説明

光走査装置およびミラー駆動装置

【課題】ミラー部の傾向量を大きくできる光走査装置及びミラー駆動装置を提供する。
【解決手段】異なる2方向に傾向駆動するミラー部3と、電気機械変換素子部と、電気機械変換素子部で発生する変位をミラー部3の傾向に伝達する弾性変形部12と、を一体に形成し、電気機械変換素子部は、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を複数層積層して構成され、正電極と負電極とが対向していない非活性部17A、17Bを固定枠4に固定した構成の光走査装置2とし、この光走査装置2を用いたミラー駆動装置1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSミラー等を二次元走査するために用いる光走査装置およびミラー駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光等を走査する光走査装置およびミラー駆動装置を備えたレーザープリンターやレーザープロジェクター等が知られている。レーザープリンターでは、多角柱ミラーをモーターで回転させて反射光を走査するポリゴンミラーや、平面ミラーを電磁アクチュエーターによって回転駆動させるガルバノミラー等を有するものがある。
【0003】
これらのポリゴンミラーやガルバノミラー等を用いたミラー駆動装置は比較的サイズが大きいので、より小型化を実現するために、集積回路製造技術を応用してミラーや弾性梁等の構成部品を一体的に成形加工したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の開発が進んでいる。
【0004】
また、レーザープロジェクターなどの画像投影装置でも、より小型化された光走査装置を得るために、MEMSによって走査ミラー(ミラー部)を構成することが模索されており、本出願人からも、MEMSミラーをミラー部として用いた光走査装置を備えた画像投影装置が既に出願されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
具体的に説明すると、特許文献1には、シリコン基板をエッチングして、所定形状のミラー部やミラー軸部や保持部や固定枠部を形成し、保持部に圧電素子を貼り付けてユニモルフ型のアクチュエーターを構成した光走査装置が開示されている。すなわち、この特許文献1の光走査装置は、ユニモルフ型のMEMSミラーを駆動するミラー駆動装置を備えた構成とされている。
【0006】
ユニモルフ型のMEMSミラーを駆動するミラー駆動装置においては、圧電素子などの電気機械変換素子の機械変位を伝えることでミラー部を傾向させている。ミラー部の傾向を増加させる工夫として、圧電素子を複数積層した構成が既に提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−266508号公報
【特許文献2】特開2005−303937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
圧電素子などの電気機械変換素子を複数積層した構成においては、電気機械変換素子に電界を印加するために、正の電圧を印加する正電極と、負の電圧を印加する負電極とが、ずれて向き合い対向していない非活性部を有する。電気機械変換素子の伸縮は、対向する電極間に電界方向が垂直になるような場合に最大となる。非活性部においては、電界方向が対向する電極間に垂直にならず、且つ電界の大きさが小さい。そのために、非活性部においては、電気機械変換素子の伸縮の大きさは小さくなってしまい、光走査装置のミラー部の傾向量の増加に寄与しない。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ミラー部の傾向量を大きくできる光走査装置およびミラー駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、固定枠と、互いに異なる軸方向を有する第1軸部及び第2軸部と、前記第1軸部の回動によって回動するとともに、前記第2軸部の回動によって回動するミラー部と、前記ミラー部及び前記第1軸部を囲み、前記第2軸部の回動によって回動する可動枠と、電気機械変換素子部と、電気機械変換素子部で発生する変位をミラー部の傾向に伝達する弾性変形部と、を備え、前記弾性変形部は、前記第2軸部と前記固定枠とを連結し、前記電気機械変換素子部は、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を複数層有し、前記弾性変形部に接合されており、前記正電極と前記負電極とが対向していない非活性部を有し、当該非活性部は前記固定枠側に配設されている光走査装置としたことを特徴としている。
【0011】
