説明

六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物、その製造方法及び組成物

【課題】h−BNと新規な高結晶性h−BCNの混合物及びそれを高い反応率で効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】黒鉛化指数(GI)が7.0以下である、六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物。六方晶窒化ホウ素及び炭化ホウ素の混合物を窒素雰囲気下、1950〜2500℃で加熱することを特徴とする、六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物の製造方法。樹脂及び/又はゴムに六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物を含有させてなることを特徴とする組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物、その製造方法及び組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(h−BN)は、ホウ素原子(B)と窒素原子(N)が交互に共有結合した六角網目状平面同士が、相互にファンデルワールス力で緩く結合して積み重なった、黒鉛類似の層状の結晶構造を有する固体物質である。h−BNは、熱伝導性、化学的安定性、固体潤滑性及び耐熱衝撃性などの特性に優れ、また黒鉛とは異なり電気絶縁性であることから、これらの特性を活かして固体潤滑・離型剤、樹脂及び/又はゴムの充填材、耐熱性・絶縁性焼結体などに応用されている。例えば電子材料分野において、h−BN粉末が配合された樹脂及び/又はゴム組成物は、電子部品から発生する熱を効率よく放出させるための絶縁放熱シート等として使用されている。
【0003】
h−BNの製造方法の例としては以下がある。
(1)ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂などのホウ素と酸素を含む化合物をリン酸カルシウムなどの充填材に担持させたのち、アンモニア雰囲気下で焼成する方法。
(2)上記ホウ素化合物とジシアンジアミド、メラミン、尿素などの窒素を含む化合物との混合物を焼成する方法。
(3)上記ホウ素化合物と炭素などの還元性物質との混合物を窒素ガス雰囲気下で焼成する方法。
(4)ホウ酸又は酸化ホウ素、メラミン及び水を含む混合物から、濾過、遠心分離、乾燥などの方法により水を除去したのち、これを非酸化性ガス雰囲気下で焼成する方法。
(5)ホウ酸とメラミンを含む混合物を、水蒸気を含む雰囲気で加熱、反応させた後、非酸化性ガス雰囲気下で焼成する方法。
(6)炭化ホウ素を窒素雰囲気で焼成した後の生成物に、三酸化二ホウ素(無水ホウ酸)および/またはその前駆体を混合し、焼成して副生炭素を除去する方法。
【0004】
(1)では焼成時にホウ素と酸素を含む化合物が融解するのでアンモニア雰囲気との接触面積は大きくならず、また(2)では窒素を含む化合物が焼成時に気化或いは分解し易いため、いずれの方法においても生成率を著しく高めることが困難である。(3)では酸洗浄などの簡便な後処理では除去困難な還元性物質が不純物として残留し易くなる。(4)の方法は、水の作用によりホウ酸又は酸化ホウ素とメラミンとがホウ酸メラミンを生成して均一な原料混合物となるため、均質な六方晶窒化ホウ素粉末を製造できる方法として知られている(特許文献1〜5)が、この方法では他の方法と異なり、原料混合物から水を除去するための濾過、遠心分離、乾燥などの余分な工程が必要となるので生産性が低くなるという問題がある。なお、(5)の方法においては、水を使わずに水蒸気を用いることで、上記(4)の有する問題の解消を図っている(特許文献6)。
【0005】
しかしながら、(1)〜(5)の方法は、何れも吸熱反応によってh−BNを生成させる方法であるため、製造時に多量の熱エネルギーを必要とし、製造コストが高くなる問題がある。(6)の方法は、h−BNの原料として炭化ホウ素(BC)を用いる方法である。BCからh−BNを生成させる方法は、以下の(1)式で表される反応を、温度2000℃で生じさせる方法であるが、(1)式の反応は発熱反応であるため、前記(1)〜(5)の方法ほど多量の熱エネルギーは必要としない(特許文献7)。
(1/2)BC+N → 2BN+(1/2)C・・・(1)
【0006】
但し、この方法では黒鉛(C)も同時に生成してしまう。このため、さらに酸化ホウ素を添加して(2)式の反応で炭素を除去する必要があり、再度、温度2000℃までの加熱が必要になるため、結局多量の熱エネルギーが必要になる問題がある。
C+B → B(ガス)+CO(ガス)・・・(2)
【0007】
一方、BCを原料として、六方晶炭窒化ホウ素(h−BCN)を生成させる方法が開示されている(非特許文献1)。h−BCNは、h−BNの一部のホウ素原子及び窒素原子が炭素原子によって置換されたh−BN類似の構造を有しているため、h−BN同様に熱伝導性、化学的安定性、固体潤滑性、耐熱衝撃性及び電気絶縁性等の優れた特性を有する。h−BCNは(3)式に示す通り、BCを窒素雰囲気中、1600℃〜1900℃で加熱することによって、乱層構造炭窒化ホウ素(t−BCN)を生成させた後、さらにこれを窒素雰囲気中2250℃で加熱することによって得られる。なお、t−BCNの生成反応は発熱反応であるため、前述の(1)〜(5)のh−BNの製造方法ほど多量の熱エネルギーは必要としない。
