説明

六角セルハニカム構造体

【課題】特に自動車排ガス浄化用触媒担体として好適に用いられる機械的強度が大きく、浄化性能が良好で、かつ圧力損失の小さい六角セルハニカム構造体を提供する。
【解決手段】複数のセル通路隔壁を有するハニカム構造体1である。セル3の断面形状が六角形状であり、断面において六角セルの対向した一対の頂点を結び、かつ、六角セルがその軸について対称な形状となる軸をC軸、前記断面におけるC軸に垂直方向の軸をB軸とし、C軸と交差する六角セルの一辺とB軸とのなす角度を隔壁角度(θ)とすると、当該セルの隔壁角度(θ)の範囲が30<θ<45°であり、アイソスタティック破壊強度が4MPa以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車排ガス浄化用触媒担体として好適に用いられるハニカム構造体とその把持方法に係り、さらに詳しくは、機械的強度が大きく、浄化性能が良好で、圧力損失の小さい六角セルハニカム構造体とその把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護運動の高まりもあって、排ガス規制強化が各国で進められている。これに伴い、エンジン自体からの炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害物質排出量を低減する改良が進められ、また、現在、主流となっている排ガスの三元浄化触媒の改良も進み、これら両方の効果で有害物質の排出量は着実に低減される傾向にある。
【0003】
こうして通常の走行状態における全般的な排出物が低減する一方で、エンジンの始動直後に排出される有害物質の量がクローズアップされている。例えば、米国の規制走行サイクルであるFTP−75においては、エンジン始動直後の140秒間で全走行サイクルで排出される総排出量の60〜80%が排出されており、問題視されている。
【0004】
これはエンジン始動直後では排ガス温度が低いため触媒が十分に活性化されず、有害物質が浄化されずに触媒を通過してしまうことに起因する。また、エンジン始動直後では、燃焼状態も安定しておらず、三元触媒の浄化性能を左右する重要な因子である排ガスのA/F(空燃比)、すなわち、排ガス中の酸素量の割合が変動していることも原因の一つとなっている。
【0005】
ここで、A/Fが14.7の理論空燃比になったときに、触媒は最も効果的に浄化性能を発現する。このため、エンジン始動直後の触媒の温度を早く上昇させるために、触媒の位置をできる限りエンジンに近づけて排ガス温度の高い場所に触媒を置いたり、触媒担体たるハニカム構造体自体の熱容量を下げたり、あるいは早く排ガスの熱を吸収し、かつ触媒と排ガスの接触面積を増大させるためにハニカム構造体のセル密度を大きくする工夫が行われている。
【0006】
また、エンジンにおいては、A/Fをできる限り早く理論空燃比に到達させる改良がなされている。一方、触媒にあっては、A/Fの変動をできる限り抑えるために、触媒作用を有する白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属にセリアやジルコニアなどを加えて、排ガス中の酸素を貯蔵脱離する手段が採られている。これらの貴金属や酸素貯蔵物質は、ハニカム構造体における多孔質なセル通路隔壁(リブ)表面に担持されているγアルミナ層の細孔内に分散して存在している。
【0007】
上記改良を行った具体例としては、セルの断面形状が三角形(三角セル)、四角形(四角セル)、六角形(六角セル)であって、各セルの角部に所定の大きさのフィレット部を設けたハニカム構造体を挙げることができる(例えば、特許文献1参照)。また、六角セルでセル隅部に湾曲又はR(半径1mm以上)を設けたハニカム構造体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、リブ厚さ0.05〜0.150mm、開口率0.65〜0.95で嵩密度の上下限を定めたハニカム構造体において六角セルが用いられており(例えば、特許文献3参照)、エンジン近くに配置された、六角セルからなるハニカム構造体(リブ壁厚が0.17mm、セル密度が62個/cm)が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開昭56−147637号公報
【特許文献2】特開昭62−225250号公報
