋剤の屈折率は、図1について説明したように、散乱ディスク基板11aの屈折率に適切に適合される。
【0038】
本発明に係る散乱ディスクはたとえば、図2、図3の応用において用いることができると共に、他の測定装置及び図1について説明したような、光散乱活性粒子の固体包埋剤を有する固体散乱ディスク、あるいは流体包埋剤を有する流体散乱ディスクとしての他の散乱ディスク応用にも用いることができる。流体包埋剤の場合には、光散乱活性粒子は個別的あるいは共働的に相対的に大きなかたまりを形成し、周囲の流体包埋剤中において自由に動くことができる。これは必要により光散乱活性粒子の意識的な動きを発生するのに用いることができ、この結果、従来の機械的に動く散乱ディスクと同様の光散乱層の散乱性質の一時的変化を発生する。
【0039】
光散乱活性粒子の上述の動きには種々の可能性がある。1つの可能性は流体包埋剤自身の動き、つまり、たとえば洗い流し、撹拌等によって流体包埋剤を流れさせることにある。包埋剤の動きは包埋された光散乱活性粒子を運ぶ。また、光散乱活性粒子は、ある装置によって外部から動力をこれらの粒子に与え、あるいは動力を包埋剤に付加的に導入された補助粒子に与えることにおいて効果的に動かされる。たとえば、電気的もしくは磁気的力作用を上述の動力の発生機構として考慮される。光散乱活性粒子の動きを開始させる補助粒子の動きもまた包埋流体の動きたとえば対流によって駆動される。いかなる動きの型、たとえば周期的な動き、均一的な動きあるいは統計的な動きも要求に応じて可能である。駆動機構として、たとえば音響波もしくはパルス的方法もしくは他の方法で導入されるフォーカスされた光によって発生する局所的熱スポットによって動きを発生させることも可能である。
【0040】
図4は流体散乱ディスクの光散乱層17の場合における外部電磁的駆動の実施態様を概略的に示し、残りの部分は詳細に示していない。光散乱層17は流体包埋剤18及び流体包埋材料18内を自由に移動する光散乱活性粒子19を有する。また、磁気的補助粒子20が光散乱層17の包埋剤18に導入されている。この例では、磁気的補助粒子20は光散乱活性粒子19より著しく大きい。磁気的補助粒子20は光散乱層17に対して横側に位置する電磁石配列21を有する駆動装置の一部をなす。電磁石配列21の駆動により既知の方法で電磁力をパルス的方法あるいは他の方法で包埋剤18中に自由に浮遊している磁気的補助粒子20に与え、これにより、矢印Bに示すごとく、磁気的補助粒子20を動かすことができる。結果として生ずる磁気的補助粒子20のたとえばパルス的もしくはランダムな動きは包埋剤18中に自由に浮遊している光散乱活性粒子19もまた動き、混ざることになる。必要であれば、光散乱活性粒子19の駆動はさらに包埋剤18の流れによってサポートすることができる。
【0041】
上述の実施態様によって明らかにされたように、本発明は、たとえ入射角が大きい散乱光に対しても、光散乱活性粒子に対して適切に選択された包埋剤によって散乱ディスク基板との界面における全反射効果を減少もしくは完全に回避される適切な光散乱ディスクを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】光散乱活性粒子と、空気より大きい屈折率を有し光散乱活性粒子を囲む包埋剤とを有する散乱ディスク構成の概略的断面図である。
【図2】検出素子と光散乱層が接触した、図1の散乱ディスク構成よりなる波面測定装置の検出素子側の断面図である。
【図3】図1の散乱ディスク構成よりなり、光散乱層が検出素子から離れた回折格子/散乱ディスク結合基板に密着保持された波面測定装置の検出素子側の断面図である。
【図4】流体包埋剤を有する光散乱層及び粒子可動装置を概略的に示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板(1)と、
該透明基板の表面に隣接し光散乱活性粒子(3)を有する光散乱層(2)と
を具備し、
前記光散乱層(2)は包埋剤(4)を有し、該包埋剤は空気より光学的に密でかつ前記透明基板(1)の対向面に面的に隣接し、前記光散乱活性粒子(3)は前記包埋剤によって囲まれていることを特徴とする光散乱ディスク。
【請求項2】
前記包埋剤の屈折率は前記透明基板の屈折率の少なくともほぼ80%であり、及び/または前記光散乱活性粒子の屈折率より小さい請求項1に記載の光散乱ディスク。
【請求項3】
前記光散乱活性粒子は散乱光周波数を変更させない粒状純散乱材料または粒状量子変換材料より形成される請求項1または2に記載の光散乱ディスク。
【請求項4】
