説明

光路切替装置および光信号の光路切替方法

【課題】制御光パワーをできる限り低くし、信号光の光路切替速度をできるだけ速くし、更に、直進信号光および隣接する別方向への信号光光路とのクロストークをできる限り小さくし、光路変更信号光の検出効率を上げる。
【解決手段】本発明に係る光路切替装置は、信号光と制御光とを入射面が重力の方向に対して垂直に設置された熱レンズ形成光素子へ縮小光学系にて重力方向に入射させ、各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて収束させ、前記制御光が照射されない場合の直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光とが、同一の光学系手段によって収束または集光される受光手段を備え、更に、光路切替された前記信号光の通過位置にくさび型プリズムを設けて光路変更信号光と直進信号光の光軸間距離を広げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信や光情報処理等の光エレクトロニクスやフォトニクスの各分野において活用され、熱レンズ方式光制御式光路切替スイッチを利用して光路の切替を行う光路切替装置、および光信号の光路切替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者等は、先に、新しい原理に基づく光路切替の装置および方法を発明した(特許文献1参照)。この光路切替装置等では、熱レンズ形成光素子内の制御光吸収領域に対して、制御光吸収領域が吸収する波長帯域の制御光と、制御光吸収領域が吸収しない波長帯域の信号光とを、各光軸が一致するように収束させて照射し得る構成を有している。この構成によれば、熱レンズ形成光素子内の制御光吸収領域への信号光の照射に対して、制御光の照射は選択的に行われる。制御光の照射が信号光の照射と同時に行われないときには信号光が穴付きミラーの穴を通して直進し、他方、制御光の照射が信号光の照射と同時に行われるときには信号光の進行方向に対して傾けて設けた穴付きミラーで反射して光路を変更させる。特許文献1には、1種類の波長の制御光によって制御光の進行方向を2方向に切り替えることができる光制御型光路切替装置が開示されている。この光制御型光路切替装置は以下では「1対2型光制御型光路切替装置」と記す。
【0003】
更に、本発明者等は、熱レンズ形成光素子および穴付きミラーを複数組み合わせて用いて構成した光制御式の光路切替装置および光信号光路切替方法を発明した(特許文献2参照)。この光路切替装置等では、制御光吸収領域が吸収する波長帯域と制御光の波長とを1対1に対応させており、更に、例えば吸収波長帯域の異なる色素を用いた3種類の制御光吸収領域の熱レンズ形成光素子を合計7個組み合わせて使用し、併せて、3種類の波長の制御光の各々の明滅を制御することにより、例えばサーバのデータを8箇所に光制御方式で切り替えて配信するシステムが開示されている。
【0004】
なお上記の特許文献1,2に開示された光路切替の方式では、制御光を照射した場合、熱レンズ効果によって信号光のビーム断面形状はリング状に変化する。そこで、この光路切替方式を以下では「リングビーム方式」と記すこととする。
【0005】
更に本発明者等は、その後、特許文献3〜6に開示される通り、光路変更方法および光路切替装置を提案した。これらの光路変更方法および光路切替装置によれば、熱レンズ形成光素子中の制御光吸収領域に、制御光吸収領域が吸収する波長帯域の制御光、および制御光吸収領域が吸収しない波長帯域の信号光を入射させ、制御光および信号光は、制御光吸収領域にて収束するように照射されかつ各々の光の収束点の位置が異なるように照射される。制御光および信号光は、光の進行方向で制御光吸収領域の入射面またはその近辺で収束し、その後、拡散する。これにより、制御光吸収領域内で制御光を吸収した領域およびその周辺領域に温度上昇が起き、当該温度上昇に起因して可逆的に熱レンズの構造が変化し、屈折率が変化し、信号光の進行方向を変化させることができる。特許文献3〜6に記載される光路変更の方式では、制御光を照射しても信号光のビーム断面形状はほぼ円形に保たれる。そこで、当該光路変更の方式を以下では「丸ビーム方式」と記すこととする。
【0006】
特許文献4,5には、1種類の波長の制御光によって制御光の進行方向を2方向に切り替える1対2型光制御型光路切替装置が開示されている。また特許文献5,6には、例えば、七芯光ファイバーの中心ファイバーから出射する信号光の光路を、中心ファイバーの周辺に設けられた光ファイバーから出射する制御光によって7方向に切り替える光制御型光路切替装置が開示されている。この光制御型光路切替装置を以下では「1対7型光制御型光路切替装置」と記す。また従来の丸ビーム方式の光制御型光路切替装置、特に1対7型光制御型光路切替装置において、制御光および信号光は制御光吸収領域にて収束するように照射されかつ各々の光の収束点の位置が異なるように照射されるが、複数の制御光ビームおよび1つの信号光ビームの光軸の位置合わせの煩雑さを避け、また、偏波依存性に悪影響を与えるダイクロマティックミラーの使用を避けるため、特許文献7に記載の端面近接多芯バンドル光ファイバーが好適に用いられる。更に、特許文献8には熱レンズ効果を有効に利用するために適した熱レンズ形成光素子の形態、および、熱レンズ形成光素子に用いられる色素溶液の溶剤の粘度および粘度の温度特性について詳しく開示されている。また特許文献6には、例えば、7方向に切り替えられた信号光を七芯光ファイバーで検出する光制御型光路切替装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3809908号公報
【特許文献2】特許第3906926号公報
【特許文献3】特開2007−225825号公報
【特許文献4】特開2007−225826号公報
【特許文献5】特開2007−225827号公報
【特許文献6】特開2008−083095号公報
【特許文献7】特開2008−076685号公報
【特許文献8】特開2009−175164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の丸ビーム方式の光制御型光路切替装置に用いられる端面近接多芯バンドル光ファイバーをシングルモード光ファイバーのクラッドをエッチングしてから複数本を束ねる方法で製造する場合、光ファイバーの強度上の制約により、端面近接多芯バンドル光ファイバーのコア中心間距離すなわちエッチング処理されたクラッド直径を40μmよりも小さくすることは容易でない。その結果、端面近接多芯バンドル光ファイバーを信号光および制御光入射素子として用いる場合、熱レンズ形成光素子中において制御光の光吸収で形成される熱レンズ領域が信号光ビームの光路変更に及ぼす影響が軽減され、制御光パワーの利用効率が下がる。また、熱レンズ効果の応答が遅くなるという課題がある。また、熱レンズ領域と信号光ビームの相互作用が充分行えず、光路変更角を大きくできず、信号ビームを検出するための検出器間隔を小さくしなければならない。しかし、検出器にファイバーを用いる場合は、上記の説明のように間隔を小さくすることは容易ではない。検出器間隔を大きくできても、光路変更された信号光ビームスポットが肥大化し、直進信号光および隣接する別方向への信号光光路とのクロストークが大きくなるという課題がある。
【0009】
また、特許文献5に示したように熱レンズから出射した制御光を照射しなかった信号光と制御光を照射した信号光とを、単に同一のレンズ等で集光する光学手段を用いて検出器に集光する場合は、信号光の光軸がファイバー端面へ垂直に入射しなく、光ファイバーを用いた場合、信号光の検出効率が悪くなる。
【0010】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、制御光の光吸収で形成される熱レンズ領域と信号光ビームの位置を接近させ、制御光パワーをできるだけ低くし、かつ、熱レンズ効果の応答速度を速め、信号光の検出効率を高め、更に複数の光路切替信号光相互および直進信号光とのクロストークを低減させた、光路切替装置および光信号の光路切替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光路切替装置および光信号の光路切替方法は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0012】
本願請求項1に係る発明の光路切替装置は、
1種類以上の波長の信号光を照射する信号光光源と、
前記信号光とは異なる特定波長の制御光を照射する2つ以上の制御光光源と、
前記信号光は透過し、前記制御光を選択的に吸収する光吸収層を含む熱レンズ形成光素子と、
前記光吸収層に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて、前記光吸収層内にて収束させて入射させる集光手段と、を有し、