上記の構成によると、積層した複数層を正電極と負電極で挟むときに、正電極と負電極が対向していない非活性部を固定端とすることで、ミラー部の傾向量を最大限発揮可能となる。すなわち、ミラー部の傾向量を大きくできる光走査装置を得ることができる。
【0012】
また本発明は上記構成の光走査装置において、前記弾性変形部は、前記正電極と前記負電極を介して前記電気機械変換素子層に電力を供給するために、前記正電極と前記負電極とに各々対応した電極部を備え、前記電気機械変換素子部の前記弾性変形部への接合は、前記正電極と前記負電極の各々と、前記電極部とを異方性導電接着剤による接着層を介して行うことを特徴としている。この構成によると、弾性変形部に設ける電極部と、この上に配設する電気機械変換素子部の正負の電極とを、短絡を生じずに接合することができる。すなわち、電気機械変換素子部に給電するための電極部を、弾性変形部との接着部に設けることができる。
【0013】
また本発明は上記構成の光走査装置において、前記電気機械変換素子部の前記弾性変形部への接合は、前記電気機械変換素子部の剛性に対する機械剛性が、2.0×10−6〜2.0×10−4倍である接着層を用いて行うことを特徴としている。この構成によると、電気機械変換素子(圧電素子)の剛性に対する接着層の機械剛性を所定の割合に維持することができ、ミラー部の共振傾向量の固体毎のバラツキを低減することができる。
【0014】
また本発明は上記構成の光走査装置において、前記接着層は異方性導電接着剤による接着層であり、前記弾性変形部と前記電気機械変換素子部との間隙を、所定間隔に保持する粒子を含有することを特徴としている。この構成によると、異方性導電接着層に配合する導電性粒子を介して、弾性変形部と電気機械変換素子部との間隙を所定間隔とすることができ、ミラー部の傾向量に影響する電気機械変換素子部の共振周波数を作製上安定化させることが可能となる。
【0015】
また本発明は上記構成の光走査装置において、前記正電極と前記負電極は、それぞれ前記電気機械変換素子層の間に配された正電極用の内部電極及び負電極用の内部電極と、前記電気機械変換素子部の外面に配され、全ての前記正電極用内部電極と導通する正電極用集電部及び全ての前記負電極用内部電極と導通する負電極用集電部と、を有し、当該正電極用集電部及び負電極用集電部が前記電極部と導通するように接合されていることを特徴としている。この構成によると、正電極用集電部と負電極用集電部とを電極部に接合することで、複数の電気機械変換素子部に電圧を印加することができる。
【0016】
また本発明は、請求項1〜5の何れかに記載の光走査装置と、該光走査装置の駆動制御を行う光走査装置制御部と、前記ミラー部へ照射する光源と、該光源を駆動する光源駆動回路と、画像信号に基づき前記光源駆動回路を介して前記光源の制御を行う画像信号制御部とを備えたミラー駆動装置としたこと特徴としている。
【0017】
上記の構成によると、正電極と負電極が対向していない非活性部を固定端としてミラー部の傾向量を最大限発揮可能となる光走査装置を用いることで、ミラー部の傾向量を大きくできるミラー駆動装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、固定枠とミラー部と電気機械変換素子部と弾性変形部とを一体に備え、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を複数層積層し、正電極と負電極とが対向していない非活性部を固定枠側に配設しているので、ミラー部の傾向量を大きくできる光走査装置およびミラー駆動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る光走査装置の概略平面図である。
【図2】光走査装置の要部断面図である。
【図3】電気機械変換素子部の積層構成を示す概略説明図である。
【図4】集電部位置の変形例を示す概略斜視図である。
【図5】図4に示す変形例の要部断面図である。
【図6】従来の電気機械変換素子部の配線構成を説明する概略断面図である。
【図7】接着層の厚みに対するユニモルフ共振周波数の感度を示す図である。
【図8】本発明に係るミラー駆動装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明に係るミラー駆動装置を備えたモバイル端末の作動状態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。また、同一構成部材については同一の符号を用い、詳細な説明は適宜省略する。
【0021】
本発明に係る光走査装置2、およびこれを備えたミラー駆動装置1は、電気機械変換素子に接着固定された弾性変形部を介して、ミラー部を互いに異なる二方向に傾向させるものであって、例えば、図9に示す携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)などのモバイル端末40に搭載されるプロジェクター100に装備され、投影面41上に光を水平方向(H方向)および垂直方向(V方向)に走査するものである。
