説明

光電式エンコーダ

【課題】相対変位を測定する光電式エンコーダにおいて、超小型で、且つ原点検出を可能とする。
【解決手段】スケール10が、インクリメンタルトラック12の少なくとも一箇所に形成された反射スリットからなる原点マーク14を有し、検出部(20)が、光照射部(24)と、該光照射部を中心としてその周囲に配置された、4つの位相が異なるインクリメンタル信号を出力するメイン受光部30a、30b、30ab、30bb、及び、前記光照射部を点対称の中心として測長方向に対して垂直方向に配置された、一対の原点信号受光部32z、32zbを有し、信号処理部40が、3相信号生成部48、2相正弦波信号生成部50、方向判別部56、内部周期カウンタ58、及び、原点信号処理部60を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電式エンコーダに係り、特にレーザ干渉測長器等の測長用センサとして用いるのに好適な、測長方向に沿って反射型位相格子が形成されたインクリメンタルトラックを有するメインスケールと、このメインスケールと相対変位する検出部と、を備えた光電式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
インクリメンタル型の光電式エンコーダにおいて、検出器を小型化して検出範囲を小さくした場合、原点(基準点)を検出するための原点マークをメインスケールのインクリメンタルトラックと分離するのが困難になる。仮に、微小範囲で分離できたとしても、検出器のセットアップ(アライメント調整)が困難になり、エンコーダ性能を損ねてしまう。又、分離可能なようにインクリメンタルトラックと原点マークを離した場合には、検出器を小型に構成するのが困難になる。
【0003】
小型検出器構成で、且つ、原点検出機能を持たせる場合、メインスケールのインクリメンタルトラック上に原点マークを施すことも行なわれている。しかしその場合、原点マーク部分でインクリメンタル検出での信号変動が起き、メインのインクリメンタル信号の狭範囲精度劣化やカウントエラーを生じるため、原点信号をインクリメンタル信号に正確に同期させるのが困難になる。
【0004】
その対策として、特許文献1や2等で、検出範囲を広く取ることによって平均化を図る空間フィルタ効果により、ロバスト性を高めることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】ヨーロッパ特許EP207121号公報
【特許文献2】特表2008−503745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、平均化効果を高めるためには検出範囲を広く取る必要があり、検出器を小型化するのが困難である。一方、スケール周期を狭周期化すると、フィルタ効果が低減する。又、メインのインクリメンタル信号が崩れているので、厳密な原点同期が困難になる等の問題点を有する。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、小型の検出器で、原点検出を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、測長方向に沿って反射型位相格子が形成されたインクリメンタルトラックを有するメインスケールと、このメインスケールと相対変位する検出部と、を備えた光電式エンコーダにおいて、前記スケールに設けられた、前記インクリメンタルトラックの少なくとも一箇所に形成された反射スリットからなる原点マークと、前記検出部に設けられた、前記メインスケールに拡散光を照射する光照射部、該光照射部を中心としてその周囲に配置されると共に前記光照射部から照射された光が前記メインスケールで回折されて形成された干渉縞を受光して、測長方向に沿って配置されて90度位相差、且つ、測長方向に対して垂直方向に沿って配置されて180度位相差の関係となっている4つの受光窓を有して4つの位相が異なるインクリメンタル信号を出力するメイン受光部、及び、前記光照射部を点対称の中心として前記測長方向に対して垂直方向に配置されると共に原点信号を出力する一対の原点信号受光部と、前記4つのインクリメンタル信号から90度位相差の3相信号を生成する3相信号生成部、この3相信号をベクトル合成して90度位相差の2相正弦波信号を生成する2相正弦波信号生成部、前記メインスケールに対する前記検出部の相対変位の方向を判別してエッジを検出する方向判別部、相対変位の周期を計数する内部周期カウンタ、及び、前記原点信号受光部の出力から原点信号を発生する原点信号処理部、を有する信号処理部と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
