説明

光通信システム

【課題】LEDランプの輝度を下げることなく光通信が行え、かつ信号機に対する死角を生じ難くした光通信システムを提供する。
【解決手段】LED信号機2の赤,黄,青の各色のランプ2a,2b,2cは、信号機制御盤3と送信装置10により点灯制御される。送信装置10は、送信データDsを符号化した符号化信号Scにより点灯中のLEDランプを駆動する。LED信号機2に向かって走行する車両には、複数のLED信号機2を撮影するカメラ21、撮影画像をRGBからHVC表色系に変換する処理、信号色フィルタ処理及び円形状認識処理を行う画像処理部22、円形状認識の処理結果に基づいて点滅部分から光信号を取り出して復号化する復号化部24を備えた受信装置20が搭載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路を走行する車両が、交差点の信号機等に設置された送信設備から交通信号機の表示状態や渋滞等の道路交通情報を光通信により取得するための光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
交差点等に設置された交通信号機は、高輝度の青色発光ダイオード(青色LED)が開発されたことから、赤、黄、青のランプを従来の白熱ランプからLEDランプに代替されつつある。また、LEDは、高速応答が可能であることから、従来より、光通信に用いられている。そこで、交通信号機のLEDランプを交通情報等のための光通信の発光源に兼用することが考えられている。
【0003】
例えば、交通管制に従って点灯が制御されている信号機に対し、赤、黄、青のLEDランプが点灯する毎に、その点灯中のLEDランプを光変調して点滅させ、その変調光を信号機方向に走行している車両で受光して復調することにより道路交通情報が得られるようにした光空間通信装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−214396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の通信装置は、光変調の際のLEDランプの点滅が、50%以下のデューティ比になった場合、信号機としての輝度が低下し、車両の運転者には暗く見えるようになる。また、従来の光通信装置は、送信側と受信側がともに光の指向性があり、通信可能範囲が限られていた。
【0005】
従って、本発明の目的は、LEDランプの輝度を下げることなく光通信が行え、かつ通信可能範囲が広い光通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、交通信号機の赤、黄及び青のLEDランプをオン/オフしてデータを送信する送信装置と、車両に搭載され、前記赤、黄及び青のLEDランプの点滅を含んだ車両前方を撮影して画像信号を出力する撮影装置と、前記画像信号に基づいて前記データを生成する受信装置と、を有することを特徴とする光通信システムを提供する。
【0007】
このような構成によれば、交通信号機のLEDランプは、交通信号を行うための本来の3色順番の点灯とともに送信データにより点滅され、この交通信号機が路上を走行する車両に搭載の受信装置で映像化されることにより、映像内のいずれかのLEDランプの点滅状態から光信号を取り出して受信データが生成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光通信システムによれば、撮影した画像内に存在する複数の信号機の画像から受信データを生成することにより、信号機が撮影装置に映る範囲全てを通信可能範囲にすることができる。また、信号機として必要なLEDランプの輝度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(光通信システムの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る光通信システムを示す。この光通信システム1は、LEDランプ方式による交通信号機(以下、「LED信号機」という)2と、LED信号機2の3つのランプの点灯時間、点灯順序等を制御する信号機制御盤3と、LED信号機2または近傍に設置された送信装置10と、公道を走行する車両に搭載された受信装置20とを備えている。
【0010】
LED信号機2は、赤色LEDによる赤ランプ2a(例えば、発光波長630nm)、黄色LEDによる黄ランプ2b(例えば、発光波長592nm)及び青色LEDによる青ランプ2c(例えば、発光波長503nm)を備えている。各ランプは、多数のLED素子を規則的に配設して、全体が1つの丸いランプになる様に構成されている。なお、黄ランプ2bは、橙色LEDを用いた構成であってもよい。
【0011】
信号機制御盤3は、交通管制センター等から送られてくるデータに基づいて青ランプ2c→黄ランプ2b→赤ランプ2a→青ランプ2c、・・・の順にランプ2a〜2cを点灯させる制御回路(図示せず)を備えている。
