説明

光輝性塗膜形成方法および塗装物

【課題】 光輝性ベース塗膜表面からの光輝性顔料の突出を抑制し、チカチカ感を発現せずに良好な塗膜外観が得られる光輝性塗膜形成方法及びその塗装物を提供する。
【解決手段】 下記工程を順次経て、光輝性塗膜を形成する光輝性塗膜形成方法、(a)光輝性顔料10および(b)ビヒクル20を含有し、かつ、ビニル変性ポリエステル樹脂をビヒクル20中に含有する光輝性水性塗料組成物を、被塗基材に塗布して未乾燥状態の光輝性ベース塗膜40を形成する工程、未乾燥状態の光輝性ベース塗膜40を、予備乾燥して半乾燥状態の光輝性ベース塗膜40を形成する工程、半乾燥状態の光輝性ベース塗膜40上に、トップクリヤー塗料を塗布して未乾燥状態のトップクリヤー塗膜50を形成する工程、半乾燥状態の光輝性ベース塗膜40および未乾燥状態のトップクリヤー塗膜50を一度に焼付乾燥する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や家電製品などに好適に用いられ、優れた外観を与える光輝性塗膜形成方法および塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高彩度系光輝性塗色水性ベースコートには、通常、アルミニウムフレーク顔料やマイカフレーク顔料などの光輝性顔料が配合されている。これらの光輝性顔料は、メタリック調を発現するため、自動車や家電製品などの高い意匠性が求められる分野において、好適に用いられている。しかしながら、この光輝性顔料110を塗料中に多量に配合した場合には、光輝性顔料110の配向の乱れや重なり合いによって、乾燥後の光輝性ベース塗膜140表面から光輝性顔料110が突出する傾向があった(図4参照)。
【0003】
この光輝性ベース塗膜表面から突出した光輝性顔料は、トップクリヤー塗膜150を形成した後であっても、チカチカした異物感(以下、「チカチカ感」と言う。)を有する塗膜外観を与え、塗装物の経済的価値を大幅に減少させていた。従って、光輝性顔料をより多く含有するほど光輝性塗膜の光輝感が高まることが知られているものの、チカチカ感を生じさせることなく、およそ15質量%超の光輝性顔料を含有する光輝性塗膜を得ることは、実用的には不可能であった。
【0004】
これに関して、チカチカ感を解消する手段として、化学気層蒸着法により形成された金属酸化物層により被覆された特殊な着色アルミニウムフレーク顔料を使用する技術が特許文献1に開示されている。また、異なる反応性を有する複数種類の架橋剤を配合し、塗料の溶融粘性を制御する技術が特許文献2に開示されている。同様に、低分子量の塗膜形成用樹脂と複数種類の硬化剤とを組み合わせて使用する技術が特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開平11−116861号公報
【特許文献2】特開平2−242867号公報
【特許文献3】特開2003−277678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法の適用範囲は、特殊な着色アルミニウムフレーク顔料を使用する場合に限定されている。また、特許文献2の方法では、塗料組成物毎に、最適配合を見出す必要があり、実用的ではない。さらには、特許文献3の方法は、光輝性ベース塗膜に関する方法ではなく、クリヤー塗膜形成方法に関するものである。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、光輝性ベース塗膜表面からの光輝性顔料の突出を抑制し、チカチカ感を発現せずに良好な塗膜外観が得られる光輝性塗膜形成方法およびその塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、光輝性ベース塗膜表面からの光輝性顔料の突出は、光輝性ベース塗膜の焼付乾燥初期における溶融粘度の急上昇が原因であることを突き止め、焼付乾燥初期における光輝性ベース塗膜の溶融粘度の急上昇を抑制することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 下記工程(1)から(4)を順次経て、被塗基材に光輝性塗膜を形成する光輝性塗膜形成方法、工程(1):(a)光輝性顔料および(b)ビヒクルを塗料固形分中(a)/(b)=5/95以上30/70以下の質量比率で70質量%以上95質量%以下含有し、かつ、酸価20以上100以下および水酸基価20以上150以下を有するビニル変性ポリエステル樹脂を前記ビヒクル固形分中に5質量%以上50質量%以下含有する光輝性水性塗料組成物を、前記被塗基材に塗布して未乾燥状態の光輝性ベース塗膜を形成する工程、工程(2):前記工程(1)で形成した未乾燥状態の光輝性ベース塗膜を、60℃以上80℃以下で2分間以上15分間以下予備乾燥して半乾燥状態の光輝性ベース塗膜を形成する工程、工程(3):前記工程(2)で形成した半乾燥状態の光輝性ベース塗膜上に、トップクリヤー塗料を塗布して未乾燥状態のトップクリヤー塗膜を形成する工程、工程(4):前記工程(2)で形成した半乾燥状態の光輝性ベース塗膜および前記工程(3)で形成した未乾燥状態のトップクリヤー塗膜を一度に焼付乾燥する工程。
