説明

光解離性保護基で誘導体化した香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質

【課題】本発明は短時間で任意の香気を発香することができる香料源物質、発香方法、発香装置に関する。
【解決手段】一般式(I)で表されるアルデヒド又はケトン香料放出用物質:


(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキ
シ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Yは、Y=Oがアル
デヒド又はケトン香料を表す2価の基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光解離性保護基で誘導体化した香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質及び局所的に香料ないし臭気物質を発生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香料物質を局所的に発生させるシステムとして、香料物質をカプセル内に封入し、このカプセルを破壊して香料物質を放出させるシステムが特許文献1に記載され、画像にふさわしい香りを供給することなどが開示されている。
【0003】
光照射により香料ないしフレグランス物質を放出させることについて特許文献2〜6が知られている。
【0004】
さらに、紫外線照射により除去可能な光感受性基を有する生理活性ペプチドが特許文献7に開示されている。
【特許文献1】特開平09-327506
【特許文献2】特表2004-513217
【特許文献3】特表2005-502768
【特許文献4】特開2001-303091
【特許文献5】特開2002-20783
【特許文献6】特表2004-537520
【特許文献7】特許2863834号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、香気成分を必要なときに発生させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、光解離性保護基を香気物質(香料、臭気物質)に導入したところ、香気物質の匂いが抑制された物質が得られた。これに光照射すると、香気物質の匂いが回復し、光によりにおいを制御することができることを明らかにした。
【0007】
本発明は、以下の香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質及び局所的に香料を発生させる方法を提供するものである。
項1. 一般式(I)で表されるアルデヒド又はケトン香料放出用物質:
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキ
シ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Yは、Y=Oがアル
デヒド又はケトン香料を表す2価の基である。)
項2. 一般式(II)で表されるアミン又はチオール系臭気物質放出用物質
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、XはOCOを示す。nは0又は1を示す。
【0012】
Zは、Z−Hが香料あるいはアミン又はチオール系臭気物質を表す基であり、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、
ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2
つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
項3. 以下の一般式(I)の化合物に光を照射することを特徴とする、局所的に香料を発
生させる方法:
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキ
シ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Yは、Y=Oがアル
デヒド又はケトン香料を表す2価の基である。)
項4. 以下の一般式(II)の化合物に光を照射することを特徴とする、局所的に臭気物質を発生させる方法:
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、XはOCOを示す。nは0又は1を示す。
【0017】
Zは、Z−Hが香料あるいはアミン又はチオール系臭気物質を表す基であり、R1、R2
、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、
ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2
つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、具体的には、以下のような用途に使用できる香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質及び局所的に香料/臭気物質を発生させる方法が提供される:
・においディスプレイ(料理番組などでテレビ/パソコンなどのディスプレイから画面に対応したにおいが出る)