【0012】
送信装置10は、復号化同期信号Sfに基づいて送信データDsを符号化する符号化部11と、LED信号機2の赤ランプ2a、黄ランプ2b及び青ランプ2cの点灯を制御する信号機制御盤3と、赤ランプ2aを駆動するLEDドライバ12と、黄ランプ2bを駆動するLEDドライバ13と、青ランプ2cを駆動するLEDドライバ14と、符号化部11及び信号機制御盤3の出力信号に基づいてLEDドライバ12〜14を制御する信号点灯制御部15とを備えて構成されている。
【0013】
受信装置20は、車両前方のLED信号機2及びその周囲が視野になるように設定された撮影装置としてのカメラ21と、カメラ21から出力されるRGBによる映像信号Siを画像処理する画像処理部22と、画像処理部22による信号に基づいて復号のための復号化同期信号Sfを生成する復号同期部23と、読み取りデータDr及び復号化同期信号Sfに基づいて受信信号Srを生成する復号化部24と、読み取りデータDr及び復号化同期信号Sfに基づいて復号化信号Sdc、即ち、復号化信号Sdcを生成する受信データ処理部25と、受信データ処理部25からの復号化信号Sdcに基づいて表示信号を生成する表示制御部26と、表示制御部26の表示制御によって交通情報等が表示される液晶ディスプレイ等によるディスプレイ27とを備えて構成されている。
【0014】
(光通信システムの動作)
図2は、受信装置で得られる画像を示し、同図中、(a)はカメラによる撮影画像、(b)は画像処理部で処理した後の処理画像の一例を示す。また、図3は、光通信システムの各部の動作を示す波形図である。図1〜図3を参照して、以下に光通信システム1の動作を説明する。
【0015】
送信装置10では、図3の(a),(b)に示す200Hzの符号化同期信号パルスPsと、200bpsの送信データDsを符号化部11に入力する。
【0016】
送信データDsは、信号の立ち下がりに基づいてスタートビットが生成され、このスタートビットに続いて送信信号が送出される。なお、通信速度は、カメラフレームレート÷2[bps]が上限になる。通常は、通信の信頼性を向上させるため、フレームレート÷6[bps]とする。
【0017】
また、送信データDsは、“1”レベルが続くのは最大2T(ただし、1T=3サンプル=3フレーム)であるため、“1”レベルが4T以上続き、その後に“0”レベルが検出されれば、それがスタートビットであると判断できる。送信データDsの速度を200bpsとし、信号の点灯情報などを40bitにして送信したとき、毎秒5回のデータ送信となる。
【0018】
符号化部11は、符号化同期信号パルスPsと送信データDsに基づいて、マンチェスタ符号(Manchester code)化した信号(符号化信号Sc)を図3の(c)のように生成し、信号点灯制御部15へ送出する。マンチェスタ符号化は、デューティ50%の符号化同期信号パルスPsを基本とし、送信データDsの前半が“H”レベルで後半が“L”レベルの場合をデータ“0”、前半が“L”レベルで後半が“H”レベルの場合をデータ“1”とする処理を符号化同期信号パルスPsに対応して行うものである。マンチェスタ符号化の内容は、ハードウェア的には復号化同期信号Sfと送信データDsの排他的論理和になるが、実際には、CPUとプログラムを用いたソフトウェアで処理される。
【0019】
一方、信号点灯制御部15は、通常の交通整理用のランプ制御信号Ssに符号化信号Scを重畳した駆動信号SdをLEDドライバ12〜14へ出力する。なお、駆動信号Sdは、LEDドライバ12〜14に順番に出力される。
【0020】
LEDドライバ12〜14は、信号点灯制御部15からの駆動信号Sdに基づいて、LED信号機2の赤ランプ2a、黄ランプ2b及び青ランプ2cを点灯する。このとき、駆動信号Sdにより駆動されているランプが符号化信号Scにより、光変調された駆動タイミングで点滅する。
【0021】
上記のように点灯しているLED信号機2は、LED信号機2に向かって走行して来る車両の受信装置20のカメラ21によって撮影され、図2の(a)のような画像内容のカラーによる映像信号Siが得られる。
【0022】
図2の(a)に示すように、撮影画像30には、道路31、道路31の両側に設置された複数のLED信号機2、道路31の両側に植えられている複数の樹木32、受信装置20を搭載した車両の前方を走行している車両33等が映されている。
【0023】
映像信号Siは、画像処理部22に入力され、画像処理部22によって、数値的処理によりRGB表色系からHVC(色相・明度・彩度)表色系に変換される。映像信号SiをHVC表色系に変換することで、画素の色相情報が得られる。
【0024】
