説明

免震構造物の水平変位計測装置

【課題】 免震層の水平二方向の変位を高い精度で計測することができる簡便な計測装置を提供する。
【解決手段】 水平変位計測装置1は、下部構造物3に固定された第一支持部13に軸支され、第一支持部13を中心として水平面内で回動するロッド11と、上部構造物2に固定された第二支持部14に軸支され、ロッド11上をロッド軸方向に可動する可動部12とからなる計測治具から構成されており、可動部12に内蔵されたポテンショメータとロータリーエンコーダを用いて、ロッド11の回動角θと可動部12のロッド軸方向変位Lを計測する。ロッド11の回動角θと可動部12のロッド軸方向変位Lが計測されれば、免震層Sの水平変位X、Yは、X=L・cosθ、Y=L・sinθとして一意に求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造物と下部構造物の間に免震装置が介装されてなる免震構造物における、下部構造物に対する上部構造物の相対水平変位を計測する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等の外乱が作用する構造物の応答性状や性能劣化に関する情報を取得するため、構造物各部位の変形を計測して記録したいというニーズがある。とりわけ免震装置が設置された免震構造物は、地震時に免震層が大きく水平変形することによって地震入力加速度を低減する構造であるため、免震層の水平変形を測定・記録することは当該構造物の応答性状を把握し、免震装置の性能を確認するうえで非常に重要である。
このような要求に応えるため、従来、筆記具などを利用した簡易的な記録装置が用いられてきた。例えば、特許文献1では、下部構造体を構成する基礎に設けられた観測記録台に防湿処理が施された感圧式の記録用紙を取り付け、上部構造体を構成する梁に設けられたペン状部材の先端を取付装置の弾発ばねにより感圧記録に必要な圧力にて記録用紙に押し付けるようにし、地震時に梁の基礎に対する相対水平運動の様子を記録用紙に感圧記録できるようにした発明が開示されている。
【特許文献1】特開2002−168962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の方法はあくまでも簡易的なものであり、変形の方向と最大値程度の情報しか得ることができない。詳細なデータを得るためには、ロッドやワイヤー等を利用した接触式の変位センサもしくはレーザー等を利用した非接触式の変位センサを計測治具と組み合わせた計測装置を用いて計測を行う必要がある。しかし、免震層は通常、水平二方向に変形し、最大水平変位は数十センチ程度となるため、変位センサを水平二方向にそれぞれ設置し、それぞれの変位センサに対して大掛りなターゲット(不動点)を設置しなければならない。その結果、計測装置が大掛りとなるうえ、コストが掛かるという問題があった。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、免震層の水平二方向の変位を高い精度で計測することができる簡便な計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、上部構造物と下部構造物の間に免震装置が介装されてなる免震構造物における、下部構造物に対する上部構造物の相対水平変位を計測する計測装置であって、前記上部構造物または前記下部構造物の一方に設置された第一支持部に軸支されて水平面内で回動するロッドと、前記上部構造物または前記下部構造物の他方に設置された第二支持部に軸支され、前記ロッド上をロッド軸方向に可動する可動部とからなる計測治具と、前記ロッドの回動角を計測する回動角計測手段と、前記可動部のロッド軸方向変位を計測する軸方向変位計測手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
下部構造物に対して上部構造物が水平方向に移動すると、ロッドが第一支持部を中心として水平面内で回動するとともに、可動部はロッド上をロッド軸方向に可動する。この際のロッドの回動角θと可動部のロッド軸方向変位Lが計測されれば、免震層の水平変位(下部構造物に対する上部構造物の相対水平変位)X、Yは、X=L・cosθ、Y=L・sinθとして一意に求めることができる。
本発明では、上部構造物または下部構造物の一方に設置された第一支持部に軸支されて水平面内で回動するロッドと、上部構造物または下部構造物の他方に設置された第二支持部に軸支され、ロッド上をロッド軸方向に可動する可動部とからなる簡便な計測治具を用い、回動角計測手段によりロッドの回動角θを計測するとともに、軸方向変位計測手段により可動部のロッド軸方向変位Lを計測することにより、免震層の水平二方向の変位X、Yを高い精度で計測することができる。
【0007】
また、本発明では、前記回動角計測手段にポテンショメータを用い、前記軸方向変位計測手段にロータリーエンコーダを用いてもよい。
ロッドの回動角は、ロッドまたは可動部を軸支する部位に設置したポテンショメータにより計測し、可動部のロッド軸方向変位は、可動部の直線運動を回転運動に変換する機構を設け、回転運動する部位に設置したロータリーエンコーダにより計測する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る免震構造物の水平変位計測装置によれば、上部構造物または下部構造物の一方に設置された第一支持部に軸支されて水平面内で回動するロッドと、上部構造物または下部構造物の他方に設置された第二支持部に軸支され、ロッド上をロッド軸方向に可動する可動部とからなる簡便な計測治具を用い、回動角計測手段によりロッドの回動角を計測するとともに、軸方向変位計測手段により可動部のロッド軸方向変位を計測することにより、免震層の水平二方向の変位を高い精度で計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る免震構造物の水平変位計測装置の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に、本発明に係る水平変位計測装置を示す。
