説明

光硬化性樹脂組成物及びこれを用いた光硬化性樹脂組成物ワニス、光硬化性樹脂組成物硬化物

【課題】 酸素存在下における光硬化アクリレート樹脂の表面硬化性と透明性の両立を実現する光硬化性樹脂組成物とそれを用いた光硬化性樹脂組成物ワニス、光硬化性樹脂組成物硬化物を提供する。
【解決手段】 (A−1)一般式(I)に示すポリエチレンオキサイド構造を有する重合性(メタ)アクリレートまたは(A−2)一般式(II)に示すポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレートと、(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素存在下でラジカル重合可能であり、かつ重合反応の結果得られる硬化物が高い透明性を有する光硬化性樹脂組成物と、それを用いた光硬化性樹脂組成物ワニス、光硬化性樹脂組成物硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロイル基は、紫外線や電子線といった活性光線の照射、又は熱によりラジカル重合が進行し高分子量化する。熱重合に比べて光重合は反応速度が速く生産性に優れることから、光硬化アクリレート樹脂は、インキや塗料といったコーティング材、接着材、被覆材等に幅広く用いられている。
【0003】
しかしながら光硬化アクリレート樹脂を使用する場合、酸素存在下では酸素によってラジカル重合反応が阻害され、表面硬化が進行しにくいという問題があった。
【0004】
酸素阻害による表面硬化性の低下を抑制する為に、不活性ガスの封入やラミネートによる酸素の遮断、活性光源の選択、活性光線の照射条件等によってプロセス面での改善が試みられてきた。しかし、製造設備の大型化や高ランニングコストが課題となっていた。
【0005】
一方、材料面からは、パラフィンワックスの添加による表層バリアの形成が試みられたが、ヘイズが大きく透明性が低下した(非特許文献1)。また、アミン化合物やリン化合物の添加は、酸素阻害抑制には効果的であるが、得られる硬化物の黄変が大きく、耐水性の低下等の課題が解決出来ておらず、酸素存在下での表面硬化性と透明性等の諸特性を両立するには至っていない(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭46−1790号公報
【特許文献2】特公昭49−10358号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.J.Hanrahan:Overcoming the effects of oxygen on cured and uncured UV formulations,Journal of Radiation Curing、Vol.19,No.40,Spring 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するもので、酸素存在下における光硬化アクリレート樹脂の表面硬化性と透明性の両立を実現する光硬化性樹脂組成物とそれを用いた光硬化性樹脂組成物ワニス、光硬化性樹脂組成物硬化物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定構造の(メタ)アクリレートと特定構造の光開始剤を組み合わせて用いることにより表面硬化性と透明性の両立を図れることを見出した。すなわち、必須成分として(A−1)エチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造を含む重合性(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリレート重合体、並びに(B)水素引き抜き型のベンゾフェノン系光開始剤を含む光硬化性樹脂組成物において、酸素存在下での表面硬化性と透明性が両立することを見出した。
本発明は、[1] (A−1)一般式(I)に示すポリエチレンオキサイド構造を有する重合性(メタ)アクリレートと(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物に関する。
【0010】
【化1】

(一般式(I)中、aは1〜50までの正の整数を示す。)
また、本発明は、[2] (A−1)ポリエチレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリレート重合体と(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[3] (A−2)一般式(II)に示すポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレートと(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物に関する。
【0011】
【化2】