【0022】
例えば、光源としてレーザー光を用い、投影面41上においてレーザー光を水平方向(H方向)および垂直方向(V方向)に走査することによって、プロジェクター100に入力された画像情報を投影面41に投影する。この投影面41としては、別途準備したスクリーンでもよいが、スクリーン以外のものでもよい。例えば、壁面などを投影面41としてもよい。
【0023】
光源にRGB3色の光源を用いることで、スクリーン上にカラー映像を投影することができる。その際、ミラー部の傾向量により映像の投影範囲、解像度が決まり、映像の品質が決定される。そのために、映像の品質の向上にとっては、ミラー部の傾向量は大きいことが好ましい。
【0024】
一方、ミラー部の傾向量は、弾性変形部の変形量によって決まり、弾性変形部は電気機械変換素子、例えば圧電素子に所定の電圧を印加することによって所定の変形量が得られる。また、電気機械変換素子に圧電素子を用いることで、ミラー駆動装置を薄層化することが可能となる。電気機械変換素子に電磁デバイスを用いることもあるが、所定の変形量を得るためには磁石に厚みが必要となり、圧電素子を使用する場合に比べて薄層化できない。
【0025】
従って、圧電素子の印加電圧に対する変形量が大きい程、映像投影用のミラー部の傾向量が大きくなり、映像の品質が向上する。また、ミラー駆動装置を薄層化できる。薄層化可能なことで、モバイル機器等に本実施形態のミラー駆動装置を組み込むことが可能となる。
【0026】
図8は、本発明に係る光走査装置2を備えるミラー駆動装置1の構成を示すブロック図である。ミラー駆動装置1は、上述した光走査装置2及び光源23を備えるとともに、光走査装置2の駆動制御を行う光走査装置制御部24と、光源23を駆動し光線の変調が可能な光源駆動回路25と、光源駆動回路25を制御する画像信号制御部26とを有している。
【0027】
光走査装置2は、角度検出部21を有している。そして角度検出部21は、位置検出センサとしてフォトリフレクタを有している。フォトリフレクタがミラー部の裏面又は後述する可動枠部の裏面で反射された光を検出することでミラー部の角度を検出することができる。
【0028】
光走査装置制御部24は、ミラー部に関するY軸回りの回動、つまり水平方向の駆動を制御する水平駆動制御部24aと、ミラー部に関するX軸回りの回動、つまり垂直方向の駆動を制御する垂直駆動制御部24bとを有している。
【0029】
画像信号制御部26は、例えばミラー駆動装置1の外部から入力された画像信号に基づき光源23を制御するための制御信号を生成する。そして、この制御信号に基づき光源駆動回路25を介して光源23の制御(例えば点灯・消灯の制御や発光強度の制御)を行うことにより、入力された画像信号に基づく適切な画像表示が実行される。
【0030】
次に、図1を用いて光走査装置2の一例について説明する。光走査装置2は、光源から出射されるレーザー光を二次元走査するためのものであって、レーザー光を投影面41(図9参照)に向けて反射するミラー部3を少なくとも有している。このミラー部3の傾斜角(反射角)は変動可能となっており、ミラー部3の傾斜角を変動させることにより、光走査装置2によるレーザー光の二次元走査が行われる。
【0031】
また、ミラー部3をMEMSに組み込み、そのミラー部3が組み込まれたMEMSを光走査装置2としている。また、この光走査装置2は、略平坦で厚みが小さく、かつ、その外形が平面視において略正方形状(例えば、1辺の長さが約1cm)となっている。
【0032】
具体的な構造としては、光走査装置2はシリコン基板に対してエッチング処理などを施すことで得られる構造体からなっており、ミラー部3に加えて、固定枠4、駆動部5および可動枠6などを一体的に有している。なお、以下の説明では、ミラー部3の中心を図の横方向に横切る軸をX軸とし、ミラー部3の中心を図の縦方向に横切る軸をY軸とする。言い換えると、X軸とY軸とが直交する点をミラー部3の中心とする。
【0033】
ミラー部3は、Y軸に平行な第1軸部(トーションバー7)とX軸に平行で第1軸部と略直角に交差する第2軸部(軸8)を介して回動可能である。固定枠4は、光走査装置2の外縁に相当する部分であって、他の部分(ミラー部3、駆動部5および可動枠6など)を取り囲んでいる。すなわち、光走査装置2は、固定枠4と、互いに異なる軸方向を有する第1軸部及び第2軸部と、第1軸部の回動によって回動するとともに、第2軸部の回動によって回動するミラー部3と、ミラー部3及び第1軸部を囲み、第2軸部の回動によって回動する可動枠6と、電気機械変換素子部と、電気機械変換素子部で発生する変位をミラー部3の傾向に伝達する弾性変形部と、を備えている。
