説明

光源推定装置及び光源推定方法

【課題】画像のカラーテクスチャが平坦で色数が少ない場合であっても、少ない計算量で精度良く光源を推定する。
【解決手段】光源種類推定部109は、被写体を撮像する撮像素子により生成された画像信号から、輝度と色との間の相関係数を算出する輝度−色相関算出部と、前記画像信号における画像全体のカラーバランスと、前記画像信号におけるニュートラルグレー領域のカラーバランスを算出するカラーバランス算出部と、相関係数と、画像全体のカラーバランスと、ニュートラルグレー領域のカラーバランスとに基づく特徴ベクトルを生成する特徴ベクトル生成部と、生成された特徴ベクトルに基づき、前記画像信号における光源の種類を判定する識別器とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源推定装置及び光源推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の視覚系は、光源色の特性が未知であっても、ある程度物体の色を同定できる。例えば、太陽光の下で白い紙を見ると、人間は白い紙と認識する。一方、この紙を例えばハロゲンランプの下でみると、ハロゲンランプはオレンジがかった光源なので、紙はオレンジ色に見えるはずである。ところが、人間はハロゲンランプの下で見た場合でも太陽光の下で見たときと同様に白い紙と認識する。このように、光源色が変化しても本来の色を認識する機能を色恒常性という。色恒常性はデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラなどの電子撮像機器におけるホワイトバランス調整と同義である。ホワイトバランスとは、本来無彩色である物体が無彩色に見えるようにRGB各カラーチャネル間の調整を行うことである。この調整は本来、光源と物体表面の分光特性が分からないとできない処理である。すなわち、人間の眼にとどく光の分光特性は光源と物体表面それぞれの分光反射特性の積で表されるが、両者が未知なので不良設定問題となっている。そのため、光源と物体表面、および観察しているシーンに対して仮定や制約を設けて、色恒常性をモデル化した様々なアルゴリズムが提案されている。
【0003】
色恒常性を解くために良く用いられているアルゴリズムの一つに灰色仮説がある(例えば、非特許文献1参照)。灰色仮説は、一般的なシーンでは視野内に様々な色が分布するため、その平均色は灰色に近いという経験則に基づいている。もしこの平均色が灰色からずれていれば、そのずれを光源色によるものと判断し、RGBカラーチャネル間の調整を行うことでホワイトバランス調整ができる。この手法は計算コストが小さく、デジタルスチルカメラのような組み込み機器への実装が容易であるという利点がある。反面、物理的には光源と独立であるはずの物体表面についての仮定に基づくため、シーンによってはその仮定が成立せず、光源推定結果が大きく左右される。例えば、赤い壁の一部に灰色のロゴがあったとする。このとき、画像平均色は赤くなり、灰色仮説はその赤みを光源色によるものと判断する。そのため、シーン全体を灰色にしようとして赤の反対色であるシアンを画面全体に加えるので、もともと灰色であったロゴの部分にシアンの色がついてしまう。これをカラーフェリアという。
【0004】
灰色仮説に対して、光源と物体表面の分光特性を用いて推定する手法が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。この手法は光源と物体表面の分光特性を低次の直交基底で表現し、光源・物体表面・撮像系に対する仮定により制約条件を設けたり、光源・物体表面・撮像系に関する既知情報を確率分布で統合したりすることで、統計的に光源推定精度を高める。この手法の利点は詳細な光源推定が行える点にある。しかしその反面、演算量が増えるため、デジタルカメラ内部のホワイトバランス処理などの画像処理演算で利用する場合、実時間処理に支障が生じる場合がある。
【0005】
計算コストを下げつつ、光源、および物体表面の分光特性を考慮して光源種類を推定する方法として、輝度−色相関が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。この手法は、光源色が赤い場合(緑、青も同様)には赤い領域がより赤くなるという輝度と色との間にある相関関係を利用して、光源色が白色光源かそうでないかを識別する。図9及び図10を参照して輝度−色相関の概念を説明する。図9及び図10は、輝度−色相関を説明するためのスペクトル分布の模式図である。図9及び図10に示すグラフの横軸は波長、縦軸は各波長が持つエネルギーである。図9(a)は、左から、様々な色を含む一般的な物体Xの画像、その物体Xに照射する赤色光源Lr、およびその光源Lrを物体Xに照射したときに撮像した撮像画像それぞれのスペクトル分布の模式図である。図9(a)の撮像画像のスペクトルは、短波長側(青い側)の強度が下がり、長波長側(赤い側)の強度が増大する。すなわち、一般的な物体に赤色光源を照射して撮像した画像は、画像内で明るい領域ほど赤みが増すという相関関係を有する。ただし、この相関関係は画面内に複数の色が存在する場合に生じる。一方、図9(b)は、左から赤い物体Xrの画像、その物体Xrに照射する白色光源Lh(例えば色温度が5,500[K(ケルビン)]の光源)、およびその光源Lhを物体Xrに照射したときに撮像した撮像画像それぞれのスペクトル分布の模式図である。白色光源のスペクトル分布は平坦なので、この場合は撮像対象のスペクトル分布がそのまま検知される。従って、この場合は輝度と色との間に相関が無いということになる。また、この相関は赤みだけでなく、青みにも同様な性質がある。
【0006】
図10は、赤色光源を照射したときのスペクトル分布の模式図である。図10(a)は、左から、赤系領域Srの画像、その赤系領域Srに照射する赤色光源Lr、およびその光源Lrを赤系領域Srに照射したときに撮像した撮像画像それぞれのスペクトル分布の模式図である。図10(b)は、左から、緑系領域Sgの画像、その緑系領域Sgに照射する赤色光源Lr、およびその光源Lrを緑系領域Sgに照射したときに撮像した撮像画像それぞれのスペクトル分布の模式図である。図10(c)は、左から、青系領域Sbの画像、その青系領域Sbに照射する赤色光源Lr、およびその光源Lrを青系領域Sbに照射したときに撮像した撮像画像それぞれのスペクトル分布の模式図である。青系領域Sbには長波長側のエネルギーが少ないため、青系領域Sbに赤色光源Lrが照射された場合は、赤系領域Srに赤色光源Lrが照射された場合と比較して暗くなる。一方、青系領域Sbの反射光に含まれる短波長側のエネルギーは赤い光の分光特性により減衰するが、青系領域Sbは赤系領域Srに赤い光が当たった場合と比較して短波長成分が残る(青系領域には短波長側のスペクトルが大きいため)。すなわち、暗いほど青みが強くなるという負の相関関係になる。以上が「輝度−色相関」と呼ばれている原理である。
【0007】
この手法の利点は少ない演算量で大まかな光源の特性(白色、または非白色)を推定できる点にある。これは、上述の分光反射特性を用いる方法と比較して、光源と物体表面の詳細な分光特性を考慮する必要が無いからである。よって、カラーフェリア問題を低減するために十分な光源種類推定性能を持っており、かつ計算コストが小さいため、組み込み機器実装に向いている。
【0008】
また、特許文献1には、複数の異なる分光感度特性を持つセンサの応答値から、被写体を照射する光源の色を示す分光特性を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3767541号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】E. H. Land, “Recent Advance in Retinex Theory”, Vision Research, 26, 1986.
