説明

光通信モジュール

【課題】透明材料からなる筐体を用いた場合に光クロストークを減少させること。
【解決手段】光通信モジュールは、透明材料からなる筐体10と、LEDパッケージ11と、PDパッケージ12と、光導波路コア13および光導波路クラッド14と、波長選択性ミラー15と、光ファイバー16と、によって構成されている。LEDパッケージ11と筐体10との間には空気層17が設けられている。また、PDパッケージの受光面は、PD実装面のうち、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域に位置している。これにより、光クロストークの減少を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択性ミラーにより分岐された自己形成光導波路コアと、それぞれの分岐端に接続するLEDおよびPDを有した、一芯双方向の光通信に用いる光通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
以下のような構造の光通信モジュールが、一芯双方向の光通信のために開発されている。光通信モジュールは、筐体と、筐体内部に配置された波長選択性フィルタと、光ファイバーに光学的に接続し、波長選択性ミラーによって分岐された軸状の光導波路コアと、光導波路コアを覆う光導波路クラッドと、分岐された光導波路コアにそれぞれ光学的に接続するLEDパッケージおよびPD(フォトダイオード)パッケージと、を有した構造である。LEDパッケージから出射した光は光ファイバーを介して他の光通信モジュールへと送信され、他の光通信モジュールからの光は光ファイバーを介してPDパッケージで受信する。
【0003】
このような光通信モジュールは自己形成光導波路の技術を用いて作製することができる。たとえば特許文献2のように、まず、筐体に波長選択性ミラーと光ファイバーを固定した後、筐体内に高屈折率の光硬化性樹脂を充填し、光ファイバーを介して硬化波長のレーザーを照射することで、波長選択性ミラーにより分岐された軸状の光導波路コアを形成し、さらに未硬化の光硬化性樹脂を除去した後、低屈折率の光硬化性樹脂を充填して硬化波長の光を照射することで光導波路クラッドを形成する。その後、分岐した光導波路コアに接続するLEDパッケージおよびフォトダイオードパッケージを、パッシブアライメントやアクティブアライメントにより実装する。
【0004】
特許文献1には、筐体として不透明材料を用いることで光クロストークを低減した光通信モジュールが示されている。ここで光クロストークは、LEDから出射した光の一部が光導波路コアと結合せずに周囲に漏れ、同一モジュール内のPDによって受光されてしまう現象で、通信特性を悪化させてしまう。また特許文献1には、光導波路コアとLED、PDとの接続のために、筐体に開口を設けることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−122743
【特許文献2】特開平11−326660
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光クロストークを減少させるために不透明材料からなる筐体を用いた場合、特許文献1のように筐体に開口を設けるため、光導波路コアを形成する際に樹脂が流れ出るのを防止する必要があり、開口部に透明の部品を接着して塞ぐなど工夫が必要となる。その結果、部品点数の増加や製造工程が複雑となってしまう。また、筐体が不透明ではクラッドを硬化させるための紫外線照射に際して照射方向が限定され、良好にクラッドを硬化させることが難しい。
【0007】
一方、透明材料からなる筐体を用いた場合、筐体に開口を設ける必要がないので、特許文献1のような工夫が必要なく、製造工程を簡略にすることができる。また、紫外線を任意の方向から照射することができるのでクラッドを良好に硬化させることができる。しかし、筐体が透明であるため光クロストークが発生し、通信特性を悪化させてしまうという問題が生じる。
【0008】
そこで本発明の目的は、透明な筐体を用いた光通信モジュールにおいて、光クロストークを減少させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、透明材料からなる筐体と、筐体内部に配置された波長選択性フィルタと、筐体内部に配置され、光ファイバーに光学的に接続し、波長選択性ミラーによって分岐された光導波路コアと、筐体内部に配置され、光導波路コアを覆う光導波路クラッドと、筐体外部に配置され、分岐された光導波路コアにそれぞれ光学的に接続するLEDパッケージおよびフォトダイオードパッケージと、を有した光通信モジュールにおいて、LEDパッケージと筐体との間に空気層を設け、フォトダイオードパッケージの受光面は、筐体外面のLEDパッケージからの光が到達しない領域に接触している、ことを特徴とする光通信モジュールである。