ここで、前記原点マークの幅を、前記メイン受光部の幅の1/4以下で、且つ、前記原点信号受光部の幅の半分程度とすることができる。
【0010】
又、前記光照射部を、点光源又は空間フィルタを有する光源とすることができる。
【0011】
又、前記信号処理部が、原点パルスと90度位相差矩形信号の間隔を検出するパルス間隔検出回路と、検出したパルス間隔により、前記周期カウンタ開始命令発生部のスタートトリガ位置を変更する回路と、を有することができる。
【0012】
又、前記信号処理部が、90度位相差の倍数を遅延させるカウンタ開始指令値遅延回路を有することができる。
【0013】
又、前記信号処理部が、原点信号の受光レベルを記憶する回路を有することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、検出部の大きさが、従来のインクリメンタル構成と変わらないため、小さくできる。又、インクリメンタル信号から2相正弦波信号を合成しているので、周期カウントエラーを生じることなくインクリメンタル検出が可能である。更に、インクリメンタルトラック内に形成したイントラック原点マークと、方向を判別して、エッジを検出する方向判別部を使用することで、ゴミや汚れ等の光量低下要因と原点マークの区別が可能であり、ロバスト性が高い。又、ラテラル作動ベクトル合成法の併用と内部周期カウンタを使用することで、インクリメンタル信号に同期した所望(任意)の位置での原点出力が可能である。又、複雑な光学系変更を必要とせず、電気回路の付加で達成できるため、従来不可能であった小型検出器に低コストで原点検出機能を付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の第1実施形態におけるスケール10と検出器20の構成を図1(斜視図)及び図2(スケール側から見た平面図)に示す。
【0017】
前記スケール10は、図3に詳細に示す如く、反射型の位相格子でなるインクリメンタルトラック12と、その少なくとも1箇所、例えば測長範囲外で検出器20により検出可能な端部に形成された、インクリメンタルトラック12の位相格子と平行な反射スリットでなる原点マーク14を有する。該原点マーク14は、例えば図4(a)に示す如く格子一体構造としたり、あるいは図4(b)に示す如くアドオン構造とすることができる。ここで、原点マーク14の幅Wは、図2に示される原点受光部32z、32zbの受光用差動スリット33z、33zbの幅Wz(図5参照)の約半分の幅であり、且つ、インクリメンタル検出への影響がある程度抑えられる幅を必要とする。なお、原点マーク14の位置は、スケール10の端部の1箇所に限定されず、精密なインクリメンタル測定が要求されない任意の位置に複数箇所設けることもできる。
【0018】
前記検出器20は、図1に示した如く、例えば光ファイバケーブル22の中心に配設された投光用光ファイバ26、及び、その出射端に配設された空間フィルタ28でなる点光源24と、図5に詳細に示す如く、該点光源24を中心として田型に配置された、スケール10で回折された干渉縞を検波して、4つ(位相0°のa相、位相90°のb相、位相180°のab相、位相270°のbb相)のインクリメンタル位相差信号をそれぞれ受光するための、インデックスパターン31a、31b、31ab、31bbを備えたメイン受光部30a、30b、30ab、30bbと、前記点光源24を点対称の中心として、原点マーク14の長手方向に配置された、一対の原点信号受光部32z(z相)、32zb(zb相)を有する。
【0019】
投光用光ファイバ26の他端は、レーザ光源(図示省略)に接続され、前記メイン受光部30a、30b、30ab、30bb、及び、原点信号受光部32z、32zbそれぞれを入射端とする受光用光ファイバ29a、29b、29ab、29bb、29z、29zbの他端は、光検出器(図示省略)に接続されている。