【非特許文献2】D. H. Brainard & W. T. Freeman, “Baysian Color Constancy”, J. Opt. Soc. Am. A, Vol.14, No.7, 1997.
【非特許文献3】J. Golz & D. I. A. Macleod,“Influence of scene statistics on color constancy”, NATURE, VOL. 415, 7, FEBRUARY, 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した輝度−色相関は、カメラ位置や光源強度に起因する画像のテクスチャ程度に影響される、という問題点がある。例えば、画像のカラーテクスチャが平坦で色数が少ない場合、輝度と色の入力データ分布が広がらないため、輝度−色相関が不安定になる場合がある。実環境下で安定した光源推定性能を確保するには、この問題による影響を低減する必要がある。
また、輝度−色相関は入力データの正規分布を仮定しているため、入力データ数が少なかったりデータにはずれ値が存在したりすると正規分布の仮定から外れ、正しい輝度−色相関を算出できない場合がある。また、物体の鏡面反射により一部の画素が白飛びしてハイライト領域が存在するシーンでは、それらの画素がはずれ値となり、輝度−色相関が不安定になる場合がある。
また、特許文献1に記載された技術では、センサの応答値に基づいて光源の色を示す分光特性を推定するため、計算量が多くなる、という問題がある。また、撮像手段は、複数の異なる分光感度特性を持つセンサを備えなければならない。
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、画像のカラーテクスチャが平坦で色数が少ない場合であっても、少ない計算量で精度良く光源を推定することができる光源推定装置及び光源推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、被写体を撮像する撮像素子により生成された画像信号から、輝度と色との間の相関係数を算出する輝度−色相関算出部と、前記画像信号における画像全体のカラーバランスを算出する第1のカラーバランス算出部と、前記画像信号において平均色が灰色の領域であるニュートラルグレー領域のカラーバランスを算出する第2のカラーバランス算出部と、前記相関係数と、前記画像全体のカラーバランスと、前記ニュートラルグレー領域のカラーバランスとに基づく特徴ベクトルを生成する特徴ベクトル生成部と、前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに基づき、前記画像信号における光源の種類を判定する識別器と、を備えることを特徴とする光源推定装置である。
【0014】
この発明によれば、輝度と色との間の相関係数に加えて、画像全体のカラーバランス、及びニュートラルグレー領域のカラーバランスに基づいて、光源の種類を判定する。これにより、画像のカラーテクスチャが平坦で色数が少ない場合であっても、少ない計算量で精度良く光源を推定することができる。
【0015】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定装置において、前記画像信号における色の多様性を示すカラーテクスチャ特徴を算出するテクスチャ解析部を備え、前記特徴ベクトル生成部は、前記カラーテクスチャ特徴に基づいて、前記特徴ベクトルを生成することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、輝度と色との間の相関係数、画像全体のカラーバランス、及びニュートラルグレー領域のカラーバランスに加えて、カラーテクスチャ特徴に基づいて光源の種類を判定する。これにより、より精度良く光源を推定することができる。
【0017】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定装置において、前記画像信号において輝度が一定となる輝度一定領域を特定する輝度むら解析部を備え、輝度−色相関算出部は、前記輝度むら解析部により特定された輝度一定領域において前記相関係数を算出することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、輝度一定領域において相関係数を算出しているため、光源の位置や強度に依存することなく相関係数を算出することができる。これにより、カラーフェリアを軽減することができる。
【0019】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定装置において、前記撮像素子により生成された画像信号を時系列に順次記憶する時系列データバッファを備え、輝度−色相関算出部は、前記時系列に記憶された複数の画像信号から、前記相関係数を算出することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、複数の画像信号を用いて相関係数を算出するため、精度良く相関係数を算出することができる。また、時系列データを用いているため、手振れ、シーン内に存在する被写体の運動、及び照明条件の変化等によって生じる画像情報の時間変化に対応することができる。
【0021】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定装置において、前記識別器は、複数の画像信号の特徴ベクトルと各画像信号に対応する光源の種類とからなる学習データに基づいて、特徴ベクトルから光源の種類を導くための判定基準を学習する学習部と、前記学習部による学習結果に基づき、前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに対応する光源の種類を判定する識別部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、機会学習による学習結果に基づき光源種類を判定しているため、マニュアルで特徴ベクトルから光源の種類を導くための判断基準を設定する必要がない。
【0023】
また、本発明の一態様は、光源推定装置の輝度−色相関算出部が、被写体を撮像する撮像素子により生成された画像信号から、輝度と色との間の相関係数を算出するステップと、前記光源推定装置の第1のカラーバランス算出部が、前記画像信号における画像全体のカラーバランスを算出するステップと、前記光源推定装置の第2のカラーバランス算出部が、前記画像信号において平均色が灰色の領域であるニュートラルグレー領域のカラーバランスを算出するステップと、前記光源推定装置の特徴ベクトル生成部が、前記相関係数と、前記画像全体のカラーバランスと、前記ニュートラルグレー領域のカラーバランスとに基づく特徴ベクトルを生成するステップと、前記光源推定装置の識別器が、前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに基づき、前記画像信号における光源の種類を判定するステップと、を有することを特徴とする光源推定方法である。