LED信号機2の赤ランプ2a、黄ランプ2b及び青ランプ2cのそれぞれの発光波長は上記したように互いに異なっており、また、カメラ21の感度は波長毎に異なる。そのため、HVC表色系の色相値を使うことにより、カメラ21からの映像信号SiのRGBの輝度値を使ってランプ色を検出する場合に比べ、ランプ色毎の検出率の差を小さくすることができる。
【0025】
このように、ランプ色と色相との対応付けを行い、例えば、青のランプ色検出の閾値を算出し、この閾値に基づいてフィルタ処理をする。次に、図2の(b)のように、ランプ色の色相値が閾値内にある画素のみを残した2値画像(図2の(b)ではハッチングで示す樹木の葉の部分)を作成する。更に、赤ランプ2a、黄ランプ2bに対しても、青ランプ2cと同様に処理される。3色のそれぞれに対してフィルタ処理を施した3つの画像の論理和をとったものを処理画像40とする。
【0026】
次に、図2の(b)の処理画像40に対して、円形ハフ(Hough)変換等の形状認識アルゴリズムを用いて、ランプ色の円形状を検出する。処理画像40からLED信号機2を抽出するため、検出対象のLED信号機2は1つでも複数でも対応可能である。このとき、似たような色で円形状のもの、例えば、車両33のテールランプ33a等も検出対象とし、点滅の情報読み取りのターゲットとする。ターゲットが点滅していない場合、常にON状態であるとして検出する。
【0027】
処理画像40の次のフレームでは、前フレームで検出した読み取りターゲットの周辺を探索する。検索して円形状が見つからない場合は、消灯していると判断する。なお、読み取りターゲットは、LED信号機2でない物体やLED信号機2でない信号機の円形状部分も含め、映像から消えるまで追跡を続ける。また、ランプ色が変わるときに備えて、例えば、青色灯を検出中は隣の黄ランプ2bも同時に探索する。
【0028】
画像処理部22は、複数の読み取り対象のLED信号機2のオン/オフ状態を、復号同期部23、復号化部24に送出する。
【0029】
復号同期部23は、処理画像40から読み取ったデータに基づいて、各LED信号機2が送出する信号の復号タイミング、即ち、スタートビットを検出し、復号化部24に復号化同期信号Sfを印加する。復号化部24は、復号同期部23からの復号化同期信号Sfに基づいて、画像処理部22から送られた読み取りデータDrに対して復号化を実施する。
【0030】
受信装置20では、図3の(d)に示すカメラ21のシャッタタイミング(データ読み取りタイミングTdr)が1200fpsであるので、このタイミングで送信データDsが図3の(e)に示すように読み取られる。図3の(a),(d)に示すように、復号化同期信号Sfの1Tに対して、カメラ21のシャッタタイミングは6回生じる。
【0031】
受信信号Srは、図3の(f)に示すように、復号化同期信号Sfの立ち下がり時点からの3フレームの多数決により確定する。図3の(c),(e)に示すように、“1”が連続した後、最初の立ち下がり時点t0から最初の3フレーム中2フレームに“0”があったことをもって復号の開始時点を判定する。ついで、t0時点以後の復号化同期信号Sfの立ち下がり時点t1(t0より7番目の読み取りデータ“1”)から復号化を開始する。
【0032】
t1からの信号列は、2Tの中に「1,1,1,0,0,0」のパルスが発生するので、これを「1,0」とする。この組み合わせは、マンチェスタ符号化時に“1”としていたので、これを“1”として復調する。以後、同じ信号列が6T分続くので、図3の(g)に示すように、復号化信号Sdcは、「1,1,1」となる。
【0033】
t1から7T目のt2になると、2Tの中に「0,0,0,1,1,1」のパルスが発生するので、これを「0,1」とする。この組み合わせは、マンチェスタ符号化前は、データ“0”であったので、これを“0”として復号化する。以後、同様にして9T〜14Tの復調処理を実施し、図3の(g)に示すように、復号化信号Sdcとして「“0”、“1”、“1”」を得る。
【0034】
得られた復号化信号Sdcに対して、受信データ処理部25はデータの意味解釈を行った後、表示制御部26へ出力する。表示制御部26は、受信データ処理部25からの受信信号Srに基づいた表示内容(文字、地図等)をディスプレイ27に表示する。
【0035】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、下記の効果を奏する。
(イ)LED信号機2からマンチェスタ符号化を施した符号化信号Scをランプ2a〜2cから光信号にして送信することで、発光デューティ比が一定の50%になり、LED信号機2のランプの輝度を一定にすることができる。
(ロ)カメラ21及び画像処理部22を受信側センサとして使うことで、画像内の全てのLED信号機2を読み取り対象とすることが可能になり、LED信号機2の1つが画像内から消えた場合でも、更に先方にある他のLED信号機2からの情報を受信して受信情報の欠損を補完することができる。これにより、交差点の安全通過支援装置等の動作を決定するための信号機情報センシング装置として使用することができる。