【0009】
(2) 前記ビニル変性ポリエステル樹脂を、ビニル重合体部分が結合した脂肪酸鎖を有する樹脂とし、前記ビニル重合体部分の含有量を、前記ビニル変性ポリエステル樹脂固形分中15質量%以上45質量%以下とし、前記ビニル重合体部分の10質量%以上50質量%以下を、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位とする(1)記載の光輝性塗膜形成方法。
【0010】
(3) 前記光輝性顔料を、アルミニウムフレーク顔料およびマイカフレーク顔料のうち少なくとも一方を含有する光輝性顔料とする(1)または(2)記載の光輝性塗膜形成方法。
【0011】
(4) (1)から(3)いずれか記載の光輝性塗膜形成方法により得られる塗装物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、チカチカ感を発現せずに良好な塗膜外観が得られる光輝性塗膜形成方法およびその塗装物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
本発明の光輝性塗膜形成方法は、下記の工程(1)から工程(4)を順次経ることにより、塗膜外観の良好な光輝性塗膜を被塗基材上に形成する光輝性塗膜形成方法である。以下、工程(1)から工程(4)について、各工程に分けて説明する。
【0015】
〔工程(1)〕
本発明の光輝性塗膜形成方法における工程(1)は、(a)光輝性顔料および(b)ビヒクルを塗料固形分中(a)/(b)=5/95以上30/70以下の質量比率で70質量%以上95質量%以下含有し、かつ、酸価20以上100以下および水酸基価20以上150以下を有するビニル変性ポリエステル樹脂を前記ビヒクル固形分中に5質量%以上50質量%以下含有する光輝性水性塗料組成物を、前記被塗基材に塗布して未乾燥状態の光輝性ベース塗膜を形成する工程である。
【0016】
[被塗基材]
本発明の光輝性塗膜形成方法で用いる被塗基材としては、特に限定されるものでなく、鉄、アルミニウム、銅またはこれらの合金などの金属類;ガラス、セメント、コンクリートなどの無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂類や各種のFRPなどのプラスチック材料;木材、繊維材料(紙、布など)などの天然または合成材料などが挙げられる。
【0017】
導電性基材を被塗基材として用いる場合には、予め化成処理や電着塗装などによる下塗り塗装を施したものや、下塗り塗装および中塗り塗装を施したものであることが好ましい。また、非導電性基材を被塗基材として用いる場合には、予め化成処理を施したものや、必要により導電処理を行った後にプライマー塗装を施したものであることが好ましい。
【0018】
下塗り塗装によって形成される下塗り塗膜は、基材との密着性、基材表面の隠蔽性、防食性、および、防錆性を付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗布した後、焼付乾燥することで得られる。下塗り塗膜の膜厚は、例えば、8μm以上30μm以下である。下塗り塗料としては特に限定されず、例えば、カチオン電着塗料やアニオン電着塗料などを挙げることができる。これらは電着塗装された後、用いた塗料の種類に応じて焼付乾燥される。
【0019】
また、中塗り塗装によって形成される中塗り塗膜は、基材表面や下塗り塗膜との密着性、隠蔽性、耐チッピング性を付与する目的で、基材上または下塗り塗膜上に中塗り塗料を塗布することにより形成される。中塗り塗膜の膜厚は、例えば、10μm以上50μm以下である。中塗り塗料としては特に限定されず、例えば、水酸基含有ポリエステル樹脂および/または水酸基含有アクリル樹脂と、メラミン樹脂および/またはブロック化ポリイソシアネートとを配合した塗料などが挙げられる。これらは、用いる塗料の形態に応じて、塗布された後、常温乾燥または焼付乾燥によって乾燥、硬化される。
【0020】
[光輝性水性塗料組成物]
<光輝性顔料>
光輝性顔料としては、アルミニウムフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、グラファイト顔料、マイカフレーク顔料、着色マイカ顔料、金属チタンフレーク顔料、ステンレスフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、金属めっきガラスフレーク顔料、金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料からなる群より選ばれた少なくとも一種以上を用いることができる。本発明では、アルミニウムフレーク顔料およびマイカフレーク顔料のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0021】