【0010】
第2の発明は、透明材料からなる筐体と、筐体内部に配置された波長選択性フィルタと、筐体内部に配置され、光ファイバーに光学的に接続し、波長選択性ミラーによって分岐された光導波路コアと、筐体内部に配置され、光導波路コアを覆う光導波路クラッドと、筐体外部に配置され、分岐された光導波路コアにそれぞれ光学的に接続するLEDパッケージおよびフォトダイオードパッケージと、を有した光通信モジュールにおいて、LEDパッケージと筐体との間に空気層を設け、フォトダイオードパッケージの受光面は、筐体外面のLEDパッケージからの光がその外面において全反射する領域に、空気層を介して配置されている、ことを特徴とする光通信モジュールである。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、フォトダイオードパッケージの受光面以外の部分は、筐体外面のLEDパッケージからの光が到達しない領域に接触させて実装されている、ことを特徴とする光通信モジュールである。
【0012】
第4の発明は、透明材料からなる筐体と、筐体内部に配置された波長選択性フィルタと、筐体内部に配置され、光ファイバーに光学的に接続し、波長選択性ミラーによって分岐された光導波路コアと、筐体内部に配置され、光導波路コアを覆う光導波路クラッドと、筐体外部に配置され、分岐された光導波路コアにそれぞれ光学的に接続するLEDパッケージおよびフォトダイオードパッケージと、を有した光通信モジュールにおいて、LEDパッケージと筐体外面とを直接に接触させ、フォトダイオードパッケージの受光面は、筐体外面のLEDパッケージからの光がその外面において全反射する領域に、空気層を介して実装されている、ことを特徴とする光通信モジュールである。
【0013】
第5の発明は、第2の発明または第4の発明において、フォトダイオードパッケージは、筐体外面に光吸収体を介して接触させて実装されている、ことを特徴とする光通信モジュールである。
【0014】
本発明において筐体の透明材料は、LEDパッケージの出射光やフォトダイオードパッケージへの入射光の波長に対して透過する材料であることを意味し、たとえば可視光〜赤外光の範囲などで透過する材料であることを意味する。筐体の内面、外面のうち、LEDパッケージ、フォトダイオードパッケージ、および光ファイバーと光導波路コアとの光学的な結合に影響のない領域については、光吸収体を塗布するなどして光クロストークの減少を図ってもよい。
【0015】
本発明において、光導波路コアの分岐角度は、光導波路コアから光ファイバーへ向かう軸方向を0°として、90°以下とすることが望ましい。90°を越えると、波長選択性ミラーの設計が難しくなるため望ましくない。
【0016】
光導波路コアおよび光導波路クラッドは、既知の自己形成光導波路の技術を用いて作製することができる。特に本発明の場合、筐体として透明材料を用いるため、不透明材料を用いる場合よりも製造工程を簡略化することができ、光導波路クラッドを均一に硬化させることができる。
【0017】
フォトダイオードパッケージの受光面は、すなわち光導波路コアの分岐端に対向する位置である。したがって、波長選択性ミラーの位置を調整し光導波路コアの分岐位置を調整することで、フォトダイオードパッケージの受光面が、LEDパッケージからの光が到達しない領域や、LEDパッケージからの光が全反射する領域に位置するよう調整することができる。
【0018】
LEDパッケージと筐体との間の空気層、またはPDパッケージと筐体との間の空気層は、レンズ形状を持たせたパッケージを実装することで実現してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光通信モジュールでは、筐体として透明材料を用いた場合であっても光クロストークを減少させることができ、光通信モジュールの製造工程の簡略化、製造コストの低減などを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の光通信モジュールの構成について示した図。