【特許文献3】特開平7−39760号公報
【特許文献4】特開平8−193512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1(特開昭56−147637号公報)記載の六角セルからなるハニカム構造体(以下、「六角セルハニカム構造体」という。)は、γアルミナ等の被膜がセル隅部に溜まることを避けることと目的としており、また、排ガスがγアルミナ層に担持されている貴金属に効率よく接触させることを目的としたものである。また、特許文献2(特開昭62−225250号公報)記載の六角セルハニカム構造体は、セル隅部に溜まった膜が衝撃や熱変化で剥離することを避ける目的でなされたものであるが、実施例において、六角セルハニカム構造体のリブ厚さとセル密度については記載がない。
【0009】
一方、特許文献3(特開平7−39760号公報)記載の発明は、開口率を高めて圧力損失を低減させつつ担体の熱容量を下げてコールドスタート時の触媒温度上昇を高めることを目的としている。また、特許文献4(特開平8−193512号公報)には、三角セルハニカム構造体や四角セルハニカム構造体よりも耐熱衝撃性の良い六角セルハニカム構造体を排ガス温度の高いエンジン近くの位置に配置して、触媒の暖機特性を改善するとの記載がある。しかしながら、その一方で、六角セルハニカム構造体よりも三角セルハニカム構造体や四角セルハニカム構造体の方が同一セル密度ではGSA(幾何学的表面積(Geometric Surface Area))が大きいので、暖機完了後は三角セル又は四角セルの方が六角セルよりも浄化性能が良いため、エンジンより遠い位置の触媒には三角セルハニカム構造体又は四角セルハニカム構造体が好ましいとの記載がある。
【0010】
このように、上記従来技術は、主にその浄化性能や触媒性能における耐久性の観点からなされたものであり、ハニカム構造体の強度等については考慮されていない。また、従来のハニカム構造体においては、三角セル、四角セル、六角セルの3種類が主なものであるが、このうち四角セル、特に、正方形セルが最も多く採用されている。これは、正方形セルは他の形状に比べて浄化性能、圧損性能、強度の点でバランスが良く優れており、ハニカム構造体を押出成形する際に使われる口金が作り易いことによるところが大きい。したがって、同一リブ厚さ、同一セル密度の条件でこれらを比較すると、従来は表1に示すランク付けとなっていた。
【0011】
【表1】

【0012】
六角セルハニカム構造体は浄化性能において正方形セルハニカム構造体とほぼ同等であり、また、圧損性能において優れるが、構造的に低剛性であり、強度が低いことから、自動車排ガス浄化用触媒担体としてはこれまで実用化されていなかった。そこで、六角セルハニカム構造体は、脱臭用触媒担体等の用途といった、あまり大きな強度を必要としない定置式装置での実用化に限られていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、六角セルハニカム構造体の強度特性を向上させ、六角セルハニカム構造体を、自動車排ガス浄化用触媒担体として実用ならしめることにある。すなわち、本発明によれば、複数のセル通路隔壁を有するハニカム構造体であって、セルの断面形状が六角形状であり、前記断面において六角セルの対向した一対の頂点を結び、かつ、六角セルがその軸について対称な形状となる軸をC軸、前記断面におけるC軸に垂直方向の軸をB軸とし、C軸と交差する六角セルの一辺とB軸とのなす角度を隔壁角度(θ)とすると、当該セルの隔壁角度(θ)の範囲が30<θ<45°であり、アイソスタティック破壊強度が4MPa以上であることを特徴とする六角セルハニカム構造体、が提供される。この六角セルハニカム構造体においては、隔壁角度θの範囲が35<θ<40°であることがさらに好ましい。
【0014】