アルミニウムフレーク顔料は、塗料中に配合することによって、塗膜の隠蔽性およびメタリック感を得ることができるものである。具体例としては、アルミニウムフレークをステアリン酸などの脂肪酸とともにボールミルで粉砕処理する通常の方法によって調製されたリーフィング、セミリーフィング、または、ノンリーフィング系のアルミニウムフレークを挙げることができる。
【0022】
マイカフレーク顔料は、塗料中に配合することによって、パール調の干渉色調を得ることができるものである。具体的には、天然の雲母や合成雲母の表面に二酸化チタン、酸化鉄、クロム、コバルト、錫、ジルコニウムなどの金属酸化物の薄膜をコーティングして干渉色効果を付与したパールマイカフレーク顔料が好ましく用いられる。マイカフレーク顔料は、粒径範囲が0.5μm以上60μm以下、より好ましくは0.5μm以上40μm以下で、平均粒径が5μm以上25μm以下の範囲の鱗片状であることが好ましい。
【0023】
<ビヒクル>
ビヒクルを構成する塗膜形成用樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテル樹脂などが挙げられ、特に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。また、必要に応じて架橋剤としてアミノ樹脂、ブロックポリイソシアネート、ポリカルボジイミド化合物を配合することができる。
【0024】
アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピルなどのエステル化物、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジブチルメタクリルアミドなどのアミド基含有アクリルモノマー、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。また、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0025】
ポリエステル樹脂としては、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを縮合してなるオイルフリーポリエステル樹脂の他、多価アルコール成分および多塩基酸成分に、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、桐油、サフラワー油、大豆油、アマニ油、トール油、ヤシ油など、および、それらの脂肪酸のうち少なくとも1種以上の混合物である油成分を添加して反応させることにより得られる油変性ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0026】
また、架橋剤としては、アミノ樹脂、ブロックポリイソシアネート、ポリカルボジイミド化合物などを用いることができるが、好ましくはアミノ樹脂が用いられ、具体的にはジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−メチロールメラミン、および、それらのアルキルエーテル化物(アルキルはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルなど)、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−メラミン共縮合物などが挙げられる。これらのうち、より好ましく用いられるのはメラミン樹脂である。
【0027】
ブロックポリイソシアネートは、ブロック剤でブロックされたポリイソシアネートであり、昇温することによりブロック剤が解離し、アクリル樹脂やポリエステル樹脂と架橋反応するものである。具体例としては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどの脂肪族−芳香族イソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネートのダイマーまたはトリマー、などのトリまたはそれ以上のポリイソシアネートが挙げられる。ブロック剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコールなどのアルコール、ジエタノールアミンなどの第3級アミン、カプロラクタムなどのラクタム、メチルエチルケトオキシムなどのオキシムが挙げられる。
【0028】
ポリカルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を少なくとも2個以上有する化合物である。具体的には、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(P−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,4−テトラメチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1−メチル−3,5−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などが挙げられる。
【0029】
塗膜形成用樹脂と架橋剤との配合割合は、塗膜形成用樹脂が50質量%以上90質量%以下、架橋剤が10質量%以上50質量%以下である。より好ましくは、塗膜形成用樹脂が60質量%以上85質量%以下であり、架橋剤が15質量%以上40質量%以下である。架橋剤が10質量%未満では(塗膜形成用樹脂が90質量%を超えると)、塗膜中の架橋密度が十分でない。一方、架橋剤が50質量%を超えると(塗膜形成用樹脂が50質量%未満では)、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに架橋反応速度が大きくなるため、塗膜外観が悪化する。
【0030】
(a)光輝性顔料と(b)ビヒクルは、塗料固形分中(a)/(b)=5/95以上30/70以下の質量比率で含有されており、より好ましくは、10/90以上15/85以下である。また、(a)光輝性顔料と(b)ビヒクルとの合計含有量は、70質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは、80質量%以上90質量%以下である。
【0031】
本発明で用いられるビヒクルは、所定の酸価および水酸基価を有するビニル変性ポリエステル樹脂をビヒクル固形分中に5質量%以上50質量%以下含有するものである。より好ましくは、ビニル変性ポリエステル樹脂を5質量%以上20質量%以下含有するものである。
【0032】
本発明で用いられるビニル変性ポリエステル樹脂は、酸価20以上100以下および水酸基価20以上150以下を有し、ビニル重合体部分が結合した脂肪酸鎖を有するものであって、ビニル変性ポリエステル樹脂固形分中の15質量%以上45質量%以下が前記ビニル重合体部分であり、前記ビニル重合体部分の10質量%以上50質量%以下がカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位であるポリエステル樹脂である。
【0033】
本発明で用いられるビニル変性ポリエステル樹脂は、酸価が20以上100以下であることが好ましく、20以上50以下であることがより好ましい。酸価が上記範囲内であれば、ビニル変性ポリエステル樹脂を水中に十分に分散または溶解させることができ、得られる塗膜の耐水性、耐久性もまた良好なものとなる。
【0034】
また、本発明で用いられるビニル変性ポリエステル樹脂は、水酸基価が20以上150以下であることが好ましく、40以上150以下であることがより好ましい。水酸基価が上記範囲内であれば、耐水性、耐久性、および、架橋反応性に優れた塗膜を得ることができる。
【0035】
本発明で用いられるビニル変性ポリエステル樹脂は、前記ビニル重合体部分の配合量が、ビニル変性ポリエステル樹脂固形分中に15質量%以上45質量%以下となるように調製されたものであることが好ましい。
【0036】
なお、本発明で用いられるビニル変性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、10,000以上150,000以下の範囲内であることが好ましく、30,000以上100,000以下の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
<その他の成分>
上記光輝性水性塗料組成物は、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子などの表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)などを適宜添加して含有することができる。
【0038】
また、その他の顔料として、有機系としてはアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などを添加することができ、無機系としては黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどを添加することができる。また、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカなどの各種体質顔料などを併用することができる。
【0039】
光輝性ベース塗膜の乾燥膜厚は、7μm以上20μm以下が好ましく、より好ましくは、12μm以上18μm以下である。