(一般式(II)中、bは1〜20までの正の整数を示す。)
また、本発明は、[4] (A−2)ポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレート重合体と(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[5] 光硬化性樹脂組成物の全量を100質量部とした場合、(B)ベンゾフェノン系光開始剤の添加量が、0.5〜3.0質量部である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[6] 光硬化性樹脂組成物の全量を100質量部とした場合、(A−1)ポリエチレンオキサイド構造または(A−2)ポリグリセロール構造が占める割合が20質量部以上である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[7] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物よりなる光硬化性樹脂組成物ワニスに関する。
また、本発明は、[8] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物からなる光硬化性樹脂組成物層を形成し、前記層に活性光線を照射して得られる光硬化性樹脂組成物硬化物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光硬化性樹脂組成物によると、酸素存在下であっても光硬化(メタ)アクリレートは酸素による重合阻害を受けることなく硬化し、かつ得られた硬化物は高い透明性を損なうことが無い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】透過光強度比の測定について説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における光硬化性樹脂組成物には、必須成分として(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造を含む重合性(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリレート重合体、並びにベンゾフェノン系光開始剤が含まれる。(A−1)エチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造は活性水素供与源となり、(B)水素引き抜き型のベンゾフェノン系光開始剤による水素引き抜き反応を促進する。
【0015】
本発明で用いるベンゾフェノン系光開始剤としては、具体的にはベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、メチル−2−ベンゾイルベンゾエイト、4−ベンゾイル−4′−メチルジフェニルサルファイド、4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、4−(p−トリルチオ)ベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、ジベンゾスベロン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン、等が挙げられる。
【0016】
これら(B)ベンゾフェノン系光開始剤の中でも、透明性の観点からは特にベンゾフェノンを用いることが好ましい。(B)ベンゾフェノン系光開始剤は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。また、ベンゾフェノン系光開始剤を1種類含んでいれば、(C)ベンゾフェノン系以外の光開始剤を併用しても良い。
【0017】
(B)ベンゾフェノン系光開始剤の添加量は、光硬化性樹脂組成物の全量を100質量部とした場合、0.5〜3.0質量部が好ましい。酸素存在下での表面硬化性と透明性を両立するには、特に1.0〜2.0質量部とすることがより好ましい。
【0018】
併用して用いられる(C)ベンゾフェノン系以外の光開始剤としては、具体的にはアセトフェノン、4,4′−ジメトキシベンジル、ジベンゾイル、2−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2−イソプロポキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、2−ベンゾイル安息香酸、4−ベンゾイル安息香酸、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、2,2′−ビス(2−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,2′−ビイミダゾール、2,3−ボルナンジオン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセナート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホン酸、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2−エチルアントラキノン、9−フルオレノン、2−「2−(フラン−2−イル)ビニル」−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−イソニトロソプロピオフェノン、4−イソプロピル−4′−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、2−イソプロピルチオキサントン、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、N−メチルアクリドン、2−ベンゾイル安息香酸メチル、2−[2−(5−メチルフラン−2−イル)ビニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−メチル−4′−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン、ニフェジピン、2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン、2−ピリジルトリブロモメチルスルホン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、トリブロモメチルフェニルスルホン、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、トリ−p−トリルスルホニウムヘキサフルオロホスファート、トリ−p−トリルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート,2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0019】
光硬化性樹脂組成物の内部硬化性を高めるという観点からは、特に2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドを併用することが好ましい。
【0020】
本発明で用いる(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリレート重合体の(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタアクリレート、それらの混合物を示す。
重合性(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリレート重合体には、必須の構造として(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造が含まれる。(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造は、(B)水素引き抜き型のベンゾフェノン系光開始剤に対して活性水素供与源として働く。(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造を含むのであればアクリレート化合物は、重合性(メタ)アクリレートであっても、(メタ)アクリレート重合体であってもどちらでも良い。
【0021】
(A−1)ポリエチレンオキサイド構造は、具体的には、一般式(I)で示される。(A−1)ポリエチレンオキサイド構造を含む重合性(メタ)アクリレートとしては、具体的にはポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、フェニルフェノールポリエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、酸素存在下での表面硬化性の観点から、アクリレート化合物を使用した方がより好ましい。
【0022】
【化3】

(一般式(I)中、aは1〜50までの正の整数を示す。)
【0023】
(A−2)ポリグリセロール構造は、一般式(II)で示される。(A−2)ポリグリセロール構造を含む重合性(メタ)アクリレートとしては、具体的にはポリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ポリグリセロール変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、酸素存在下での表面硬化性の観点から、アクリレート化合物を使用した方がより好ましい。
【0024】
【化4】