上述した本発明の六角セルハニカム構造体は、コージェライト、アルミナ、ムライト、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニアのいずれかのセラミック材料もしくは耐熱金属鋼からなることが好ましく、耐熱金属鋼としては、特に、ステンレス鋼が好適に用いられる。また、上述した六角セルハニカム構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の六角セルハニカム構造体(以下、「六角セルハニカム」という。)によれば、機械的強度の向上が図られ、この六角セルハニカムを安定に把持することにより、特に、自動車排ガス浄化用触媒担体として用いた場合に、優れた耐久性能、浄化性能、低圧損性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1に、本発明の六角セルハニカムの一実施形態を示す断面図を示す。六角セルハニカム1は、複数のセル3を隔離するセル通路隔壁2を有し、セル3の断面形状が六角形状のもの(六角セル3)である。ここで、この六角セル3の形状を決める形状因子は図1中の部分拡大図に示されるように、隔壁角度θ、隔壁厚t、隔壁長さhおよびLである。ここで、隔壁角度θは、C軸と交差する六角セル3の一辺とB軸とのなす角をいう。したがって、図1に示すように、セル形状が正六角形の場合には、θ=30度、隔壁長さのアスペクト比(h/L)が1となる。なお、B軸およびC軸の定義については後述する。
【0017】
しかし、本発明の六角セルハニカム1において、セル形状が正六角形であることは必ずしも必要ではなく、複数の六角形を密に充填することができるような六角形状、例えば、対向する一対の辺の長さhが、他の辺の長さLよりも多少長く、あるいは短いものであってもよい。
【0018】
このような六角セル3は、図2に示すように、各頂点7が鈍角であるため、三角セル5や四角セル4よりも、セル通路隔壁2にコーティング形成されるγアルミナ触媒層6(以下、「コート層6」という。)が均一な厚さとなるので、浄化触媒が全体的に有効に排ガスと接触できるようになり、触媒の高浄化性能化が可能となる。また、水力直径Rを大きくとれるので低圧損化が可能となる。
【0019】
さらに、コート層6が均一に形成されることで、排ガスの熱が全体的に均一にコート層6を伝導し、さらにセル通路隔壁2に伝導するので、六角セルハニカム1の温度がより早く均一化し易く、ウォームアップ性能の向上が図られる。また、コート層6自体も早く均一に加熱されることから、コート層6内に分布している触媒成分が全体的に均一に活性を呈するようになり、結果として触媒の暖機特性が改善され、浄化性能が向上する。
【0020】
なお、近年、触媒性能の向上と触媒の劣化抑制を目的として触媒層を2層又は複層構造として、各層に違った触媒成分を担持する方法が開発されてきている。複層構造において、このような各コート層の厚さの均一性は、触媒活性に大きな影響を与えるものと考えられる。つまり、セル通路隔壁2に近い層(下層)は排ガスが通るセル通路に面する層(上層)よりも排ガスから遠いために、温度上昇が上層よりも遅くなって、触媒活性が現れるまでに時間がかかるといった大きな問題が現れることとなる。このような六角セルハニカムにおけるコート層6の厚さの均一性の効果は三元触媒を用いた場合に限ったことではなく、ゼオライト系や金属系などの各種触媒にも期待できる。したがって、このような点からも、六角セルハニカムは優れた特徴を有しているといえる。
【0021】
次に、六角セルハニカム1の機械的特性について説明する。一般的に、ハニカム構造体の機械的強度の評価は、軸方向の圧縮破壊強度およびアイソスタティック強度により評価される。ここで、圧縮破壊強度は、機械構造部材として、ハニカム構造体に要求される機械的特性の一つであり、社団法人自動車技術会発行の自動車規格JASO規格M505−87で正方形セル形状についてA軸、B軸、C軸の各軸について測定することが規定されている。
【0022】
しかしながら、六角セルハニカム1については、各軸の取り方が明定されていない。そこで、本発明においては、C軸とは、六角セル3における対向した一対の頂点を結び、かつ、六角セル3がそのC軸について対称な形状となる軸であり、一方、A軸をセル3の通路方向であるセル3の断面に垂直な方向としたときに、B軸は、A軸とC軸の両軸に垂直な方向の軸であると定義する。
【0023】
このとき、B軸圧縮破壊強度は、六角セルハニカムのB軸方向から、端面がA−C軸断面に平行であり、B軸が長さ方向となる25.4mmφ×25.4mmの円柱形状試料を切り出し、B軸方向に圧縮したときの破壊荷重を圧縮面の面積で除した値で与えられる。同様にC軸圧縮破壊強度は、端面がA−B軸平面に平行であり、C軸が長さ方向となるように切り出された25.4mmφ×25.4mmの円柱形状試料をC軸方向に圧縮して測定される。なお、A軸圧縮破壊強度は、セル通路断面(B−C軸断面)に平行な端面を有し、A軸を長さ方向とする前記同形状の円柱状試料を六角セルハニカム1から取り出し、A軸方向に圧縮したときの破壊荷重を圧縮面の面積で除した値で与えられる。
