説明

光触媒用シリカガラス及びその製造方法

【課題】 光触媒反応ユニットに使用されるシリカガラスであって、光触媒の反応効率を向上させるために、250nm程度以下の光を約250nm〜450nm程度の長波長側へ効率よく波長変換することができ、それとともに、長時間紫外線を照射しても性能が低下しにくい、耐紫外線性等に優れた特性を兼ね備えた光触媒用シリカガラス、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 シリカガラスにおいて、少なくとも、前記シリカガラスは、OH基含有量が10wt.ppm以下であり、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲であり、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下であり、光触媒反応ユニットに使用されるものであることを特徴とする光触媒用シリカガラス、及び、このような光触媒用シリカガラスを製造するための光触媒用シリカガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラス及びその製造方法に関し、より詳しくは、光触媒反応ユニットに使用される光触媒用シリカガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物半導体、特に二酸化チタン(TiO)を光触媒とし、紫外線ランプ又は太陽光を励起光源とした、環境の大気や水に含まれる人体有害物質、悪臭物質等の光化学反応を応用した分解技術が注目されている。
【0003】
光触媒としては金属イオンや金属錯体なども用いられるが、最もよく使用されているのは半導体である。光触媒として用いられる半導体にはガリウムリン(GaP)、ガリウム砒素(GaAs)、硫化カドミウム(CdS)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉄(Fe)、酸化タングステン(WO)などがある。
【0004】
半導体は通常、電気を通さない不導体であるが、光を当てるなどすると電気を通すようになる。そのための光はどんな光でも良いわけではなく、ある一定以上のエネルギーを持つ光であることが必要であり、このエネルギーをバンドギャップエネルギーと呼び、半導体の種類によって決まってくる。このバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を半導体に当てると電子が流れ、電流が生じる。半導体の中の電子は価電子帯という電子が詰まったところにあり、電子は動くことができないが、バンドギャップ以上のエネルギーを持つ紫外線を半導体に当てると電子がエネルギーの高い伝導帯というところに移動し動けるようになるため電流が流れる。またこの価電子帯と伝導帯とのエネルギー差がバンド(帯)ギャップである。伝導帯に電子が移動すると、価電子帯には電子の抜けた孔ができ、この孔は正の電荷をもっており正孔と呼ばれる。したがって、電子と正孔は同時にでき、電子は強い還元力を持ち、正孔は強い酸化力を持つ。
【0005】
大部分の半導体は水に入れて光を当てると、陽イオンと陰イオンになって溶解してしまう光溶解という反応が起こって、半導体が溶けてなくなってしまい実用に供すことはできない。しかし、半導体の中で酸化チタンは光溶解を起こさず、人間に対して無害であり、また安価で耐久性、耐摩耗性に優れ、資源的に豊富で入手しやすいため、現在、光触媒として用いられているのはほとんどが酸化チタンである。
【0006】
光触媒反応装置に関する公知の従来技術としては、例えば、特許文献1及び特許文献2において、焼却炉の燃焼排ガス排出路に連絡される排ガス処理装置が示されている。この排ガス処理装置は、紫外線透過性を有する、燃焼排ガスが通過する筒体と、該筒体の内部に収容された光触媒と、光触媒体の励起用光源から構成されている。
また上記の筒体は、石英ガラス製(以下、石英ガラスもシリカガラスも同一の意味である)の外筒と石英ガラス製の内筒から成る二重筒体であること、光触媒は酸化チタンが用いられること、光触媒の担体は活性炭、活性アルミナ、多孔質ガラスの他、シリカゲルが用いられることが示されている。励起光源としても殺菌ランプとブラックライトが用いられていることからランプチューブの材質は石英ガラスと考えられる。
【0007】
また、特許文献3において、焼却炉から排出される燃焼排ガス中のダイオキシン類の環境汚染物質等を光触媒によって処理する排ガス処理装置が示されている。この中で、紫外線透過性を持った筒体が複数本配置され、内部に紫外線光源、外部に光触媒体を配置することが示されている。
【0008】
また、特許文献4において、工場のスクラバー水のようにダイオキシン類の環境汚染物質等を含む有害排水を浄化処理することができる水浄化装置が示されている。この中で、光透過性を有し内部に光触媒を収容した筒体と、筒体外側に配置された光源が示されている。また、この技術の目的は、光触媒全体に紫外線照射しやすく、浄化効率が高い、小型化が可能な水浄化装置を提供することとされている。
【0009】
しかしながら、従来から使用されている光触媒反応装置(以下、光触媒反応ユニットとも呼ぶ)には、主に、シリカガラスをチューブ材とする紫外線ランプが光源とされていたが、光触媒の処理効率が低かった。
また、従来の光触媒反応装置を長時間使用した場合、光触媒反応装置の処理効率が低下する等の問題が生じ、耐久性にも問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−104752号公報
【特許文献2】特開2001−104753号公報
【特許文献3】特開2001−170453号公報
【特許文献4】特開2003−181475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、光触媒反応ユニットに使用されるシリカガラスであって、光触媒の反応効率を向上させるために、波長が250nm程度以下の光を約250nm〜450nm程度の長波長側へ効率よく波長変換することができ、それとともに、長時間紫外線を照射しても性能が低下しにくい、耐紫外線性等に優れた特性を兼ね備えた光触媒用シリカガラス、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、シリカガラスにおいて、少なくとも、前記シリカガラスは、OH基含有量が10wt.ppm以下であり、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲であり、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下であり、光触媒反応ユニットに使用されるものであることを特徴とする光触媒用シリカガラスを提供する(請求項1)。
【0013】
このように、OH基含有量が10wt.ppm以下であり、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲であり、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下であることを同時に満たす光触媒用シリカガラスであれば、紫外線ランプ光源からの約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより光触媒反応効率を向上させることができるとともに、初期の耐化学薬品性、耐熱性、強度を高くすることができ、かつ、紫外線照射下での長期間の光化学反応処理に使用しても、酸・アルカリ・塩を含む溶液に対して高い耐エッチング性を維持し、耐熱性や強度も維持することができる。
そのため、光触媒反応ユニットに採用するのに適したシリカガラスとすることができる。
【0014】
この場合、前記シリカガラスは、厚さ1mmの波長163nmでの直線透過率が40.0%〜1.0%の範囲であることが好ましい(請求項2)。
このように、厚さ1mmの波長163nmでの直線透過率が40.0%〜1.0%の範囲であれば、より良好な耐化学薬品性を有するシリカガラスとすることができる。
【0015】
また、前記シリカガラスの金属不純物濃度は、表面から30μmまでの部分及びそれよりも内側の部分のそれぞれにおいて、ともに、アルカリ金属元素Li、Na、Kの各濃度が50wt.ppb以下、アルカリ土類金属元素Mg、Caの各濃度が10wt.ppb以下、遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Znの各濃度が5wt.ppb以下であることが好ましい(請求項3)。