【0034】
弾性変形部と電気機械変換素子部とを一体化した部位である駆動部5は、X軸方向において固定枠4と分離され、Y軸方向において固定枠4と連結されている。すなわち、弾性変形部は、第2軸部(軸8)と固定枠4とを連結し、電気機械変換素子部は、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を有する。さらに、駆動部5は4つの圧電アクチュエーター部を含んでいるとともに、その4つの圧電アクチュエーター部がX軸およびY軸のそれぞれを対称軸として対称となり、かつ、互いに離間した状態となるように配置されている。また、駆動部5としての圧電アクチュエーター部は、圧電素子(PZTなどを原料とした焼結体を分極処理したもの)を複数の電極で挟持し、それをシリコン基板の駆動部5となる領域(弾性変形部)上に貼り付けることによって形成されている。
【0035】
このような駆動部5では、一対の電極に電圧が印加されると、一対の電極に挟持された圧電素子が伸長または収縮する。そして、圧電素子が伸長または収縮すると、それに応じて、シリコン基板の駆動部5となる領域である弾性変形部が撓む。すなわち、駆動部5は、電力が供給されることで駆動する。
【0036】
また、図に示すように、可動枠6は、駆動部5の内側に位置する略ひし形形状の枠である。この可動枠6のX軸上の両端部は軸8(第2軸部)を介して駆動部5と連結され、それ以外の部分は駆動部5から分離されている。これにより、可動枠6は、X軸周りに回動可能となっていることになる。
【0037】
可動枠6の内側には、Y軸方向に沿って延びる一対のトーションバー7(第1軸部)が設けられている。この一対のトーションバー7は、Y軸と重なり、かつ、X軸に対して対称となるように配置されている。さらに、一対のトーションバー7のそれぞれの一方端は、可動枠6のY軸上の端部に連結されている。
【0038】
そして、ミラー部3は、一対のトーションバー7のそれぞれの他方端の間に配置されており、その他方端によって支持されている。このため、ミラー部3は、可動枠6と共にX軸周りに回動され、トーションバー7を回動軸としてY軸周りに回動されることになる。すなわち、ミラー部3は、互いに異なる軸方向を有する第1軸部及び第2軸部を備えている。なお、ミラー部3は、略円形状に形成されており、金やアルミニウムなどからなる反射膜をシリコン基板のミラー部3となる領域上に貼り付けることで得ている。
【0039】
本実施形態の光走査装置2は、上記のような構造となっている。そして、この光走査装置2の走査動作は、4つの駆動部5を駆動させる(変形させる)タイミングを調整し、ミラー部3をX軸周りおよびY軸周りに振動させることによって行われる。例えば、X軸周りに振動するときの周波数は約60Hzに設定され、Y軸周りに振動するときの周波数は約30kHzに設定される。
【0040】
4つの駆動部5のそれぞれに5−1〜5−4の符号を付して具体的に説明すると、ミラー部3をX軸周りに振動させる際には、駆動部5−1および5−3を一方の組とするとともに、駆動部5−2および5−4を他方の組とし、一方の組および他方の組のそれぞれに印加する電圧の正負を反転させる。具体的には、一方の組である駆動部5−1および5−3を上向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−2および5−4を下向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にX軸周りに回転する。次に、一方の組である駆動部5−1および5−3を下向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−2および5−4を上向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にX軸周りに逆周りに回転する。これにより、ミラー部3が可動枠6と共にX軸周りに振動し、ミラー部3の傾きがX軸周りに変動する。なお、トーションバー7のねじれ方向はX軸周りの振動方向と直交する方向であるため、このミラー部3のX軸周りの振動には影響しない。
【0041】
また、ミラー部3をY軸周りに振動させる際には、駆動部5−1および5−2を一方の組とするとともに、駆動部5−3および5−4を他方の組とし、一方の組および他方の組のそれぞれに印加する電圧の正負を反転させる。具体的には、一方の組である駆動部5−1および5−2を上向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−3および5−4を下向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にY軸周りに回転する。次に、一方の組である駆動部5−1および5−2を下向きに撓む方向に変形させ、他方の組である駆動部5−3および5−4を上向きに撓む方向に変形させると、ミラー部3が可動部6と共にY軸周りに逆周りに回転する。これにより、ミラー部3が可動枠6と共にY軸周りに振動し、ミラー部3の傾きがY軸周りに変動する。
