説明

光走査装置及びその製造方法

【課題】従来のミラー部のサイズに比べて装置全体のサイズを小さくできる、圧電駆動方式の光走査装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光ビームを反射するミラー部2と、圧電素子を備えて圧電駆動部として機能する可動支持体3A〜3Dと、可動支持体3A〜3Dを囲む固定枠部4とを備え、ミラー部2と可動支持体3A〜3Dの互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバー5、6で可動支持体3A〜3Dの内側にミラー部2を軸支し、トーションバー5、6と軸方向が直交するように固定枠部4と可動支持体3A〜3Dの前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部7A〜7Dで固定枠部4の内側に可動支持体3A〜3Dを軸支し、圧電素子に駆動信号を印加してミラー部2を揺動駆動する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームを走査する光走査装置に関し、特に、圧電素子を利用してミラー部を駆動する光走査装置に関する。また、この光走査装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光等の光ビームを走査する光走査装置は、レーザディスプレイ装置やレーザ測距装置等の様々な光学機器に用いられる。そして、近年では、携帯電話等の携帯機器に組込む投影型ディスプレイ装置等の光学機器に適用する半導体製造技術を利用して製造した光走査装置が提案されている。
【0003】
この種の光走査装置として、例えば特許文献1に記載されているような圧電素子を利用してミラー部を駆動する圧電駆動方式の光走査装置がある。特許文献1の図5に記載された光走査装置は、内部可動枠の内側に第1のトーションバーを介してミラー部を回動可能に軸支、支持体の内側に第1のトーションバーと軸方向が交差する第2のトーションバーを介して内部可動枠を回動可能に軸支する。そして、第1のトーションバーの両側に圧電素子を設けた第1の圧電振動板をミラー部を囲むように接続し、第2のトーションバーの両側に圧電素子を設けた第2の圧電振動板を内部可動枠を囲むように接続し、第1の圧電振動板の中間部を内部可動枠に接続し、第2の圧電振動板の中間部を支持体に接続する構成である。
【0004】
かかる構成の光走査装置は、第1の圧電振動板の圧電素子に互いに位相の異なる交流電圧を印加すると、各圧電素子が交互に収縮することにより、第1の圧電振動板がその厚さ方向に振動して第1のトーションバーに回転トルクが作用し、ミラー部が第1のトーションバー回りに揺動する。同じように、第2の圧電振動板の圧電素子に互いに位相の異なる交流電圧を印加すると、第2の圧電振動板を介して第2のトーションバーに回転トルクが作用し、内部可動枠が第2のトーションバー回りに揺動する。第1のトーションバーと第2のトーションバーは軸方向が互いに直交するので、ミラー部により光ビームを2次元走査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−20701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような2次元走査を行う光走査装置としては、コスト面とより広い応用が期待できるという点で、ミラー部はできるだけ大きく装置全体の大きさはできるだけ小さくすることが好ましい。しかしながら、特許文献1に記載された光走査装置は、支持体と内部可動枠間及び内部可動枠とミラー部間にそれぞれ圧電振動板を配置する必要があり、そのためのスペースを確保しなければならない。このため、ミラー部のサイズを大きくしようとすればそれに応じて装置サイズも大きくなり、逆に、装置のサイズを小さくしようとすればミラー部のサイズも小さくなる。
【0007】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、従来のミラー部のサイズに比べて装置全体のサイズを小さくできる光走査装置を提供することを目的とする。また、このような光走査装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、請求項1記載の本発明の光走査装置は、光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置しそれぞれが圧電素子を備えて圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記4つの圧電素子のうち少なくとも1つに駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動することを特徴とする。
