説明

光記録材料、光記録媒体、情報記録方法、および情報再生方法

【課題】多層の記録可能な光ディスクにおいて比較的短時間で記録条件を最適化できるようにする。
【解決手段】例えば追記型の片面2層ディスク(100)を用い、そのデータ領域(DA)に、出射パワーが変調されたレーザを用いてマーク部とスペース部を形成することにより情報記録を行う。ここで、マーク部を形成するときの最大レーザパワー(ピークパワー)をPpとし、スペース部を形成するときのバイアスパワーをPbとしたときに、Pbに対するPpのパワー比Pb/Ppを各記録層(L0、L1)毎に算出し(ST16)、この算出結果に基づいて複数記録層のいずれか(L0および/またはL1)に情報記録する(ST14〜ST22)。この方法では、算出したパワー比Pb/Ppが各記録層毎に異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2以上の記録層に対してディスク片面から情報の記録再生を可能とした光ディスク(広義には光を利用した情報記録媒体)、その記録方法、およびその再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクには、大きく分けて再生専用のROMディスク、追記型のRディスク、書き換え型のRWまたはRAMディスクの3種類がある。情報の大容量化に伴い、光ディスクにおいても、更なる大容量化が求められている。光ディスクを大容量化するためには、レーザ波長を短くする、あるいは開口数NAを大きくするなどしてビームスポットを絞り込み記録密度を上げる方法、あるいはディスクの片面に複数の記録層を設けた多層構造とする方法などがある(特許文献1)。
【0003】
このうち、多層構造をとる光ディスクは、主に再生専用の2層ROMディスクが市場に出ているが、最近ではレーザ波長650nmを用いた追記型の2層ディスク(DVD−R:DL)においても製品化されている。DVD−Rなど、記録層に有機色素材料を用いた光ディスクを記録再生する方法では、レーザ光のパワーを変調することにより、色素の反射率変化を引き起こした記録マークを形成し、記録マークと未記録部の反射率差を利用して情報記録が行われる。レーザ光のパワー変調方法については、例えばDVD−Rではマルチパルスで行われる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−206849号公報(段落0036〜0041、図1参照)
【特許文献2】特開平9−282660号公報(要約参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
405nmのレーザ波長で記録を行うことができるようにした追記型単層Rディスクを作成し、情報の記録検討を行ったところ、今までの650nmレーザ波長で記録を行ったときにあまり重要でなかったバイアスパワーが、マーク長を制御するのに非常に重要であることが分かった。ところが、このバイアスパワーも記録特性に影響を及ぼすということは、さらに記録条件のパラメータが増え、最適記録条件を見出すのに多くの時間がかかってしまう。そこで、条件を記録パワー(または記録パルスのピークパワー)とバイアスパワーの比を一定にして記録パワーを変えてみると、短い時間で最適記録条件(例えば、記録波長や記録波形が定まっている場合において、エラーレートが極小となる記録パワーを決める条件)を見出すことができることがわかった。
【0006】
しかしながら、2層Rディスクを作製して同様に情報の記録を行うと、問題が生じた。すなわち、各層で記録パワーとバイアスパワーの比を同じとして記録を行うと、2層とも同じ記録層材料とした場合でも、片方の層の記録特性が非常に悪くなってしまうという問題に直面した。
【0007】
また、情報記録媒体(特に青色系レーザで高密度記録を行う多層光ディスク)を長期間保存していた場合や、高温高湿などの厳しい環境で保存していたような場合、最適記録パワーが情報記録媒体製造直後に比べて変化し、最適記録条件を見つけ出すのに時間がかかるという問題もある。
【0008】