C+2N → t−BCN →(2250℃で加熱)→ h−BCN・・・(3)
【0008】
しかしながら、2250℃で生成するh−BCNは結晶性が低いため、熱伝導性、固体潤滑性等が充分ではない。これを解消するために、例えば再加熱温度を上昇させる方法が考えられているが、BCNの熱分解によってBCが生成しやすいため、h−BCN本来の固体潤滑性や電気絶縁性が損なわれてしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許3,241,918号
【特許文献2】特開昭60−151202号公報
【特許文献3】特開昭61−191505号公報
【特許文献4】特開昭61−286207号公報
【特許文献5】特開平11−302004号公報
【特許文献6】特開2009−149469号公報
【特許文献7】特開2007−308360号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Alloys and Compounds;466,299−303(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる従来のh−BCN又はh−BN及びh−BCNの製造方法が有する問題に対処するためになされたものであり、h−BNと新規な高結晶性h−BCNの混合物及びそれを高い反応率で効率的に製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するために、以下の物及び方法を採用する。
(1)黒鉛化指数(GI)が7.0以下である、六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物。
(2)六方晶窒化ホウ素及び炭化ホウ素の混合物を窒素雰囲気下、1950℃以上2500℃以下で加熱することを特徴とする六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物の製造方法。
(3)樹脂及び/又はゴムに前記(1)に記載の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物を含有させてなることを特徴とする組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の六方晶窒化ホウ素(h−BN)及び六方晶炭窒化ホウ素(h−BCN)の混合物は、含有されるh−BCNが従来とは異なり高い結晶性を有することから、従来の純粋なh−BNと比較しても遜色のない優れた熱伝導性を有する。特に電子材料分野において、本発明の混合物が配合された樹脂及び/又はゴム組成物は、電子部品から発生する熱を効率よく放出させるための絶縁放熱シート等として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、更に詳しく本発明について説明する。先ず、本発明の物質について説明する。本発明の物質は、六方晶窒化ホウ素(h−BN)及び六方晶炭窒化ホウ素(h−BCN)の混合物である。h−BN、乱層構造炭窒化ホウ素(t−BCN)及び低結晶性のh−BCNは既知の物質であるが、高結晶性のh−BCNは新規物質であるため、h−BN及び高結晶性h−BCNの混合物からなる本発明の物質は、新規物質である。
【0015】
本発明の混合物が高い結晶性を有することは、粉末X線回折測定法における結晶性の指標である黒鉛化指数(GI=Graphitization Index)を用いて確認することができる。GIは、X線回折図の(100)、(101)及び(102)線の積分強度比すなわち面積比を次式によって算出して求める(J.Thomas,et.al,J.Am.Chem.Soc. 84,4619(1962))。GIの値が小さいほど、高結晶性である。
GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕
【0016】
本発明のh−BN及びh−BCNの混合物のGIは7.0以下である。GIが7.0を超えると熱伝導性、化学的安定性、固体潤滑性、耐熱衝撃性及び電気絶縁性等の優れた特性を発揮することができないため、本発明には適さない。
【0017】
次に、本発明の物質(h−BN及びh−BCNの混合物)の製造方法について説明する。本発明のh−BN及びh−BCNの混合物の成分であるh−BCNは、炭化ホウ素(BC)を窒素雰囲気下で加熱することによって得られる。但し、従来通りBCのみを加熱すると、h−BNとC(黒鉛)の混合物が生成(特許文献6)するか、あるいは乱層構造(t−BCN)及び/又は低結晶性のh−BCNが生成(非特許文献1)してしまい、何れの場合も熱伝導性、化学的安定性、固体潤滑性、耐熱衝撃性及び電気絶縁性の優れた特性を発揮することができない。
【0018】
本発明者等は、h−BNとBCの混合物を窒素雰囲気下で加熱することによって、従来法の有する上記問題点が解消され、優れた特性を有するh−BN及びh−BCNの混合物が得られることを知得し、本発明を完成するに至った。
【0019】