(ハ)送信装置10は相互に同期をとることなく送信でき、かつ、受信装置20はシャッタタイミング(データ読み取りタイミングTdr)でサンプリングするので、送信側の同期パルスのタイミングがずれていても、受信することができる。また、LED信号機2のそれぞれのスタートビットの発生時間がずれていても、復号化を正確に行うことができる。
(ニ)レーンキープ用のカメラを共用することで、新たなセンサを追加することなく、機能追加が可能になる。
(ホ)LED信号機2のIDやランプ切り替えまでの時間等の情報を受信データ処理部25による受信信号Srから取得できるため、例えば、ランプ切り替えまでの時間に基づいて、車両のアイドリングストップからの復帰動作を自動的に行わせる制御が可能になる。
【0036】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の技術思想を逸脱あるいは変更しない範囲内で種々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る光通信システムを示す結線図である。
【図2】受信装置で得られる画像を示し、同図中、(a)はカメラによる撮影画像図、(b)は画像処理部で処理した後の処理画像図である。
【図3】光通信システムの各部の動作を示す波形図である。
【符号の説明】
【0038】
1 光通信システム
2 LED信号機(交通信号機)
2a 赤ランプ
2b 黄ランプ
2c 青ランプ
3 信号機制御盤
10 送信装置
11 符号化部
12〜14 LEDドライバ
15 信号点灯制御部
20 受信装置
21 カメラ
22 画像処理部
23 復号同期部
24 復号化部
25 受信データ処理部
26 表示制御部
27 ディスプレイ
30 撮影画像
31 道路
32 樹木
33 車両
33a テールランプ
40 処理画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交通信号機の赤、黄及び青のLEDランプをオン/オフしてデータを送信する送信装置と、
車両に搭載され、前記赤、黄及び青のLEDランプの点滅を含んだ車両前方を撮影して画像信号を出力する撮影装置と、
前記画像信号に基づいて前記データを生成する受信装置と、を有することを特徴とする光通信システム。
【請求項2】
前記送信装置は、前記交通信号機毎に設けられた複数台からなり、それぞれは相互に同期をとることなく送信することを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項3】
前記送信装置は、前記送信データをマンチェスタ符号化して前記光変調を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の光通信システム。
【請求項4】
前記撮影装置は、前記車両前方にある複数の交通信号機を含む範囲を視野とすることを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項5】
前記受信装置は、前記撮影装置のシャッタタイミングでサンプリングして前記データを生成することを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項6】
前記受信装置は、前記撮影を行うカメラと、
前記カメラによる画像信号を処理する画像処理部と、
前記画像処理部による処理結果に基づいて復号化し、受信データを生成する復号化部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の光通信システム。
【請求項7】
前記画像処理部は、前記カメラで撮影されたカラーによる画像をHVC表色系画像に変換する構成を有することを特徴とする請求項6に記載の光通信システム。
【請求項8】
前記画像処理部は、前記HVC表色系に変換した画像に対し、色相フィルタによる処理を施すことを特徴とする請求項7に記載の光通信システム。
【請求項9】
前記画像処理部は、前記HVC表色系に変換した画像に対し、円形状認識処理を行うことを特徴とする請求項7に記載の光通信システム。
【請求項10】
前記画像処理部は、前記円形状認識処理の結果に対し、円形状の内の点滅状態にあるもの複数から受信信号を生成することを特徴とする請求項9に記載の光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−15970(P2008−15970A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189090(P2006−189090)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】