このように、シリカガラスの金属不純物濃度が、表面から30μmまでの部分及びそれよりも内側の部分のそれぞれにおいて、ともに、アルカリ金属元素Li、Na、Kの各濃度が50wt.ppb以下、アルカリ土類金属元素Mg、Caの各濃度が10wt.ppb以下、遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Znの各濃度が5wt.ppb以下であれば、より効果的に波長変換を行うことができ、また、より確実に耐紫外線性の高い光触媒用シリカガラスとすることができる。
【0016】
また、前記シリカガラスは、シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去、及び、石英バーナーを用いた火炎研磨を施されたものであることが好ましい(請求項4)。
このように、シリカガラスが、シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去、及び、石英バーナーを用いた火炎研磨(ファイアポリッシュ)を施されたものであれば、加工歪の除去がなされ、表面付近に存在する微細な進行性クラックが除去されており、かつ、表層部の金属不純物汚染がより確実に防止された光触媒用シリカガラスとすることができる。
【0017】
また、前記光触媒用シリカガラスは、前記光触媒反応ユニットを構成する部材のうち、光触媒材料を担持する担体、光触媒材料が担体に担持されたものである光触媒体の収納容器、光源用紫外線ランプチューブ、光源用紫外線ランプ窓、紫外線反射板の少なくともいずれか1つに使用されるものとすることができる(請求項5)。
このように、本発明に係る光触媒用シリカガラスは、光触媒反応ユニットを構成する部材のうち、光触媒材料を担持する担体、光触媒材料が担体に担持されたものである光触媒体の収納容器、光源用紫外線ランプチューブ、光源用紫外線ランプ窓、紫外線反射板等に使用することができる。そして、このような光触媒用シリカガラスを使用した部材を具備した光触媒反応ユニットであれば、紫外線ランプ光源からの約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより光触媒反応効率を向上させることができる。また、長時間の紫外線照射下での光化学反応処理に使用しても、シリカガラスの性能の劣化を防止することができるので、処理能力の低下や耐久性の低下を抑制して長期間の操業を行うことができる。
【0018】
また、本発明は、光触媒反応ユニットに使用される、光触媒用シリカガラスを製造する方法であって、少なくとも、シリカ粉を原料とし、該シリカ粉原料を500℃〜1000℃の温度範囲にて加熱脱水処理する工程と、該加熱脱水処理されたシリカ粉を、少なくとも水素を含む雰囲気下にて電気加熱溶融することにより、透明シリカガラスインゴットを作製する工程と、該透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する工程と、該形状加工したシリカガラスに対し、該シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去を行う工程と、該加工歪除去を行ったシリカガラスを前記光触媒反応ユニットに使用される形状に組み立てる工程とを含むことを特徴とする光触媒用シリカガラスの製造方法を提供する(請求項6)。
【0019】
このような工程による光触媒用シリカガラスの製造方法であれば、製造するシリカガラスのOH基濃度を適切な範囲に調節でき、塩素及びフッ素をほとんど含有せず、波長245nmの光の直線透過率を適切な範囲に調節することができる。その結果、紫外線ランプ光源からの約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより光触媒反応効率を向上させることができ、また、長時間の紫外線照射によっても性能が低下しにくい、紫外線照射に対する耐性に優れた光触媒用シリカガラスを製造することができる。
【0020】
また、本発明は、光触媒反応ユニットに使用される、光触媒用シリカガラスを製造する方法であって、少なくとも、ケイ素化合物を原料とする火炎加水分解法により白色スート体を合成する工程と、該白色スート体を、少なくとも水素を含み、かつ、塩素、フッ素の少なくともいずれかを含む雰囲気下にて加熱脱水処理する工程と、該加熱脱水処理された白色スート体を、10Pa以下の真空下にて電気加熱溶融することにより透明シリカガラスインゴットとする工程と、該透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する工程と、該形状加工したシリカガラスに対し、該シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去を行う工程と、該加工歪除去を行ったシリカガラスを前記光触媒反応ユニットに使用される形状に組み立てる工程とを含むことを特徴とする光触媒用シリカガラスの製造方法を提供する(請求項7)。
【0021】
このような工程を含む光触媒用シリカガラスの製造方法によれば、製造するシリカガラスのOH基、塩素、フッ素のそれぞれの含有量を適切な範囲に調節でき、波長245nmの光の直線透過率を適切な範囲に調節することができる。その結果、紫外線ランプ光源からの約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより光触媒反応効率を向上させることができ、また、長時間の紫外線照射によっても性能が低下しにくい、紫外線照射に対する耐性に優れた光触媒用シリカガラスを製造することができる。
【0022】
また、これらの場合、前記製造するシリカガラスを、OH基含有量が10wt.ppm以下、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下になるようにすることが好ましい(請求項8)。
上記したような光触媒用シリカガラスの製造方法であれば、このように、前記製造するシリカガラスを、OH基含有量が10wt.ppm以下、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下になる光触媒用シリカガラスを製造することができ、紫外線ランプ光源からの約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより光触媒反応効率を向上させることができ、また、耐紫外線性に優れた光触媒用シリカガラスとすることができる。
【0023】
また、本発明に係る光触媒用シリカガラスの製造方法では、前記形状を加工したシリカガラスに対するアニール処理を、電気抵抗加熱処理炉において、前記シールド材として、Al及び/またはZrを10〜1000wt.ppm含有したシリカガラス板、Si単結晶板、Si多結晶板の少なくともいずれか1種を用いて行うことが好ましい(請求項9)。
このように、形状を加工したシリカガラスに対するアニール処理を、電気抵抗加熱処理炉において、シールド材として、Al及び/またはZrを10〜1000wt.ppm含有したシリカガラス板、Si単結晶板、Si多結晶板の少なくともいずれか1種を用いて行えば、製造する光触媒用シリカガラスへの金属不純物の混入を、より効果的に防止することができる。
【0024】
また、前記の光触媒用シリカガラスの製造方法において、少なくとも前記透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する工程よりも後に、さらに、石英バーナーを用いた火炎研磨を行う工程を有することが好ましい(請求項10)。
このように、本発明に係る光触媒用シリカガラスの製造方法において、さらに火炎研磨(ファイアポリッシュ)を行えば、表面部分に存在する微細な進行性クラックが除去され強度が向上するばかりではなく、シリカガラスの光学特性を更に向上させることができ、また、この火炎研磨の際に石英バーナーを用いれば、該火炎研磨の際に、金属不純物がシリカガラスの表層に混入することを効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明に従う光触媒用シリカガラスであれば、入射した250nm程度以下の光を約250nm〜450nm程度の長波長側へ効率よく波長変換することができるので、光触媒の反応効率を向上させることができる。また、紫外線照射によるシリカガラスへのダメージを軽減することができ、長時間の紫外線照射を行っても、強度低下や透過率低下等の発生を抑制することができる。
また、本発明に従う光触媒用シリカガラスの製造方法であれば、上記のような、光波長変換効率が高く、耐紫外線性に優れた光触媒用シリカガラスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述のように、従来の光触媒反応装置では、シリカガラスをチューブ材とする紫外線ランプが光源とされていたが、光触媒の処理効率が低い等の問題があった。また、従来の光触媒反応ユニットを長時間使用した場合、光触媒反応ユニットの処理効率が低下し、耐久性が低い等の問題があった。