・におい付き電子メール(パソコンから信号を送りにおいを発生させる)
・職場やトイレ等での環境芳香剤・デスクマット(必要時に光照射する)
・防犯ボール・スプレー(持続してにおいが発生。警察犬による追跡が容易になる)
・イベント用芳香剤1(広範囲の光照射により大人数の人が一斉ににおいを感じることができる)
・イベント用芳香剤2(広範囲の光照射により一瞬にしてにおいが変わる)
・便箋(開封前はにおい物質は保持されている)
・インク(お菓子のパッケージに印刷する)
・日焼け注意シート(帽子のひさし上面にA、下面にBを貼り、A→注意報、B→警報のようににおいの種類を変える)
・紫外線センサー(危険な紫外線を嗅覚で知らせる)
・品質管理(紫外線への曝露履歴を調べる)
・臭気判定試験の用具(必要時に光照射する)
・嗅覚研究の研究用試薬(必要時に光照射する)
また、ゲーム機等の遊戯具、テレビゲーム、ノートパソコン、デスクトップパソコン、テレビ、ラジオ、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、あるいは血圧、脳波、脈拍、脈波、体温などを測定する医療機器の測定機器と連携して、状況に応じて特定の香料ないし臭気物質を放出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、周囲の状況、あるいは画像ないし音声(音楽)ないし情報に応じて光照射することにより、その場の状況にふさわしい香りを発生させたり、ヒトの体調ないし感情、気分に影響を与える香りを放出することができる。
【0020】
具体的には、香料ないし臭気物質を光開裂する基で誘導体化して得られる香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質に光照射して香料ないし臭気物質を放出させる。
【0021】
本発明において光開裂する基は、置換されていてもよいo−ニトロベンジル基、置換されていてもよいo−ニトロベンジルオキシ基、o−ニトロベンジルオキシカルボニル基のいずれかの構造を有し、o−ニトロベンジル部分を共通に有している。また、o−ニトロベンジル部分(光解離性リンカー)の置換基を介して担体に結合してもよい(図1)。
【0022】
本発明は、香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質としてケージド化合物を使用する。ケージド化合物とは、香料化合物/臭気物質の水酸基、チオール基、アミノ基、カルボニル基(アルデヒド又はケトン)、カルボキシル基のいずれかに光解離性保護基を結合させた化合物を意味する。本発明の香料放出用物質としては、下記式(I)、(II)の化合物が
例示される:
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキ
シ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Yは、Y=Oがアル
デヒド又はケトン香料を表す2価の基である。)
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、XはOCOを示す。nは0又は1を示す。
Zは、Z−Hが香料あるいはアミン又はチオール系臭気物質を表す基であり、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハ
ロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つ
が一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。)で表される基が挙げられる。
【0027】
一般式(I)、(II)において、R1、R2、R3で表される低級アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基が挙げられる。
【0028】
低級アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルコキシ基が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、Zは、Z−Hが香料物質の場合には、香料物質のO,N,Sなどのヘテロ原子を介してXまたはCHに結合し、アミン系臭気物質の場合にはアミンの窒素原子を介してXまたはCHに結合し、チオール系臭気物質の場合にはチオールの硫黄原子を介してXまたはCHに結合し、R1、R2、R3のいずれかは担体に固定
されていてもよい。
【0030】
好ましい式(I)、(II)の基は、R1、R2、R3のいずれか2つが水素原子で、残りの1つ
が水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基で、Rが水素原子、nは0または1、Zは、Z−Hが香料あるいはアミン又はチオール系臭気物質を表す基である。
1)香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質の合成の概略
香料化合物ないし臭気物質の水酸基、カルボキシル基、チオール基又はアミノ基に光解離性保護基を導入することで、目的とする香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質(ケ
ージド化合物)を合成することができる。
【0031】
【化7】