【0024】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定方法において、前記光源推定装置のテクスチャ解析部が、前記画像信号における色の多様性を示すカラーテクスチャ特徴を算出するステップを有し、前記特徴ベクトル生成部は、前記カラーテクスチャ特徴に基づいて、前記特徴ベクトルを生成することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定方法において、前記光源推定装置の輝度むら解析部が、前記画像信号において輝度が一定となる輝度一定領域を特定するステップを有し、輝度−色相関算出部は、前記輝度むら解析部により特定された輝度一定領域において前記相関係数を算出することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定方法において、記光源推定装置は、前記撮像素子により生成された画像信号を時系列に順次記憶する時系列データバッファを備え、輝度−色相関算出部は、前記時系列に記憶された複数の画像信号から、前記相関係数を算出することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の一態様は、上記の光源推定方法において、前記識別器は、前記識別器の学習部が、複数の画像信号と各画像信号に対応する光源の種類とからなる学習データに基づいて、特徴ベクトルから光源の種類を導くための判定基準を学習するステップと、前記識別器の識別部が、前記学習部による学習結果に基づき、前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに対応する光源の種類を判定するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、輝度と色との間の相関係数に加えて、カラーテクスチャ特徴、画像全体のカラーバランス、及びニュートラルグレー領域のカラーバランスを用いて、光源の種類を判定する。これにより、画像のカラーテクスチャが平坦で色数が少ない場合であっても、少ない計算量で精度良く光源を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態によるホワイトバランス調整装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態による光源種類推定部の機能構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態による光源種類推定処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態による特徴ベクトル算出処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態による一般的な被写体に対して赤色光源を照射して撮像した入力画像における輝度と色との相関を示すグラフである。
【図6】本実施形態による一般的な被写体に対して白色光源を照射して撮像した入力画像における輝度と色との相関を示すグラフである。
【図7】本実施形態による色−輝度相関係数をプロットした2次元散布図である。
【図8】本実施形態による特徴ベクトルの3次元プロットを示すグラフである。
【図9】輝度−色相関を説明するためのスペクトル分布の模式図である。
【図10】輝度−色相関を説明するためのスペクトル分布の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態によるホワイトバランス調整装置1の機能構成を示すブロック図である。
ホワイトバランス調整装置1は、デジタルビデオカメラ、デジタルスチルカメラやカメラ付携帯端末等の被写体光学像を変換して画像信号を電気的に出力する装置おいて、画像信号のホワイトバランスを調整する装置である。ホワイトバランス調整装置1は、レンズ101と、アイリス102と、撮像素子103と、AGC(Automatic Gain Control)部104と、前処理部105と、画像情報算出部106と、照度検出部107と、駆動部108と、光源種類推定部109と、ホワイトバランスゲイン算出部111と、ホワイトバランス制御部112と、色補正制御部113と、ガンマ補正制御部114と、出力部115とを含んで構成される。
【0031】
レンズ101は、撮像素子103の受光面に光学像を導く。アイリス102は、レンズ101から撮像素子103への光の出力を調整する。撮像素子103は、その受光面に結像した光学像を光電変換して画像信号を生成し、生成した画像信号をAGC部104へ出力する。AGC部104は、照度検出部107により検出された照度に基づいて、入力された画像信号のレベルを一定にし、レベルを一定にした画像信号を前処理部105に出力する。前処理部105は、入力された画像信号に対してノイズ除去、欠陥補正、及びシェーディング補正等の前処理を行い、前処理した画像信号を画像情報算出部106とホワイトバランス制御部112とに出力する。
【0032】
画像情報算出部106は、入力された画像信号を縮小してホワイトバランス算出用の縮小画像信号を生成し、生成した縮小画像信号を照度検出部107と光源種類推定部109とホワイトバランスゲイン算出部111とに出力する。照度検出部107は、入力された縮小画像信号に基づいて露出処理に用いる照度を算出し、算出した照度をAGC部104と駆動部108とホワイトバランスゲイン算出部111とに出力する。駆動部108は、入力された照度に基づいてアイリスを駆動し、露出を調整する。
【0033】
光源種類推定部(光源推定装置)109は、入力された縮小画像信号を用いて「輝度−色相関」原理を基にした画像特徴量(特徴ベクトル)を算出し、光源種類(光源の種類)が白色系か非白色系かを判定する。そして、光源種類推定部109は、判定結果をホワイトバランスゲイン算出部111へ出力する。光源種類推定部109の詳細については後述する。
【0034】
ホワイトバランスゲイン算出部111は、光源種類推定部109により判定された光源種類と照度検出部107により検出された照度とに基づいて、ホワイトバランスゲインを算出する。具体的には、ホワイトバランスゲイン算出部111は、光源種類に対応するホワイトバランスゲインをホワイトバランスチューニングパラーメータ記憶部110から読み出し、読み出したホワイトバランスゲインをホワイトバランス制御部112に出力する。ホワイトバランスチューニングパラーメータ記憶部110は、光源種類毎に最適化されたホワイトバランスゲインを示すホワイトバランスチューニングパラメータを記憶する。
【0035】
なお、本実施形態では、ホワイトバランスゲイン算出部111は、ホワイトバランスチューニングパラーメータに基づいて、ホワイトバランスゲインを算出しているが、一般的なホワイトバランス算出アルゴリズムを用いてホワイトバランスゲインを算出してもよい。例えば、ホワイトバランスゲイン算出部111は、縮小画像全体の色が光源種類の光源色であればカラーバランスがグレーになるようにホワイトバランスゲインを算出し、縮小画像全体の色が光源色以外の物体色であれば色味を補正せず残すホワイトバランスゲインを算出する。この方法は元のホワイトバランスアルゴリズムを変更する必要が無いので、システム親和性が高いというメリットがある。さらに別の例を説明する。光源種類が推定できると各光源を照射したときの被写体輝度(Brightness Value)の範囲を制限できる。このため、その被写体輝度範囲をパラメータとしてホワイトバランスゲイン算出に用いることが考えられる。一般的なホワイトバランス算出アルゴリズムでは被写体輝度から光源種別を推定するロジックを含むことが多いが、カメラシステムによってはレンズ101と本体(撮像素子103以降)が通信できないために被写体輝度を取得できず、ホワイトバランス算出の精度に影響が出る場合がある。本例によれば、光源種類を推定することにより被写体輝度範囲をある程度推定するため、ホワイトバランス算出の精度劣化を防ぐことができる。