【0040】
〔工程(2)〕
本発明の光輝性塗膜形成方法における工程(2)は、前記工程(1)で形成した未乾燥状態の光輝性ベース塗膜を、60℃以上80℃以下で2分間以上15分間以下予備乾燥して半乾燥状態の光輝性ベース塗膜を形成する工程である。
【0041】
本発明で用いられる光輝性ベース塗膜の焼付乾燥時における溶融粘度と時間との関係を図1に示す。また、従来の光輝性ベース塗膜の焼付乾燥時における溶融粘度と時間との関係を図2に示す。図1および図2から明らかであるように、従来の塗膜形成方法では、時間の経過により溶融粘度が急上昇するのに対して、本発明の塗膜形成方法では、初期段階において溶融粘度の上昇が一旦緩やかになり、焼付乾燥初期における溶融粘度の急上昇が抑制されている。
【0042】
従って、図4に示すように、従来の塗膜形成方法では、光輝性顔料110の一部が光輝性ベース塗膜140表面から突出した状態で焼付乾燥が行われ、トップクリヤー塗膜150で被覆した後であってもチカチカ感が解消されない。これに対して、本発明では、塗膜の焼付乾燥初期において、光輝性ベース塗膜の溶融粘度の上昇が一旦緩やかになり、この間に光輝性顔料の多くが塗膜中に沈降する傾向があるため問題が生じない。即ち、図3に示すように、光輝性ベース塗膜40表面から光輝性顔料10の一部の突出がほぼ解消されるため、チカチカ感を発現せず、良好な塗膜外観が得られる。
【0043】
〔工程(3)〕
本発明の光輝性塗膜形成方法における工程(3)は、前記工程(2)で形成した半乾燥状態の光輝性ベース塗膜上に、トップクリヤー塗料を塗布して未乾燥状態のトップクリヤー塗膜を形成する工程である。
【0044】
工程(3)では、工程(2)で得られた半乾燥状態の光輝性ベース塗膜上にトップクリヤー塗膜を形成する。このトップクリヤー塗膜は、下地層を隠蔽せず、無色透明なクリヤー塗膜である。また、半透明感を付与した、いわゆるカラークリヤー塗膜であってもよい。
【0045】
<トップクリヤー塗料>
トップクリヤー塗膜を形成するトップクリヤー塗料としては、上塗り用として常用されているものを用いることができる。例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、および、これらの変性樹脂から選ばれた少なくとも一種の架橋反応性樹脂と上記の架橋剤とを混合したものを用いることができる。
【0046】
これらのトップクリヤー塗料は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で、着色顔料、体質顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤などの添加剤を配合することが可能である。特公平8−19315号公報に記載されたカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するクリヤー塗料が、酸性雨対策という観点から好ましく用いられる。また、トップクリヤー塗料は、溶剤型、水性、または、粉体型などの種々の形態を採用できる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよく、二液型ウレタン樹脂塗料などのような二液型塗料を用いてもよい。
【0047】
トップクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、10μm以上60μm以下が好ましい。この範囲を外れると、塗膜外観、塗装作業性において不具合が生じるおそれがある。より好ましくは、20μm以上50μm以下である。
【0048】
〔工程(4)〕
本発明の光輝性塗膜形成方法における工程(4)は、工程(2)によって得られた半乾燥状態の光輝性ベース塗膜、および、工程(3)によって得られた未乾燥状態のトップクリヤー塗膜を一度に焼付乾燥させる工程である。
【0049】
工程(4)では、一般的な焼付乾燥炉などの乾燥設備が利用でき、所定温度・所定時間で焼付乾燥・硬化させることにより、上記被塗基材表面に複層からなる光輝性塗膜を得ることができる。上記所定温度および所定時間は、光輝性ベース塗膜やトップクリヤー塗膜の種類に応じて適宜設定される。
【0050】
[塗装物]
本発明の塗装物は、上記の光輝性塗膜形成方法により塗装されたものであって、上記工程(1)から工程(4)を順次経ることにより、被塗基材上に光輝性ベース塗膜およびトップクリヤー塗膜が形成されたものである。より詳しくは、光輝性ベース塗膜表面から光輝性顔料の一部の突出がほぼ解消されるため、チカチカ感を発現しない塗膜外観の良好な塗装物である。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、配合量は、特に断りのない限り質量部を表し、原材料、塗料、機器の名称は、特に断りのない限り商品名を表す。また、乾燥膜厚は、特に断りのない限り焼付乾燥後の平均膜厚を表す。