(一般式(II)中、bは1〜20までの正の整数を示す。)
【0025】
上記重合性(メタ)アクリレートは、(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、又は(A−2)ポリグリセロール構造を含まない(C−1)重合性(メタ)アクリレート、或いは(C−2)(メタ)アクリレート重合体と混合して用いても良いが、酸素存在下での表面硬化性の観点から、(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、又は(A−2)ポリグリセロール構造が占める割合は、光硬化性樹脂組成物の全量100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、酸素存在下での表面硬化性と透明性を両立するには50質量部以上であることがより好ましい。光硬化性樹脂組成物中に占める(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造の割合が大きいと、水素引き抜きが起こる確率が増す為、表面硬化性が向上する。また、それに伴って光開始剤の添加量を低減出来ることから透明性も向上する。また、同様の理由で、(C−1)重合性(メタ)アクリレートは、アクリレート化合物を使用した方がより好ましい。加える(C−1)重合性(メタ)アクリレート、或いは(C−2)(メタ)アクリレート重合体は、得られる硬化物の弾性率等の特性から任意に選択する事が出来る。
【0026】
(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、又は(A−2)ポリグリセロール構造を含む(メタ)アクリレート化合物が反応性を持たない(メタ)アクリレート重合体としては、具体的にはポリエチレングリコール(メタ)アクリレート重合体、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート重合体、或いは前記ポリエリレングリコール(メタ)アクリレートを必須成分として含む(メタ)アクリレート共重合体、ポリグリセロール(メタ)アクリレート重合体、前記ポリグリセロール(メタ)アクリレートを必須成分として含む(メタ)アクリレート共重合体が挙げられる。
【0027】
(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造を含む(メタ)アクリレート化合物が反応性を持たない(メタ)アクリレート重合体である場合は、これとは別に(C−1)重合性(メタ)アクリレートを光硬化性樹脂組成物中に加えれば良い。加える(C−1)重合性(メタ)アクリレートは、得られる光硬化性樹脂組成物の硬化物の弾性率等の特性から任意に選択する事が出来る。
【0028】
(A−1)ポリエチレンオキサイド構造、或いは(A−2)ポリグリセロール構造を含む(メタ)アクリレート重合体と混合する(C−1)重合性(メタ)アクリレートとしては、該(メタ)アクリレート重合体と相溶性を示すものであれば特に限定は無いが、酸素存在下での表面硬化性の観点からアクリレートを使用した方が好ましい。
【0029】
光硬化性樹脂組成物は、無溶剤ワニスであっても、有機溶剤を含むワニスであっても良い。光開始剤が(メタ)アクリレートと混合しにくい場合は、任意の有機溶剤に予め溶解させておいてから(メタ)アクリレートと混合することが出来る。
【0030】
使用できる有機溶剤としては、必須成分である(A−1)ポリエチレンオキサイド構造または(A−2)ポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレートとの相溶性、光開始剤の溶解性が良好であれば特に制限は無い。使用できる有機溶剤としては、具体的には、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコールアルキルエーテルアセテート;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド;トルエン,キシレン,フェノール、クレゾール、ベンゼン、ベンジルアルコール等の芳香族系が挙げられる。
【0031】
有機溶剤を含む光硬化性樹脂ワニスは、活性光線を照射する前に樹脂組成物の成分が揮発しない程度の温度で加熱乾燥して有機溶剤を除去し、光硬化性樹脂組成物からなる光硬化性樹脂組成物層を形成してから活性光線を照射すれば良い。これによって得られる硬化物は、表面硬化性や透明性等の特性に特に問題が認められることは無い。
【0032】
光重合に用いる活性光線の活性光源としては、高圧水銀灯、或いは超高圧水銀灯が指定され、その他に、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、キセノンランプ等の紫外線を有効に放射するものが用いられる。また酸素存在下での表面硬化を促進するには、照度が300mW/cm以上、積算光量が500mJ/cm以上と規定される。この規定以上であれば、酸素存在下であっても良好な表面硬化性を達成することが出来る。
【0033】
本発明の光硬化性樹脂組成物、及び光硬化性樹脂組成物ワニスには、上記成分以外にもその目的用途に合わせて、酸化防止剤や紫外線吸収剤、光安定剤、保存安定剤、金属不活性化剤、滑剤、可塑剤、フィラー、顔料、染料などの添加剤を加えても良い。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)樹脂ワニスの調製
30mLスクリュー管に、(A−1)ポリエチレンオキサイド構造を有する重合性(メタ)アクリレートとしてアクリレートモノマー20.0g(ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、FA−324A:日立化成工業株式会社製)、(B)ベンゾフェノン系光開始剤としてベンゾフェノン2.4g(和光純薬工業株式会社製)を加え、自公転ミキサーを用いて均一になるまで攪拌し光硬化性樹脂組成物の樹脂ワニスを作製した。
(2)樹脂成型物の作製
前記(1)で調製した樹脂ワニスを、ガラス基板上に設置した10mm×100mm×0.5mmサイズのシリコンゴム型中に、所定量注入した。注入した樹脂ワニスに、コンベア式露光機(ECS301G1、アイグラフィックス株式会社製)を用いて紫外光を照射し樹脂成型物を得た。なお紫外線照射条件は、照度が620mW/cm、積算光量が950mW/cmであった。
(3)表面硬化性の評価
前記(2)で作製した樹脂成型物の表面に薬包紙を押し当て、表面硬化性を評価した。押し当てた薬包紙に未硬化樹脂ワニスの付着が認められる場合は硬化不十分として「×」で、未硬化ワニスの付着は無いが樹脂成型物表面に押し跡が残る場合は「△」で、未硬化ワニスの付着、及び押し跡の残りが見られない場合を表面硬化性良好として「○」と判定し評価した。
(4)樹脂成型物の透過光強度比の測定
透過光強度比の測定について図1を用いて説明する。図1は、白色LED透過光強度比を測定する装置の平面図(上)及び正面図(下)である。(2)で得られた成型物を基板1上に載置し、サイド発光型白色LED光源2を入力電流15mAにて発光させて白色LED光(光源の透過光強度比=4.2)を入光した。反対側の端面から出射した光のスペクトルをマルチ測光システムMCPD−3000(大塚電子株式会社製)を用いて測定した。出射光のピーク強度から、透過光強度比を以下式に従って算出した。
透過光強度比=(Int460/Int560
(Int460:460nm付近に見られる主にB帯に起因するピークの強度
Int560:560nm付近に見られる主にG帯、R帯の混合光に起因するピークの強度。)
透過光強度比は1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。そこで、透過光強度比が1.5未満のものは「×」として、1.5〜2.0未満のものは「△」として、2.0以上のものは「○」として評価した。
【0035】
実施例1で述べた手順に従い、表1に示した配合により実施例2から6、並びに比較例1〜3の成型物を作製し同様に評価した。それらの測定結果をまとめて表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
(A−1−1):ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、日立化成工業株式会社製FA−324A(下記参照)
(A−1−2):ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタアクリレート、日立化成工業株式会社製FA−3218M(下記参照)
(A−1−3):ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、日立化成工業株式会社製FA−321A(下記参照)
(A−2−1):トリグリセロールジアクリレート、共栄社化学株式会社製80MFA
(B−1):ベンゾフェノン、和光純薬工業株式会社製
(B−2):4−フェニルベンゾフェノン、ランブソン社製SpeedcurePBZ
(C−1):2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、共栄社化学株式会社製HOA−HH
(C−2):ポリプロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、日立化成工業株式会社製FA−P324A(下記参照)
(C−3):水添ポリブタジエンジアクリレート、大阪有機化学工業株式会社製SPBDA−30
(D−1):2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド、BASFジャパン株式会社製DarocureTPO
(D−2):グリオキシエステル系光開始剤。オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステル、オキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物、BASFジャパン株式会社製、Irgacure754
【0038】
【化5】