【0020】
ここで、前記メイン受光部30a、30b、30ab、30bbは、図5に詳細に示す如く、測長方向に垂直なラテラル方向の検出部(30aと30ab)(30bと30bb)の検波位相が、互いに180°の位相差を有していて、測長方向に離れた検出部(30aと30b)(30abと30bb)は、互いに90°の位相差を有している。
【0021】
ここで、回折干渉縞(インクリメンタル)検波の各相受光部30a、30b、30ab、30bbの測長方向幅をWd、原点検出用受光部32z、32zbの開口幅をWzとすると、原点マーク(スリット)幅Wは、次の2つの条件を満たす必要がある。
【0022】
(1/4)Wd>W …(1)
【0023】
即ち、スケール10上のインクリメンタル信号検出領域は(1/2)Wdであるため、原点マーク領域を検出器が通過した時に、ある程度信号を確保できる幅は、その半分以下である。
【0024】
(1/2)Wz≒W …(2)
【0025】
これは、検出器の高さが変化しても、比較的受光量変化が出難いようにして、アライメント調整の許容範囲を広げるためである。
【0026】
前記原点マーク幅Wは、インクリメンタルトラック12の周期より十分大きい(例えば5〜10倍)ことが望ましい。
【0027】
点光源24より照射された放射光が、図6に示す如く、インクリメンタルトラック12で回折され、検出部で干渉縞を形成する。この干渉縞を、各位相差を有したメイン受光部30a、30b、30ab、30bbで検出する。又、原点マーク14で反射(0次回折)された反射光を、測長方向にずらして配置した原点信号受光部32z、32zbで検出する。
【0028】
前記原点信号受光部32z、32zbは、図7(a)(底面図)(b)(側面図)に詳細に示すように、原点マーク14に対し、正反射(0次回折)受光するように、スケール10に対向して配置され、且つ、差動の受光部は、光源中心に点対称で配置されている。又、測長方向に原点マーク(スリット)幅Wの約2倍の受光幅Wを有している。この原点信号受光部32z、32zbは、原点マーク14を検出した場合、図8に示すような信号を出力する。但し、受光部信号は原点マーク14以外からの回折光干渉成分の直流成分を含む。
【0029】
信号処理部40は、図9に示す如く、前記メイン受光部30a、30ab、30b、30bbの出力から、ラテラル差動ベクトル合成によりインクリメンタル信号を処理するインクリメンタル信号処理部42と、相対変位の方向を判別してエッジを検出する方向判別部56と、相対変位の周期を計数する内部周期カウンタ58と、前記原点信号受光部32z、32zbの出力から原点信号を発生する原点信号処理部60とを有している。
【0030】
前記インクリメンタル信号処理部42は、各相毎に設けられた電流−電圧変換器44a、44ab、44b、44bbと、増幅器46a、46ab、46b、46bbと、3つの差動増幅器48A、48B、48Cでなる3相信号生成部48と、2つのベクトル合成差動増幅器50A、50Bでなる2相正弦波信号生成部50と、A相、B相用の利得調整部52A、52Bと、方形波とするための比較器54A、54Bとを有する。
【0031】
前記原点信号処理部60は、電流−電圧変換器62z、62zbと、増幅器64z、64zbと、z相とzb相を差動増幅して、ゼロクロス信号である差動z相信号を生成するための差動増幅器66と、閾値発生部を有する比較器68と、エッジ検出回路70と、計数を開始するためのスタートトリガーを発生するトリガー回路72と、原点検出パルスとインクリメンタル2相方形波エッジ間隔を検出するパルス間隔検出回路74と、その検出間隔により、内部周期カウンタ58に下位2ビットを付加する下位2ビット加算回路76と、原点信号の所望位置を外部から指定して、記憶するためのメモリ/設定回路80と、指定位置で原点(基準)パルスを出力するz信号出力回路82とを有している。
【0032】
以下、作用を説明する。
【0033】