【0042】
このとき、駆動部5を変形させることのみでミラー部3をY軸周りに傾かせようとすると、ミラー部3のY軸周りの傾きの変動は小さくなってしまう。このため、実際に走査動作を行う際には、駆動部5に印加される電圧の周波数によってミラー部3が共振するように、駆動部5への印加電圧の周波数が設定される。
【0043】
上記のように光走査装置2を動作させることで、互いに直交している2軸周りにミラー部3を回動させることができ、レーザー光を1つのミラー部3で二次元走査することが可能となる。
【0044】
ところで、本実施形態では、圧電アクチュエーター部の大きな変形量を得るために、正電極と負電極との一対の電極で挟まれた電気機械変換素子層を複数層積層している。例えば、図2に示すように、圧電素子51〜55の5層の圧電素子層からなる電気機械変換素子層を備えた駆動部5Aを用いる。この図2に示す複数層型の駆動部5Aを備えたミラー駆動装置1が実施形態のミラー駆動装置である。
【0045】
正電極と負電極とで挟まれた電気機械変換素子層が一層の単層型(ユニモルフ型)の場合は、弾性変形部の大きな変形量を得るためには大きな電圧を印加する必要がある。大きな電圧を生成するためには、大きな電源が必要となり、また、信号制御用の電気回路の構成も大掛かりとなる。そうすると、ミラー駆動装置を薄層化でき、モバイル機器等に当該ミラー駆動装置を組み込んだとしても、電源系統がモバイル機器に使用できなくなる問題を生じる。
【0046】
しかし、正電極と負電極とで挟まれた電気機械変換素子層を複数有する複数層型であれば、同じ電圧レベルでより大きな変形量を得ることができるので、同じ変形量を得るために必要な電圧は小さくできる。すなわち、電源や電気回路の構成も小型にでき、モバイル機器等に容易に組込み可能となる。
【0047】
例えば、後述するように、各層15μm、5層で75μmの積層型の電気機械変換素子部と、1層で75μの単層型の電気機械変換素子部とで、その変形量を比較したところ、同じ電圧で積層型は単層型の約4倍の変形量を発現することが判った。これは、ミラー部を傾向する印加電圧を、1/4に低くできることが可能なことを示している。このことにより、複数層型(例えば、5層)の電気機械変換素子層を用いたミラー駆動装置は、電源系統を小型化でき、モバイル機器への組込みに有利となる。
【0048】
複数層型(例えば、5層)の電気機械変換素子層は、図2に示すように固定部11(光走査装置2を取り付ける固定枠4に相当)に弾性変形部12(シリコン基板の一部に相当し、弾性変形部12と電気機械変換素子層とを一体化した部位が駆動部5に相当する)を積層し、この上に電極部(正極用電極部13A、負極用電極部13B)を設け、接着層14を介して圧電素子51〜55を接着固定する。また、圧電素子51は、正電極15Baと負電極16Baとで挟まれ、圧電素子55は、正電極15Bcと負電極16Bcとで挟まれているように、それぞれの圧電素子51〜55は正電極と負電極との一対の電極で挟まれている。
【0049】
接着層14は異方性導電接着剤による接着層(異方性導電接着層)である。接着層14が異方性導電接着層であるので、弾性変形部12上の正負極用電極部に電極で挟まれた圧電素子を載置して、押圧して接合することで、この正負極用電極部と直上の電極とを電気的に接続することができる。
【0050】
電気機械変換素子部(圧電素子)は、弾性変形部12上に設ける電極部と異方性導電接着層を介して接合される。この構成であれば、弾性変形部12上に設ける電極部と、この上に配設する電気機械変換素子部(圧電素子)の正負の電極とを、短絡を生じずに接合することができる。すなわち、電気機械変換素子部に給電するための電極部を、弾性変形部との接着部に設けることができる。
【0051】
この異方性導電接着層は、弾性変形部12と電気機械変換素子部(圧電素子)との間隙を、電気機械変換素子部の共振周波数を安定化する所定間隔に保持する粒子14aを含有することが好ましい。また、この粒子は導電性を有することが好ましい。この構成であれば、異方性導電接着層に配合する導電性の粒子14aを介して、弾性変形部12と電気機械変換素子部との間隙を所定間隔とすることができ、ミラー部3の傾向量に影響する電気機械変換素子部の共振周波数を安定化させて、結果としてミラー部3の傾向量を安定化させることが可能となる。
【0052】