【0027】
本発明者は、これらのような問題を解決すべく、以下のような検討を行った。
従来から使用されている光触媒反応装置にはシリカガラスをチューブ材とする紫外線ランプが光源とされていたが、一般に紫外線ランプからは約150nm〜約450nmの紫外光(及び若干の可視領域の光)が発生するものであるが、約250nm以下の波長の紫外光は酸素によって吸収されやすいため、光触媒反応においては利用しにくい紫外光であり、実際の光触媒反応には約250nm以上の波長の光が主に寄与している。従って、光触媒反応を促進させるためには、約250nm〜450nm波長の光を強く発生させる必要があった。つまり、本来の250nm程度以上の波長の光に加え、約250nm以下の波長の光も、酸素等に吸収されずに光触媒反応に利用できれば、光触媒反応効率を向上させることができることになる。そして、約250nm以下の光を、約250nm〜450nmへ波長変換することができれば、光触媒反応効率を向上させることができると考えた。
【0028】
本発明者らは、さらに鋭意検討及び実験を行い、光触媒反応装置用に好ましいシリカガラスの物性組合せは、OH基含有量が10wt.ppm以下、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲、かつ塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下であることを見出した。そして、この3つの物性組合せによって紫外線ランプ光源からの約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより光触媒反応効率を向上させることができるとともに、初期の耐化学薬品性、耐熱性、強度を高くすることができ、かつ長時間にわたる光触媒装置の運転においても酸・アルカリ・塩を含む溶液に対して高い耐エッチング性を維持し、耐熱性や強度も維持することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0029】
以下、本発明について図面を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
光触媒用シリカガラスとして好ましい物性の組合せは、OH基含有量が10wt.ppm以下、シリカガラスの厚さを10mmとしたときの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下の3項目を同時に満足することである。
【0031】
(OH基含有量、塩素及びフッ素の含有量について)
シリカガラスはシリコンSiと酸素Oとの連続網目構造(ネットワークストラクチャー)より成るものであるが、OH基やフッ素(F)、塩素(Cl)はこの網目構造の終端部(ネットワークターミネーター)となるものである。光触媒用シリカガラスとして使用される場合、シリカガラス材料は、紫外線照射下にさらされることになる。シリカガラス中にOH基が適量存在すると、Si−O−Siの結合角度が安定角度に近づき、シリカガラスの網目構造が安定する。そのことにより、例えばイープライムセンター(E’Center)等の紫外域で大きな吸収を引き起こす吸収帯の生成を低減させる効果があり、電離作用等によって引き起こされる強度低下や透過率低下などの紫外線照射によるダメージを抑制することができる。
【0032】
そのため、紫外線照射下で用いられるシリカガラスには、一般的には耐紫外線性を向上させるために例えば1000wt.ppm程度以下のような、低濃度のOH基を含有させることがある。しかし前述のネットワークターミネーターの含有量が多くなりすぎると耐化学薬品性が低下し、酸・アルカリ・塩の少なくともいずれかを含む溶液と接触した場合のシリカガラスのエッチング速度が大きくなってしまう。
【0033】
そこで、本発明の光触媒用シリカガラスでは、OH基含有量(濃度)を10wt.ppm以下とする。なお、このOH基濃度は5wt.ppm以下とすれば、耐化学薬品性がより向上するのでさらに好ましいものとなる。
また、同様の理由により、本発明の光触媒用シリカガラスでは、フッ素と塩素の合計含有量を100wt.ppm以下、好ましくは50wt.ppm以下とする。
【0034】
なお、OH基濃度の制御は、例えば、後述するような高純度シリカ粉を電気加熱溶融して透明シリカガラスインゴットとしてシリカガラスを製造する場合には、加熱溶融時の雰囲気圧力や含有ガスの種類、特に水分量を変化させること等により可能である。また、後述するような四塩化ケイ素SiCl原料等の酸水素火炎加水分解法により白色スート体を作製して引き続き真空炉内で帯域加熱溶融させ透明シリカガラスインゴットを製造する場合には、白色スート体合成時の酸素と水素の流量比率を変化、制御すること、あるいは、白色スート体の加熱溶融透明ガラス化時の雰囲気ガス、圧力を制御すること等により可能である。
【0035】
また、塩素含有量の制御は、後述するSiCl原料の酸水素火炎加水分解法の白色スート体の脱水処理時の真空度及び温度の制御によって可能である。より具体的には白色スート体の脱水処理時に炉内を水素又は塩素含有雰囲気にしつつ、先ず500〜1000℃程度で仮焼し、充分水HOや塩素を脱ガスさせた後1300〜1600℃程度、10Pa以下の真空下で透明ガラス化すると、塩素含有量を低減することが可能である。
【0036】
また、フッ素含有量の制御は、後述するように、白色スート体をフッ素含有雰囲気にて200〜800℃程度で加熱処理するとOH基を大幅に低減させることができるが、この時のフッ素含有雰囲気のフッ素ガス濃度を低く設定しておくことによりシリカガラスのフッ素含有量を低くさせることができる。
【0037】
(波長245nmの光の透過率について)
また、本発明では上記のように、波長245nm(光のエネルギーとしては5.0eV)における厚さ10mm両面平行光学研磨面(直径20mmエリアにおける633nm光干渉計測定での面精度値λ/20以下)における直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲とする。また、80.0%〜50.0%の範囲とすることがより好ましい。
例えば、後述する高純度シリカ粉原料を電気加熱溶融して、作製したOH基含有量が10wt.ppm以下かつ塩素とフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下の組成を有する還元雰囲気下で作製されたシリカガラスには、酸素欠損型関連欠陥を含むものがあり、その様なシリカガラスは波長245nm付近に吸収を示す。
【0038】
特に波長245nm付近に吸収ピークを持つ吸収帯は、ショットキー欠陥型のいわゆるB帯と総称されている。B帯の代表例としてはBα帯があり247nm(5.02eV)に吸収ピークを持ち、光励起により280nm(4.42eV)と450nm(2.74eV)にピークを示す発光帯が生ずる。また、Bβ帯があり240nm(5.15eV)に吸収ピークを持ち、290nm(4.24eV)と390nm(3.16eV)に発光ピークを示す。以下、この光吸収及び異なる波長における発光の現象を光波長変換現象と呼ぶ。
【0039】
この光波長変換現象により、光触媒装置を構成する材料としてこのシリカガラスを用いると、紫外線ランプ光源から発生する約150nm〜約250nmの紫外光を約250nm〜約450nmへ波長変換することになり、光触媒反応効率を向上させることができる。
【0040】
この光波長変換現象は、シリカガラスに高出力紫外線が長時間照射されたり酸素含有雰囲気下で長時間高温加熱されると、変換効率が低下してしまう場合もある。しかしシリカガラス中のOH基含有量を10wt.ppm以下に保つことにより、変換効率の低下を抑制することが可能となる。
【0041】
この他、波長163nm(光のエネルギー7.6eV)における厚さ1mm両面平行光学研磨面(直径20mmエリアにおける633nm光干渉計測定での面精度値λ/20以下)における直線透過率が40.0%〜1.0%の範囲とすることが好ましく、30.0%〜5.0%の範囲とすることがより好ましい。
これは、例えば、後述するケイ素化合物を原料とする火炎加水分解法により白色スート体を合成し、次いで白色スート体を水素、塩素、フッ素の少なくとも1種類を含む雰囲気ガス下にて脱水処理した後透明ガラス化された合成シリカガラスにおいて認められる酸素欠損型関連欠陥であり、波長163nm付近に吸収を示す。