免震装置4が設置されている階を免震層Sと称し、水平変位計測装置1は免震層Sに設置される。水平方向の免震を対象とし、図1に示した積層ゴムに限らず、ローラー支承や滑り支承など他の水平方向免震装置でもよい。
水平変位計測装置1は、下部構造物3に固定された第一支持部13に軸支され、第一支持部13を中心として水平面内で回動するロッド11と、上部構造物2に固定された第二支持部14に軸支され、ロッド11上をロッド軸方向に可動する可動部12とからなる計測治具から構成されており、可動部12に内蔵されたポテンショメータとロータリーエンコーダを用いて、ロッド11の回動角θと可動部12のロッド軸方向変位Lを計測する。
【0010】
下部構造物3に対して上部構造物2が水平方向に移動すると、ロッド11が第一支持部13を中心として水平面内で回動するとともに、可動部12はロッド11上をロッド軸方向に可動する。この際のロッド11の回動角θと可動部12のロッド軸方向変位Lが計測されれば、免震層Sの水平変位(下部構造物3に対する上部構造物2の相対水平変位)X、Yは、ロッド11の回動角θと可動部12のロッド軸方向変位Lから、X=L・cosθ、Y=L・sinθとして一意に求めることができる。
【0011】
図2は、ロッド11が軸支されている基端部11aの軌跡Tを示したものである。例えば、基端部11aが図2のように、左回りに円を描く場合、ロッド11の回動角θおよび可動部12のロッド軸方向変位Lは図3のような時刻歴を描く。
【0012】
図4は、水平変位計測装置1の詳細を示したものである。
可動部12は箱状のハウジング18からなり、ロッド11がハウジング18を貫通している。ハウジング18の両端面には、それぞれ軸受け18a、18aが装着されており、ロッド11は軸受け18a、18aで支持され、ハウジング18はロッド11に沿って摺動することができる。
ハウジング18内には、ロッド11と摺接するプーリー17が内蔵されており、ハウジング18がロッド11に沿って摺動する(即ち、ロッド軸方向変位Lが生じる。)と、プーリー17が回転するようになっている。プーリー17には、プーリー17と回転軸を同じくするロータリーエンコーダ16が装着されており、ロータリーエンコーダ16によりプーリー17の回転数を検出し、プーリー17の回転数からロッド軸方向変位Lが算出される。
なお、プーリー17の回転数が少ない場合は、ロータリーエンコーダに代えてポテンショメータを使用してもよい。
【0013】
また、ハウジング18内には、ポテンショメータ15が内蔵されており、ポテンショメータ15の軸部15aは第二支持部14に固定されている。ロッド11が水平面内で回動すると、ポテンショメータ15が軸部15aを中心として回動し、ロッド11の回動角θが計測される。
【0014】
なお、ロッド11と第一支持部13との接合部は自在ジョイント19になっている。そのため、上部構造物2がロッキングしても、ロッド11が鉛直面内で回動し、水平変位計測装置1が損傷することはない。
【0015】
本実施形態による免震構造物の水平変位計測装置1では、下部構造物3に固定された第一支持部13に軸支されて水平面内で回動するロッド11と、上部構造物2に固定された第二支持部14に軸支され、ロッド11上をロッド軸方向に可動する可動部12とからなる簡便な計測治具を用いて、ポテンショメータ15によりロッド11の回動角θを計測するとともに、ロータリーエンコーダ16により可動部12のロッド軸方向変位Lを計測することにより、免震層の水平二方向の変位X、Yを高い精度で計測することができる。
【0016】
以上、本発明に係る免震構造物の水平変位計測装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、ポテンショメータを可動部に内蔵したが、第一支持部の軸部に設置してもよい。また、ロッドの直線運動を回転運動に変換する機構は、プーリーではなく、ラック&ピニオンなど他の機構でもよいことは言うまでもない。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る水平変位計測装置を示し、(a)はその立面図、(b)は平面図である。
【図2】ロッド基端部の軌跡を示した図である。
【図3】ロッドの軸方向変形量Lとロッドの回転角θの時刻歴変化を示した図である。
【図4】水平変位計測装置の詳細を示し、(a)はその立断面図、(b)は平断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 水平変位計測装置
2 上部構造物
3 下部構造物
4 免震装置
11 ロッド
12 可動部
13 第一支持部
14 第二支持部
15 ポテンショメータ
16 ロータリーエンコーダ
17 プーリー
18 ハウジング
19 自在ジョイント
S 免震層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物と下部構造物の間に免震装置が介装されてなる免震構造物における、下部構造物に対する上部構造物の相対水平変位を計測する計測装置であって、
前記上部構造物または前記下部構造物の一方に設置された第一支持部に軸支されて水平面内で回動するロッドと、前記上部構造物または前記下部構造物の他方に設置された第二支持部に軸支され、前記ロッド上をロッド軸方向に可動する可動部とからなる計測治具と、
前記ロッドの回動角を計測する回動角計測手段と、前記可動部のロッド軸方向変位を計測する軸方向変位計測手段とを備えることを特徴とする免震構造物の水平変位計測装置。
【請求項2】
前記回動角計測手段がポテンショメータからなり、前記軸方向変位計測手段がロータリーエンコーダからなることを特徴とする請求項1に記載の免震構造物の水平変位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−24622(P2007−24622A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205504(P2005−205504)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】