図10(a)は、前記メイン受光部30a、30ab、30b、30bbにより生成された周期信号Sa、Sab、Sb、Sbbの位相と強度の関係を示すベクトル図である。又、図10(b)は、3相信号生成部48において生成された信号DSa(=Sa−Sab)、DSb(=Sb−Sbb)、DSc(=Sbb−Sb)の位相と強度の関係を示す。図10(c)は、2相正弦波信号生成部50において生成された信号A、Bの位相と強度の関係を示す。なお、ここでは、各周期信号Sa、Sb、Sab、Sbbに位相のずれが生じていないものとする。
【0034】
前述したように、メイン受光部30a、30ab、30b、30bbは、周期信号Sa、Sab、Sb、Sbbを生成する。周期信号Sa、Sabは、図9の電流−電圧変換器44a、44ab及び増幅器46a、46abを介して3相信号生成部48の差動増幅器48Aに入力される。差動増幅器48Aは、両入力信号Sa、Sabを差動増幅し、第1差動信号DSaを出力する。この第1差動信号DSaは0度の位相を持つ周期信号Saと180度の位相を持つ周期信号Sabの差を取ったものであり、周期信号SaとSabの位相のずれがなければ、基準位相と同じ0度の位相を有する信号である。
【0035】
同様に周期信号Sb及びSbbは、電流−電圧変換器44b、44bb及び増幅器46b、46bbを介して3相信号生成部48の差動増幅器48Bに入力される。差動増幅器48Bは、両入力信号Sb、Sbbを差動増幅し、第2差動信号DSbを出力する。この第2差動信号DSbは、90度の位相を持つ周期信号Sbと270度の位相を持つ周期信号Sbbの差を取ったものであり、周期信号SbとSbbの位相のずれが無ければ、基準位相に対して90度の位相差を有する信号である。
【0036】
又、周期信号Sb及び周期信号Sbbは、電流−電圧変換器44b、44bb及び増幅器46b、46bbを介して3相信号生成部48の差動増幅器48Cにも入力される。差動増幅器48Cは、差動増幅器48Bと同様に両入力信号SbとSbbを差動増幅するが、その出力信号DScは、上記第2差動信号DSbとは位相が180度異なる反転差動信号として得られる。即ち、反転差動信号DScは、基準位相に対して270度(即ち−90度)の位相差を有している信号である。図10(b)に示すように、3相信号生成部48で得られた3相信号DSa、DSb、DScは、それぞれ90度位相差を有することとなる。
【0037】
その後、第1差動信号DSaと第2差動信号DSbは2相正弦波信号生成部50が有する差動増幅器50Aに入力される。差動増幅器50Aは、入力された2信号DSaとDSbをベクトル合成することにより、A相信号を生成する。0度の位相の信号DSaと90度の位相の信号DSbがベクトル合成されるため、A相信号は基準位相に対して45度の位相差を有する信号となる。
【0038】
同様に、第1差動信号DSaと反転差動信号DScは2相正弦波信号生成部50が有する差動増幅器50Bに入力される。差動増幅器50Bは、入力された2信号DSaとDScをベクトル合成することにより、B相信号を生成する。A相信号と同様に、0度の位相の信号DSaと270度(−90度)の位相の信号DScがベクトル合成されるため、B相信号は基準位相に対して315度(即ち−45度)の位相を有する信号となる。このように、得られたA相信号とB相信号は90度の位相差を有しており、その強度は等しい(図10(c)参照)。
【0039】
次に、周期信号Sb、Sbbに、周期信号Sa、Sabに対する位相ずれが生じている場合について説明する。一般に光電式エンコーダにおいては、光源の位置、メインスケールのスケール格子の誤差等により、その出力信号(周期信号)に位相ずれを生じる場合がある。図11(a)は、周期信号Sb、Sbbが、理想的には周期信号Sa、Sabに対し90度の位相差を有しているところ、この90度から更に位相差δのずれを有している場合のベクトル図である。図11(b)は、3相信号生成部48において生成された3相差動信号DSa〜DScの位相と強度の関係を示す。図11(c)は、2相正弦波信号生成部50において生成された信号の位相と強度の関係を示す。
【0040】