この吸収帯を示すシリカガラスは、この吸収帯を示さないものに比較して、より良好な耐化学薬品性(酸やアルカリ、塩等を含む溶液やガスに対する耐エッチング性)を示す。詳細メカニズムは不明だが、Si−Si結合の存在が対化学薬品性を向上させているものと推定される。また、この吸収帯を示すシリカガラスは、B帯と同様の酸素欠損型関連欠陥であることから、波長変換現象を増加させているものと推定される。
【0042】
(シリカガラスの純度について)
本発明に係る光触媒用シリカガラスは、表層部分から内部に渡って全て高純度であることが好ましい。
【0043】
また、光触媒用シリカガラスは、被処理物の物性にもよるが、紫外線照射下において常温ないし高温の腐蝕性排ガス又は排水と接触しながら、また、それら被処理物による応力を受けながら長時間にわたり材料にとって苛酷な条件下で使用される。
【0044】
シリカガラスにアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素が一定濃度以上に高濃度で含まれていると、シリカガラスがクリストバライト等の微結晶に相転移することにより、再結晶化が起こりやすくなり、いわゆる白色失透化が起こりやすくなる。その結果400nm以下の紫外域光透過率低下や曲げ強度等の強度低下を引き起こす。
【0045】
再結晶を防止するためには、シリカガラス全体の不純物金属元素含有量を少なくすることが必要であるが、特にシリカガラスの表層部分を高純度に保つことが必要である。具体的には、シリカガラスの表層部から内部に渡って、すべての領域でLi、Na、K、Mg、Ca、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、の各濃度が100wt.ppb以下とすることが好ましい。
さらに、アルカリ金属元素Li、Na、Kの各々が50wt.ppb以下、かつアルカリ土類金属元素Mg、Caの各々が10wt.ppb以下、かつ遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Znの各々が5wt.ppb以下とすることが特に好ましい。また、アルカリ金属元素Li、Na、Kの各々を10wt.ppb以下、かつアルカリ土類金属元素Mg、Caの各々を5wt.ppb以下、かつ遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Znの各々を1wt.ppb以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
また、このような高純度であれば、不純物の混入により発生する、より長波長側の可視光領域(すなわち、光触媒作用に寄与しない約500nm〜約600nmの波長領域)への波長変換の増大を防止することもできる。
【0047】
表層部分を高純度に保つためには、シリカガラスの原料のみならず、所定の形状に加工する前の段階の透明シリカガラス母材を高純度で作製する必要があり、さらに光触媒用シリカガラスとして切断、研削等の加工、電気炉内加熱処理、フッ化水素酸溶液によるエッチング洗浄処理等の各種加工工程での工程汚染を防止する必要がある。この方法の詳細は後述する。
【0048】
以下では、上記のような特性を有する光触媒用シリカガラスを製造する方法を説明する。
【0049】
(製造方法1)
図1に、本発明に係る光触媒用シリカガラスの製造方法の一例として、透明シリカガラスインゴットの作製を、シリカ粉の電気加熱溶融処理により行う方法を示した。
【0050】
まず、図1(a)に示したように、シリカ粉を準備する(工程1−a)。
このときのシリカ粉としては種々のものを使用することができるが、できるだけ高純度のものとすることが好ましい。具体的には、高純度のシリカ原料から合成された合成シリカ粉や、高品質天然石英粉を塩化水素HClガス含有雰囲気等によって600〜900℃程度で、高純度化処理を複数回行い、高純度化したシリカ粉等を用いることができる。
【0051】
次に、図1(b)に示したように、シリカ粉原料を500℃〜1000℃の温度範囲にて加熱脱水処理する(工程1−b)。
この工程により、主にOH基を調節することができる。
【0052】
次に、図1(c)に示したように、加熱脱水処理されたシリカ粉を、少なくとも水素を含む雰囲気下にて電気加熱溶融することにより、透明シリカガラスインゴットを作製する(工程1−c)。
このような還元性雰囲気下で、最終的にOH基濃度が10wt.ppm以下となるようにする。
このようにして、OH基濃度が10wt.ppm以下の透明シリカガラスインゴットを、金属不純物濃度を低く抑制しながら合成することができる。また、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下とすることができる。
【0053】
次に、図1(d)に示すように、工程1−cで作製した透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する(工程1−d)。
加工方法は、成型、切断、研削、溶接、接着、研磨、洗浄等で行い、特に限定されないが、工程汚染をできるだけ防止する。
【0054】
次に、図1(e)に示すように、工程1−dで形状加工したシリカガラスに対し、該シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去を行う(工程1−e)。
【0055】
このときの、シールド材としては、アルミニウムAlを10〜1000wt.ppm含有したシリカガラス板等が好ましい。Alの他、ジルコニウムZrを10〜1000wt.ppm程度含有してもよい。このようなAlドープシリカガラス板等をシールド材として用いれば、特許第3393063号公報に示されているように、熱処理されるシリカガラスへの金属不純物の混入を効果的に防止することができる。なお、シールド材は、Si単結晶板、Si多結晶板等でもよい。これらを用いることにより金属不純物の混入が防がれる理由は必ずしも明らかではないが、Alをドープしたシリカガラスの場合、シリカガラス網目構造におけるSi元素の一部がAlに置換されており、このAl元素がNa、K、Li等の不純物陽イオンをイオン結合の形で固定、吸収するものと推定される。また、Si単結晶やSi多結晶の場合、Si元素が結晶構造として緻密に配列しているため不純物元素の拡散、侵入を防止しているものと推定される。
なお、アニール処理による加工歪除去は、各種加工された光触媒用シリカガラスの強度向上に必須の工程である。
【0056】
この工程で用いるアニール炉の具体例を図3、4に示した。
図3に示したアニール炉(電気加熱炉)10は、高純度アルミナボードのような保温材が内側に張られたチャンバー11、2ケイ化モリブデンヒータ等のヒータ12を具備する。図3には、炉床材13として、シールド材の単結晶シリコンウエハーを、シールドチャンバー14として、シールド材のAlドープシリカガラスを用いた例を示した。
被熱処理体15は、上記形状加工処理を行ったシリカガラスである。
【0057】
図4に示したアニール炉20は、高純度アルミナボードのような保温材が内側に張られたチャンバー21内に2ケイ化モリブデンヒータ等のヒータ22a、22bを具備する。ヒータ22a、22bは図4に示したように上下に配置してもよい。
図4には、炉床材23として、シールド材の単結晶シリコンウエハーを、筒状のシールドチューブ24として、シールド材のAl、Zrドープシリカガラスを用いた例を示した。
被熱処理体25は、上記形状加工処理を行ったシリカガラスである。
【0058】
以上のような工程の他、各種加工された光触媒用シリカガラスの表面に存在する進行性の微細クラックの溶解除去、またそれによる強度向上効果並びに光透過性向上効果等を目的として火炎研磨(ファイアポリッシュとも言う)を行ってもよいが、この火炎研磨は、上記したような工程汚染防止の観点から、石英製のバーナーを用いて行うことが好ましい。通常、火炎研磨には、金属バーナーが用いられるが、金属バーナーを用いると、シリカガラスの表層、特に表面から30μmまでの深さで金属汚染が生じる。これを、石英バーナーを用いて火炎研磨することで、シリカガラスの表面層の金属汚染を防止することができる。
なお、この火炎研磨は、上記加工歪除去のためのアニール処理の後に行う場合があるが、少なくとも透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工した後であれば、どの段階で行ってもよい。
【0059】
次に、図1(f)に示すように、工程1−eで加工歪除去を行ったシリカガラスを光触媒反応ユニットに使用される形状に組み立てる(工程1−f)。
ここで加工される形状としては、特に限定されないが、例えば、光触媒反応ユニットを構成する部材のうち、光触媒作用を示す光触媒体の収納容器、光源用紫外線ランプチューブ、光源用紫外線ランプ窓、紫外線反射板等に加工及び組み立てすることができ、光触媒材料を担持する担体に加工することも可能である。