この発明の課題の1つは、多層の記録可能な光ディスクにおいて比較的短時間で記録条件を最適化できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一実施の形態に係る記録方法は、複数の記録層(L0、L1)を有する多層光ディスク(100)のデータ領域(DA)に、出射パワーが変調されたレーザを用いてマーク部とスペース部を形成することにより情報記録を行う方法である。ここで、前記マーク部を形成するときの最大レーザパワー(またはピークパワー)をPpとし、前記スペース部を形成するときのバイアスパワーをPbとしたときに、前記Pbに対する前記Ppのパワー比Pb/Ppを前記複数の記録層(L0、L1)の各記録層毎に算出し(ST16)、この算出結果に基づいて前記複数の記録層のいずれか(L0および/またはL1)に情報記録する(ST14〜ST22)。この方法では、前記算出したパワー比Pb/Ppが前記各記録層毎に異なる(ST16でL0とL1のPb/Ppを独立別個に算出するため異なる)ようにている。
【発明の効果】
【0010】
複数の記録層を有する光ディスクに記録する際の最適条件(例えば、記録波長および記録波形を固定した場合において、ビットエラーレートが極小となる記録パワーを決める条件)を、比較的短時間で見出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施の形態に係る多層光ディスクの構成例を説明する図。
【図2】図1の光ディスクにおける物理セクタレイアウト例を説明する図。
【図3】図1の光ディスクにおけるリードイン領域の構成例を説明する図。
【図4】図3のコントロールデータゾーンの構成例を説明する図。
【図5】図4の構成例を説明する図。
【図6】図5の物理フォーマット情報の一例を説明する図。
【図7】図6の物理フォーマット情報内のデータ領域配置の一例を説明する図。
【図8】図5の物理フォーマット情報の一部(L0関連)の構成例を説明する図。
【図9】図5の物理フォーマット情報の他部(L1関連)の構成例を説明する図。
【図10】記録パルスの波形(ライトストラテジ)の例を説明する図。
【図11】この発明の一実施の形態に係る記録方法の一例を説明するフローチャート図。
【図12】この発明の一実施の形態に係る再生方法の一例を説明するフローチャート図。
【図13】片面2層光ディスクを用いた記録において、L0層に対するパワー比とL1層に対するパワー比が異なる場合の例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明の種々な実施の形態を説明する。図1は、この発明の一実施の形態に係る多層光ディスク(例えば追記型の片面2層光ディスク)100の構成例を説明する図である。図1(a)(b)に例示されるように、この光ディスク100は、例えばポリカーボネート(PC)等の合成樹脂材料で円盤状に形成された透明樹脂基板101を備えている。この透明樹脂基板101には、同心円状またはらせん状に溝(グルーブ)が形成されている。この透明樹脂基板101は、スタンパを用いて射出成形により製造することができる。
【0013】
ここで、ポリカーボネート等の0.59mm厚透明樹脂基板101上に第1層目(L0)の有機色素記録層105および光半透過反射層106を順に積層し、その上にフォトポリマー(2P樹脂)104をスピンコートする。そして、その上に第2層目(L1)の溝(グルーブ)形状を転写して第2層目の有機色素記録層107および銀または銀合金等の反射膜108を順に積層する。こうしてL0およびL1の記録層が積層されたものに、他の0.59mm厚の透明樹脂基板(あるいはダミー基板)102が、UV硬化樹脂(接着層)103を介して貼り合わされる。上記有機色素の記録膜(記録層105および107)は、半透過反射層106及び中間層104を挟む2層構造となっている。こうして出来上がった貼り合わせ光ディスクの合計厚は、ほぼ1.2mmとなる。
【0014】
ここで、透明樹脂基板101上には、例えばトラックピッチ0.4μm、深さ60nmのらせん状グルーブが(L0とL1の各層に)形成されている。このグルーブはウォブルしており、アドレス情報はこのウォブル上に記録されている。そして、この透明樹脂基板101上に、そのグルーブを充填するように、有機色素を含む記録層105、107が形成される。
【0015】