上記したように、光走査装置2は、シリコン基板に対してエッチング処理などを施すことで得られる構造体からなっており、ミラー部3に加えて、固定枠4、駆動部5および可動枠6などを一体的に有している。このように、ミラー部3と駆動部5と可動枠6とを一体に形成しているので、小型化することが可能である。また正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を複数層積層しているので、大きな変形量を得ることができ、結果としてミラー部を充分傾向することが可能となる。
【0053】
この複数積層する圧電素子を、それぞれ正電極と負電極とで挟む場合には、正電極と負電極を櫛歯状に配設することで実現できる。例えば、図3に示すように、積層体の対向する両側部に正負の電極の集電部(正電極用集電部と負電極用集電部)を設け、この集電部から櫛歯状にそれぞれの電極(内部電極)を延設する。また、延設された内部電極と相対する極性の集電部とは接触しないように離しておく。
【0054】
そのために、正電極15の集電部(正電極用集電部15A)近傍には、負電極16の内部電極(16Ba〜16Bc)が延設されていない領域が存在し、負電極16の集電部(負電極用集電部16A)近傍には、正電極15の内部電極(15Ba〜15Bc)が延設されていない領域が存在する。すなわち、図中に示すように、正電極側に、正電極と負電極とが対向しておらず変形量が小さい非活性部17Aが存在し、負極側に、正電極と負電極とが対向しておらず変形量が小さい非活性部17Bが存在する。
【0055】
また、側面に設ける集電部に、逆極性の内部電極との短絡を防止するための絶縁部を設けて、圧電素子の全面に電極を設ける全面電極型も考えられるが、本実施形態のように、薄膜型の圧電素子に絶縁部を設けることは困難であるので、本実施形態では櫛歯状電極を採用する。
【0056】
この非活性部17(17A、17B)の幅は、例えば、0.1mm〜0.2mm程度であればよく、変形量の低減はわずかであるが、この非活性部のうちのいずれか一方側を固定側とすることで、電気機械変換素子部の変形領域における非活性部の割合が小さくなって、変形量の低減を抑制可能となる。
【0057】
すなわち、正電極と負電極とが対向していない非活性部を有する電気機械変換素子部であれば、この非活性部を固定端側に配設することが好ましい。この構成であれば、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を複数層積層した構成で、正電極と負電極とが対向していない非活性部が局所的に発現しても、この元々変形量が小さい非活性部を固定端側に配設することで、電気機械変換部の変形量の低減を抑制することができる。
【0058】
例えば、図3に示す電気機械変換素子部は、各層の厚みが約15μmの圧電素子を5層積層した膜厚H1が75μmの厚みで、長さL1が約4mm、幅L2が約4mm程度のサイズとされる。この5層で75μmの積層型の電気機械変換素子部と、1層で75μmの単層型の電気機械変換素子部とで、その変形量を比較したところ、同じ電圧で積層型は単層型の約4倍の変形量を発現することが判った。すなわち、同じ変形量を得るためには、積層型はそれだけ低い電圧でもよいことが明らかであって、電源系統の小型化を図ることが可能でモバイル機器への組込みに対して有利となる。なお、図1に示した駆動部5のように台形形状としてもよい。
【0059】
また、複数積層する圧電素子間に櫛歯状に正負の電極を配設する場合でも、いずれか一方の側部に正負の集電部を設け、他方の側部には非活性部を形成しない構成とすることも可能である。この集電部位置の変形例について図4および図5を用いて説明する。
【0060】
例えば、図4に示す駆動部5Bのように、固定部11に弾性変形部12を積層し、この上に電極部(13A、13B)を設け、さらに電気機械変換素子部を導電接着剤を用いて導通するように接合する。この図には、便宜上、接着層を描いていない。
【0061】
また、固定部11側の一方の側部に正電極15の正電極用集電部15Aと負電極16の負電極用集電部16Aを、非導通となる所定距離離して設けている。また、これらの集電部15A、16Aからそれぞれの内部電極を他方の端部に至るまで配設している。
【0062】
つまり、負電極16は、最下層の負電極用集電部16Aから他方の端部に至る内部電極16Baと、中間の内部電極16Bbと、その上の第三の内部電極16Bcを備える。また、正電極15は、同じく正電極用集電部15Aから他方の端部に至る内部電極15Baと、中間の内部電極15Bbと、最上層の第三の内部電極15Bcを備える。もちろん、それぞれの極性の内部電極と相対する極性の集電部とは接触しない。すなわち、固定部11側のみに、非活性部17Aを有する。
【0063】
図5に示す断面図は、固定部11に積層される弾性変形部12に電極部を設け、この上に接着層14を介して電気機械変換素子部を取り付けたときの、負電極16の負電極用集電部16Aと電極部13Bがある部分の断面図を示している。
【0064】