【0036】
ホワイトバランス制御部112は、入力されたホワイトバランスゲインに基づき、前処理部105から入力された画像信号に対しホワイトバランス調整する。そして、ホワイトバランス制御部112は、ホワイトバランス調整した画像信号を色補正制御部113に出力する。色補正制御部113は、入力された画像信号を色補正し、色補正した画像信号をガンマ補正制御部114に出力する。ガンマ補正制御部114は、入力された画像信号をガンマ補正し、ガンマ補正した画像信号を出力部115に出力する。出力部115は、入力された画像信号を外部記憶媒体、ディスプレイ、又はネットワーク等に出力する。
【0037】
図2は、本実施形態による光源種類推定部109の機能構成を示すブロック図である。
光源種類推定部109は、時系列データバッファ202と、輝度むら解析部203と、特徴量算出部204と、識別器211とを含んで構成される。
時系列データバッファ202は、縮小画像信号201を入力とし、入力された縮小画像信号の画像データ(以下、縮小画像データとする)をフレーム毎に時系列に記憶する。時系列データバッファ202は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)等のフラッシュメモリ上に確保されたリングバッファであり、所定フレーム数の画像データを格納することができる。時系列データバッファ202に記憶された縮小画像データは、順次輝度むら解析部203に入力される。
【0038】
輝度むら解析部203は、フレーム単位で輝度一定領域とハイライト画素とを特定する。輝度一定領域とは、光源の位置を仮定したときに、輝度が一定になる領域である。また、ハイライト画素とは、2色性反射モデル(例えば、S.A.Shafer, “Using color to separate reflection components,” in COLOR Research and Application, Vol.10, No.4, pp.210-218, 1985.参照)等によって得られる極端に明るい画素である。そして、輝度むら解析部203は、特定した輝度一定領域の情報(面積、座標)である輝度むら情報とハイライト画素の情報(座標)であるハイライト画素情報と縮小画像データとを特徴量算出部204に出力する。輝度むら解析部203における処理の詳細は後述する。
【0039】
特徴量算出部204は、縮小画像データにおける光源種類を判定するための特徴量(以下、特徴ベクトルとする)を算出し、算出した特徴ベクトルを識別器211に出力する。特徴量算出部204は、輝度−色相関算出部205と、テクスチャ解析部206と、平均色算出部207と、ニュートラルグレー領域探索部208と、カラーバランス算出部209と、特徴ベクトル算出部210とを含んで構成される。
【0040】
輝度−色相関算出部205は、時系列に並べられたK(Kは2以上の整数)フレームの縮小画像データと、各縮小画像データに対応する輝度むら情報と、各縮小画像データに対応するハイライト画素情報とに基づいて、輝度と色の間の相関を示す輝度−色相関係数を算出する。この輝度−色相関係数は、カラーテクスチャの多い(色数の多い)画像に対して精度良く光源種類を推定できる特徴量である。そして、輝度−色相関算出部205は、算出した輝度−色相関係数を特徴ベクトル算出部210に出力する。輝度−色相関算出部205における処理の詳細については後述する。
【0041】
テクスチャ解析部206は、時系列に並べられたKフレームの縮小画像データからカラーテクスチャ特徴を算出し、算出したカラーテクスチャ特徴を特徴ベクトル算出部210に出力する。カラーテクスチャ特徴は、色の多様性を表す指標である。テクスチャ解析部206における処理の詳細については後述する。
【0042】
平均色算出部207は、縮小画像データにおけるRGBチャネルそれぞれの平均色を算出し、算出した平均色と縮小画像データとをカラーバランス算出部209に出力する。ニュートラルグレー領域探索部208は、縮小画像データにおけるニュートラルグレー(灰色)領域を探索し、縮小画像データにニュートラルグレー領域があるか否かを判定する。ニュートラルグレー領域は、平均色が灰色である領域である。そして、ニュートラルグレー領域探索部208は、ニュートラルグレー領域の有無と縮小画像データとをカラーバランス算出部209に出力する。
【0043】
カラーバランス算出部209は、平均色算出部207が算出したRGBチャネルそれぞれの平均色から、縮小画像データにおける画像全体のカラーバランスを算出する。また、カラーバランス算出部209は、ニュートラルグレー領域探索部208が探索したニュートラルグレー領域のカラーバランスを算出する。そして、カラーバランス算出部209は、算出した画像全体のカラーバランスとニュートラルグレー領域のカラーバランスとを特徴ベクトル算出部210に出力する。カラーバランスの算出方法の詳細については後述する。画像全体のカラーバランスとニュートラルグレー領域のカラーバランスとの組は、カラーテクスチャの少ない画像に対して精度良く光源種類を推定できる特徴量である。
【0044】
特徴ベクトル算出部210は、輝度−色相関算出部205により算出された輝度−色相関と、テクスチャ解析部206により抽出されたカラーテクスチャ特徴と、カラーバランス算出部209により算出されたカラーバランスとに基づいて、特徴ベクトル(輝度−色相関,カラーテクスチャ特徴,画像全体のカラーバランス,ニュートラルグレー領域のカラーバランス)を生成し、識別器211の学習部212又は識別部215に出力する。
【0045】
識別器211は、複数の画像データの特徴ベクトルと各画像データに対応する光源種類(教示データ)とからなる学習データに基づいて、特徴ベクトルから光源種類を導くための判定基準を機械学習する。このとき、識別部11は、ブースティング(Boosting)、サポート・ベクター・マシーン(SVM)、決定木(Decision Tree)、あるいは決定木を拡張したRandom Forest等を用いて機械学習する。そして、識別器211は、学習した結果に基づいて、特徴量算出部204により入力された特徴ベクトルに対応する光源種類を判定する。識別器211は、学習部212と、識別部215とを含んで構成される。なお、識別器211は、本実施形態では機械学習しているが、例えばマニュアル操作によって判断基準に基づいて光源種類を判定してもよい。
【0046】
