説明

光走査装置

【課題】性能の劣化を生じることなく、走査光の走査量を正確に測定することが可能であり、かつ小型で安価な光走査装置を提供する。
【解決手段】複数の光学素子1と、該光学素子を保持するホルダ2と、ホルダ2を光学素子1の光軸に垂直な方向に移動可能に支持する支持手段3,4,5,6と、ホルダ2を光学素子1の光軸に垂直な方向に移動させる駆動手段と、発光素子とを備え、前記発光素子からの光が光学素子1を透過し、光学素子1を移動させることにより、透過光を走査して照射する光走査装置において、
支持手段が、複数の山と谷を有する波板状に形成されたバネ構造体であり、
山と谷の高さ方向が、ホルダ2の光学素子1を搭載した面と平行になるように配置された第1のバネ構造体3,5と、垂直になるように配置された第2のバネ構造体4,6とからなることを特徴とする光走査装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を移動させることによりレーザ光を走査させる光走査装置に関し、詳しくは、レーザレーダ装置等に備えられる光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行中の車両の前方を監視して障害物の存在を運転者に警告する光線スキャン方式の車載レーダ装置が実用化されている。
レーダ装置は光走査装置を備え、例えば、光走査装置によりレーザ光等の光ビームを車両の周囲の所定の角度範囲の領域に走査して出射すると共に、出射した光ビームの反射波を受光し、光ビームの出射方向に存在する物体の位置や距離等を測距する。このようにレーダ装置により検知された先行車両や障害物の情報が運転者に告知され、さらに先行車両との車間距離を所定の距離に保つように自動的に車両の速度を制御するシステムが開発されている。
【0003】
光ビームを走査して物体を検出する装置としては、例えば、任意の位置に光ビームを走査させるため、アクチュエータが光学素子(レンズ)を駆動する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の装置の模式図を図6に示す。図6において、走査用レンズ222を備えたレンズホルダ234は、4本の線状或いは薄板状のばね233により、上下左右2方向に変位可能に支持されている。レンズホルダ234には、上下駆動用コイル236と左右駆動用コイル235が設けられ、これらにより駆動される。
【0004】
通常、ばねによって支持されたレンズホルダでは、駆動用コイルヘの給電は、ばねを用いて行われる。これにより別途フレキシブル基板等の給電部材を設ける必要がなくなり、低価格化を図ることができる。さらに、給電用の部材でレンズホルダの動きを阻害することもなくなり、高性能な装置とすることができる。
【0005】
レンズホルダは上下左右の2方向に移動すればよいが、4本のばねで支持した場合、ばねの長手方向を軸として回転する方向の自由度も有している。回転方向には駆動しないので、通常はこのような回転は生じないが、駆動のバランスや支持のバランスが崩れると回転が生じることがあり、かつ回転は本来の動きではないので、制御機構がなく、場合によっては回転し続けてしまうことがある。特に、投光と受光を異なるレンズで行うレーザレーダ装置において、このような回転運動は光軸のズレとなり、大幅な性能の劣化を引き起こす。
【0006】
そこで、レーザレーダ装置におけるレンズホルダの回転防止を目的とした技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2の装置の模式図を図7に示す。図7は、光学素子と、該光学素子を備えたホルダと、該ホルダを所望の方向に移動可能に支持する少なくとも6本の金属バネと、駆動するためのホルダに固定されたコイルと、発光素子とを少なくとも備え、該発光素子からの光を光学素子に通し、該光学素子を移動させることによって光を走査し、照射する車両用光スキャン装置の例であり、図7において、コイルへ電流を流すための配線は、2本以上の金属バネを並列接続されており、コイル両端で少なくとも4本の金属バネが用いられている。並列接続された少なくとも4本の金属バネは、レンズホルダの回転を防止するように配置されている。
【0007】
一方、近年では装置の大幅な小型化ために、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いたマイクロ光学系で光走査装置を作製するという試みが進んでいる。MEMSでは、主に半導体加工手段を用いてシリコンを加工し、駆動装置や光学装置などを小型に一体で作ることができる。従来の代表的な2軸偏移のマイクロアクチュエータの正面図を図8に、斜視図を図9に示す。
