説明

光検出半導体装置

【課題】 短波長の光に対しても良好な感度を備えかつ長期の照射でも受光感度劣化が少ない光検出半導体装置を提供する。
【解決手段】 光検出半導体装置は、受光面を有する受光素子を含む集積回路素子と、集積回路素子を封止する封止部とを備えた光検出半導体装置であって、封止部が有機変性型のシリコーン樹脂で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を検出する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DVDなどの光ディスクの記録密度を高めるために、情報記録再生用のレーザ光として波長の短いものを用いる開発が行われ、波長が400nm程度の青色レーザを用いた光ディスク装置が商品化されつつある。
ところで、短波長青色レーザ光を受光する光検出半導体装置では、CD、DVDで用いられてきたレーザ光よりもエネルギーの強い短波長青色レーザ光が照射されることにより、光検出半導体装置を封止する透明樹脂が変形、変色を起こして受光感度劣化を引き起こすという問題が発生していた。
【0003】
透明封止材としては、これまでエポキシ系材料が用いられていたが、紫外線や熱等による黄変や、クラック等の問題が発生しておりそのまま使用することができない。これらの対応策としては、分子中に多量のフェニル基を持つシリコーンレジン硬化物を用いることが検討されているが、エネルギーの強い短波長青色レーザ光が照射されることにより受光感度劣化が激しく、エポキシ封止材およびフェニル基含有シリコーンレジン封止材は短波長青色レーザ光を受光する光検出半導体装置への適用には問題があった。
【0004】
また、炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する有機化合物と、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するケイ素化合物とを必須成分として含む光学材料用組成物も提案されている(特許文献1〜特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2002−324920号公報
【特許文献2】特開2002−327114号公報
【特許文献3】特開2002−327126号公報
【特許文献4】特開2002−338833号公報
【特許文献5】特開2002−341101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら光学材料用組成物を加熱硬化させて硬化物を光検出半導体装置上に塗布する際に発泡または硬化収縮を生じる、硬化物膜が着色する等の問題点があった。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、短波長の光に対しても良好な感度を備え、かつ長期の照射でも受光感度劣化が少ない、高品質、低コストの光検出半導体装置を提供することが課題の一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による光検出半導体装置は、受光面を有する受光素子を含む集積回路素子と、前記集積回路素子を封止する封止部とを備えた光検出半導体装置であって、
前記封止部が有機変性型のシリコーン樹脂で形成されていることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0009】
図1は、本実施形態のプリント配線基板上に受光素子を含む集積回路素子(半導体ベアチップ)とチップ部品とが実装された部品実装基板21を透明樹脂層10で封止した光検出半導体装置の斜視図である。
【0010】
図1に示すように、光検出半導体装置31は、基板21の受光素子を含む集積回路素子(半導体ベアチップ)とチップ部品を、後述する有機変性型のシリコーン樹脂からなる透明樹脂層10の封止部で封止されている。また、光検出半導体装置31を他の基板に実装するために、プリント配線基板16の外周部には、実装用の接続端子11が延設されている。
【0011】
部品実装基板21は、プリント配線基板16上に、受光素子を含む集積回路素子3と、集積回路素子3への給電動作を安定させるためのチップ部品4とを実装したものである。
【0012】
プリント配線基板16の表面には、集積回路素子3やチップ部品4を接続するための配線パターン2が形成されている。
【0013】
集積回路素子3及びチップ部品4は、ハンダよりも耐熱性の高い導電性接着剤によって、前記配線パターン2に接続している。
【0014】
また、集積回路素子3の表面にはボンディングパッド5が形成され、ボンディングパッド5と配線パターン2とはボンディングワイヤー1で接続されている。ボンディングワイヤー1の材料は金線であり、ボンディングパッド5及び配線パターン2とは熱圧着にてボンディングされる。
【0015】
封止部を形成する封止用の有機変性型のシリコーン樹脂は、
(A)(a)ケイ素原子に結合した水素原子(以下、「SiH」という)を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合(いわゆるC=C結合)を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、かつ、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物、
(B)SiHを1分子中に3個以上有する化合物、および
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含む硬化性組成物である。
【0016】
以下、有機変性型のシリコーン樹脂について詳しく説明する。
[(A)成分]
(A)成分は、(a)成分例えばシロキサン系化合物と(b)成分との付加反応生成物であり、かつ、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物である。
【0017】
上記(A)成分の具体的な構造式を下記に示すが、下記構造式のものに限定されるものではない。なお、以下、「Me」はメチル基を意味する。
【0018】
【化1】