【0060】
以上のような工程を経て、本発明に係る光触媒用シリカガラスを製造することができる。そして、このような光触媒用シリカガラスの製造方法であれば、製造されるシリカガラスのOH基含有量を10wt.ppm以下、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率を90.0%〜30.0%の範囲、塩素及びフッ素の合計含有量を100wt.ppm以下とすることができる。
【0061】
本発明の光触媒用シリカガラスは、以下のようにしても製造することができる。
(製造方法2)
図2に、本発明に係る光触媒用シリカガラスの製造方法の一例として、透明シリカガラス母材(透明シリカガラスインゴット)の作製を、一旦白色スート体を合成した後に行う方法を示した。
まず、図2(a)に示すように、ケイ素化合物を原料とする火炎加水分解法により白色スート体を合成する(工程2−a)。
原料とするケイ素化合物としては、高純度ケイ素化合物、例えば四塩化ケイ素SiClを用い、酸水素ガス又はプロパンガス等を用いた火炎加水分解法により、比較的低温(500〜800℃程度)で白色不透明のスート体を作製する。
なお、このとき、酸素と水素の流量比率を調節し、最終的に製造されるシリカガラスのOH基含有量が10wt.ppm以下となるようにする。
原料とするケイ素化合物はできるだけ高純度のものを用いることが好ましい。
【0062】
次に、図2(b)に示すように、工程2−aで合成した白色スート体を、少なくとも水素を含み、かつ、塩素、フッ素の少なくともいずれかを含む雰囲気下にて加熱脱水処理する(工程2−b)。
この工程により、OH基濃度を大幅に低減することができる。特に、塩素、フッ素のいずれか一方を含んだ雰囲気下であれば、より効率よくOH基濃度を低減することができる。ただし、本発明においては、塩素、フッ素の含有量も低いものとするため、雰囲気の塩素、フッ素濃度は一定程度以下とすることが好ましい。例えば大気圧において、塩素(またはフッ素)の流量比率を10%以下とした水素含有雰囲気等が好ましい。
【0063】
次に、図2(c)に示すように、加熱脱水処理された白色スート体を、10Pa以下の真空下にて電気加熱溶融することにより透明シリカガラスインゴットとする(工程2−c)。
このように、雰囲気ガスの圧力を10Pa以下の真空とすることにより、確実に、シリカガラスに含まれるOH基、塩素、フッ素の含有量を、上記適切な範囲内とすることができる。
このように工程2−b及び2−cにより、OH基含有量が10wt.ppmであり、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下である透明シリカガラスインゴットを、金属不純物濃度を低く抑制して合成することができる。
【0064】
このように作製した透明シリカガラスインゴットに対し、後続の工程を行うが、図2(d)、(e)、(f)に示した透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する工程(工程2−d)、不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去を行う工程(工程2−e)、火炎研磨工程、シリカガラスを光触媒反応ユニットに使用される形状に組み立てる工程(工程2−f)等は、上記製造方法1と同様に行うことができる。
【0065】
そして、これらのような、本発明に係る光触媒用シリカガラスが採用された光触媒反応ユニットは、紫外線ランプ光源からの約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより、光触媒反応に寄与する約250〜450nmの波長の光の強度を上げることができるので、光触媒反応効率を向上させることができる。また、長時間の紫外線照射下での光化学反応処理に使用しても、シリカガラスの性能の劣化を防止することができるので、処理能力の低下や耐久性の低下を抑制して長期間の操業を行うことができる。
【0066】
図5、6には、それぞれ、本発明に係る光触媒用シリカガラスを使用することができる光触媒反応ユニットの具体例の一例を示した。
【0067】
図5には、反応チャンバー内に充填された光触媒体に、被処理物を通過させる方式の光触媒反応ユニットの例を示した。なお、図5(a)は光触媒反応ユニットの側面方向から見た概略断面図であり、図5(b)は、図5(a)中のA−A’面の概略断面図である。
光触媒反応ユニット30として、シリカガラス製のランプチューブを有する紫外線ランプ31、紫外線反射板32を外側に具備し、光触媒体35が内部に充填された光触媒反応チャンバー33を内側に具備しているものを示した。光触媒反応ユニット30は、その他、光触媒反応チャンバー33の内圧に対する補強のため、耐圧補強フィン34を具備するものでもよい。その他、光触媒反応チャンバー33内に排ガスを導入する排ガス導入管36、光触媒反応チャンバー33内から処理されたガスが排出される処理ガス排出管37等を具備する。
【0068】
このような光触媒反応ユニット30では、紫外線ランプ31から放射された紫外線は、直接、また、紫外線反射板32により反射されるなどして光触媒反応チャンバー33内の光触媒体35に照射される。排ガス導入管36、処理ガス排出管37等により被処理物が光触媒反応チャンバー33内を通過させられ、光触媒体35に含まれる光触媒の作用により、浄化処理される。
【0069】
そして、本発明の光触媒用シリカガラスは、紫外線ランプ31のランプチューブや、紫外線反射板32の反射面保護材、光触媒反応チャンバー33及び耐圧補強フィン34の材料等に用いることができる。また、光触媒体35の、二酸化チタンが担持される担体として用いることもできる。
【0070】
図6には、汚染ガス浄化装置の一例として、光触媒体の中心部に紫外線ランプが配置された光触媒反応ユニット40を示した。金属製チャンバー41に覆われており、例えばらせん状の仕切り板42aを有するシリカガラスチャンバー42が反応器となる。また、その中心部に紫外線ランプ43が配置されている。光触媒体45はシリカガラスチャンバー42内に充填される。紫外線ランプ43により光触媒体45に紫外線を照射しながら汚染ガス導入口46から汚染ガスを導入し、光触媒体45を通過させることにより汚染ガスを浄化し、浄化ガス排出口47から浄化されたガスを排出させる。仕切り板42aはなくてもよいが、このようならせん状の仕切り板42aを反応器内に配置することで、光触媒体内におけるガスの通過距離を長くすることができ、汚染ガスの浄化処理を効果的に行うことができる。
なお、紫外線ランプ43は、少なくとも波長400nm以下の紫外線を含む光線を照射できるものであればよいが、効率よく紫外線を照射するために、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、エキシマランプ、発光ダイオード、レーザーダイオード等を用いることが好ましい。
【0071】
そして、本発明の光触媒用シリカガラスは、紫外線ランプ43のランプチューブや、らせん状の仕切り板42aを含むシリカガラスチャンバー42、汚染ガス導入口46、浄化ガス排出口47の材料等に用いることができる。また、光触媒体45の、二酸化チタンが担持される担体として用いることもできる。
【0072】
なお、上記具体例では紫外線ランプを具備する浄化装置としての光触媒反応ユニットを例示したが、太陽光に含まれる紫外線による光触媒反応を用いるような光触媒反応ユニットであっても、本発明に係る光触媒用シリカガラスを問題なく使用することができ、光に含まれる約250nm以下の光を約250nm〜450nmへ波長変換することにより光触媒反応効率を向上させることができる。
また、光触媒反応ユニットを構成するシリカガラス製の部材の全てについて、本発明に係る光触媒用シリカガラスを使用することも可能である。例えば、光源用紫外線ランプチューブや窓に本発明のシリカガラスを用いてもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示したような、シリカ粉を原料とした電気加熱溶融法による光触媒用シリカガラスの製造方法に従い、以下のように、シリカガラスを製造した。なお、原料のシリカ粉は天然石英粉とした例である。
【0074】
(インゴットまで作製)
まず、高品質天然石英粉を出発原料粉として、粒径50〜200μmの高品位天然石英粉90kgを800〜1000℃の塩化水素ガスHCl含有雰囲気にて加熱処理することにより不純物金属元素を塩化物として蒸発させて高純化を行った。次いで、高純化された石英原料粉を700℃、1時間、10Pa以下の真空度にて加熱脱ガス処理を行った(工程1−a)。