【0024】
一方、アイソスタティック破壊強度は、通常、自動車排ガス浄化用触媒担体は、触媒担体の外周面把持による構造を採用して装着されることから、この把持面圧に対する十分な強度、耐久性を有しているかどうかを評価する有用な特性である。このアイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器に担体を入れてアルミ製板で蓋をして、水中で等方加圧圧縮を行う試験であり、コンバーターの缶体に担体が外周面把持される場合の圧縮負荷加重を模擬した試験で、アイソスタティック破壊強度は、担体が破壊したときの加圧圧力値で示され、社団法人自動車技術会発行の自動車規格JASO規格M505−87で規定されている。
【0025】
これら各種の破壊強度については、後述する実施例に示すように、C軸圧縮破壊強度とB軸圧縮破壊強度の比(圧縮破壊強度比C/B)とアイソスタティック破壊強度の間には明瞭な相関関係が見られ、圧縮破壊強度比C/Bが0.9以上であることがアイソスタティック破壊強度上好ましい。
【0026】
また、隔壁角度θが大きくなるほどC軸とB軸の各圧縮破壊強度平均値の比は大きくなり、C軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度はともに向上するが、アイソスタティック破壊強度は、隔壁角度θが大きくなり過ぎると逆に低下する傾向を示す。このことから、アイソスタティック破壊強度の向上には、C軸とB軸の圧縮破壊強度のバランスが重要な影響を与えており、隔壁角度θを正規の30°よりも大きくすることでC軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度をともに向上させることが可能である。アイソスタティック破壊強度の点から、隔壁角度θの範囲は30°<θ<45°、望ましくは35°<θ<40°とすることが好ましい。
【0027】
本発明において、六角セルハニカム1を形成する材料は、コージェライト、アルミナ、ムライト、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニアのいずれかのセラミック材料もしくは耐熱金属鋼、特にステンレス鋼からなることが好ましい。なお、上述した六角セルハニカム1の機械的特性は、六角セル3の幾何学的特性に起因していると考えられるので、材料が異なれば、機械的強度の値自体は異なったものとなるものの、例えば、好適な隔壁角度θや圧縮破壊強度比C/B等は、製法と材料によらない普遍的な機械的強度特性に対するパラメータと考えることができる。
【0028】
本発明の六角セルハニカムは、低圧力損失性能および優れた機械的特性を有し、また、六角セルハニカムにコート層を設けた場合には、優れた排ガス浄化性能が得られることから、自動車排ガス浄化用触媒担体として、特に好適に用いられる。なお、本発明の六角セルハニカムは、自動車排ガス浄化用触媒担体としてだけでなく、各種排ガス浄化処理用触媒担体、各種排ガス微粒子濾過フィルタ、各種液体濾過フィルタ、各種化学反応用触媒担体など、そのハニカム構造体が何らかの外圧による把持が必要な場合に応用できる。
【0029】
次に、六角セルハニカムの把持方法について説明する。六角セルハニカムを排ガス浄化用触媒担体として用いる場合には、触媒担体はその外周面で缶体に把持され、コンバーターとされる。そこで、六角セルハニカムをその外周面で把持するにあたり、上述した機械的特性、特に、隔壁角度θが30゜より大きい場合には、C軸圧縮破壊強度がB軸圧縮破壊強度よりも高くなることを考慮すると、六角セルハニカムはその外周面において、主にC軸方向で把持されることが好ましい。したがって、六角セルの通路方向に垂直なB−C軸断面での六角セルハニカムの形状が楕円もしくは長円である場合には、六角セルハニカムのC軸方向を、この楕円もしくは長円の短径方向と一致させて、C軸方向で把持すると、安定にかつ強固に把持でき、しかも信頼性に優れる。
【0030】