【0009】
かかる構成では、固定枠部の内側に、圧電素子を備えて圧電駆動部として機能する4つの可動支持体がトーションバー機能を有する連結部で軸支され、4つの可動支持体の内側にトーションバーを介してミラー部が軸支され、少なくとも1つの圧電素子に駆動信号を印加することにより、ミラー部が揺動駆動する。例えば、ミラー部、可動支持体、トーションバー及び連結部からなる可動部分におけるトーションバー回りの固有振動数に対応する共振周波数の駆動信号を少なくとも1つの圧電素子に印加した場合は、トーションバー回りにミラー部が揺動する。また、前記可動部分の連結部回りの固有振動数に対応する共振周波数の駆動信号を少なくとも1つの圧電素子に印加した場合は、連結部周りに可動支持体とミラー部が一体に揺動する。これにより、ミラー部により光ビームを1次元走査できるようになる。更に、少なくとも2つの圧電素子に、トーションバー回りの固有振動数に対応する共振周波数の駆動信号と連結部回りの固有振動数に対応する共振周波数の駆動信号をそれぞれ印加した場合、連結部周りに可動支持体とミラー部が揺動しつつミラー部がトーションバー回りに揺動し、ミラー部により光ビームを2次元走査できるようになる。
【0010】
また、請求項2記載の本発明の光走査装置は、光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置し少なくとも1つが圧電素子を備えた圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記圧電素子に駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動することを特徴とする。
【0011】
かかる構成では、固定枠部の内側に、少なくとも1つが圧電素子を備えた圧電駆動部として機能する4つの可動支持体がトーションバー機能を有する連結部で軸支され、4つの可動支持体の内側にトーションバーを介してミラー部が軸支され、圧電素子に駆動信号を印加することにより、ミラー部が揺動駆動する。例えば、ミラー部、可動支持体、トーションバー及び連結部からなる可動部分におけるトーションバー回りの固有振動数に対応する共振周波数の駆動信号を圧電素子に印加した場合は、トーションバー回りにミラー部が揺動する。また、前記可動部分の連結部回りの固有振動数に対応する共振周波数の駆動信号を圧電素子に印加した場合は、連結部周りに可動支持体とミラー部が一体に揺動する。これにより、ミラー部により光ビームを1次元走査できるようになる。
【0012】
本発明の光走査装置の製造方法は、光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置しそれぞれが圧電素子を備えて圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記4つの圧電素子のうち少なくとも1つに駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動する構成の請求項1に記載の光走査装置の製造方法であって、半導体基板表面に、前記圧電素子を構成する下部電極、圧電膜及び上部電極を順次積層する工程と、前記上部電極と圧電膜のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて上部電極と圧電膜をエッチングして4つの可動支持体に圧電素子を形成する工程と、前記下部電極のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて下部電極をエッチングし、更に、半導体基板をエッチングして、前記可動支持体、ミラー部、トーションバー及び連結部の各部を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光走査装置の製造方法は、光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置し少なくとも1つが圧電素子を備えた圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記圧電素子に駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動する構成の請求項2に記載の光走査装置の製造方法であって、半導体基板表面に、前記圧電素子を構成する下部電極、圧電膜及び上部電極を順次積層する工程と、前記上部電極と圧電膜のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて上部電極と圧電膜をエッチングして圧電駆動部として機能する可動支持体に圧電素子を形成する工