前記熱レンズ形成光素子は、前記制御光と前記信号光が、光の進行方向で前記光吸収層内において収束したのち拡散することによって、前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し過渡的に熱レンズが形成され、該熱レンズにより、前記光吸収層内に屈折率分布が生じ、前記信号光の進行方向を変え、光路切替を行い、
更に、第1の受光手段と第2の受光手段を設け、前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光とを、同一の前記第1の受光手段と前記第2の受光手段によりそれぞれ収束または集光し、前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光とを分光したまま屈折させて通過させるくさび型プリズムを前記第1の受光手段と前記第2の受光手段の間に設けたことを特徴とする光路切替装置であって、更に、
(1)前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面は重力の方向に対して垂直に設置され、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向は重力の向きと同一である、
(2)前記集光手段は、前記光吸収層の入射面に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて集光させ、縮小投影光学系を構成している、
(3)前記くさび型プリズムは、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対応してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(4)前記くさび型プリズムは、更に、光路切替された前記信号光の光軸が前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった前記直進信号光の光軸に対して近づく方向に屈折するように、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(5)前記熱レンズ形成光素子は、前記くさび型プリズムを配置しなかった場合に、進行方向が変わらなかった前記直進信号光と光路切替された前記信号光とが、前記第1の受光手段および前記第2受光手段により同一の位置に収束または集光される位置に配置されている、
の上記(1)から(5)からなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする。
【0013】
本願請求項2に係る発明の光路切替装置は、請求項1に記載の光路切替装置において、
前記信号光および制御光は、前記熱レンズ形成光素子の入射面の上方から入射されることを特徴とする。
【0014】
本願請求項3に係る発明の光路切替装置は、請求項1または請求項2に記載の光路切替装置において、
更に、前記第1の受光手段および第2の受光手段により収束または集光された進行方向が変わらなかった前記直進信号光と光路切替された前記信号光が、それぞれ入射可能な端面近接多芯バンドル光ファイバーを有することを特徴とする。
【0015】
本願請求項4に係る発明の光路切替装置は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光路切替装置において、
更に、前記信号光光源と非結束末端で接続された中心光ファイバーと、
前記信号光とは異なる波長の制御光を照射する2つないし6つの前記制御光光源各々に6本の周辺光ファイバーの非結束末端が接続された端面近接七芯バンドル光ファイバーと、を有することを特徴とする。
【0016】
本願請求項5に係る発明の光路切替装置は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光路切替装置において、
前記くさび形プリズムは、六角錐台型プリズムであり、
前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった前記直進信号光が六角錐台型プリズムの頂上平面を通過し、光路切替された前記信号光が六角錐台型プリズムの6つのウェッヂ面のいずれかを通過し、それぞれ、六角錐台型プリズムから出射することを特徴とする。
【0017】
本願請求項6に係る発明の光路切替装置は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光路切替装置において、
第1の受光手段と第2の受光手段が焦点距離1.0mmないし3.0mmの球面あるいは非球面凸レンズであることを特徴とする。
【0018】
本願請求項7に係る発明の光信号の光路切替方法は、
1つ以上の信号光光源からの、1種類以上の波長の信号光を各々の光軸を揃えて出射させ、
2つ以上の制御光光源からの、前記信号光とは異なる特定波長の制御光を各々出射させ、
前記信号光は透過し、前記制御光を選択的に吸収する光吸収層を含む熱レンズ形成光素子に、前記信号光と前記制御光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて、前記光吸収層内にて収束するよう集光して照射し、
前記信号光は前記熱レンズ形成光素子を透過させ、
前記制御光は前記熱レンズ形成光素子内の前記光吸収層にて光吸収させて前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇にともなう熱レンズを過渡的に形成させて前記熱レンズ形成光素子内の前記光吸収層内に屈折率分布を生じさせ、前記信号光の進行方向を変えて光路切替させ、
前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光をそれぞれ、同一光学手段からなる第1の受光手段および第2受光手段により収束または集光させ、
前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光とを、第1の受光手段と第2受光手段との間に設けたくさび型プリズムにより分光したまま屈折させて通過させること、を特徴とする光信号の光路切替方法であって、更に、
(6)前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面を重力の方向に対して垂直に設置し、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向は重力の向きと同一にする、
(7)前記光吸収層内にて集光させる場合、前記光吸収層の入射面に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて集光させ、縮小投影させる、
(8)前記くさび型プリズムは、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対応してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(9)前記くさび型プリズムは、更に、光路切替された前記信号光の光軸が前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった前記直進信号光の光軸に対して近づく方向に屈折するように、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(10)前記熱レンズ形成光素子は、前記くさび型プリズムを配置しなかった場合に、進行方向が変わらなかった前記直進信号光と光路切替された前記信号光とが、同一の位置に収束または集光される位置に配置されている、
の上記(6)から(10)からなる群から選択される1つ以上である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光路切替装置および光信号の光路切替方法は、次の効果を奏する。
【0020】
第1に、40ミリワット以下の低い制御光パワーで信号光の光路切替を行うことができる。
【0021】
第2に、10ミリ秒以下の速度で信号光の光路切替を行うことができる。
【0022】
第3に、直進信号光および隣接する光路切替信号光、それぞれの間のクロストークを−30dB以下にすることができる。
【0023】
光路変更された信号光を光ファイバーで検出するときに、光ファイバーにほぼ垂直に入射させることができるので、ファイバー結合効率を大きくできる。
【0024】
光路変更された信号光をくさび形プリズムを用いて更に進行方向を変えるので、検出する複数の光ファイバー間隔を適切に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態の光路切替装置の概念図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の光路切替装置に用いられる六角錐台プリズムの概念図である。
【図3】本発明で用いられる端面近接多芯光ファイバーの概略構成を表す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態の光路切替装置の概念図である。
【図5A】本発明の信号光が制御光照射により光路変更する状況を説明した図である。
【図5B】本発明の信号光が制御光照射により光路変更する状況を説明した図である。