一方、セル3における隔壁角度θが30°以下の形状を有する場合には、後述する実施例において示すように、B軸圧縮破壊強度の方がC軸圧縮破壊強度よりも大きくなる。したがって、このような場合には、六角セルハニカムは、その外周面においてB軸方向で把持することが好ましく、六角セルハニカムのB−C軸断面の形状が楕円もしくは長円である場合には、B軸方向を、これら楕円もしくは長円の短径方向と一致させてB軸方向で把持することが、六角セルハニカムを最も安定に、かつ強固に把持できる方法である。
【0031】
なお、上述したC軸方向把持、B軸方向把持のいずれの場合においても、B−C軸断面での六角セルハニカムの形状は、楕円や長円に限定されず、円形や長方形、多角形であってもよく、いずれの形状であっても、ハニカム構造体を形成する六角セルの形状(隔壁角度θ)に応じて、把持方向を決定すればよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明をさらに実施例により詳細に説明する。
【0033】
タルク、カオリン、アルミナ等からなる混練原料を押出成形した後、乾燥、焼成してコージェライト質の六角セルハニカムを作製し、試験に供した。表2に、作製した六角セルハニカムの形状を特定するための種々のパラメータを示す。ここで、例えば、セル数600Cpsiとは1平方インチ当たりに600個のセルが存在することを意味している。
【0034】
【表2】

【0035】
自動車排ガス浄化用触媒担体としてのハニカム構造体には、触媒の担持性能、すなわちコート層の形成能以外に、構造体として、圧縮破壊強度、アイソスタティック破壊強度および耐熱衝撃性の3種の基本性能に優れることが要求される。そこで、作製した六角セルハニカムの試験は、圧縮破壊強度試験、アイソスタティック破壊強度試験および耐熱衝撃試験について、ハニカム構造体の各形状について5個あるいは10個を試験し、その平均値を求めることで行った。試験結果を表2に並記する。
【0036】
ここで、圧縮破壊強度試験は、前述した社団法人自動車技術会発行の自動車規格JASO規格M505−87における正方形セルについての規定に準じて、本発明の六角セルハニカムにおいて定義したA軸、B軸、C軸の各軸について行い、例えば、B軸圧縮破壊強度は、六角セルハニカムのB軸方向から、端面がA−C軸断面に平行であり、B軸が長さ方向となる25.4mmφ×25.4mmの円柱形状試料を切り出し、B軸方向に圧縮したときの破壊荷重を圧縮面の面積で除した値で与えられる。他のA軸、C軸についても同様である。
【0037】
また、アイソスタティック破壊強度試験は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格JASO規格M505−87の規定に基づいて行った。耐熱衝撃性試験の基本的な方法はJASO規格M505−87に規定されており、室温から所定温度ほど高い温度に保った電気炉に、室温のハニカム構造体を入れて20分間保持後、耐火レンガ上へ担体を取り出し、外観を観察して金属棒で担体外周部を軽く叩く。クラックが観察されず、かつ打音が金属音で鈍い音がしなければ合格となり、電気炉内温度を50℃ステップで順次上げていく毎に同様の検査を不合格になるまで繰り返す。したがって、室温+950℃で不合格となる場合には、耐熱衝撃性は900℃差ということになる。
【0038】
次に、試験結果について考察する。まず、各形状の六角セルハニカムの作製にあたって使用された押出成形用口金のハニカムを成形する部分のスリットは厳密に正六角形に加工されているものであり、その加工精度は角度で±0.5度未満であった。
【0039】
しかしながら、実際に作製された六角セルハニカムには、部分的に微少にC軸方向にセルが潰れたように変形した箇所があった。これは、押出成形時には、原料が口金のスリットを通過してハニカム構造体が成形されるが、押出成形後に六角セルハニカムをその外周面でもって治具で受け止めるときに六角セルハニカムの自重で外壁および外周部のセル通路隔壁が変形することが原因と考えられる。
【0040】
このことは、コージェライト製の六角セルハニカムに限らず、アルミナ、ムライト、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア等のセラミック材料あるいは耐熱性ステンレス材料等の焼結金属材料を押出成形する場合にも当てはまるものと考えられる。すなわち、原料粉体に水、バインダーを混ぜて混練したものを押出成形した場合には、原料によらずに六角セルハニカムの隔壁の変形が起こるものと推測される。