【図2】光通信モジュールを単純化したモデルの構成について示した図。
【図3】θ1とθ2の関係について示したグラフ。
【図4】反射率とθ2との関係について示したグラフ。
【図5】PD実装面における光強度の分布を示した図。
【図6】筐体10から10μm離れたPD実装面と平行な面における光強度の分布を示した図。
【図7】実施例2の光通信モジュールの構成について示した図。
【図8】実施例3の光通信モジュールの構成について示した図。
【図9】PD実装面における光強度の分布を示した図。
【図10】筐体10から10μm離れたPD実装面と平行な面における光強度の分布を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、実施例1の光通信モジュールの構成について示した図である。実施例1の光通信モジュールは、図1に示すように、筐体10と、LEDパッケージ11と、PD(フォトダイオード)パッケージ12と、光導波路コア13および光導波路クラッド14と、波長選択性ミラー15と、光ファイバー16と、によって構成されている。
【0023】
筐体10は、アクリル樹脂やポリカーボネイト樹脂などの透明材料からなる直方体の升状の容器である。筐体10は、たとえば射出成形などによって容易に作製することができる。筐体10の内部には、波長選択性ミラー15が配置され、波長選択性ミラーによってT字型に分岐された光導波路コア13が配置されている。また、光ファイバー16の一端が、光導波路コア13に光学的に接続するよう筐体10に固定されている。また、筐体10内部全体は光導波路クラッド14によって満たされており、これにより光導波路コア13は光導波路クラッド14に覆われている。
【0024】
光導波路コア13は、光ファイバー16に光学的に接続する軸状の構造であり、波長選択性ミラー15の位置で90°の角度を成して2つに分岐している。光導波路コア13のそれぞれの分岐端はLEDパッケージ11、PDパッケージ12と光学的に接続している。
【0025】
光導波路コア13および光導波路クラッド14は、ともに光硬化性樹脂の硬化物であり、光導波路コア13の屈折率は光導波路クラッド14の屈折率よりも高くなっている。光導波路コア13は、自己形成光導波路の技術を用いて作製されたものである。たとえば、コア形成用の液状の光硬化性樹脂を筐体10内部に満たした後、光ファイバー16を介して硬化波長のレーザー光を照射し、光硬化性樹脂を自己収束的に硬化させることにより、軸状の光導波路コア13を形成することができる。また、光導波路コア13の形成時に、筐体10内部に波長選択性ミラー15を配置して光ファイバー16からの光を分岐させることで、光導波路コア13も分岐させることができる。また、光導波路クラッド14は、たとえば光導波路コア13の形成後、未硬化の光硬化性樹脂を除去し、クラッド形成用の液状の光硬化性樹脂を筐体10内部に満たし、硬化波長の光を筐体10全体に照射することで光硬化性樹脂を硬化させることによって形成することができる。ここで、筐体10として透明材料を用いているため、不透明材料を用いた場合のように筐体10に開口を設けるなどの工夫をする必要がなく、光導波路コア13の形成を簡略にすることができる。また、光導波路クラッド14を形成する際の光照射は、不透明材料を用いた場合のように特定の方向から照射する必要はないので、クラッドを均一に硬化させることができる。
【0026】
なお、実施例1の光通信モジュールでは、光導波路コア13の分岐角度(LEDモジュールから光ファイバー16に向かう方向を0°とする)を90°としているが、光導波路コア13の分岐角度は90°以下であればよい。90°未満(たとえば60°)とすれば、波長選択性ミラー15の設計がより容易となる。
【0027】
LEDパッケージ11は、0.2mm角のLEDチップが透明樹脂にパッケージされたものである。LEDパッケージ11は、空気層17を介して光ファイバー16と対向する筐体10の外面10A(LED実装面)に実装されていて、分岐された光導波路コア13の一端に光学的に接続している。LEDパッケージ11と筐体10との間には空気層17を設けている。このような空気層17は、レンズ形状を持たせたLEDパッケージ11を用い、そのレンズ側を筐体10の外面10Aに接触させることで容易に実現することができる。
【0028】