この記録層105、107を形成する有機色素としては、その最大吸収波長領域が記録波長(例えば405nm)よりも長波長側にシフトしているものが用いられる。また、記録波長領域(例えば450nm〜600nm)において吸収が消滅しているものではなく、その長波長領域でも相当の光吸収を有するように設計されたものである。
【0016】
上記有機色素は、溶媒に溶かすことで液体とし、スピンコート法により透明樹脂基板面に容易に塗布することができる。この場合、溶媒による希釈率、スピン塗布時の回転数を制御することにより、膜厚を高精度に管理することができる。
【0017】
この発明の一実施の形態において使用する有機色素としては、シアニン色素、スチリル色素、アゾ色素等がある。特に、シアニン色素、スチリル色素は、記録波長に対する吸収率の制御がしやすく好適である。また、アゾ色素は、アゾ化合物単体で用いても良いし、アゾ化合物1分子またはそれ以上の分子と金属との錯体としても良い。
【0018】
この発明の一実施の形態において使用するアゾ金属錯体は、その中心金属Mとして、コバルト、ニッケル、あるいは銅を使用して光安定性を高めている。しかし、それに限らず、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀などを、アゾ金属錯体の中心金属Mとして使っても良い。
【0019】
なお、情報記録前のトラック上を記録用レーザ光によりフォーカシングまたはトラッキングした場合は、低光反射率である。その後、レーザ光により色素の分解反応が生じ、光吸収率が低下することにより、記録マーク部分の光反射率が上昇する。このため、レーザ光を照射して形成した記録マーク部分の光反射率が、レーザ光照射前の光反射率よりも高くなるという、いわゆるLow−to−High(またはL to H)の特性を実現している。
【0020】
なお、記録レーザの照射で発生する熱により、透明樹脂基板101、特に(L0またはL1の)グルーブ底部に変形を伴なうこともある。この場合、記録後の再生時におけるレーザ反射光に(熱変形を伴わない場合と比較して)位相差が生じることもある。
【0021】
この発明の一実施の形態において、透明樹脂基板101およびフォトポリマー(2P樹脂)104上に存在するL0層およびL1層に適用される物理フォーマットとしては、例えば以下のものがある。すなわち、追記型片面2層ディスクの一般パラメータは1層ディスクの一般パラメータとほとんど同じであるが、以下の点で異なる。ユーザが使用可能な記録容量は30GBであり、データ領域の内半径がレイヤー0(L0層)では24.6mmであり、レイヤー1(L1層)では24.7mmであり、データ領域の外半径が58.1mm(レイヤー0、レイヤー1共通)である。
【0022】
図1(a)の光ディスク100において、システムリードイン領域SLAは、図1(c)に例示されるようにコントロールデータセクションを含み、このコントロールデータセクションは、物理フォーマット情報等の一部として、記録パワー(ピークパワー)、バイアスパワー等の記録に関するパラメータを、L0およびL1それぞれに対して含んでいる。
【0023】
また、光ディスク100のデータ領域DA内のトラックには、図1(d)に例示されるように、所定の記録パワー(ピークパワー)およびバイアスパワーを伴うレーザにより、マーク/スペース記録が行われる。このマーク/スペース記録により、図1(e)に例示されるように、例えば高精細TV放送番組等のオブジェクトデータ(VOB等)とその管理情報(VMG)が、データ領域DA内の(L0および/またはL1の)トラック上に記録される。
【0024】
《情報領域のフォーマット》
図2は、図1の光ディスク100における物理セクタレイアウトの一例を説明する図である。図2に例示されるように、2層のレイヤーにわたって設けられる情報領域は、7つの領域:システムリードイン領域、コネクション領域、データリードイン領域、データ領域、データリードアウト領域、システムリードアウト領域、ミドル領域からなる。各レイヤーにミドル領域が設けられることにより、再生ビームをレイヤー0(L0)からレイヤー1(L1)に移動させることができる。データ領域DAはメインデータ(図1(e)の例では管理情報VMG、オブジェクトデータVOB等)を記録する。システムリードイン領域SLAは制御データと参照(リファレンス)コード等を含む。データリードアウト領域は連続するスムーズな読み出しを可能とする。