各周期信号Sa〜Sbbは、上述したように3相信号生成部48の差動増幅器48A〜48Cに入力され、差動信号DSa〜DScが出力される。ここで、第2差動信号DSbは第1差動信号DSaに対して位相ずれδを有するため90度位相差とはならず、第1差動信号DSaに対し(90−δ)度の位相差を有することになる。差動増幅器48Cにより生成される反転差動信号DScは、第2差動信号DSbを反転したものであるので、第2差動信号DSbとは180度位相差であるものの、第2差動信号DSbと同様に第1差動信号DSaに対して位相ずれδを有しているため、第1差動信号DSaに対し(270−δ)度の位相差を有することとなる。
【0041】
図11(b)に示すように、3相信号生成部48で得られた3相差動信号DSa〜DScは、周期信号Sc、Sdが位相ずれδを有しているため、互いに90度位相差を有するものではなく、位相ずれδを含んでいる。
【0042】
その後、位相ずれδを有する3相差動信号DSa〜DScのうち、第1差動信号DSaと第2差動信号DSbは2相正弦波信号生成部50の差動増幅器50Aに入力され、ベクトル合成される。これにより、図11(c)に示すように、A相信号が得られる。2相正弦波信号生成部50における処理はベクトル合成なので、A相信号の位相は(45−δ/2)度となる。
【0043】
又、第1差動信号DSaと反転差動信号DScも、同様に2相正弦波信号生成部50の差動増幅器50Bに入力されベクトル合成されることによりB相信号が得られる。ここで、B相信号の位相は(135−δ/2)度となる。
【0044】
このように、得られた2相信号A、Bは、元の周期信号Sa〜Sdに位相ずれが生じたとしても、90度位相差を有することとなる。即ち、周期信号Sa〜Sdが位相ずれを有する場合にも、位相調整操作を行なうことなく90度位相差を持つA相信号及びB相信号を得ることができる(図11(c)参照)。
【0045】
2相正弦波信号生成部50における90度位相差2相信号A、Bを生成する処理はベクトル合成であるため、図11(c)に示すように2相信号A、Bはそれぞれの信号強度が異なっている。この場合、2相正弦波信号生成部50において、2相信号A、Bを生成した後、それぞれの信号A、Bの利得を利得調整部52A、52Bで調整することによって、図11(d)に示すように90度位相差を有し、且つ、強度の等しいA相信号及びB相信号を生成することができる。
【0046】
次に、スケール10のインクリメンタルトラック12に欠陥やムラ等が存在したり、測長移動時に動的なピッチング変動が発生したりすることによって、メイン受光部30a、30b、30ab、30bbの受光量が変化し、メイン受光部30a、30b、30ab、30bbより出力される周期信号Sa、Sb、Sab、Sbbの強度が劣化している場合について説明する。
【0047】
通常の光電式エンコーダでは、受光部において、光源の照射位置を通る対角線上に位相が180度異なる信号を生成するメイン受光部が配置されている場合がある。例えば、図5におけるa相の位置に基準位相(0度)の位相を有する周期信号Saを生成するメイン受光部30aが配置され、bb相の位置に180度の位相を有する周期信号Sabを生成するメイン受光部30abが配置される。又、b相の位置に90度の位相差を持つ周期信号Sbを生成するメイン受光部30bが配置され、ab相の位置に270度の位相差を有する周期信号Sbbを生成するメイン受光部30bbが配置される場合である。
【0048】
スケール10のインクリメンタルトラック12上の欠陥やピッチング変動があると、受光部により出力される信号は光源を中心に配置されたメイン受光部のうち、片側のみ(例えば図5における田の字形状の左側)の信号が劣化することになる。
【0049】
図12は、上述の通常の光電式エンコーダにおいて周期信号Sa、Sb、Sab、Sbbのうち周期信号Sa及びSbbに劣化が生じている場合の位相と強度の関係を示す。通常の光電式エンコーダにおいては、0度の位相を有する周期信号を生成するメイン受光部30aにインクリメンタルトラック12の欠陥等の影響が及び、0度の位相を有する周期信号Saに劣化が生じる。同様に270度の位相を有する周期信号を生成するメイン受光部30bbに欠陥等の影響が及び、270度の位相を有する周期信号Sbbに、劣化が生じる。
【0050】