【0032】
スキーム1において、反応は、ケトン又はアルデヒド系香料1モルに対し式(IA)のジオールを0.3モルから過剰量使用し、必要に応じて触媒及び溶媒の存在下0℃〜100
℃程度の温度下に10分から24時間程度反応させることにより、有利に進行する。触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などのアセタール、ケタールの製造に通常使用される触媒が使用できる。溶媒としては、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、アセトニトリルなどが挙げられる。
【0033】
スキーム2において、反応は、香料又は臭気物質1モルに対し式(IIA)の化合物を1
モルから過剰量使用し、0℃〜100℃程度の温度下に10分から24時間程度反応させることにより、有利に進行する。
【0034】
Leaving group (脱離基)としては、ハロゲン原子、トシル基、メシル基などが挙げられる。
【0035】
本発明の香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質は、紫外線照射により式(II)の光解離性保護基が脱離して、香料化合物ないし臭気物質が生成する。紫外線の波長としては、
280〜400nmが挙げられる。この波長の光が入っている限り香料化合物が生成するので、紫外線源としては、UVランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプのような紫外線照射のための光源でもよく、太陽光、蛍光灯などの可視光を多く含む光であっても紫外光が含まれている限り光解離性保護基の脱離に使用できる。
【0036】
本発明の局所的に香料ないし臭気物質を発生させる方法について説明する。先ず最初に、所定大きさのカード、ディスク、床、天井、壁(壁紙)などの支持体表面に、少なくとも一種の香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質を塗布ないし担持させる。担持は、支持体に含ませてもよく、シリカ、アルミナ、活性炭、ポリマーなどの粉末、粒子、ビーズなどに香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質を吸着させ、この担体を支持体に吸着、接着、ポリマーへの練り込みなどにより固定する。香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質をポリマーの一部として共有結合により結合させてもよい。
【0037】
支持体の素材としては、主として合成樹脂等の合成ポリマーが使用されるものであるが、必要に応じ、天然ポリマー、金属、厚紙、織布、不織布、木材、若しくはこれらの複合素材を使用できる。支持体上への塗布は、吸着により行ってもよく、バインダーにより行ってもよい。あるいは香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質を担持したシート/フィルムを支持体上に貼付したり、塗膜の成分としてもよい。
【0038】
香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質への光照射は、光源の光を移動して支持体上の特定の位置に紫外線を照射してもよく、支持体を回転ないし平行移動させたり、光源を回転させたり、光源からの光を光学素子(スリット、レンズなど)を動かして光源の到達する支持体上の位置を変更させてもよい。
【0039】
支持体上には、1種のみの香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質を適用してもよいが、2種以上の香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質を単独であるいは混合物として支持体上に適用し、光照射の位置を変えることで発生するにおいの種類を変更させるのが好ましい。支持体上には、2種以上、例えば数種類から数十種類、あるいは数百種類の香料源物質の混合物を適用し、光照射の位置により任意に香りを変更するようにすることができる。香料放出用物質ないし臭気物質放出用物質の混合物としては、光照射により生成する香料化合物により、森の香り、草原の香り、土の香り、海の香り、水の香り、花の香り等の環境に関係する香り、あるいは、香辛料、各種食品、各種フレーバーなどの食品・化粧品に関係する香りを感じさせるようにすることができる。
【0040】
光照射は、例えばインターネットや携帯電話、テレビやラジオなどの電波、マイクロ波などにより送られてくる情報を電気信号に変換し、これにより支持体の特定の位置に光を照射するように、制御機構を介して光照射の位置を制御することができる。あるいは、イベント会場などではその場の雰囲気に応じて光を広範囲に照射すればよい。
【0041】
光照射の位置を制御するための電気信号の入力手段としては、手動的なスイッチングによってもよいが、ゲーム機、テレビゲーム、パソコン、携帯電話などのキーボードあるいはボタンの操作、絵文字などの特殊記号、デジタルテレビにおける文字情報などに基づき自動的に光照射を制御できるようにシステム化するのが好ましい。
【0042】
光照射により発生した香りは、そのまま拡散させてもよいが、送風装置あるいは光照射位置の発熱装置などにより発生した香りを放出し、香りを速やかに感じさせるようにするのが好ましい。光は、2以上の場所に同時照射させることで、香りの種類を変更させてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1)ケージドシンナムアルデヒドの合成
ナスフラスコ(100mL)に0.66g(5mmol)のシンナムアルデヒド、1.83g(10mmol)の1-(2-ニト
ロフェニル)エタン-1、2-ジオール、0.075g(0.39mmol)のパラトルエンスルホン酸一水和
物、50mLのベンゼンを入れ、還流溶媒を脱水しながら24時間加熱還流した。放冷後溶媒を留去し、GPCによって目的物を含むフラクションを分取した。収率45%(GPCピーク面積か
ら算出)。白色ワックス状固体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ:3.87(1H, d, O-CH-O), δ:4.68(1H, t, O-CH-CH2), δ:5.74(2H, d, O-CH2-CH), δ:6.35(1H, m, CH=CH-CH),
δ:6.90(1H, d, Ar-CH=CH), δ:7.30-8.13(9H, m, Ar-H)。MS(ESI) [Found M+H+, 298.00. C17H15NO4+H+, 298.10]。
反応式
【0044】
【化8】