【0025】
《リードアウト領域》
システムリードイン領域とシステムリードアウト領域はエンボスピットからなるトラックを含む。レイヤー0(L0)のデータリードイン領域、データ領域、ミドル領域と、レイヤー1(L1)のミドル領域、データ領域、データリードアウト領域は、グルーブトラックを含む。グルーブトラックはレイヤー0のデータリードイン領域の開始位置からミドル領域の終了位置まで連続であり、レイヤー1のミドル領域の開始位置からデータリードアウト領域の終了位置まで連続である。なお、片面2層ディスク基板を1対用意して張り合わせると、2つの読み出し面を有する両面4層ディスクとなる。
【0026】
図3は、図1の光ディスクにおけるリードイン領域の構成例を説明する図である。図3に例示されるように、レイヤー0(L0)のシステムリードイン領域SLAは内周側から順にイニシャルゾーン、バッファーゾーン、制御(コントロール)データゾーン、バッファーゾーンからなる。レイヤー0のデータリードイン領域は内周側から順にブランクゾーン、ガードトラックゾーン、ドライブテストゾーン、ディスクテストゾーン、ブランクゾーン、RMD(Recording Management Data)デュプリケーションゾーン、L−RMZ(記録位置管理データ)、R物理フォーマット情報ゾーン、参照コードゾーンからなる。レイヤー0(L0)のデータ領域の開始アドレス(内周側)とレイヤー1のデータ領域の終了アドレス(内周側)とはクリアランスの分だけずれており、レイヤー1(L1)のデータ領域の終了アドレス(内周側)の方がレイヤー0のデータ領域の開始アドレス(内周側)より外周側である。
【0027】
《リードイン領域の構造》
図3はレイヤー0(L0)のリードイン領域の構造を例示している。システムリードイン領域は内周側から順にイニシャルゾーン、バッファーゾーン、コントロールデータゾーン、バッファーゾーンが配置される。データリードイン領域は内周側から順にブランクゾーン、ガードトラックゾーン、ドライブテストゾーン、ディスクテストゾーン、ブランクゾーン、RMDデュプリケーションゾーン、データリードイン領域内の記録位置管理(レコーディングマネージメント)ゾーン(L−RMZ)、R物理フォーマット情報ゾーン、参照コードゾーンが配置される。
【0028】
《システムリードイン領域の詳細》
イニシャルゾーンは、エンボスされたデータセグメントを含む。イニシャルゾーンのデータセグメントとして記録されたデータフレームのメインデータは、“00h”に設定される。バッファーゾーンは、32個のデータセグメントからの1024の物理セクタで構成される。このゾーンのデータセグメントとして記録されたデータフレームのメインデータは、“00h”に設定される。コントロールデータゾーンは、エンボスされたデータセグメントを含む。データセグメントはエンボスされた制御データを含む。コントロールデータは、PSN 123904(01 E400h)を起点とする192のデータセグメントから構成される。
【0029】
コントロールデータゾーンの構成例を図4に示す。また、コントロールデータセクションのデータセグメントの構成例を図5に示す。コントロールデータセクションの最初のデータセグメントの内容は、16回繰り返される。各データセグメントの最初の物理セクタは、物理フォーマット情報を含む。各データセグメントの2番目の物理セクタは、ディスク製造情報を含む。各データセグメントの3番目の物理セクタは、著作権保護情報を含む。各データセグメントの他の物理セクタの内容は、システム使用のためにリザーブ領域とされる。
【0030】
図6は図5のコントロールデータセクション内の物理フォーマット情報の一例を説明する図であり、図7はこの物理フォーマット情報内のデータ領域配置の一例を説明する図である。この物理フォーマット情報の各バイト位置(BP)の記述内容は以下のようになっている。BP132からBP154に示すリードパワー、記録速度、データ領域の反射率、プッシュプル信号、オントラック信号の値は一例である。これらの実際の値は、エンボス情報の規定、記録後のユーザデータの特性の規定を満足する値の中からディスク製造者が選ぶことができる。BP4〜BP15に記述されたデータ領域配置の内容は、例えば図7のようになる。
【0031】