図13は、通常の光電式エンコーダにおいて、片側の受光部により生成された周期信号Sa及びSbbに劣化が生じた場合の、信号処理後の90度位相差2信号A、Bに基づくリサージュ信号を示す。差動増幅処理を行なう1組の信号の片方に劣化が生じた周期信号に基づき生成された90度位相差2信号には、DC変動が発生する。そのため、リサージュ図形の中心がずれることとなる。DC変動が生じることにより狭範囲精度が劣化し、光電式エンコーダの測定に支障をきたす。
【0051】
これに対して、本実施形態においては、メイン受光部30a、30b、30ab、30bbのうち位相が180度異なる周期信号を生成するものは、測長方向に垂直にずれた位置に配置されている。従って、スケール10のインクリメンタルトラック12の欠陥やピッチング変動が生じ、片側の2つのメイン受光部(例えば図5におけるメイン受光部30a及び30ab)に影響が及んだとしても、差動増幅処理される信号は同時に信号が劣化することになり、DC変動が生じることはない。
【0052】
図14(a)は、インクリメンタルトラック12の一部に欠陥等が生じている場合のメイン受光部30a、30b、30ab、30bbにおいて生成された各周期信号Sa、Sb、Sab、Sbbの位相と強度を示す。図14(b)は、各周期信号Sa、Sb、Sab、Sbbから生成された差動信号DSa〜DScの位相と強度を示す。図14(c)は、2相正弦波信号生成部50において生成された信号A、Bの位相と強度の関係を示す。ここで、周期信号Sb及びSbbは、周期信号Sa及びSabに対して位相δのずれを有しているものとして説明・図示する。
【0053】
本実施形態のメイン受光部30a、30abにおいて、上述したように理由により周期信号Sa、Sabが劣化する(図14(a)参照)。周期信号Sa、Sabから3相信号生成部48において生成される第1差動信号DSaにも劣化が生じる。これに対しメイン受光部30b、30bbにより出力された周期信号Sb、Sbbは劣化していない。周期信号Sb、Sbbから3相信号生成部48において生成される第2差動信号DSb及び反転差動信号DScにも劣化は生じない(図14(b)参照)。
【0054】
3相信号生成部48から出力された3相差動信号DSa〜DScは、それぞれ位相ずれδを有すると共に、第1差動信号DSaが劣化しているため、その信号強度が異なることとなる(図14(b)参照)。この3相差動信号DSa〜DScを2相正弦波信号生成部50に入力しベクトル合成すると、図14(c)に示すように、出力として位相差が90度ではないA相信号及びB相信号が出力される。その後、このA相信号及びB相信号は、利得調整部52A、52Bにおいて利得が調整され、等しい強度を有することとなる(図14(d)参照)。
【0055】
図15は、本実施形態において生成された90度位相差2相信号A、Bに基づくリサージュ信号を示す。図15に示すリサージュ図形は生成されたA相信号及びB相信号の位相差が90度ではないため、その形状が楕円形状となるものの、その中心がずれることはない。
【0056】
スケール10のインクリメンタルトラック12に存在する欠陥やムラ、ピッチング変動により周期信号に劣化が生じた場合において、本実施形態に係る光電式エンコーダにより生成された2相信号は、正確に90度位相差を有するものではない。しかし、従来の差動処理を行なう1組の受光部を光源中心に対角に配置していたため発生するDC変動に比べ、本実施形態に係る光電式エンコーダにより得られる位相差の生じた2相信号による検出の狭範囲精度の劣化(誤差)は、半分以下である。そのため、本実施形態に係る光電式エンコーダは、スケール10のインクリメンタルトラック12の欠陥やピッチング変動が生じた場合にも有効である。
【0057】
このように、本実施形態に係る光電式エンコーダは、その信号処理にベクトル合成を用いることにより、信号を調整している。位相ずれを有する3相信号は、この処理過程において正確に90度位相差を有することとなる。これにより、位相ずれを有する3相信号において、可変抵抗器等を用いた位相調整操作をすることなく所望の90度位相差の2相信号を得ることができる。又、本実施形態に係る光電式エンコーダは、スケールのインクリメンタルトラックに存在する欠陥やムラ、ピッチング変動により周期信号に劣化が生じた場合においても有効である。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る光電式エンコーダで得られた90度位相差を持つA相信号とB相信号は、2相正弦波信号生成部50において3相差動信号DSa〜DScをベクトル合成しているため、信号強度が約√2倍となる。これにより信号雑音比が3dB改善する。