PDパッケージ12は、フォトダイオードが透明樹脂にパッケージされたものである。金属によりパッケージされたものを用いてもよいが、透明樹脂を用いたものの方がコストの面で望ましい。PDパッケージ12は、筐体10のLED実装面に対して90°を成す外面10B(PD実装面)に実装されていて、LEDパッケージ11側とは異なる方の分岐された光導波路コア13の一端に光学的に接続している。ここで、PDパッケージ12の受光面12aは、PD実装面中のLEDパッケージ11からの光が到達しない領域に配置されている。PDパッケージ12の実装位置をこのようなLEDパッケージ11からの光が到達しない領域とすることは、光導波路コア13の分岐位置や分岐角度を調整することで、またPDパッケージ12のサイズを選択することで、容易に達成することができる。
【0029】
LEDパッケージ11は、アクティブアライメントやパッシブアライメントなどの方法により実装する。アクティブアライメントは、光ファイバー16から出力される光の強度をモニタしながら、強度が最大となる位置でパッケージの端を紫外線硬化接着剤などで固定する方法である。パッシブアライメントは、筐体に勘合構造を設けておき、そこにLEDパッケージ11をはめ込む方法である。PDパッケージ12についてもアクティブアライメントやパッシブアライメントなどの方法により実装する。PDパッケージ12を実装する際、受光面の全面に紫外線硬化接着剤を充填し、筐体のPD実装面とPDパッケージ12との間に空気層が生じないように実装することが望ましい。光のフレネル損失が小さくなり、高効率な光の結合が実現できる。
【0030】
波長選択性ミラー15は、ガラス基板上に誘電体多層膜を形成した構造である。使用する2波長に対してそれぞれ透過・反射するよう設計されている。2波長は可視光〜赤外光の任意の異なる波長であればよく、たとえば緑色と赤色である。
【0031】
光ファイバー16は、コア径1mmのプラスチック光ファイバーである。この光ファイバー16を介して、他方の光通信モジュールと接続している。
【0032】
2つの光通信モジュールは、光ファイバー16を介して接続される。一方の光通信モジュールのLEDパッケージ11からの出射光は、光導波路コア13に結合して波長選択性ミラー15を透過し、光ファイバー16に接合する。そして、一方の光通信モジュールから他方の光通信モジュールへと光ファイバー16を介して送信された光は、光導波路コア13に結合して波長選択性ミラー15により反射され、PDパッケージ12によって受光される。このようにして、一方の光通信モジュールと他方の光通信モジュールとで双方向の通信を行うことができ、車載用や家庭用などの光通信ネットワークを構成することができる。
【0033】
次に、PDパッケージの実装位置についてより詳細に説明する。実施例1の光通信モジュールでは、PD実装面には、LEDパッケージ11からの光が全反射する領域と、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域と、の2つの領域が生じる。実施例1の光通信モジュールは、この2つの領域のうち、光が到達しない領域にPDパッケージ12の受光面が配置されるよう実装するものである。
【0034】
光が到達しない領域と光が全反射する領域の2つの領域が生じる理由を説明する。まず、図2のように、光通信モジュールの構成を単純化したモデルで考察する。LEDパッケージ100からの光が空気層101を介して直方体の誘電体102のある面102a(LED実装面)から誘電体102内に入射し、その入射した光が、外面102aに直交する外面102b(PD実装面)に到達する場合について考察する。外面102aへの光の入射角をθ1、誘電体102の屈折率をn2、外面102bへの光の入射角をθ2とすると、sin(θ1)=n2*cos(θ2)である。ただし、空気の屈折率を1としている。n2が1.40、1.50、1.60の場合についてのθ1とθ2の関係は、図3のグラフのようになる。図3より、θ1が0〜90°の範囲の場合、θ2はおよそ45°以上となることがわかり、外面102bのうちθ2が45°未満となる領域には光が到達しないことがわかる。
【0035】
すなわち、θ3(=90°−θ2)の最大値をθc(θ1を90°としたときのθ3であり、誘電体102から空気層101へ光が入射する際の臨界角)とし、LED実装面(外面102a)とPD実装面(外面102b)との交点を原点O、LED実装面における光の入射位置をy0として、PD実装面のうち、θcをとるときに光がPD実装面に到達する位置x0(=y0/tan(θc)、図3よりθcが約45°のため、x0はおよそy0に等しい)よりも原点Oに近い領域(位置x0よりもLEDパッケージ11側の領域)は、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域である。