程と、前記下部電極のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて下部電極をエッチングし、更に、半導体基板をエッチングして、前記可動支持体、ミラー部、トーションバー及び連結部の各部を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光走査装置によれば、固定枠部の内側に圧電駆動部として機能する4つの可動支持体がトーションバー機能を有する連結部で軸支され、4つの可動支持体の内側にトーションバーを介してミラー部が軸支される構成としたので、ミラー部を支持する4つの可動支持部が圧電駆動部を兼ねることになり、従来のようにミラー部を支持する支持部材と別に圧電駆動部の配置スペースを設ける必要がない。従って、従来と同じミラーサイズで装置の小型化が可能となり、逆に、従来と同じ装置サイズでミラー部の大型化が可能となる。
【0015】
また、本発明の光走査装置の製造方法によれば、半導体基板表面に、圧電素子の下部電極、圧電膜及び上部電極を順次積層し、上部電極と圧電膜、下部電極及び半導体基板を、所定のマスクパターンを形成して順次エッチングすることにより、光走査装置を製造することができるので、光走査装置を簡単な製造工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光走査装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のX−Y矢視断面図である。
【図3】本実施形態の光走査装置のトーションバー回りの揺動モードを示す図である。
【図4】本実施形態の光走査装置の連結部回りの揺動モードを示す図である。
【図5】本発明に係る光走査装置の製造工程の説明図である。
【図6】図5に続く製造工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明に係る光走査装置の一実施形態の平面図を示す。
図1において、本実施形態の光走査装置1は、光ビームを反射するミラー部2と、このミラー部の周囲に配置した4つの可動支持体3A〜3Dと、この4つの可動支持体3A〜3Dの周囲を囲む固定枠部4とを備え、可動支持体3A〜3Dの内側に、トーションバー5、6を介してミラー部2を回動可能に軸支し、固定枠部4の内側に、トーションバー5、6と軸方向が直交する連結部7A〜7Dにより可動支持体3A〜3Dを回動可能に軸支する構成である。これらミラー部2、可動支持体3A〜3D、固定枠部4、トーションバー5、6及び連結部7A〜7Dは、半導体基板として、例えば、酸化膜(SiO)層12をシリコン層11で挟んだサンドイッチ構造のSOI(Silicon-on-insulator)基板(図2に示す)を用いて一体に形成される。
【0018】
前記ミラー部2は、円形状に形成され、図1のX−Y矢視断面図である図2に示すように、SOI基板表面に形成した酸化膜(SiO)12上に、光ビームを反射するミラー2Aが積層形成されている。本実施形態では、ミラー2Aは、後述する圧電素子20の金属薄膜で構成される下部電極21と同じ金属薄膜で形成したが、別の金属素材を用いて形成してもよいことは言うまでもない。
【0019】
前記4つの可動支持体3A〜3Dは、前記ミラー部2を回動可能に支持する支持体としての役割を有すると共に、それぞれに前記圧電素子20を備えてミラー部2を駆動する圧電駆動部としても機能するものである。可動支持体3A〜3Dは、円形状のミラー部2と同心でそれぞれ円弧状に形成され、図2に示すようにSOI基板表面の前記酸化膜12上に圧電素子20が形成されている。圧電素子20は、下部電極21、圧電膜22及び上部電極23の積層構造である。尚、本実施形態では、下部電極21をチタン(Ti)層21aと白金(Pt)層21bで、圧電膜22をチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で、上部電極23を白金(Pt)で、それぞれ形成している。
【0020】
ミラー部2と4つの可動支持体3A〜3Dを連結するトーションバー5、6のミラー部側端部は、ミラー部2にその周縁部から中央に向けて切込み8を設けてミラー部2の周縁部より中央部寄りでミラー部2と連結している。こうすることにより、トーションバー5、6の長さを、可動支持体3A〜3Dとミラー部2間の距離よりも長くしてトーションバー5、6に柔軟性を持たせると共に、ミラー部2とトーションバー5、6の連結部分に作用する応力を緩和するようにしている。また、トーションバー5、6の可動支持体側端部は、二股状に分割形成し、一方のトーションバー5は、2つの可動支持体3Aと3Bの互いに近接する端部の内側角部に連結し、他方のトーションバー6は、2つの可動支持体3Cと3Dの互いに近接する端部の内側角部に連結している。