(式中、nは0〜10の整数である。式中、nが10より大きくなると硬化物が軟らかくなるので好ましくない。)(化1)に示す有機ケイ素化合物は、上記(a)成分の1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンと上記(b)成分のビニルノルボルネンとを付加反応させることにより生成できる。
【0019】
【化2】

(式中、pは0〜10の整数である。式中、pが10より大きくなると粘度が高くなり取り扱いが困難となるので好ましくない。)(化2)に示す有機ケイ素化合物は、上記(a)成分の1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンと上記(b)成分のビニルノルボルネンとを付加反応させることにより生成できる。
【0020】
更に、本実施形態における(A)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
[(B)成分]
(B)成分は、SiHを1分子中に3個以上有する化合物である。該(B)成分中のSiHが、上記(A)成分の1分子中に2個有する付加反応性炭素−炭素二重結合とヒドロシリル化反応により付加し架橋して、3次元網状構造の硬化物膜を与える。
【0021】
上記(B)成分の好適な具体例例えばシクロシロキサン系化合物又は多環式炭化水素基を含むシクロシロキサン系化合物を以下に示すが、これに限定されるものではない。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

(式中、mは0〜10の整数である。式中、mが10より大きくなると粘度が高くなり取り扱いが困難となるので好ましくない。)
また、該(B)成分として、SiHを1分子中に3個以上有するポリメチルフェニルシロキサンを使用することができる。好適な具体例例えば鎖状シロキサン系化合物を以下に示すが、これに限定されるものではない。なお、以下、「Ph」はフェニル基を意味する。
【0027】
(化8)
Me3SiO(Ph2SiO)1(MeHSiO)3SiMe3
【0028】
(化9)
Me3SiO(Ph2SiO)2(MeHSiO)3SiMe3
【0029】
(化10)
Me3SiO(Ph2SiO)3(MeHSiO)3SiMe3
【0030】
(化11)
HMe2SiO(Ph2SiO)1(MeHSiO)1SiMe2
【0031】
(化12)
HMe2SiO(Ph2SiO)2(MeHSiO)2SiMe2
【0032】
(化13)
HMe2SiO(Ph2SiO)3(MeHSiO)3SiMe2
更に、本実施形態における(B)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0033】
封止材中の上記(B)成分の配合量は、上記(A)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合の1モルに対して、該(B)成分中のSiHの量が、通常、0.5〜2.0モル、好ましくは0.8〜1.5モルとなる量とするのがよい。前記範囲内の配合量とすることで、本実施形態において充分な硬度を有する硬化物膜を得ることができる。
[(C)成分]
(C)成分であるヒドロシリル化反応触媒は、従来から公知のものが全て使用することができる。例えば、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられる。
【0034】
封止材中への(C)成分の配合量は、触媒としての有効量であればよく、特に制限されないが、上記(A)成分と(B)成分との合計質量に対して、白金族金属原子として、通常、1〜500ppm、特に2〜100ppm程度となる量を配合することが好ましい。前記範囲内の配合量とすることで、硬化反応に要する時間が適度のものとなり、硬化物が着色する等の問題を生じることがない。
[その他の成分]
封止材には、上記(A)〜(C)成分に加えて、本発明の目的、効果を損なわない範囲で他の成分を配合することは任意であり、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤を配合することにより前記着色を未然に防止することができる。また、ポットライフを確保するために、1−エチニルシクロヘキサノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等の付加反応制御剤を配合することができる。また、基材との接着性を向上させるためにシランカップリング剤を配合してもよい。
【0035】
なお、本実施形態における有機変性型のシリコーン樹脂の硬化条件については、その量により異なり、特に制限されないが、通常、60〜180℃、5〜600分の条件とすることが好ましい。
【実施例】
【0036】
プリント配線基板上に受光素子を含む集積回路素を形成し、その上に封止部で封止した光検出半導体装置を作製し、評価した。実施例1、比較例1及び比較例2における封止部の材料は以下のとおりであった。なお、実施例1において封止部の材料成分を均一に攪拌混合して組成物となした。組成物を光検出半導体装置上に流し込み、75℃で1時間、その後150℃で4時間加熱して樹脂を硬化させた。その他の比較例においては同様に光検出半導体装置上に流し込むが、条件はそれぞれの仕様に従った。
[実施例1]
(A)成分:
(化2)で表される有機ケイ素化合物(付加反応性炭素−炭素二重結合の含有割合は、0.40モル/100g):52質量部、
(B)成分:
(B1)(化7)で表される化合物(SiHの含有割合は、0.63モル/100g):10質量部、
(B2)(化12)で表されるポリメチルフェニルシロキサン(SiHの含有割合は、0.62モル/100g):30質量部
(B3)1−(2−トリメトキシシリルエチル)−3−(3−グリシドキシプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(SiHの含有割合は、0.40モル/100g):8質量部
([(A)成分中のケイ素原子結合水素原子]/[(B1〜3)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合](モル比)=1.35)
(C)成分:
白金−ビニルシロキサン錯体:白金金属原子として、(A)成分と(B)成分との合計量に対して質量基準で20ppm、
(その他の成分1):
ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート:(A)成分と(B)成分との合計に対して質量基準で500ppm、
(その他の成分2):
1−エチニルシクロヘキサノール:0.03質量部
[比較例1]
日本ペルノックス(株)エポキシ樹脂『ME−540』(市販の型番)
[比較例2]
信越化学工業(株)フェニルレジン系シリコーン樹脂『4623−6』(開発型番)
[評価]
実施例1、比較例1及び比較例2における封止した光検出半導体装置について、透過率、受光感度の低下率及び温度サイクルの試験測定を行い、評価した。波長405nmレーザ光を封止部へ照射してその光透過率を分光光度計で測定した。初期受光感度と所定時間レーザ光を封止部へ照射した後の受光感度とを測定し比較した。温度サイクル試験では封止部の経時外観を目視により観察した。測定結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