図6のBP149、BP152は、レイヤー0、レイヤー1のデータ領域の反射率を指定する。例えば、0000 1010bは5%を示す。実際の反射率は次の式で指定される:
実際の反射率=値×(1/2)。
【0032】
BP150、BP153は、レイヤー0、レイヤー1のプッシュプル信号を指定する。これらのBP各々において、図示しないビットb7は各レイヤーのディスクのトラック形状を指定し、図示しないビットb6〜b0はプッシュプル信号の振幅を指定する:
トラック形状:0b(グルーブ上のトラック)
1b(ランド上のトラック)
プッシュプル信号:例えば、010 1000bは0.40を示す。
【0033】
プッシュプル信号の実際の振幅は次の式で指定される:
プッシュプル信号の実際の振幅=値×(1/100)。
【0034】
BP151、BP154はレイヤー0、レイヤー1のオントラック信号の振幅を指定する:
オントラック信号:例えば、0100 0110bは0.70を示す。
【0035】
オントラック信号の実際の振幅は次の式で指定される:
オントラック信号の実際の振幅=値×(1/100)
なお、物理フォーマット情報のBP512〜BP543には図8に例示するようなL0の記録関連パラメータを記述することができ、L0層の記録を行う際の当初のピークパワーやバイアスパワー等の情報は、図8の記述から取り出すことができる。また、物理フォーマット情報のBP544〜BP2047には図9に例示するようなL1の記録関連パラメータを記述することができ、L1層の記録を行う際の当初のピークパワーやバイアスパワー等の情報は、図9の記述から取り出すことができる。
【0036】
この発明の一実施の形態に係る追記型2層光ディスク100の評価ディスクは、次のようにして作製できる。すなわち、透明樹脂基板101上に、有機色素の1.2wt%TFP溶液をスピンコートにより塗布してL0記録層105を形成する。塗布後の色素のグルーブ底からの厚みは60nmとする。この色素塗布基板にAg合金の反射膜106をスパッタリングにより25nm積層し、2P(photo polymer)樹脂の中間層104を25μmの厚さにスピンコートする。ここで、別に作製したポリカーボネートスタンパを貼り合わせて溝形状を転写させてからスタンパを剥がす。このようにして形成された2P樹脂の中間層104上に有機色素の1.2wt%TFP溶液をスピンコートにより塗布してL1記録層107を形成する。その上に、Ag合金の反射膜108をスパッタリングにより100nm積層する。その上に、UV硬化樹脂103を用いて0.59mm厚の透明樹脂基板102を貼り合わせる。
【0037】
以上のようにして作製した情報記録媒体(片面2層Rの評価ディスク)を用いて再生信号の評価実験を行った。評価に用いた装置は、パルステック社製の光ディスク評価装置ODU−1000であり、この装置のレーザの波長は405nm、NAは0.65である。記録及び再生時の線速度は6.61m/sとした。記録信号は8−12変調されたランダムデータであり、図10に示すような、一定の記録パワー(ピークパワー)と2種類のバイアスパワー1,2を含むレーザ波形を用いて情報の記録を行った。その際の記録条件を、以下に述べる。
【0038】
・記録条件(ライトストラテジ:Write Strategyの情報)の説明
最適な記録パワーを調べる時に使用する記録波形(記録時の露光条件)について図10を用いて説明する。記録時の露光レベルとして記録パワー(ピークパワー:Peak power)、バイアスパワー1(Bias power 1)、バイアスパワー2(Bias power 2)、バイアスパワー3(Bias power 3)の4レベルを持ち、長さの長い(4T以上の)記録マーク9形成時には記録パワー(ピークパワー:Peak power)とバイアスパワー3(Bias power 3)の間でマルチパルスの形で変調される。この実施の形態では“Hフォーマット”、“Bフォーマット”いずれの方式もチャネルビット長Tに対する最小マーク長は2Tとなっている。この2Tの最小マークを記録する場合には、図10に示すように、バイアスパワー1(Bias power 1)の後で記録パワー(ピークパワー:Peak power)レベルの1個のライトパルスを使用し、ライトパルスの直後は一度バイアスパワー2(Bias power 2)になる。3Tの長さの記録マーク9を記録する場合には、バイアスパワー1(Bias power 1)の後に来る記録パワー(ピークパワー:Peak power)レベルのファーストパルスとラストパルスの2個のライトパルスを露光した後、一旦バイアスパワー2(Bias power 2)になる。4T以上の長さの記録マーク9を記録する場合には、マルチパルスとラストパルスで露光した後、バイアスパワー2(Bias power 2)になる。