【0075】
次に、この高純度化した原料粉をタングステン(W)ルツボ内に投入し、それをステンレススチール製ジャケット、タングステンメッシュヒーターの高純度真空炉内に設置し、炉内を密閉し徐々に真空引きして10Pa以下に設定し、800℃の温度にて1時間加熱を行い脱ガス処理を行った。次いで、炉内をヘリウムHeガス100%、10Pa(大気圧力とほぼ同じ)とし、再度真空引きして10Paに設定した(工程1−b)。
【0076】
次に、電気抵抗加熱により1750℃にて1時間保持し、その後室温まで除冷した。なお、昇温するのに伴って、雰囲気圧力を10Paに一定に保ち1750℃に達した時点で10Pa程度の水素Hガス10%含有の窒素ガス雰囲気とした。その後冷却して真空炉から取り出し、寸法:直径200mm、長さ900mmの円柱状透明シリカガラスインゴット(母材)を得た(工程1−c)。次いで、外表面部分の汚染を除去するため、フッ酸HF50%水溶液にてエッチング処理及び純水による洗浄を行った。
【0077】
(物性評価用サンプルへ加工)
次に、この透明シリカガラスインゴットを、切断研削及び全面研磨して、各物性評価用サンプルへと加工した(工程1−dに相当)。
なお、各サンプルの寸法(縦×横×厚さ)は、
塩素及びフッ素、及び不純物元素濃度分析用サンプル(寸法30×30×30mm)、
OH基濃度測定用サンプル(寸法30×30×t10mm)、
透過率測定用サンプル(寸法30×30×t10mm、30×30×t1mm)
耐酸性評価試験用サンプル(寸法50×50×t1mm)、
耐アルカリ性評価試験用サンプル(寸法50×50×t1mm)、
耐塩性評価試験用サンプル(寸法50×50×t1mm)、
波長変換効果試験用サンプル(寸法10×10×t70mm)
とした。
また、その他評価用サンプル各々複数個及び図6に示すような光触媒反応容器を組み立てるためのシリカガラス部品一式、具体的には、らせん状の仕切り板42aを含むシリカガラスチャンバー42を組み立てるための部品や紫外線ランプ43等の部品一式を作製した(工程1−d)。
【0078】
(加工歪除去のための熱処理(アニール処理))
評価用サンプル及び光触媒反応容器用部品一式に対し、図3のような、シールド材を具備したアニール炉により加工歪除去のための熱処理を行った(工程1−e)。
まず、高純度のアルミナ耐火材を使用した大気雰囲気電気加熱炉10内に、炉床板13として単結晶シリコンウエハーを敷いた。さらに、その上に、図3中に示すような、ドーム状のシリカガラス容器(シールドチャンバー)14を置いた。このシリカガラス容器の材質は、スート法で合成された、アルミニウムAlが100wt.ppm及びジルコニウムZrが10wt.ppmドープされたドープトシリカガラスとし、不純物シールド効果を有するものとした。
そして、大気雰囲気にて高純度アルミナ保温材の電気炉内にて1150℃、10時間保持した後、10℃/時間の降温速度にて1000℃まで降温し、その後室温まで自然除冷した。
【0079】
光触媒反応容器用部品一式から、形状を微調整しつつ直径10cm長さ30cmのシリカガラス製光触媒反応ユニット(光触媒反応容器)を組み立てた(工程1−f)。
【0080】
(実施例2)
図2に示したような白色シリカスート体を経由する方法により、光触媒用シリカガラスの製造を行った。
【0081】
(スート体の合成)
純度99.9999wt%の四塩化ケイ素SiClガスを室温25℃換算で2L/分と固定し、酸素Oガスを2〜20L/分、水素Hガスを6〜60L/分の範囲の比率で調整しつつキャリアガスをアルゴンArとし合成用シリカガラス製バーナーに導入しOH基を含有する白色スート体を作製した(工程2−a)。
次いで、窒素ガスN90%、水素ガスH9%、塩化水素HCl1%の10Pa雰囲気(ほぼ大気圧)にて、500℃、3時間の雰囲気加熱処理を行った(工程2−b)。
【0082】
(透明シリカガラスインゴットの作製)
上記スート体を円筒型グラファイトヒーターを内装したステンレススチール製真空電気炉内に設置し、電気炉内を10Pa以下の真空度とするとともに、1550℃の温度の加熱帯域をゆっくり下方から上方へ移動しながら溶融して、寸法直径200mm×長さ1000mmの透明シリカガラスインゴットを作製した(工程2−c)。
【0083】
続いて、評価用シリカガラスサンプルへの加工、光触媒反応容器及び部材一式作製、加工歪除去、光触媒用反応ユニット組み立て(工程2−d〜工程2−f)は実施例1の場合(工程1−d〜工程1−f)と同様に行った。
【0084】
(実施例3)
図2に示したような白色シリカスート体を経由する方法により、光触媒用シリカガラスの製造を行った。
(スート体の合成)
実施例2と同様の方法により、OH基を含有する白色スート体を作製した(工程2−a)。
【0085】
(フッ素Fドープ、脱水処理)
上記のOH基を含有する白色スート体を、四フッ化ケイ素SiF1%含有ガス雰囲気、10Pa(ほぼ大気圧と同じ)、400℃にてFドープ、脱水処理を行った(工程2−b)。
【0086】
(透明シリカガラスインゴットの作製)
上記スート体を円筒型グラファイトヒーターを内装したステンレススチール製真空電気炉内に設置し、電気炉内を10Pa以下の真空度とするとともに1550℃の温度の加熱帯域をゆっくり下方から上方へ移動しながら溶融して寸法直径200mm×長さ1000mmの透明シリカガラスインゴットを作製した(工程2−c)。
【0087】
続いて、評価用シリカガラスサンプルへの加工、光触媒反応容器一式作製、加工歪除去、光触媒用反応容器組み立て(工程2−d〜工程2−f)を、実施例1、2の場合と同様に行った。
【0088】
(比較例1)
以下のように、天然石英粉を原料とした酸水素火炎ベルヌイ法による従来の製法により、シリカガラスを製造した。
【0089】
(天然石英原料粉の準備)
粒径50〜200μmに調整した天然石英粉約90kgを準備した。
(酸水素火炎ベルヌイ溶融)
上記の原料粉を一定供給量にて酸水素火炎ベルヌイバーナーに導入し、溶融させつつ下部の高純度グラファイト性円板上ターゲットに層状に堆積させた。その後透明溶融シリカガラスインゴットを取り出し、寸法が直径300mm×高さ300mmの円板状ガラスを得た。次いで、外表面部分の汚染を除去するためHF水溶液にてエッチング処理及び純水による洗浄処理を行った。
【0090】
続いて、評価用シリカガラスサンプルへの加工、光触媒反応容器一式作製、加工歪除去、光触媒用反応ユニット組み立てを、各実施例の場合と同様に行った。
【0091】
(比較例2)
以下のように、白色スート体を経由する方法で、フッ素を高濃度に含有するシリカガラスを製造した。
【0092】
(白色スート体の合成)
まず、実施例2、3と同様の方法により白色スート体を合成した。
(フッ素Fドープ処理)
次に、上記で合成した白色スート体をSiF1%含有ガス雰囲気10Pa(ほぼ大気圧と同じ)、300℃にてFドープ処理を行った。
(加熱溶融透明ガラス化)
上記Fドープ白色スート体を円筒型グラファイトヒーターを内装したステンレススチール製真空電気炉内に設置し、実施例3と同様の雰囲気温度条件にて加熱溶融し寸法、直径200mm×長さ300mmの透明シリカガラスインゴットを作製した。
【0093】
続いて、評価用シリカガラスサンプルへの加工、光触媒反応容器一式作製、加工歪除去、光触媒用反応容器組み立てを、各実施例の場合と同様に行った。
【0094】
(比較例3)
以下のように、白色スート体を経由する方法で、OH基及び塩素を高濃度に含有するシリカガラスを製造した。
【0095】
(白色スート体の合成)
まず、実施例2、3および比較例2と同様の方法により白色スート体を合成した。
(加熱溶融透明ガラス化)
その後、脱水処理を行わずに、上記白色スート体を円筒型グラファイトヒーターを内装したステンレススチール製真空電気炉内に設置し、電気炉内を10Pa(0.1気圧程度)の減圧度としつつ1500℃の加熱帯域をゆっくり下方から上方へ移動させながら溶融して寸法、直径200mm×長さ300mmの透明シリカガラスインゴットを作製した。
【0096】
続いて、評価用シリカガラスサンプルへの加工、光触媒反応容器一式作製、加工歪除去、光触媒用反応ユニット組み立てを、各実施例の場合と同様に行った。
【0097】
以上で製造した実施例1〜3、比較例1〜3で製造したそれぞれのシリカガラスについて、以下のように各種物性評価を行った。
まず、シリカガラスとしての各種物性評価の方法を説明する。
【0098】
(OH基濃度)
両面平行光学研磨された30×30×t10mmシリカガラスサンプルの赤外線吸収分光光度法により濃度分析を行った。濃度換算は下記文献に従った。定量下限値は1wt.ppmであった。