【0041】
さて、六角セルハニカムの剛性は理論的には等方的であることから、B軸圧縮破壊強度とC軸圧縮破壊強度は、当然に同等となると予想されたが、結果的に、C軸圧縮破壊強度が低い試料の方が多かった。一方、アイソスタティック破壊強度試験後の試料における破壊付近を調べると、比較的アイソスタティック破壊強度の低い試料において、幾つかのセルがC軸方向に若干潰れたように変形している様子が観察された。したがって、C軸方向におけるセル形状の潰れ変形がC軸圧縮破壊強度に影響を及ぼしているものと考えられる。
【0042】
つまり、アイソスタティック破壊強度試験は六角セルハニカムの外周面に圧力を加えるので、アイソスタティック破壊強度は、B軸とC軸の各圧縮破壊強度との関連が強いことは容易に推察されるが、六角セルハニカムにおいては、本試験結果より、B軸よりもC軸方向の負荷により変形破壊が起こり易いと考えられる。
【0043】
そこで、表2の試験結果から、B軸とC軸圧縮破壊強度およびアイソスタティック破壊強度の関係を調査した。その結果、図3〜5に示すように、B軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度との間には明瞭な関係が見られないが、C軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度との間に不明瞭ながら正の相関関係が見られ、C軸圧縮破壊強度とB軸圧縮破壊強度の比とアイソスタティック破壊強度の間には明瞭な正の相関関係が見られた。
【0044】
自動車排ガス浄化用触媒担体は、通常、担体の外周面把持による構造を採用しているため、把持面圧は最低保証値を0.5MPa望ましくは1.0MPaとすることとされており、このため、自動車排ガス浄化用触媒担体のアイソスタティック強度の平均レベルは3.0MPa以上望ましくは4.0MPa以上が要求される。したがって、本試験結果から、アイソスタティック破壊強度が3MPaを越えるときの圧縮破壊強度比C/Bの下限値は0.9と判断され、この値以上であると機械強度的に好ましい。
【0045】
さて、耐熱衝撃試験の結果は、表2に記載していないが、各種セル構造のハニカム構造体について全て850から900℃差の範囲内で顕著な差異がなかった。排ガス温度が年々上昇してきており、ハニカム構造体に要求される耐熱衝撃性が厳しくなってきている中、耐熱衝撃性は実用上、750℃差以上望ましくは800℃差以上が要求されるが、六角セルハニカムは、この耐熱衝撃性をクリアする特性を有することが確認された。
【0046】
さて、上記試験結果から、六角セルハニカムにおけるB軸圧縮破壊強度とC軸圧縮破壊強度およびアイソスタティック破壊強度の特性は、セル形状が六角形であるという幾何学的特性に起因していると考えられ、製法や材料に依存しない普遍的な機械的強度特性に対するパラメータと考えられた。そこで、セル形状がハニカム構造体の機械的強度に及ぼす影響を調べるために、次に、隔壁厚さ、セル数、試料寸法は全て同じ条件とし、意図的に六角セルの隔壁角度θを正六角形の30゜を中心に大小変化させて、C軸方向に変形した六角セル形状を有する各種コージェライト質六角セルハニカムを押出成形法を用いて製作し、上記試験と同様に、ハニカムC軸とB軸の圧縮破壊強度平均値の比およびアイソスタティック破壊強度を測定した。試験結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
隔壁角度θが大きくなるほどC軸とB軸の各圧縮破壊強度平均値の比は大きくなり、C軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度はともに向上するが、アイソスタティック破壊強度は、隔壁角度θが大きくなり過ぎると逆に低下する傾向が観察された。このことから、アイソスタティック破壊強度の向上には、C軸とB軸の圧縮破壊強度のバランスが重要であり、隔壁角度θを正規の30°よりも大きくすることでC軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度を向上させることが可能である。本試験結果より、アイソスタティック破壊強度上の点から、隔壁角度θの範囲は、30°<θ<45°の範囲にあることが好ましく、35°<θ<40°の範囲にあることがより好ましい。
【0049】