【図5C】本発明の信号光が制御光照射により光路変更する状況を説明した図である。
【図5D】図5Bの2点鎖線で囲った部分の拡大図である。
【図6】本発明の光吸収層での光軸間距離(集光点での信号光と制御光の光軸に直角方向の距離)と光路変更量(光路変更角)の関係を示すグラフである。
【図7】制御光と信号光との光軸間距離を30μmとして熱レンズ形成光素子の光吸収層に入射させ、熱レンズ形成光素子を出射した直進信号光10および光路切替信号光11〜16をビームプロファイラーの受光面に入射させたときの直進および光路切替信号光ビーム位置を表した図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態の光路切替装置において、制御光と信号光との光軸間距離を25μmとして熱レンズ形成光素子の光吸収層に入射させ、熱レンズ形成光素子を出射した直進および光路切替信号光ビームをビームプロファイラーの受光面に入射させたときの直進および光路切替信号光ビーム断面を表した図である。
【図9】本実施の形態の最良の状態において、制御光21ないし26のいずれか1つ、例えば制御光21をデューティ比1:1で明滅させる周波数を50Hzから2000Hzで変化させたときの、直進光と光路変更光の信号光強度を、制御光が継続的に消灯または消灯しているときの信号光強度で除した値(これを「振幅」と呼ぶ。)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
〔第1の実施形態〕
図1〜図3を参照して本発明の第1の実施形態に係る光路切替装置を説明し、併せて光信号の光路切替方法を説明する。
【0028】
図1は本発明の第1の実施形態に係る光路切替装置の概略構成例である。本発明の第1の実施の形態に係る光路切替装置は、図1に概要を例示するように出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100、コリメートレンズ5、集光レンズ6、熱レンズ形成光素子1、第1の受光手段である受光レンズ7、第2の受光手段である結合レンズ8、くさび型プリズムの一例である六角錐台プリズム9、受光側七芯バンドル光ファイバー210などの主要光学部品およびこれらを固定する基板および架台など(図示せず)から構成される。
【0029】
例えば、発振波長1490nmの信号光光源(図示せず)からの信号光は出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の中心光ファイバーに空間または光ファイバーを介して結合され、出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の端面101から出射され、信号光20として熱レンズ形成光素子1に入射され、制御光が照射されない場合は直進信号光10として受光側七芯バンドル光ファイバー210の中心光ファイバー端面200に入射する。
【0030】
例えば、発振波長980nmの2ないし6基の制御光光源(図示せず)からの制御光は出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の6本の周辺光ファイバーのいずれかに空間または光ファイバーを介して結合され、その端面101から出射される。端面101から出射した信号光と制御光は、コリメートレンズ5および集光レンズ6の2つの凸レンズで熱レンズ形成光素子1に集光させた。凸レンズは2つ用いなくとも、収差が小さく結像できれば1つでも良い。出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の光ファイバーコア中心間距離Lが40μmの場合、コリメートレンズ5および集光レンズ6の2つの凸レンズで縮小光学系にした。その理由は、熱レンズ形成光素子中において信号光と制御光間隔を40μm以下にしないと、制御光の光吸収で形成される熱レンズ領域が信号光ビームの光路変更に及ぼす影響が軽減され、制御光パワーの利用効率が下がる(同一制御光パワーの場合、光路変更角が小さくなり、六角錐台プリズム9での直進信号光と光路変更した信号光との分離が悪い)等の欠点があるためである。
【0031】
例えば、コリメートレンズ5および集光レンズ6の2つの凸レンズとして、焦点距離2mm、NA0.5の非球面レンズを用い、光学部品である出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100、コリメートレンズ5、集光レンズ6、および熱レンズ形成光素子1の間隔を調整することによって、前記40μmの光軸間距離を、例えば、35μm、30μm、および25μmまで縮小させて、色素溶液(光吸収層)3に入射させることができる。勿論、出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の光ファイバーコア中心間距離Lを充分小さくできれば、縮小光学系にする必要はない。コリメートレンズ5および集光レンズ6として、焦点距離2mmの非球面レンズを用いたが、焦点距離が2mmの非球面レンズでなくても良いことは言うまでもない。
【0032】
受光レンズ7および結合レンズ8として、コリメートレンズ5および集光レンズ6と同じ焦点距離2mm、NA0.5の非球面レンズを用いた。焦点距離が2mmの非球面レンズでなくても良いことは言うまでもない。例えば、焦点距離2ないし8mmの凸レンズを使用することができ、また、受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離を変えても良い。
【0033】
焦点距離が長いレンズを使用して、信号光として1490nmと1310nmと異なる波長の光を用いた場合、色収差が生じてしまった。焦点距離2mm以下にすると色収差の影響が顕著には生じなかった。よって、受光レンズ7および結合レンズ8の焦点距離が8mmの場合には、色消しレンズを用いた。
【0034】
本発明で用いられる端面近接多芯光ファイバー100の概略構成を表す断面図を図3に示す。端面近接多芯光ファイバー100は、例えば、コア31の直径10μm、クラッド32の外径125μmのシングルモードファイバーのクラッドをフッ化水素でエッチングしてクラッド外径40μmとしたもの7本を束ねてエポキシ接着剤33と一緒にセラミック製フェルール34の孔へ挿入し、接着剤を硬化させた後、端面101を研磨したものであり、7本の光ファイバー他端は束ねられていない。端面近接多芯光ファイバー100の中心光ファイバーの非結束末端は信号光の光源へ、周辺光ファイバー6本の非結束末端は各々制御光光源へ接続される。以下、中心光ファイバーを「No.0」、周辺光ファイバーを「No.1」から「No.6」と呼ぶ。
【0035】
受光レンズ7と結合レンズ8の間に設置する六角錐台プリズム9の形状を、図2に例示する。ここで、図2の上段には、平面図が示され、一方図2の下段には対応する側面図が示されている。寸法の例としては、受光レンズ7として焦点距離2mmのレンズを用いた場合、図2において頂上平面90の長さdが0.44mm、底部平面の長さDが8.6mm、厚さtが3.0mm、屈折率約1.5のガラスで、ウェッヂの角度θが、例えば7.1度、または、14.0度である。頂上平面90の長さdが0.44mmである理由は、熱レンズを透過した制御光が照射されない場合の直進信号光10が、ほぼ頂上平面90を通過する大きさにするためである。例えば、受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離が2mmで結合倍率が1倍で出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100のNAを0.1とすると、光束径は約0.4mmになる。レーザー光はガウス分布しているので余裕を見てdを0.44mmにした。コリメートレンズ5および集光レンズ6の2つの凸レンズで縮小光学系にしているので、受光側七芯バンドル光ファイバー210の各光ファイバーでの信号光の結合効率を高めるために、受光レンズ7と結合レンズ8により拡大光学系にしている。このため、受光レンズ7から出射する直進信号光と光路変更された信号光は完全な平行光ではないので、dの値は0.4mmとは多少異なる。しかし、拡大率がそれほど大きくないので平行光に近似でき、かつ、受光レンズ7と六角錐台プリズム9の間隔を必要最小限にすることで、dの値は大きく変える必要はなくなる。なお、受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離を変えた場合には、頂上平面90の長さdを変える必要がある。dの長さは、用いるレンズの焦点距離に比例する。
【0036】
この六角錐台プリズム9は、熱レンズ形成光素子1で進行方向を変えた信号光を再度進行方向を変え、受光側七芯バンドルファイバーの位置における直進信号光と光路変更された信号光のビームスポット中心間距離(以下、距離Dxと呼ぶ。)を拡大するために使用した。ウェッヂの傾角を図2に示したようにθとすると、屈折率約1.5の場合ウェッヂを通過した光は、ウェッヂ厚みの大きい方向に、ウェッヂを挿入しない場合の出射方向から角度約θ/2傾いて出射する。
【0037】