【0036】
また、図4は、誘電体102内の光のPD実装面(誘電体102の面102b)での反射率とθ2との関係を示したグラフである。図4より、θ2がおよそ45°以上であれば、面102bで光が全反射することがわかる。図3よりθcは約45°であるから、θ2は45°以上で常にθc以上となり、面102bに到達する光はすべて全反射することになる。以上により、PD実装面である面102bには、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域と、光が全反射する領域の2つの領域が存在することとなる。なお、LEDパッケージ11からの光が到達して誘電体102の外部へ放射される領域は存在しないため、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域は、光が全反射する領域以外の領域となっている。
【0037】
上記モデルについて一般的に考えると、θ3≦θc、90°−θc≦θ2であるから、θc≦90°−θcすなわちθcが45°以下であれば、θc≦θ2となり、PD実装面に到達するすべての光は全反射する。一方、θcが45°よりも大きいと、90°−θc≦θ2<θcの範囲でPD実装面に到達する光は誘電体102の外部へ放射され、θc≦θ2の範囲でPD実装面に到達する光は全反射する。つまり、θcが45°以下であれば、PD実装面には、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域と、光が全反射する領域の2つの領域が生じ、θcが45°よりも大きいと、LEDパッケージ11側から順に、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域、光が到達し外部へ放射される領域、光が全反射する領域の3つの領域が生じる。
【0038】
図5は、LEDパッケージ11を発光させたときのPD実装面における光強度の分布を示した図である。また、図6は、筐体10から10μm離れたPD実装面と平行な面における光強度の分布を示した図である。いずれの光強度分布も、光線追跡法によるシミュレーションにより求めた。シミュレーションの条件は以下の通りである。LEDパッケージ11には、出力波長520nm(緑色)の0.2mm角のLEDチップを立方体の透明樹脂に封止したものを用いた。筐体10とLEDパッケージ11とを1μm離して空気層17を設けた。光導波路コア13の直径は1mmとした。波長選択性ミラー15は、厚さ0.5mmのガラス基板上に誘電体多層膜を形成して、緑色の波長は透過し、赤色の波長(650nm)は反射する特性を持たせたものを用いた。筐体10のPD実装面は6mm×6mmの正方形とした。屈折率は、LEDパッケージ11の透明樹脂が1.57、筐体10が1.49、光導波路コア13が1.53、光導波路クラッド14が1.48、波長選択性ミラー15のガラス基板が1.52とした。また、筐体10のLED実装面、PD実装面以外の面は、光吸収体であると仮定した。これは、実際の光通信モジュールにおいて、LEDパッケージ11から直接PD実装面に到達する光に比べて、PD実装面以外の面によって反射されてPD実装面に到達する光は少なく、光クロストークへの影響は小さいと考えられるからである。また、実際の光通信モジュールにおいても、PD実装面以外の面に光吸収体を配置したり着色すれば、これと同様の効果が得られる。
【0039】
図5、6において、PD実装面の中心を原点としている。x軸は光導波路コア13の軸方向であり、y軸はこれに垂直な方向である。また、x軸の正の方向がLEDパッケージ11側である。図5のように、PD実装面の中心付近からx軸負方向の領域にはLEDパッケージ11からの光が到達しているが、PD実装面の中心付近からx軸正方向(LEDパッケージ11側)にかけては、LEDパッケージ11からの光が到達していないことがわかる。なお、PD実装面の中央付近からx軸負方向の領域には、光の明暗による模様が生じているが、これは光導波路コア13、光導波路クラッド14、波長選択性ミラー15の存在によるものである。また、図5と図6を比較すると、図5において光が到達していた領域は、図6においては光が到達していないことがわかる。つまり、図5に現れている光は、PD実装面において全反射している光であることがわかる。