【0045】
実施例2)ケージドバニリンの合成
ナスフラスコ(100mL)に1.52g(10mmol)の4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド、0.92g(5mmol)の1-(2-ニトロフェニル)エタン-1,2-ジオール、0.075g(0.39mmol)のパラトルエンスルホン酸一水和物、50mLのベンゼンを入れ、還流溶媒を脱水しながら24時間加熱還流した。放冷後溶媒を留去し、GPCによって目的物を含むフラクションを分取した。収率24%(GPCピーク面積から算出)。黒褐色固体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ:1.60(1H, br, -OH), δ:3.94(3H, s, -O-CH3), δ:4.66(1H, t, CH2-CH-O), δ:5.76(2H, d, -CH2-),
δ:5.93(1H, s, O-CH-O), δ:6.95-7.16(3H, m, Ar-H), δ:7.48-8.15(4H, m, NO2-Ar-H)。MS(ESI) [Found M+H+, 318.13. C16H15NO6+H+, 318.09]。
反応式
【0046】
【化9】

【0047】
実施例3)ケージドメントンの合成
ナスフラスコ(100mL)に0.77g(5mmol)のメントン、1.83g(10mmol)の1-(2-ニトロフェニル)エタン-1,2-ジオール、0.075g(0.39mmol)のパラトルエンスルホン酸一水和物、50mLのベ
ンゼンを入れ、還流溶媒を脱水しながら24時間加熱還流した。放冷後溶媒を留去し、GPC
によって目的物を含むフラクションを分取した。収率47%(重量から算出)。淡緑色ワッ
クス状固体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ:0.88(6H, d, CH3-CH-CH3), δ:0.95(3H, d, >CH-CH3), δ:1.18-2.47(9H, m, CH2-CH-CH2-CH2-CH-, CH3-CH-CH3), δ:3.48-4.62(2H, m, O-CH2), δ:5.51(1H, t, CH2-CH-O), δ:7.46-8.07(4H, m, Ar-H)。MS(ESI) [Found M+H+, 320.13. C18H25NO4+H+, 320.18]。
反応式
【0048】
【化10】

【0049】
実施例4)ケージドオクタデシルメルカプタンの合成
ナスフラスコ(100mL)に0.29g(1mmol)のオクタデシルメルカプタン、1.08g(5mmol)の2-ニ
トロベンジルブロミド、0.212g(2mmol)の炭酸ナトリウム、50mLの乾燥アセトニトリルを
入れ、24時間加熱還流した。放冷後固形物をろ過し溶媒を留去した。GPCによって目的物
を含むフラクションを分取した。粗収率81%(オクタデシルメルカプタンの反応率を100%
としてGPCピーク面積から算出)。黒褐色固体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ:0.88(3H, t, CH3), δ:1.25-1.31(28H, br, -CH2-), δ:1.49-1.56(2H, br, -CH2CH2S), δ:2.43(2H, t, -CH2S-), δ:4.05(2H, s, Ar-CH2), δ:7.39-7.96(4H, m, Ar-H)。MS(EI) [Found M+, 421.30. C25H43NO2S, 421.30]
反応式
【0050】
【化11】

【0051】
実施例5)ケージドエチルメルカプタンの合成
ナスフラスコ(100mL)に0.31g(5mmol)のエチルメルカプタン、0.28g(1mmol)の4,5-ジメト
キシ-2-ニトロベンジルクロロフォルメート、0.32g(3mmol)の炭酸ナトリウム、50mLの乾
燥アセトニトリルを入れ、室温で12時間かくはんした。その後0.5時間加熱還流し、放冷
後溶媒を留去した。GPCによって目的物を含むフラクションを分取した。収率70%(GPCピ
ーク面積から算出:クロロフォルメート基準)。淡黄色固体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);
δ:1.34(3H, t, CH3), δ:2.92(2H, q, -CH2S-), δ:3.96(3H, s, OCH3), δ:3.99(3H, s, OCH3), δ:5.67(2H, s, Ar-CH2-), δ:7.01(1H, s, Ar-H), δ:7.74(1H, s, Ar-H)。MS(EI) [Found M+, 301.06. C12H15NO6S, 301.06]。
反応式
【0052】
【化12】