例えばθ=7.1度で、受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離が2mmで結合倍率が1倍の場合、距離Dxは約125μm(Dx≒2000*2π*7.1/2/360)である。距離Dxは、用いるレンズの焦点距離に比例し、また、ウェッヂの傾角θに比例する。これらの数値の組み合わせによって、Dxを例えば250μm、300μmに拡大することができる。
【0038】
以上の説明では、受光側検出器として七芯バンドルファイバー例を挙げたが、検出位置における直進信号光と光路変更された信号光のビームスポット中心間距離が大きい場合、例えば400μm以上の場合は、七芯バンドルファイバーを用いずに、シングルモード光ファイバー7本をそれぞれの対応する信号光を最良に検出できるように位置調整をして接着させて用いることもできる。例えば、検出位置における直進信号光と光路変更された信号光のビームスポット中心間距離が425μmの場合には、ここの光ファイバーの被覆を剥がし、中心光ファイバーは内径150μm〜180μm、外形300μmのニッケル管に通して固定し、周辺の6本の光ファイバーはその回りに接着した。検出位置における直進信号光と光路変更された信号光のビームスポット中心間距離が更に大きい場合には、ニッケル管の外形を大きくして対応が可能である。
【0039】
(要素技術S1)熱レンズ効果の大きさ:
(S1−1)制御光のパワー密度(制御光のパワー、集光条件、光学系のロス、色素溶液の溶剤の沸点)
【0040】
(S1−2)熱レンズ形成光素子1の性能(色素の濃度と吸光度、色素溶液の粘度とその温度特性、色素溶液の液膜の厚さ、制御光の集光点の位置、溶液セルの形状など)
【0041】
(S1−3)熱レンズ形成光素子1の光吸収層(色素溶液)へ入射した位置における信号光光軸と制御光光軸の位置関係と光軸間距離
【0042】
(S1−4)熱レンズ形成光素子1の設置方位と重力方向との関係および熱レンズ形成光素子1への信号光および制御光の入射方向と重力方向との関係
【0043】
(要素技術S2)熱レンズ形成光素子1へ信号光と制御光を入射させる光学系の設計:
(S2−1)縮小投影光学系の採用
【0044】
(S2−2)光吸収層の厚み方向での信号光と制御光とを収束させる位置
(要素技術S3)熱レンズ形成光素子1から出射する直進信号光10および光路変更信号光11〜16の受光光学系の設計:
(S3−1)受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離の選定と組み合わせ
【0045】
(S3−2)六角錐台型プリズム9のくさび(ウェッジ)部分の角度θの設定
【0046】
(S3−3)受光レンズ7、六角錐台型プリズム9、結合レンズ8、および受光側七芯バンドル光ファイバーの端面の素子間距離
(要素技術S4)応答速度
【0047】
以下、これら設計要素および操作条件の制約と好ましい実施形態について記述する。
【0048】
[要素技術S1]熱レンズ効果の最適化:
熱レンズ形成光素子1としては、例えば、厚さ500μmの石英製円板2枚と厚さ500μmの石英製スペーサーからなる直径8〜10mmのコイン型の溶液セル2に、吸収極大波長950ないし1050nmであって信号光の波長帯域、例えば1310ないし1600nmの帯域に光吸収のない有機色素を沸点範囲290ないし300℃の有機溶剤に溶解し、液厚500μmの場合で980nmの吸光度を5.0以上に濃度調整した色素溶液3を充填し、注入孔をエポキシ接着剤で密閉したものが用いられる。言うまでもなく、色素溶液3は色素吸収層として作用する。
【0049】
前記有機色素としては、YAGレーザーを光源とする赤外線加工用の赤外線吸収色素として市販されている染料を好適に用いることができる。色素の着色力によるが、液厚500μmの場合で前記の光学濃度を達成するには溶液中での色素の濃度を0.1ないし0.5重量%程度に設定すれば良い。このような溶解性で前記の光吸収特性を有し、更に下記の溶剤に溶解させた溶液状態において、吸収波長帯域のレーザーを長時間照射されても、また、瞬間的に300℃近くまで昇温されても分解しない有機色素であれば、その化学構造には特に制約はない。色素の光劣化の機構として、大気中の基底状態で三重項の酸素分子が、色素の吸収した光エネルギーを受領して、活性な励起一重項酸素分子となって色素を酸化することが知られている。これを防ぐには色素溶液中の溶存酸素を取り除く精製処理を行った後、溶液セル2へ密閉すれば良い。
【0050】
また、前記有機溶剤としては、次に示す構造異性体4成分(分子量は同一)の混合溶剤が推奨される。
・第1成分:1−フェニル−1−(2,5−キシリル)エタン
・第2成分:1−フェニル−1−(2,4−キシリル)エタン
・第3成分:1−フェニル−1−(3,4−キシリル)エタン
・第4成分:1−フェニル−1−(4−エチルフェニル)エタン
【0051】
この構造異性体4成分混合溶剤は、沸点が300℃近い有機溶剤としては極めて粘度および粘度の温度依存性が小さく、熱レンズ形成光素子用溶剤として好適である。ただし、空気中の酸素で酸化劣化しやすいという欠点を有する。これについては、溶存酸素を取り除く精製処理を行った後、溶液セル2へ密閉することで万全に対処可能である。
【0052】
制御光のパワーの上限は上記の溶剤を用いた色素溶液の沸点によって左右される。すなわち、制御光のパワーを大きくしていった場合、熱レンズ形成領域の最高温度が前記溶剤の沸点に達すると、泡が発生し信号光の透過が妨げられる。また、完全に沸騰しないまでも、沸点近傍では微細な泡が発生し、信号光ビームが散乱され、ビーム径が増大してしまう。そこで、熱レンズ形成光素子における熱レンズ効果を最も有効に利用するためには、前記沸騰が開始するパワーよりも5ないし10%小さいパワーを上限として制御光を熱レンズ形成光素子へ入射させることが好ましい。更に、制御光光源の温度変化などに起因する発振出力の変動幅を考慮すると、前記沸騰が開始するパワーよりも5%小さい場合は出力変動で制御光出力が前記沸騰を起こすパワーまで到達するおそれがある。従って、熱レンズ形成光素子における熱レンズ効果を最も有効に利用するためには、前記沸騰が開始するパワーよりも8ないし10%小さいパワーを上限として制御光を熱レンズ形成光素子へ入射させることが更に好ましい。
【0053】
制御光パワーの好ましい具体的値は熱レンズ形成光素子1へ制御光および信号光を収束入射させるための集光光学系、すなわち例えば図1におけるレンズ5および6からなる縮小光学系の設計条件に応じて変わる。例えば、受光側七芯バンドル光ファイバー210に受光させる場合、レンズ5および6が焦点距離2mmの非球面凸レンズであって、ビームの収束を回折限界に近くなるまで厳密に行うような設定とした場合、制御光パワーの絶対値は約20ないし50mWに設定される。50mW超すと色素溶液の沸騰が起こる場合があった。色素溶液の沸騰を回避しつつ、本実施形態に記載の最良の条件において、受光側の光ファイバーへ60%以上の結合効率で、−30dB以下の隣接チャンネル間のクロストークで、信号光を7方向に切り替えることが可能である。なお、熱レンズ形成光素子1に入射させる制御光のパワーは、基本的にレンズ5,6の焦点距離には関係ない。
【0054】
光学部品の表面における反射による制御光および信号光の損失を低減させるため、使用するレンズ、熱レンズ形成光素子、六角錐台型プリズム、などの表面、ならびに、出射側端面近接七芯バンドル光ファイバーおよび受光側七芯バンドル光ファイバーの端面に無反射コートを行うことが推奨される。無反射コートとしては、公知の任意の素材を用いることができる。
【0055】
熱レンズ形成光素子1の光吸収層(色素溶液)へ入射した位置における信号光光軸と制御光光軸の位置関係と光軸間距離については、前記光吸収層に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて、前記光吸収層内にて収束させて入射させることが好ましく、前記光軸間距離としては具体的には、出射側端面近接七芯バンドル光ファイバーを出射する際の信号光と制御光との光軸間距離例えば40μmを、熱レンズ形成光素子1の光吸収層(色素溶液)へ入射した位置における光軸間距離として20ないし25μmまで、縮小光学系で縮小することによって、熱レンズ効果を最大限に活用することが可能になる。前記光軸間距離を20μmよりも短くすると、光路変更された信号光のビーム断面形状が崩れて受光側光ファイバーへの入射効率が悪化してしまう。
【0056】
図6は、前記光吸収層での光軸間距離(集光点での信号光と制御光の光軸に直角方向の距離)と光路変更量(光路変更角)の関係を示す例である。光軸間距離が短くなればなるほど、光路変更角が大きくなることを示している。光路変更角が大きくなると、直進信号光と光路変更された信号光の分離が良くなり、検出された信号(情報)のクロストークが小さくなる。
【0057】