図から明らかなように、負電極16の内部電極16Ba、16Bb、16Bcは、それぞれ負電極用集電部16Aから他方の端部まで延設している。また、正電極15の内部電極15Ba、15Bb、15Bcも、他方の端部まで延設している。しかし、この内部電極15Ba、15Bb、15Bcと負電極16の負電極用集電部16Aとは離間している。すなわち、正電極と負電極で挟まれていない非活性部17Aが存在する。
【0065】
この非活性部17Aは前述したように、その幅は0.1mm〜0.2mm程度でよいが、弾性変形部の変位に寄与しない部分である。しかし、この非活性部17Aを、弾性変形部の固定部側に配置することで、変形量の低減の影響は極めて小さくなり、ミラー部の傾向量の低下に対する影響を抑制できる。
【0066】
上記したように、図3、図4、図5に示す正電極15と負電極16は、それぞれ電気機械変換素子層の間に配された正電極用の内部電極15B(15Ba〜15Bc)及び負電極用の内部電極16B(16Ba〜16Bc)と、電気機械変換素子部の外面に配され、全ての正電極用内部電極15Bと導通する正電極用集電部15A及び全ての負電極用内部電極16Bと導通する負電極用集電部16Aと、を有し、当該正電極用集電部15A及び負電極用集電部16Aが電極部と接合されている。
【0067】
従来の1層の圧電素子を用いた電気機械変換素子層は、例えば図6に示すように、圧電素子51Aの下側の電極16Cは、弾性変形部12に設けられる電極部13Bと導電性接着剤を介して電極部に接続され、圧電素子51Aの上側の15Cは、弾性変形部12に設けられる電極部13Aとボンディングワイヤ18を介して電極部に接続される。
【0068】
このようなワイヤボンディング方式では、電極材料や界面状態により、付着力が弱くなって、導通が取れなくなってしまう問題がある。また、付着力が強くても、ワイヤが細く強度が弱いため、ワイヤへの物理的な接触により断線が起こる危険性がある。
【0069】
本実施形態に係る光走査装置によれば、積層型の圧電素子を用い、櫛歯状電極に形成される正負の電極を、弾性変形部12に設ける正極用、負極用の電極部と直接、異方性導電接着層を介して電気的に接続することができる。そのために、ワイヤボンディング方式での、導通できなくなる問題やワイヤが断線する問題を回避できる。
【0070】
接着層は一方向のみ導電性があり、その他の方向では絶縁性を発揮する異方性導電性接着層であるので、正負の電極間で短絡しない。この接着層は、例えば、絶縁性を有するエポキシ樹脂に、導電性コートを施した所定の粒径(例えば、10μm)のセラミックボール(粒子14a:導電性粒子)を混入したものを用いる。
【0071】
セラミックボールの配合量は、例えば、重量比で3〜10%程度(好ましくは、5%程度)であり、このセラミックボールを所定割合(例えば、5%)配合したエポキシ樹脂を弾性変形部上に形成した電極部に塗布し、この上に圧電素子を載置して押圧し、熱硬化させて固定する。
【0072】
そうすると硬化後、圧電素子と弾性変形部間の電極間は、その表面が導電性を有するセラミックボールを介して導通し、その他の方向はセラミックボール同士が接触していないため導通せず絶縁性を発揮する。
【0073】
ここで、粒子14a(導電性粒子)の直径は、5〜20μm程度でよい。ミラー駆動装置を動画映像投影ミラーとして使用する場合、例えば30kHzでミラー部を往復動作させる必要がある。そこで、この30kHzでの動作をミラー部の共振現象を利用して行う場合がある。また、その駆動源として、圧電素子と接着固定された弾性変形部の共振を利用する。
【0074】
弾性変形部の共振は、材料の弾性定数のバラツキや弾性部材の形状寸法バラツキ、圧電素子の同様のバラツキなどで、固体毎に異なり、結果としてばらつく。また、材料の温度特性の影響により、使用温度によっても変化する。
【0075】
このように、弾性変形部の共振周波数のバラツキは回避できず、その影響がミラー部の共振時の傾向量のバラツキとなる。ミラー傾向量のバラツキを低減するためには、弾性変形部の固体毎のバラツキを低減する必要がある。
【0076】
例えば、図7に示すように、接着層の厚みを0〜20μmの範囲で変化させて、ユニモルフ共振周波数の感度がどのように変化するかを調べたところ、接着層厚み0〜3μmの範囲(従来範囲D2)では共振周波数が一旦低下し、接着層厚み5〜15μm範囲では、ほとんど変化しない(バラツキが小さい)ことが判った。すなわち、接着層厚み5〜15μm範囲を、本発明範囲D1とすることで、弾性変形部の固体毎のバラツキを低減することができる。
【0077】