【0021】
前記固定枠部4は、その内側にミラー部2及び可動支持体3A〜3Dと同心の円形状の開口を有し、この開口部分に可動支持体3A〜3Dを支持している。固定枠部4の表面は前述した圧電素子20の下部電極21で覆われている。
【0022】
固定枠部4と可動支持体3A〜3Dを連結する連結部7A〜7Dは、トーションバーの機能を有するように形成され、その可動支持体側は、トーションバー5、6と軸方向が直交するように各可動支持体3A〜3Dのトーションバー5、6が連結している前記内側角部と対角位置にある各外側角部にそれぞれ連結している。そして、固定枠部4の例えば4隅には、各可動支持体3A〜3D上の各圧電素子20に外部回路から駆動信号を供給するため4つの電極端子9A〜9Dが形成されている。
【0023】
本実施形態の光走査装置1では、4つの可動支持体3A〜3Dにそれぞれ形成した4つの圧電素子20のうち少なくとも1つに、電極端子9A〜9Dを介して上部電極23と下部電極21に交流駆動信号を印加すると、可動支持体3A〜3Dに設けた圧電体22が収縮する。印加する交流駆動信号の周波数を、ミラー部2、可動支持体3A〜3D、トーションバー5、6及び連結部7A〜7Dの可動部分におけるトーションバー5、6回りの固有振動数に対応する共振周波数とすると、図3に示すように、ミラー部2がトーションバー5、6を軸として揺動する。また、4つの圧電素子20のうち少なくとも1つに、印加する交流駆動信号の周波数を、ミラー部2、可動支持体3A〜3D、トーションバー5、6及び連結部7A〜7Dの可動部分における連結部7A〜7D回りの固有振動数に対応する共振周波数とすると、図4に示すように、連結部7A〜7Dを軸として可動支持体3A〜3Dとミラー部2が一体となって揺動する。更に、トーションバー5、6回りの固有振動数に対応する共振周波数と連結部7A〜7D回りの固有振動数に対応する共振周波数の交流駆動信号を、4つの圧電素子20のうち少なくとも2つにそれぞれ同時に印加した場合には、ミラー部2は、トーションバー5、6回りに揺動すると共に、同時に連結部7A〜7D回りに揺動する。
【0024】
従って、4つの圧電素子20のうち少なくとも1つに、トーションバー5、6回りの固有振動数に対応する共振周波数の交流駆動信号を印加するか、或いは、連結部7A〜7D回りの固有振動数に対応する共振周波数の交流駆動信号を印加すると、ミラー部2のミラー2Aで反射した反射光ビームを一次元的に走査できる。また、前述の各固有振動数にそれぞれ対応した各共振周波数の交流駆動信号を、少なくとも2つの圧電素子20にそれぞれ同時に印加した場合、ミラー部2のミラー2Aで反射した反射光ビームは、図3の揺動モードと図4の揺動モードが複合したリサージュ走査となり、光ビームを2次元走査できる。ここで、同時に印加する交流駆動信号のどちらかの周波数を微調整して、互いの周波数の比が無理数(分子・分母ともに整数である分数(比=ratio)として表すことのできない実数)であるようにすると、反射光ビームが描くリサージュ図形は閉じた図形にならず少しずつ走査位置がずれていくので、有限の2次元照射領域の全てを走査することが可能となる。
【0025】
かかる構成の光走査装置1によれば、従来の圧電駆動方式の光走査装置と同様に、ミラー部2により反射した光ビームを1次元走査及び2次元走査が可能である。また、可動支持体3A〜3D上に圧電素子20を設け、ミラー部2を支持する4つの可動支持部3A〜3Dが圧電駆動部を兼ねる構成としたので、圧電駆動部の配置スペースを省くことができる。従って、従来と同じミラーサイズとすれば装置自体を小型化でき、逆に、従来と同じ装置サイズとすれば、ミラー部2を格段に大型化することができる。
【0026】
また、ミラー部2のトーションバー5、6連結部分に切込み8を入れることにより、ミラー部2のトーションバー5、6連結部分の応力集中を緩和するようにしている。
【0027】
上記実施形態では、4つの可動支持体3A〜3Dの全てに圧電素子20を設ける構成としたが、1次元の光走査装置であれば4つの可動支持体3A〜3Dの少なくとも1つに圧電素子を設ける構成であればよい。また、2次元の光走査装置であれば4つの可動支持体3A〜3Dの少なくとも2つに圧電素子を設ける構成であればよい。
【0028】
次に、本発明に係る光走査装置の製造方法の一実施形態を図5及び図6に基づいて説明する。図5及び図6は、図1に示す光走査装置1の製造工程を示すものである。尚、図5及び図6は、図1のX−O−Zに沿った断面を示す。
【0029】
工程(a)では、SOI基板100を準備する。SOI基板100は、前述したように酸化膜(SiO)層101をシリコン層102で挟んだサンドイッチ構造であり、例えば、上側シリコン層20μm/SiO膜1μm/下側シリコン層400μmのSOI基板100を用意する。