熱レンズ形成光素子1の光吸収層(色素溶液)の制御光を吸収した部分は「温度上昇→熱膨張→密度低下=屈折率低下」という機構で熱レンズを形成する。重力圏内において、液体中の低密度部分は熱対流を起こし、重力とは反対向きに、すなわち上方へ上昇する。従って、熱レンズ領域の形状を安定化し、かつ、熱レンズ効果を最大限に活用するには、熱レンズ形成光素子1の設置方位と重力方向との関係および熱レンズ形成光素子1への信号光および制御光の入射方向と重力方向との関係を下記のように設定すれば良い。すなわち、前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面は重力の方向に対して垂直に設置され、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向は重力の向きと同一である。このように装置および操作方法を設定することで、熱レンズ形成光素子1の光吸収層(色素溶液)中に形成された熱レンズ領域は、溶液セルに対流を妨げられるため形成されたままの位置に留まることとなり、照射した制御光パワーを極めて有効に熱レンズ効果として利用することが可能になる。また、複数の制御光を信号光ビームに対して異なる位置に照射しても、形成される熱レンズの形状おおび信号光へ及ぼす効果を均一にすることが可能となる。本実施の形態と比較すべき装置および操作方法の設定として、第1に、前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面は重力の方向に対して平行に設置し、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向を重力の向きに直交させる設定がある。これについては後述の比較実施例1で述べる。第2に、前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面は重力の方向に対して垂直に設置し、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向を重力の向きとは反対とする。これについては後述の比較実施例2で述べる。いずれの場合も本実施の形態の場合に比べ、熱レンズ効果の利用効率は劣り、また、好ましくない現象として制御光の照射位置に依存して光路変更の程度が変化したり、熱レンズ効果が時間とともに変動して光路変更された信号光ビーム位置が変化したりする。
【0058】
[要素技術S2]熱レンズ形成光素子1へ信号光と制御光を入射させる光学系の設計最適化:
先に記述したように、出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の中心光ファイバーから出射する信号光および周辺光ファイバーから出射する制御光の光軸間距離が例えば40μmの場合、これらをコリメートレンズ5および集光レンズ6から構成される縮小投影光学系を通過させることによって、熱レンズ形成光素子1の光吸収層(色素溶液)へ前記光吸収層に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせるように各々収束させて入射させ、前記信号光と前記制御光の光軸間距離を20ないし30μmまで、縮小することによって、熱レンズ効果を最大限に活用することが可能になる。コリメートレンズ5および集光レンズ6としては焦点距離が同一の凸レンズを2枚組み合わせて好適に用いることができる。例えば、焦点距離2mm、N.A.0.5の非球面凸レンズ2枚を組み合わせて、コリメートレンズ5および集光レンズ6として使用し、縮小光学系として設計設定することができる。
【0059】
前記光吸収層の厚み方向で前記信号光と前記制御光とを収束させる位置により、光路切替された信号光の形状が異なる。図5A,5B,5Cは、信号光が制御光照射により光路変更する状況を説明した図である。また、図5Dは図5Bの2点鎖線で囲んだ部分を拡大した図である。なお、説明を簡単にするため、図5A,5B,5Cでは光吸収層3と光吸収層の周りの溶液セル2との屈折率の違いによる光の屈折は無視することとする。図5A,5B,5Cにおいて、熱レンズ形成光素子の光吸収層3において、収束(集光)点近辺での制御光の光強度分布81、収束(集光)点から離れたところでの制御光の光強度分布82を示すとともに、制御光の収束(集光)点83と、制御光が照射されない場合の信号光の収束(集光)点85と、制御光が照射された場合の信号光の収束(集光)点86と、見かけ上の信号光の収束(集光)点84を示す。図5Aは制御光と信号光が光吸収層3の入射面に収束(集光)した場合、図5Bは制御光と信号光が光吸収層3の入射面から数十μm光吸収層の中に進んだところに収束(集光)した場合、図5Cは制御光と信号光が光吸収層3の入射面から数十μmより更に光吸収層の中に進んだところに収束(集光)した場合のレーザー光の光路を模式的に示したものである。
【0060】
制御光が照射されない場合は、信号光は直進する。制御光が照射されると、信号光は光路変更する。光吸収層3を透過した信号光は、図1に示す検出器201〜206に、図5A〜5Dに示す光吸収層3の見かけ上の信号光の収束(集光)点84から信号光が出射されたように収束(集光)する。図5Aに示すように、制御光が照射されない場合の信号光の収束(集光)点85と、制御光が照射された場合の信号光の収束(集光)点86とは一致しており、見かけ上の信号光の収束(集光)点84は離れている。信号光は熱レンズ形成光素子に収束(集光)して入射させている。図面では表していないが制御光に近い方の信号光の部分ほど制御光の影響を強く受け曲がりが大きく、制御光から離れている信号光の部分ほど曲がりが小さい。図5Aに示す場合、入射面でビーム径が一番小さく、その後広がっていく。よって図5Aに示す場合、信号光の制御光に近い部分は変わらず常に制御光の影響を大きく受ける。従って、この場合の収束(集光)した信号光のビーム断面の形状は、丸にならず、三日月形に歪む。制御光と信号光の位置関係は図5Aのまま、光吸収層3の位置を制御光および信号光の入射側に移動させ、制御光および信号光が光吸収層3の内部に進入した位置で収束(集光)するようにした図5Bの場合は、制御光を照射しない場合の信号光の収束(集光)点85と見かけ上の信号光の収束(集光)点84の位置がほぼ一致するようにすることができる。この場合を拡大して見た図5Dに示すように、収束(集光)点84と85は一致し、同86は、僅かに離れている。図5Bに示す場合、信号光の制御光に近い部分は収束(集光)点86で入れ替わり、制御光の影響は均等になる。よって、収束(集光)した信号光のビーム断面の形状は丸であり、歪みはほとんどないと考えられる。この状態から更に、制御光および信号光が光吸収層3の深部に進入した位置で収束(集光)するようにした図5Cの場合では見かけ上の収束(集光)点84と制御光が照射された場合の信号光の収束(集光)点86はほぼ一致する。制御光は熱レンズ形成光素子で吸収されるので、熱レンズ形成光素子に入射して200〜300μmも進むと、光量が弱くなり熱レンズ作用はなくなる。図5Cに示す場合は、制御光の影響がほとんどなくなった位置で集光するようにした例で、収束(集光)点86以降はビームの曲がりはなくなる。しかし、収束(集光)点86迄は図5Aに示した場合とは反対側の信号光部分が常に制御光の影響を強く受け曲がりが大きくなり、信号光のビーム断面形状は丸ではなくなると考えられる。
【0061】
本実施の形態では、光路変更された信号光のビーム断面を丸ビームに保つため、図5Bの状態になるように熱レンズ形成光素子1すなわち光吸収層3の位置を調整した。この場合、前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路変更された信号光とが、六角錐台プリズムが設置されていない場合、検出器の受光位置においては同一点に収束(集光)する。すなわち、信号光のビーム断面の形状を結合効率向上に有利な丸ビームのままで光路切替しようとする場合、制御光を照射しない場合の信号光の収束(集光)点85と見かけ上の信号光の収束(集光)点84の位置が一致して「不動」となるため、そのままでは直進信号光と光路変更信号光を分離して検出することができない。そこで、新しいユニークな装置構成として、受光レンズ7と結合レンズ8の間に六角錐台プリズム9を設置し、直進信号光はそのまま直進させ、光路変更信号光の進路を直進信号光とは異なる角度とすることによって、直進信号光と光路変更信号光とを、充分距離が離れた異なる位置において、高い結合効率で、光ファイバーで受光・検出することが可能となる。その結果、直進信号光と光路変更信号光とのクロストークを著しく低減することができる。なお、例えば、図5Aの配置を採用すると、ウェッヂプリズムを用いなくとも、直進信号光と光路切替光のビーム位置を大きく変化させることができるが、光路変更された信号光ビーム断面形状がガウス分布の丸ビームから大きく逸脱するため、光ファイバーで受光・検出する際の結合効率が著しく悪化し、信号光の減衰が大きく、実用に適さなくなる。
【0062】
[要素技術S3]熱レンズ形成光素子1から出射する直進信号光10および光路変更信号光11〜16の受光光学系の設計最適化:
第1の設計設定項目として熱レンズ形成光素子1を出射した直進信号光(制御光照射がない場合)10と光路変更信号光(制御光21〜26の照射に対応)11〜16を受光する受光レンズ7(第1の受光手段)および直進信号光10と光路変更信号光11〜16とを受光側七芯バンドル光ファイバー210のファイバー端面のコアへ結合するための結合レンズ8(第2の受光手段)の設定がある。ここで、信号光の波長としてファイバートゥザホームの下り信号として用いられる波長の1490nm近辺と上り信号として用いられる波長の1310nmとでは、レンズの屈折率波長依存の影響を受けるため、色消しレンズを用いない場合、一方の波長で光学系を調整すると他方の波長での光ファイバー結合効率が低下するという課題がある。表1に示すように、受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離を同一とし、焦点距離を8mm、2.75mm、2.0mmとした場合、2.75mm以下の短い焦点距離の場合、光ファイバーへの結合効率の波長依存性が極めて小さくなることが判った。表1から明らかなように、焦点距離8mmのレンズの場合、1550nm光で光学系調整を行い1550nm光で測定した光ファイバーへの結合効率に対して、1550nm光で光学系調整を行い1310nm光で測定した結合効率は小さい。同様に、1310nm光で光学系調整を行い1310nm光で測定した光ファイバーへの結合効率に対して、1310nm光で光学系調整を行い1550nm光で測定した結合効率は小さい。受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離の最小値は実用上、1.0mmである。これよりも焦点距離を小さくするとレンズの作動距離の制約から、レンズ7または8と六角錐台プリズム9が接触してしまう。以上まとめると、第1の受光手段・受光レンズ7と第2の受光手段・受光レンズ8が焦点距離1.0mmないし3.0mmの球面あるいは非球面凸レンズであると、色消しレンズを用いなくても信号光の波長差の影響をほとんど受けなくすることができる。
【0063】
【表1】

【0064】
熱レンズ形成光素子を出射した信号光は、受光レンズ7および結合レンズ8により受光側七芯バンドルファイバーに集光される。コリメートレンズ5および集光レンズ6の2つの凸レンズで縮小光学系にしているので、受光側七芯バンドルファイバーの信号光の検出効率を高めるためには、受光レンズ7と結合レンズ8では拡大して集光した方が良い。例えば、コリメートレンズ5および集光レンズ6で0.8倍に縮小した場合には、受光レンズ7と結合レンズ8では1.25倍に拡大した方が良い。
【0065】
表1において、焦点距離8mmのレンズで全体の結合効率が小さい理由は、受光レンズ7と結合レンズ8での拡大率を最適化できなかったためである。
【0066】
結合レンズ8と六角錐台プリズム9との間隔は、六角錐台プリズム9を出射した前記制御光が照射され光路切替された信号光が、検出器200〜206であるシングルモード光ファイバー端面に垂直に入射するようにするため、結合レンズ8の入射側焦点近くを通過する様にする必要がある。よって、受光レンズ7と結合レンズ8の間隔は余り小さくできない。例えば、受光レンズ7と結合レンズ8の焦点距離を2mmとし、六角錐台プリズム9のウェッヂ角度を7.1度、コリメートレンズ5および集光レンズ6による縮小率を0.8とした場合、受光レンズ7と結合レンズ8の間隔は10〜25mmである。
【0067】
第2の設計設定項目として、受光レンズ7と結合レンズ8の間に挿入するウェッヂがある。七芯バンドル光ファイバーを用いる場合、必要とされる6個のウェッジを一体化し、図2に示すような六角錐台プリズム9として好適に使用することができる。ここで、直進信号光10は六角錐台プリズム9の頂上平面90へ入射させ、底面97から出射させる。一方、光路変更された信号光11〜16は、頂上平面90の近傍のウェッジ面91〜96を通過させ、屈折させて、直進信号光と光路変更された信号光との光軸間距離を拡大し、結像位置において、光路変更された信号光のビームスポット相互および直進信号光のビームスポットが互いに重ならないように設定することで、直進信号光と光路変更信号光とのクロストーク、および、光路変更信号光の隣接する同士のクロストークを低減することが可能である。
【0068】
先にも述べたように、コリメートレンズ5および集光レンズ6の2つの凸レンズで縮小光学系にしているので、受光側七芯バンドルファイバーの信号光の検出効率を高めるためには、受光レンズ7と結合レンズ8では拡大して集光する必要がある。例えば、コリメートレンズ5および集光レンズ6で0.8倍に縮小した場合には、受光レンズ7と結合レンズ8では1.25倍に拡大した方が良い。焦点距離を2mmの受光レンズ7と結合レンズ8を用いて、受光レンズ7と結合レンズ8間距離を20mmで1.25倍に拡大すると、受光レンズ7を通過した光は約0.3度集光する状態になる。よつて、距離Dxを125μmにする場合は、この0.3度分ウェッヂの角度を小さくしてθ≒6.5度にする必要がある。あるいは、ウェッヂの角度をθ=7.1度で距離Dxを小さくして約115μmにする必要がある。
【0069】
拡大率を大きくし平行光から大きくずらすと、六角錐台プリズム9のウェッヂ部分を通過する信号光に収差が生じてしまう。しかし、受光レンズ7の焦点距離と結合レンズ8の焦点距離を変えて拡大すれば、平行光で六角錐台プリズム9を通過させることができるので収差が生じにくい。例えば、1.25倍に拡大する場合、受光レンズ7の焦点距離を1.6mmとし結合レンズ8の焦点距離を2mmとすれば良い。
【0070】
熱レンズ形成光素子1に制御光が照射されずに直進した信号光は、頂上平面部を通過するように設置したので、光路変更することなく直進する。また、六角錐台プリズム9のウェッヂ部分を通過した光路変更された信号光は、制御光が照射されなく直進する信号光と交叉する方向に進行方向を変えるように六角錐台プリズム9を設置した。
【0071】
六角錐台プリズム9と結合レンズ8との間隔は、図1に示すように六角錐台プリズム9を透過した信号光が、結合レンズ8を透過した後、受光側七芯バンドルファイバー200〜206であるシングルモード光ファイバー端面に垂直に入射するように設定した。受光側七芯バンドルファイバーに垂直に入射させるためには、結合レンズ8の入射側焦点をウェッヂで光路変更された信号光が通過するようにすれば良い。光ファイバー端面に垂直に入射する様に設定することにより、検出器の光ファイバーへの入射効率が最大になる。検出器200〜検出器206であるシングルモード光ファイバーはほぼ光軸と平行に設置した。
【0072】
なお、プリズムを六角錐台形状でなく、中心の厚みが小さい平坦な板から六角錐台をくり抜いたような形状にしても、受光側七芯バンドルファイバーの位置における直進信号光と光路変更された信号光のビームスポット中心間距離Dxを拡大することは可能であるが、上述したような信号光を受光側七芯バンドルファイバー200〜206であるシングルモード光ファイバー端面に垂直に入射するように設定することはできない。
【0073】
図1で六角錐台プリズム9の頂上平面を入射面、底部平面を出射面にしているが、逆に頂上平面が出射面で底部平面が入射面に設置しても良い。
【0074】
第3の設計設定項目として、六角錐台プリズム9のウェッヂ(wedge)角θの設定と、受光側七芯バンドル光ファイバーの周辺ファイバー中心間距離がある。
【0075】
検出器の位置での直進信号光と光路変更された信号光との光軸間距離Routは、六角錐台プリズム9の傾角θと結合レンズ8の焦点距離fにより次のように計算できる。
【0076】
[数1]
Rout=f*tan(ωout)・・・・・・・・・(1)
ここで、六角錐台プリズム9からの出射角度(六角錐台プリズム9の頂上平面に垂直な線との角度で垂直な線と交わる場合は正の符号である)をωoutとする。ωoutは次のように与えられる。
【0077】
[数2]
ωout≒2*(n/n−1)*(θ/2)+ωin・・・・・・・・・・・・・(2)
ここで、nは六角錐台プリズム9の屈折率、nは六角錐台プリズム9の置かれている媒質(今回は空中)の屈折率、θは六角錐台プリズム9の傾角である。ωinは六角錐台プリズム9への入射角度(六角錐台プリズム9の頂上平面に垂直な線との角度で垂直な線と交わる場合は正、垂直な線から離れる場合は負の符号とする)である。
【0078】
結合レンズ8の焦点距離を2mm、六角錐台プリズム9の傾角θを7.1度、n=1.5、n=1.0、直進信号光と光路変更された信号光はほぼ並行であるのでωin=0とすると、検出器の位置での直進信号光と光路変更された信号光との光軸間距離Rout=125μmである。
【0079】
六角錐台プリズム9を透過した信号光が、結合レンズ8を透過した後、検出器であるシングルモード光ファイバー端面に垂直に入射する結合レンズ8と六角錐台プリズム9との間隔Xは、以下の様に計算できる。
【0080】
六角錐台プリズム9への入射位置を光軸からrとすると、結合レンズ8への入射位置rはおおよそ次のように与えられる。
【0081】
[数3]
≒r−tan(θ/2)*X・・・・・・・(3)
結合レンズ8を通過した信号光の収束(集光)点の光軸からの距離rとし、結合レンズ8の焦点距離をfとすると、
[数4]
=−f*tan(θ/2)・・・・・・・(4)
検出器の位置を光軸からrにし、光ファイバーへの入射効率を考慮すると、