本発明に用いるh−BN及びBCは、一般的なもので良く、例えば市販のh−BN粉末及びBC粉末を用いることができる。BC粉末は、粒径が小さいほど反応しやすくなるため、例えばレーザー回折散乱法における平均粒径(D50)が30μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。h−BNとBCの混合は、乳鉢混合等の手混合による方法、ロッキングミキサー、ヘンシェルミキサー又はボールミル等の混合機を用いた方法の何れでも良いが、混合が強力過ぎる場合はBCが硬いため混合機の容器や混合媒体(羽根やボール等)が混合中にBCとの接触によって摩耗し、不純物が混入する問題が発生しやすいので注意が必要である。h−BN粉末は、レーザー回折散乱法における平均粒径(D50)が0.1μm以上100μm以下のものであればよい。
【0020】
h−BN及びh−BCNの混合物中における各成分の割合は、原料であるh−BN及びBCの配合割合によって調整することが可能である。すなわちBCの配合割合がh−BCNの成分割合に対応する。一方、BCのみからなる原料を用いた場合、h−BNと黒鉛(C)の混合物が生成する(特許文献6)、又は乱層構造のBCN(t−BCN)若しくは低結晶性のh−BCNが生成する(非特許文献1)。このため、何れも本発明には適さない。
【0021】
混合した原料をh−BN製又は黒鉛製の反応容器に充填後、電気炉内に配置し、炉内を窒素雰囲気にして加熱することで原料中のBCがNと反応してh−BN及びh−BCNの混合物生成する。反応を促進するため雰囲気の圧力は常圧よりも高い方が好ましく、0.1MPa以上1MPa以下が好ましい。加熱温度は、1950℃以上2500℃以下であるが、さらに好ましくは2300℃以上2500℃以下である。温度が1950℃未満ではt−BCN又は低結晶性のh−BCNが生成する。また温度が2500℃を超えても格別の効果は得られず加熱に要するエネルギーを徒に消費してしまう。このため、何れも本発明には適さない。なお、窒素雰囲気の形成は、純粋な窒素ガス(N)で炉内を充満することの他、必要に応じてNをアルゴン等の不活性ガスで希釈することや、高温で分解してNを発生するアンモニア(NH)を使用することによっても可能である。
【0022】
CがNと反応した後に電気炉を冷却して反応容器を取り出し、容器内の生成物を回収することによって本発明の混合物を得ることができる。その後粉末X線回折法にてGIを測定することによって、本発明の混合物の結晶性を確認することができる。
【0023】
次に、本発明のh−BN及びh−BCNの混合物の用途である、樹脂及び/又はゴム組成物について説明する。本発明のh−BN及びh−BCNの混合物が、本発明の樹脂及び/又はゴム組成物を占める含有率としては、樹脂及び/又はゴムの種類と用途によって異なるが20体積%以上97体積%以下であり、好ましくは40体積%以上90体積%以下である。含有率が20体積%未満であると、h−BCNが少ないため含有の効果が顕著ではなくなる。一方、97体積%を越えると成形性が損なわれ、未充填部やボイドが発生し、電気絶縁性や信頼性が損なわれる。
【0024】
本発明で使用される樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリピラゾール、ポリキノキサリン、ポリキナゾリンジオン、ポリベンズオキサジノン、ポリインドロン、ポリキナゾロン、ポリインドキシル、シリコン樹脂、シリコン−エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ポリアミノビスマレイミド、ジアリルフタレート樹脂、フッ素樹脂、メチルペンテンポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、66−ナイロン及びMXD−ナイロン、アモルファスナイロン等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル−エチレン・プロピレン・ジエンゴム−スチレン)樹脂等があげられる。
【0025】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール系硬化剤、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸等の酸無水物系硬化剤等をあげることができる。その使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対し30質量部以上90質量部以下が好ましい。
【0026】
本発明で使用されるゴムとしては、天然ゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ポリエステルエラストマー、ポリブタジエン等の合成ゴムである。
【0027】
更に、本発明の樹脂及び/又はゴム組成物には、必要に応じて以下の硬化促進剤、触媒、加硫剤、滑剤・離型剤、安定剤、光安定剤、着色剤、難燃剤、カップリング剤等を配合することもできる。
【0028】
硬化促進剤としては、ベンゾグアナミン、2,4−ジヒドラジノ−6−メチルアミノ−S−トリアジン、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、弗化ホウ素の各種アミン錯体、トリスジメチルアミノメチルフェノール、1,8−ジアザ・ビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7,ベンジルジメチルアミン等の第3級アミン化合物、ジシアンジアミド、ビスフェノール型エポキシ樹脂もしくはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とアンモニアとの反応により得られるアミノアルコール化合物、アジピン酸ヒドラジド等の含窒素硬化促進剤、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン等の有機ホスフィン系硬化促進剤等をあげることができる。