*受光感度の低下率
実施例1:波長405nmで4mWのレーザ光を、照射前に対し20時間照射後の低下率
比較例1:波長405nmで1mWのレーザ光を、照射前に対し15時間照射後の低下率
比較例2:波長405nmで4mWのレーザ光を、照射前に対し70時間照射後の低下率
**温度サイクル試験
常温から−40℃に温度低下させ30分放置後、常温に戻し15分放置し、その後さらに85℃まで昇温させ30分放置後、再び常温に戻し、15分間戻した。これを1サイクルとした。
【0038】
本実施形態によれば、波長500nm以下の光短波長の光に対しても良好な感度を備え、かつ長期の照射でも感受光感度劣化が少ない光検出半導体装置を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施形態の光検出半導体装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
1 ボンディングワイヤー
2 配線パターン
3 集積回路素子
4 チップ部品
5 ボンディングパッド
10 透明樹脂層
11 接続端子
16 プリント配線基板
21 部品実装基板
31 光検出半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面を有する受光素子を含む集積回路素子と、前記集積回路素子を封止する封止部とを備えた光検出半導体装置であって、
前記封止部が有機変性型のシリコーン樹脂で形成されていることを特徴とする光検出半導体装置。
【請求項2】
前記有機変性型のシリコーン樹脂は、
(A)(a)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、かつ、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有する化合物、および
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含むことを特徴とする請求項1記載の光検出半導体装置。
【請求項3】
前記受光素子は、波長500nm以下の光に対して初期の受光感度に対して5%以下の低下率を有することを特徴とする請求項1又は2記載の光検出半導体装置。
【請求項4】
前記(A)成分中の前記炭素−炭素二重結合の1モルに対して、前記(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の量が 0.5〜2.0モルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光検出半導体装置。
【請求項5】
前記(a)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物がテトラメチルジシロキサン又は1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンであり、前記(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素がビニルノルボルネンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光検出半導体装置。
【請求項6】
前記(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有する化合物がシロキサン系化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光検出半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−216824(P2006−216824A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28816(P2005−28816)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(503213291)パイオニア・マイクロ・テクノロジー株式会社 (25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】