[数5]
=r
(3)および(4)式より、
[数6]
−f*tan(θ/2)≒r−tan(θ/2)*X
∴X=f+r/tan(θ/2)・・・・・・・・・・・・・(5)
すなわち、検出器の光ファイバーへの入射効率が最大になる、結合レンズ8と六角錐台プリズム9との間隔Xは、検出器の光ファイバーへ収束(集光)する結合レンズ8の焦点距離fに、六角錐台プリズム9への入射光の光軸からの距離rを六角錐台プリズム9の傾角のtanで割った値をプラスした値である。結合レンズ8の焦点距離を2mm、六角錐台プリズム9の傾角θを7.1度とすると、結合レンズ8と六角錐台プリズム9との間隔Xは、約9mmである。
【0082】
以上の計算は、検出器200〜検出器206であるシングルモード光ファイバーはほぼ光軸と平行に設置した場合であるが、検出器200〜検出器206であるシングルモード光ファイバーが光軸と平行でない場合は、光軸との傾きを補正する必要がある。
【0083】
図8は、制御光と信号光との光軸間距離を25μmとして熱レンズ形成光素子の光吸収層に入射させ、熱レンズ形成光素子を出射した直進および光路切替信号光ビームを、ウェッヂ角7度の六角錐台型プリズムを通過させた後、ビームプロファイラーの受光面に入射させたときの直進および光路切替信号光ビーム断面を表したものである。概ね丸ビームのまま、7方向に光路切替されていることが判る。
【0084】
[要素技術S4]光路切替速度:
図9は、本実施の形態の最良の状態において、制御光21ないし26のいずれか1つ、例えば制御光21をデューティ比1:1で明滅させる周波数を50Hzから2000Hzで変化させたときの、直進光と光路変更光の信号光強度を、制御光が継続的に消灯または消灯しているときの信号光強度で除した値(これを「振幅」と呼ぶ。)をプロットしたグラフである。例えば、制御光21を周波数50Hz、周期20ミリ秒で点灯・消灯したとき、直進光および光路変更光の強度は制御光が継続的に消灯または消灯しているときの信号光強度と同一で、振幅は1.0であり、制御光の点灯または消灯に応じて、直進光および光路変更光の強度は振幅0.0から1.0、または、同1.0から0.0へ周期の半分の値、10ミリ秒で変化する。すなわち、周波数の逆数(周期)を2で除した値を制御光の点灯・消灯に対応した信号光の光路切替の「応答時間」と呼ぶことができる。直進光および光路変更光の応答時間は光学系の調整によって直進光または光路変更光のどちらかが速くなることが多い。図9の場合は光路変更光の方が速く、振幅1.0に到達する。図9の場合、信号光の振幅が、ほぼ1に到達するに要する応答時間は、直進光の場合で約5ミリ秒、光路変更光の場合で2.5ミリ秒である。通常の電気スイッチなどの応答時間は、信号の強度が1/√2、すなわち、振幅0.707に到達するに要する時間である。図9の場合の光路切替時間を振幅約0.7に到達する応答時間と定義すると、直進光について約2.5ミリ秒、光路切替光について約0.9ミリ秒である。
【0085】
[要素技術の統合]光路切替装置としての総合性能:
以上の実施形態は光路切替の応答時間を最適化するよう光学系の調整を行った場合である。応答速度以外の重要な光路切替特性として、1対7型光路切替におけるチャンネル間のクロストークおよび受光側光ファイバーへの結合効率すなわち光路切替装置として挿入損失がある。
【0086】
これらの諸特性をバランス良く調整した場合の最良の実施形態における、同時に達成される特性値は概ね以下の通りである。
・光路切替の応答時間:10ミリ秒以内。
・直進信号光および6つの光路切替光相互のクロストーク:−30dB以内。
・光路切替装置の挿入ロス:2.5dB以内。
【0087】
〔比較実施例1〕
本発明の第1の実施形態と比較すべき装置および操作方法の設定として、前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面は重力の方向に対して平行に設置し、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向を重力の向きに直交させる設定を行った。出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の周辺光ファイバーNo.1〜6の配置と受光側七芯バンドル光ファイバーの周辺ファイバーの周辺光ファイバーNo.1〜6の配置は180度回転して対応するが、出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の周辺光ファイバーNo.1および2を下方に、同No.4および5を上方に配置した。装置の光学部品の主要仕様は同じである。熱レンズ形成光素子1を出射した直進信号光10および光路切替信号光11〜16をビームプロファイラー(図示せず)の受光レンズ7の位置での直進および光路切替信号光ビーム位置の実測値を図7に示す。図7において、黒丸印は第1の実施形態の実測値で、四角印は本比較実施例の実測値である。本比較実施例1の場合は、光路変更された信号光の位置は、きれいな正六角形配置に並ばず、上下が圧縮された扁平六角形配置となる。これは、熱レンズ形成光素子を重力に平行とし、制御光を重力に直交させる配置としたため、熱レンズ形成光素子の光吸収層で形成された、密度の低い熱レンズ領域が、溶液セル内を上方に「浮上」していくため、結果、熱レンズ中で制御光より信号光の位置が上方の場合は、信号光の受ける熱レンズ効果が大きく(1)式におけるωinが負の値を持ち、ωoutが小さくなり、結果としてRoutが小さくなる。逆に熱レンズ中で制御光より信号光の位置が下方の場合は信号光の受ける熱レンズ効果が多少小さくなる。しかし、熱レンズ中で制御光より信号光の位置が上方の場合ほど顕著な影響はなかった。なお、熱対流の影響は、図7の「左右」方向にはほとんど影響を及ぼしていない。
【0088】
〔比較実施例2〕
本発明の第1の実施形態と比較すべき装置および操作方法の設定として、前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面は重力の方向に対して垂直に設置し、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向を重力の向きとは反対とする。この点以外は、第1の実施形態において、装置の光学部品の主要仕様は同じである。
【0089】
比較実施例2を行った結果、比較実施例2の熱レンズ効果は第1の実施形態に比べて非常に小さく、直進信号光の結像と光路変更信号光の結像の距離は、図7の黒丸印の場合よりも小さくなった。また、光路変更された信号光の結像位置に「揺らぎ」が認められた。この原因は、熱レンズ形成光素子の光吸収層の下方で形成された、密度の低い熱レンズ領域が厚さ500μmの液中を、次々と上昇していき、制御光として供給されたエネルギーが、信号光の光路を変更するための熱レンズとして有効に利用されないことである。また、熱対流の揺らぎが信号光の光路変更に悪影響を及ぼしていると推測される。
【0090】
〔第2の実施形態〕
図4は本発明の第2の実施形態に係る光路切替装置の概略構成例である。
【0091】
本実施形態は、第1の実施形態における出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の代わりにダイクロマティックミラー55を用いてコリメートされた信号光20とコリメートされた制御光27の光軸間距離を20ないし25μmとして、熱レンズ形成光素子1の光吸収層へ収束入射させ、また、受光側七芯バンドル光ファイバー210の代わりに直進信号光受光ファイバー220および光路変更信号光受光ファイバー221を用いる他は第1の実施形態の場合と同様にして、信号光および制御光を重力方向下方に照射する配置の1対2型光路切替装置である。信号光と制御光の合波(光軸は一致させない)の方法が異なる以外は、第1の実施例と同様の特長を発揮する。
【符号の説明】
【0092】
1 熱レンズ形成光素子、2 溶液セル、3 色素溶液(光吸収層)、4 熱レンズ領域、5 コリメートレンズ、6 集光レンズ、7 受光レンズ、8 結合レンズ、9 六角錐台型プリズム、10 直進信号光、11〜16 光路変更信号光、20 信号光、21〜26 制御光、100 出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー、101 出射側端面近接七芯バンドル光ファイバー100の出射側端面、200 受光側七芯バンドル光ファイバーの中心ファイバー端面、201〜206 受光側七芯バンドル光ファイバーの周辺ファイバー端面、210 受光側七芯バンドル光ファイバー、90 六角錐台型プリズムの頂上平面、91〜96 六角錐台型プリズムのウェッヂ面、97 六角錐台の底部平面、31 コア、32 クラッド、33 接着剤、34 フェルール、27 制御光、52 コリメートレンズ、55 ダイクロマティックミラー、110 信号光光源、111 制御光光源、220 直進信号光受光ファイバー、221 光路変更信号光受光ファイバー、81 熱レンズ形成光素子での収束(集光)点近辺での制御光の光強度分布、82 熱レンズ形成光素子での収束(集光)点から離れたところでの制御光の光強度分布、83 熱レンズ形成光素子での制御光の収束(集光)点、84 熱レンズ形成光素子での見かけ上の信号光の収束(集光)点、85 熱レンズ形成光素子での制御光が照射されない場合の信号光の収束(集光)点、86 熱レンズ形成光素子での制御光が照射された場合の信号光の収束(集光)点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の波長の信号光を照射する信号光光源と、