【0039】
図10における縦の破線はチャネルクロック周期(T)を示す。2Tの最小マークを記録する場合にはクロックエッジからTSFP遅れた位置から立ち上がり、その1クロック後のエッジからTELP後ろの位置で立ち下がる。その直後のバイアスパワー2(Bias power 2)になる期間をTLCと定義する。TSFPとTELP及びTLCの値は、Hフォーマットの場合には制御データゾーンCDZ内の物理フォーマット情報PFI内に記録されている。
【0040】
3T以上の長い記録マーク形成時の場合には、クロックエッジからTSFP遅れた位置から立ち上がり、最後にラストパルスで終わる。ラストパルスの直後はTLCの期間バイアスパワー2(Bias power 2)になるが、ラストパルスの立ち上がり/立ち下がりタイミングのクロックエッジからのずれ時間をTSLP,TELPで定義する。また、先頭パルスの立ち下がりタイミングのクロックエッジから測った時間をTEFPで、さらに1個のマルチパルスの間隔をTMPで定義する。
【0041】
ELP−TSFP、TMP、TELP−TSLP、TLCの各間隔は、最大値に対する半値幅で定義する。また、この実施の形態では、上記パラメーターの設定範囲を
0.25T≦TSFP≦1.50T (eq.01)
0.00T≦TELP≦1.00T (eq.02)
1.00T≦TEFP≦1.75T (eq.03)
−0.10T≦TSLP≦1.00T (eq.04)
0.00T≦TLC ≦1.00T (eq.05)
0.15T≦TMP ≦0.75T (eq.06)
とする。
【0042】
さらに、この実施の形態では、記録マークの長さ(Mark length)とその直前/直後のスペース長(Leading/Trailing space length)に応じて、上記各パラメーターの値を変化できるようにしている。
【0043】
この実施の形態に示した記録原理で記録される追記形情報記録媒体の最適な記録パワーを調べた時の各パラメーターは、バイアスパワー1(Bias power 1)、バイアスパワー2(Bias power 2)、バイアスパワー3(Bias power 3)の値はそれぞれ2.6mW、1.7mW、1.7mWであり、再生パワーは0.4mWである。
【0044】
以上のようにして割り出した各パラメーターの値等に基づき、「ドライブテストゾーンにおいて試し書きを行った装置(ドライブ)でその記憶媒体に対して最適な記録条件(ライトストラテジ:Write Strategyの情報)」を定めることができる。
【0045】
図11は、この発明の一実施の形態に係る記録方法の一例を説明するフローチャートである。このフローチャートを参照して、この発明の一実施の形態に係る2層光ディスク100における最適記録条件を決定するための手順の一例を説明する。まず、システムリードイン領域SLAに記述されたデータから、記録に関するパラメータ(図6〜図9参照)を読み出す(ST10)。
【0046】
記録条件を決定する時間をできるだけ短縮するためには、まず読み出したパラメータ通りに(例えば、L0層のテスト記録では図8のピークパワー(Pp)の値とバイアスパワー1(Pb)の値を用い、L1層のテスト記録では図9のピークパワーの値とバイアスパワー1の値を用いて)テスト記録を行う(ST12)。このようなテスト記録を行った個所からの再生信号のビットエラーレート(SbER)を測定し、測定結果のSbERが所定の閾値(例えば5.0e-5)よりも悪い場合は(ST14のNG)、システムリードインから読み出したデータに記載されているパラメータよりPp/Pbを計算し(ST16)、Pp/Pbを一定にして記録パワーを変化させ(ST18)、変更後の記録パワーで新たにテスト記録を行い(ST12)、再度SbERを測定することを繰り返し(ST12〜ST18の処理ループ)、最適記録条件を模索する。