【0029】
触媒としては、ビス−(トリブチル錫)オキシド、ジオクテン酸錫、オクタン酸アンチモン、酪酸錫、一酸化鉛、硫化鉛、炭酸鉛等の硬化触媒、白金化合物等の重合触媒等をあげることができる。
【0030】
加硫剤としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等をあげることができる。
【0031】
滑剤・離型剤としては、カルナバワックス、モンタナワックス、ポリエステルオリゴマー、シリコン油、低分子量ポリエチレン、パラフィン、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド、エステル等をあげることができる。
【0032】
安定剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、1,3,5−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェノール)ブタン、ジステアリルチオジプロピオネート、トリノニルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト等をあげることができる。
【0033】
光安定剤については、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−t−ブチルフェニルサリチレート、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等をあげることができる。
【0034】
着色剤としては、ベンガラ、カーボンブラック等をあげることができる。
【0035】
難燃剤としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、トリフェニルスチビン、水和アルミナ、フェロセン、ホスファゼン、ヘキサブロモベンゼン、テトラブロモフタル酸無水物、トリクレジルホスフェート、テトラブロモビスフェノールA、臭素化エポキシ誘導体等をあげることができる。
【0036】
カップリング剤については、ビニルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、イソプロピルトリインステアロイルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタン系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤等をあげることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により、本発明に係る六方晶窒化ホウ素(h−BN)及び六方晶炭窒化ホウ素(h−BCN)の混合物、その製造方法及び組成物をさらに詳細に説明する。しかし、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
h−BN粉末(電気化学工業製、GP、平均粒径8μm)5gと、BC粉末(電気化学工業製、#1200、平均粒径0.8μm)5gを、メノウ乳鉢を用いて5分間混合した。これを黒鉛製のルツボに充填した後、電気炉(富士電波工業製、ハイマルチ5000)内に配した。炉内を真空排気した後、窒素ガスを圧力0.1MPaまで充填した。次いで10℃/分の速度で加熱・昇温し、2000℃に達してから1時間保持した。
【0039】
その後、加熱を止めて冷却し、温度が100℃以下まで下がった時点で炉体を開放して黒鉛ルツボを取り出し、生成物を回収した。反応前後の質量変化は窒素の付加によるものと見なし、質量増加分から次式により反応率(x:0〜1)を算出したところ、0.86であった。
C + 2xN → xBCN +(1−x)B
【0040】
次いで生成物をメノウ乳鉢で解砕して得た粉末を用い、X線回折装置(日本電子製、JDX−3500)にて以下の条件にて粉末X線回折測定を行った。
管球 : Cu回転対陰極(CuKα;λ=1.54056Å)
出力 : 40kV-300mA
検出器 : シンチレーションカウンター
フィルター : モノクロメータ
スリット条件 : ソーラースリット 5°(入射、受光)
DS−SS−RS = 1°−1°−0.2mm
Scan条件 : ステップスキャン法
ステップ幅;0.02° 計数時間;0.5秒
測定範囲 : 2θ=10〜70°
【0041】
得られたX線回折パターンからは、h−BN及びh−BCNに帰属される回折線だけが認められ、生成物がh−BN及びh−BCNの混合物であることが分かった。
【0042】
さらに、X線回折図の(100)、(101)及び(102)線の積分強度比すなわち面積比より混合物の黒鉛化指数(GI)を算出したところ、5.2であった。
【0043】
(実施例2〜9)
表1に示す条件の他は実施例1と同様にして原料混合物の混合、窒素雰囲気下での加熱を行った。得られた生成物の質量から反応率を算出し、さらに粉末X線回折法によって生成物の結晶相を同定し、GIを算出した。これらの結果は表2にまとめて示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
(比較例1)