【0053】
実施例6)ケージドピペリジン(MNF)の合成
ナスフラスコ(100mL)に0.43g(5mmol)のピペリジン、0.28g(1mmol)の4,5-ジメトキシ-2-ニトロベンジルクロロフォルメート、50mLの乾燥アセトニトリルを入れ、室温で12時間かくはんした。その後0.5時間加熱還流し、放冷後溶媒を留去した。GPCによって目的物を含むフラクションを分取した。粗収率100%(GPCピーク面積から算出:クロロフォルメート基
準)。黄色結晶性固体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ:1.54-1.65(6H, m, -CH2-CH2-CH2-), δ:3.48(4H, s, -CH2N-), δ:3.96(3H, s, OCH3), δ:3.97(3H, s, OCH3), δ:5.53(2H, s ,Ar-CH2-), δ:6.99(1H, s, Ar-H), δ:7.70(1H, s, Ar-H)。MS(ESI) [Found M+H+, 325.00. C15H20N2O6+H+, 325.13]。
反応式
【0054】
【化13】

【0055】
実施例7)ケージドピペリジン(NB)の合成
ナスフラスコ(100mL)に1.7g(20mmol)のピペリジン、1.2g(5mmol)の2-ニトロベンジルブロミド、50mLの乾燥アセトニトリルを入れ、24時間加熱還流した。放冷後溶媒を留去し、GPCによって目的物を含むフラクションを分取した。収率48%(GPCピーク面積から算出:ベ
ンジルブロミド基準)。黄色粘ちょう性液体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ:1.44-1.60(6H, m, -CH2-CH2-CH2-), δ:2.44(4H, s, -CH2N-), δ:3.82(2H, s, Ar-CH2-), δ:7.28-7.83(4H, m, Ar-H)。MS(ESI) [Found M+H+, 221.20. C12H16N2O2+H+, 221.12]。
反応式
【0056】
【化14】

【0057】
実施例8)ケージドベンズアルデヒドの合成
ナスフラスコ(100mL)に3.18g(30mmoL)のベンズアルデヒド、1.83g(10mmoL)の1-(2-ニトロフェニル)エタン-1,2-ジオール、0.075g(0.39mmoL)のパラトルエンスルホン酸一水和物、50mLのベンゼンを入れ、還流溶媒を脱水しながら24時間加熱還流した。放冷後溶媒を留去し、GPCによって目的物を含むフラクションを分取した。収率40%(GPCピーク面積から算
出)。淡黄色ワックス状固体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ:3.77(1H, dd, O-CH2-), δ
:3.97(1H, dd, O-CH2-), δ:5.66(1H, t, Ar-CH-CH2), δ:5.90(1H, s, O-CH-O), δ
:7.34-8.04(9H, m, Ar-H)。MS(EI) [Found (M-1)+, 270.08. C17H15NO4-H+, 270.08]。反応式
【0058】
【化15】