D.M.Dodd and D.B.Fraser, Optical determination of OH in fused silica, Journal of Applied Physics, Vol. 37 (1966)P.3911。
【0099】
(塩素濃度分析)
シリカガラス粉砕片をHF水溶液により溶解後、AgNO添加による比濁法により濃度分析を行った。なお、定量下限値は5wt.ppmであった。
(フッ素濃度分析)
シリカガラス粉砕片をNaOH水溶液により溶解後、イオン電極法により濃度分析を行った。なお、定量下限値は10wt.ppmであった。
【0100】
(不純物金属元素濃度、表層部汚染量分析)
不純物分析用シリカガラスサンプル30×30×30mmをフッ素樹脂製容器に入れ、HF水溶液により表層30μmのエッチング溶解処理を行った。次にその溶液を乾燥し、硝酸の酸性溶液とした後、ICP発光分析法(ICP−AES)又はICP質量分析法(ICP−MS)によりLi、Na、K、Mg、Ca、Cr、Fe、Ni、Cu、Znの10元素分析を行った。したがって、得られた分析値は表面から30μmの深さまでの部分(表層30μm部分)の平均濃度となっている。
【0101】
(不純物金属元素濃度、内部バルク純度分析)
不純物分析用シリカガラスサンプル30×30×30mmの略中心部分から1g相当のガラス片を切り出し、HF水溶液によるエッチング及び純水洗浄を行った後、残りのガラス片をHF水溶液にて全量溶解処理を行った。次にその溶液を乾燥し、硝酸の酸性溶液とし、分析溶液として調整した。その後、この溶液を、ICP−AES法及びICP−MS法により上記10元素分析を行った。
【0102】
(波長245nm透過率測定)
両面平行光学研磨された30×30×t10mmシリカガラスサンプルの紫外線吸収分光光度法により波長245nmでの見かけの直線光透過率(%)を測定した。同一サンプルの繰り返し測定精度は±0.1%以内であった。
(波長163nm透過率)
両面平行光学研磨された30×30×t1mmシリカガラスサンプルの真空紫外線吸収分光光度法により波長163nmでの見かけの直線光透過率(%)を測定した。同一サンプルの繰り返し測定精度は±0.1%以内であった。
【0103】
(耐酸性評価試験)
両面鏡面研磨された50×50×t1mmのシリカガラスサンプルを10枚作製し、フッ素樹脂製容器に96%硫酸HSO水溶液を充分量満たし、その中にサンプル10枚を設定した。大気中、30℃、100時間、硫酸溶液を撹拌しながらサンプルの溶解を行った。次いで、サンプルを取り出し精密重量計によりサンプル重量減を求め、面積当りの溶解量(g/m)を求めた。
【0104】
(耐アルカリ性評価試験)
両面鏡面研磨された50×50×t1mmのシリカガラスサンプル10枚を作製し、フッ素樹脂製容器に10%水酸化ナトリウムNaOH水溶液を充分量満たし、その中にサンプル10枚を設定した。大気中、30℃、100時間、水酸化ナトリウム溶液を撹拌しながらサンプル溶解を行った。その後サンプルを取り出し、重量減少を求め、面積当りの溶解量(g/m)を求めた。
(耐塩性評価試験)
両面鏡面研磨された50×50×t1mmのシリカガラスサンプル10枚を作製し、フッ素樹脂製容器に10%塩化ナトリウムNaCl水溶液を充分量満たし、その中にサンプル10枚を設定した。大気中、50℃、100時間、塩化ナトリウム溶液を撹拌しながらサンプル溶解を行った。その後サンプルを取り出し、重量減少を求め、面積当りの溶解量(g/m)を求めた。
【0105】
また、各実施例及び比較例で組み立てた光触媒反応容器を用いて、実際に紫外線ランプを照射し、光触媒反応効率の測定を行った。
ただし、光触媒体は、各実施例、各比較例の比較のため、各実施例、各比較例ともに、以下のような方法により作製したものを統一して用いた。
【0106】
(繊維状高純度シリカ担体の作製)
高純度四塩化ケイ素を原料とした酸水素火炎加水分解法のスート法によりOH基を250wt.ppm含有する高純度透明合成シリカガラスを作製した。この合成シリカガラスを切断加工することにより、約3mm×10mm角、長さ1mの棒状合成シリカガラスを20本作製した。次にこれら20本のシリカガラス棒を繊維製造装置に原料棒としてセットし、第1のガスバーナにて火炎加熱により軟化延伸して直径200〜300μm程度の太い繊維とし、引き続き第2のガスバーナにて火炎加熱により軟化延伸して細い繊維とすると同時にジェットブローにより直径4〜10μm程度のウールの作製を行った。ウールの直径は原料棒としての合成シリカガラスの送り速度、繊維の引っ張り速度、火炎量と温度コントロールにより制御することができた。ウールを巻き取り器に収容した後、長さ500〜1000mm程度になる様に切断し、混合して綿状で塊状の繊維状高純度シリカ担体を作製した。ファイバーカール半径は50〜100mmであった。
【0107】
(ディップコーティング法による光触媒体被膜形成処理(ディップコーティング法))
光触媒の酸化チタン源となるチタンアルコキシドと溶媒となるエチルアルコール、安定化剤となるポリエチレングリコール等の試薬を混合してディップコーティング液として調整した。次いで、耐圧性のグローブボックス内に、先に作られた繊維状高純度シリカ担体と容器入りのディップコーティング液を別々に入れ、次いでグローブボックス内を10Pa以下の減圧にしつつ繊維状シリカ担体を脱ガスして、次いで常圧に戻しつつこの担体をディップコーティング液に入れてチタン化合物液に浸漬させた。このディップコーティング操作を5回繰り返した後、グローブボックスより取り出し、電気炉内に設置し、450℃1時間で焼成を行い透明の被膜を得た。その後この透明被膜をX線回析分析法等により調べたところ、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)であることが確認され、また走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察したところ被膜表面は粒径5〜10nm程度の酸化チタンの超微粒子から成り、2〜3nm程度の細孔を有しており、比表面積は約100m/gであった。
このようにして繊維状シリカガラス担体上に光触媒となる材料(酸化チタン)が被膜されている繊維状光触媒体を作製した。
【0108】
(NOx(窒素酸化物)浄化試験)
上記のように作製した評価用繊維状光触媒体を反応容器内に設置した。
光触媒体の浄化処理能力を評価するため、図7に概念図を示したような評価装置を用いて、窒素酸化物(NOx)の分解実験を行った。NOxとしては、具体的には、一酸化窒素(NO)を用いた。
光触媒反応ユニット40は、具体的には図6に示した通りの構造であり、各実施例、各比較例において組み立てたシリカガラスチャンバー42の中心に紫外線ランプ43を通し、その周りに繊維状光触媒体45を配置している。
その他、空気ガスボンベ61、NO100wt.ppm標準ガスを流せるNOxガスボンベ62、圧力調整器63、マスフローコントローラ64、各種バルブ65、NOx濃度計66、排気ファン67等を備えているシステムである。
反応容器の外寸法は直径11cm長さ32cm、光触媒体の収納シリカガラスチャンバーの外径10cm、内径3cm、長さ30cm、容積約2L、繊維状光触媒体の投入量400gである。
【0109】
実験条件は以下の通りである。
(1)吸着安定化を図るため、NOxガスフローを、NO濃度1wt.ppm、ガス流量60ml/minで30分行った。
(2)次に、反応容器内の紫外線ランプ(超高圧水銀ランプ)を点灯、ランプ表面での150nm〜450nm域紫外線平均強度を1mW/cmとした。
この状態で、NOxガスフロー、NO濃度1wt.ppm、ガス流量180ml/min、温度25℃、相対湿度50%、5時間の連続運転を行い、光触媒作用によるNOの分解実験を行った。
【0110】
NOx分解性能の評価は、下記の式(1)により計算された数値に基づいて行った。
NOx分解率(%)=100×{(NO初期濃度wt.ppm)−(NO浄化後濃度wt.ppm)}/(NO初期濃度wt.ppm)・・・式(1)
NO分解率が80%以上を○、80%〜50%を△、50%未満を×と評価した。
【0111】
各種物性評価及びNOx浄化試験の結果を下記の表1にまとめた。
【0112】
【表1】

【0113】
実施例1〜3のシリカガラスは、比較例1〜3に比べ、酸、アルカリ、塩の各水溶液に対する耐エッチング性が高かった。
また、実施例1〜3のシリカガラスにより作製された光触媒反応容器を用いた場合、比較例1〜3の場合に比べ、NOの分解性能が高かった。
【0114】
また、以下のように、各実施例及び各比較例で製造されたシリカガラスの光波長変換効果を評価した。
(光波長変換効果試験)