【0059】
又、利得調整部52A、52Bにおいて、信号の利得を調整することによって、ベクトル合成後に強度の等しい90度位相差2相信号を得ることができる。
【0060】
次に、図16を参照して、原点検出法について説明する。
【0061】
原点マーク14の相対移動に伴い、各受光部では信号変動を生じる。図16に示すように、相対移動方向(図ではcw方向)に対して、まずメイン受光部30aと30abが正反射の影響を受け、干渉縞受光変動を生じる。次に、a相(ab相)とb相(bb相)の間に配置されているz相(zb相)が、回折光量低下の影響を受け、信号低下を生じる。
【0062】
受光量変動を受けても、既に説明したように、2相正弦波は、カウントエラーを起こすほど変動しない。なお、信号純度は低下するため、スリット通過時の補間による厳密な測長は困難である。
【0063】
原点マーク14がz相受光部32zと対向する位置に来ると、正反射成分により受光量が増える。ずらした位置に配置されたzb相との差動信号(差動z相信号)では、原点検出部通過前後の変動と通過時の変動では、差動z相信号のエッジ方向が異なる(図16の場合は、前者が立上りエッジ、後者が立下がりエッジ)ため、原点マーク正反射位置での原点検出が可能となる。
【0064】
次に、差動z相信号の立下りエッジパルスで、インクリメンタル信号の内部周期カウンタ58をリセットして、周期カウントを開始させ、メモリ/設定回路80で設定した、エッジパルスより充分後の受光変動が起きない任意(所望)の位置で、z信号出力回路82から、周期カウントと同期して原点パルスを出力する。
【0065】
これにより、インクリメンタル信号と同期して、且つ任意の位置での原点パルスの出力が可能となる。
【0066】
ゴミがあった場合には、差動z相信号の増減方向が逆となるため、移動方向が分かっていれば、容易に識別できる。
【0067】
本実施形態においては、更に、原点検出パルスとインクリメンタル2相方形波エッジ間隔を検出するパルス間隔検出回路74と、その検出間隔により、内部周期カウンタ58に下位2ビットを加算する下位2ビット加算回路76を付加することで、リセット位置変動による周期飛びを防止して、原点検出リセットパルスの再現性を確保する機能を有している。即ち、図17に示す如く、取付により検出部が傾いた場合、カウント周期が跳んでしまうことがある。そこでカウンタ(1/4周期カウンタ)の下位に2bitを加算して、半周期ずらす事で、ダウンエッジでカウントするようにして、繰返し再現性を向上することができる。理論的には、再現性<±1/2周期でも、原点パルス(任意の位置)の再現性を確保できる。このように、取付による原点検出再現性の劣化を補償することで、繰返し再現性を向上できる。
【0068】
なお、図18に示す第2実施形態の如く、前記z相/zb相差動増幅器66の出力にレベル値記憶回路67を設け、そのレベルを比較器68の判定レベルに使用することで、光源の劣化や表面の汚れ/酸化による反射率の変化にかかわらず、より高精度に原点を検出することもできる。
【0069】
又、前記実施形態においては、検出器が光ファイバで検出されていたが、本発明の適用対象は、これに限定されず、例えば発光ダイオードとフォトダイオード又はフォトダイオードアレイ等を用いて検出器を構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態におけるスケールと検出器の関係を示す斜視図
【図2】同じく平面図
【図3】第1実施形態のスケール構造を示す斜視図
【図4】同じく格子とスリットの構造の例を示す断面図
【図5】同じく検出部の受光配置を示す平面図
【図6】同じく斜視図
【図7】同じく原点検出部を示す図
【図8】同じく原点マーク検出信号を示す図
【図9】同じく信号処理部の構成を示すブロック図
【図10】同じく信号処理の例を示すベクトル図
【図11】信号処理の他の例を示すベクトル図
【図12】従来の光電式エンコーダによる信号の例を示すベクトル図