学習部212は、学習データに基づいて、特徴ベクトルから光源種類を導くための判定基準を機械学習し、この学習結果を学習結果記憶部214に書き込む。学習結果記憶部214は、ホワイトバランス調整装置1の外部にある外部記憶装置であり、学習部212による学習結果を記憶する。なお、学習部212は、学習に続いて光源種類推定処理をする場合には、ホワイトバランス調整装置1内に設けられたフラッシュメモリ等に学習結果を書き込む。
【0047】
識別部215は、学習部212による学習結果に基づいて、特徴ベクトル算出部210により入力された特徴ベクトルに対応する光源種類を判定し、判定結果をホワイトバランスゲイン算出部111に出力する。例えば、識別部215は、特徴ベクトル(輝度−色相関,カラーテクスチャ特徴,画像全体のカラーバランス,ニュートラルグレー領域のカラーバランス)において、カラーテクスチャ特徴が大きい(カラーテクスチャが多い)場合には輝度−色相関に対する重みを重くして光源種類を判定し、カラーテクスチャ特徴が小さい(カラーテクスチャが少ない)場合には画像全体のカラーバランスとニュートラルグレー領域のカラーバランスとの組に対する重みを重くして光源種類を判定する。
【0048】
次に、図3を参照して、光源種類推定部109による光源種類推定処理について説明する。図3は、本実施形態による光源種類推定処理の手順を示すフローチャートである。
まず、識別部215が、学習結果記憶部214から学習結果を読み込む(ステップS10)。次に、光源種類推定部109は、時系列データバッファ202へ縮小画像データを書き込む(ステップS20)。
【0049】
次に、光源種類推定部109は、時系列データバッファ202に書き込んだ縮小画像データ数が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS30)。縮小画像データ数が閾値以上であればステップS40へ進み、縮小画像データ数が閾値未満であればステップS20へ戻る。この分岐の目的は、後述する輝度−色相関係数の算出を安定して行うために、十分な数のデータを確保することである。
【0050】
次に、輝度むら解析部203が、輝度むら解析によりフレーム単位で輝度一定領域とハイライト画素とを特定する(ステップS40)。具体的には、輝度むら解析部203は、次の領域近似方法を用いて輝度一定領域を特定する。輝度むらは、光源位置、物体の形状・配置に依存する。このため、この領域近似方法では、光源位置について正面を中心として上下左右の8方向とした場合を想定し、さらに物体の奥行きサイズはカメラから物体までの距離と比較して十分小さいものと仮定し、画像上で水平・垂直・斜め方向のいずれかの方向において照明強度が一定であると仮定した上で、輝度一定領域を特定する。
なお、この方法に限らず、他の領域近似方法を用いて輝度一定領域を特定してもよい。例えば、画像の領域分割を行う領域近似方法がある。この領域近似方法は、影の領域や鏡面反射で白飛びしている領域を領域分割し、輝度レベルが一定の領域のみを用いる手法である。影の領域は色や輝度のクラスタリングで求めることができる。また、鏡面反射している領域は例えば、2色性反射モデルを用いて推定することができる。なお、これら2つの領域近似手法を併用してもよい。
【0051】
次に、特徴量算出部204が、輝度一定領域の情報である輝度むら情報と、ハイライト情報と、縮小画像データとに基づいて、光源種類を判定するための特徴ベクトルを算出する(ステップS50)。この特徴ベクトル算出処理の詳細は後述する。
次に、識別部215が、読み込んだ学習結果に基づいて、算出された特徴ベクトルに対するスコアを光源種類毎に算出する(ステップS60)。そして、識別部215は、光源種類毎に算出されたスコアに基づき、光源種類を判定する(ステップS70)。具体的には、識別部215は、スコアの高い光源種類を、算出された特徴ベクトルに対応する光源種類とする。
【0052】
次に、図4を参照して、上述したステップS50における特徴ベクトル算出処理について説明する。図4は、本実施形態による特徴ベクトル算出処理の手順を示すフローチャートである。
まず、特徴量算出部204は、輝度むら解析部203から、時系列に並べられたKフレームの縮小画像データと、各縮小画像データに対応する輝度むら情報と、各縮小画像データに対応するハイライト画素情報とを取得する(ステップS100,S110,S120)。次に、特徴量算出部204は、輝度−色相関算出処理と、カラーテクスチャ解析処理と、画像全体のカラーバランス算出処理と、ニュートラルグレー領域のカラーバランス算出処理とを並行して行う。なお、本実施形態では、輝度−色相関算出処理と、カラーテクスチャ解析処理と、画像全体のカラーバランス算出処理と、ニュートラルグレー領域のカラーバランス算出処理とを並行して行うが、1処理ずつ順に行ってもよい。
【0053】
[輝度−色相関算出処理(ステップS140)]
まず、輝度−色相関算出処理について説明する。
輝度−色相関算出部205は、時系列に並べられたKフレームの縮小画像データと、各縮小画像データに対応する輝度むら情報と、各縮小画像データに対応するハイライト画素情報とに基づいて、輝度−色相関係数を算出する(ステップS140)。
ここで、Kフレームの縮小画像データを用いるのは、後述する相関係数の算出を安定して行うためである。相関係数の算出は、データ分布が正規分布でなければ安定して行うことができないが、相関係数の算出に用いるデータ数が少ないと、データ分布が正規分布になっているかがわからない。このため、複数のフレームを用いて、相関係数を算出するためのデータ数を確保する。また、時系列データを用いる理由は、手振れ、シーン内に存在する被写体の運動、及び照明条件の変化等によって生じる画像情報の時間変化に対応するためである。
【0054】
具体的には、まず、輝度−色相関算出部205は、輝度一定領域以外の領域とハイライト画素とを各縮小画像データから除去する。これは、光源位置が偏っている場合や物体表面の反射特性に極端に差がある場合等には、撮像画像の輝度分布に大きな差が生じ(シェーディング)、輝度と色味のデータ分布が正規分布にならず輝度−色相関係数の算出が不安定になるためである。
次に、輝度−色相関算出部205は、輝度一定領域以外の領域とハイライト画素とを除去した各縮小画像データを縦横にN(Nは2以上の整数)分割する。以下、分割した領域を分割ブロックとする。なお、Nの値は任意であり、例えば画素を1分割ブロックとしてもよい。そして、輝度−色相関算出部205は、分割ブロックi(i=1,2,…,N×K)毎にRチャネルの平均値Rと、Gチャネルの平均値Gと、Bチャネルの平均値Bとを算出する。そして、輝度−色相関算出部205は、次の式(1)により各分割ブロックiの輝度Lumを算出する。
【0055】
【数1】

【0056】
次に、輝度−色相関算出部205は、次の式(2)により、各分割ブロックiの赤みRednessを算出する。
【0057】
【数2】

【0058】
次に、輝度−色相関算出部205は、次の式(3)により、各分割ブロックiの青みBluenessを算出する。
【0059】
【数3】

【0060】
次に、輝度−色相関算出部205は、輝度Lumと赤みRednessの相関係数Fを次の式(4)で表されるピアソンの積率相関係数により算出する。
【0061】
【数4】

【0062】