なお、隔壁角度θが30゜よりも大きい場合に、C軸圧縮破壊強度がB軸圧縮破壊強度よりも大きくなることを利用し、ハニカム構造体をその外周面で把持する場合には、C軸方向で主に把持するようにする方法が好ましいと考えられる。例えば、六角セルハニカムのB−C軸断面の形状が楕円の場合にはC軸方向と、この楕円の短径方向を一致させ、把持力を主にC軸方向で受けるようにすると好ましい。
【0050】
逆に、セル形状が隔壁角度θが30°の正六角形の場合又は30°未満の場合には、B軸圧縮破壊強度の方がC軸よりも高くなるので、把持する方向をB軸方向にすることで、ハニカム構造体の把持構造の信頼性を向上させることができることは容易に類推される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上述の通り、本発明の六角セルハニカム構造体は、機械的強度の向上が図られ、自動車排ガス浄化用触媒担体として用いた場合に、優れた耐久性能、浄化性能、低圧損性を示す優れた効果を奏する。したがって、自動車排ガス浄化用触媒担体等として有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による六角セルハニカムの構造の一実施形態を示すセル通路に垂直な面内における断面図である。
【図2】各種のセル形状と水力直径、触媒層の形成状態を示す説明図である。
【図3】実施例および比較例におけるB軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度との関係を示すグラフである。
【図4】実施例および比較例におけるC軸圧縮破壊強度とアイソスタティック破壊強度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例および比較例におけるC軸圧縮破壊強度とB軸圧縮破壊強度との比とアイソスタティック破壊強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1…六角セルハニカム、2…セル通路隔壁、3…セル(六角セル)、4…四角セル、5…三角セル、6…γアルミナ触媒層(コート層)、7…頂点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセル通路隔壁を有するハニカム構造体であって、
セルの断面形状が六角形状であり、前記断面において六角セルの対向した一対の頂点を結び、かつ、六角セルがその軸について対称な形状となる軸をC軸、前記断面におけるC軸に垂直方向の軸をB軸とし、C軸と交差する六角セルの一辺とB軸とのなす角度を隔壁角度(θ)とすると、当該セルの隔壁角度(θ)の範囲が30<θ<45°であり、アイソスタティック破壊強度が4MPa以上であることを特徴とする六角セルハニカム構造体。
【請求項2】
当該隔壁角度θの範囲が35<θ<40°であることを特徴とする請求項1記載の六角セルハニカム構造体。
【請求項3】
コージェライト、アルミナ、ムライト、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニアのいずれかのセラミック材料もしくは耐熱金属鋼からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の六角セルハニカム構造体。
【請求項4】
当該耐熱金属鋼が、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項3記載の六角セルハニカム構造体。
【請求項5】
自動車排ガス浄化用触媒担体として用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の六角セルハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−55424(P2008−55424A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273537(P2007−273537)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【分割の表示】特願2004−13264(P2004−13264)の分割
【原出願日】平成10年5月12日(1998.5.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】