【0030】
工程(b)では、用意したSOI基板100の両面に、熱酸化によって熱酸化膜(SiO2膜)103,103を形成する。
【0031】
工程(c)では、スパッタ法等を用いて、熱酸化膜(SiO2膜)103上に、例えばTi層(20nm)とPt層(240nm)を順次積層して圧電素子層110(後述の工程(f)で示す)の下部電極層111を形成する。ここで、酸化膜に対してPtの密着性が不十分であるため、酸化膜に対する密着性が良好なTi層を、熱酸化膜103とPt層との間に介在させることにより、完成後における可動支持体3A〜3Dと圧電素子20の密着性を確保する。
【0032】
工程(d)では、MOCVD装置を用いて、下部電極111(Pt層111b)表面に例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を成膜し、圧電体層112(例えば1.6μm)を形成する。
【0033】
工程(e)では、スパッタ法等を用いて、圧電体層112表面に例えばPt層を成膜して上部電極層113(例えば240nm)を形成する。
【0034】
工程(f)では、レジストを塗布し、露光、現像を行って上部電極層113及び圧電体層112のエッチング用マスクパターンを形成し、このマスクパターンにより圧電素子形成部分をマスクしてRIE(Reactive Ion Etching)により上部電極層113及び圧電体層112をエッチングし、マスクパターンを除去する。これにより、電極端子9A〜9Dから連結部7A〜7Dを経由して可動支持体3A〜3Dに亘る圧電素子形成部分以外の上部電極層113及び圧電体層112を除去し、電極端子9A〜9Dから連結部7A〜7Dを経由して可動支持体3A〜3Dに亘る圧電素子層110を形成する。
【0035】
工程(g)では、レジストを塗布し、露光、現像を行って下部電極層111及び熱酸化層103のエッチング用マスクパターンを形成し、このマスクパターンにより、圧電素子層110、トーションバー及びミラー部の各形成部分をマスクしてRIEにより下部電極層111及び熱酸化層103をエッチングし、マスクパターンを除去する。これにより、図1に示す下部電極層111をミラーとするミラー部21、トーションバー5、6、可動支持体3A〜3D及び連結部7A〜7Dからなる可動部分に相当する部分を形成する。
【0036】
工程(h)では、レジストを塗布し、露光、現像を行って裏面側のシリコン層102のエッチング用マスクパターンを形成し、このマスクパターンにより、固定枠部に相当する部分をマスクしてRIEにより裏面側の熱酸化層103、シリコン層102及び酸化膜層101を順次エッチングし、マスクパターンを除去する。これにより、図1に示す本実施形態の光走査装置1が完成する。
【0037】
かかる本実施形態の製造方法によれば、下部電極層111、圧電体層112及び上部電極層113を積層形成した後に、3回のエッチング工程を行えばよく、簡単な製造工程で光走査装置1を形成することができる。
【0038】
尚、4つの可動支持体3A〜3Dの全てではなく、必要な箇所(少なくとも1つ)に圧電素子20を設ける光走査装置を製造する場合は、工程(f)の上部電極層113及び圧電体層112のエッチング用マスクパターンを該当する可動支持体部分だけに形成するようにすればよい。その他の工程は図5及び図6と同様である。
【0039】
また、上部電極、圧電体及び下部電極等の圧電素子を形成する材料は、本実施形態で説明したものに限定されるものではなく、圧電素子が形成可能なものであればよいことは言うまでもない。
【0040】
また、本実施形態では、下部電極層111を利用してミラー2Aを形成したが、下部電極層111表面にアルミニウムや金等の別部材を成膜してミラー2Aを形成してもよいことは言うまでもない。
【0041】
また、ミラー部2や可動支持体3A〜3D等の形状は、本実施形態で説明した円形や円弧状に限定されるものでない。
【符号の説明】
【0042】
1 光走査装置
2 ミラー部
3A〜3D 可動支持体
4 固定枠部
5、6 トーションバー
7A〜7D 連結部
8 切込み
20 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置しそれぞれが圧電素子を備えて圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、
前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記4つの圧電素子のうち少なくとも1つに駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動することを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置し少なくとも1つが圧電素子を備えた圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、