加熱時の保持温度を1900℃とした他は実施例1と同様にして、表1に示す条件にて原料混合物の混合、窒素雰囲気下での加熱を行った。得られた生成物の質量から反応率を算出したところ0.76であった。さらに粉末X線回折法によって生成物の結晶相を同定したところ、生成物は、h−BNと、非晶質の乱層構造炭窒化ホウ素(t−BCN)の混合物であり、混合物のGIを算出したところ10.5であった。これらの結果は表2にまとめて示した。
【0047】
(比較例2)
原料にh−BNを用いずにBCのみを用い、その他は実施例2と同様にして、表1に示す条件にて窒素雰囲気下での加熱を行った。得られた生成物の質量から反応率を算出したところ0.78であった。さらに粉末X線回折法によって生成物の結晶相を同定したところ、生成物は、結晶性の低いh−BCNであり、GIを算出したところ7.6であった。
【0048】
(実施例10〜11、比較例3〜4)
実施例1〜2で得られたh−BN及びh−BCNの混合物、又は比較例1で得られたh−BN及びt−BCNの混合物若しくは比較例2で得られたh−BCNの何れかの粉末100質量部と液状シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製商品名「CF−3110」)50質量部の混合物にトルエン100質量部と加硫剤(東レダウコーニング製 RC−4)0.5質量部を加えてスラリーを調製し、自動塗工装置(テスター産業製 PI−1210)を用いてグリーンシートに成形した後、加熱加硫し、厚み0.20mm(0.0002m)の絶縁放熱シートを製造した。
【0049】
これをTO−3型銅製ヒーターケースと銅板の間にはさみ、締め付けトルク5kgf−cmでセットした後、ヒーターケースに電力15Wをかけて5分間保持した後ヒーターケースと銅板の温度差を測定し、熱抵抗(℃/W)=温度差(℃)/電力(W)により、絶縁放熱シートの厚さ方向の熱抵抗を算出した。 更に、ヒーターケースと銅板の伝熱面積を6cm(=0.0006m)と仮定して、熱伝導率(W/m・K)=〔電力(W)×シート厚さ(0.0002m)÷伝熱面積(0.0006m)〕÷温度差(℃)により、絶縁放熱シートの厚さ方向の熱伝導率を算出した。これらの結果は表3にまとめて示した。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例と比較例の対比から、本発明の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物は高い結晶性と優れた熱伝導性を示しているが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物は、従来にない高結晶性六方晶炭窒化ホウ素を含む、新規物質である。本発明の製造方法によれば、高い反応率で効率良く六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物を製造することができる。本発明によって得られる六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物を、例えば高熱伝導性フィラーとして樹脂等のマトリックスに充填した複合材料は、産業分野に広く使用することができる。
【0053】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物は、熱伝導性以外の化学的安定性、固体潤滑性、耐熱衝撃性及び電気絶縁性の優れた特性を発揮することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛化指数が7.0以下である六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物。
【請求項2】
六方晶窒化ホウ素及び炭化ホウ素の混合物を窒素雰囲気下、1950℃以上2500℃以下で加熱することを特徴とする六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物の製造方法。
【請求項3】
前記炭化ホウ素は、レーザー回折散乱法における平均粒径(D50)が30μm以下である粉末であることを特徴とする請求項2に記載の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物の製造方法。
【請求項4】
前記炭化ホウ素は、レーザー回折散乱法における平均粒径(D50)が5μm以下である粉末であることを特徴とする請求項3に記載の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物の製造方法。
【請求項5】
前記六方晶窒化ホウ素は、レーザー回折散乱法における平均粒径(D50)が0.1μm以上100μm以下の粉末であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか一に記載の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物の製造方法。
【請求項6】
樹脂及び/又はゴムに請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素及び六方晶炭窒化ホウ素の混合物を含有させてなることを特徴とする組成物。

【公開番号】特開2013−53016(P2013−53016A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190291(P2011−190291)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】