【0040】
以上の考察から、光クロストークを減少させる方法として、以下の2つの方法が考えられる。1つは、LEDパッケージ11と筐体10との間には空気層17を設けたことにより生じるLEDパッケージ11からの光が到達しない領域に、PDパッケージ12の受光面を接触させて実装することが考えられる。他の1つは、LEDパッケージ11と筐体10との間には空気層17を設けたことにより生じるLEDパッケージ11からの光が全反射する領域に、PDパッケージ12の受光面を空気層を介して実装することが考えられる。いずれの場合も、波長選択性ミラー15の位置を調整して光導波路コア13の分岐位置を調整することなどによって、PDパッケージの実装位置を調整することができる。実施例1の光通信モジュールは、この2つの方法のうち前者を採用することにより光クロストークを減少させている。
【0041】
以上のように、実施例1の光通信モジュールでは、LEDパッケージ11と筐体10との間に空気層17を設け、PDパッケージ12をPD実装面のうち光が到達しない領域に実装しているため、筐体10が透明材料であっても光クロストークが低減されている。また、筐体10として透明材料を用いるため、光通信モジュールの作製が容易となり、低コスト化を図ることができる。
【0042】
なお、LED実装面とPD実装面が90°であるとしているが、90°を越える角度とすれば、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域がさらに拡大し、PDパッケージ12の実装がより容易になると考えられる。しかし、LED実装面とPD実装面との成す角度が90°を越えるということは光導波路コア13の分岐角度が90°を越えるということであり、波長選択性ミラー15の設計が難しくなるという問題が生じる。また、LED実装面とPD実装面との成す角度を90°未満とすれば、光導波路コア13の分岐角度が90°未満となるため波長選択性ミラー15の設計が容易となる。しかし、PD実装面において、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域と、光が全反射する領域との間に、LEDパッケージ11からの光が到達して筐体10の外部へ透過する領域が生じる。そのため、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域と光が全反射する領域は減少し、PDパッケージ12の実装が難しくなる。したがって、LED実装面とPD実装面との成す角度はなるべく90°に近いことが望ましく、90°とするのが最も望ましい。また、LED実装面とPD実装面は直交して連続しているが、必ずしも連続している必要はない。
【実施例2】
【0043】
図7は、実施例2の光通信モジュールの構成について示した図である。実施例2の光通信モジュールは、実施例1の光通信モジュールにおけるPDパッケージ12、光導波路コア13、波長選択性ミラー15に替えて、以下に説明するPDパッケージ22、光導波路コア23、波長選択性ミラー25としたものである。PDパッケージ22は、その受光面がPD実装面のうちLEDパッケージ11からの光が全反射する領域に、空気層27を介して配置されている。PDパッケージ22のPD実装面に接触する部分は、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域に接触させる。そして、波長選択性ミラー25の位置を調整することで光導波路コア23の分岐位置を調整し、PDパッケージ22の受光面がLEDパッケージ11からの光が全反射する領域となるような配置としている。なお、受光面にレンズ形状を持たせたPDパッケージ22を実装することで空気層27を設けてもよい。
【0044】
実施例2の光通信モジュールは、実施例1の図2〜6における考察で示した、光クロストークを減少させる2つの方法のうち、後者を採用したものである。すなわち、LEDパッケージ11と筐体10との間には空気層17を設けたことにより生じるLEDパッケージ11からの光が全反射する領域に、PDパッケージ12の受光面を空気層27を介して配置する方法である。特に実施例2の光通信モジュールは、光導波路コア23の直径や分岐位置、筐体10の大きさ、形状などの制限により、PDパッケージをLEDパッケージ11からの光が到達しない領域に実装することができない場合に適している。
【0045】