【0052】
[被塗基材の調整]
ダル鋼板(長さ300mm、幅100mm、厚さ0.8mm)を燐酸亜鉛処理剤(商品名:「サーフダインSD2000」、日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(商品名:「パワートップV−50」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるようにカチオン電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼付乾燥した後、中塗り塗料(商品名:「オルガP−5シーラー」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装した後、140℃で30分間焼付乾燥して中塗り塗膜を形成し、被塗基材とした。
【0053】
本発明の実施例および比較例の光輝性ベース塗料は、下記の材料を用いて製造した。
【0054】
[塗膜形成用樹脂]
1A:水性アクリル樹脂エマルション(商品名:「VIACRYL VSC6273W/44WA」、クラリアントジャパン社製、固形分44質量%)
1B:ビニル変性ポリエステル樹脂水分散液(ビニル樹脂/ポリエステル樹脂=40/60(固形分換算)、ビニル樹脂中のカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー由来構成単位20質量%、重量平均分子量63,000、固形分40質量%、酸価55、水酸基価22)
1C:下記で得られたカルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂(固形分50質量%、酸価40、水酸基価110)
【0055】
〔塗膜形成用樹脂1Cの製造例〕
カルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂1Cは、特開2003−105257に例示されるような公知技術を用いて製造した。反応器にイソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε−カプロラクトン17.5部、ジブチルスズオキサイド0.1部を加え、混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後3時間かけ220℃まで昇温しつつ、酸価8となるまで縮合反応により生成する水を除去した。次いで、無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させ、酸価が40のポリエステル樹脂を得た。さらに、100℃まで冷却後ブチルセロソルブ11.2部を加え均一になるまで撹拌し、60℃まで冷却後、イオン交換水98.8部、ジメチルエタノールアミン5.9部を加え、固形分50重量%、酸価40、水酸基価110、数平均分子量2870、ガラス転移温度−3℃のカルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂1Cを得た。
【0056】
[架橋剤]
1D:メラミン樹脂(商品名:「サイメル325」、三井化学アクアポリマー社製、固形分80質量%)
【0057】
[光輝性顔料]
2A:アルミニウムフレーク顔料(商品名:「アルペースト91−0562」、東洋アルミニウム社製)
2B:マイカフレーク顔料(商品名:「Xirallic T60−23WIII」、メルクジャパン社製)
【0058】
[添加剤]
粘性調整剤(商品名:「ビスカレックスHV−30」、チバスペシャリティケミカルズ社製)/消泡剤(商品名:「BYK−022]、ビックケミー・ジャパン社製)/造膜助剤=1.5/0.5/5(固形分比)の比率で混合し、製造した。
【0059】
<実施例1〜5>
[光輝性水性塗料組成物の調整]
塗膜形成用樹脂1A、1B、架橋剤1D、光輝性顔料2Aまたは2B、および、添加剤を表1に示す配合(固形分換算)により、公知の塗料調製方法に従い、光輝性ベース塗料組成物(塗料3A〜3E)を調製した。
【0060】
[光輝性ベース塗膜の形成:工程(1)、工程(2)]
次いで被塗基材の被塗面に、乾燥膜厚が15μmとなるように、光輝性水性塗料組成物(塗料3A〜3E)を塗布して光輝性ベース塗膜を形成した。塗膜形成はベル型静電塗装機(「G1コーペス」、ABBインダストリー社製)を用いて、回転数30,000rpm、シェーピングエアー500NL/分、印加電圧−60KV、吐出量150ccおよび被塗物距離250mmの条件で行った。光輝性ベース塗膜を3分間のセッティング後、80℃で3分間プレヒートして半乾燥状態とし、更に、室温まで冷却した。
【0061】
[トップクリヤー塗膜の形成:工程(3)]