以下、式中の文字上部に「−」が付いた文字は、文中において文字の前に(−)を記載して示す。nはデータ数であり、n=N×Kである。(−)Lumは、輝度Lumの平均値である。(−)Rednessは、赤みRednessの平均値である。
【0063】
そして、輝度−色相関算出部205は、輝度Lumと青みBluenessの相関係数Fを次の式(5)で表されるピアソンの積率相関係数により算出する。
【0064】
【数5】

【0065】
ただし、(−)Bluenessは、青みBluenessの平均値である。
【0066】
最後に、輝度−色相関算出部205は、輝度−色相関係数F=(F,F)とする。相関係数の算出には式(4)及び式(5)で示されるピアソンの積率相関係数を用いるが、これはデータの正規分布性を仮定している。そのため、データ数が少なかったり、はずれ値(Outlier)が存在したりする場合には正しい相関係数を算出できない場合がある。このため、本実施形態では、時系列バッファへの画像保存(ステップS20)によりデータ数を確保して、相関係数を算出している。また、輝度むら解析(ステップS40)による輝度の変動とハイライト画素とを除去することにより、相関係数算出の誤差要因を低減する。
なお、これらの要因以外にはずれ値が混入する可能性がある。例えばシーン中に自発光する領域が存在する場合である。このような場合には輝度むら解析ではデータのはずれ値を特定できないため、データの分布が正規分布にならない可能性がある。そのため、このような場合には、データの正規分布性を仮定しないスピアマンの順位相関係数を用いてもよい。
【0067】
図5は、本実施形態による一般的な被写体に対して赤色光源を照射して撮像した入力画像における輝度と色との相関を示すグラフである。
図5(a)は、様々な色を含む一般的な被写体に対して赤色光源(ここではハロゲンランプ)を照射して撮像した入力画像である。図5(b)は、図5(a)に示す入力画像における輝度Lumに対する赤みRednessの変化をプロットしたグラフである。このグラフにおける縦軸は赤みRednessであり、横軸は輝度Lumである。本図に示すように、輝度Lumと赤みRednessは正の相関を持つ。図5(c)は、図5(a)に示す入力画像における輝度Lumに対する青みBluenessの変化をプロットしたグラフである。このグラフにおける縦軸は青みBluenessであり、横軸は輝度Lumである。本図に示すように、輝度Lumと青みBluenessは負の相関を持つ。
【0068】
図6は、本実施形態による一般的な被写体に対して白色光源を照射して撮像した入力画像における輝度と色との相関を示すグラフである。
本図に示すグラフは、図5(a)に示す様々な色を含む一般的な被写体に対して白色光源(ここでは色温度5,500[K]の白色光源)を照射して撮像した入力画像Hにおける輝度に対する色の変化を示す。図6(a)は、入力画像Hにおける輝度Lumに対する赤みRednessの変化をプロットしたグラフである。このグラフにおける縦軸は赤みRednessであり、横軸は輝度Lumである。本図に示すように、輝度Lumと赤みRednessとには相関関係が見られない。また、図6(b)は、入力画像Hにおける輝度に対する青みの変化をプロットしたグラフである。このグラフにおける縦軸は青みBluenessであり、横軸は輝度Lumである。本図に示すように、輝度Lumと青みBluenessとには相関関係が見られない。
これらのことから、赤色光源を照射したときのみ輝度−色相関が生じることが確認できる。
【0069】
図7は、本実施形態による色−輝度相関係数をプロットした2次元散布図である。
この2次元散布図のグラフにおける横軸は輝度と赤みの相関係数Fであり、縦軸は輝度と青みの相関係数Fである。プロットの凡例は5種類あり、赤色光源を照射して撮像した3つの被写体(様々な色を含む被写体、24色マクベスカラーチャート、グレーチャート)、および白色光源を照射して撮像した2つの被写体(様々な色を含む被写体、赤色の被写体(赤系物体))である。一つの凡例あたり、撮像位置を変えて10枚の画像を撮像した。本図から、赤色光源で撮像した凡例は、輝度−赤み相関が大きく、かつ輝度−青み相関が小さいため、プロットがグラフの右下の領域に集中することがわかる。一方、白色光源で撮像した凡例は、プロットがグラフ右下の領域以外の領域に散らばることがわかる。よって、図7に示すグラフの右下領域を検出する識別境界を学習部212で指定できれば、その領域に入ったプロットを赤色光源と判定できる。しかし、図7では、赤色光源のプロットと白色光源のプロットとが一部右下領域で混じっている。この現象の要因として、テクスチャレスの被写体に含まれる色の数が少ないため相関係数算出が不安定になり、白色光源を照射しているにも関わらず偶然輝度−赤み相関の値が大きくなることが考えられる。そこで、輝度−色相関特徴を補完するためにカラーテクスチャ特徴、画面全体のカラーバランス、ニュートラルグレー領域のカラーバランスの3つの特徴量を導入する。
【0070】
[カラーテクスチャ解析処理(ステップS150)]
図4に戻り、次に、カラーテクスチャ解析処理について説明する。
テクスチャ解析部206が、時系列に並べられたKフレームの縮小画像データのカラーテクスチャ解析を行う(ステップS150)。まず、テクスチャ解析部206は、縮小画像データのRGB信号をHSV信号に変換する。HはHue(色相)、SはSaturation(彩度)、VはVlightness(輝度)を表す。次に、テクスチャ解析部206は、H成分の値域を量子化ステップで量子化し、L個のビンからなるヒストグラムを生成する。そのヒストグラムをh(i)(i=1,2,…,L)とする。そして、テクスチャ解析部206は、このヒストグラムから、ノイズとみなす画素、ここでは極端に暗い、または明るい画素の影響をキャンセルした相対ヒストグラムp(i)を次の式(6)より算出する。
【0071】
【数6】

【0072】
ただし、Mは縮小画像データ中に含まれる画素数であり、eはノイズとみなす画素の数である。続いて、テクスチャ解析部206は、次の式(7)で表されるエントロピーEを算出する。
【0073】
【数7】

【0074】
このエントロピーEが、色の多様性を示すカラーテクスチャ特徴である。次の式(8)に示すように、このエントロピーEは、ヒストグラムの各ビンの相対度数p(i)の値が等しいときに最大値Emaxをとる。すなわち、画像内にある色の種類が多いほどヒストグラムが平坦になるため、画像内にある色の種類が多いほどこのエントロピーEの値は大きい。
【0075】
【数8】

【0076】
上述した式(7)のエントロピーEを光源種類推定の特徴量として用いる理由を以下に説明する。極端な例で、もし画面全体が一色で塗りつぶされている場合、輝度と赤み(または青み)のプロットはある一点に集中してしまい、輝度と赤み(または青み)との相関係数を算出できなくなる。相関係数はある程度データの分布が広くないと算出できないが、これは画面内に複数の色が存在しなければならないことを示す。また、光源や物体表面の分光特性からも、画面全体が一色の場合は、その色が光源によるものなのか、もともとの物体の色なのかを区別できない。そこで式(7)のような色の多様性を表す指標が必要となってくる。色の多様性の指標はエントロピーに限定されるものではなく、例えば分散値も使うことができる。