【図13】従来の光電式エンコーダによる信号の例のリサージュ波形を示す図
【図14】第1実施形態による信号処理の他の例を示すベクトル図
【図15】同じく信号処理の他の例のリサージュ波形を示す図
【図16】同じく原点検出の流れを示す図
【図17】同じく取付により検出部が傾いた場合を示す図
【図18】本発明の第2実施形態の信号処理部の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0071】
10…スケール
12…インクリメンタルトラック
14…原点マーク
20…検出器
24…点光源
26…投光用光ファイバ
28…空間フィルタ
30a、30b、30ab、30bb…メイン受光部
32z、32zb…原点信号受光部
40…信号処理部
42…インクリメンタル信号処理部
48…3相信号生成部
50…2相正弦波信号生成部
56…方向判別部
58…内部周期カウンタ
60…原点信号処理部
67…レベル値記憶回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測長方向に沿って反射型位相格子が形成されたインクリメンタルトラックを有するメインスケールと、
このメインスケールと相対変位する検出部と、を備えた光電式エンコーダにおいて、
前記スケールに設けられた、前記インクリメンタルトラックの少なくとも一箇所に形成された反射スリットからなる原点マークと、
前記検出部に設けられた、前記メインスケールに拡散光を照射する光照射部、該光照射部を中心としてその周囲に配置されると共に前記光照射部から照射された光が前記メインスケールで回折されて形成された干渉縞を受光して、測長方向に沿って配置されて90度位相差、且つ、測長方向に対して垂直方向に沿って配置されて180度位相差の関係となっている4つの受光窓を有して4つの位相が異なるインクリメンタル信号を出力するメイン受光部、及び、前記光照射部を点対称の中心として前記測長方向に対して垂直方向に配置されると共に原点信号を出力する一対の原点信号受光部と、
前記4つのインクリメンタル信号から90度位相差の3相信号を生成する3相信号生成部、この3相信号をベクトル合成して90度位相差の2相正弦波信号を生成する2相正弦波信号生成部、前記メインスケールに対する前記検出部の相対変位の方向を判別してエッジを検出する方向判別部、相対変位の周期を計数する内部周期カウンタ、及び、前記原点信号受光部の出力から原点信号を発生する原点信号処理部、を有する信号処理部と、
を備えたことを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項2】
前記原点マークの幅が、前記メイン受光部の幅の1/4以下で、且つ、前記原点信号受光部の幅の半分程度であることを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項3】
前記光照射部が、点光源又は空間フィルタを有する光源であることを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項4】
前記信号処理部が、原点パルスと90度位相差矩形信号の間隔を検出するパルス間隔検出回路と、検出したパルス間隔により、前記周期カウンタ開始命令発生部のスタートトリガ位置を変更する回路と、を有することを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項5】
前記信号処理部が、90度位相差の倍数を遅延させるカウンタ開始指令値遅延回路を有することを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項6】
前記信号処理部が、原点信号の受光レベルを記憶する回路を有することを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−71830(P2010−71830A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240216(P2008−240216)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】