次いで、光輝性ベース塗膜上に、カルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーのブレンドからなる溶剤型クリヤー塗料(商品名:「マックフローO−330クリヤー」、日本ペイント社製)を、回転霧化型静電塗装機(「マイクロマイクロベル」、ABBインダストリー社製)を用いて、回転数35,000rpmおよび吐出量200ccの条件で、乾燥膜厚が35μmになるように塗布しトップクリヤー塗膜を形成した。
【0062】
[光輝性ベース塗膜およびトップクリヤー塗膜の同時焼き付け乾燥:工程(4)]
前記トップクリヤー塗膜を室温で7分間セッティングした後、半乾燥状態にある下層の光輝性ベース塗膜と共に、140℃で30分間焼き付け乾燥し、実施例1〜5の光輝性塗膜を得た。
【0063】
<比較例1、2>
実施例の光輝性水性塗料組成物の、塗膜形成用樹脂1Aの配合量を増やし、塗膜形成用樹脂1Bを無添加とした以外は実施例と同様の方法により製造した。
【0064】
<比較例3>
実施例の光輝性水性塗料組成物の、塗膜形成用樹脂1Bを無添加とし、塗膜形成用樹脂1Cを添加した以外は実施例と同様の方法により製造した。
【0065】
[評価方法]
得られた複層塗膜の仕上り外観を下記評価方法で評価し、結果を表1に示した。
仕上り外観:塗膜外観の良否を示すチカチカ感を目視評価した。チカチカ感がない方が良好となる。
3・・・チカチカ感が無く、良好。
2・・・チカチカ感がわずかに認められる。
1・・・チカチカ感があり、不良。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果から明らかのように、本実施例は、本発明の塗膜形成方法で得た塗装物であり、チカチカ感の発生がなく塗膜の仕上り外観が良好であった。一方、比較例では、チカチカ感が発生し、仕上り外観が十分ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の塗膜形成方法による溶融粘度と時間の関係を示す図である。
【図2】従来の塗膜形成方法による溶融粘度と時間の関係を示す図である。
【図3】本発明の光輝性塗膜の断面図を示す
【図4】従来の塗膜形成方法による光輝性塗膜の断面図を示す。
【符号の説明】
【0069】
10、110 光輝性顔料
20、120 ビヒクル
30、130 トップクリヤー塗料
40、140 光輝性ベース塗膜
50、150 トップクリヤー塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)から(4)を順次経て、被塗基材に光輝性塗膜を形成する光輝性塗膜形成方法、
工程(1):(a)光輝性顔料および(b)ビヒクルを塗料固形分中(a)/(b)=5/95以上30/70以下の質量比率で70質量%以上95質量%以下含有し、かつ、酸価20以上100以下および水酸基価20以上150以下を有するビニル変性ポリエステル樹脂を前記ビヒクル固形分中に5質量%以上50質量%以下含有する光輝性水性塗料組成物を、前記被塗基材に塗布して未乾燥状態の光輝性ベース塗膜を形成する工程、
工程(2):前記工程(1)で形成した未乾燥状態の光輝性ベース塗膜を、60℃以上80℃以下で2分間以上15分間以下予備乾燥して半乾燥状態の光輝性ベース塗膜を形成する工程、
工程(3):前記工程(2)で形成した半乾燥状態の光輝性ベース塗膜上に、トップクリヤー塗料を塗布して未乾燥状態のトップクリヤー塗膜を形成する工程、
工程(4):前記工程(2)で形成した半乾燥状態の光輝性ベース塗膜および前記工程(3)で形成した未乾燥状態のトップクリヤー塗膜を一度に焼付乾燥する工程。
【請求項2】
前記ビニル変性ポリエステル樹脂を、ビニル重合体部分が結合した脂肪酸鎖を有する樹脂とし、
前記ビニル重合体部分の含有量を、前記ビニル変性ポリエステル樹脂固形分中15質量%以上45質量%以下とし、
前記ビニル重合体部分の10質量%以上50質量%以下を、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位とする請求項1記載の光輝性塗膜形成方法。
【請求項3】
前記光輝性顔料を、アルミニウムフレーク顔料およびマイカフレーク顔料のうち少なくとも一方を含有する光輝性顔料とする請求項1または2記載の光輝性塗膜形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の光輝性塗膜形成方法により得られる塗装物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−239550(P2006−239550A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57849(P2005−57849)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】