【0077】
本実施形態ではカラーテクスチャ解析で算出されるエントロピーEを光源種類の推定のための特徴ベクトルの一要素としているが、輝度−色相関算出で算出される相関係数に対する重みとしてもよい。すなわち、エントロピーが大きい画素(または領域)の相関係数は信頼性が高いとみなして大きな重みを与えた上で識別部115に送り、光源種類を推定させることもできる。
【0078】
[画像全体のカラーバランス算出処理(ステップS160,S165)]
次に、画像全体のカラーバランス算出処理について説明する。
まず、平均色算出部207が、Kフレームの縮小画像データ全体におけるR信号の平均値(−)Rと、G信号の平均値(−)Gと、B信号の平均値(−)Bとを算出する。(ステップS160)。次に、カラーバランス算出部209が、画像全体のカラーバランスCB=((−)R/(−)G,(−)B/(−)G)を算出する(ステップS165)。
【0079】
画像全体のカラーバランスは灰色仮説モデル(非特許文献2)に基づいている。このモデルは、画像全体には様々な色が存在し、それらの平均値はニュートラルグレー(灰色)であるという仮説に基づいている。もし、このカラーバランスがニュートラルグレーからずれていれば、そのずれは光源色によるものと判断する。ただし、灰色仮説はシンプルで使いやすいモデルではあるが、仮に赤いレンガやカーペットが画面全体に映っていると、画面全体のカラーバランスが赤に寄るので、色かぶりが発生していると間違えることがある。このような問題を低減するために、次に説明するニュートラルグレー領域のカラーバランスを特徴量に加える。
【0080】
[ニュートラルグレー領域のカラーバランス算出処理(ステップS170〜S190)]
次に、ニュートラルグレー領域のカラーバランス算出処理について説明する。
まず、ニュートラルグレー領域探索部208が、各フレームにおけるニュートラルグレー領域の有無を判定する(ステップS170)。具体的には、ニュートラルグレー領域探索部208は、所定サイズの矩形ウィンドウを画像中で走査して、次の式(9)を満たす矩形領域がある場合にニュートラルグレー領域があると判定し、式(9)を満たす矩形領域がない場合にニュートラルグレー領域がないと判定する。
【0081】
【数9】

【0082】
iは縮小画像データのx座標値であり、jは縮小画像データのy座標値である。(−)Ri,jは、座標値(i,j)を中心とした矩形領域内のRチャネル平均値である。(−)Gi,jは、座標値(i,j)を中心とした矩形領域内のGチャネル平均値である。(−)Bi,jは、座標値(i,j)を中心とした矩形領域内のBチャネル平均値である。
【0083】
次に、カラーバランス算出部209が、ニュートラルグレー領域探索部208によりニュートラルグレー領域が有ると判定されたフレームのカラーバランスCを次の式(10)により算出する(ステップS180)。
【0084】
【数10】

【0085】
ただし、Dは縮小画像データの画像領域である。そして、カラーバランス算出部209は、各フレームのカラーバランスCの中から最小値を抽出し、抽出した最小値をニュートラルグレー領域のカラーバランスCBする(ステップS190)。
【0086】
ニュートラルグレー領域のカラーバランスは灰色仮説と輝度−色相関原理とをサポートする特徴量である。灰色仮説では、仮に赤いレンガやカーペットが画面全体に映っていると、画面全体のカラーバランスが赤に寄るので、色かぶりが発生していると間違える。このとき、もし一部でもカラーバランスがニュートラルグレーである領域(例えば、コンクリート面が少しでも見えている領域)があれば、赤いレンガやカーペットの赤色は物体色であると予想できる。逆に光源による色かぶりであれば、そのようなニュートラルグレー領域も赤みを帯びる。この識別をするために、ニュートラルグレー領域探索部208は、上述した式(9)により、ニュートラルグレー領域を探索する。
【0087】
この特徴量(ニュートラルグレー領域のカラーバランス)は、画像のカラーテクスチャが少ない場合でも有効である。このため、例えば、識別部215は、カラーテクスチャ解析で得られるエントロピーEの値が小さい場合、すなわち画像がテクスチャレスである場合にニュートラルグレー領域のカラーバランスに対して大きな重みをつけ、逆に輝度−色相関係数に対する重みを小さくする。これにより、シーンのテクスチャに依存しない光源種類推定が可能となる。
【0088】
本実施形態では、ニュートラルグレー領域探索部208は、矩形ウィンドウを画像内で走査することでニュートラルグレー領域を探索するが、このとき、走査する矩形ウィンドウがニュートラルグレー領域と色が付いている領域にまたがる場合、または動画中のあるフレームでニュートラル領域が存在しない場合には、矩形領域がニュートラルグレー領域に収まるフレームを検知する手順が考えられる。これが、上述したステップS190の最小値抽出である。
【0089】
[特徴ベクトル算出処理(ステップS200)]
最後に、特徴ベクトル算出部210が、特徴ベクトルV=(輝度−色相関係数F,カラーテクスチャ特徴E、画像全体のカラーバランスCB,ニュートラルグレー領域のカラーバランスCB)を算出し、処理を終了する(ステップS200)。なお、本実施形態では、4つの特徴量を全て特徴ベクトルとしたが、少なくとも輝度−色相関係数Fと、画像全体のカラーバランスCBと、ニュートラルグレー領域のカラーバランスCBとが特徴ベクトルに含まれていればよい。
【0090】
図8は、本実施形態による特徴ベクトルの3次元プロットを示すグラフである。
本図に示すグラフは、輝度と赤みの相関係数Fと、画像全体のカラーバランスCBと、ニュートラルグレー領域のカラーバランスCBとをそれぞれ軸とする。プロットの凡例は5種類あり、赤色光源を照射して撮像した3つの被写体(様々な色を含む被写体、24色マクベスカラーチャート、グレーチャート)、および白色光源を照射して撮像した2つの被写体(様々な色を含む被写体、赤色の被写体(赤系物体))である。一つの凡例あたり、撮像位置を変えて10枚の画像を撮像した。図8に示すように、輝度と赤みの相関係数Fに、画像全体のカラーバランスCBとニュートラルグレー領域のカラーバランスCBとを加えることで、赤色光源のプロットと白色光源のプロットとを分離しやすくなる様子が分かる。
【0091】
このように、本実施形態では、特徴量算出部204が4つの特徴量(輝度−色相関係数、カラーテクスチャ特徴、画面全体カラーバランス、ニュートラルグレー領域カラーバランス)をまとめて特徴ベクトルとし、識別部115で光源種類を判定する。このため、ホワイトバランスゲイン算出部111において光源種類毎に適切なホワイトバランスを算出できるため、カラーフェリアを低減できる。
【0092】
また、図3,4に示す各ステップを実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、光源種類推定処理又は特徴ベクトル算出処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0093】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0094】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、本実施形態では輝度−色相関原理の説明と応用方法について、赤系光源を想定して説明しているが、蛍光灯のように緑成分を多く含む光源や、屋外晴天時のように色温度が高く青成分を含む光源についても同様である。