図8及び図9に示すように、光学素子1を搭載したホルダ2が、直交する2方向に波板上のバネ構造体で支持されている。ホルダ2には永久磁石13が埋設されており、外部の電磁石15の発生する磁力で自在に遥動させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図8及び図9に示すようなMEMS素子では、高度に複雑な構造を作ることは困難であり、特許文献2に開示されているような技術を採用することはきわめて困難である。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、性能の劣化を生じることなく、走査光の走査量を正確に測定することが可能であり、かつ小型で安価な光走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る光走査装置は、
複数の光学素子と、該光学素子を保持するホルダと、該ホルダを前記光学素子の光軸に垂直な方向に移動可能に支持する支持手段と、前記ホルダを前記光学素子の光軸に垂直な方向に移動させる駆動手段と、発光素子とを備え、前記発光素子からの光が前記光学素子を透過し、前記光学素子を移動させることにより、透過光を走査して照射する光走査装置において、
前記支持手段が、複数の山と谷を有する波板状に形成されたバネ構造体であり、
前記複数の山と谷の高さ方向が、前記ホルダの前記光学素子を搭載した面と平行になるように配置された第1のバネ構造体と、前記複数の山と谷の高さ方向が、前記ホルダの前記光学素子を搭載した面と垂直になるように配置された第2のバネ構造体とからなることを特徴とする光走査装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光走査装置によれば、性能の劣化を生じることなく、走査光の走査量を正確に測定することが可能であり、かつ小型で安価な光走査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光走査装置の一例を示す正面図である。
【図2】図1の反対側の面を示す正面図である。
【図3】本発明の光走査装置の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の光走査装置の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の光走査装置の断面の一例を示す斜視図である。
【図6】従来例(特許文献1の装置)を示す図である。
【図7】従来例(特許文献2の装置)を示す図である。
【図8】従来例を示す図である。
【図9】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る光走査装置について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下に示す実施例の実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0014】
本発明の光走査装置の一例を図1〜5に示す。
図1は本発明の光走査装置の一例を示す正面図であり、図2は図1の反対側の面を示す正面図であり、図4は斜視図である。
図1、図2及び図4に示すように、本発明の光走査装置は、複数の光学素子1a,1bと、該光学素子を保持するホルダ2と、ホルダ2を前記光学素子の光軸に垂直な方向に移動可能に支持する支持手段3,4,5,6と、ホルダ2を前記光学素子の光軸に垂直な方向に移動させる駆動手段(図示せず)と、発光素子(図示せず)とを備え、前記発光素子からの光が前記光学素子を透過し、前記光学素子を移動させることにより、透過光を走査して照射する。
【0015】
支持手段3,4,5,6は、複数の山と谷を有する波板状に形成されたバネ構造体である。
ホルダ2は、支持手段3,4により内枠7に支持され、支持手段5,6により内枠8に支持されている。
【0016】
ホルダ2には、永久磁石13が埋設されており、駆動手段(図示せず)として例えば電磁石により発生する磁力により、遥動できるようになっている。
【0017】
図3及び図5は、図2に示すA−A’の断面を示した図である。
支持手段は、山と谷の高さ方向が互いに直交するように、異なる方向に配置された2種類のバネ構造体からなる。
2種類のバネ構造体は、前記複数の山と谷の高さ方向が、ホルダ2の光学素子1a,1bを搭載した面と平行になるように配置された第1のバネ構造体3,5と、前記複数の山と谷の高さ方向が、ホルダ2の光学素子1a,1bを搭載した面と垂直になるように配置された第2のバネ構造体4,6とからなる。
【0018】