前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記圧電素子に駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動することを特徴とする光走査装置。
【請求項3】
前記ミラー部のトーションバー連結部に周縁部から中央に向けて切込みを設け、トーションバーの長さを、前記可動支持体とミラー部間の距離以上の長さになるよう形成した請求項1又は2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記ミラー部を円形状に形成すると共に、前記4つの可動支持体を前記ミラー部と同心で円弧状に形成した請求項1〜3のいずれか1つに記載の光走査装置。
【請求項5】
前記4つの可動支持体のうち少なくとも2つに、圧電素子を設けた請求項2に記載の光走査装置。
【請求項6】
少なくとも2つの圧電素子に、ミラー部、可動支持体、トーションバー及び連結部からなる可動部分におけるトーションバー回りと連結部回りの各固有振動数にそれぞれ対応する共振周波数の各駆動信号をそれぞれ印加し、前記ミラー部で光ビームをリサージュ走査することを特徴とする請求項1又は5に記載の光走査装置。
【請求項7】
前記可動部分におけるトーションバー回りと連結部回りの各固有振動数にそれぞれ対応する2つの共振周波数の比が無理数である請求項6に記載の光走査装置。
【請求項8】
光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置しそれぞれが圧電素子を備えて圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記4つの圧電素子のうち少なくとも1つに駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動する構成の請求項1に記載の光走査装置の製造方法であって、
半導体基板表面に、前記圧電素子を構成する下部電極、圧電膜及び上部電極を順次積層する工程と、
前記上部電極と圧電膜のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて上部電極と圧電膜をエッチングして4つの可動支持体に圧電素子を形成する工程と、
前記下部電極のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて下部電極をエッチングし、更に、半導体基板をエッチングして、前記可動支持体、ミラー部、トーションバー及び連結部の各部を形成する工程と、
を含む光走査装置の製造方法。
【請求項9】
光ビームを反射するミラー部と、該ミラー部の周囲に配置し少なくとも1つが圧電素子を備えた圧電駆動部として機能する4つの可動支持体と、該4つの可動支持体の周囲を囲む固定枠部とを備え、前記ミラー部と前記4つの可動支持体の互いに近接する端部の内側角部とを連結するトーションバーにより、前記4つの可動支持体の内側に前記ミラー部を回動可能に軸支し、前記トーションバーと軸方向が直交するように前記固定枠部と各可動支持体の前記内側角部と対角位置にある各外側角部とを連結するトーションバー機能を有する連結部により、前記固定枠部の内側に前記4つの可動支持体を回動可能に軸支する構成とし、前記圧電素子に駆動信号を印加して前記ミラー部を揺動駆動する構成の請求項2に記載の光走査装置の製造方法であって、
半導体基板表面に、前記圧電素子を構成する下部電極、圧電膜及び上部電極を順次積層する工程と、
前記上部電極と圧電膜のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて上部電極と圧電膜をエッチングして圧電駆動部として機能する可動支持体に圧電素子を形成する工程と、
前記下部電極のエッチング用マスクパターンを形成し、当該マスクパターンを用いて下部電極をエッチングし、更に、半導体基板をエッチングして、前記可動支持体、ミラー部、トーションバー及び連結部の各部を形成する工程と、
を含む光走査装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−227216(P2011−227216A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95646(P2010−95646)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】