【0047】
測定結果のSbERが所定の閾値(例えば5.0e-5)よりも良好な場合は(ST14のOK)、そのときの記録条件がそのまま最適な記録条件であると判断し、テストを行った記録対象の層(L0および/またはL1)に対して、データの記録を開始する(ST20)。このデータ記録は、ST20で決定された最適記録条件で継続される(ST22、ST24N)。
【0048】
ここで、テスト記録条件が良好かどうか判断を行うためにSbERを用いたが、これはデータのエラーレートや信号対雑音比関連の情報(PRSNRなど)、記録品質の良否判断ができる指標であれば、どれを用いてもかまわない。
【0049】
また、この実施の形態においては、まず情報記録媒体に記載されているシステムリードイン(および/またはリードアウト)の物理フォーマット情報を読み出し、その設定値のままテスト記録を行ったが、これに限ることはなく、例えば初めからPp/Pbをデフォルトの一定値にしてテスト記録を行い、その後に適宜記録パワーを変化させて最適記録条件を模索する処理(最適化処理)を行っても良い。
【0050】
また、この実施の形態において、用いたPp/Pbのパラメータを新たに情報記録媒体に記録し、その後に追記を行う際にこの値を読み出して用いても良い。そのようにすれば、最適化処理にかかる時間を最初よりも短縮できる。
【0051】
また、この実施の形態においては、既に情報記録媒体に記載されているパラメータを読み出して使用しているが、これに限ることはなく、各レコーダ(またはディスクドライブ)が、使用される可能性の高いディスクの品種に応じて、Pp/Pbのリストを予めROMデータとして持っていても良い。
【0052】
また、この実施の形態においては、ディスクからの情報読み出しはシステムリードイン領域のデータを用いたが、もちろんこれに限ることはなく、例えばウォブル信号中に記録してあるデータなどを用いても良い。
【0053】
図12は、この発明の一実施の形態に係る再生方法の一例を説明するフローチャートである。再生時には、図11の処理によって最適な記録条件で記録された光ディスク100の所定トラックから、記録内容の管理情報(図1(e)のVMG等)が読み出され(ST30)、この管理情報の記述内容に従い、関連するオブジェクトデータ(VOB等)が再生される(ST32)。
【0054】
図11を参照して説明したように、多層の光ディスクに情報記録を行う際には、各層で記録パワー(ピークパワー)とバイアスパワーの比を異ならせ、各層それぞれで予め設定した記録パワーとバイアスパワーの比を用いる。そうすることにより、比較的短時間で、良好な記録条件(例えば、各層に対して記録波長および記録波形が定まっている場合において、エラーレートが実用性等の観点から決めた所定の閾値以下となる条件)を見出すことができる。その理由は、記録層が多層となることにより、各層でのレーザ光の収差や情報記録媒体の熱的影響、レーザからの記録層までの距離(他の半透明記録層を通過した光を使用するかどうか)などの違いが生じることにより、バイアスパワーと記録パワーとの関係が異なるため、それぞれの層で別個の最適化が必要となるためと考えられる。
【0055】
図13は、上記の考えを裏付けるデータであり、片面2層光ディスク100を用いた記録において、L0層に対するパワー比[Pb/Pp]a対エラーレートSbERの変化曲線と、L1層に対するパワー比[Pb/Pp]b対エラーレートSbERの変化曲線が、少なくとも±5%(図示の例では20%程)異なってくる様子を例示している。
【0056】
<まとめ>
少なくとも基板と、中間層を挟んで記録層が2層以上存在し、基板上には同心円状またはらせん状に溝(グルーブ)を有する記録可能な情報記録媒体(追記または書き換え可能光ディスク)に情報を記録する方法において、情報記録媒体に情報を記録する際には、レーザの出射パワーを変調し、記録マーク部を形成するときの最も高いパワー(ピークパワー)をPp、スペース部を形成するときに発光するパワー(バイアスパワー)をPbとしたときに、Pb/Ppが各記録層(L0、L1等)によって異なるような方法とすればよい。
【0057】