前記信号光とは異なる特定波長の制御光を照射する2つ以上の制御光光源と、
前記信号光は透過し、前記制御光を選択的に吸収する光吸収層を含む熱レンズ形成光素子と、
前記光吸収層に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて、前記光吸収層内にて収束させて入射させる集光手段と、を有し、
前記熱レンズ形成光素子は、前記制御光と前記信号光が、光の進行方向で前記光吸収層内において収束したのち拡散することによって、前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し過渡的に熱レンズが形成され、該熱レンズにより、前記光吸収層内に屈折率分布が生じ、前記信号光の進行方向を変え、光路切替を行い、
更に、第1の受光手段と第2の受光手段を設け、前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光とを、同一の前記第1の受光手段と前記第2の受光手段によりそれぞれ収束または集光し、
前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光とを分光したまま屈折させて通過させるくさび型プリズムを前記第1の受光手段と前記第2の受光手段の間に設けたことを特徴とする光路切替装置であって、更に、
(1)前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面は重力の方向に対して垂直に設置され、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向は重力の向きと同一である、
(2)前記集光手段は、前記光吸収層の入射面に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて集光させ、縮小投影光学系を構成している、
(3)前記くさび型プリズムは、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対応してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(4)前記くさび型プリズムは、更に、光路切替された前記信号光の光軸が前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった前記直進信号光の光軸に対して近づく方向に屈折するように、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(5)前記熱レンズ形成光素子は、前記くさび型プリズムを配置しなかった場合に、進行方向が変わらなかった前記直進信号光と光路切替された前記信号光とが、前記第1の受光手段および前記第2受光手段により同一の位置に収束または集光される位置に配置されている、
の上記(1)から(5)からなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする光路切替装置。
【請求項2】
前記信号光および制御光は、前記熱レンズ形成光素子の入射面の上方から入射されることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の光路切替装置。
【請求項3】
更に、第2の受光手段により収束または集光された進行方向が変わらなかった前記直進信号光と光路切替された前記信号光が、それぞれ入射可能な端面近接多芯バンドル光ファイバーを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光路切替装置。
【請求項4】
更に、前記信号光光源と非結束末端で接続された中心光ファイバーと、
前記信号光とは異なる波長の制御光を照射する2つないし6つの前記制御光光源各々に6本の周辺光ファイバーの非結束末端が接続された端面近接七芯バンドル光ファイバーと、を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光路切替装置。
【請求項5】
前記くさび形プリズムは、六角錐台型プリズムであり、
前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった前記直進信号光が六角錐台型プリズムの頂上平面を垂直に通過し、光路切替された前記信号光が六角錐台型プリズムの6つのウェッヂ面のいずれかを通過し、それぞれ、六角錐台型プリズムから出射することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光路切替装置。
【請求項6】
第1の受光手段と第2の受光手段が焦点距離1.0mmないし3.0mmの球面あるいは非球面凸レンズであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光路切替装置。
【請求項7】
1つ以上の信号光光源からの、1種類以上の波長の信号光を各々の光軸を揃えて出射させ、
2つ以上の制御光光源からの、前記信号光とは異なる特定波長の制御光を各々出射させ、
前記信号光は透過し、前記制御光を選択的に吸収する光吸収層を含む熱レンズ形成光素子に、前記信号光と前記制御光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて、前記光吸収層内にて収束するよう集光して照射し、
前記信号光は前記熱レンズ形成光素子を透過させ、
前記制御光は前記熱レンズ形成光素子内の前記光吸収層にて光吸収させて前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇にともなう熱レンズを過渡的に形成させて前記熱レンズ形成光素子内の前記光吸収層内に屈折率分布を生じさせ、前記信号光の進行方向を変えて光路切替させ、
前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光をそれぞれ、同一光学手段からなる第1の受光手段および第2受光手段により収束または集光させ、
前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった直進信号光と、前記制御光が照射され光路切替された信号光とを、第1の受光手段と第2受光手段との間に設けたくさび型プリズムにより分光したまま屈折させて通過させること、を特徴とする光信号の光路切替方法であって、更に、
(6)前記熱レンズ形成光素子の前記信号光入射面を重力の方向に対して垂直に設置し、かつ、前記熱レンズ形成光素子に入射する前記信号光および前記制御光の進行方向は重力の向きと同一にする、
(7)前記光吸収層内にて集光させる場合、前記光吸収層の入射面に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を光軸に対して垂直方向で異ならせて集光させ、縮小投影させる、
(8)前記くさび型プリズムは、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対応してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(9)前記くさび型プリズムは、更に、光路切替された前記信号光の光軸が前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった前記直進信号光の光軸に対して近づく方向に屈折するように、光路切替された前記信号光のそれぞれの通過位置に対してウェッヂ面が1つ以上設けられている、
(10)前記熱レンズ形成光素子は、前記くさび型プリズムを配置しなかった場合に、進行方向が変わらなかった前記直進信号光と光路切替された前記信号光とが、同一の位置に収束または集光される位置に配置されている、
の上記(6)から(10)からなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする光信号の光路切替方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−215381(P2011−215381A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83747(P2010−83747)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(503184234)株式会社インターエナジー (20)
【出願人】(504243718)株式会社トリマティス (24)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】