【0059】
実施例9)ケージドグリコール酸エチルの合成
ナスフラスコ(100mL)に2-ニトロベンジルアルコール1.53g(10mmol)、乾燥ヘキサン50mLを入れ、撹拌しながら細切りにした金属ナトリウム0.5g(21.7mmol)を加えた。縣濁したまま室温で3時間撹拌し、その縣濁溶液にブロモ酢酸エチル1.67g(10mmol)を脱水ヘキサン10mLに溶解させたものを滴下した。溶液を12時間加熱還流し、放冷後固形物をろ別した。ろ液を集め溶媒を留去し、クロロホルムに溶解後GPCによって目的物を含むフラクションを
分取した。収率77%(GPCピーク面積から算出)。無色液体。1H-NMR(CDCl3, 500MHz);δ
:1.30(3H, t, -CH3), δ:4.25(2H, q, O-CH2-CH3), δ:4.25(2H, s, O-CH2-CO), δ:5.02(2H, s, Ar-CH2-), δ:7.32-8.08(4H, m, Ar-H)。MS(ESI) [Found M+Na+, 262.27.
C11H13NO5+Na+, 262.07]。
反応式
【0060】
【化16】

【0061】
実施例10)官能試験
1.直径6mmのろ紙に、試料のクロロホルム溶液(9種類)を染み込ませ、別々のサンプ
ル瓶(10mL)に入れた後、風乾した。
2.ろ紙の入ったサンプル瓶のにおいを嗅ぎ、においの強さを(−、±、+、++)の4段
階で評価した。
3.紫外線照射装置を用い、サンプル瓶の上方約5cmのところから30秒間波長365nmの
の紫外線を照射した。※
4.再度、ろ紙の入ったサンプル瓶のにおいを嗅ぎ、においの強さを4段階で評価した。5.においの強さの変化とともに、においそのものの変化についても検討した。結果を表1に示す。
※試料に照射された紫外線の強度は、晴れた昼間の紫外線量の約30倍である。
【0062】
【表1】

【0063】
実験例1)光照射実験
1.ケージドベンズアルデヒドのクロロホルム溶液に、内部標準として1-(2-ニトロフェ

ル)エタン-1,2-ジオールを加え、3つのサンプル瓶A、BおよびCに同量ずつ分注した

2.サンプル瓶Aの溶液をGPC(排除分子量2000)で分析した。
3.紫外線照射装置を用い、サンプル瓶Bの上方約5cmのところから5分間波長365nm
の紫外線を照射した。照射した後の溶液を同様にGPCで分析した。
4.紫外線照射装置を用い、サンプル瓶Cの上方約5cmのところから10分間波長365nm
の紫外線を照射した。照射した後の溶液を同様にGPCで分析した。
5.A〜CのGPC分析の結果を、内部標準のピーク面積で規格化し、さらに、ベンズアル
デヒドの標品のGPC分析の結果と比較した。
【0064】
この光照射実験より、ケージドベンズアルデヒドに光照射することによって、ベンズアル
デヒドの生成が確認された(図2)。
※ 試料に照射された紫外線強度は、晴れた昼間の紫外線量の約30倍である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】匂い物質を高分子担体に光解離性リンカー(o−ニトロベンジル部分を有するリンカー)を介して固定化する
【図2】ケージドベンズアルデヒドの光照射実験。 縦軸:吸光度(a.u.)。横軸:保持時間(分)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるアルデヒド又はケトン香料放出用物質:
【化1】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキ
シ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Yは、Y=Oがアル
デヒド又はケトン香料を表す2価の基である。)
【請求項2】
一般式(II)で表される香料あるいはアミン又はチオール系臭気物質放出用物質
【化2】

(式中、XはOCOを示す。nは0又は1を示す。
Zは、Z−Hが香料あるいはアミン又はチオール系臭気物質を表す基であり、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、
ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2
つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。)
【請求項3】
以下の一般式(I)の化合物に光を照射することを特徴とする、局所的に香料を発生させる
方法:
【化3】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキ
シ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Yは、Y=Oがアル
デヒド又はケトン香料を表す2価の基である。)
【請求項4】
以下の一般式(II)の化合物に光を照射することを特徴とする、局所的に臭気物質を発生させる方法:
【化4】

(式中、XはOCOを示す。nは0又は1を示す。
Zは、Z−Hが香料あるいはアミン又はチオール系臭気物質を表す基であり、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、
ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2
つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249468(P2009−249468A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97697(P2008−97697)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】