また、本実施形態におけるホワイト調整装置1は、ハードディスクレコーダなどの電子的画像蓄積装置における画像検索や、外光に応じて画質調整を可能とする電子的映像装置等にも用いることができる。
【符号の説明】
【0095】
1…ホワイトバランス調整装置 101…レンズ 102…アイリス 103…AGC部 105…前処理部 106…画像情報算出部 107…照度検出部 108…駆動部 109…光源種類推定部 110…ホワイトバランスチューニングパラメータ記憶部 111…ホワイトバランスゲイン算出部 112…ホワイトバランス制御部 113…色補正制御部 114…ガンマ補正制御部 115…出力部 202…時系列データバッファ 203…輝度むら解析部 204…特徴量算出部 205…輝度−色相関算出部 206…テクスチャ解析部 207…平均色算出部 208…ニュートラルグレー領域探索部 209…カラーバランス算出部 210…特徴ベクトル算出部 211…識別器 212…学習部 215…識別部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を撮像する撮像素子により生成された画像信号から、輝度と色との間の相関係数を算出する輝度−色相関算出部と、
前記画像信号における画像全体のカラーバランスを算出する第1のカラーバランス算出部と、
前記画像信号において平均色が灰色の領域であるニュートラルグレー領域のカラーバランスを算出する第2のカラーバランス算出部と、
前記相関係数と、前記画像全体のカラーバランスと、前記ニュートラルグレー領域のカラーバランスとに基づく特徴ベクトルを生成する特徴ベクトル生成部と、
前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに基づき、前記画像信号における光源の種類を判定する識別器と、
を備えることを特徴とする光源推定装置。
【請求項2】
前記画像信号における色の多様性を示すカラーテクスチャ特徴を算出するテクスチャ解析部を備え、
前記特徴ベクトル生成部は、前記カラーテクスチャ特徴に基づいて、前記特徴ベクトルを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光源推定装置。
【請求項3】
前記画像信号において輝度が一定となる輝度一定領域を特定する輝度むら解析部を備え、
輝度−色相関算出部は、前記輝度むら解析部により特定された輝度一定領域において前記相関係数を算出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光源推定装置。
【請求項4】
前記撮像素子により生成された画像信号を時系列に順次記憶する時系列データバッファを備え、
輝度−色相関算出部は、前記時系列に記憶された複数の画像信号から、前記相関係数を算出する
ことを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の光源推定装置。
【請求項5】
前記識別器は、
複数の画像信号の特徴ベクトルと各画像信号に対応する光源の種類とからなる学習データに基づいて、特徴ベクトルから光源の種類を導くための判定基準を学習する学習部と、
前記学習部による学習結果に基づき、前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに対応する光源の種類を判定する識別部と、
を備えることを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の光源推定装置。
【請求項6】
光源推定装置の輝度−色相関算出部が、被写体を撮像する撮像素子により生成された画像信号から、輝度と色との間の相関係数を算出するステップと、
前記光源推定装置の第1のカラーバランス算出部が、前記画像信号における画像全体のカラーバランスを算出するステップと、
前記光源推定装置の第2のカラーバランス算出部が、前記画像信号において平均色が灰色の領域であるニュートラルグレー領域のカラーバランスを算出するステップと、
前記光源推定装置の特徴ベクトル生成部が、前記相関係数と、前記画像全体のカラーバランスと、前記ニュートラルグレー領域のカラーバランスとに基づく特徴ベクトルを生成するステップと、
前記光源推定装置の識別器が、前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに基づき、前記画像信号における光源の種類を判定するステップと、
を有することを特徴とする光源推定方法。
【請求項7】
前記光源推定装置のテクスチャ解析部が、前記画像信号における色の多様性を示すカラーテクスチャ特徴を算出するステップを有し、
前記特徴ベクトル生成部は、前記カラーテクスチャ特徴に基づいて、前記特徴ベクトルを生成する
ことを特徴とする請求項6に記載の光源推定方法。
【請求項8】
前記光源推定装置の輝度むら解析部が、前記画像信号において輝度が一定となる輝度一定領域を特定するステップを有し、
輝度−色相関算出部は、前記輝度むら解析部により特定された輝度一定領域において前記相関係数を算出する
ことを特徴とする請求項6又7に記載の光源推定方法。
【請求項9】
前記光源推定装置は、前記撮像素子により生成された画像信号を時系列に順次記憶する時系列データバッファを備え、
輝度−色相関算出部は、前記時系列に記憶された複数の画像信号から、前記相関係数を算出する
ことを特徴とする請求項6から8いずれか1項に記載の光源推定方法。
【請求項10】
前記識別器は、
前記識別器の学習部が、複数の画像信号と各画像信号に対応する光源の種類とからなる学習データに基づいて、特徴ベクトルから光源の種類を導くための判定基準を学習するステップと、
前記識別器の識別部が、前記学習部による学習結果に基づき、前記特徴ベクトル生成部により生成された特徴ベクトルに対応する光源の種類を判定するステップと、
を有することを特徴とする請求項6から9いずれか1項に記載の光源推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−134625(P2012−134625A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283123(P2010−283123)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(500548884)三星テクウィン株式会社 (156)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Techwin Co., Ltd
【住所又は居所原語表記】28 Sungju−dong,Changwon−city,Kyongsangnam−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】