各実施例及び各比較例において作製した寸法10×10×70mmの全面鏡面研磨仕上げの角柱状サンプルに対して主として波長254nmを発生する低圧水銀ランプ光(入力電力40W)を照射し、その時発生する長波長側の変換光を分光光度計により測定することにより相対発光強度を求め、表2にしめした。相対発光強度は比較例1における500〜600nm付近の蛍光スペクトル(不純物元素による発光)のピーク強度を100として、他は相対強度として示した。
【0115】
【表2】

【0116】
実施例1〜3で製造したシリカガラスの270〜300nm付近の相対発光強度及び380〜450nm付近の相対発光強度が比較例1〜3の場合より高く、本発明のシリカガラスによる光波長変換効果が得られていることがわかる。
【0117】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明に係る光触媒用シリカガラスの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明に係る光触媒用シリカガラスの製造方法の別の一例を示すフロー図である。
【図3】本発明の光触媒用シリカガラスに適用することができる、シールド材を具備した電気加熱炉の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図4】本発明の光触媒用シリカガラスに適用することができる、シールド材を具備した電気加熱炉の別の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る光触媒用シリカガラスを使用することができる光触媒反応ユニットの一例を示す断面概略図である。
【図6】本発明に係る光触媒用シリカガラスを使用することができる光触媒反応ユニットの別の一例を示す断面概略図である。
【図7】光触媒体の処理能力を評価する装置の一例であり、実施例および比較例で用いたNOx浄化試験装置を示した概略図である。
【符号の説明】
【0119】
10…電気加熱炉、 11…チャンバー、 12…ヒータ、
13…炉床材、 14…シールドチャンバー、 15…シリカガラス、
20…電気加熱炉、 21…チャンバー、 22a…上ヒータ、 22b…下ヒータ、
23…炉床材、 24…シールドチューブ、 25…シリカガラス、
30…光触媒反応ユニット、
31…紫外線ランプ、 32…紫外線反射板、
33…光触媒反応チャンバー、 34…耐圧補強フィン、 35…光触媒体、
36…排ガス導入管、 37…処理ガス排出管、
40…光触媒反応ユニット、
41…金属製チャンバー、
42…シリカガラスチャンバー、 42a…らせん状仕切り板、
43…紫外線ランプ、 45…光触媒体、
46…汚染ガス導入口、 47…浄化ガス排出口、
61…空気ガスボンベ、
62…NOxガスボンベ(NO100wt.ppm標準ガス)、
63…圧力調整器、 64…マスフローコントローラ、
65…バルブ、 66…NOx濃度計、 67…排気ファン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスにおいて、少なくとも、前記シリカガラスは、OH基含有量が10wt.ppm以下であり、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲であり、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下であり、光触媒反応ユニットに使用されるものであることを特徴とする光触媒用シリカガラス。
【請求項2】
前記シリカガラスは、厚さ1mmの波長163nmでの直線透過率が40.0%〜1.0%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒用シリカガラス。
【請求項3】
前記シリカガラスの金属不純物濃度は、表面から30μmまでの部分及びそれよりも内側の部分のそれぞれにおいて、ともに、アルカリ金属元素Li、Na、Kの各濃度が50wt.ppb以下、アルカリ土類金属元素Mg、Caの各濃度が10wt.ppb以下、遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Znの各濃度が5wt.ppb以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光触媒用シリカガラス。
【請求項4】
前記シリカガラスは、シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去、及び、石英バーナーを用いた火炎研磨を施されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の光触媒用シリカガラス。
【請求項5】
前記光触媒用シリカガラスは、前記光触媒反応ユニットを構成する部材のうち、光触媒材料を担持する担体、光触媒材料が担体に担持されたものである光触媒体の収納容器、光源用紫外線ランプチューブ、光源用紫外線ランプ窓、紫外線反射板の少なくともいずれか1つに使用されるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の光触媒用シリカガラス。
【請求項6】
光触媒反応ユニットに使用される、光触媒用シリカガラスを製造する方法であって、少なくとも、
シリカ粉を原料とし、該シリカ粉原料を500℃〜1000℃の温度範囲にて加熱脱水処理する工程と、
該加熱脱水処理されたシリカ粉を、少なくとも水素を含む雰囲気下にて電気加熱溶融することにより、透明シリカガラスインゴットを作製する工程と、
該透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する工程と、
該形状加工したシリカガラスに対し、該シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去を行う工程と、
該加工歪除去を行ったシリカガラスを前記光触媒反応ユニットに使用される形状に組み立てる工程と
を含むことを特徴とする光触媒用シリカガラスの製造方法。
【請求項7】
光触媒反応ユニットに使用される、光触媒用シリカガラスを製造する方法であって、少なくとも、
ケイ素化合物を原料とする火炎加水分解法により白色スート体を合成する工程と、
該白色スート体を、少なくとも水素を含み、かつ、塩素、フッ素の少なくともいずれかを含む雰囲気下にて加熱脱水処理する工程と、
該加熱脱水処理された白色スート体を、10Pa以下の真空下にて電気加熱溶融することにより透明シリカガラスインゴットとする工程と、
該透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する工程と、
該形状加工したシリカガラスに対し、該シリカガラスへの不純物の混入を防ぐためのシールド材を用いたアニール処理による加工歪除去を行う工程と、
該加工歪除去を行ったシリカガラスを前記光触媒反応ユニットに使用される形状に組み立てる工程と
を含むことを特徴とする光触媒用シリカガラスの製造方法。
【請求項8】
前記製造するシリカガラスを、OH基含有量が10wt.ppm以下、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下になるようにすることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の光触媒用シリカガラスの製造方法。
【請求項9】
前記形状を加工したシリカガラスに対するアニール処理を、電気抵抗加熱処理炉において、前記シールド材として、Al及び/またはZrを10〜1000wt.ppm含有したシリカガラス板、Si単結晶板、Si多結晶板の少なくともいずれか1種を用いて行うことを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか一項に記載の光触媒用シリカガラスの製造方法。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれか一項に記載の光触媒用シリカガラスの製造方法において、少なくとも前記透明シリカガラスインゴットを所定の形状に加工する工程よりも後に、さらに、石英バーナーを用いた火炎研磨を行う工程を有することを特徴とする光触媒用シリカガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−154090(P2009−154090A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335010(P2007−335010)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】