すなわち、弾性変形部の共振周波数の固体毎のバラツキを低減する方法として、圧電素子と弾性変形部間の接着層の寸法を所定の寸法(例えば、5〜20μmの範囲内のいずれかの寸法)にする方法がある。これは、電気機械変換素子(圧電素子)の剛性に対する接着層の機械剛性を所定の割合に維持するためであって、例えば、圧電素子の剛性に対して、2.0×10−6〜2.0×10−4倍(2.0E−6〜2.0×E−4)程度が好ましいことが判った。そのために、接着層に混入する導電粒子(ボール)の直径を所定の径として、容易に接着層の厚みを設定することができ、弾性変形部の共振周波数の固体毎のバラツキが低減する。従って、所定の径の導電性粒子を所定量配合した接着層を用いることで、ミラー部の共振傾向量の固体毎のバラツキを低減することができる。
【0078】
以上、説明したように、本発明に係るミラー駆動装置によれば、複数層型で櫛歯状電極を用いた場合に局所的に生じる非活性部を、弾性変形部の固定部側に配置することで、起こり得る変形量の低減を回避することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
そのために、本発明に係るミラー駆動装置は、小型化、モバイル化が求められる映像投影手段に好適に利用可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1 ミラー駆動装置
2 光走査装置
3 ミラー部
4 固定枠
5 駆動部
6 可動枠
7 トーションバー(第1軸部)
8 軸(第2軸部)
11 固定部
12 弾性変形部
14 接着層
14a 粒子(導電性粒子)
15 正電極
15A 正電極用集電部
16 負電極
16A 負電極用集電部
17A、17B 非活性部
41 投影面
100 プロジェクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定枠と、互いに異なる軸方向を有する第1軸部及び第2軸部と、
前記第1軸部の回動によって回動するとともに、前記第2軸部の回動によって回動するミラー部と、
前記ミラー部及び前記第1軸部を囲み、前記第2軸部の回動によって回動する可動枠と、電気機械変換素子部と、電気機械変換素子部で発生する変位をミラー部の傾向に伝達する弾性変形部と、を備え、
前記弾性変形部は、前記第2軸部と前記固定枠とを連結し、
前記電気機械変換素子部は、正電極と負電極で挟まれた電気機械変換素子層を複数層有し、前記弾性変形部に接合されており、
前記正電極と前記負電極とが対向していない非活性部を有し、当該非活性部は前記固定枠に固定されていることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記弾性変形部は、前記正電極と前記負電極を介して前記電気機械変換素子層に電力を供給するために、前記正電極と前記負電極とに各々対応した電極部を備え、
前記電気機械変換素子部の前記弾性変形部への接合は、前記正電極と前記負電極の各々と、前記電極部とを異方性導電接着剤による接着層を介して行うことを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記電気機械変換素子部の前記弾性変形部への接合は、
前記電気機械変換素子部の剛性に対する前記接着層の機械剛性が、2.0×10−6〜2.0×10−4倍である接着層を用いて行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記接着層は異方性導電接着剤による接着層であり、前記弾性変形部と前記電気機械変換素子部との間隙を、所定間隔に保持する粒子を含有することを特徴とする請求項2または3に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記正電極と前記負電極は、それぞれ前記電気機械変換素子層の間に配された正電極用の内部電極及び負電極用の内部電極と、
前記電気機械変換素子部の外面に配され、全ての前記正電極用内部電極と導通する正電極用集電部及び全ての前記負電極用内部電極と導通する負電極用集電部と、を有し、
当該正電極用集電部及び負電極用集電部が前記電極部と導通するように接合されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の光走査装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の光走査装置と、該光走査装置の駆動制御を行う光走査装置制御部と、前記ミラー部へ照射する光源と、該光源を駆動する光源駆動回路と、画像信号に基づき前記光源駆動回路を介して前記光源の制御を行う画像信号制御部とを備えたことを特徴とするミラー駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−3523(P2013−3523A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137498(P2011−137498)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】