より短時間に情報の記録を開始できるようにする(つまりディスクをドライブに装填してから実際にデータ記録を開始できるようになるまでの待ち時間をできるだけ短くする)には、各光ディスクに予め記述されている物理フォーマット情報(記録パワーなどの情報を含む)を読み出し、その情報から使用するPb/Ppを決定すればよい。このとき、Pb/Ppはそのまま光ディスクから読み出してもよいし、記録パワー(ピークパワー)とバイアスパワーを光ディスクから読み出し、そこから計算しても良い。
【0058】
この発明の一実施の形態に係る記録可能な多層光ディスクには、少なくとも基板と、中間層を挟んで記録層が2層以上存在し、基板上には同心円状またはらせん状に溝(グルーブ)が設けられている。この光ディスクでは、情報記録はレーザの出射パワーを変調することによって行い、記録マーク部を形成するときの最も高いパワー(ピークパワー)をPp、スペース部を形成するときに発光するパワー(バイアスパワー)をPbとしたときに、Pb/Ppが各記録層によって異なるようにしている。
【0059】
この光ディスクには、少なくとも記録を行う際の各層における記録パワーとバイアスパワーが記録されており、各層に対して記述されている記録パワー(ピークパワー)とバイアスパワーの比が異なる。この場合、各層毎の記録パワーとバイアスパワーの情報から、(そのような情報を用いない場合と比べて)より短時間で各層毎に最適記録条件を求めることが可能となる。
【0060】
この発明の一実施の形態に係る記録方法は、追記型(同じ個所に1回のみ記録可能)の光ディスクにおいて特に有効となる。また、片面2層の光ディスクを用いる場合では、光入射側からみて第1の記録層(L0)に記録を行うときのバイアスパワーよりも、第2の記録層(L1)に記録を行うときのバイアスパワーのほうが高いものとすると、より良い。
【0061】
なお、この発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、現在または将来の実施段階では、その時点で利用可能な技術に基づき、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。例えば、実施の形態では2層Rディスクを中心に説明したが、各層毎に異なるパワー比で最適記録条件を求めるという技術思想は、多層RWディスクにも、あるいは多層RAMにも適用可能である。
【0062】
また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0063】
100…多層(片面2層以上)の光ディスク;101…L0層側のポリカーボネート基板;102…L1層側のポリカーボネート基板(ダミー基板);103…紫外線硬化樹脂(接着層);104…中間層;105…L0記録層;106…L0反射層(レーザ光に対して半透過性);107…L1記録層;108…L1反射層(片面3層ならレーザ光に対して半透過性、片面2層ならレーザ光を完全反射)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長405nmの光により構造変化可能な有機色素材料であって、シアニン色素、スチリル色素、またはアゾ色素を含んだ光記録材料。
【請求項2】
所定波長の光により情報の記録再生が可能な記録層を具備した光記録媒体において、
前記記録層がシアニン色素、スチリル色素、またはアゾ色素を含む光記録媒体。
【請求項3】
所定波長の光により情報の記録再生が可能な記録層を具備し前記記録層がシアニン色素、スチリル色素、またはアゾ色素を含む光記録媒体を用いて、情報記録を行う記録方法。
【請求項4】
シアニン色素、スチリル色素、またはアゾ色素を含み情報記録がされた記録層を具備する光記録媒体から、所定波長の光を用いて、情報再生を行う再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−61860(P2012−61860A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239438(P2011−239438)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2009−289014(P2009−289014)の分割
【原出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】