一般的に、波型の板バネは、波型の面と直交する方向には変位しにくいので、このように2種類の波板状のバネ構造体である支持手段を組み合わせることにより、バネ構造体3,4により構成される支持手段はY方向にのみ変位する支持構造とすることができ、バネ構造体5,6により構成される支持手段は、X方向のみに変位する支持構造とすることができる。
このような構成とすることにより、簡易な構造で支持手段の主たる伸縮方向以外の方向への変位を抑制することが可能になり、容易にホルダ2の回転運動を抑制することが可能になる。
【0019】
また、前記複数の山と谷の形状が、第1のバネ構造体3,5は曲面、第2のバネ構造体は4,6平面であって、前記第1のバネ構造体と前記第2のバネ構造体のバネ定数が異なるように構成されている。
【0020】
前記複数の山と谷の形状が曲面である第1のバネ構造体3,5は、半導体加工の写真工程で自在な形状を形成できるため、図示されたような曲面で構成されたバネ構造体として作製することができる。第1の支持手段3,5のバネ定数を大きくすることにより、バネ構造体の剛性を高くすることができる。
【0021】
これに対し、前記複数の山と谷の形状が平面である第2のバネ構造体4,6は、水平面と垂直面でのみ構成された断面が矩形状のバネ構造体となるため、変位した場合に面の接合部分に応力が集中しやすく、そこから破断する可能性がある。第2のバネ構造体4,6のバネ定数を小さくすることにより、バネ構造体の剛性を低くすることができ、変形による応力の発生を抑制し、バネ構造体の破損を低くすることができる。
【0022】
このように構造的に脆弱になりやすいバネ構造体の波型を含む面が、ホルダ2の光学素子を搭載する面30と垂直になるバネ構造体に発生する応力を低く抑えることが可能になり、それにより支持構造の脆弱さを抑制することが可能になり、光走査装置の動作不良の発生を抑えることが可能になる。
【0023】
本発明の光走査装置において、少なくとも光学素子1a,1bと、ホルダ2と、支持手段3,4,5,6とが、同一の材料からなる部材とすることができ、さら内枠7、外枠8を含めてすべての部材を同一の材料から一体に作製することができる。
例えば、光学素子1a,1b、ホルダ2、支持手段3,4,5,6、内枠7、外枠8は全てシリコンのウェハーから半導体加工プロセスで作製された一体構造とすることができる。このような構造は、一連の半導体加工プロセスのみで作製が可能なため、容易かつ安価に光走査装置を作製することが可能となる。
【符号の説明】
【0024】
1a,1b 光学素子
2 ホルダ
3,4,5,6 支持手段
7 内枠
8 外枠
13 永久磁石
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2002−162469号公報
【特許文献2】特開2009−243971号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光学素子と、該光学素子を保持するホルダと、該ホルダを前記光学素子の光軸に垂直な方向に移動可能に支持する支持手段と、前記ホルダを前記光学素子の光軸に垂直な方向に移動させる駆動手段と、発光素子とを備え、前記発光素子からの光が前記光学素子を透過し、前記光学素子を移動させることにより、透過光を走査して照射する光走査装置において、
前記支持手段が、複数の山と谷を有する波板状に形成されたバネ構造体であり、
前記複数の山と谷の高さ方向が、前記ホルダの前記光学素子を搭載した面と平行になるように配置された第1のバネ構造体と、前記複数の山と谷の高さ方向が、前記ホルダの前記光学素子を搭載した面と垂直になるように配置された第2のバネ構造体とからなることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記複数の山と谷の形状が、前記第1のバネ構造体は曲面、前記第2のバネ構造体は平面であって、
前記第1のバネ構造体と前記第2のバネ構造体のバネ定数が異なることを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記光学素子と、前記ホルダと、前記支持手段とが、同一の材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記光学素子と、前記ホルダと、前記支持手段とが、シリコンからなることを特徴とする請求項3に記載の光走査装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−105120(P2013−105120A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250420(P2011−250420)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】