前記包埋剤は流体材料であり、前記光散乱活性粒子は前記流体包埋剤中で懸濁状態もしくは溶融状態であり、または前記光散乱活性粒子は前記流体包埋剤が周囲に流れる固体及び/または焼結及び/または多孔質の複合材料を形成し、または前記包埋剤は前記光散乱活性粒子が包埋された固体材料である請求項1〜3の何れか一項に記載の光散乱ディスク。
【請求項5】
前記包埋剤は、その屈折率が透明基板/包埋剤の界面の全反射の所定角度に適合するように選択される請求項1〜4の何れか一項に記載の光散乱ディスク。
【請求項6】
前記包埋剤は前記透明基板に密着保持されまたは封入された流体である請求項1〜5の何れか一項に記載の光散乱ディスク。
【請求項7】
前記包埋剤はキャビティ中において静止状態もしくは流動状態となっている請求項6に記載の光散乱ディスク。
【請求項8】
前記光散乱活性粒子は前記包埋剤によって未固定の可動状態もしくは粒子キャリア基板に装着された拘束状態で囲まれている請求項1〜7のい何れか一項に記載の光散乱ディスク。
【請求項9】
前記光散乱活性粒子は流体の包埋剤中に未固定の可動状態にあり、前記光散乱活性粒子を可動させるための装置が設けられている請求項8に記載の光散乱ディスク。
【請求項10】
前記光散乱活性粒子可動装置は前記流体包埋剤の活性運動のための及び/または前記光散乱活性粒子の活性運動のため及び/または前記包埋剤に付加された補助粒子の活性運動のためのユニットを具備する請求項9に記載の光散乱ディスク。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の光散乱ディスクを光学系の結像収差決定測定装置への使用。
【請求項12】
光路内のテスト標本(8)の下流に配置された回折格子(9)と、
前記回折格子の下流側に配置された検出素子(10)と
を具備するテスト標本の干渉計波面測定装置において、
請求項1〜10の何れか一項に記載の光散乱ディスク(11)を前記回折格子と前記検出素子との間に設け、前記回折格子は散乱ディスク基板(11a)の光散乱層(11b)反対側面もしくは前記散乱ディスク基板に隣接する前記回折格子の基板上に設けられることを特徴とする干渉計波面測定装置。
【請求項13】
横シアリング干渉計として設計される請求項12に記載の干渉計波面測定装置。
【請求項14】
点回折干渉計として設計される請求項12に記載の干渉計波面測定装置。
【請求項15】
シャック・ハルトマンセンサとして設計される請求項12に記載の干渉計波面測定装置。
【請求項16】
前記光散乱ディスクはその光散乱層によって前記検出素子に接触し、または前記光散乱層は前記検出素子から離間し格子/散乱ディスク共通基板の検出素子側面で密着保持され、前記回折格子は前記格子/散乱ディスク共通基板の前記テスト標本側面に設けられた請求項12〜15の何れか一項に記載の干渉計波面測定装置。
【請求項17】
前記回折格子と前記テスト標本との間にイマージョン媒体(13)が設けられた請求項12〜16の何れか一項に記載の干渉計波面測定装置。
【請求項18】
前記テスト標本はマイクロリソグラフィ用投影対物レンズ(8)である請求項12〜17の何れか一項に記載の干渉計波面測定装置。
【請求項19】
投影対物レンズ(8)を具備するマイクロリソグラフィ用投影露光装置において、請求項1〜10の何れか一項に記載の光散乱ディスクが前記投影対物レンズの光出力側に少なくとも所定の時間間隔で配置されていることを特徴とするマイクロリソグラフィ用投影露光装置。
【請求項20】
前記投影対物レンズは光出力側で少なくとも0.9、好ましくは少なくとも1.0の開口数を有する請求項19に記載のマイクロリソグラフィ用投影露光装置。
【請求項21】
前記投影対物レンズはイマージョン媒体、好ましくは、イマージョン流体を用いて動作するように形成される請求項19もしくは20に記載のマイクロリソグラフィ用投影露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−542799(P2008−542799A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512753(P2008−512753)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004874
【国際公開番号】WO2006/125600
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・アーゲー (435)
【Fターム(参考)】