【0039】
比較例1に挙げたように光開始剤に(B)ベンゾフェノン系ではない光開始剤を用いた場合は、硬化物の透明性が大幅に低下した。また、比較例2、3に挙げたように、(A−1)ポリエチレンオキサイド構造を有する重合性(メタ)アクリレートまたは(A−2)ポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレートとは異なる活性水素源となりにくい重合性アクリレートを用いた場合は、酸素存在下で所望の表面硬化性を得ることが出来ず、表面に硬化樹脂ワニスが残存し、ベタツキが認められた。
これに対して、実施例1から6に挙げたように、光開始剤に(B)ベンゾフェノン系開始剤を用い、(A−1)ポリエチレンオキサイド構造を有する重合性(メタ)アクリレートまたは(A−2)ポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレートを用いた本発明により得られた光硬化性樹脂組成物の硬化物は、酸素存在下であっても良好な表面硬化性を示し、かつ、高い透明性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上に示したように、ポリエチレンオキサイド構造、又はポリグリセロール構造を含む(メタ)アクリレートとベンゾフェノン系光開始剤を必須成分とする光硬化性樹脂組成物及び光硬化性樹脂組成物ワニスにおいて、酸素存在下での表面硬化性と透明性の両立を達成することができ、インキや塗料といったコーティング材、接着材、被覆材等に用いることができ、また、感光性樹脂組成物にも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1.基板
2.サイド発光型白色LED光源
3.成型物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A−1)一般式(I)に示すポリエチレンオキサイド構造を有する重合性(メタ)アクリレートと(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物。
【化1】

(一般式(I)中、aは1〜50までの正の整数を示す。)
【請求項2】
(A−1)ポリエチレンオキサイド構造を有する(メタ)アクリレート重合体と(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(A−2)一般式(II)に示すポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレートと(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物。
【化2】

(一般式(II)中、bは1〜20までの正の整数を示す。)
【請求項4】
(A−2)ポリグリセロール構造を有する(メタ)アクリレート重合体と(B)ベンゾフェノン系光開始剤を必須成分として含む光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
光硬化性樹脂組成物の全量を100質量部とした場合、(B)ベンゾフェノン系光開始剤の添加量が、0.5〜3.0質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
光硬化性樹脂組成物の全量を100質量部とした場合、(A−1)ポリエチレンオキサイド構造または(A−2)ポリグリセロール構造が占める割合が20質量部以上である請求項1〜5のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物よりなる光硬化性樹脂組成物ワニス。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物からなる光硬化性樹脂組成物層を形成し、前記層に活性光線を照射して得られる光硬化性樹脂組成物硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−241127(P2012−241127A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113465(P2011−113465)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】