なお、PDパッケージ22の実装において、PDパッケージ22のPD実装面と接触する部分を、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域に接触させることで、光クロストークの発生を抑制しているが、必ずしもそのようにする必要はない。たとえば、光が全反射する領域にカーボンブラックを配合した接着剤などの光吸収体を介して接触させてPDパッケージ22を実装してもよいし、接触部分を着色しておいたり、筐体10外面のPD実装面以外の面に接触させてPDパッケージ22を実装してもよい。このようにしても光クロストークの発生を抑制することができる。
【実施例3】
【0046】
図8は、実施例3の光通信モジュールの構成について示した図である。実施例3の光通信モジュールは、実施例1の光通信モジュールにおけるLEDパッケージ11、PDパッケージ12、光導波路コア13、波長選択性ミラー15に替えて、以下に説明するLEDパッケージ31、PDパッケージ32、光導波路コア33、波長選択性ミラー35としたものである。
【0047】
LEDパッケージ31は、筐体10のLED実装面に、空気層を設けずに直接接触させて実装されている。PDパッケージ32は、その受光面32aがPD実装面のうちLEDパッケージ31からの光が全反射する領域に、空気層37を介して配置されている。PDパッケージ32のPD実装面に接触する部分32bは、光吸収体38を介して接触している。光吸収体38は、たとえばカーボンブラックを配合した接着剤などである。そして、波長選択性ミラー35の位置を調整することで光導波路コア33の分岐位置を調整し、PDパッケージ32の受光面32aがLEDパッケージ31からの光が全反射する領域となるような配置としている。なお、受光面にレンズ形状を持たせたPDパッケージ32を実装することで空気層37を設けてもよい。
【0048】
図9は、LEDパッケージ31を発光させたときのPD実装面における光強度の分布を示した図である。また、図10は、筐体10から10μm離れたPD実装面と平行な面における光強度の分布を示した図である。いずれの光強度分布も、光線追跡法によるシミュレーションにより求め、シミュレーションの条件は図5、6と同様である。
【0049】
図9のように、PD実装面のほぼ全面にLEDパッケージ31からの光が到達することがわかる。また、PD実装面の中央付近からx軸負方向の領域には、光の明暗による模様が生じているが、これは図5と同様に、光導波路コア33、光導波路クラッド14、波長選択性ミラー35の存在によるものである。また、図9と図10を比較すると、図9において光が到達していた領域のうち中央付近からx軸負方向の領域は、図10においては光が到達していないことがわかる。つまり、この領域はLEDパッケージ31からの光がPD実装面において全反射している領域であることがわかる。このように、LEDパッケージ31を空気層を介さずに直接接触させて実装させた場合には、PD実装面にLEDパッケージ31からの光が透過する領域と、光が全反射する領域とが生じることがわかる。
【0050】
この2つの領域のうち、LEDパッケージ31からの光が透過する領域にPDパッケージ32を実装してしまうと、PDパッケージ32と筐体10との間の空気層の有無に関わらず、透過した光がPDパッケージ32に受光されて光クロストークが発生してしまう。したがって、LEDパッケージ31を空気層を介さずに直接接触させて実装させた場合に、光クロストークを減少させる方法としては、PD実装面のうちLEDパッケージ31からの光が全反射する領域に、PDパッケージ12の受光面を空気層37を介して配置する方法が考えられ、実施例3の光通信モジュールはこれを採用したものである。
【0051】
実施例1、2の光通信モジュールでは、LEDパッケージと筐体との間に空気層を設けているためフレネル損失が発生し、LEDパッケージと光導波路コアとの光学的な接合率が低下してしまうが、実施例3の光通信モジュールでは、LEDパッケージ31と筐体10との間に空気層を設けていないため、LEDパッケージ31と光導波路コア33との光の結合率が高いという利点がある。
【0052】
なお、実施例3の光通信モジュールでは、PDパッケージ32の実装において、PDパッケージ32のPD実装面と接触する部分は、光吸収体38を介して接触させ、これにより光クロストークの発生を抑制しているが、必ずしもその必要はない。たとえば、接触部分を着色しておいたり、筐体10外面のPD実装面以外の面に接触させてPDパッケージ22を実装してもよい。そのような場合も光クロストークの発生を抑制することができる。
【0053】
また、筐体の形状や屈折率、LED実装面とPD実装面との成す角度、光導波路コアの分岐角度などを考慮したより一般的な光通信モジュールでは、PD実装面において、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域、光が到達して筐体の外部へ放射される領域、光が全反射する領域の3つの領域のうち少なくとも1つの領域が存在することが想定される。したがって、LEDパッケージ11からの光が到達しない領域か、光が全反射する領域の少なくともどちらか一方が生じるように光通信モジュールの設計を行えば、実施例1〜3のいずれかを適用することができ、光クロストークを減少させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の光通信モジュールは、車載用、家庭用などの光通信ネットワークの構成に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10:筐体
11:LEDパッケージ
12、22、32:PDパッケージ
13、23、33:光導波路コア
14:光導波路クラッド
15、25、35:波長選択性ミラー
16:光ファイバー
17、27、37:空気層
38:光吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明材料からなる筐体と、前記筐体内部に配置された波長選択性フィルタと、前記筐体内部に配置され、光ファイバーに光学的に接続し、前記波長選択性ミラーによって分岐された光導波路コアと、前記筐体内部に配置され、前記光導波路コアを覆う光導波路クラッドと、前記筐体外部に配置され、分岐された光導波路コアにそれぞれ光学的に接続するLEDパッケージおよびフォトダイオードパッケージと、を有した光通信モジュールにおいて、
前記LEDパッケージと前記筐体との間に空気層を設け、
前記フォトダイオードパッケージの受光面は、前記筐体外面の前記LEDパッケージからの光が到達しない領域に接触している、
ことを特徴とする光通信モジュール。
【請求項2】
透明材料からなる筐体と、前記筐体内部に配置された波長選択性フィルタと、前記筐体内部に配置され、光ファイバーに光学的に接続し、前記波長選択性ミラーによって分岐された光導波路コアと、前記筐体内部に配置され、前記光導波路コアを覆う光導波路クラッドと、前記筐体外部に配置され、分岐された光導波路コアにそれぞれ光学的に接続するLEDパッケージおよびフォトダイオードパッケージと、を有した光通信モジュールにおいて、
前記LEDパッケージと前記筐体との間に空気層を設け、
前記フォトダイオードパッケージの受光面は、前記筐体外面の前記LEDパッケージからの光がその外面において全反射する領域に、空気層を介して配置されている、
ことを特徴とする光通信モジュール。
【請求項3】
前記フォトダイオードパッケージの受光面以外の部分は、前記筐体外面の前記LEDパッケージからの光が到達しない領域に接触させて実装されている、ことを特徴とする請求項2に記載の光通信モジュール。
【請求項4】
透明材料からなる筐体と、前記筐体内部に配置された波長選択性フィルタと、前記筐体内部に配置され、光ファイバーに光学的に接続し、前記波長選択性ミラーによって分岐された光導波路コアと、前記筐体内部に配置され、前記光導波路コアを覆う光導波路クラッドと、前記筐体外部に配置され、分岐された光導波路コアにそれぞれ光学的に接続するLEDパッケージおよびフォトダイオードパッケージと、を有した光通信モジュールにおいて、
前記LEDパッケージと前記筐体外面とを直接に接触させ、
前記フォトダイオードパッケージは、前記筐体外面の前記LEDパッケージからの光がその外面において全反射する領域に、空気層を介して実装されている、
ことを特徴とする光通信モジュール。
【請求項5】
前記フォトダイオードパッケージは、前記筐体外面に光吸収体を介して接触させて実装されている、ことを特徴とする請求項2または請求項4に記載の光通信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−181372(P2012−181372A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44408(P2011−44408)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】